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続続・嫁に来ないか(3/3)

2019.09.17.Tue.


 玄関に入るなり中田さんにキスされた。

「ちょ、待っ……風呂!」
「終わったら一緒に」

 一蹴された。壁に手をつかされ、後ろから一気にハメられた。

「あっ……! そんな、きゅうに……っ」
「乱暴にしてごめんなさい、一刻も早く僕のものにしたくて……ッ」

 あんたのものになった覚えはないぞ。

 性急な動き。首元から聞こえる荒い息遣い。こんなに余裕のない中田さんを見るのは初めてだ。

「僕になんて興味ないと思ってました。セックスも、嫌々してるのだと」
「いっ……あっ、ああっ……!」

 なんの準備もしていない場所へむりやりの挿入。中で動かれるだけで痛いし苦しい。壁に爪をたて、必死に耐える。

「まさか嫉妬してくれるなんて」
「ち、ちが、うっ……!」
「店まで来たのは僕に会いにきてくれたんでしょ?」
「ちがっ、あ、あんた、を……おどろかそうと、思って……っ」
「違わない、同じことですよ」

 強い力で抱きしめられた。その直後、体の奥深くに熱いものが噴きあがる気配を感じた。終わったのにまだ固くて大きいものがずるりと俺の中から抜け出た。支えを失ったように膝がガクンと落ちる。中田さんが俺を抱きあげた。抱っこのまま寝室へ移動し、ベッドにおろされた。

「そうだ、さっきのレストランのオーナー代理の女性、大澤さんのファンなんだそうですよ。大澤さんが僕の仕事を手伝いに来る放送も見てたそうです。僕に声をかけてくれたのも、あの放送のおかげなんですよ」

 言いながら中田さんが服を脱いでいく。農作業で鍛えられた体が露わになる。

「大澤さんのファンだという女性を前に、初めて大澤さんを抱いたあの夜のことを思い出してしまって大変でした。本当の大澤さんはこんなにかわいいんだって、スマホに入ってる動画を見せてあげたくなりました。もちろんあれは僕だけのものですから、誰にも見せませんけどね」

 人の警戒心を解くあのいつもの優しげな笑みを浮かべながら、中田さんは俺の膝を押し広げた。その中心へ、いきり立ったままのものを突きさしてきた。

「ああっ……あ、あ……ッ」」
「こんなに色っぽい姿、僕以外の誰にも見せてやりません」

 さっきとは違って余裕のある動き。俺の様子を見ながらゆっくり抜き差しする。さっき中出しされた中田さんのものでスムーズに動く。奥までくるたび、それがグチュグチュと音を立てる。

 さっき出したばかりだと言うのに、中田さんは今日初みたいな大きさと固さを維持している。これすごく嫌な予感がする。

「先に謝っておきますね、今日、めちゃくちゃに抱いてしまうかもしれません」

 やっぱりだ。嬉しそうな顔しやがって。ぜんぜん謝る顔じゃない。

 小刻みに動かしていたかと思うと、大きなストロークを開始した。入り口付近まで亀頭が移動して抜けるんじゃないかと焦ったが、すぐ奥まで戻ってきた。それを何度もしつこく繰り返す。中田さんは自分のちんこで俺の中を解しているのだ。なんてやつだ。

 奥深くから浅い場所までカリで擦られてこちらはたまったもんじゃない。もどかしい熱がじわじわと下腹部から腰、体全体へと伝わってくる。

 もっと強く、という言葉がのど元まであがってくる。前戯というか、生殺しの意地の悪い愛撫だ。

「ああっあっもう、や……っ」
「大澤さんも僕が欲しいですか? ちゃんと言ってください」
「うるせ……んっああっ、もうっあっあっ……」

 俺を焦らすようにタンタンと単調に突いてくる。もっと強い刺激が欲しい。もっと感じる場所を的確に責めて欲しい。

「も、このっ……いじわる、するなよ…ぉ……!」
「だって大澤さんが嫉妬してくれたんですよ、浮かれちゃうじゃないですか」
「だから……っ、嫉妬じゃないって……!」
「照れ隠しもかわいいですよ」

 聞く耳もたない嬉しそうな顔。そうだ、この人、思いこみ激しい人だった。

 ぐい、と中田さんの亀頭が天井を擦った。狙い定めたように前立腺をピンポイントでごりっと抉られて、俺のちんこの根本から先端までびりびりと刺激が走り抜けた。

「僕ばっかりじゃ申し訳ないから大澤さんも一回イッときましょうか」

 楽しげに言うと凶暴な責めが始まった。俺の弱い場所を重点的にこれでもかと肉厚なカリが擦りあげる。

「ひっあっあぁっ、やぁっやだっあぁんっやだっ、やめっ、なかたさっ……や、一回、やだっ、やめっ」
「大丈夫、このままイッていいですから」
「やあっあっああっ、あんっ、そこゴリゴリすんの、やだぁ……ああっああぁん!」

 強制的な射精。勢いよく飛び出した精液が俺ののど元にまで降り注ぐ。安堵の息をつく間もなく、中田さんのピストンは続く。

「もうやっ、なかたさん……! ああっ、あ、やめ、俺イッたばっかりっ……やんっああっあああ──ッ!」

 目の前が真っ白になった。つま先から頭のてっぺんまで、鋼鉄の杭で串刺しにされたように体が硬直する。

「う……わ……、大澤さん、ドライでイキました? 中が収縮して、すごくキツイ……ッ」

 心配になるくらい体のほうはカチカチに硬直しているのに、頭のなかは麻薬物質出まくりの浮遊感があってやばかった。射精していないのに、射精以上の快感。これがドライオーガズムなのか。

「もっとすごいの、いきましょうか」

 中田さんが何か言った。理解する前にペニスを握られ、乳首を吸われた。全身に絶頂の余韻が残っているいま、三点同時責めは地獄の快楽だった。

「い、ヒィ──ッ……! あ、ああ──ッ! だ、ア、ア、ああっ……!!」

 ペニスを軽く扱かれただけで射精した。乳首を吸われただけでまた達した。もう言葉も出ない。思考できない。開きっぱなしの口から出てくるのは涎と獣みたいな呻き声と熱い息だけ。

 なにをされても、されなくても、イキっぱなしの感覚が続く。これは駄目だ。頭が馬鹿になる。人間じゃなくなる。全身が性器になった生き物みたいだ。

「ああっ……い、あ、アアッ、あ、イッ──ッ!!」
「またイキましたね」

 前後不覚の感覚が恐ろしかった。温かく柔らかな声だけが頼りだった。必死にしがみついた。狭い視界に優しい笑みが見えた。子供みたいに泣きじゃくりながら、数えきれないほどの絶頂を迎え、最後は失神した。

 ◇ ◇ ◇

 いつ覚醒したのかもはっきりしない。気付いたら薄暗い部屋の天井を見ていた。夢と現実の区別もつかない。頭に靄がかかったように、何もかもがはっきりしない。

「大澤さん」

 控えめに呼びかける声がした。目だけを動かすと、ベッドに腰かける中田さんがいた。

「大丈夫ですか?」
「……なんか……ケツのあたりが冷たいんだけど」
「ああ、それは」

 照れたように中田さんは頭を掻いた。

「大澤さんがお漏らししちゃったからですよ。バスタオル敷いてるんですけど、やっぱり冷たいですよね。いまシーツは洗ってるんですけどマットレスにまで染みちゃって。僕のせいなので弁償します」

 どっと汗が噴き出た。思い出した。全部、思い出した……! 記憶と感触が一致した。

 枕を握って中田さんに投げつける。中田さんが「あはは」と笑う。なに幸せそうな顔してんだ!

