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結成秘話(1/4)

2020.11.30.Mon.
<「コンビ愛」→「相方自慢」>

※エロなし、養成所時代

 お笑い養成所の授業でもっとも重要なのが、ネタ見せの授業だ。

 俺たちの直前にネタ見せをしたコンビが可哀そうなくらいダダ滑りした。いや、滑ってもいないかもしれない。ボケとツッコミが明瞭じゃなくてただ世間話を聞かされているだけのような漫才。ツッコミの奴の声がいいから聞いてられるだけで、はっきり言って時間の無駄。

 講師にそれを指摘されたあと2人は捌けて行った。ボケのほうはなぜか自信満々の足取りで、ツッコミの方は肩を落として足取りも重い。ちゃんと状況が理解できているのはツッコミの奴だけらしい。名前は確か、三宅。

 授業が終わり、教室を出る。さっきのネタ見せの反省会のために相方の豊田を喫茶店に誘った。豊田は同じクラスの連中とこのあと遊びにいく話をしていたが、渋々やってきて「ウケたからいいじゃん」と不満そうに口を尖らせた。

 確かにウケはしたけど、それは俺たちの前にやった奴らが酷すぎてマシに見えてただけだ。先生からも形にはなってるがインパクトもないと言われたじゃないか。

「あ、そーだ、夜明、俺ボケ辞めたいかも」
「は?」

 豊田のいきなりの発言に面食らう。

「お前がボケやりたいって言ったんだろ」
「なんかさ、笑わせてるって感じじゃなくて笑われてるって感じがしてやなんだよ。ツッコミのほうがカッコよく見える。ていうか、わざとそういうネタ書いてない? もっと俺のキャラ際立たせて欲しいんだよなあ。自分でネタ書いてるからって自分ばっかおいしいとこ取りするのってずるくない?」

 馬鹿な主張に言い返す気力も湧かない。養成所に入って早々に「俺とコンビ組もう」と誘ってきたのは豊田のほうだ。豊田は学校では笑いを取れた人気者だったかもしれないが、話を聞いてみれば他人をイジるお笑い芸人の真似で笑いを取っていただけで、自分ではボケられずネタも書けない。

 自分が笑われることが許せない無駄に高いプライドは、この仕事には邪魔でしかない。ハズレの奴に掴まったとすぐ後悔した。とりあえず自分のプレゼンのためにコンビを続けてきたがそろそろ限界かもしれない。これ以上時間を無駄にはできない。

「じゃあお前がツッコミでネタ書けよ。それが出来ないなら解散な」
「俺書けないの知ってるじゃんかよ。お前のそういうとこほんとずりーわ」
「書けねえくせに文句言うほうがよっぽどずりーだろ」

 豊田の顔つきが変わった。「じゃあもう解散でいいよ!」と近くに置いてあった備品を足蹴にして去って行った。合流した先のクラスの奴らに愚痴っているのが聞こえてくる。「ケチ」だの「ズルイ」だの、ガキみたいな単語を聞き流してため息をついた。

 養成所を出て一人で近くの喫茶店に入った。そこにさっきダダ滑りした可哀そうな2人を見つけた。

「たけちゃんも一緒に考えてくれよ。俺一人じゃネタ書くの厳しいよ」

 と頭を抱えているのが三宅。

「だってさ、あらかじめ作られた笑いってやってる俺たちがつまんなくない? ああいうのって即興のべしゃりで笑わせるのがプロって感じするっしょ」

 楽観的を通りこして馬鹿なのが武井。2人は養成所に入ってきたときにはすでにコンビを組んでいた。自己紹介の時に高校が一緒の友達だと言っていた気がする。仲が良くて気が合うから一緒に芸人になろうとしたはずなのに、この2人もうまくいっていないようだ。

「俺たちはまだプロじゃないってば」

 三宅は疲れたように項垂れた。

「そもそも漫才が合わないな、俺には。コントしよう! 即興コント! リズムネタとかも入れたいな。子供ウケ良さそうだし」

 三宅は律儀に武井の思いつきをノートにメモしている。何でも言いなりで甘やかすから、この馬鹿はなにも学ばないんだ。

「あ、俺バイトの時間だから行くな! 大まかなコントの設定考えといてくれよ。あと時間あったらリズムネタも何個か」
「たけちゃんも考えろよ」
「考えとくって!」

 結局全部を三宅に押しつけて武井は店を出て行った。その直後に、三宅は特大の溜息をついた。こいつも相方で苦労しているらしい。席を立ち、さっきまで武井がいた席に座った。三宅が顔をあげ、俺だとわかると「なんだ、夜明か」と気の抜けた顔で言った。

「武井の馬鹿、あれ絶対何もネタ考えてこねえぞ」
「うーん、だろうな」

 と苦笑する。

「お前も相方に苦労してるな。なんであいつと組んだんだ?」
「高校が一緒で、2人ともお笑い好きだったから。なんかノリで行っちゃう?みたいになって。まさか俺が全部ネタ書かされるとは思わなかった。夜明のとこもうまくいってないの? さっきのネタ見せ、めっちゃウケてたのに」
「さっき解散した」
「えっ! なんで!」

 とびっくりした顔をする。演技でもなくこいつは素で表情が豊かだ。さっきからいろんな表情を見せている。

「自分はネタ書かねえくせにああしろこうしろってうるさいからな。ボケがいいっていうからやらせたら、ツッコミのほうがかっこいいからツッコミやりたいとか言い出すし」
「ぶはっ、ツッコミがかっこよく見えるのは夜明だからだろ。豊田がやってもかっこよくなんないって」

 唖然とする俺の前で三宅は平然と言い放った。俺は自分の顔がそこそこ良い自覚があった。こんなことで謙遜したって仕方がない。学生時代はモテたし、大学でも養成所でも女の子から誘われることは多い。男からは顔がいいと得だと嫌味混じりに言われることはあっても、三宅みたいに少しの悪意も嫉妬もなく褒めてくれることは珍しい。

「俺のことかっこいいって思ってくれんの」
「うん、みんな思ってるだろ。夜明はオーラ違うもん。すでに芸人って感じする。ネタも夜明が書いてんだろ。ちゃんと形になってる。俺のネタとは大違い。目の付け所も他と違うし、ワードチョイスもセンスあるし、本当に面白い奴って夜明みたいな奴のことなんだろうなって実感したもん。かっこいいよ」
「べた褒め。ありがとう。照れるわ」

 頬杖をついて顔の火照りを隠した。見た目のことを言われていると思っていた自惚れも恥ずかしかったが、芸人としてお笑いを褒められたことがなにより嬉しかったし、こんなに混じりけなしにまっ正面から褒められて単純に照れ臭かった。三宅はプラスの感情を言葉にして相手に伝えることに躊躇がない。

 きっと性格がいいんだろう。だから三宅は同期の連中によくいじられている。構わずにいられないタイプだ。素直で人の言うことも全部飲みこむ。俺とは正反対。相方にはうってつけかもしれない。

「なあ、三宅」
「うん?」
「武井と解散して俺とコンビ組まない?」
「ええっ!!」

 店中に聞こえる大声。俺は苦笑しながら自分の口に人差し指を立てた。三宅が口を塞ぐ。テーブルに身を乗り出したら、三宅も同じように体を前に傾けた。きっと無意識のミラーリング。心配になるほど他人にたいして心を開きすぎだ。

「俺がボケ、お前がツッコミ。ネタは俺が書く。俺とコンビ組もう」

 囁くように言うと、口を塞いだまま三宅は首を横に振った。予想はしていたが、振られたショックは少なからずある。

「だって俺……武井がいるし……養成所に誘ったの俺だし……解散とか無理だよ」
「武井と組んでても一生売れないぞ」

 三宅は目を伏せた。薄々自分でも感じていたのだろう。

「今すぐじゃなくていい。武井とは無理だって三宅が思ったら、その時は俺に声かけてくれ」
「そんなのいつになるかわかんないのに」
「俺もまた相方探すから、お互いのタイミングが合えばってことで」

 何度か目を瞬かせたあと、三宅はコクンと頷いた。タイミングの合う日は案外早く来る気がする。

 w w w

 俺と豊田がコンビ解消したことはクラス全員が知っているようだった。ピンでやってた奴からコンビを組もうと言ってきたが断った。トリオでやろうと誘ってきたコンビもいたが同じく断った。やりたいネタの方向性が違うし、コント一本でやっていくつもりもない。それにもう少し三宅を待ちたかった。

 一週間ぶりにネタ見せの授業で三宅たちの姿を見た。三宅はあのあと即興コントの設定を考え、リズムネタも作ってきたらしいが、ただふざけているだけにしか見えないなんとも見苦しいものだった。当然講師の顔つきも悪く、お前らにはまだそんな技術はないのだからまずは基本からと厳し目に言われて三宅は肩を落としていた。

 三宅の声も動きも表情も悪くはない。ネタ次第では見られるものになる。はずだ。

 授業が終わってすぐ、三宅はちゃんとネタ合わせしようと武井に食い下がっていたが、「このあとバイトだから!」と振り切られていた。こいつは何をしに養成所へ来たんだと不思議で仕方ない。解散したあと同期の奴らと遊びまわっている俺の元相方の豊田も最近は授業をサボり気味だ。

 エレベーターを待ちながらスマホをいじっている武井の横に並んだ。

「武井はさ」
「えっ」

 いきなり話しかけられて驚いたように俺を見る。

「武井はコンビより、ピン芸人のほうが向いてるんじゃないか。そっちのほうがお前の個性が活きると思う」
「そ、そうかな? でも俺ネタ書けないんだよ」
「今日のコントよかった。1人で自由にやるほうが伸び伸びやれていいんじゃないか。三宅は良くも悪くも型に囚われてて、お前みたいな破天荒さとか自由さがないだろ。絶対お前はピン芸人向きだって」
「まじでそう思う? 夜明に言われたらめっちゃその気になっちゃうんだけど」

 戸惑いながらも武井の頬が緩み始めるのを見た。単純な男で助かる。

「お前は唯一無二の芸人になれると思う」
「ちょっと考えてみるわ」

 エレベーターに乗りこむ武井を見送った。一週間後。

「夜明ってまだ相方決まってない?」

 三宅から声をかけてきた。



スモーキーネクター

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続続続・嫁に来ないか(5/5)

2020.11.29.Sun.


 一時間半に及ぶ謝罪、引退会見。記者全員の眼は刃のように鋭く、投げかけられる問いはどれも俺を疑ってかかり、口調も言葉選びも攻撃的だった。

 神戸アリサとの熱愛がまずデタラメであることから説明し、小東の件は本当にただの偶然で、ネットで騒がれてる大麻使用の噂は事実無根だと何度も否定した。峰岸が小東に頼まれたことは、峰岸のために伏せるように事務所から言われている。だからそんな偶然があるのかと問われても「ありました」としか答えられない。

 1つの質問、1つの言葉によって身体が貫かれるような思いを味わった。ここにいる全員が敵にしか見えなかった。俺の揚げ足をとることに熱心で、俺がボロを出すのを虎視眈々と待っている。どうでもいい言葉尻をとらえて何度もネチネチ質問攻め。精神が疲弊していく。終わる頃にはズタボロの精神状態だった。

 乗り切れたのは、皮肉にも謝罪会見が初めてではなかったこと。この世界で15年近くやってきたおかげだった。全部無意味だと思っていたが、最後の最後で役に立った。

 控え室に戻り、マネージャーにも最後の挨拶をした。契約終了の手続きはすでに済ませてある。細々した諸々の処理はまだ残っているがそれは後日だ。

 しかめっ面の番場さんと、今日一日ずっと失望顔だった社長にも、再度謝罪と感謝を伝え頭を下げた。ホテルの裏手からタクシーに乗った。見送りはマネージャー1人。あっさりしたものだ。

 タクシーのなかでネクタイを緩めほっと息を吐き出す。今日から正真正銘俺一人。事務所の後ろ盾も俺を支えてくれるマネージャーももういない。

 不安はもちろんあるが、思っていたほど怖くない。意外と心は軽かった。緊張と緩和で麻痺しているだけかもしれない。

 芸能界のしがらみと極度の緊張状態から解放された俺は大胆になっていた。スマホを出して中田さんの居場所を確認した。自宅から動かないアイコン。このままタクシーを飛ばして会いに行ってやろうか。驚くだろうか。それとも俺を追い返すだろうか。どっちだっていいや。中田さんに電話をかけた。数コールで呼び出し音が途切れた。

『はい』

 久しぶりに聞いた優しい声。軽口のひとつでも言ってやろうと思っていたのに、急に胸がつかえて言葉が出て来ない。

『大澤さん? どうしました?』
「──別に。ていうか見た? テレビ」
『テレビは見てないです』

 大きくなっていた気持ちが萎む。

「あんたの好きな謝罪会見したのに」
『謝罪会見が好きなわけじゃないですよ。僕が好きなのは大澤さんです』

 まだ俺を好きだと言ってくれるのか。萎みかけた気持ちが少し復活する。

『大澤さん、大丈夫ですか? 声がいつもと違います。泣いてるんですか?』
「泣いてないよ」
『でも声が震えてる』

 ぐ、を息を飲みこんだ。よくわからない震えがずっと続いている。

『心配です。いまどこにいるんですか? ちゃんと会って顔が見たい』

 俺がどこへ行こうが誰と会おうが、自宅から動かず仕事優先してきたくせによく言うよ。

「今からそっち行ってもいいけど」
『その必要はないです。近くまで来てますから』
「えっ?」

 思わず窓の外に姿を探した。

「どこ?」
『ホテルの近くのコーヒーショップです』

 まさに今コーヒーショップの前をタクシーが通過した。

「そっちに行くから店の前で待ってて」

 車を止めてもらい、少し先の横断歩道を渡って道を戻った。店の前では中田さんらしき人物が佇んでいる。俺がホテルのほうから来ると思っているらしく、ホテルのほうに顔を向けている。背後からそっと近づいて呼びかけた。中田さんが驚いたように振り返る。久し振りに見た中田さんの顔。労わるような優しい笑みが浮かぶ。それを見たら胸から何かがこみあげてきた。

