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君が笑った、明日は晴れ(42/89)

2020.05.14.Thu.
1話前話

 一緒に帰ろうと思っていたのに、先輩は先に帰っていた。

 下駄箱で靴を履き替える戸田さんが、「重夫なら急いで出てったよ」と教えてくれた時、嫌な感じがした。

「浦野と一緒にですか?」
「いや、一人だったけど」

 それでも嫌な気持は晴れなかった。

 翌朝、駅で先輩をつかまえ、昨日どうして先に帰ったのかを問いただしたらあっさり浦野のところへ行ったと白状した。

「どうして先輩はあいつを構うんですか」
「構って──」

 ない、と言おうとして先輩は口を閉ざした。かわりに、

「俺、弟いるから」

 と、説明になっているようないないようなことを言う。浦野が弟みたいだと言いたいんですか? 僕だって浦野と同じ年齢なんですけど。僕も弟扱いして同じように構って欲しいんですけど。

「浦野を構わないで下さい。僕が苦しいです」
「もうあいつには会わねえよ」
「えっ! ほんとですか」
「ああ」

 ホームに入って停止した電車に先輩が先に乗り込む。人混みで離れないよう僕もピッタリそのあとに続き、吊り革を持つ先輩を見上げた。

「何かあったんですか」
「何も」
「僕、嬉しいです」

 先輩は黙って、少し難しい顔つきになった。

※ ※ ※

 学校について僕は浦野の教室に立ち寄った。いなくて自分の教室に戻ろうとした時、廊下を歩いてくる浦野を見つけた。向こうは先に気付いていたようで、目の前まで歩いてくる間、ずっと僕を睨み付けていた。

「昨日、先輩と会ってたらしいね」
「それがなんだよ」
「もう二度と先輩に近づくな」
「お前には関係ない。山口さんもそう言ってたぞ」
「その先輩が今朝、もう君とは会わないって言ったんだ」
「嘘だ」

 浦野が驚いたように目を見開く。

「どうせ河中の嘘なんだろ。俺と山口さんを引き離したいからそう言ってるんだろ」
「こんなつまらない嘘はつかないよ。そっちこそ自惚れてるんじゃないの」

 カッと浦野の顔が赤くなる。

「う、自惚れてなんかない! だって俺、昨日山口さんと何度もキスしたんだ。キス以外のことだって……」

 語尾が小さくなっていく浦野の言葉は、僕には鈍器で殴られたぐらいの衝撃だった。

 キスしたって? それ以外のことっていったい何をしたんだよ!? こいつ、子供みたいな顔してとんでもない奴だ!

 瞬間的に頭に血がのぼり、思わず浦野を平手でぶっていた。

「何すんだよ!」

 頬を押さえて浦野が叫ぶ。

「ちょっと来いよ」

 浦野の腕を掴んで走るように廊下を進んだ。そのまま校舎裏の体育倉庫の前まで浦野を連れて行き、そこでようやく腕をはなした。

「何だよ、こんなとこまで連れてきて! もうすぐチャイム鳴るだろ!」
「うるさい黙れ!」

  怒鳴ると浦野は小さく飛び上がり、口を閉ざした。

「先輩と、何をしたって?」
「お前に言いたくない」

 横を向いて唇を尖らせる。言動全てが幼稚で僕をとことんイラつかせる。僕は最大限の自制心でもう一度聞いた。

「言えよ、先輩と何をしたんだ?」
「キスした」
「それから?」
「そ、そんなの人に言うことじゃない」
「先輩と寝たのか?」

 首を横に振る。少し安心した。

「じゃあ何をしたんだ」
「山口さんのを……触って……俺も触られた」
「それから?」
「それだけ、それで終わり。俺は山口さんなら構わないって言ったのに、山口さんが嫌がったから……」

 溜息のような長い息を僕は吐き出した。

 良かった。先輩が男に入れることに抵抗感を持っていて良かった。そして僕がタチで良かった。僕とのことで先輩は男同士ではウケ体質になってる。これが逆だったら先輩は浦野と……。考えるだけで切なくなる。先輩は流されやすいから、マスのかきあいで終わったのはまだマシなほうだ。

「浦野、お前さ、僕のこと好きだったんじゃないの」
「好きじゃないって言っただろ」
「ほんとに? じゃ、なんでこの前僕の教室に来たんだ」
「べつに……あれは……」
「好きだったんだろ、僕が」
「違うってば」

 首まで真っ赤になって否定する浦野の顔に手をあてた。はっと浦野が僕を見る。

「キスしよっか、浦野」
「な……何言ってんの河中」
「先輩と最後まで出来なかったんだろ、僕としようよ」
「え、なんで」
「黙って」

 驚いている浦野にキスした。するっと舌を入れる。しばらくして浦野もぎこちなく舌を入れてきた。

「ふぅ、ん」

 僕の腕を掴み、鼻から息を漏らす。浦野の気持ちが高まっていくのを確認してから口をはなした。

「僕と続き、したい?」
「俺が好きなのは……山口さんだから」
「僕とはしたくないの?」

 思い切り優しい声で言ってやった。口ごもって浦野が俯く。その顎をつかみ、上を向かせた。 

「僕が嫌い?」

 動揺して揺れる目に、微笑む僕が映っていた。

「嫌いじゃ、ないけど」
「かわいいね、浦野」
「え」

 またキスしたら浦野は僕に抱きついてきた。



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