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苦い珈琲(2/2)

2019.12.02.Mon.
<前話はこちら>

 水沢に手を引かれ、引きずられるように店を出た。離れる店の窓から、中で茫然としている前島が見えた。

「待て、水沢、おまえなんでここに? いつから?」

今日はせっちんたちと遊んでるはずだろう?

「先生のあとつけた」

 あっけらかんと水沢が言う。

「ど、どうして」
「昨日、俺が帰るとき先生の電話鳴ってたじゃん。部屋でてからなんか気になって、実は盗み聞きしてたんだよね。虫の知らせってやつかな。そしたらなんか訳ありっぽい感じだし。待ち合わせしてるし。これもう尾行しなきゃダメでしょ」
「友達と遊ぶ約束してたじゃないか」
「恋人の一大事に、友達と遊ぶわけないじゃん」

 俺を優先してくれた。不謹慎にも嬉しくなってしまう。

「さっきの、先生の前の彼氏?」
「え、ああ」
「俺と正反対のタイプ。先生ってほんとはああいうのが好きなの?」
「そういうわけじゃない。あの頃は俺もまだ若かったから年上の男に惹かれただけで、あいつがタイプとかいうわけじゃ」
「そ。良かった。先生はいま俺にぞっこんだもんね? 後ろの席で全部聞かせてもらったよ。なんで俺じゃなくあいつに言うのか意味わかんないけど。なんでも俺にしてあげたくなるんだよね? じゃあしてもらおうかな」

 細い道を何度か曲がって、水沢はホテルの前で立ち止まった。

「言っとくけど、黙って元彼に会いに行ったこと、俺めちゃくちゃ怒ってるから」

 店のなかで見せたようににこりと笑う。嫌な予感に冷や汗が止まらない。

 ~ ~ ~

 部屋に入るなり、水沢は俺に「フェラして」と言い放った。言われた通り跪いてフェラをする。

「飲んでね」

 俺の頭を押さえこみ、喉の奥で射精した。噎せる俺をひっぱり立たせ、ベッドに突き飛ばす。うつ伏せの俺に、水沢が跨る。

「水沢、俺が悪かった。謝るからっ」
「なにが悪いかわかってんの?」
「わかってる、お前に黙って行くべきじゃなかった」
「わかってないよ、先生」

 下着ごとズボンを脱がされた。腰を持ち上げられ、尻たぶを左右に割られた。その奥へ水沢は舌を這わせた。

「水沢!」

 羞恥と驚きから大きな声が出る。水沢は構わず舐め続ける。指で触られることはあっても、舐められたことは人生初で、恥ずかしさと申し訳なさで精神的死亡を体験する。

「水沢っ、いやだ、やめろ!」

 ずぞ、と中に舌が入ってきた。ゾゾゾ、と体に震えが走る。嫌悪ではない。真逆のものだ。指のように固くなく、ペニスのように太くもない。軟体の温かいものが形をかえてこじ開けてくる。柔らかな舌先がなかの壁をなぞっている。周辺に水沢の熱い息遣い。

 これ以上ない、罰だ。

「俺が悪かった! だから、頼む、やめ……ッ……あっ、いやだ、水沢……!」

 俺の頼みを無視して水沢は続ける。さらに前を手で弄られて、勝手に涙が溢れてきた。

「いやだ、ああ、水沢、頼む、俺が悪かったからっ、もう止めてくれ」
「あいつは先生のここ、舐めたことあんの?」
「あるわけない! あいつはそんなこと俺にしたことない!」
「満足したことないんだっけ? 俺とのセックスはどう? 満足できてる?」
「見ればわかるだろ……!」

 首をひねって水沢を睨む。俺の泣き顔を見て水沢は笑顔になった。

「俺まだ怒ってんだよ。先生が男と付き合ってたなんて知らなかったし、俺とぜんぜんタイプ違うし、俺に黙って会いにいくし。なに口説かれてんの? 襲われたらどうすんだよ。もっと危機感持ちなよ。先生って俺の彼氏じゃないの?」

 ローションで濡らし、指を出し入れしながら水沢がもっともな不満を言う。

「ごめん、俺が悪かった! あいつのことは言うタイミングがなかっただけで、隠してたわけじゃないんだ」
「ふーん、でも俺に黙って会いに行くんだ?」

 ぐりぐりと中で指が回転する。

「じゃないと、うちに来るっていうから仕方なく……っ」
「強引にされてたら今頃あいつとホテル行ってたんじゃない? 先生押しに弱いから」
「そんなことあるわけないだろっ」
「どうだか」

 と言いながら俺の前立腺をこりこりと刺激する。腰が勝手に跳ねあがる。

「お、おまえだって悪いんだぞ!」
「俺が? 逆切れですかー? 責任転嫁やめてくださーい」
「昨日もバイトが入ったからって帰るし、今日も友達と遊ぶって言うし、俺のことほったらかしにしてただろ!」
「ほったらかしにしてたわけじゃないよ。俺がなんのためにバイト頑張ってたと思ってんのさ」
「友達と遊ぶためだろ!」