「あんたってほんと、神出鬼没だよな。さっきアプリ見たけど家で仕事してただろ」
「好きな人のためなら魔法が使えるんですよ」

 俺はいま相当弱ってるらしい。いつもなら鼻で笑い飛ばすような言葉に涙腺を刺激されて目の表面が熱くなった。

「知ってるかもしれないけど、俺無職になったんだよね」
「残念でしたね」

 ついうっかり気を許してしまう優しい声色。会わなくなったあいだ、俺を甘やかすこの声に飢えていたことに気付く。

「別にもう未練はないよ。明日からどうしようかなってのはあるけど。そうだ、あんたのとこで雇ってもらおうかな。農家の手伝いなら仕事で何回かやってるし」
「僕なんかと2人きりになりたくないんじゃないですか?」
「根に持つなあ。まだ拗ねてんの」

 手放しで喜んで受け入れてくれると思っていたのに予想とは違う反応に少し怖気づく。

「また僕が勝手にやったことだなんて言われたら困りますからね」
「あんたほんとい意地が悪いな」
「僕も反省してるんです。永遠に手の届かない場所にいる人だと思っていたのに、目の前で動いて喋っている姿を見たら自制がきかなくなりました。どうしても手に入れたくて最悪な手段を取りました。それは本当に申し訳なく思ってます」

 中田さんの目元に暗い影が落ちる。

 最初はもちろん怖かったし殺してやりたいくらい憎かった。でもそれを上回る快感があった。回数重ねて俺も慣れた。ムカつく相手だけど、溢れるほど無償に愛を注がれ続け、甲斐甲斐しく世話をされていたら情が湧いた。憎からず思っている。俺から離れて欲しくないと思うほどには。

「だから動画も画像も消しました。大澤さんを縛りつけるものはもうありません。僕にはもう何もないんですよ。大澤さんがどういうつもりでそんなことを言うのか、ちゃんと教えて欲しいんです」

 何を? 好きだと言って欲しいのか? 口をむずむず動かしてみるが、そんな言葉は恥ずかしくて言えそうにない。それを察したように中田さんはふっと微笑んだ。

「言葉にするのが難しいなら、そうですね……じゃあここで僕にキスしてください」
「はっ?! 本気かよ?」

 中田さんの周りの景色が蘇る。人の往来は少ないが店の前、そんなことをしたら嫌でも人の目を引く。

「これ以上ない証明でしょ」

 やっぱこの人むかつく。俺ができないことをわざとやらせて、俺の本気度を確かめたいんだ。謝罪会見のあと公衆の面前で男とキスなんかしてみろ。明日からしばらくこのネタでワイドショーも世間も俺を叩きまくるにきまってる。仕事どころか家から一歩も外に出られないじゃないか。

 はたと、明日からの仕事の心配をしている自分に気付いて唖然とした。ついさっき引退を発表したのに仕事に影響もなにもない。俺はもう芸能人じゃない。今日この瞬間から過去の人なのに。

 長年の足枷はまだ俺を無意識に縛りつけていたらしい。それに囚われなくていいと気付いたら、キスくらいなんでもないことに思えてきた。ただの開き直りだ。やけっぱちとも言うかもしれない。怖いものなんか何もない。

 大股で中田さんに近づいて目の前に立つ。俺より少し上背のある顔を見上げた。待つだけの中田さんは憎たらしいくらい余裕の笑み。出会いは最悪でも、今の俺にはこの人しかいない。

 踵をあげて、中田さんにキスした。

 ◇ ◇ ◇

「大澤さん、ご飯出来ましたよ」

 中田さんに呼ばれ、カメラを掴んで居間へ移動した。食卓にはザ・朝食というメニューが並んでいる。それを写真に撮ってネットにあげてから「いただきます」をした。

 中田さんの家に同居させてもらって早三ヶ月。前に住んでた部屋は無職になった俺には家賃が高すぎて解約した。じゃあ一緒に暮らしましょうと中田さんに誘われてここに転がりこんだ。

 芸能界を引退した俺はいま中田さんのもとで農家修行中。それと並行してYouTubenデビューし、初心者目線で農家の毎日の作業や収穫された野菜の紹介、それを使った料理、新鮮な野菜の見分け方なんかを色々紹介している。登録者数はありがちことに100万人を突破した。それもこれもマスコミと、少なからずついてくれていた俺のファンの人たちのおかげだ。

 謝罪会見のあと、コーヒーショップの前で中田さんとキスしたところを通行人に撮られていたらしい。それが会見直後ネットで出回り、翌日にはテレビでも取り上げられるようになった。謝罪会見の内容より、そのあとの行動のほうが注目され、面白おかしく報道された。

 ネットではすぐさま俺のキスの相手が「アイドルの手も借りたい!」に依頼してきた素人の農家だと判明し、それ以来の付き合いじゃないかと推理されていた。しかも俺のファンを名乗る人たちが、俺のロケの隠し撮りを見返したら野次馬のなかに中田さんらしき人物を見つけ、もしやと思って他も探すと数枚見つかりその画像をネットにアップした。

 それを見た他の人たちも、自分が撮影したなかに中田さんらしき男を見つけ、次々画像がネットにあげられて「中田さんを探せ!」とちょっとした祭り状態になった。

 出るわ出るわ、中田さんのストーカーの証拠。自然と俺と神戸アリサの噂も否定される結果となった。

 祭り騒ぎの噂を知って俺も見てみたが、中田さんに監視されているような疑心暗鬼に囚われていた初期の頃のものから、神戸アリサが原因で喧嘩別れしていた最近のものまであってそのマメさには呆れるやら笑えるやら。

 喧嘩しているあいだ、俺が見ていた限りでは中田さんの居場所はずっと自宅周辺だった。謝罪会見当日も畑にいたはずなのにいつの間にかホテルのそばにいた。それを不思議に思って尋ねたら機種変更して、アプリの入っているスマホも持ち続けていたと、簡単なからくりだった。

「わざわざなんで?」
「喧嘩してるのに心配で様子を見に行ってるなんてバレたらかっこ悪いじゃないですか」

 というわけらしい。そうやって自分の居場所を誤魔化して俺を不安にさせていたなんて、この人は本当にずるい。

 朝食のあと片づけをし、少し休憩したあとまた作業へ戻る。

「カメラ回していい?」
「いいですよ」

 俺も中田さんも顔出しで動画を撮る。作業が終わった夜にその編集作業をする。見てくれるのは俺のファンだった人や、農業に興味のある人、元芸能人がホモになって農家になった姿を見てみたい野次馬、単純に物珍しいものを見たい人、いろんな目的で見てくれる。

 コメント欄には俺たちのことを応援してくれる好意的なものが多いが、とうぜんながら悪意しか感じられないものもある。それは無視するし気にしないようにしている。どうせ俺に関わりのない、俺のことを知らない奴が好き勝手に書いたものだ。気にするだけ無駄だ。

 作業小屋での仕事が終わると、収穫した野菜を卸業者へ持って行き、個別契約の店には出荷手続きを済ませ、今日の作業はあらかた終わった。

 日が暮れ家に戻って夕飯の準備。今日はリクエストが多かった中田さんの料理風景の動画を撮る。俺は料理のことはさっぱりわからないので、中田さんが簡単そうに進めて行く料理工程ひとつひとつに質問を挟む。それが動画を見てくれる人にとってわかりやすくていいらしい。いま作っているのは俺がリクエストしたきんぴら。

「ひとくち」

 あ、と口をあけたら中田さんがそこにきんぴらを入れてくれる。うまい。

「いま思ったら、最初から中田さんに胃袋掴まれてた気がする」
「あの夜も出しましたね、そういえば」
「あ、だめだめ、その話題NG」
「自分が言い出したくせに」

 中田さんが笑う。

 必要のない会話はカットしたり音声を消してアップしていたのだが、視聴者から「2人の会話も聞きたい」と熱望され、こんなくだらない会話も動画の邪魔にならない程度に残して編集している。

 見てくれる人にとったらほのぼのとして癒されるらしい。いまの会話の実体を知ったらそんなこと言ってられなくなるだろうけど。

「今もまだ信じられないですよ、こうして大澤さんと一緒にいるなんて」
「俺だって信じられないよ」
「もっと長期戦を覚悟してましたから」
「執念深いよね。怖いわ」
「怖いですよ僕は。だから絶対浮気なんてしないほうがいいですよ」
「してないじゃん」

 料理の手を止め、中田さんが嬉しそうに俺の顔を見つめた。

「なに」
「僕と付き合ってることはもう否定しないでいてくれるんですね」

 あ、と一瞬言葉に詰まる。もしかしてまだ根に持っているのだろうか。確かにちゃんと言ったことはないけど。一緒に暮らしてやることやってるのに、まだそこに拘るのかこの人は。

 しかしいざ言葉にしようとするとものすごく恥ずかしくなってきた。

「まあね、なんだかんだ付き合い長いし。中田さん、絶対諦めない人でしょ。それに……俺だって、中田さんが好きでここにいるんだし」

 顔が熱い。ただ好きと言うことがこんなにしんどいことだったとは。今まで付き合った女の子たちにはあんなに簡単に言えていたのに。

 菜箸を置いて中田さんが俺の頬に手を添える。いつもの優しい顔が近づいてきて俺にキスした。

「いまの、カットしないでくださいね。大澤さんは僕のだってみんなに見せつけたい」
「消すに決まってるだろ」

 またキスされた。中田さんの手が俺の腰にまわり、服のなかに入ってきた。腰から脇腹を撫でられ体がゾクゾク震える。その手が前にやってきて乳首を探り当てた。

「んっ」

 服をたくし上げ、中田さんが胸に吸い付く。口の中で小さい乳首が弄ばれる。そこでもしっかり感じる体になってしまった。俺の体を作り変えた張本人の頭を掻き抱いた。ズボンとパンツがまとめておろされ、床に膝をついた中田さんに半立ちのものを咥えられる。

「はあっ、あ……中田さ……飯っ……」

 双丘を割って指が奥へ忍び寄る。周辺を撫でられただけで膝に力が入らなくなる。様子を窺うようにそっと指が差し込まれたらもう駄目だった。昨夜もさんざんそこを責められて、まだその余韻の灯が残っている。だから簡単に再燃した。

 下から掬い上げるように中田さんが玉を口に含んだ。竿越しに俺を見ながら口の中で玉を転がす。顎をあげて歯を食いしばった。もう立っているのもつらい。

「ん、ぅ……もう無理……っ、あ、あっ……」

 崩れ落ちそうになった体を中田さんが抱きとめた。俺の目を覗きこみながらコンロの火を消す。鍋の様子を気にかけられるほど余裕が残ってたってわけ。俺はもうこんなザマなのに。

 胸倉を掴んで引きよせた。驚く顔をする中田さんにキスする。中田さんを押し倒し、その上に馬乗りになって服を脱ぎすてた。他に何も目に入らないくらい、俺だけを見てろよ。

 朝っぱらから台所で盛ったあと、カメラの録画を止めていなかったことに気付いた。どういうつもりか、データが欲しいと中田さんがずいぶんごねたが、いつでも本物を見られるだろ、と言うとやっと納得して諦めた。当然ながら、今朝の料理風景の動画はとても公開できないのでお蔵入りとなった。



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続続続・嫁に来ないか(4/5)

2020.11.27.Fri.


