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君が笑った、明日は晴れ(2/89)

2020.04.04.Sat.
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 休み時間、廊下を走る足音が近づいてくる。それを聞きつけた重夫の顔が難しい顔つきになっていく。

 ガラリと扉が開き、 1年の河中が教室に姿をあらわした。

 可愛い顔を赤く染めた河中の目が重夫を探す。見つけた途端、顔に笑みが広がった。

「先輩!」

 教室に響き渡る声。みんなの視線が河中に集まった。

「河ちゃん、今日も可愛いねぇ。頼むから1回やらせて」

 下品なからかいに困った笑顔を浮かべ、河中はまっすぐ重夫の席へ。頬杖をついて顔を逸らしている重夫の前に立ち、「先輩、お昼食べに行きましょう」と声をかけた。

「俺は戸田と行くから」

 そっけない返事。河中はしゃがんで重夫と顔の高さを合わせた。

「じゃあ3人で行きましょう。いいですよね、戸田さん」

 と、俺を仰ぎ見る。ああ、本当に可愛い顔をしている。

 子供みたいに肌もきれいで、走って来たせいで頬は上気してピンク色。笑う唇の間から覗く白い歯。これで胸があれば、本当に女の子に見える。

 どうしてこんなに可愛い子が男なんだろう。どうして、こいつは俺じゃなくて重夫に懐いてるんだろう。重夫が羨ましくて仕方がない。

「戸田さん?」

  ぼんやり顔を見つめる俺をいぶかしんで河中は首を傾げた。そんな仕草も可愛い。

  河中は重夫のことは「先輩」と呼ぶ。 それ以外は名前にサン付け。俺も河中から「先輩」と愛情こめて呼ばれてみたいもんだ。

「俺は構わないよ、むしろ河中君がいてくれた方が飯もうまくなるしね」
「おい、戸田」

 咎める目で重夫が俺を見る。いいじゃないか、本当のことだ。重夫と顔を突き合わせて食う飯より、河中の顔を見ながら食う飯のほうがうまいに決まっている。

「じゃ、行きましょう。食堂いっぱいになっちゃいますよ」

 動かない重夫の腕を持って立たせる。そのまま腕を組んで歩こうとするのを、重夫はうるさそうに振り払う。なんてもったいないことを。

 俺も男子校に一年いて感覚が麻痺しているのかもしれない。入学したての河中に声をかけた宮本の気持ちがよくわかる。

 その宮本は河中を取り合って重夫とやりあい、重夫に負けて今はおとなしくしている。それでもたまに校舎ですれ違うことがあると、重夫のことをすごい目つきで睨んでくるから、あれは相当恨みに思っているに違いない。

 食堂へ向かう道中、河中は楽しそうに一生懸命重夫に話しかけている。重夫はポケットに両手を入れ、河中から顔を背けて「ああ」とか「うん」とか気のない返事。もっと優しくしてやれよ。河中がかわいそうじゃないか。

  同じ中学のバスケ部(と言っても短い期間だったらしいが)。重夫が河中にドリブルの仕方を教えた。ただそれだけでこんなに可愛い後輩から慕われているのに、重夫は何が不満なのかと思う。

 俺も河中からあんなふうに笑いかけて欲しいもんだ。とりあえず今は重夫のそばにいてそのおこぼれで我慢するか。

「河ちゃんは本当に重夫が好きなんだね」

 俺がそう言うと河中はびっくりした顔で俺を見て、

「中学の時から憧れの先輩でしたから」

 顔を赤くして笑った。

 かわいい……! 胸がキュンとなったぞ。なんか久しく忘れていた感覚。

 俺が重夫だったら、間違いなく間違いを犯しているな。

 ああ、本当にかわってくんないかな。




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