「あ、あんたもう、出てけよっ」

 大声を出したはずがカッスカスに掠れた。寝起きだからってだけじゃない。散々喘いで泣かされたからだ。

「一緒に風呂入る約束でしょう。大澤さんが起きるの待ってたんですよ」
「そんな約束してないし一人で入るし。ていうかいま何時?」
「もうすぐ6時です」
「うわ……俺今日、8時には出なきゃいけないのに」
「じゃあ早く支度しないとですね」

 よっ、という掛け声1つで中田さんは俺を抱きあげた。触れ合う肌が、数時間前のセックスと繋がる。まだ俺のなかに中田さんが入ってる感覚も残ってる。心身ともに疲れ切ってるのに、もう間もなく別れる温もりが惜しいと思ってしまった。これは相当毒されてるな。



10年目の初恋1


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続続・嫁に来ないか(2/3)

2019.09.16.Mon.
<前話>

 まっすぐ帰る気分にもならず、先輩に連れて行ってもらったことのあるバーに寄った。暗い店内にジャズが流れる落ち着いた雰囲気が気に入っていた。

 ひとりで飲んでいたら奏斗から今日のお礼のメールがきた。こちらこそ今後もよろしく、と返事をしたついでに一緒の飲もうと誘ってみたが、今日は古賀さんと打ち合わせがあるので、と断られた。

 こんな日に限って誰も誘ってくれない。仲のいい後輩を誘ってまた断られたらへこむから誰も誘えない。

 どうしよう。久し振りにそこらへんの素人ひっかけて一晩遊ぼうかな。表に出たらものすごく面倒なことになるとわかっているのに、いまの俺は自暴自棄な気分だった。

 あてもなくアドレス帳に連なる名前を眺める。芸能界という特殊な世界で繋がった人たち。俺が芸能界をやめたらおそらくもう連絡を取り合うこともなくなる。その程度の付き合い。

 相棒の小東が大麻所持で捕まり世間を騒がせていた頃、誰も彼もが俺を見てみぬふりした。沈む泥舟に手を差し伸べる人なんていなかった。当たり前だ。俺だって当事者じゃなければ知らんぷりしていただろう。なんのメリットもない。

 いまはそれなりに仕事をもらえて、経験も積んで、知り合いの数も増えた。事務所の後ろ盾もあるから誰も俺を軽くは扱わなくなった。

 でも芸能人でなくなった時、俺個人と付き合いを続けてくれる人はこの中に何人いるだろう。

 急に虚しさに襲われてアドレス帳を全消去したくなった。駄目だ駄目だ。スマホをテーブルに置いた。

「ご一緒していいですか?」

 声をかけられ顔をあげる。驚きのあまり椅子から転がり落ちてしまった。

「大丈夫ですか? かなり酔ってるみたいですけど、何杯飲んだんですか?」

 俺を助け起こして中田さんは向かいの椅子に腰を下ろした。目が合うとにこりと笑う。

「なんで──」
「ここがわかったのかって? 僕たち、アプリで繋がってるじゃないですか」

 俺は首を振った。

「なんでここにいるんだよ」
「もちろん大澤さんに会いに来たんですよ」

 どの口が。思わずグラスの中身をぶっかけてやろうかと思ったが店に迷惑をかけるし、注目を浴びるのは嫌だからやめた。

「あんたも不義理だね」

 中田さんは軽く目を見開いた。

「僕が不義理?」
「ここに来る前、どこで何してたんだよ」
「ずっと仕事してましたが」
「へえ仕事? あんたのスマホにも俺と同じアプリ入れてるの忘れた? さっきまでレストランで女と食事してただろ。酒まで飲んで。離れたテーブルに俺がいたのに気付かないくらいあんた楽しそうだったな。俺からの着信無視したのも全部この目で見てたんだよ。女とデートするのが仕事? あんたいつ転職したの? それとも最近の農家は女と食事してるだけで野菜育てられんの? そりゃ知らなかったわ。悪い悪い」

 精一杯の皮肉をこめて笑って見せる。中田さんはずっと驚いた顔のままだ。頭の中でいま必死に言い訳を考えているんだろうが、俺は現場を見ている。言い逃れはできない。全部論破してやる。

 俺を一途に好きだったと言うわりに、やることしっかりやってる奴がどんな言い訳をしてくるか楽しみだ。

 腕を組み、ふんぞり返って中田さんの言葉を待つ。

 中田さんは両手で顔を覆い「ああ」とため息のような呻きのような声を漏らした。観念したか?

 指の隙間から中田さんの目が俺を見ていた。

「大澤さん」
「なんだよ」
「それは嫉妬ですよ」
「……なっ、ばかちげえよ、論点すり替えんな」

 大きな声を出しそうになって慌てて抑えた。

「じゃあどうしてそんなに怒ってるんですか?」
「そりゃ怒るだろ、あんたさんざん……俺にあんなことしたくせに、ちゃっかり女作ってるとか誰だって頭くるだろ」
「ああ」

 また呻くように言って中田さんは俯いた。よく見ると体が小刻みに震えているような気がする。

「いまここでめちゃくちゃに犯したい」

 尻の穴が縮むような物騒な呟きが聞こえた。やりかねない気がして、つい逃げ腰になる。

「は、はぐらかされないぞ」
「本当に仕事です」

 中田さんは顔を覆っていた手を膝に置いた。俯いたまま俺を見つめるその目がぞっとするほど据わっている。

「僕がさっき一緒に食事をしていたのはあのレストランのオーナー代理の方で、僕の野菜を店で使いたいと言ってくださったんです。実際に店の味を知ってもらいたいと食事をご馳走になりました。ワインを頂いたのは、契約成立の記念にと一杯だけ。大澤さんからの電話に出られなかったのは相手に失礼だと思ったからです。気を悪くしたのなら謝ります。今度からは何を置いても、あなたからの電話には必ず出ますから機嫌を直してくれませんか?」

 淡々と告げられる言葉。理解はできるが耳を素通りしていくこの感じ。中田さんの目から逃れられない。視線が絡みついて息苦しい。カエルに睨まれた蛇? いますぐおまえを抱いてやるぞという目から目を逸らせない。

「そんなこと、なんとでも言えるし」

 のどから絞りだした声はみっともないくらいに掠れていた。

「契約書を見せます。証拠にはならないかもしれませんが。メールのやり取りも見せましょうか?」

 中田さんは二つに折った封筒を鞄から出してテーブルに置いた。スマホを操作し、画面を俺に見せる。白い画面に文字が並んでいる。メモ帳か?