 特にこれといった事件事故もなく、芸能人の離婚も結婚も熱愛もない平穏な日に、俺の記事が載った週刊誌が発売されてしまった。

 朝の芸能ニュースではどのチャンネルでも俺の記事が取りあげられた。「熱愛に次いで大麻疑惑再び?!」と誤解しか招かない酷い見出しと共に。

 雑誌では俺が小東から白く小さいものを受け取る写真が掲載されているらしい。小東からもらったものと言えば名刺しかないが、そう書かれるとヤバイものをやり取りしているように読める。

 そして俺がビールを一杯しか注文していないのに、一万五千円を払ったことまで書いてあるらしい。番組司会者がその部分を読み上げ「そんなに高級なビールなんですかね?」とわざとらしく首を傾げた。

 これで世間が俺に抱く印象はグレーに逆戻りだ。

 スマホが鳴った。城野さんからで電話に出ると『大澤くん、ほんまにやばいぞ』と切羽詰まった声。

「今日出た週刊誌のことですよね。あれは後輩に連れられて行った店がたまたま小東の店だったんですよ。ほんとに俺知らなくて」
『違う違う。それもあるけど、ほんまにやばいのはアリサちゃんのほうやって。読んでないんか?』
「自宅謹慎中で……雑誌は見てないです」
『アリサちゃん、東京連合と繋がりあるらしいで』
「えっ」

 今日発売の雑誌には俺と小東の記事だけでなく、神戸アリサが東京連合幹部の元カノだったという記事も掲載されているらしい。

 有名な半グレ集団。それと関わりのある神戸アリサ。彼女と熱愛記事を出された直後に、大麻使用の過去がある小東とのツーショットを撮られた俺も、東京連合と付き合いがあると世間は思うだろう。俺の大麻使用を疑わないだろう。俺はグレーどころか真っ黒だ。

 体から血の気が引いて行く。城野さんの声も遠のいていく。どんな弁解も弁明も無駄だ。誰も俺のことなんか信じやしない。

『とにかく事務所の人とちゃんと相談しいや!』

 城野さんの大声に我に返る。礼を言って通話を切った。冷たくなった指先を握りしめる。ショックで何も考えられない。なにをするべきなのかもわからない。とりあえずマネージャーに連絡だ。

 履歴の一覧に、ぜんぜん電話してこない中田さんの名前を見つけた。埋もれかけている名前を見ていたら目許が熱くなってきた。あんな薄情な奴、知るもんか。

 マネージャーに電話をしたら向こうもなんだか慌ただしい気配が伝わってきた。改めて神戸アリサとは付き合っていないのかと訊かれ否定した。東京連合の奴らと関わりがあるのかとマネは慎重な口調で確認した。普段ならあるわけないと笑い飛ばせる内容が今は冗談にもならなくて、俺も神妙に誓って関わりないと答えた。大麻のことを訊かれないのは俺への配慮なのか、どうせ本当のことを言わないと言う諦めなのかはわからなかった。

 事務所も神戸アリサの記事が載ることまでは把握しておらず、関係各所への事情説明に追われている状況らしい。ともかく話し合いが必要だと言うことで事務所に行くことになった。
 
 ◇ ◇ ◇

 事務所にはマネージャーと専務の番場さんが待っていた。番場さんは前回にも増して苦々しい顔つきで俺を出迎えた。

 テーブルには件の雑誌が広げて置いてある。ページの見出しには東京連合と神戸アリサの名前。交際時の写真と思われる画像の横に小さく先日の俺とのツーショットも掲載されている。これじゃ俺も東京連合の身内と思われても仕方ない。

 電話と同じ確認をここでもまた繰り返しされた。神戸アリサとは付き合っていない、東京連合の知り合いなんていない、一切関わりがない。そう訴えても番場さんの顔を見れば俺の言葉を信じていないことがわかった。

 訂正と、謝罪会見を開くこと。それは俺が来る前からの決定事項らしく、とにかくやれ、と頭ごなしに命令された。

 訂正はいい。でも俺は何を謝罪すればいいんだ。世間を騒がせたことに対して? 勝手に騒いだのはそっちだ。俺はただ、プロデューサーに誘われて飯を食っただけ、後輩に誘われて店に行っただけ。デタラメな記事を書かれ、騙し討ちで小東に引き合わされた俺こそ被害者だ。神戸アリサの元カレなんか知ったことか。俺まで疑惑の目で見られるなら、神戸アリサのマネージャーも事務所の人間も家族も全員、真っ黒ってことじゃないか。どうして俺だけが罰せられなきゃいけないんだ? 小東の大麻所持のときだって俺は何も知らなかった。あいつが一人で悪い連中とつるんで馬鹿をやっただけなのに、いまだに連帯責任を取らされている。俺がなにをしたって言うんだ。

「まったくお前はどうしてこう次から次に問題を起こすんだ。しかも後輩を巻きこんで」

 額に手を当て番場さんが吐き捨てる。全部俺が悪いという口ぶり。徹頭徹尾、俺に対する信用はゼロ。マネージャーも擁護のひとつもしてくれない。冷たく白けた空気が流れているだけ。

 ふつ、と糸が切れた。

 ここで頑張ることに、もう意味を見い出せない。

「俺、事務所辞めます。芸能界も引退します」

 ◇ ◇ ◇

 あと30分で謝罪会見が始まる。控え室で俺は一人きり。さっきから大人たちが何度も出たり入ったりと慌ただしかったが、誰も俺に声をかけてこなかった。空気のように、腫物のように。関わると呪いでもかかると思ってるんだろうか。

 この状況が小東の時とまったく同じだったせいで、思い出さなくてもいいことを思い出してしまった。デビュー1年足らずでいきなりの謝罪会見。まだ子供だった俺は緊張でガチガチになって震えが止まらなかった。

 そんな時に誰かの声が聞こえた。

「どうしてよりによって小東なんだ。どうせなら……ったく」

 当時の俺にはその言葉の意味を深く考える余裕がなかった。でもなんとなく忘れがたい言葉だった。数年後にふと思い出して、行間という奴を読んでみた。養成所時代からその整った顔で一際目立っていた小東。よりによってとは、商品価値のある小東を失う痛手のこと。どうせなら、とは商品価値のない俺だったらよかったのに、ということ。

 数年ぶりにその言葉の意味を解読し、まだ前向きに頑張ろうと思っていた当時は見返してやるという一心で奮い立ったものだ。まったく無駄な努力だったが。

 それももう今日で終わりだ。前日に、恩義ある事務所の先輩や芸能界の知り合いには引退すること、これまでの感謝の言葉を伝えておいた。数が少ないからすぐに終わった。

 今はアドレスの名前を1人ずつ消去しているところだ。「今度連絡しますね」「ご飯行きましょうね」なんてアドレス交換したけど、一度も連絡してない連絡先が腐るほどある。

 連絡しあう人ももちろんいた。でも俺が引退したらそれもきっとなくなる。大麻使用の疑いがあって、東京連合とも付き合いがあると噂される俺だ、誰も関わりなんか持ちたくないに決まっている。なにより相手に迷惑になる。

 親しい人たちのアドレスを消す時はちょっと泣きそうになった。芸能生活、悪いことばかりじゃなかったなんて、いまだに甘いことを考えている。

 中田さんのところで指が止まった。会わなくなってもう二ヶ月近く。あの人のせいで俺の部屋はゴミが溜まり放題、旨い料理も食べれてないし、野菜も不足している。あの人が勝手にうちに来て甲斐甲斐しく世話なんかしていくから、前まで普通にできていたことができなくなって、気付かなかったことに気付くようになってしまった。

 久しぶりに浮気アプリを起動してみた。中田さんは今日も元気に仕事のようだ。俺に一目惚れしたっていう、あの人が大好きな謝罪会見をこれからするっていうのに。案外テレビにかぶり付いて待ってたりして? こんな離れた場所で俺を世界に一人きりにして。

 スマホの画面が滲む。乱暴に目許を拭って電源を落とした。

 部屋に戻ってきたマネージャーと最後の確認をした。それも終わると会見まであと五分。マネージャーにこれまでの礼を言ったら「大澤さんを最後まで守れずすみませんでした」と真っ赤になった目で手を握られて、もらい泣きしそうになった。

「時間です」

 声がかかり、芸能活動最後の戦場へ赴いた。



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続続続・嫁に来ないか(3/5)

2020.11.26.Thu.


 中田さんから連絡がないまま1ヶ月半が経った。俺ばっかり気にしてるみたいでむかつくから浮気アプリで居場所を確かめることも最近はしないようにしている。

 今日は事務所に言われてボランティア活動。うちの事務所が先の大震災から定期的にこの活動を続けていて「禊と思ってしっかりやれ」と今回は俺にも声がかかった。今日は先日の台風被害が酷かった地域へ慰問活動。少し名と顔の売れたグループと、これから売り出したい若手グループ、それに混じって問題児の俺。

 事前に借りておいた中学校の体育館で炊き出し、そのあと自分たちの持ち歌や先輩たちの楽曲を歌って踊る。俺にはデビュー曲しかない。しかも相棒は引退していない。誰も知らない歌より知ってる歌のほうが盛りあがるから、と俺の唯一の持ち歌は封印されて先輩方の代表曲メドレーを他の後輩たちと歌った。

 後片付けをして都内へ戻り、打ち上げの食事会。後輩たちとスタッフが盛り上がっているのを見ていると、小東が問題を起こした直後を思い出した。あの頃は誰も彼もが俺を空気のように扱った。まるでそこに居ないみたいに。

 最近気が滅入っているのか、悪いことばかり考えてしまう。事務所のなかでの俺の存在とか、芸能界での俺の立ち位置とか、親身になってくれる知り合いの数だとか、唯一何があっても味方してくれると思ってた中田さんの音信不通とか。

 腐るより自分から道化を演じるほうがいい。輪のなかに入って自虐ネタで笑いを取る。誰かが「大澤さん、完全にバラエティの人ですよね」って言うのが聞こえた。それのなにが悪い。いまの時代、俳優やアーティストでもないタレントがテレビでやっていくならバラエティに強くなくちゃ生き残れないじゃないか。

 打ち上げも終わり解散。疲れたからまっすぐ帰るつもりだったが、後輩の峰岸に「ちょっと飲みに行きませんか」と誘われた。

「大澤さんに相談したいことがあるんです」

 こう言われたら断りにくい。

「ちょっとだけなら」

 峰岸お勧めだという店にタクシーで移動した。峰岸は今時の青年だ。手足がすらっと長く、顔も整っている。もう成人はしているがまだデビューはしていない。大方そのことの相談だろうが、俺にしても何も解決しないんだが。

 ビルの前でタクシーが止まった。「こっちです」と先に歩く峰岸に続いて階段を下りる。地下一階の店、重厚な扉を開けると大音響が耳をつんざく。こんなうるさい店で相談なんてできないだろうと峰岸を見たが、奴は正面のカウンターへまっすぐ進んだ。気おくれしている俺に気付くと手招きする。仕方なく峰岸の隣に座った。

「なに飲みます?」

 真横にいるのに大声で峰岸が話しかけてくる。一刻も早く帰りたくて咄嗟に首を横に振った。峰岸が苦笑する。

「じゃあ、とりあえずビール二つ!」

 峰岸が勝手に注文した。その一杯を飲んだら帰ろう。

「おまえふざけてるだろ」
「なんでです?」

 体を傾けて峰岸が耳を寄せてくる。

「こんなうるさい店で相談なんて」
「相談があるのは俺じゃないんですよ」

 ビールが俺たちの前に置かれた。峰岸はそのひとつを俺に渡すと「あそこで待ってます」と奥のテーブルを指さした。その先に、男女の客。男のほうがじっと俺を見ていた。大きな目。白い歯が見えた。男が俺に笑いかけてくる。

「誰?」
「行けばわかりますって」

 とにかくあのテーブルの男に会わなきゃ帰れないらしい。ため息をついて覚悟を決めた。椅子から立ちあがりテーブル席へ向かう。男が女になにか耳打ちした。頷いた女が立ちあがり、俺のほうへ近づいて来る。すれ違う瞬間、俺に微笑みかけてきた。若く、綺麗な女だ。

「よう、久し振り!」

 女の方へ気を取られていたら男のほうから声をかけられた。少し高めの掠れ気味な声。意識を前の男へ戻す。肩までの茶髪、全身真っ黒の服に身を包んだ小柄な男。見覚えのある姿形。記憶と目の前の姿が重なった。

「……小東……?」
「当たり。元気してたか?」

 満面の笑顔で手招きする。養成所時代から一際目立つ美少年だったのに、いまその面影は大きな目と小さい顔だけ。似ている別人のような違和感。いや、本人に違いないのにぜんぜん似ていないのだ。

「なんでここに」

 はっと思い出して振り返った。峰岸はスマホを弄りながら酒を飲んでいる。

「ここ俺の店なんだ」
「小東の?」

 視線を戻した。小東は頷いた。だんだん見慣れてきた。確かにこの表情は小東だ。

「あ、そうだ。名刺」

 小東はポケットの名刺入れから一枚抜いて俺に差し出した。受け取った名刺には社名らしき横文字と、小東の名前。肩書きだけは立派で代表取締役だ。

「つっても俺だけのじゃなくて、カウンターに立ってるのが共同経営者。たまたま事務所の後輩が店に来たから懐かしくってお前の話したら、今度連れてきますよって」

 小東の目が後ろの峰岸に逸れた。なんて余計なことを。こいつが何をして事務所を辞めたか知らないわけじゃないだろうに。

「そんな迷惑そうな顔すんなって。傷つくじゃん」
「……お前のせいで俺がどれだけ迷惑したか」
「それは悪かったけどさ」
「今頃俺になんの用だよ」
「冷たいな。同じ釜の飯を食った仲間だろ。もうちょっと喜べよ」
「こんな騙し討ちみたいな真似されて喜べるか」
「だってお前、電話しても出なかっただろ。他にどうしろっての」
「電話? いつ?」
「1カ月……くらい前?」

 記憶を辿る。そういれば「アイドルの手も借りたい!」のロケで梨農家の手伝いに行った日、知らない番号から着信があった。もしかするとあれがそうかもしれない。

「登録してない番号に出るわけないだろ。俺の番号は誰に訊いた?」
「峰岸。峰岸は他の誰かに訊いたって言ってた」

 いくら同じ事務所だったからって、芸能人のケー番をペラペラ教えるなよ。峰岸、あいつはあとで締めておこう。

「で、そこまでして俺に何の用?」
「座れって」

 と自分の隣の椅子を叩く。

「用件が先」
「変わんないな、お前。まあいいや。実はもう一軒店出そうかなって思ってて。ちょっと資金のほうが足んないのよ。でいま出資者募ってて」
「絶対いやだ」
「共同経営って形で。お前は店のほうノータッチでいいから。売り上げ折半。どう?」
「断る。他当たれ」

 一瞬だが小東の目が険呑に光った。すぐさまそれを笑みで隠した。

「お前さ、ぶっちゃけいつまでその仕事やってけると思ってんの? 見たよ、週刊誌。あれ出てからお前、NAUGHTYの番組呼ばれてねえだろ。お前が一番危機感持ってんじゃないの? 四十五十になっても仕事あると思ってる? 今のうちに保険かけとかないと真剣に将来やばいだろ。副業するにしても何もノウハウ知らないお前が下手に手出したらカモられるだけだぞ。俺に任せておけって。かつての仲間の俺にさ」
「お前が一番信用できないよ」

