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洞窟(1-2)

2014.02.21.Fri.
 矢野が持ってくるうまい話にはいつも必ず重大な欠点や欠陥があった。

 ある年の夏、人に知られていない穴場のビーチがある、と二泊の予定で出かけて行くと、漁船でおろされた先は、ゴミが打ち上げられる汚く小さな無人島で、漁船が迎えに来るまでの間、サバイバルさながらの生活を送った。

 また別の時は、車を新調したからドライブに連れて行ってやると言うので、矢野が極度の方向音痴だということも忘れて助手席に乗っていると、いつしか車通りの少ない山道になり、暗くなったころには山に囲まれた廃村に迷い込んでいた。荒廃した家屋の群れ、不気味に立ち並ぶ地蔵に、戦々恐々となりながら矢野と運転をかわって来た道を引き返した。

 また別の時は安い航空券が手に入ったから、と見るからにオンボロな小型飛行機に乗せられ、どういうサービス精神か知らないが、パイロットは奇声をあげながら蛇行運転し、時に一回転などしながら俺たちを目的地まで送り届けてくれた。飛行機からおりた途端、俺たち二人がゲロを吐いたのは言うまでもない。

 矢野はばかだ。本当にばかだ。しかし、毎回それに乗ってしまう俺もそうとうのばかだ。今後一切、矢野が持ちかけてくる話には手を出さないでいよう。もっともここから生きて帰られたらの話だが…。

 ここは暗い洞窟の中。少し離れたところから、ポチョンポチョンと沸き出る水の滴る音が聞こえてくる。見上げれば、日が落ちて暗くなった空が、岩の裂け目から小さく遠くに見える。

 ここで休憩することにしたのは、沸き水があることと、ずっと狭く暗い洞窟を歩きまわっていた閉塞感が、この小さな裂け目で少しでも紛れると思ったからだ。

 今回もまた、矢野が持って来た話だった。

「星野! 見てくれよ、宝の地図だぜ! 次の休みに探しに行こう!」

 目を輝かせながら、コピー紙に書かれた地図を見せてくる。どうせデタラメに決まっていると思いながらも、ちょっとした探検のつもりで「行こう!」と返事をしていた。

 地図に書かれた山のふもとで車を降り、そこからスコップとツルハシを持って山をのぼった。中腹に着くと、確かに洞窟らしき入り口があった。

 何枚かの板で乱暴に入り口を塞いでいるが、何者かによって下の板が剥がされ、身を屈めれば入れるようになっていた。俺たちもそこから失礼した。

 懐中電灯で照らしながら地図の通り進んだが、地図には書いていない横道がたくさんあり、俺たちはすぐ迷った。こっちの道だ、あっちの道かもしれない、と行ったり来たりしているうちに、自分たちの居場所さえわからなくなったのだ。

 かすかな不安を感じながら、闇雲に歩きまわった。宝のありかを探しているのか、出口を探しているのか、それすらはっきりしない。いったい何時間歩いていたのか。

「疲れたから休もうよ」

 座りこんだ矢野を叱り飛ばそうとしたとき、ポチョンポチョンという音が聞こえた。水が飲める、と音のありかを探し、咽喉の渇きを潤した。気分が少し落ち着くと、わずかだが風の流れを感じ、岩の裂け目があることに気付いた。そこから見える小さな空の色で日が落ちていることを知り、落胆するような気持ちになって休憩することにしたのだ。

「俺のせいでごめんね」

 しょんぼり肩を落とした矢野が、何度目かわからない謝罪を口にする。

「下手に歩きまわらずに、朝がくるまでここにいよう。とりあえずは体力温存だ」

 とは言ったが、朝になったからといって事態が好転するとは思えなかった。矢野もそれを感じてか、あるいは責任を感じてか、元気なく黙りこんでいる。

 もしかしたらこの洞窟から出られないまま餓死してしまうかもしれない。半日の予定で来たから食料も持っていない軽装。あとで俺たちの死体が見つかったとき、何の準備もなく洞窟に入った無謀でばかな若者だと呆れられてしまうだろう。

 そんな想像をしたら急に気が滅入った。

「俺たちここで死ぬのかなぁ」

 つい弱音を吐いてしまった。

「死んじゃうかもね」

 隣の矢野も同じ気分だったらしく、陰鬱に呟く。

「死ぬ前に、なにがしたい?」

 宝くじが当たったらなにを買う? そんな調子で聞いてくる。

「なにを……うーん、そうだなぁ、ラーメン食いたい」
「おなか減ったもんな」
「矢野は?」
「俺は……セックスしたい。星野、おまえのケツ貸せよ」
「ばか言え、おまえが貸せよ」
「いいよ」

 あっさり返事が返って来たので、驚いて隣の矢野を見た。節約のため、懐中電灯は消しているので、ほとんど矢野の顔は見えない。いったいどんなツラで「いいよ」なんて言ったんだ?

「本気かよ」
「最終的には三大欲求でしょ。食べるものはないし、死んだらいくらだって寝られるし、いま出来ることはセックスくらいだろ。どうせ死ぬなら気持ちいいことして死にたい」

 暗闇の中見つめあった。地面が揺れているような錯覚を感じながら、どちらともなく顔を近づけ、キスしていた。




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