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恋人宣言(1/2)

2019.12.13.Fri.
<視線の先><ターゲット><奇跡>

 思い付きで「好き」と言った日から、木原は調子に乗りまくりだ。俺の嘘だとも知らずに。彼氏面にも拍車がかかる。今日も部屋へやってくるなり「ただいま」って俺にキスしてきた。

 そもそもここはお前の家じゃないし俺の家だし。ただいまおかえりと言い合う意味がわからない。でもまだ木原のことを好きだと演技中だから、ありがたくもないキスを受けるし「おかえり」とも言ってやる。

「そういえば恩田はどうすんの?」

 コンビニで買ってきた飲み物を勝手に人んちの冷蔵庫へ入れながら木原が振り返る。

「どうするとは?」

 主語を抜かして会話を始める奴は総じて自分勝手な馬鹿野郎だと思っている。

「同窓会。案内のハガキきただろ」
「え、知らない」
「実家に届いてんじゃない」

 木原は鞄からハガキを取り出して俺に見せた。○○高校××年度卒業生の皆さん!という見出しの案内状。木原の言う通り実家に届いているのかもしれないが、友達と呼べる人間がいなかった俺がこんなもの行くわけない。

「木原くんは行くの?」
「行かねえ。だるい」

 木原はずっと野球に青春を捧げて来てのに高校最後の年、後輩にポジションを奪われた。勉強を口実に早々に引退して、かつての仲間からは腫物扱いされていた木原が、過去の自分と向き合う場所へは行きたくないだろう。野球からも仲間からも冴島からも逃げるような弱虫野郎に、そんな勇気があると思えない。

 そういえば冴島は来るんだろうか。卒業後、プロへと進んだ冴島は一年目からテレビをにぎわす大活躍だった。夜のスポーツニュースで、爽やかなまま変わらない冴島をよく目にする。

 もう俺なんかが手の届かない遠い存在になってしまった。おかげで、わざわざストーキングしなくても、冴島の姿はテレビで見ることができる。

 木原はどういう気持ちで画面に映る冴島を見ているんだろう。好きだという気持ちを伝えず、手近なところにたまたまいた俺なんかで手を打って、早まったと後悔したことはないんだろうか。

 俺のことを好きだと言ったけど、本当はまだ冴島のことが好きなんじゃないだろうか。これは純粋な好奇心と、俺の復讐に必要な情報だ。俺のことを本気で好きにさせてから最高のタイミングで木原を振ってやるという、計画のため。

「俺、行こうかな。木原くんも行こうよ」

 俺が誘うと木原は顔を顰めた。

「お前、同窓会とか行くタイプじゃないだろ。友達一人もいなかったくせに」

 一言余計なんだよ。

「死ぬまでに一回行っておくのもいいかと思って」

 少し考えたあと、木原は「同窓会でボッチとか悲惨だろ。お前の付き添いで行ってやるよ」と恩着せがましく言った。

 その後、自分ちみたいに完全にくつろいだ木原はうちでご飯を食べ、セックスして、当然のように泊まって行った。

 朝一の講義のため俺より先に出る支度を終えた木原が「行ってくる」と布団にくるまる俺のデコにキスした。

「い、行ってらっしゃい」

 ぎこちなく言う俺に、木原は朝から蕩けたような笑みを残して部屋を出て行った。俺が木原と偽りの恋人になって半年が経っていた。

 ~ ~ ~

 同窓会には普段着で行くつもりだと言うと、呆れ顔の木原に店に連れて行かれた。せめてジャケットは着ろと、木原に言われるまま試着したら「七五三かよ」と笑われた。ないよりましと購入したジャケットを着て、木原と一緒に会場のホテルへ向かった。

 受付を済ませる前から、木原は誰かに呼び止められた。俺にも見覚えのある面々。おそらく元野球部だ。冴島の盗撮をしていた頃、トリミングしたなかにこんな顔の奴らがいた気がする。

 卒業して二年も経つと、赤の他人が抱える悩みや問題なんか忘れてしまうものなんだろう。元野球部の奴らは「久し振りだな!」とクスリでもキメてんのかと疑いたくなるテンションで木原に絡んでいった。適当に受け流す木原のことが大人に見えたくらいだ。

 元野球部のジャンキー共はチラと俺を見たが、誰だか思い出せないようで見て見ぬふりをした。俺だってお前らなんか知らない。

 受付をし、会場へ入ったあとも、木原は5分と経たず、誰かから声をかけられた。元野球部の奴ら、元クラスメートの奴ら。どいつもこいつも、卒業後木原の口から名前を聞いたこともないような奴らなのに、旧知の仲のように馴れ馴れしい。