 小東は顔から笑みを消した。

「そんな突拍子もないことを言い出すなんて、今もまだ大麻やってるのか?」
「やってるわけないだろ」

 と言いつつ小東は俺から目を逸らした。もうここには居られない。一刻も早くここを出ないと。

「どっちでもいいよ。俺には関係ないから。もう二度と連絡してくるな。あと事務所の後輩を巻きこむな」

 小東に背を向ける。財布から五千円出してカウンターに置いた。

「帰るぞ」

 峰岸の腕を掴んで立たせる。

「あの、お金足りませんけど」

 カウンターの男がニヤついた顔で言った。一万を叩きつけて店を出た。いいことをしたと思っているまったく理解していない峰岸には帰りのタクシーの中で説教をし、二度と小東の店に行かないこと、連絡がきても無視することを約束させた。誰も俺の二の舞にならなくていい。

 ◇ ◇ ◇

 小東と再会した翌週、事務所から呼び出された。嫌な予感は的中して、通された会議室にはマネージャーの他に専務取締役の番場さんがいた。俺の顔を見るなり挨拶もそこそこに「先週、小東に会ったのか?」ときた。腹の底がずんと重くなる。

 峰岸に相談したいことがあると誘われたことや、店に行くまでそこが小東の店だと知らなかったこと、峰岸は偶然小東の店を知ったことなど、事実だけを話した。一緒に店を出そうと誘われたが、断ったこともきちんと説明した。

 注文したビールには口もつけていないし、小東の隣にも座っていない。ずっと立ったままだったし、滞在時間は五分程度だった。俺にはなんの落ち度もないことを丁寧に説明したが、マネージャーは俺と目を合わさないし番場さんは不機嫌そうな顔でため息をついた。

「また撮られたぞ、お前」

 今週末発売の週刊誌に、俺が小東の店に行った記事が出るらしい。神戸アリサの一件で、どこかの記者が俺をマークしていたのかもしれない。

「疑われるようなことは何もないですよ」
「そういうことじゃない。どうしてもっと自分の行動に気を付けられないんだ」

 ぐ、と言葉に詰まる。一体どう気を付ければいいのか教えて欲しい。神戸アリサちゃんのときだって古賀さんに誘われただけだし他にも人はいたし記事はまったくのデタラメ。今回も俺は何も知らずに峰岸に誘われてついて行っただけだ。誰かに誘われても断ればいいのか? それが大事な仕事の相手でも?

「小東とつるんでると思われたらお前もまだ大麻をやってると思われるんだぞ」

 お前もまだ? 俺は一度だってやったことはない。そうか、ここの連中は俺も大麻をやったとずっと思い続けてきたわけだ。

 小東の大麻所持が発覚した時、俺の親も呼び出された。大勢の大人に囲まれて、涙ながらに俺はやっていないと訴えた。尿検査も受けたし、所持品検査も受けた。当然なにも出て来ず無罪放免になったが、本当は誰も俺が白だとは信じていなかったんだ。

 怒りよりも、虚しさが勝った。俺の努力も頑張りも誰も見てくれない。事実よりも印象でしか評価してくれない。俺の芸能生活はいったい何だったのか。意識が泥のなかに沈んでいくような感覚に陥る。もうなんの弁解もしたくない。誰も信じてくれないなら、無意味だ。

 当面仕事は自粛することになった。世間の反応次第では、雑誌の発売後、謝罪会見を開くことが決まった。



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続続続・嫁に来ないか(2/5)

2020.11.25.Wed.
<1>

 今日は「アイドルの手も借りたい!」のロケ。奥さんが三人目を妊娠中で人手が足りないので梨の収穫を手伝ってほしい、というもの。収穫作業はもちろん、獲れたての梨の食レポや、小さい兄妹との交流もバッチリ。

 収録の合間、スマホで中田さんの居場所をチェックしてみた。中田さんちからここは車で20分ほどの距離。あの人がこのチャンスを逃すはずがない。と思って浮気アプリを起動したのに、中田さんを示すアイコンは中田さんちから動いていない。

「まだヘソ曲げてんのかよ」

 雑誌を見た中田さんに拉致られ、責められ、喧嘩別れした夜から連絡が一切ない。あの人のことだからそうは言っても三日とあけず連絡してくると思っていた。時間があれば会いに来ると思っていたのにかれこれ二週間音沙汰なしだ。

 俺はぜったい悪くない。写真を撮られたのは迂闊だったかもしれないが、あんな事実を切り取った週刊誌を真に受けるほうがどうかしている。拉致しておいて言い負かされそうになったら追い出すほうがどう考えても悪い。だから俺からはぜったい謝らない。

 俺もちょっと言いすぎたかもしれないが、ぜんぶ本当のことだ。

 それに別に仲直りがしたいわけじゃない。強/姦された相手から脅されて今までずるずる続いた関係だ、このまま終わってくれるほうが俺にはありがたい。

 そうだ。もう俺を脅す動画も画像もない。もう中田さんの言いなりにならなくていい。連絡してきても会いに来ても強気に無視して追い返せばいい。しつこくしたら即通報だ。

 ブルッと手の中でスマホが震えた。知らない番号から着信。出るか悩んでいるうちに鳴りやんだ。咄嗟に頭に浮かんだのは中田さんの顔。忘れたいのに、気になっている。

「むかつく」

 スマホをポケットに戻した。

 今回も依頼人のお宅に宿を借りた。夕飯の準備のあいだ幼い兄妹たちと触れ合い、夜は依頼人旦那と晩酌、翌朝は「帰らないで」と泣く兄妹たちに見送られながらロケ終了。

 帰りの車のなかでも今日の出来を褒めてもらって大満足。ほくほく気分でスマホチェック。メールなし、着信なし。中田さんは相変わらず自分の畑にいる模様。せっかくのいい気分が台無しだ。

 せっかく近くに来ているのに。謝ってくるなら許してやらんこともないのに。

 いや俺は別に仲直りしたいわけじゃなくて、一方的に責められて追い出されたら俺が悪いみたいな感じで終わったのが気持ち悪いだけで、あんな始まり方をしたから俺からこっぴどく振ってやらなきゃ腹の虫が収まらないって、ただそれだけの理由で何度もチェックしているに過ぎない。なにも期待なんかしていない。

 車は高速を飛ばしてどんどん中田さんちから離れて行く。もう知らね。

 ◇ ◇ ◇

「見たで、自分。あの記事ほんまなん?」

 乾杯もそこそこに城野さんが俺をいじりだした。今日は久しぶりに城野さんと飲み。中田さんに監視されている不気味さから人付き合いが減っていたが、ほったらかしにされている今そんなこと気にする必要もない。

「嘘に決まってるじゃないですか。最初古賀さんと奏斗ってうちの後輩とご飯食べてたんですよ。そしたらそこに神戸アリサちゃんがマネージャーと一緒に来て。なぜか一緒に食事することになって。その帰りです。たまたま僕と2人でいるところを撮られただけです」
「やっぱなー。そういうことやと思ったわ。大澤くんて実は警戒心めっちゃ強いほうやん。あんな人目につくとこでおかしい思っててん」

 これがまともな人の反応だ。丸っと信じて人を車で拉致した挙句ネチネチ責め立てるほうが異常なんだ。そこで俺ははたと気付いてしまった。前に中田さんが仕事相手の女性と食事しているのを見て、2人は付き合っている、と勘違いしてしまったことを。切り取った一場面だけを見て、真偽を確かめもせず決めつけたのは俺も中田さんと同じだ。

 いやでも、中田さんの場合は二人っきりだったし、顔つき合わせて酒なんか飲んでたし、俺からの電話も無視したし。……中田さんにしたら、同じか。あの写真見ただけじゃ、俺とアリサちゃん2人きりで食事したと思っただろうし、あの日中田さんの誘いを断ったのは事実だし。

 俺もちょっとは悪かったのかも、しれない。

「もしかしたらアレやったんかもしれへんな。売名的な」

 少し声を低くして城野さんが言う。

「俺なんかと撮られても話題にならないですよ。狙うなら奏斗でしょ」
「それもそうか」
「そう言いきられるのもちょっと」

 あはは、と笑い合う。

「でも大丈夫やったん? あんな記事出て。彼女とか。誤解して大変やったんちゃうん?」
「彼女なんかいませんよ」

 ギクリとしつつ普通に否定する。実際彼女はいないし中田さんは彼女でも彼氏でもないし。

「最近ご飯誘っても断るやん。彼女できたからちゃうん?」
「違いますって。仕事とか、たまたまタイミングが合わなくて。だから今日来たでしょ」

 飲もう飲もう、とお喋りしながら酒を飲みご飯を食べた。いつものように城野さんの後輩芸人が合流して楽しい食事のままお開きになった。

 店を出たところで「写真撮られるで!」とまたからかわれたあと解散。タクシーに乗ってスマホを見る。頑なに中田さんからの連絡はなし。GPSをチェックするも自宅から微動だにせず。俺が城野さんと飲んでたってのに知らん顔かよ。

 会わなくなってそろそろ一カ月になるがあの人はなにを考えてるんだろうか。

 まだ怒ってる? 俺に呆れた? 諦めた? もうどうでもよくなった? 他に好きな奴ができたとか?

 それならそれでどうぞご勝手にって感じなんだが俺が振られたっぽくなるのが嫌だ。「僕が悪かった。あなたに会えなくて寂しかった」と言ってくるのを俺が振ってやりたいのに。

 今頃なにしてんだろうな。もう日付変わってるから寝てるよな。どうでもいいや、あんな人のことなんか。

 窓の外に視線を流す。飲みのあいだ頭の隅にずっとあって気になっていた城野さんの言葉。アリサちゃんのあれが本当に売名行為だったとしたら。城野さんに自虐気味に言ったが俺なんかと撮られてもたいして話題にならない。小東の一件もあるから売名どころかイメージダウンになる可能性だってある。でもなんか引っかかる。

 本当は奏斗を狙ってきたんじゃないだろうか。登場からしておかしかった。偶然を装ってはいたけど、「古賀さんの声が聞こえたから」と俺たちの個室にわざわざ顔を出して、古賀さんも「せっかくだし一緒に」だなんて、招き入れるだろうか。

 アリサちゃんサイドと古賀さんの間で話がついていたとしたら。アリサちゃん側は奏斗をご所望し、古賀さんは自分の番組の看板アイドルを守るために直前になって話をかえて俺を差し出したのだとしたら?

 今になって思えば疑わしい言動はあった。食事が終わって店を出ようとしたとき、古賀さんは奏斗をそばに置きたがった。少しでも奏斗が離れると呼び付けて適当なことを言い訳していた。トイレに行くから先に出てて、と古賀さんに言われ俺たちは外で待っていたが、奏斗は古賀さんの荷物を持たされて店内にいた。

 疑えばきりがない。意味のない行動にも意味を見い出してしまう。本当にただ偶然俺とアリサちゃんが撮られただけだったのか、奏斗を守るために古賀さんが俺を売ったのか、真相はわからない。考えるだけ無駄。

 だけど、普段あまり食事に誘われない俺が珍しく誘われた日に写真を撮られたのは、偶然にしては出来過ぎてる気がする。

 俺なんていくらでも替わりが利く。人気番組の軌道に乗った「That’s NAUGHTY!」のアシスタント役ももう必要がない。古賀さんは俺を切り捨てるつもりなのかもしれない。

 腹の底がズンと重くなった。ため息をついてシートに深く身を沈める。

 中田さんの誘いを断って参加したのに結果がこれか。手の中のスマホが無言のまま俺を責めている。

 ◇ ◇ ◇

 テレビを見て「やっぱりか」と思った。予想はしてたけどやっぱりショックだった。所詮俺はこの程度だよなって、自分自身への落胆が酷い。

 先週の「That’s NAUGHTY!」は二時間スペシャルでNAUGHTYのメンバーだけで絆を深めるために温泉旅行だったから俺がいなくても納得はしていたが、その後もさっぱり収録に呼ばれないと思っていたら、今日の放送では俺のポジションに中堅芸人さんが収まって番組が始まった。

 違和感を薄めるためかセットが変わり、演者の立ち位置も微妙に違う。新コーナーも始まって2、3カ月もすれば誰も俺のことなんか思い出しもしないだろう。

 体中から力が抜けてソファで茫然とした。時間が経って少し立ち直り、マネージャーに電話で確認したら「スタジオ収録の予定はありませんが、ロケではまた参加して欲しいとお話がありました」遠回しなクビ宣告だ。

「雑誌の記事のことを気にされてるみたいで」

 とマネは言う。俺が悪いってことね。でもこれで俺は古賀さんに売られたんだって確信した。どうだっていい。仕事がひとつ減ったくらいなんだ。俺はもっとどん底を知ってる。

 とは言え、この仕事1つ減ったことが影響するのがこの業界だ。デタラメな雑誌記事、それを受けての事実上の番組降板、真偽は二の次で印象が重要視される芸能界で、いま勢いのある番組を降ろされたのはとても痛い。他に影響しないといいけど。



消えた初恋 4


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続続続・嫁に来ないか(1/5)

2020.11.24.Tue.
<「嫁に来ないか」→「続・嫁に来ないか」→「続続・嫁に来ないか」>

※地味暗い、微エロ

「なんですかこれは」

 中田さんが俺の前に投げ出したのは週刊誌。見開きで白黒の写真。そこに写るのは、ちょうど店から出てきた俺とグラビアアイドルの神戸アリサちゃん。大きい見出しには深夜の密会デート!!という文字。

 これが発売されたのは今日。俺が中田さんに拉致されたのはその夜、というか数時間前。中田さんの行動力には毎回驚かされる。

「僕というものがありながら」

 ソファで足を組んで中田さんが俺を見下ろす。俺はといえば、中田さんの家に連れこまれてすぐ床に正座させられた。仮にも長年好きだった相手を床に正座させるか?

