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君が笑った、明日は晴れ(35/89)

2020.05.07.Thu.
1話前話

 もうすぐ期末考査の時期だ。

 僕は必ず学年10位以内をキープするという約束を親としている。本来合格を狙える高校より若干偏差値が下回るここを受験すると言うと親も先生も揃って反対してきた。だからなんとか説得するためにそんな約束をしたのだ。

 先輩のことしか頭になかった僕は進路のことを考えると憂鬱になって、思わず手首に刃物をあててしまうほど追い詰められていた。だから大学受験や将来のことには目を瞑って、自分のモヤモヤを晴らすことを優先した。

 なんとか説得してこの高校に来たけれど、学校の授業だけでは足らず、大学受験のために塾にも通っている。学年10位以内に入るのは容易だが、最近僕を悩ます奴がいる。

 1年5組の浦野。背は僕とかわらないくらいだから165前後。童顔で子供みたいな奴だ。こいつがこの前急にクラスにやってきて僕を呼び出した。

「俺、5組の浦野っていうんだけど」
「うん、何か用?」
「あ……、と、それだけ」

 と、浦野は名乗っただけで帰ってしまった。

 なんだったんだろう、と不思議がっていたら次の日、また浦野がやって来た。

「河中、あのさ」
「うん、何の用?」
「えーと、河中って遊園地とか好き?」
「あんまり」
「あ、そ、そっか、ごめん」

 と、また帰って行った。

 そして次の日。

「河中、映画なら好き?」
「そんなに」
「え、あれ? ほんとに?」
「うん」
「おかしいな……ごめん、また来る」

 いい加減僕は苛々してきた。

「待って浦野!」

 廊下で浦野が立ち止まり振りかえった。

「こないだから何なの。僕に何の用? 嫌がらせ?」
「ちっ、違うよ! 俺、お前と仲良くなりたくて……」

 赤い顔をして言いわけをする浦野を見てようやく合点がいった。こいつ、僕のことが好きなのか。

 自分で言うのもなんだけど、僕は女からも男からもけっこうモテる。こんな場面には慣れているからさっさと振ってしまおう。そう思うのに、こいつは肝心な言葉を言わないから振りたくても振れない。

「なんのために僕と仲良くなりたいの? 仲良くなってどうしたいの」

 こうなったら無理矢理言わせてやる。

「仲良くなれたら……俺はそれだけで、いい」

 語尾が小さくなっていった。それだけでいいと思ってないってバレバレなんだけど。はっきりしない奴は面倒で困るな。

「もしかして僕のこと、好きなの?」

 浦野は耳まで顔を赤くして絶句した。

「あ……、俺」

 じりじりと後ろへ下がっていく。待て、逃げるな。

「浦野っ」

 止める僕より早く、浦野は走り去ってしまった。小さくなっていく後姿を見ながら溜息をついた。

 面倒くさい奴に好かれちゃったな。

 と、期末考査を前にして僕は悩みのタネを一つ持つ事になってしまったのだ。

 そのことを放課後、駅へ向かう道中先輩に話した。

「少しは嫉妬します?」
「するか馬鹿」

 にべもなく言い捨てる。浦野もこのくらいはっきりいってくれたら助かるんだけどなぁ。っていうか、先輩、少しは嫉妬してくださいよ。

「お前さ、映画は好きだったんじゃないのか? 前に一度いっしょに見にいったろ」
「好きですよ。でもいっしょに見る相手によります」

 横を向いて先輩が舌打ちした。なんで?

「何だったらその浦野って奴と一緒に出かけてもいいと思う?」
「何でも嫌ですね」

 なぜか先輩に睨まれた。どうして?

「もしかして先輩、僕と浦野がうまくいけばいいと思ってます?」
「思ってる」

 へたに聞くんじゃなかった。ちょっと傷つく。

「僕が好きなのは先輩だけですから。他の誰かになびくなんて100%ありません」

 先輩は苦虫を噛み潰したような顔をした。

 翌日、浦野は僕のところへは来なかった。このまま僕のことを諦めて忘れてくれたらいいのだけど。



BLUE BIRD. D.S.P ROMEO SIDE SOL


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