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うすらひ(17/18)

2019.11.04.Mon.
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 カーテンをあけたら笑ってしまうほどの快晴だった。朝食をとり、そのあと洗濯機を回し、部屋に掃除機をかけても集合時間にはまだ余裕があった。

 結局俺は若宮に誘われてボーリングに行くことになった。前日になって、参加予定だった1人が都合で行けなくなり、すでにボーリング場には参加人数を伝えて予約をしてあるから久松さん行きませんか、と喫煙ルームまで追いかけてきた若宮に再度誘われた。

 一度は断ったが、なんだかんだ話しているうちに気が変わった。

 若宮は人の心を動かす話術を心得ている。部長の言う通り、仕入れ担当か販売が若宮の天職かもしれない。

 のんびり準備をして、少し早めの時間に家を出た。

 休みの日はいつも掃除と洗濯をしたあと、たいてい仕事をしているか本を読んで終わる。ひとりきりで家にいると気が滅入る。夕方になる頃には虚しさに襲われる。かと言って友達を誘って出かける気力もない。

 体力を使うようなことはしていないのに、なぜか休日はいつも疲れる。

 どうせ疲れるなら、外出して体を動かした方が建設的だ。

 時間より少し早めに集合場所についた。すでに何人か集まっている。若宮が俺を見つけて駆け寄ってきた。

「おはようございます!」
「休みなのに元気だな」
「今日めちゃ楽しみにしてたんすよ! 久松さんも来てくれたし」

 若宮をよく知らない奴が聞いたら勘違いされそうな台詞だ。慣れないうちは戸惑うし、もしかして好意を寄せられているのかもと警戒するが、誰にでも言っているからこれが素なんだろう。しんどい、疲れた等々ネガティブな言葉も口にするが、若宮は圧倒的にポジティブな言葉のほうが多い。暑苦しさがないから自然と心に入り込んでくる。

 少し待っていると他の連中も集まってきた。驚いたことにそのなかに周防もいた。咄嗟に南の姿を探したが見当たらなくてほっとした。

 全員が揃って店へ移動した。あちこちで声をかけられて若宮は忙しそうだ。俺は村野といつも通りダラダラと世間話をしながら歩いた。

 気になって後方の周防をさりげなく窺う。立花も名取もいないから、周防は1人でトボトボ歩いていた。構いたくなる寂しげな姿。

 若宮のことで嫌味を言われてから、周防とまともな会話はしていない。業務連絡をするときだって顔を見ず手短に済ませていた。謝罪のメールに返信しなかったから、周防は俺がまだ怒っていると思っているのだろう。向こうから声をかけてくることはない。

 いつの間にか若宮が俺たちの前を歩いていた。

「根明の若宮が来てからウェイ系の名取が霞むようになったな」

 村野の声に若宮が振り返る。

「この前名取さんにクラブ連れてってもらったんすよ。びびりますよ、一晩で知り合い12人増えましたもん」
「かわいい子いた?」
「やばいすね、モデルの子とかいましたよ。名取さんってめちゃ顔広いんすよ」
「それはやばいな。今度俺も誘え」
「久松さんも行きますよね?」
「俺はいいよ」

 苦笑しつつ断ると「枯れるにゃ早いぞ」と村野が意味深に笑う。

「当分いいよ、そういう気分じゃない」
「せっかくフリーなのに勿体ない」
「そのうちな」

 後ろの周防に聞かれたくなくて早々にこの話題を打ち切った。くだらない話をしていたらボーリング場に到着した。古田さんの仕切りで各レーンへのメンバー割が発表された。俺は村野と若宮と、よりによって周防と同じグループだった。

 周防を見ると、周防も気まずそうに俺を見ていた。先日の仲直りのいい機会だ。そう思わなければ今日一日乗りきれない。

「周防はボーリング得意?」

 俺から話しかけると周防は「あまり」とぎこちなく笑った。

「あの、久松さん、この前はほんとに──」
「その話はもういいって。気にしてないし、周防の言うことももっともだよ」
「そんなことは……っ、完全に僕が悪かったです、言い過ぎました」
「もう終わり、ほら靴履き替えようぜ」