「っていうかあんた、俺のなんでもないだろ」
「恋人ですよ」
「ちげーわ」

 否定はしたが、実際俺たちの最近の付き合い方は恋人のそれと変わりがない。中田さんは毎日マメにメールを送ってくるし、俺も毎回無視し続けるのは悪い気がするから三日に一度くらい返信している。週一で中田さんは俺に会いにくるし、会えば必ずセックスする。

 自分の畑で収穫した季節の野菜を持参して手料理を振る舞ってくれるし、気付けば部屋のあちこちを掃除してくれているし、翌日のスケジュールを聞きだしてアラームセットしてくれたり、ゴミ出ししてくれたり。帰るときは名残惜しそうな顔で「また来ます」と俺にキスしてから帰る。恋人気取りというより嫁気取り?

 尽くされるのは快適だし、ぶっちゃけセックスも気持ちいいし、ご飯は旨いが、拒否したらどんな暴走をするかわからないから好きにさせてきただけで、恋人になったつもりはない。

 浮気アプリで常に監視されていると思うとうかうか遊びに出かけられないから、トラブルやスキャンダルを避けたい今の俺にとってはちょうどいい足枷にもなっていた。

 最近は俺を支持してくれるファンの平均年齢があがってきているらしい。つまり世間の認知度、好感度があがっているということだ。

 アイドルデュオとしてデビュー後、たった一年でメンバーの小東が大麻所持で解雇、デュオは強制解散して長らく崖っぷちだった俺にしては上出来だ。このままいけば、帯番組の司会も夢の話じゃなくなるかもしれない。そんな野望を抱いていた俺にとって力を持ってる業界の人間とのコネは何より優先されるものだ。

 この写真を撮られたのは、プロデューサーの古賀さんに食事に誘われた日だった。準レギュラーで使ってもらっている番組のプロデューサーだ。断るわけがない。そこには後輩アイドルの奏斗もいた。三人で楽しい食事。そこに突然現れたのがアリサちゃんと男性マネだった。

 だからこの見出しは大嘘だ。俺とアリサちゃんの他に古賀さんと奏斗、アリサちゃんのマネもいた。一部分だけを切り取ってわざと事実を歪曲したゴシップ記事。でもそれを間に受ける人は大勢いる。せっかく上向いてきた俺の運気と好感度。帯番組の司会という俺の野望がこんな記事のせいでまた遠のいた。一番頭にきてるのはほかならぬ俺だ。

「こんなもの信じるなんて、あんた意外に詐欺に引っかかりやすそうだな。事実なわけないだろ。他にあと3人いたよ。それは写さないように写真撮ってんの。で適当な見出しつけりゃ信じる奴がいるだろ、あんたみたいに」
「2人きりじゃなかったって、証明できないですよね」
「他に誰もいなかった証明、あんたにできんの?」

 できるわけがない。中田さんはむっと眉を寄せた。

「日付を見てください。この日は僕の誘いを断った日ですよね。大事な打ち合わせがあるからと」

 指摘に内心ぎくりとなる。

「打ち合わせだって誘われたのはほんとだよ。結果的にただ食事しただけだったけど、これも大事な仕事にはかわりない。農家のあんたには理解できないだろうけど、うちの業界じゃコネとかツテがものすごく大事だし重要なんだよ。それもわからないあんたに、仕事のことまで口出しされたくない。だいたい俺が誰と会おうがあんたに関係ないし、報告の義務もないよね」

 どうして仕事帰りにいきなり拉致されて、こんな取り調べをうけなきゃいけないんだ。しかも記事は事実無根。恋人でもない中田さんにとやかく言われるいわれはないし、俺も弁解する必要なんかない。まったく馬鹿馬鹿しいし、時間の無駄だ。

 どうせ今日もやることやるんだ。だったらさっさと終わらせて眠りたい。

「もういいだろ、面倒臭い。風呂借りていい? 俺明日朝から仕事だから終わったら家まで送ってよ。ここまで連れて来たのあんたなんだし」

 話は終わりだ。立ちあがろうとしたら足が痺れてもたついた。膝に手をついてヨロヨロ歩きだす。

「帰ってください」
「は?」

 中田さんを見たらプイと顔を背けられた。

「関係ないとか、よくそんなひどいことが言えますね。これを見て僕がどんな気持ちになったか少しは考えてくださいよ。どうして突き放す言い方しかできないんですか。僕はいつも大澤さんのことを第一に考えているのに」
「そんなこと頼んでないし、だいたい俺、あんたの過干渉にはだいぶ目を瞑ってるつもりだけど」

 ムキになって言い返すと、中田さんは目を見開いて俺を見た。

「僕がしてること全部、迷惑だってことですか」
「当たり前だろ。部屋の掃除も飯作るのもあんたが勝手にしてることだ。第一、あんた俺にしたこと忘れた? 弱み握られてるから仕方なく合わせてるだけで、俺が望んだことなんかひとつもない。あんたが一方的に俺に付き纏ってるだけだろ。勝手に浮気アプリ入れて待ち伏せしたり、動画で人のこと脅したり。いつも恋人にそんなことしてんの? 今までまともに人と付き合ったことってある? 毎回強/姦して弱み握ってむりやり付き合わせてんじゃないの?」

 中田さんが傷ついた顔をする。それを見て俺は溜飲を下げる。

 これまでの鬱憤が堰を切ったように口から溢れた。アイドルデビューしてすぐ業界から干されかけ、数年経ってやっと仕事をもらえるようになったが、それもいつ絶えるかわからない細々としたものばかり。歌も出せない、ドラマにも滅多に呼ばれない。バラエティのワンコーナーがせいぜい。ロケばかりでやっと番組収録に呼ばれても後輩のバーターやサブばかり。

 アリサと写真を撮られて一番悔しいをしているのは俺だ。もっと警戒すべきだった。慎重になるべきだった。一番悔やんでいるのに、事務所の人間から一方的に責められて、どうして中田さんにまで責められないといけないんだ。

 この写真を撮られた俺は事務所に呼び出され、そこで説教された。大麻使用で引退した小東のことまで持ちだされ「懲りないのか」とさも俺が悪いような言い草だった。奏斗のイメージに疵がついたらどうしてくれるんだとも言われた。誰も俺を庇ってくれない。守ってくれない。事務所内での俺の立場は、小東の一件から何もかわっていないと身に沁みてわかった。

 中田さんが俺を責めるのは嫉妬だとわかっていても、いつもみたいに聞き流せなかった。中田さんくらい、俺の味方をしてほしかった。だからこれは完全なる八つ当たりだ。

「黙ってないでなんとか言えよ、それとも図星だった?」
「僕のことそんな風に思ってたんですか。あんまりです」
「よく被害者ヅラできるな。自分のしたこと忘れたのかよ。あんたに怯えるのも、振り回されるのも、なにもかもうんざりだ。頼むから俺の前から消えてくれよ」
「本気で言っているんですか?」
「ずっと本気だけど」
「……わかりました。もう僕からは会いに行きません。大澤さんが会いに来てくれるまで待ちます」
「そんな日、永遠にこないよ」

 意地の悪い心境でせせら笑う。中田さんはソファから立ちあがると尻ポケットからスマホを出した。

「見ててください」

 と言うとスマホを操作し、フォルダから例の動画と画像を呼び出した。またこれで俺を脅して言いなりにさせる気かと思ったが違った。中田さんは1つ1つを俺の目の前で消去していった。他に残っていないことを確かめさせると俺と目を合わせた。

「全部消しました。大澤さんを脅す材料はもうありません。だから安心してお帰りください」

 と玄関の方へ手を伸ばす。

「ほんとに帰っていいの?」
「もちろんです」
「一人で?」
「僕なんかと狭い車に2人きりなんて嫌でしょうから」

 東京からここまで車で二時間弱。時間はすでに22時を過ぎている。田んぼと畑と民家に囲まれたこの場所で簡単にタクシーがつかまるわけない。駅までどのくらい距離があるか見当もつかない。そんな状況をわかっていながら中田さんは俺を放りだそうとしている。

「あんたほんと性格悪いな」

 鞄を拾いあげ玄関へ向かう。あとをついて来るくせに中田さんは俺を引き止めない、何も言わない。靴を履いて玄関の戸を開けても、中田さんは冷ややかな顔のまま一言も喋らない。それどころか戸が閉まった直後、ガチャッと鍵までかけた。俺も感情に任せて言いすぎたかもしれないが、ここまで連れてきたくせに追い出すか? この仕打ちに体がブルブル震えた。もちろん、怒りでだ。

 今後一切、中田さんからの連絡は無視してやる。会いに来たって相手してやるもんか。

 スマホで地図を見ながら駅へ向かい、なんとかタクシーをつかまえ帰宅した。



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接点t(6/6)

2020.11.23.Mon.


 待ってる間に制服は着ておいた。1人裸だと馬鹿みたいだと静馬も服を着た。静馬が飲み物を出してくれたがのどを通らなかった。兄貴は30分でやってきた。ドアをガンガン叩く。俺はソファの上で飛び上がった。

 静馬がドアを開けに行き、開放的な空気のあと、ドカドカ足を踏み鳴らして兄貴が部屋に入ってきた。怒り狂っているときの歩幅で中央に来ると部屋を見渡し、ソファの俺を見つけてカッと目を見開いた。眦が完全につりあがっている。ブチ切れてるときの顔だ。

「先にシャワー浴びる?」

 あとから静馬がやってきた。振り返った兄貴が静馬の頬を平手打ちした。パンと乾いた音が部屋に響く。

「大介に手出すなっつったろ」
「痛いなあ。もう子供じゃないんだから、大介が誰と寝ようが薫には関係ないだろ。セックスの相手まで管理する権利、薫にはないよ。ねえ、大介くん?」

 静馬が俺に問いかける。その頬がみるみる赤くなっていく。それを見て手足が震えた。

「帰るから……、静馬を殴んなよ」
「無事で帰れると思ってんのか」

 兄貴に腕を掴まれた。引っ張り立たされベッドに突き飛ばされる。昨日キスされても、静馬になにを言われても、俺は徹頭徹尾、兄貴が俺にその気を起こすなんてまったく思っていなくて、兄貴が俺に跨ったのだって馬乗りで殴るためだと思っていた。鬼の形相の兄貴を見あげて本当に泣く寸前だった。

「昨日俺が言ったこともう忘れたのか? あ?」
「ご……ごめん……っ」
「それともまじで俺にぶち犯されたかったのか?」
「えっ……」
「静馬!」

 兄貴に呼ばれて静馬がベッドに飛び乗る。

「こいつの手押さえとけ」
「了解」

 楽しそうな表情で、静馬は俺の頭の向こうに座ると両手を掴みあげた。

「なっ……なに?! なんで?」
「言ったじゃん。俺の勝ちってことだよ、大介」
「え? え?!」

 パニクっているあいだに、兄貴は俺の足からズボンとパンツを引き抜いた。驚いて声も出なかった。ただ信じられない思いで兄貴のことを見ていた。

「薫、ローション」

 静馬は小袋を兄貴に投げた。兄貴はそれを破ると俺のちんこの上から中身を垂らした。手でローションを馴染ませるように扱かれる。縮こまったちんこはなかなか反応を見せない。当たり前だ。まさか本当に兄貴が俺を犯そうだなんて、いまこの状況になってもまだ信じられないんだから。

「兄ちゃん、嘘だろ……冗談なんだろ」
「冗談でお前のちんこ触れるかよ。俺は忠告してやっただろ、静馬に近づくな、二度と会うなって。このイカレポンチ野郎に毒されてんじゃねえよ。もう取り返しつかねえぞ。俺は我慢できてたのに煽るような真似しやがって」

 ちんこを握ってた手が玉を越えその奥へ伸びてきた。そこに触られたとき、一瞬で全身熱くなるような感覚がした。赤の他人ですら見られるのも触られるのも抵抗があるのに、肉親の、実の兄貴に触られるなんてショックなんてもんじゃない。目の前が揺さぶらて、鼻の奥で血の匂いを嗅いだ。本当にどっかの血管切れたかも。

「兄ちゃん、やだよ! そんなの……! いやだ、触るな!」
「指くらいでガタガタ騒ぐんじゃねえよ。静馬にちんぽ突っ込んでやったんだろ。今度はお前が突っ込まれるだけだ」
「ぅぁあああっ、なんで! 嫌だ! 兄ちゃん! 兄ちゃん!!」

 体を捩って暴れてみたが、兄貴に馬乗りにされてる上に静馬に手を拘束されているからとても逃れられそうにない。俺が必死の抵抗を試みるあいだ、兄貴の指は何度も出し入れされ、中を充分擦られた。

「もう観念しなよ、薫は俄然やる気だよ」

 静馬が俺の耳元で囁く。助けて欲しくて目線を送ったのに、静馬はにこにこ笑いながら俺の額や瞼にチュッチュとキスするだけだ。

「静馬、助けてよ」
「えー、やだ。はやく大介に犯して欲しくてさっきからずっとケツがうずいて仕方ないんだよ。大介も薫に犯されながら俺に突っ込みたいでしょ? 前も後ろも気持ち良いって最高じゃない?」
「俺はいやだ! 静馬だけがいい……!」

 微苦笑を浮かべて静馬が兄貴を見あげる。兄貴は苛立った様子で舌打ちすると指を抜いた。ベルトを外してジーンズの前を広げる。ボクサーから引っ張りだしたちんこを扱き始めた。静馬の言う通り、右曲がりで反りかえったちんこだ。

「兄ちゃんそれどうする気だよ……本気じゃないだろ、やめてくれよまじで」
「俺だって冗談だと思いてえよ。でもお前がイカレ野郎の静馬に犯されるくらいなら俺がやったほうがマシだ」
「ええっ?」

 静馬を仰ぎ見る。目が合うと静馬は最初に家の廊下で会ったときみたいな馴れ馴れしい笑顔を浮かべた。

「薫も最初は渋ってたよ。でもそれなら俺が食っちゃうよって言ったら、お前にヤラれるくらいなら自分でヤルってさ。なんだかんだ言って弟のこと大事なんだよ」

 本当に大事に思ってくれてるならこんなふざけたこと止めてくれ。

 兄貴は先端を俺の尻穴にぴたりと押しつけた。

「わっ……嘘だ、兄ちゃん嫌だって俺こんなのいやだっ……ッ!」

 グググ、と兄貴のちんこが入ってくる。

「うあ、ぁああぁっ……! 痛い……っ、兄ちゃん痛いよ抜いてよっ!」

 どうしてこんなことになったのか必死に考えた。俺が静馬に近づいたから? 兄貴の言うことを聞かなかったから? 兄貴の彼氏に手を出したから? そんなことで実の弟を犯すだろうか?