 やけっぱちに喚いたら「こら」と尻を叩かれた。痛い。

「それ本気で言ってんの? だとしたらまじで怒るよ」

 体をひっくり返された。真剣な眼差しの水沢が俺の顔を覗きこむ。

「もう怒ってんじゃねえか」
「今までのは怒ってるフリだし。プレイだよ、プレイ」

 どういうプレイだ。

 優しい苦笑を浮かべながら、水沢は俺の涙を拭った。

「高校卒業したら一緒に暮らそうって俺言ったよね? 先生のワンルームじゃ狭いから、もっと広いとこ探そうと思って、その資金貯めるためにバイト頑張ってたんだよ。そりゃたまに友達と遊ぶこともあるけどさ、俺が誰より優先してんのは先生のつもりだよ」
「一緒に暮らす話、覚えてたのか」
「言い出したの俺だし忘れるわけないじゃん。先生こそ、忘れてただろ」
「ずっと覚えてたし、ずっと待ってた。金なら俺が出すのに」
「だろー。そう言われると思ったから黙って金貯めてたの!」

 水沢は俺の足を割り開き、その中心へ亀頭を押し当てた。

「最近先生のこと構ってあげらんなかったことは俺も自覚あるから謝るよ。大学生って意外と忙しくて時間なくてさ。バイトは目標金額貯まったから回数減らすつもり。今まで我慢してたぶん取り返すからそのつもりで覚悟してよ、先生」

 ずぶ、と固くて太いものが中に入ってくる。俺を死ぬほど満足させるものだ。その予感と期待に体中に甘い痺れが走る。

「は──ァ……ああ──ッ!!」
「え、うそ、もうイキそう?」
「い、あ──ッ、まだ、動くな……!!」

 白い閃光が見えた。体が硬直する。

「きっつ……! 先生、もうイッたの? 早くない?」

 すさまじい快感に脳みそがショートしたようだ。水沢の問いに答えられない。快感が波紋上に体の隅々へ広がって行く。それをやり過ごすことで精一杯だった。

「先生、大丈夫? すっごい締め付けてくんだけど」

 水沢と目が合った瞬間、また強烈な快感がぶり返して体に力が入る。制御できない。

「先生、きついって。もしかしてまたイッてる? ドライ? 止めらんないの?」

 声にならない。何度も頷いた。イキ続ける感覚が続く。それが怖くてまた涙腺が緩んだ。

「───ハアァッ……! みず、さわ……ぁ……ああ……!!」
「大丈夫、動かないから、安心していいよ」

 優しい手が俺の頭を撫でる。年下の元教え子にあやされている。なのにこの上なく安心する。

 何度も大きく息を吐いた。体から無駄な力が抜けていく。そして自覚する。自分でどうしようもないほど俺は水沢のことが好きだ。

「水沢、好きだ、すきっ……!!」

 しがみついて繰り返し言う。

「わかってる、俺も好きだよ、先生」

 この声も温もりも、手放すことなんてできないだろう。想像しただけで恐ろしい。
 
「もう、動いていいぞ」
「いいの? もう少し待った方がいいんじゃない?」
「一緒にイキたい。俺のなかに欲しい」
「先生、どんどんやらしくなるね」
「誰のせいだ」
「俺のせい?」
「他に誰がいる」

 キスをする。水沢の舌が熱い。お互いの口腔内をまさぐり合い絡め合う。ゆっくり水沢は腰を動かした。さっきみたいな正気を失うほどの快感はこない。じっくり体を熱くするような気持ちよさが広がって行く。

「先生、気持ちいい?」
「いいっ、気持ちいいっ」

 確かめられて素直に頷く。気持ちいいと、言葉にする。心身ともに満たされる。こんなに幸せでいいのかと思う。

「んっ、ああっ、もう、出るっ……水沢も、一緒に……きてっ」
「うん、一緒にいこう、先生」

 激しめに揺さぶられた。強い摩擦。昇り詰める感覚。奥に熱い迸りを感じながら、俺も水沢の名を呼んで果てた。

 ~ ~ ~

「明日、一緒に不動産屋行こうよ。部屋探しに」

 ホテルを出て、俺の家へ2人で向かう。その道中、水沢が言った。迷いは一瞬で消えた。俺はもう水沢がいないと駄目だ。だから水沢の将来だとか考えるのはやめて、自分勝手になることにした。

「本当にいいのか? あとで後悔しても遅いぞ」
「同棲嫌だって言っても、むりやりするけどね俺は」
「一緒に暮らしたら今以上に束縛して鬱陶しくなるぞ」
「先生こそ、俺に隠れて誰かに会えるなんて二度と思わないでね」

 上等だ。一生水沢を離す気なんかないし、離れてやる気もない。

「ついでにお墓も探す?」

 水沢の言葉に吹きだした。笑いが収まらない。やっぱり水沢はエスパーだ。俺が望む以上の言葉をくれる。水沢に気付かれないよう、目尻の涙をそっと拭った。




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