 周防の背中を叩いた。俺のあとをついてくる気配がする。錯覚かもしれないが、後ろから周防にじっと見られているような気がして、歩くのが下手になった。

 靴を履き替えボールを選んで座席につく。村野と若宮はすでに待機中だ。プロを目指そうと思ったこともあるという村野は、重いという理由でマイボールは持ってこなかったがグローブは持参していた。グローブをする利点を若宮に説いている。

 古田さんがレーンに立ち、大会の挨拶と説明を行った。勝ちあがり方式で3回戦、最終的に点数の良かった1人が優勝。優勝者は打ち上げの食事代の負担無しと今日は不参加の部長からもらった御志が贈られるのだそうだ。

 思い付きで急遽開催されたボーリング大会にしてはまずまずな賞品。開始の号令のあとゲームが始まり、あちこちからボールがピンに当たって倒れる音が聞こえてきた。

「今日、他のおまえの同期たちは?」

 若宮が投げている間、村野が周防に話しかけた。

「なんか全員用があるらしくて」
「南ちゃんも?」
「はい、そうみたいです」
「おまえら付き合ってんじゃないの?」

 意外そうに村野が言えば、周防のほうは驚いた顔で首と手を横に振った。

「付き合ってないです!」
「まじ? あんなにイチャイチャしてたのに?」
「イチャイチャなんてしてませんよ」

 赤くなった顔で否定しながら、周防はちらりと俺を見た。なんで俺を見るんだ。もう俺に気を遣ってくれなくていいのに。

 次に周防が投げた。その次は俺、最後に村野。村野はさすがでストライクを取った。若宮は二回目を投げたあと、ちょっと写真撮ってきます、と隣のグループへ移った。

 周防、俺が投げ、村野は連続ストライク。ハイタッチをする俺たちの写真も若宮に撮られた。

「これあとでアルバムにあげときますね」

 SNSを自在に使いこなす姿を見るとやはり年の差を感じる。俺はツイッターもインスタもやっていないが、村野はインスタをやっている。たいてい外食した時の写真とか、家族で出かけた時に見た風景の写真をあげていた。

「久松さん、一緒にいいすか」

 村野が投げている間に若宮が隣に座り、スマホをかざした。無難な笑顔とピースサインで撮影に応じる。

「俺のフェイスブックにあげてもいいですか?」
「フェイスブックもやってんの?」
「大学の時のツレとか、いろいろ繋がってんすよ。志望してた会社の憧れの先輩とってみんなに自慢したいんですけど駄目ですか?」
「いいけど別に。悪口書くなよ」
「書きませんよ! 彼女募集中って書いときます?」
「いらない、余計なこと書くなよ。個人情報とかもっての外だからな」
「わかってますって、俺そこまで馬鹿じゃないですよ」

 あはは、と笑って若宮は俺の腕を触った。俺は馬鹿だから、そんなことに何か意味があるのかと勘ぐってしまうのだ。それも、周防の見ている前で。

 村野が戻って来て若宮は席をかわった。ボールを投げ終わるとまた写真撮影のために他のグループのところへ行く。忙しい奴だ。

 第五フレームまでゲームが進み、当然の結果ながら村野がトップ。次に若宮、俺、最下位は周防だった。

「なんだおまえ、バレーは得意でもボーリングは苦手か?」

 ふんぞり返って村野が言う。村野は時々悪気なく相手を見下したような言い方をしてしまう。

「実はボーリングをやるのは初めてなんです」
「よく今日来たな」
「楽しそうだし、一度やってみようと思って」

 足元を見ながら周防はぼんやり笑った。楽しそうとはまったく思えない顔だ。さっきから元気がない。まあこのメンバーじゃ、楽しめないのも無理はないかもしれない。

「フォームがなってないんだよ」

 周防の番が来ると村野は隣に並んで投げ方を教えてやった。それが功を奏したのか、周防が初めてのスペアを取った。村野とハイタッチする。俺も右手をあげた。はにかんだ周防が俺の手を叩いた。

 しかしながら巻き返しは敵わず、周防は最下位のままゲームは終了。他のグループも半数は終わっていて、接戦グループの応援にまわっている人もいた。




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