『この店のトイレか近くのホテル、どこがいいですか?』

 眉を顰める。意味を理解するまでに数秒。ハッと目をあげたら手を掴まれた。引いてもびくともしない強い力だ。

「理性が保てているうちに、決めて下さい」

 熱い手だ。俺の体まで熱くなってくる。俺はかろうじて首を横に振った。

「そんなとこ、いやだ……俺の、家で」
「早く出ましょう」

 中田さんに手を掴まれたまま店を出た。




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続続・嫁に来ないか(1/3)

2019.09.15.Sun.
嫁に来ないか続・嫁に来ないか

 今日の仕事は後輩アイドルグループNAUGHTYの番組で家出した犬を探すロケだ。

「この手のロケは大澤さんが得意だって聞いてます。今日は勉強させてください!」

 それ褒め言葉のつもりかよ。俺が今日補佐するのは、NAUGHTYのリーダー奏斗。俺より少し後輩のこいつらは、事務所内での評価は高いがなぜか人気が伴わず、鳴かず飛ばずで10年燻っていたグループだ。今年の夏、急にゴールデンでの冠番組が決まり、お茶の間に寄り添った番組内容が受けて一躍人気者へ。

 俺は日頃のロケ経験がかわれて、彼らの補佐という役割でこの番組の準レギュラーに抜擢された。努力が報われた瞬間だ。もちろん結果を残していかないと他の誰かと交代させられてしまう。

 依頼をくれた素人さんのお宅へ行き、まずは話を聞く。朝起きたら犬がいなくなっていたという。度々脱走する犬で、脱走防止用の柵もあるが、器用に開けて行ったらしい。いなくなって三日。依頼人家族も空き時間に探しているがいまだ発見できず。

 さっそく捜索に取りかかるのも良いがここはちょっと依頼人の中/学生の娘とも絡んでおこう。お約束の「誰のファン?」という質問から学校生活、好きな人の話を聞き出し、奏斗から「大澤さん、そろそろ犬!」と突っ込まれてやっと捜索を始めた。

 目撃情報のあった場所を重点的に探しながら、町の人たちとも触れ合う。俺が受け持っている夕方情報番組のワンコーナー「アイドルの手も借りたい!」と勘違いした主婦やお年寄りから声をかけられる。奏斗から「大澤さん、さすがですね。帯番組の司会いけるんじゃないですか」と言われて悪い気はしない。まさに今俺が狙っているのはそのポジションなのだ。

 ちょっと休憩しましょう、とロケ車へ乗り込む。その隙に調べものをする。

 ついでに、中田さんの居場所も検索した。仕事の合間に、あの人の居所を確認するのがすっかり癖になっている。

 俺のスマホに仕込まれた浮気アプリ。それを削除するのは簡単だが、あえて残しているのは消したことで中田さんがどんな行動をするか予想がつかないから。そのかわり、俺も中田さんのスマホに同じアプリを入れさせた。それで俺も中田さんの行動を監視する。あの人が自宅周辺にいるのを見れば安心できるからだ。

 検索結果を見て思わず顔を顰めた。中田さんは区内に来ているようだ。ちょうど郊外へロケにきた俺とは入れ違いだが、それに気付いて追いかけて来るかもしれない。不思議なのは中田さんの居場所。俺の自宅近くでもないし、今日の仕事の出発地点でもない。

 あの人と知りあって3カ月ほど。月2、3回の頻度であの人は俺に会いに来る。そして俺を抱いて帰る。画像や動画を撮られているから仕方なく相手をしている。それに、慣れてしまえば体は気持ちいい。

 休憩のあとロケが再開された。調べておいた方面へ足を延ばす。依頼人の娘の中学校が見えてきた。運動場ではクラブ活動中の学生がいた。顧問に許可をもらい中に入る。ロケの内容を説明し、生徒たちに捜索の協力を仰いだ。

 捜索は広範囲に及ぶ。身軽な彼らが手伝ってくれれば百人力だ。

 手分けして探しながら、もう一度中田さんの現在地を調べた。区内から動いていない。なにしてるんだ? 俺の所在地を把握していないのか?

 犬を探しながら、今日中田さんはうちに来る気なのだろうかと、頭の片隅にずっとそれがあった。奏斗を誘って食事に行きたいけど、嫉妬深い人だから帰りが遅くなるのはまずい。部屋の片付けもしたいし、ちゃんとシャワーも浴びておきたい。

 中田さんを示すアイコンが近くにあるだけで、俺の生活にこうまで影響が出る。もういい加減、俺に飽きて欲しい。俺に似た男をあてがってやろうか。簡単になびかれたら、それはそれでなんかムカつくけどな。

 捜索隊の学生から犬を見つけたと連絡が入った。ロケ車に乗り込み現場へ向かう。公園で犬を確保、と追加情報が入った。聞いていた公園で車をおりて学生と合流した。野球部のユニフォームを見て内心ガッツポーズ。

 彼と一緒に犬を連れて依頼人宅へ。娘は彼を見て慌てている。俺がこっそり聞き出した娘の彼氏が、何を隠そう犬を確保した野球部の彼なのだ。

 付き合っていることは親にはまだ内緒だと言う。俺は娘を別室へ連れ出し、この際親に紹介したらどうだろう? 犬を見つけ出してくれた彼と知れば印象もいいし、と唆す。犬の帰宅を喜ぶ両親に、娘が「この人が彼氏です」と野球部の彼を紹介するサプライズ。今日のロケは大成功だ。

 帰宅途中の車内で、「プロデューサーの古賀さんから」とスタッフが俺に電話を繋ぐ。今日のロケの出来を聞いたらしく、お褒めの言葉を頂いた。これで三ヶ月は安泰とみていいだろう。

 古賀さんに言われ、奏斗に電話を代わった。奏斗の顔が強張ったように見えた。古賀さんはかなりやり手のプロデューサーだ。緊張するのも仕方ない。

 奏斗が電話をしている隙に俺はまた中田さんの居場所を調べた。少し移動しているが区内にいるのは変わりがない。なにしてるんだ、あの人。

 奏斗にはまた今度、と挨拶してロケ車をおり、そこからタクシーを拾った。中田さんがいる場所へ向かう。いつも急に現れて驚かされるから、今日は俺が驚かしてやろうという、ちょっとした仕返しのつもりだった。

 向かった先は洒落たレストラン。夕飯時でそろそろ混み始めているのが外から見てもわかる。女性客が多い。こんなところに中田さんが? 中田さんを示すアイコンはずっとこの店の中だ。

 少し迷ったが中に入ってみることにした。

 二人掛けテーブルに案内された。パスタを注文してスマホを見るふりをしながら中田さんを探す。農家の前は学校の教師をしていたらしいから、こっちに当時の知りあいがいたって不思議じゃない。ただこの店の雰囲気を見てある予感が働いた。

 一番奥のテーブルに中田さんを見つけた。案の定、女と一緒だった。年は俺と同じか少し上。きれいな人だった。バリバリのキャリアウーマンタイプだ。中田さんから目を逸らさず会話する様子からも自信が見て取れる。

 二人の会話はなかなか弾んでいる様子だ。中田さんも料理を食べながらあれこれ話しかけている。女性がそれに笑って頷き返す。かと思ったら今度はタブレットを見ながら話しを始めた。食事中のマナーとしては如何なものか。

 運ばれてきたサラダを食べながら中田さんたちの様子を窺う。女性がスタッフを呼び止めた。しばらくしてワインが運ばれてきた。アルコールが入って二人はさらに楽しそうだ。俺は隠れるようにコソコソとひとりでサラダを食べているのに。

 いま中田さんに電話をしたらどうするかな? 出るかな? 俺が好きだと言って憚らないんだから、そりゃ当然出るよな。これもう義務だよな。

 なんとなくイラついた気分で中田さんを呼び出す。着信に気付いた中田さんが鞄からスマホを出し、なにやら操作すると鞄に戻した。

 あの野郎、シカトしやがった……!! しかも電源切ったっぽいぞ。繋がらない。

 中田さんが女性に謝るジェスチャーをしているのが見えた。俺よりそっち優先。ほお。そういうこと!