「兄ちゃん、俺のことが好きなの?」

 半泣きで導き出した答えを怖々口にしたら、兄貴は動きを止めた。次いで、静馬の爆笑。兄貴は静馬を睨みつけた。

「かわいいなあ、大介は」

 頭上から静馬が俺の顔を覗きこむ。

「そういうところほんと気に入ってるよ。大介、いいこと教えてあげる。愛なんてなくてもセックスはできるんだよ?」

 言うと静馬は顔をあげた。

「薫もそうだろ。好きじゃない女とも平気でやるし、男同士の俺ともできる。実の弟とだってできる」

 手を伸ばして兄貴を引きよせると静馬は兄貴とキスした。俺の目の前で長く深い口付けをかわし、唾液の糸を引きながら離れて行った。兄貴は冷めたような諦めたような不思議な笑みを浮かべていた。

「よく言う。俺はお前のせいで性癖歪められたんだ。──大介」

 兄貴は俺と目を合わせた。

「静馬に近づくなって俺は忠告してやったのに、お前はほんと救いようのない馬鹿だな。静馬のせいで俺はお前相手でも勃つし、静馬入れて3人でやんのもぜんぜん出来るんだよ。お前もその内こうなるぞ」
「だったら最初にそう言っといてくれよ!!」

 そんなわかりにくい忠告があってたまるか!

 兄貴のちんこが完全に全部収まった。異物感がすごい。静馬は俺とヤッたとき気持ちいいと言っていたけど全部演技なんじゃないかと疑う圧迫感。ずる、とそれが動いた。

「ううっ……やめてくれよ……ッ」
「薫のちんぽ気持ちいいだろ?」
「ぜんぜん気持ち良くない……! 痛いし苦しいし、もうやだっ……静馬、変わってよ!」
「俺だってかわりたいけど、俺って焦らされるの案外好きだからさあ。それに薫が大介を犯してるとこもっと見たいじゃん? 薫のちんぽが大介のけつまんこにぶっ挿さって、出たり入ったりしてんだよ。兄弟でなにやってんだよって思ったらめちゃ興奮するじゃん。ねえ、兄貴に犯されるのってどんな感じ? 近親相姦って俺とヤッたときとやっぱ違うの?」
「黙れ静馬。大介が萎えてんじゃねえか」

 兄貴に制止されて静馬がやっと喋るのを止めた。俺の股間をみて「おや」という顔をする。

「薫の弟のくせに、甘ちゃんだなあ」

 と言うと静馬は俺の顔をまたぎ、ちんこを握った。チュッチュとキスしたかと思うと先を口に含む。ジュッと吸いこんで全部口の中に収まった。舌と口全体を使ってちんこを愛撫する。そんなことをされたら嫌でも反応してしまう。

「嫌だ、静馬、やめて、いやだ」

 静馬の口のなかでどんどん大きくなっていく。それに伴い、静馬の粘膜に触れる部分も増えていく。静馬は奥深くまで俺を飲みこんで体ごと顔を揺すった。俺の目の前で静馬の股間がゆさゆさ揺れる。静馬も勃起していた。

 ちんこが蕩ける。気持ち良くてわけがわからなくなる。

 尻穴では兄貴のちんこがピストン運動を続けている。もう痛いのか痛くないのかわからない。この腰が抜けるような気持ち良さは兄貴のちんこのせいなのか、静馬のイラマのおかげなのかもわからない。

「兄ちゃん……俺、なんか変……っ」
「元から変だろお前は」
「ちがっ……んあっ、あ、ケツ……おかし……いっ」
「良くなってきたか?」

 反りかえった兄貴のちんこが天井を擦るたび、頭のなかで光がチカチカと点滅するのだ。

「兄ちゃん、もうやめて……うぁっ……あっ、あんっ」

 ズルル、と静馬の口からちんこが抜かれた。振り返った静馬が俺に笑いかけている。

「大介、どこに出したい? 好きなとこに出させてあげるよ」

 好きなところ。口? 顔? 俺が出したいところは……

「静馬の中がいい……! 静馬のおまんこに出したい!」

 俺は欲求を満たすことを優先することにした。

 ~ ~ ~

 静馬のうなじを見ながら俺は腰を振った。四つん這いの静馬に突っ込む俺、その俺に突っ込む兄貴。静馬の言う3連結。

 後ろから兄貴に突き上げられるからリズムを取りにくい。タイミングがずれると俺の尻から兄貴のちんこが抜けそうになったりするのだ。そっちに気を取られていたら今度は気持ち良くて静馬のほうがおろそかになってしまい、「ちゃんと動いてよ」と静馬に怒られた。

「ごめん、だって兄ちゃんが」
「俺のちんぽが気持ちいいんだろ?」
「うん」

 振り返って兄貴とキスする。きゅっと兄貴を締め付けたら、それを感じ取った兄貴がヌコヌコとちんこを動かした。反りかえった右曲がりのちんこが気持ちいい。静馬の言う通り、癖になりそうだ。

「ずるい、俺にもキスしてよ」

 体を起こした静馬がキスを求めた相手は兄貴だった。静馬は限界まで体を捻り、兄貴も俺を押しのけ体を倒してむりやり薫にキスした。

 見てたら興奮と嫉妬がフツフツ湧きあがる。誰に嫉妬しているのか、もう俺にはわからない。長いキスに我慢も限界だった。

「もういいだろ」

 2人を引きはがし、俺も静馬にキスした。後ろから兄貴が激しく突いてくる。その衝撃が前の静馬にも伝達されていく。まさに玉突き状態。尻を犯され、ちんこは静馬の尻に扱かれてキスどころじゃない。

 静馬が喘ぐ。俺も同じように喘いでいた。

「ふあっ、あっ、出るっ……静馬……、兄ちゃん、俺もう出るよ……!」

 言った直後、静馬のなかに精液を放った。ちんこでイッたのか、尻でイッたのか自分でもわからない。おそらく両方だ。

 静馬は布団に突っ伏すと体を反転させて仰向けになった。目的を達成して実に満足げな笑顔だ。

「大介、最高だったよ。いままでのセックスで一番気持ちよかった。不規則な動きも読めなくてドキドキしたし、大介を通して薫のちんぽを感じられるのも良かった。薫に突かれてちんぽがビクビクしてんのめちゃ可愛かった」

 と俺の頭をワサワサと撫でまわしたあとご褒美みたいにキスしてくれた。

「じゃあさ、俺もイキたいから、しゃぶって?」

 静馬は自分の膝を左右に割った。我慢汁ですでにベトベトの勃起ちんこがフルフルと震えていた。俺はなんの躊躇もなくそれを咥えた。兄貴に突き上げられた拍子にのどの奥に刺さる。吐きそうになりながらしゃぶり続けた。

「イクぞ、大介、お前のなかに出すぞ」

 パンパンと兄貴が腰を打ち付けてくる。涎と鼻水を垂れ流しで変態性癖のクソビッチ野郎のちんこをしゃぶりながら実の兄貴に種付けされた。そこに快感を見い出す俺はもう、元には戻れないんだろう。




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接点t(5/6)

2020.11.22.Sun.


 翌朝、洗面所に行ったら兄貴が歯磨き中で思わず「げっ」と声が漏れた。こっちを見ないまま器用に俺を蹴りあげる。口をゆすぐと洗面所を出て行った。それ違いざま、俺は兄貴を睨んでやったのに目も合わさないで行きやがった。昨日あんなことしておいて。

 俺が朝飯を食って学校へ行く時間になっても、兄貴はリビングのソファに寝転がってずっとテレビを見ていた。講義まで時間がある日は部屋で寝てるくせに早起きとは珍しい。昨夜のこと、ちょっとは気にしてる証拠かもしれない。

 学校で授業はほとんど上の空だった。昨日は色々ありすぎた。静馬で脱童貞したこととか。そのあと兄貴にキスされたこととか。思い出していたら授業中何度か勃起しかけた。

 今日は見える景色が違った。昨日まで童貞仲間だった俺の友達が幼く見える。漫画とかゲームの話をしてくるのが微笑ましい。今なら確実に非童貞のリア充共と対等に話ができる気がする。いや、手近な女とヤッてるあいつらより、俺のほうがはるかに経験豊富かもしれない。なんせ俺は年上の男とヤッて、その日のうちに実の兄貴ともキスしたんだ。そんな経験した奴、このクラスに他にいるか?

 一日中浮ついたまま授業が終わって放課後になった。電車を降りて歩いてる途中でスマホが鳴った。知らない番号からだ。ちょっと迷ったが出てみると『元気~? あれから大丈夫だった?』妙に馴れ馴れしい口調と声ですぐ相手は静馬だとわかった。

「なんでこの番号知ってんですか?」
『昨日、ファミレスで大介くんがトイレ行ってる隙に見た』

 油断ならねえ。

『薫に怒られなかった?』

 心配してると見せかけて声はウキウキ弾んでいる。

「怒られてねっすよ」
『えー、なんで? 俺と寝たってバレなかったの?』
「バレたけど、別に。あんたのこと、ただの公衆便所としか思ってないからじゃない? もう二度と会うなって言われただけ」
『そうなの? 残念~。今から遊ぼって誘おうと思ってたのに』

 ぜんぜん声が残念がってない。俺が断らないってことがこの人はわかってるんだ。断られてもそれを覆す自信があるんだ。

「昨日駅にいたのって、もしかして俺を待ってたりする?」
『当たり。大介くんに会いたいなーと思って、薫に色々探り入れて待ち伏せしたんだ。薫と体の相性いいから、絶対大介くんとしても気持ちいいだろうなと思って。実際良かったわけだし、またしない?』

 断んなきゃいけないんだろうなと頭ではわかっていた。でも電話越しにこの人の声を聞いてるだけで股間に血液が集まり始めていた。またしゃぶって欲しい。突っ込みたい。

 でも兄貴のことを思い出したら恐怖のほうが勝る。また会ったってことがバレたら、今度こそ鉄拳制裁だ。

「あんた、ほんとは兄貴を怒らせたいんだろ」
『そんなことあるわけないじゃん』

 って笑うけどぜったい嘘だ。兄貴を怒らせてなんの得があるんだ? 破滅的なセックスが好きだから? 兄貴の気を引きたいから? 都合のいいビッチだって言うくせに俺には近づくなって言う兄貴と同じだ。2人とも言葉と本音が裏腹だ。

「俺もうあんたらに利用されたくない」
『じゃあもう俺とはセックスしないの? のどの奥まで大介のちんぽ咥えこんでふやけるまでしゃぶって欲しくないの? 俺のおまんこ使ってあっつい精子たっぷり中出しして、オナホみたいに使い捨てていいんだよ。いまもほんとは勃起してんじゃない? 俺にしゃぶって欲しくてたまんないでしょ? 今すぐ舐めてあげるから、大介の勃起ちんぽ出してごらんよ。ねえほら、触って。硬くておっきくなってる。俺にも触らせてよ。大介の精子、俺に飲ませてよ。のどに精液絡みつく感じ、俺大好きなんだから』

 もう耳元で直接囁かれてるも同然だった。静馬の息遣いが俺を煽る。昨日童貞捨てたばかりの俺に抗う術はなかった。

「どこ行けばいいの」
『昨日と同じ駅』

 通話を切り、走って駅に戻った。

~ ~ ~

 改札を出たら静馬がいた。知らない男と話をしている最中で、俺に気付くと「ちょっと待って」とジェスチャーする。男が頭を下げて駅を出て行った。

「誰?」
「知らない人。ファッションの参考にしたいから写真撮らせて欲しいって言うから、一枚撮らせてあげてたの」

 今日もスナップいいですかあ?って言われそうなお洒落ないでたちだった。

「雑誌載るの?」
「雑誌じゃないよ。個人で保管用って言ってた」
「やばいじゃん。なにに使われるかわかんないよ」
「ナニに使うんだろうね?」

 静馬はニヤニヤ笑った。

「あんた平気なの? あの人、写真見ながらマスかくかもよ」
「興奮するよね」

 あ、この人変態だったの忘れてた。

 お腹空いてる?って聞かれたけど、先にセックスしたかったからホテルに直行した。部屋に入るなり静馬を跪かせてフェラさせた。有言実行でのどまで咥えこんでジュプジュプ音立てながらふやけるまでしゃぶられた。この人は本当にちんこだったら誰のでもいいんだろう。例えばさっき駅で写真を撮らせた男だっていいに違いない。だんだん腹が立ってきたので、最後は静馬に顔射した。

