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ファンレター(1/2)

2014.02.14.Fri.
 大衆向けの雑誌に官能小説なぞを書き、それを生業としている私のもとに、毎月、わずかではあるが、ファンレターというものがくる。
 今日も編集者が3通、昨日脱稿した原稿と引き換えに置いて行った。その中の一通に目を引くものがあった。

『あなたに抱かれたい』

 流麗な文字でたったそれだけ、書かれてあった。封筒の裏面を見ても住所も名前も書いていない。

 いったいどんな女なのだろうかと想像していたら、次回の小説のネタになりそうで、空想を広げ、その勢いで小説を書いた。

 内容はこうだ。
 売れない小説家のもとへ一通のファンレターが届く。そこには『わたくしはあなたの熱烈なファンです。一度あなたに抱かれたいとそればかりを夢想しています。一度わたくしと会ってはいただけませんか?』と書かれてある。

 小説家は、自身の小説の中で、その女にしかわからぬよう、その返事を書き記した。そして本が発売された当日、目も眩むような女がやってきて「抱いてください」と着物を脱ぎ捨て、小説家に迫ってくる、というもの。

 現実はこんなうまい具合に話が進むわけもない。そう思っていたが、その小説が載った雑誌が発売されてすぐ、また私のもとへファンレターが届いた。

『先生の作品、拝読致しました。あれは承諾と受け取っていいのでしょうか? とても感激しています。何度も読み返し、自身を慰めております。近々、会いに参ります。』

 私はそれを本気にしなかった。おおかた、旦那に相手にされない欲求不満の主婦が悪戯心で暇つぶしに手紙を送ってくるのだろう。そう高をくくっていた。

 ところが、ある日の夕暮れ、近所へ煙草を買いに行った帰り、私の家の前に一人の青年が立ち、門の前で中を窺っているのを見つけた。

「おい、君、そこで何をしている」

 私の声に体を震わせ、青年がこちらを振り返った。大学生くらいの、見目の美しい青年だった。私にこんな知り合いはいない。

「ここは私の家だ。何の用だね」

 威圧的に話しかけると、青年は俯き、白い頬を赤く染めた。

「先生、ファンレターを送った僕です。会いに来ました」

 と言った。

 私は顔にこそ出さなかったが、内心ではかなり慌てていた。本当に会いに来ると思っていなかった上に、まさか差出人が男の子だとは夢にも思わなかったからだ。

「き、君は私が男だと知っていたのかな」
「もちろんです。以前、雑誌で先生の顔写真を拝見しましたから」
「き、君は私に抱かれたいと本気で思っているのかな」
「はい」

 小さい声ではあったが、青年ははっきり返事をし、頷いた。

「ここではなんだから、入りなさい、独身者で散らかっているけどね」

 青年の背中を押した。

 小説家としての性か、妙な探究心からか、男色を経験しておくのも勉強のうちだ、と私は考えていた。いつか小説に使えるかもしれぬ。





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