 ふたりは食べ終わったあともずっと話し込んでいる。しかも顔が近い。ただの知り合いとは思えない。親密な、あるいはその一歩手前の関係にしか見えない。

 注文したサラダもパスタもおいしかったのに台無しにされた気分で店を出た。




ハチリツ【分冊版】1


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やりなおし(3/3)

2019.09.09.Mon.


 店を出て近くのホテルへ直行した。一緒にシャワーを浴びてる間、俺はずっと勃ちっぱなし。わざとそれから目を逸らしている高山は、インポの言葉通り元気がない。

 ベッドに移って高山を押し倒した。馬乗りになり、まぐろ状態の高山に数年分の想いを込めてせっせとキスする。舌を入れると遠慮がちに応えてくる。脱童貞した高校生の頃のがっつきはなんだったんだ。

 インポになると気持ちまで落ち込むものだ。それは経験した俺もよくわかる。だからそっちは一切触らない。俺が高山を好きだって伝わればいい。

 会えなかった時間、ずっと頭の片隅にあって、ずっと恋しかった。別れたことを何度も後悔した。見ず知らずの誰かにずっと嫉妬してやきもきしてた。だからこうして肌を合わせられるだけで俺は幸せだった。

 セックスしなくたってキスだけで充分気持ちがいい。高山にもそう思って欲しい。勃起不全はいつか必ず治る。それは俺が保証する。

 唇を離し、高山を見下ろす。さっきまで捨てられた犬みたいだったくせに、ちょっと雄の顔に戻りつつあった。俺の好きな、格好いい高山の顔だ。

「見てろよ」

 高山に見つめられながら自分でペニスを扱いた。高山の目が動揺したように揺れる。

「はあっ……ぁ……はあっ……はっ……ん」
「宝生……っ」
「俺に、触ってくれよ」

 高山の手を取り、自分のペニスに押し当てた。おずおずと大きな手が熱いそれを握る。高山は驚いたような顔をした。

「俺もう、イクかも……ッ」

 高山の手に手を重ね、扱いた。なすがまま、力の入っていなかった手が、次第に意思を持ったように動き始める。ペニスを握る手も強くなる。先端を小刻みに擦るのは完全に高山の仕業だ。

「あっあっ、高山っ、高山ぁっ」

 手淫に喘ぐ俺を高山が食い入るように見つめる。

「いっ、ああっ、あっ、いくっ、でる!」

 高山にガン見されながら俺は無事射精した。思えば高山とは初めての射精だ。高山が信じられないって顔をしている。こいつなりに、相当な罪悪感とプレッシャーに苦しめられていたんだろう。

「見たかよ、ちゃんとイケたろ」

 無言で頷きながら高山は体を起こした。俺が倒れないよう背中を支えながら顔を覗きこんできたかと思うとキスしてくる。何度も何度も、角度を変え、強さをかえて唇の表面を触れ合わせる。

 ぺろりと舐められたので薄く開いた。遠慮がちに高山の舌が入ってくる。それを食むように中に招き入れた。

 キスしながら高山の手は俺の乳首を触った。変な感じ。でも少し気持ちいい。

 乳首だけじゃなく、背中や肩、脇腹に首筋と、高山は俺の全部を撫でた。大きくて温かい手に撫でられるのは心地がよくてうっとりする。

 ずいぶん長いキスだった。まだ終わる気配がない。こんなにキスが好きだったっけ?

 高山の胸を押して小休止。俺はちょっと酸欠気味で呼吸を整える。待つあいだ高山にじっと見つめられる。は、と一息ついた隙にまた唇を合わせてきた。貪るようなキスをする。

 ずっとタイミングを見ていたように、高山の手が俺のペニスを握った。半立ちのものをゆるゆると扱く。

「んっ……はぁっ……ぁ……ッ」

 俺の声も息遣いも、高山の口に飲みこまれていく。今度こそ呼吸が苦しくなって強く胸を押した。名残惜しそうな目が唇を追う。

 高山の首に腕をまわし、俺の方から高山の頬にキスした。頬だけじゃなく、額や瞼や耳、余すところなく唇を押しつけた。

「高山…………すきっ……」

 胸いっぱいに溜まっていた思いが溢れ出た。

 高山がまた俺の口を塞いだ。キスしながら「俺も好きだ」と掠れた声で伝えてくる。

「ん、ふぅ……あっ、た、かやまっ……ぁあ……でる……また……でるっ」

 二人の腹の間で高山の手の動きが早くなる。粘ついた水音も大きくなる。高山はさっきみたいに俺を凝視している。変な性癖に目覚めそう。

「はあぁ、あ、あっ……でる……う、あっ、あ、イクッ、高山、イクッ」

 高山の手に二度目の精液を吐きだした。高山は手を広げ、それをじっと見ていたかと思ったらペロリと舐めた。

「ちょ、やめろよっ」
「なんで? おまえはしてくれたことあっただろ」
「手からはねえよ」
「じゃあ口で」
「いいって! 俺がもう出ねえわ」
「宝生のイキ顔、めっちゃエロくてかわいかった」
「嘘つけ」
「ほんとだよ。すごく、かわいい。どうしよう、いまお前のこと、すごく愛しい。もうずっと離したくない」

 言うと俺をぎゅっと抱きしめた。ふざけてんのかと思ったけど、俺の肩に顔を埋める高山の体がちょっと震えてて、鼻を啜りあげる音が聞こえたもんだから、いい子いい子って頭を撫でてやった。

「なあ、高山、足痺れてねえか? 俺重いだろ、一緒に横になろうよ」

 うん、と涙声が頷いた。

 抱き合ったままベッドに寝転がった。間近で見る高山の目は充血して真っ赤だった。目が合うと照れたように笑う。俺はさんざん泣かされたけど、高山を泣かしてやったのはこれが初めてだ。この顔見たら、今までのこと全部許してやろうと思えた。

「インポ、治ってんじゃん」

 さっきからずっと腹に当たっている。その前は尻に。

 高山は悪いことが見つかったような顔で目を逸らした。

「おまえがイッたの見たら勃った」
「今度は高山が気持ちよくなる番だろ」
「俺はいいよ」
「また同じこと言わせるのかよ。俺はおまえに手、出してほしいんだって」
「今は勃ってても、いざ入れようとしたらどうなるか」
「そんなのやってみなきゃわかんないだろ」

 高山のペニスに手を伸ばした。まだ完全とは言えないゆる勃ち。優しく扱くとそれは体積を増した。

 昔はこれで泣かされたが、いまはもう恐怖心も不安もない。手の中で大きく熱くなっていくのが嬉しいし、なんなら早く入れてほしいと思ってる。

「ぜんぜん、大丈夫じゃん」

 すっかり大きくなったペニスの先端を扱く。先走りを指に絡めて裏筋を撫でた。またカサが開いた気がする。

「宝生……、それやばい」
「出そう?」

 うん、と子供みたいに頷く。

「どうする? このまま出す? 俺のなかに入れる?」

 縋りつくような目で俺を見て、高山は「入れたい」と許しを請うように言った。

 備え付けのローションを取ると、俺の尻に馴染ませた。不安そうな顔で恐る恐る指を入れてくる。高校生のときは何が駄目だったのかわからないが、気持ち良さより違和感のほうが強かった。でもいまは違った。そりゃ本来出す場所を指で弄られてんだから、最初から気持ち良くはない。でも俺の興奮は冷めない。もっと強くして欲しいとさえ思ってる。