「やられたぁ」

 って言うわりに嬉しそう。なにをしてやっても逆効果。

「お風呂入ってくるね」

 俺の目の前で静馬が一枚一枚服を脱ぎ捨てていく。わざとらしいストリップショーに俺の目は釘付けになる。昨日抱いた体。いまから抱く体。待ち切れなかった。静馬のあとを追いかけて俺も風呂に入った。キスをしながら静馬が俺の体を洗ってくれる。手つきがいやらしくて、すぐまた勃起した。静馬は俺に見せつけるように尻の穴を洗った。早くぶち込みたい。

 濡れた体を拭くのもそこそこにベッドに連れこんだ。今日もねだられて四つん這いの静馬に後ろから挿入する。

 最初はガン掘りして責めた。さっき出したばかりだから長引かせられそうだ。昨日は必死だったけど今日は静馬のちんこを触る余裕がある。静馬も勃起していた。先っぽが濡れている。それをクチュクチュ扱いてやったら中が締まった。

「気持ちいい?」
「はぁ……すっごい気持ちい……ちんぽハメられたまま扱かれたらすぐイッちゃう」
「ほんとに?」

 ピストンしながらちんこを扱いてやった。ビクビクと静馬の腰が痙攣したみたいに震える。

「ああ……あ……出ちゃう……イッちゃう……!」

 射精の瞬間、ぎゅっと奥がキツくなった。俺もはやくこの中に中出ししてやりたい。

 息を吐き出しながらベッドに静馬が突っ伏す。俺もその上にのしかかった。体を密着させるのが気持ちいい。静馬からはいい匂いがする。それを吸いこみながら細い体を抱きしめる。さっきはイラついて顔射したけど、いまは静馬が愛しいし、他の誰にも抱かれて欲しくないと独占欲がわきあがってくる。ぴったりくっついて柔らかな髪の毛とか項に何度もキスした。これは俺のものだって印をつけていくみたいに。

 腰をゆったりグラインドさせた。長くなかに留まっていたい。静馬と離れるのが惜しい。淫乱くそビッチの変態でもいい。この人を俺のものにしたかった。

 長引かせる限界がきて、最後は静馬に中出しした。ちゅぽんと音を立てながらちんこを抜いて、静馬の横に寝転がる。静馬と目が合いキスした。だんだん頭が冷静になっていく。性欲に負けてまた静馬とセックスしてしまった。兄貴にバレたらどんな目に遭うか。

「兄貴にバレたらまじで殺されるかも」
「じゃあ秘密にしとかないとね」

 信用できない笑顔を浮かべ、静馬は俺の乳首を指で弄んだ。

「あんな奴のどこがいいの?」
「顔とちんことセックスが強いところ」

 はっきりしていて思わず吹き出した。

「俺と付き合ってって言ったら?」
「いいよ」
「まじ?」
「3人でしよっ」
「またそれ」
「本気だよ。薫も大介も大好きだから、3人で付き合いたい。3人でしたい」
「俺はやだ。吐くわ」

 吐くで思い出した。

「そうだ、昨日兄貴にキスされたんだった」
「なんでなんで?」

 肘をついて顔を覗きこんでくる。ずいぶん楽しそうだ。

「静馬を俺にちょうだいって言ったらキスされた。次そんなこと言ったらぶち犯すって脅されたし」
「なにそれ最高。犯されようよ、大介!」
「やだって」
「薫は大介を犯して、大介は俺を犯すの。良くない? 絶対いいよ。兄弟で3連結しようよ!」
「力説すんな。あんたほんと頭おかしい」

 体を起こし、ベッドから足をおろした。ぐうと腹が鳴る。性欲のあとは食欲を満たしたい。

「俺の頭がおかしいことなんて、最初からわかってたことだろ」

 静馬に背中を蹴られた。

「やめろよ」
「常識人ぶりやがって、ほんとつまんない奴。血は繋がっててもやっぱ薫とは違うね。期待はずれだよ。大介にはがっかりした!」

 兄貴と比べる言葉にカチンとくる。静馬の足を掴んで乱暴に押し返してやった。

「兄貴だって俺とヤリたがるわけないだろ」
「薫はやる気あるよ」
「……嘘だろ」

 穴兄弟になったことさえ心底嫌そうな顔をしたあの兄貴がそんなはずない。どうせ静馬の出任せに決まってる。でもはっきり言いきられると自信がなくなっていく。

「大介入れて3人でしたいって言ったら、薫は大介次第だって言ったよ」
「嘘だ。兄貴は俺を嫌ってるのに」
「薫も同じこと言ってた。大介は俺を嫌ってるから絶対実現しないって。でも傍から見てたらお前ら二人、相思相愛のブラコン同士だよ。ほんとは仲いいくせに仲悪いふりしてるだけじゃん」
「どこがっ」
「じゃあ今から薫呼び出そうよ。大介がいるって聞いたらあいつ何を置いてもすっ飛んでくるから。来たら俺の勝ちってことで3Pしようね」

 静馬は身軽にベッドからおりると鞄からスマホを出した。

「ほんとに電話すんの? 兄貴に殺される」
「大介は大丈夫。殺されるとしたら俺のほうだから」

 操作したあとスマホを耳にあてた。

「あ、薫? いま俺大介とホテルいるんだけど来ない? ほら前に言った話、覚えてるだろ? 3人でやろうってやつ。大介がやっとその気になってくれたんだ。……ほんとだよ。だから薫も早く来なよ。いますぐ大介にちんこぶち込みたいだろ? あははっ、そんなに怒るなよ。……手遅れだって、大介も電話聞いてるもん」

 静馬は俺を見ていたずらっぽく笑った。

「場所と部屋番号メールするから今すぐ来て。ただし、覚悟が出来てないなら来るなよ。意気地なしのフニャチンじゃ俺はイケないから」

 通話を切ると静馬はスマホをソファに投げ捨てた。

「薫が来るまでもう一回やっとく? あ、そんな気分じゃないか。顔真っ白だよ、大丈夫?」

 静馬に頭を抱えられ、額にキスされた。めちゃくちゃな言動とは裏腹に声もキスも優しい。俺はひたすら恐ろしくて仕方なかった。兄貴が来たらめちゃくちゃ怒られる。殴られるだけじゃ済まない。文字通りボコボコにされて半殺しにされる。こんなふざけた真似をして静馬もただじゃ済まないだろう。

 兄貴が俺とヤリたいわけがない。ここに来るのは3Pのためじゃない。俺たちを半殺しにするためだ。静馬はそれがわかってないんだ。

「いますぐここ出よう。逃げよう」
「嫌だ。大介だって知りたいだろ。薫が大介になにをしたいか。薫になにをされるのか」
「ボコにされんだよ!」
「そうなったらその時だよ」

 静馬が晴れやかに笑う。この人は本当にイカれてる。この人の破滅願望は本物だった。頭を抱えて呻った。静馬が隣に座り、慰めるように俺の背中を撫でた。細く硬い指。泣きそうなくらい、心地いい。



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接点t(4/6)

2020.11.21.Sat.


 ホテルを出たあと静馬にファミレスでご飯をご馳走になった。その時兄貴から電話がかかってきてかなりびびった。思わず静馬の顔を見る。首を傾げる静馬にスマホの画面を見せると「ああ」と納得した顔でにやりと笑った。

 通話ボタンを押して耳にあてる。

「……なに?」
『なにじゃねえよ、お前いまどこいんだ。バイトもう終わってんだろ。母さん心配してんぞ』
「もう帰るよ」
『どこいんだって訊いてんだよ』

 怒りを押し殺した兄貴の声。何度も聞いたことがあるから、爆発寸前の苛立ちを抑え込んでいる時の声だとすぐわかった。

「ファミレス。友達と飯食ってて」
『遅くなんなら連絡しろ馬鹿』

 吐き捨てる声。いつもなら身がすくむが、今日はなぜか冷静でいられる。目の前に兄貴がいないから? 静馬がそばにいるから? 静馬とセックスしたあとだから?

 そうだ、俺は今日、兄貴の彼氏を寝取ってやったんだ。あの馬鹿、そうとも知らずに俺の心配なんかしてやがる。

「食べ終わったら帰るよ、母さんにもそう言っといて」
『自分で言え』

 通話が切れた。なにも知らない兄貴が可笑しかった。肩を揺すって笑っていたら、静馬が頬杖をついて楽しげに俺を見ていた。

「なんだかんだ言って兄弟仲いいじゃん」
「どこが」
「心配して電話してきてくれたんでしょ。仲良いじゃん」
「母さんに言われて仕方なくだよ」
「俺なら放っておくけどね」
「兄弟いるの?」
「ひとりっこ。だから薫と大介が羨ましい」
「俺はひとりっこがいい。あんな兄貴、いらないよ」
「じゃあ俺にちょうだい」
「だめ」

 俺の即答に静馬はきょとんと瞬きする。

「兄貴はあげない。俺をあげる」

 あはは、と静馬は笑った。

 食事を済ませて店を出た。駅まで歩きながらくだらない話をした。兄貴と違って偉そうじゃないし、知識をひけらかしたり俺を馬鹿にしたりしない。年上なのにそれを感じさせない。一緒にいて楽しい人だった。まだ別れたくない。もっと長く一緒にいたい。だから静馬が家まで送ってあげるという言葉に甘えた。

 一緒に電車に乗り、最寄り駅で降りた。改札を抜けた先になんと兄貴がいた。ぴたっと足が止まる。全身から血の気が引ていく。

「薫じゃん。大介くん迎えに来たの? やっさしー」

 立ち止まる俺を置いて静馬は兄貴のほうへ近づいて行く。険しい顔で兄貴が俺を睨んでいる。冷や汗が止まらない。

「なんで大介と静馬が一緒にいんだよ」
「偶然会ってね。ご飯食べてきた」

 平然と静馬が答える。兄貴は静馬をちらっと見たあと、「おい、帰るぞ」と俺に声をかけた。逃げだしたくなったがなんの解決にもならないし、逃げたところですぐ兄貴に捕まってしまう。余計怒らせるだけだからおとなしく兄貴の言葉に従った。自分の一歩が、死刑台へ続いているような気がする。

「大介くん、また今度いっしょに遊ぼうね」
「あ、はい」

 ファミレスでの威勢はどこへやら。叱られた犬のように耳を垂れ尻尾を巻いて俺はすごすご兄貴のあとに従った。もう静馬を振り返る余裕もない。

 駅の蛍光灯が遠くなる。線路沿いの道を大股の兄貴に置いて行かれないように必死について行く。踏切に捕まり兄貴は立ち止まった。その後ろに俺も立つ。

「大介」

 踏切の警報音に紛れて兄貴の声を聞き逃しそうになった。

「えっ」
「お前、あいつに何かされたか」
「なにかって」

 のどが狭く声を出しずらいと思った。心臓がでたらめに鳴り出す。背中を汗が流れるのがわかった。兄貴はなにか気付いているんだろうか。俺が部屋で兄貴のセックスを盗み聞きしてオナニーしていたと知っていたように俺が静馬とセックスしたことも勘づいているのだろうか。

 兄貴の彼氏を寝取ったことがバレたら。俺は間違いなく半殺しだ。

「あの変態に、なんもされてねえだろうな」
「……なにも! なにもされてないよ!」

 声が裏返った。嘘ついてるってまるわかりだ。ゆっくり兄貴が振り返る。その後ろをゴッと電車が走り抜ける。目を眇め、兄貴は俺をじっと見た。動悸が激しい。全身汗びっしょりだ。電車が通りすぎ警報音だけが反響している。それも前触れなく止まった。

「静馬に訊いてもいいんだぞ。あいつは口も緩いからな」

 遮断機があがったのに兄貴は前に進まない。いまここで俺の嘘を暴くまで動かないつもりだ。

 静馬は秘密を守ってくれる人なんかじゃないだろう。兄貴に訊かれたら全部ペラペラ喋るに決まってる。いま白状するのと、静馬に喋らせるのと、どちらが兄貴を怒らせないだろう。

 大きな溜息が聞こえた。

「静馬に電話する」
「待って!」

 咄嗟に止めたが次の言葉が出てこない。喋れっこないのだ。黙って待つ兄貴が不気味で俯いた。

「あいつと寝たな」

 ここが外で遅い時間だから兄貴は怒鳴らないで静かな声で言うんだろう。それが余計俺を縮み上がらせた。

「怒らねえから正直に言え」

 それ絶対あとで怒るやつじゃん。

「あいつに誘われたんだろ? バイト帰り、待ち伏せされたか?」

 はっと顔をあげた。静馬は駅にいた。待ち合わせをブッチされたと言っていたけど、あれは最初から俺を待っていたのか?

