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三食ゲーム付き(1/3)

2020.03.27.Fri.
 先日、発売されたばかりのRPG。不眠不休でがんばった甲斐あって、レベルMAXでラスボス戦。卑怯な呪文でパーティが全滅しかけたが、なんとか勝利を収めてエンディングまで辿りついた。

 俺はレベルを上げる作業が大好きだ。何時間でも厭きることなくやり続けられる。レベル上げを請け負う会社があったら、俺はそこに就職したい。

 コントローラーを床に置き、立ち上がった。長時間の胡坐のせいで膝が少し痛んだ。

 一階におりた。親は共働きで家には誰もいない。しんと静まり返ったキッチンで湯をわかし、カップラーメンに注ぐ。これが俺の朝食兼昼食兼、三時のおやつ。いつの間にか16時前だった。

 出来上がったカップラーメンを食べ終わると部屋に戻り、ゲームをセーブしてからシャワーを浴びた。

 次は攻略本を見ないでプレイしよう。一度目は攻略本を見ながら完璧にプレイする。二度目は本なしで遊びながらプレイする。それが俺のやり方だ。

 風呂からあがり髪を乾かす。二階に戻ろうとした時、玄関のチャイムが鳴った。当然、無視する。俺は電話にも出ない。またチャイムが鳴った。

 しつこいな、と睨んだ玄関から、扉を叩く音と俺を呼ぶ声が聞こえた。

「おーい、杉村、いるんだろ? 僕だ、前田だ、開けてくれよ」

 同じクラスの前田。無意識にチッと舌が鳴った。

 前田とは中二の時も同じクラスになったことがある。女子からうける美少年顔だったが、引っ込み思案で根暗な印象。成績は俺に次いで良かったが、明るいとは言えない性格のせいで、男子からは相手にされない奴だった。

 似たような成績だったから同じ高校に進学した。たまたまクラスも同じになった。

 高校に入ってすぐ、俺は登校拒否を始めた。何もかもがくだらなく思えたのだ。毎朝制服を着て、時間を気にしながら登校し、号令がわりのチャイムによって行動を縛られ、その場限りの上っ面な友情ごっこに飽き飽きしてしまったのだ。集団という一個に自分が取り込まれ埋没する――吐き気がするほどの嫌悪感だった。

 これなら家でゲームをしているほうがマシだ。だから俺は学校に行くことをやめた。

 そういえば、俺がまだ学校に行っていた最初の頃、同じクラスになった前田が話しかけてきたことがある。

「僕たちまた同じクラスになれたね」

 なぜか嬉しそうに笑っていた。しばらく見ない間に、前田は人の目を引くほどの男前になっていた。髪の手入れもしていて笑顔も絶やさない明るい奴にかわっていた。

 打って変わって俺は、一日中机に突っ伏して寝ているような暗い奴になっていた。誰も俺に話しかけてこない。気にもかけない。俺は教室に在って無いような存在だった。前田だけが、やたらと俺に話しかけてきた。

 お節介な前田に返事をすることが面倒臭かった。優等生気取りの正義感が鬱陶しかった。だから返事をすることもやめてずっと無視していたら、クラスメイトの俺への評価は最悪なものになっていた。そんなこと、どうでもいいが。

 学校に行かなくなってから、前田は家にやってくるようになった。母親がいる時は母親が対応した。いない時は居留守を使って無視した。俺に会えないのに、あいつは懲りもせず週に二度は俺の家にやってくる。必要のないプリントや、ノートのコピーを届けにくる。担任からはすでに見放されているのに、前田だけがしつこい。

 前田がそこまでする理由――ひとつだけ、思いあたることがある。俺と同じ町内に住んでいる伊藤沙希が目当てなのだろう。中学三年の時、俺と伊藤は同じクラスだった。卒業間近な放課後、忘れ物を取りに戻った教室で、違うクラスの前田が伊藤の席に座り、うっとりした顔で机に頬ずりしているのを目撃してしまった。すぐ引き返したから、前田は俺に見られたとは気付いていないはずだ。前田は伊藤に会える偶然を期待して、俺の家にやってくるのだ。

 下心を見透かされていると知らない前田は、表でまだ大声を張り上げている。

「おーい、杉村! 今日は大事な話があるんだ、いるんだろ? 顔出してくれよ!」

 近所迷惑な大声で俺を呼ぶな。

 今回はすんなり帰ってくれなさそうな気配だった。仕方なく玄関に向かい、扉を開けた。

 前田が俺の顔を見て相好を崩す。半開きの扉を強引に開いて、断り無く玄関に入ってきた。

「今日はお母さん、いないの?」

 と、俺の肩越しに奥を覗きこむ。

「いねえよ。なんの用だ」
「杉村の部屋に行ってもいい?」
「断る」
「今日はほんとに大事な話があるんだよ。長くなるから……ね? いいだろ?」
「嫌だ」
「用件が終わったらすぐ帰るから」

 前田は靴を脱ぐと勝手にあがりこんできた。

「おい、前田」

 止める声を無視して階段をのぼっていく。その背中に舌打ちしながら、俺もあとに続いた。

 部屋に入った前田はあたりを見渡し「ここが杉村の部屋かぁ、案外綺麗に片付いてるんだね」と感心した様子で言った。母親を入れないかわりに、掃除はこまめに自分でしている。埃にまみれた生活なんてごめんだ。