「ん、はあぁ……ぁ……あ……っ」
「痛くないか?」
「ないっ……あっ、そこ……、もっと、して……っ」

 さっきから執拗に弄られる場所。そこを擦られるとペニスの根本、その奥がジンと熱くなってくる。それが快感となってペニスに伝わり、触っていないのに立ちあがってくる。

「高山……ぁ……あっ、ん、きもち、いいっ……もう、入れてっ……」
「まだ無理だよ」
「むりじゃ、ないっ……はやく……じゃないと俺……また、イキそ……だから……ッ」

 完立ちしてないのに、もうなにか出そうな気配があった。おし/っこが漏れそうな感じに似ている。これ以上指で直接触られたら、本当に漏らしそうだ。

「辛かったらすぐ言えよ、我慢するなよ」

 指が抜け、ほっとしたのも束の間、今度はもっと太いものが入ってきた。指で解されたとは言え、その体積と圧迫感は比じゃない。俺のなかに確かに高山がいるんだと実感する存在感だ。

「平気か? 無理するな」

 俺の顔を覗きこんで前髪を撫で上げる。その手すら気持ちいい。

「大丈夫だから、動いて」

 ゆっくり出し入れされると、繋がった場所がじわじわと熱くなる。前は感じなかった多幸感に胸が震える。もっと奥まできて欲しい。もっと深い場所で高山と繋がりたい。俺を慮った動きがもどかしい。

「高山……もっと、して……俺、もうイキたい」

 俺の腰を抱え直し、高山が速度をあげる。腹の底がじんじんして気持ちいい。勝手に甘えた声が出てくる。止められない。

「んっはっはあぁっ、あっ、あっ」
「宝生、気持ちいいか?」
「きもち、いっ、あっ、ああっ、あっああっ」

 ガクガクと揺さぶられながら何度も頷いた。俺の中の高山は固くて男らしくてすごく熱い。前は凶器にしか思えなかったけど、いまは長く中にいて欲しいと思う。

「高山はっ……? きもちい、い?」
「すごく気持ちいい。お前が気持ち良さそうなとこ見てるだけでいけそう」
「うんっ、おれ……きもちいいっ……どうしよっ、ああっあっ、また出ちゃうよぉっ」
「おまえがイクとこ見るの、すげえ好き」

 クチュクチュと手で扱かれてあっけなく果てた。例によって高山はそれを嬉しそうにガン見だ。高校時代一回も俺をイカせられなかったのだからしょうがないのかもしれない。

 あの頃はまだ体も心も、お互い未熟だったんだ。高山は相手を気遣う余裕がなくて、俺は受け入れる余裕がなかった。

 高山に会えるかもって下心だけで参加した同窓会だったけど、ほんとに行って良かった。

「俺もお前がイクとこ見たい」

 高山は俺の膝を押し上げると高速ピストンを開始した。俺が出した精液まみれの手でペニスも弄ってくる。

「あっあっだめっ、やっああっ、それやだ……っ、イッたばっかりだからっ……!」
「でも勃ってきた」
「いやっあっああっ、たかや……んッ、ああぁっ、はっあ、あっ」
「おまえが善いときの声は、俺にもわかるよ。ちんこに直接響いてくるから」
「んっ、ばかっ……あ、やっ……あんっあっあぁんっ強いの、だめ──ッ、あ、ああ──ッ!!」

 頭の中が真っ白になった瞬間、体の奥に熱いものが噴きあがるのを感じた。

 ~ ~ ~

 明日、仕事なんだよなあ。

 もう動くのもだるいし、家帰る電車も動いてないし、高山と離れたくないし、泊まる以外の選択肢ないわけだけど、明日仕事なんだよなあ。

 スーツとか着替え、どうしよう。

 冷蔵庫からミネラルウォーターを持ってきた高山が、うつ伏せの俺の隣に座った。

「疲れた?」

「そりゃ……だっておまえ、何回やったよ」
「宝生がもっとって言うから」
「インポ、治ってよかったね」

 そうだよ、こいつ昔から性欲強くて時と場所選ばず勃起するような奴だったんだ。そんな奴が一回で済むわけがなかった。まあ俺も止まらなかったから責められないけど。

「次、いつ会える?」

 俺のうなじに顔を埋めて高山が言う。そのまま背中、肩甲骨、腰へと唇を移動させていく。

「………っ……週末、は?」
「泊まりに来てくれる?」
「たりめーだろ」

 尻たぶを割ってその奥へ舌が入り込んできた。慌てて仰向けになった。

「もう今日はやんねえぞ」
「宝生の全部が愛しい」
「そういうこと素面で言うなよ」
「今度こそ絶対大事にする」
「わかってるよ」
「好きだ」
「知ってる」
「ほんとに好きだ」
「わかったって」

 俺にしがみついてくる高山の頭を撫でた。俺はいま間違いなく幸せだ。



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やりなおし(2/3)

2019.09.08.Sun.
<前話>

 高校で高山と別れたあと、俺はしばらくインポになった。高山と付き合ってる間は少なくとも勃起はした。それが別れてさらに悪化した。やっぱり別れるんじゃなかったと後悔したけど、平気そうな高山の顔を見たら俺のことそんなに好きじゃなかったんじゃんと腹が立って卒業まで無視を続けた。

 高山が謝ってきたら許すつもりだった。やり直したかった。でも最後まで高山が俺に話しかけてくることはなかった。卒業式の打ち上げから帰ってきた夜、高山とは完全に終わったんだと思うと、涙が止まらなくなった。

 うっすら期待していた高山からの連絡がないまま、大学生活が始まった。

 幸い友達はすぐにできる性格で、広く浅い付き合いの友人が何人かできた。俺と違って友達を作りにくい高山は大丈夫だろうかと心配だった。

 大学生活も慣れて私生活も落ち着いた頃だった。友達の一人の女の子から告白された。ちょうどインポが治った時期で、これも縁だと思って付き合うことにした。

 彼女と深い仲になった時は、正直使い物になるのか不安だった。イチかバチかの賭け。そういう雰囲気になるとどうしても高山にされた酷いことを思い出して不安がわきおこる。

 一度成功すると自信がついて、二度目からは不安なくセックスできた。完全復活だ。彼女とのセックスでは、ことさら彼女を慈しんだ。彼女を抱きながら、どうして高山は俺にあんな真似ができたんだろうと悲しい気持ちになった。

 彼女とは8カ月ほど付き合って別れた。俺が他の奴を好きになってしまったからだ。そいつは男だった。物静かで、いつもひとりでいた。高山に雰囲気が似ていた。だから気になり、好きになった。そいつを見ているといつも高山を思い出した。