「冴島が来てるぞ」

 野球部の誰かが隅の人だかりを見ながら言った。何事だと思っていたが、あの人垣の向こうに冴島がいるらしい。まさか来るとは思わなかった。プロの野球選手になった冴島が、騒ぎを承知でたかが高校の同窓会なんかに顔を出すとは。

 冴島の名前を聞いて、木原は一瞬顔を強張らせた。

「あとで行ってみるわ」

 とその場は躱したが、まだ飲んでるドリンクの存在を忘れて新しいドリンクを手に取った行動に動揺が見られた。名前を聞いただけでこのうろたえよう。俺を好きだと言っておいて本当はまだ冴島を意識しまくっている。

 冴島を取り囲む人だかりはなかなか減ることがなかった。それを恨みがましく睨む女が数人。懐かしい、冴島の親衛隊の奴らだ。さすがに卒業後の同窓会でまで大きな顔はできなかったと見える。

 せっかく安くない会費を払ったのだから腹いっぱいにして帰ろうと、俺は木原から離れて皿に料理を盛った。木原はいまクラスメートだったらしい女3人に囲まれている。

 180センチ以上身長があって、顔も不味いわけじゃない、かつては野球部レギュラー、しかも冴島の親友ポジションだった木原のことを一方的に知っている女も多い。奴らの手元にはスマホ。フルフルして連絡先を交換している。

 木原のスマホにはずらっと知らない名前が並んでいる。LINEのやりとりも複数人と頻繁。つまんない話をしてる暇があったら勉強しろよと言いたい。

 一画がざわっと騒がしくなった。見ると冴島のいる場所で、元野球部たちがガードするように取り囲んでいる。誰かが「野球部集まれ!」って声をかけた。

 数人が声のかかった方へ向かう中、木原は動かず、スマホを見ていた。絶対聞こえてるだろ。この期に及んで聞こえないふりをするとか子供か。

「木原、お前もこっちこい」

 見逃してもらえるはずもなく、名指しで呼ばれ、木原は仕方ないって諦めの顔でスマホをポケットに戻して野球部の輪へ向かった。かつて苦楽を共にした仲間同士、肩を叩いたり熱く抱擁しあったり。

 適当に周りに合わせていた木原の前に、冴島が立った。木原もガタイは良い方だが、やはりプロ野球選手と比べると平凡な体つきだった。親友同士の再会を無関係な奴らも感動の眼差しで見守る。

「木原」

 久しぶりに聞いた冴島の生の声。ずっと追い続けてきた日々を思い出して鳥肌が立った。

「冴島」

 木原の声は、らしくなく弱々しい。

 冴島はくしゃっと笑うと木原を抱きしめた。木原も冴島を抱き返す。冴島の肩に顔を埋める木原の体が小刻みに震えているように見えた。もしかしたら木原は泣いているのかもしれない。冴島は高校生に戻ったような笑顔で木原の頭をガシガシと撫でた。

 ただ、見つめ合い、名前を呼び合っただけで。2人はそれだけで疎遠になっていた溝を飛び越え、分かり合い、一瞬で親友だった昔に戻ったのだ。

 木原は俯いたまま目許を拭った。やはり泣いていたらしい。他の奴らも嬉しそうに木原と冴島の体を叩く。その間ずっと二人は肩を組んだままだった。

 野球部の奴らは最後に円陣を組んだ。野球部伝統の掛け声を会場に響かせたあと、また二人は抱き合った。他の参加者たちから拍手が湧きあがる。なんだこの茶番は。

 今までのわだかまりなんか忘れたみたいに、いやその分を埋めるみたいに、木原と冴島の距離は近い。顔を突き合わせ、額を擦りつけあって、ベタベタしている。冴島がドストレートだって? 案外、その気があるんじゃないのかと疑いたくなるイチャつきぶりだ。

 泣いたことを冴島に慰めrられ、からかわれ、木原も満更じゃない顔だ。デレデレしやがって。

 食欲が失せた。料理で山盛りになった皿をテーブルの端に置いた。

 これではっきりした。木原はまだ冴島が好き。俺を好きだと言ったのは気の迷い。いや、ホモセックスできる無料の肉便器を手に入れるための嘘。ただのでまかせ。

 恋人ごっこの期間が思いがけず長引いたから、本気かも、なんて一瞬でも真に受けてしまった。危ない危ない。木原が俺に優しかったりしたのは、都合のいい肉便器を逃がさないため。恋人同士みたいな言動も、肉便器に情が湧いただけ。

 写真撮影するぞ、って幹事が叫んでたけど、無視して会場を出た。そのまま電車に乗って家に帰った。その間、俺のスマホはうんともすんとも言わなかった。俺がいなくなっていることに、木原は気付いてもいないだろう。気付いた時にはもう遅い。




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