「用件は?」

 俺が言うと、テレビの前に座った前田は鞄を手繰り寄せた。俺も前田の正面に腰をおろした。

「これ、修学旅行のパンフレット。それと、授業のコピー」

 前田が差しだしたパンフレットには沖縄の文字。うちの高校は一年の時に修学旅行がある。今年は沖縄のようだ。

「行かない」

 突き返したら腕を掴まれた。

「そろそろ修学旅行の班作りとかあるから、学校に来て欲しいんだ」
「俺は学校にも修学旅行にも行かねえよ」
「駄目だよ、来てよ。杉村と一緒に行きたいんだ。同じ思い出を持ちたいんだよ。せっかく同じクラスになれたんだ、せめて今年だけでも学校に来てよ」
「嫌だ」
「行くって言ってくれなきゃ、これから毎日家に来るよ」
「迷惑だ」
「それが嫌なら学校に来てくれる?」
「どうしてそこまでする?」
「それは……」

 口ごもった前田は頬を赤くして目を伏せた。

 高校生の前田は、ソフトな外見、明るい性格で、男子からも女子からも好かれていた。清潔そうな面にみんなが騙されていた。こいつは好きな女の子の机に頬ずりするような奴だ。俺はすぐその場を離れたから見ていないが、もしかしたらあのあと、頬ずり以上のことをしていたかもしれない。登校拒否の俺を心配する振りをして、伊藤の家のまわりをウロつくような奴だ。どんな変態的な欲求を隠し持っているかわかったものじゃない。

 その口実に俺が使われるのは我慢がならなかった。

「バレてるぞ」
「えっ」

 前田が顔をあげた。

「中三の時、誰もいない放課後の教室でおまえが机に頬ずりしてるの、見たんだ、俺」

 前田の顔がみるみる赤くなっていった。焦点の合わない目が挙動不審に揺れ動く。見るも不様に動揺する前田を、俺は冷静に眺めていた。

「おまえの下心はとっくに気付いてた。だからもう、親切面してお節介焼くな」
「あれ……見られてたんだ……」

 神経質な仕草で襟足の髪を撫で付ける前田は、中/学生の頃に戻ったような控え目な佇まいだった。

「だったら言い逃れ出来ないね。あんな形でバレちゃうなんて恥ずかしいな。僕を……軽蔑する?」

 窺うように俺を見てくる。確かに、伊藤の机にうっとり頬ずりしているのを見た時は気持ち悪い奴だと思ったが、軽蔑するほどじゃない。

「別に」

 俺の返事を聞いた前田は、安心したようにほっと息を吐いた。

「実は中学二年の時から好きだったんだ。しつこいよね、僕なんかに好かれたって迷惑だよね」

 と自嘲するように笑う。どうして俺が前田の恋の相談に乗ってやらなきゃいけないんだ。

「さあな、嬉しいかもよ」

 投げやりに答えた。

「えっ、う、嬉しい?」

 前田は目を輝かせて俺に詰め寄って来た。こいつは自分が女子から格好いいと騒がれている自覚がないのだろうか。謙遜にしてはわざとらしすぎる。

「見た目はいいんだし、頭だって悪くない。おまえから好かれて迷惑に思う奴は少ないんじゃないか」
「そ、それってつまり、OKってこと?」

 そこまで知るかよ。興奮して俺の手を握るな。

「ちゃんとした返事が知りたいなら告白してこいよ」

 俺の手を痛いほど握り締めていた前田が急に両手を広げて抱きついてきた。いきなりのことで反応が遅れ、俺は押し倒されるように後ろへひっくり返った。その時、後頭部を床にぶつけた。痛みに顔を顰める俺に耳に、「好き、好きだ、杉村」と言う前田の声が聞こえた。

 好き――俺が? こいつは何を言ってるんだ?

「待て、おまえが好きなのは伊藤だろ? 俺に告白してどうする」
「伊藤? 誰それ?」

 肘をついた前田はきょとんと首を傾げた。この場面で白を切るのか。こいつの思考回路はめちゃくちゃだ。

「おまえが頬ずりしていた机の持ち主だ」
「僕が頬ずりしたのは杉村の机だよ」
「何を言ってる。あれは伊藤の――」
「あぁ、そっか、そうだった」

 前田は俺の言葉を遮り、思い出したように言った。

「最初、席を前後で間違えちゃったんだ。杉村が見たのは、僕が間違えて前の席に座ってる時だよ」

 前の席? 間違えた? 俺と伊藤の机を――? あぁ、そういえば、伊藤と席が前後したことが一度あった気がする。中三も終わりの頃だった。確かに頬ずりする前田を見た時期と一致する。じゃあ、こいつは本当に伊藤じゃなく、俺の机に頬ずりしていたのか? 世にも幸福そうな顔で?

「俺が好きなのか?」
「好き、大好き」

 満面の笑顔で前田は頷く。こいつの目当ては伊藤ではなく、そのまま俺だったのか。

「男同士なのに?」
「杉村が男でも女でも関係ない」

 と、目を伏せた前田の顔がおりてきて、お互いの唇が触れ合った。前田は角度をつけて、俺の口に唇を押しつけてくる。熱くぬめったものが俺の唇をこじ開け中に入ってくる。

「舌、入れんな」

 前田の体を押しのけた。

「人の口、犬みたいにベロベロ舐めてんじゃねえ」
「だって好きなんだもん」

 胸を押す俺の手を掴んで、前田はまた顔を近づけてきた。顔を背けた俺の頬に、前田の唇が押しつけられる。

「俺はおまえのことが好きじゃない、はなれろ」
「さっきはあんなに思わせぶりな態度とったくせに」
「どこが――、お前の好きな奴が伊藤だと思っていたからだ」

 追いかけてくる前田の口から逃れながら言った。いつの間にか両手首を捕まれ、床に押さえ込まれていた。ひ弱な印象があった前田なのに、背丈も体重も俺より上回っていた。体勢の不利を差し引いても、今の俺じゃ前田に敵わない。




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