 高山もひとりきりなんじゃないか、とか。

 俺みたいなお節介な奴に目を付けられて、あっさり心を許してたらどうしよう、とか。

 高山が俺を好きになってくれたのは、他に親しい奴がいなかったからなんじゃないか、とか。

 もしかしたら今頃、他の誰かと付き合っているのかもしれない。そう思うと苦しくてたまらなかった。

 高山に似ているそいつとは少しだけ仲良くなった。そいつのことを知れば知るほど高山との違いが気になった。俺はぜんぜん高山を吹っ切れていなかった。

 だから同窓会で高山に話しかけられたときは動揺しまくりだった。しかもあの頃を反省して謝りたいと言う。本気だというのは目を見てすぐわかった。謝罪だけするとさっさとトイレを出て行こうとしたから慌てた。

 本人を目の前にすると当時の記憶が嫌でも蘇る。痛みと苦しみと屈辱と悲しみ。好きだという気持ちだけで簡単に水に流せることじゃなかった。だから、やり直したいと言われたときにすぐ頷けなかった。でもこのまま別れるなんて絶対嫌だった。

 また痛い思いをしてもいいと覚悟の上で、俺はもう一度高山を信じることにした。

 いまの高山は高校生の頃と違ってすごく誠実だ。俺を大事にしてくれているのが言動の端々に表れている。

 高山への不信感はもうほとんどないと言っていい。高山を思ってオナニーもしてる。俺はもう大丈夫なのに、高山が手を出してこない。

 簡単に許さないと言った手前、俺からは手を出しにくい。ああ、すごく、じれったい。

 ~ ~ ~

 金曜の夜、思いきって高山を食事に誘った。ガツガツしてた高校時代と違っていまの高山なら仕事で疲れてるからと断ってきても不思議じゃない。心配だったが、「俺もいま連絡しようと思ってた」と返事をもらって、小躍りしてしまった。

 待ち合わせ場所に現れたスーツ姿の高山を、事前に調べて予約しておいた店に連れて行って食事をする。

 隣のテーブルに座った女二人組が高山を見て目配せしあっている。なにを言いたいのかはわかる。高山は格好いい。でも残念、俺の彼氏だ。

 酒を飲んで二人ともほろ酔いで店を出た。高山が腕時計を見る。帰る時間を気にしている。

「た──、高山っ」
「ん?」
「あしっ、明日休みなんだし、俺んち寄ってかない?」
「え……いや、でももう遅いし」
「だからっ、泊まってけばいいじゃんって」

 高山の顔から笑みが引いていく。酔いも醒めたような顔で目を泳がせる。なんで高山の方がそんな反応するわけ?

「イイノカ?」

 機械みたいな固い声だった。喋り方忘れたんかよ。

「いいから誘ってんだろ」
「着替えも、なにも用意してないのに」
「俺の貸してやるよ。小さいかもしんないけど。洗濯してもいいし」
「……宝生が迷惑じゃないなら、お邪魔しようかな」

 そう言う高山の笑顔はみっともないくらい引きつっていた。

 俺に触れないくらい、高山は過去のことを反省している。それは充分わかった。いつまでも中/学生みたいな付き合いは俺が嫌だ。俺だって高山とのセクスに不安がないわけじゃない。でも好きだからやり直したんだし、やり直したからにはセックスだってしたい。

 昔と違う高山とのセックスで気持ち良くなりたい。高山にも気持ち良くなってもらいたい。ちゃんと恋人同士として、愛しあいたい。
 移動の電車のなかで高山は無口だった。俺の話を聞いてはいるが、どこか落ち着かない様子だ。

 緊張してるというより、俺にビビってる? そんな感じで俺のほうが気を遣った。

 マンションに到着して部屋に入る時も躊躇の顔を見せた。そんなにビビられたらうまくいくことも、うまくいかなくなるじゃないか。

 和ませようとあれこれ話しかけたが全部裏目。どんどん高山の口数は減って、ついには笑顔さえ見せなくなった。青ざめた顔でテーブルの一点凝視。俺が悪いことしてるみたいじゃん。

 付き合い始めた初日に俺にキスして、その週末には俺を抱いたくせに。反省しすぎの高山に内心ため息をついた。もう今日はセックスは諦めよう。せめてキスして、抱き合いながら一緒に眠りたい。あの頃まったく甘やかしてくれなかった分、高山に甘えたい。

 気持ちを切り替えて、とっとと寝ることにした。

「先にシャワー浴びる?」

 テーブルを凝視したまま高山はビクッと肩を震わせた。ギギギ、と音がしそうなぎこちなさで俺を見て「サキニハイレヨ」とまた音声ガイダンスみたいに言う。

 俺が風呂入ってる間にこいつ逃げそうだな、と思って寒気がした。冗談じゃなく、本当にいなくなっていそうな気がしたからだ。

「なあ、高山」

 床に手をついてにじり寄る。高山は顔を強張らせた。

「今日は、エロいこと無し、な。一緒に寝るだけ」

 なんだか屈辱ではあったが、高山を安心させるために言った。高山は今度は俺を凝視した。そしてコクンと頷いた。あの、隙さえありゃ俺にちんこ突っ込みたがった高山が大人しくお預けを受け入れたのだ。人が変わりすぎだ。こんなの高山じゃない。

 俺は本当に駄目な奴だ。昔の高山に戻って欲しいと密かに思ってる。俺に魔法が使えるなら、キスで元の高山に戻してやるのに。

「高山……」

 顔を近づけた。高山の目が見開かれる。
 頬に手をあて、唇を寄せた。触れる寸前、体を押し戻された。手で口を隠し、高山は顔を背ける。

 それはないだろ。いくらなんでも、それはあんまりだろ。ショックなんてもんじゃない。傷ついたなんて言葉じゃ足りない。

「なんで?! 俺とキスすんの嫌なのかよ」

 違うんだ、と高山は首を振る。

「なにが違うんだよ、指一本俺に触らねえで、これで付き合ってるって言えるのかよ」
「違う、おまえに無理をさせたくないんだ。俺が急かすような真似をしてたなら謝る。そんなつもりはなかったんだ。俺に合わせてくれなくていい。お前が本当にその気になるまで俺は待つから」

 はあ? なに言ってんだこいつ。

 高山はいたって真面目だ。本気で俺がまだレ/イプみたいな抱かれ方で傷ついた高校生の頃のままだと思ってるんだ。なんかもう、怒り通り越して呆れ果てて脱力した。

 なにから説明しよう。俺はもう成人した男で、性欲があるってところから? ばかばかしいが、本当にそこから説明が必要な気がしてきた。

 頭を抱えていると高山の携帯が鳴った。ごめん、と高山は電話に出た。

「夏樹? ごめん、いまちょっと取込みちゅう──、どうしたんだ? 落ち着いて話して」

 ナツキって誰だよ。女か? どういう関係?