 俺の様子でわかったらしく、兄貴は前髪をかきあげながら大きく息を吐いた。

「やっぱりか。お前のこと色々聞かれると思ったら……あいつほんとイカれてんな」

 独り言みたいに呟く。

「どこまでやった?」

 兄貴の目が俺を射貫く。嘘も言い訳も通用しないときの目だ。

「ど……え、と……」
「まさか掘られてねえだろうな」

 ブンブン首を横に振った。ピクリと兄貴のこめかみが痙攣したのが見えた。

「あいつにハメたのか」

 否定も肯定もできずに俯く。

「どうせあいつの口車に乗せられたんだろ。簡単に食われやがって。突っ込める穴ならなんでもいいのか。節操ってもんがねえな。これだから童貞はよ」
「なっ、それを言うなら兄ちゃんだって……!」
「俺がなんだよ」
「男と付き合うとか……、ホモになったのかよ」
「付き合ってねえよ、気持ち悪いこと言うな。男とヤッたからってホモにはならねえよ。あいつは色々都合がいいんだよ。いつでも好きな時にヤレるし、金かかんねえし、中出ししても孕まねえしな」

 平然と言い放つ兄貴に少し安堵した。静馬のことが好きで付き合っているわけじゃないらしい。いわゆるセフレというやつ? だとしたら俺が寝取ったところで兄貴にはダメージはない。ちょっとのお叱りで済みそうだ。

 俺はどうかしてた。兄貴のものに手を出して無事で済むわけないのに。兄貴の言う通り、静馬の口車に乗せられてしまったんだ。

「くっそ、最悪だ」

 顔を歪めながら兄貴が俺を見る。

「お前と穴兄弟かよ」

 心底嫌そうに吐き捨てる。俺もそれに気付かされて思わず顔を顰めた。寝取るってことはつまりそういうことなのに、なにかひとつ兄貴より優位に立てるものを見つけてすっかり浮かれていた。

 その優位に立てると思ったことすら、意味がなかった。兄貴のお下がりの公衆便所に精液を出しただけ。冷静になればなるほど、自己嫌悪が強くなる。

 また警報機が鳴りだした。遮断機がおりるまえに踏切を渡った。

「もう静馬には会うなよ」

 前を向いたまま兄貴が言った。

「会わないよ」
「連絡先教えてないだろうな」
「教えてない」
「待ち伏せされても無視しろよ」
「わかってるよ」

 都合のいい公衆便所なのにずいぶん警戒している。そんなに俺を近づけたくないって、やっぱり付き合ってるんじゃないのか? あの変態くそビッチと。

「あ」

 俺の声に兄貴が振り返る。

「なんだ」
「あの人、3Pしたいって言ってた。兄ちゃんと俺の三人で」

 兄貴の足が止まる。怖いくらいの真顔で俺を見ている。

「あのイカレビッチの言うことなんか真に受けんな」
「あの人ほんとにヤバいよ。兄ちゃんも付き合い考えた方がいいよ」
「お前が口出しすんな」

 普段の様子に戻って兄貴はまた歩き出した。もうすぐ家だった。

 俺には静馬に会うなと命令するくせに、自分はイカレビッチとまだ関係を続ける気らしい。ずるい、と思った。俺が誰と会おうが、兄貴に指図されるいわれなんてないはずだ。

 家の前について面倒臭そうな溜息混じりに兄貴が門を開ける。俺は立ち止まり兄貴の背中を睨みつけた。脱童貞をしてちょっと成長したから? 俺は兄貴に反抗したくなった。少なくともこのまま家の中には入りたくなかった。

「俺、あの人のこと好きかも」

 深く考えず、思いついた言葉を言った。鍵を開ける手を止め、兄貴が俺の目の前に戻ってきた。

「頭ヤラれたのか?」

 と人差し指で自分のこめかみを叩く。

「あの人が会いに来たらまたホテル行くかも」
「さっきの会話はなんだったんだよ、時間の無駄かよ。手間かけさせんな」
「いらないなら、俺にあの人くれよ」

 いきなり胸倉を掴まれた。殴られる! 咄嗟に目を閉じ歯を食いしばった。衝撃を予想したのに、唇になにかが押しつけられただけだった。ぬりりとした感触に目を開けたら、目の前に兄貴の顔があった。押しつけられたのは兄貴の唇。舌が俺の唇を割って中に入ってくる。驚いた隙に舌の侵入を許してしまった。

 掬いあげるように俺を舌を絡め取り、強い力で吸いこまれた。クチュクチュ音を立てながら吸われたり、甘噛みされたり、奥まできたと思ったら歯列をなぞり、口蓋を舐めてまた舌をなぶる。静馬としたキスとは違って乱暴な噛みつくようなキスだった。

 兄貴とキスだって?!

 我に返って胸を押し返した。空いた隙間から空気を吸いこむ。

「なっ……にしてん、だよっ」

 俺の目を見つめながら兄貴が離れていく。

「今度そんなふざけたこと言ってみろ、ぶち犯すぞ」

 俺の口元の涎を親指で拭うと、兄貴はくるりと背を向け家の中に入って行った。玄関の明かりが点いたのが、扉から漏れる光でわかった。さらに「お帰り」という母さんの声も聞こえた。

「大介は一緒じゃないの?」
「もう入ってくる」

 いつも通りの兄貴の声。実の弟にあんなキスをしておいてなに平然と受け答えしてるんだ。俺はまだ中に入れないっていうのに。勃起したちんこ、どうしてくれるんだよ。



ごほうび

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接点t(3/6)

2020.11.20.Fri.


 ローションを足しながら指を増やした。内部はビチョビチョに潤い、火傷しそうなほどに熱い。ふと興味がわいて静馬の股間を見たらしっかり反り返ったちんこが見えた。

「気持ちいい?」
「いいよ、初めてなのにすごく上手だね」

 静馬の言葉に自信をもらう。指を出し入れしていたら「もういいよ」とやっと静馬のお許しがもらえた。指を引き抜き、自分のちんこにもローションを絡めた。入れたい、静馬に中出ししたい、そんな想像だけでちんこはすでに復活していた。ヒクつく静馬の穴に先端を押しつける。

「入れるよ」
「早くきて」

 男なのに、静馬の表情はとても色っぽくてエロかった。

 腰に体重をかけながらゆっくり静馬のなかに挿しこんでいく。のどよりきつい締め付けに顔を顰める。でも腰は止まらない。止められない。もっときつくて狭くて、熱く蕩けたこの肉筒の奥まで潜り込みたい。ここで何度も腰を振って陰茎を扱きたい。最後は自分の臭い付けのように静馬のなかにたっぷり精液を注ぎこみたい。

「大介のその顔、いいよ、好き」
「え、どんな顔」
「雄丸出しの、男らしい顔」

 兄貴を知ってる静馬から褒められるとすごく嬉しくなる。兄貴に勝ちたい。負けたくない。静馬に認められたい。

 根本まで嵌めこんだあと、そっと腰を引いてみた。カリがめくれ上がるような感じ。そこで静馬のなかを擦っているのがよくわかる。引いたあと、また戻した。2、3擦っただけでもう気持ちいい。これがセックスだ。恐る恐るだったピストンも、だんだん速度があがっていく。静馬の尻の穴でちんこを扱いている。手を使わない摩擦がこんなに気持ちいいなんて。これはどうしたって癖になる。兄貴が頻繁に女を連れこんでいた理由を身をもって知った。

「上手……っ、そこ、もっと擦って……俺そこ好きなんだ」

 頬を上気させながら静馬が微笑む。

「どこ? ここ?」

 静馬の様子をみながら場所や角度を変えてみる。中がビクンと反応する場所があってきっとそこだと当たりをつけて腰を振った。痙攣するように静馬の体がビクビク震える。

「ああっ……大介、そこもっとガンガン突いて。薫より激しくして」

 兄貴より激しく。ここを兄貴のちんこが擦ったんだ。それを上書きしなくちゃ静馬に認めてもらえない。褒めてもらえない。

「うっ、はあっ、あっあぁんっ、いいっ、薫のちんぽより気持ちいいよっ」

 静馬の足が腰に巻きついた。ぎゅっと足で抱きよせられる。

「兄貴のちんぽって大きいの?」
「見たいことない?」
「ないよ、見たくもないし」
「標準よりちょっと大きいくらいかな。右曲がりでね、すっごい反り返ってるからめちゃくちゃいいとこ当たんだよね。カリ高で中えぐられるし、なによりすごい硬いから気持ちいいけど体ぶっ壊されそうになるんだよね。癖になるちんぽっていうの? 一度咥えこんだら病みつきだよ」

 いやらしい顔で静馬は笑った。ちんこがさらに大きくなる。静馬もそれを感じ取ったのか、驚いた表情のあと唇を舐めた。

「大介のちんぽもいいよ、亀頭でかいし竿も太いし、俺のケツマンコ全部擦られてる感じ。一生懸命なのが伝わってくるし、かわいいよ」
「静馬のオマンコもいいよ、兄貴はユルユルマンコだって言ってたけど、ぜんぜんそんなことない。絞りとられる感じですっげえいいよ」
「じゃあもっと気持ちよくなろ」

 体を捻って俺のちんこを抜くと、静馬は四つん這いになった。シーツに顔をつけ、自分で尻を左右に割って穴を見せつける。

「後ろからきて。俺、バック好きなんだよね」

 まだ閉じ切らない穴にちんこを突っ込んだ。ヌルヌルで簡単に奥まで入る。出し入れを繰り返した。静馬の背中、後頭部、項。この景色を兄貴は何度見たんだろう。何度静馬をイカせ、何度静馬のなかでイッたのだろう。

 静馬の背中に伸し掛かった。体重を支えきれずに静馬が潰れる。

「なに? どうした?」
「あんたにもっとくっつきたいと思って」
「かわいいこと言うじゃん。おいで。キスしよう」

 首をひねって静馬がこっちを向く。俺も必死に首を伸ばして顔を近づけた。唇が触れ合う。舌を出して絡め合った。好きでもなんでもなかった静馬が急に愛しく感じた。後ろから腕を回し静馬を抱きしめた。兄貴ではなくもっと俺を感じて欲しい。兄貴と比べないで俺だけをこの体に覚えていて欲しい。

「兄貴のこと、好きなの?」
「もしかしてやきもち焼いてる?」
「もう兄貴と寝ないでよ。俺が抱いてやるから」

 俺は真剣だったのに静馬は声をあげて笑った。

「笑うな」
「ごめんごめん、大介のことは好きだよ」

 ぎゅっと尻を鷲掴まれた。

「大介のちんぽも好き。薫のちんぽも好き。俺、セックスが大好きなんだよね。竿一本じゃ物足りないんだよ、ごめんね」
「本当にビッチだったんだ」
「だから遠慮なく、俺のケツマンコいつでも使っていいよ。兄弟で俺のこと公衆便所みたいに雑に扱って精液吐き捨てて行ってよ。好きって言われるより一滴でも多く精子ぶっかけてくれるほうが俺は嬉しい」
「本物のド変態だ」
「俺の本性わかったらさ、今度薫と三人でヤんない?」
「はあ? やだよ!」

 裸の兄貴を想像したら鳥肌が立った。まったく冗談じゃない。

「考えといて。悪い話じゃないと思うんだ。嫌いは好きの裏返しって言うじゃん? 案外、薫のこと好きなのかもよ。薫のちんぽ突っ込まれてみたいって思ったことない?」
「思うわけないだろ兄弟で! もうこれ以上喋んないで、萎える!」
「それは困る」

 静馬は俺の頭を抱え込んでキスした。官能的なキスだ。萎れかけた気持ちが簡単に元へ戻って行く。静馬は腰を蠢かせた。俺も腰を動かした。床オナみたいに打ち付ける。

 兄貴が俺を抱く? 一瞬でも想像したことを後悔した。吐きそうだ。

 目の前の静馬に集中した。粘膜に包まれて俺のちんこはもう熱々に蕩けている。これ以上長引かせるのは辛い。

「俺イクかも。中出していいよね」
「いいよ、きなよ、大介の熱い精子、俺のなかに全部出しなよ」

 さっきの発言が頭をよぎる。俺はいまから公衆便所に射精するのか?

 腰を振る。肉のぶつかる音。水が弾ける音。静馬の喘ぎ声。俺の荒い息遣い。

「あ、イク……!」

 兄貴が届いてない場所まで精子を送りこんでやりたくて体重を乗せてできるだけ奥にぶちこんだ。静馬の尻に指を食いこませながら射精した。

「すご……大介の精液、いっぱい来てるよ……」

 うっとりとした表情で静馬が呟く。だらしない顔に、猛然と怒りが湧いた。ちんこを引き抜き静馬をひっくり返した。急に仰向けにされて静馬が面食らった顔をしている。

「ちんこ突っ込んでくれるなら誰でもいいわけ?」
「そうだよ」

 挑発的に静馬が笑う。この人が酷く傷つく言葉を探す。ビッチも公衆便所も、この人には効かない、ご褒美でしかない。なにも頭に浮かばず、諦めて胸に顔を埋めた。

「また甘えたモード?」

 頭を撫でられた。細く硬い指が心地よい。目の前の乳首を舐めた。赤ん坊みたいだと思いながら吸った。当然なにも出てこない。

「あんたいつからそんな淫乱なの」
「物心ついたときから?」
「どうしようもないな」

 静馬が笑って腹が揺れる。腹、ヘソにキスして、ちんこを舐めた。我慢汁がしょっぱい。

「フェラしてくれるの?」
「イラマは無理だけど」
「それは俺の十八番だから」

 ど変態め。抵抗感はわずか。亀頭を咥えこんだらもうどうでもよくなった。頭を上下に揺すって静馬のちんこをしゃぶった。

「大介の童貞食ってフェラさせたって薫に知られたら俺殺されちゃうかも」

 楽しそうな口調は、心の底ではそれを望んでいるように聞こえた。実際、そういう願望がある人なんだろう。今日俺に声をかけた時からそれを想像していたとしたら、正直俺には手に負えない相手だ。じゃあ兄貴ならできるのか? それはそれで癪だ。

「もういいよ、顎疲れただろ」

 肩を叩かれて顔をあげた。フェラがこんなに難しいとは思わなかった。イカせられなかったことに敗北感を感じつつ、最後は手で静馬をイカせてやった。



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