「……うん、うん……大丈夫なのか? 病院は? うん……行ったほうがいいって……今から? ちょっと……難しいかな」

 ちら、と高山が俺を見た。なにかトラブルのようだ。

「そういうんじゃなくて……いまちょっと……うん……うーん、わかった、ちょっと確認してみるから。あとで折り返す、いい? じゃあね」

 通話を切ると、申し訳なさそうに俺を見る。もうなにを言われるかわかる。

「ごめん、知り合いが怪我して今すぐ来て欲しいって言うんだ」
「あー、いいよ、わかった。行ってあげなよ」
「ごめん、この埋め合わせはするから。ほんとに、ごめんな」

 嘘つき。電話の前とあとで顔つきが違う。ほっとした顔してんじゃねえよ。

 鞄を持つと急いで玄関へと向かう。途中で足を止めて振り返った。

「宝生に嘘をつきたくないから正直に言うけど、電話の相手、前に付き合ってた5歳年上の男なんだ。俺もよくわかんないんだけど、今付き合ってる男に暴力振るわれたらしくて。怪我してるし取り乱してて心配だから様子だけ見てくる。絶対なにも、変なことはないから」

 帰る間際に爆弾落としやがった。もう言葉も出てこなかった。力なく笑って頷いて見せることしかできない。高山は安心した顔をすると「ほんとごめん」と部屋を出て行った。入る前とは違って、少しの躊躇もなく。

 高山を見送った玄関からしばらく動けなかった。

 あいつ、本質はなにも変わってない。独りよがりで、自分勝手で、嫌な奴。

 俺を大事にするとか言って、また泣かせてんじゃねえよ。高山なんかインポになっちまえ。



 怪我した元彼のもとへ急行した高山からその夜、メールがきた。

『怪我はたいしたことなかった。宝生と一緒だったことを話したら、恋人を置いて元彼のところに来るなんて馬鹿かって怒られた。それと俺を呼び出したこと、知らなかったとは言え悪いことしたって。ごめんだって。俺も宝生に謝らないと。絶対埋め合わせするから。宝生の好きなもの食べに行こう。また近いうちに連絡する』

 返事はしなかった。

 ~ ~ ~

 いや、俺だって女の子と付き合ったし。好きになった男もいた。高山が俺と離れていた期間、誰かと付き合ってたってぜんっっっっっぜんおかしくない。むしろ、人付き合い苦手な高山がよくそこまで親しい付き合いができたもんだと感心する。

 別にぜんぜん怒ってないし。ぜんぜん平気だし。

 高山を手懐けたのがどんな男なのかはちょっとは気になるけど。そいつとはやることやってたのか、ちょっと聞いてはみたいけど。もう終わった奴とのことなんて、俺には関係ない。

 だから俺から高山の元彼の話はぜったいしない。

「夏樹ってーの? 元彼」

 仕事終わりに落ち合った居酒屋。まだ注文したビールも届いていないのに俺の我慢は長くもたなかった。

 お通しの枝豆を食べて高山が頷く。

 俺たちはいまだに苗字で呼び合ってるのに、そいつのことは下の名前で呼んでんのか。5歳年上だって言っていた。まさか高山が甘えたりしてたのか?

「暴力ふるう彼氏とか、やばいじゃん」
「最初はそうでもなかったらしいけど、だんだん束縛強くなって、夏樹がそれに文句言ったら急に怒りだしたんだって。もう別れるって言ってた」

 今彼前にして、まだ元彼をファーストネームで呼ぶかね。

「怪我のほうはどうなん?」
「殴られたとこは痣になったけど、だんだん目立たなくなってるって」
「ふーん」

 てことは、こいつら最近も連絡取りあったってことだ。俺とは一週間ぶりの再会なのに。

「別れたのに仲いいんだな」
「普通だよ。……あ、俺無神経だったか? ごめん」
「いや、別に」
「ちゃんと言ってくれよ、俺そういうのあんまよくわかってないから。夏樹にもそれでよく怒られたし」

 胸がモヤモヤする。お前らまだ切れてないんじゃないかって、言ってしまいそうだ。

 タイミング良く店員がビールを運んできた。何か言うかわりにため息をついた。

「……やっぱり怒ってるよな」

 ため息を見られていたらしい。高山は顔を曇らせた。

「怒ってないって」
「ほんとのこと言えよ」
「言ったらおまえ、また前みたいにキレるじゃん」

 苛々してつい突き放すような言い方になった。はっと高山が黙る。

 高山と初めてセックスした日、がむしゃらなだけの愛撫に俺が痛い止めろと言っていたら「痛いっていうなよ!」と逆切れされた。それがショックで俺は高山に強く言えなくなった。

 高山が俺を気持ち良くさせようと必死なことはわかっていたから、真逆の反応を見せる自分の体が申し訳ないのもあって、つい、我慢するほうを選んだ。

 咄嗟にそれを思い出すなんて、実はけっこう根に持っていたようだ。

 覚えているのか、高山もバツの悪そうな顔で俯く。

「……もうキレたりしないからちゃんと言ってほしい。俺もちゃんと聞くから」
「どうだか。結局さあ、おまえって口ばっかなとこあるじゃん。俺のこと大事にするとか、かわった自分を見て欲しいとか。耳触りのいいことばっか言ってさ。やり直してまだ一ヶ月程度だけど、俺にはおまえが変わったとは思えない。前と同じ、独りよがりで嫌な奴だよ」

 俺の言葉に高山がショックを受けてる。傷ついて瞬きも忘れて茫然としている。これは八つ当たりだ。俺より正しく信頼関係を築いていただろう元彼に嫉妬してる。

 でも言った言葉は嘘じゃない。ほんとのことを言って欲しいというから今まで我慢してたことを言っただけだ。まあ、ちょっと攻撃的で言い過ぎかなとは思うけど。

「……どういうことろが独りよがりだと思うか教えてほしい。直すから」

 なにか言い返してくるかと思いきや、ずいぶん殊勝なことを言う。こいつほんとに高山なのかよ。

 褒められるべき態度なのに、俺はなぜこうも苛々してしまうんだろう。

「そのくらい自分で考えろよ」

 俺にもわからないのに、教えられるわけがない。高山は困った顔で黙り込んだ。

「そういう顔やめろよ、飯がまずくなるだろ」
「ごめん」

 ぱっと顔をあげる。でもすぐ視線が下がる。目元に暗い影が落ちる。俺が虐めてるみたいじゃないか。

 ふと気付いた。今の俺って昔の高山みたいだ。あの頃の高山も、受け身な俺に無性にイラついていたんだろうか。態度は従順でもその腹の内は読めなくてもどかしかったのかもしれない。だからどんどん俺に冷たくなって酷いことも平気でするようになったんだろうか。俺が何も言わなかったから。

 今更だけど、言わなきゃ駄目だったんだ。衝突を怖がって我慢したってなにも改善されない。高山はそれに気付いたから「ほんとのことを言え」って言ったんだろう。

 ガヤガヤとうるさい店内。なのに俺たちのテーブルだけお通夜みたいな重苦しさ。

「……やっぱり、俺とは無理か?」

 雑音に紛れて消えそうな小さな声だった。うっかり聞き逃すところだった。

「やっぱり俺と付き合うのは嫌だったか? だったらもう、これ以上は──」
「なんでそうなるんだよッ!!」

 頭に血が上って大声で怒鳴っていた。なのに全身から血の気が引いた。別れ話なんか絶対させない。絶対別れない。

 俺の剣幕に高山が驚いて目を見張る。

「おまえのそういうとこだよ、独りよがりって言ってんのは! わかれよ! 元彼の話なんか誰も聞きたくないに決まってるだろ! でもそれ表に出すのみっともないから平気って言うしかないだろ。元彼に呼び出されてホイホイ行くなよ。怪我してるなんて聞いたら止められねえだろ。俺ももう大人だし、おまえに手出して欲しいって思ってんのに、なんでぜんぜん触ってこないんだよ。なんで全部言わなきゃわかんねえんだよ。こんな恥ずかしいこと言わせんなよ。おまえほんと嫌な奴だ」

 一回口から出したらあとはもう止まらなかった。それにいま勢いで言わなきゃ、当分言える気がしない。

 高山は呆気に取られて口を閉じることも忘れてる。高校生のときにこのくらいぶっちゃけることができていたら、俺と高山は別れなかったかもしれない。同じ轍は踏みたくない。もう二度と高山と離れ離れになりたくない。

「なんか言えよ」
「えっ、あ」

 我に返ったように高山が間抜けな声をあげた。前髪をかきあげて、ガシガシ頭を掻く。

「やっぱ俺って駄目だよな。そこまで言ってもらわなきゃわかんないんだから。言わせてごめん。あと……俺も、おまえに正直に言うことがある」

 まっすぐ俺を見る。テーブルの上、身を乗り出してくるから、俺も距離を詰めた。

「……俺、インポかもしれない」

 くそ真面目な顔でどんなことを言うのかと思ったら。高山には悪いけど吹き出してしまった。

「笑い事じゃない」

 いつまでも笑い止まない俺に高山がおしぼりを投げてくる。

「だってそんな思いがけないワードぶっこんでくるんだもん、笑うだろ」
「俺はけっこう気にしてるんだぞ。高校生のときはおまえに酷いことばっかして、一回も良くしてやれなかっただろ。俺なんかに触られるのも嫌だろうなって思ってたし、もしそういうことすることになっても、また満足させられないんじゃないかって怖くて仕方なかったんだ」
「だから俺が部屋誘った時、あんなにびびってたんだ?」
「あの日から勃たない」

 ぽつりと呟くように高山が言う。俺はまた笑い出しそうになって口を押さえた。高山なんかインポになっちまえって、俺の呪いが効いたのかもしれない。

「なあ高山。そんな深刻に考えることはねえよ」

 すっかりしょげてしまった高山に声をかける。

「今すぐホテル行こう」
「俺の話聞いてたか?」
「高山はなにもしなくていいよ、俺がお前の体に触りてえの」

 素直に本音を口に出すことが、こんなに気持ちいいことだったとは知らなかった。戸惑い顔の高山の手を指先で撫でた。それだけで俺はもう勃起しそうだった。



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やりなおし(1/3)

2019.09.07.Sat.
<前話「大事だったのに」>

 待ち合わせ場所に向かうともう高山が待っていた。ただ立ってスマホを見ているだけなのに、遠目にもイケメンだとわかる。大人になってさらに格好よくなった。同じく待ち合わせしているっぽい女がチラチラ高山を見ている。そして意を決したように話しかけた。

 知らない女に声をかけられて高山は戸惑いの表情を見せた。でもすぐ笑顔の対応に切り替えた。以前の高山には見られない行動だ。

 高校時代の高山はいけ好かない人見知り野郎で、知らない奴が気安く声をかけようものなら警戒心バリバリの不機嫌面でまともに会話さえしなかった。それがいまや。

 成長を喜ぶ半面、身勝手にも俺は少し寂しく思ってしまうのだ。高山がとっつきにくい奴であればあるほど、誰も高山には近づかない、近づけない。俺だけに懐いていて欲しい。それで一度は痛い目にあったのに、俺という人間はつくづく学習しない。

 女は振られたようで軽く頭をさげると高山の前から去った。高山は気まずそうに頭を掻いてその後ろ姿から目を逸らした。スマホに視線を落としたかと思ったら、顔をあげてあたりをキョロキョロ見渡す。俺を見つけるとパッと笑顔になった。

 見つかったので観察はやめて高山の元へ駆け寄った。

「ごめん、待たせた」
「いや、俺が早く来すぎただけだし、さっき来たところだから」

 15分前に来た俺より先に到着した高山はいったい何分前から待っていたのか。これも以前の高山には考えられないことだ。

 待ち合わせをすれば高山はいつも時間ギリギリ。俺が少しでも遅れたら文句タラタラ。付き合い始めると「お前は俺と会う時間が減っても平気なのかよ」と俺の気持ちを確かめるような責めかたをした。いま思えば高山も不安だったんだろうが、それを知らない俺には堪えた。

 それが今じゃあ俺より先に到着して、俺を見つけると照れた笑顔を見せて、俺から逸らさない目は饒舌に好きだと伝えてくる。俺に触るのを躊躇って両手は小さく前に倣えみたいに変なところでとどまってるし。これが俺の意思を無視してむりやり尻にちんこ突っ込んできた高山とは信じられない。人ってこんなに変わるもんかね。

「調べたら上映までまだ時間があるから、飯でも食いに行かないか?」

 と俺の意思確認をしてくれる。前は全部自分で決めてた男が。今日の映画鑑賞だって俺が言いだしたことだし、俺が見たいと思っていた映画を見る。高山はそれでいいと賛成するだけで何も意見しなかった。

「俺、カレーがいい。昨日テレビでCoCo壱の特集やっててさ。それ見てからずっと食べたいって思ってたんだよ」
「よし、じゃあカレーにしよう」

 言うとさっそく最寄りの店舗を調べ始めた。その横顔をじっと見つめる。

 高校時代に仕入れた高山の情報は全部覚えている。高山はカレーが好きじゃなかったはずだ。誘われるのはたいていラーメンとか牛丼屋。

 人の味覚は数年で劇的に変わらないはずだ。苦手なのに高山は俺に合わせてくれた。

 本当に昔の高山とは違うのかもしれない。信じたいが、信じてまた辛い思いをするのが怖くて疑う気持ちが拭えない。だからつい試すような真似をしてしまう。

「ここから10分くらいの場所にあるみたいだ。行こうか」

 俺の腰のあたりでまた高山の手が宙に浮かぶ。同窓会で一応の仲直りをして、一応また付き合うことになってから1ヶ月あまり。高山が自分から俺に触ってくることはまだ1度もない。別に触るくらい、俺はなんとも思ってないのに。むしろ恋人なんだから触ってくれていいのに。

 店までの道中、高山は俺のくだらない話をにこにこと聞いている。前から俺の話によく笑ってくれたほうだけど、いまは俺といるのが嬉しくてたまらないって感じの眼差しが加わって俺のほうが気恥ずかしい。こんなに好きだって感情表現する奴じゃなかったのに。

 カレー屋だから当然だが、高山もカレーを注文した。少しでも嫌な顔をするのを見逃すまいと、俺はじっと高山を観察した。俺の嫌らしい思惑に気付かないで高山はカレーを完食した。

 店を出てから思いきって訊いてみた。

「そういえば高山ってカレー苦手じゃなかったっけ?」
「よく覚えてたな」

 誕生日も血液型もばっちり覚えてるよ。

「前は苦手だったけど、宝生が好きだったなって思い出してたまに食べてたら俺も好きになったんだよ」

 嘘か本当かは別にして、よくそんなことを恥ずかしげもなく言えたもんだ。俺のほうが赤面してしまうじゃないか。

 まだ時間に余裕があったからコーヒーショップに寄ってから映画館へ向かった。俺の好きなド派手アクション映画。高山は静かにポップコーンを食べながらスクリーンに集中している。その横顔がこちらを向くことはない。前は俺に痴/漢してきた奴が。しかもそのあとトイレに連れこまれて、そこでもむりやりヤラれて、しかも中出しまでされて、挙句「それ出してから来いよ」って置き去りだ。……あ、やなこと思い出しちゃったな。悔しいやら情けないやら、半泣きになりながら自分で精液掻き出したっけ。

 どんなにひどいことをされても俺は高山を嫌いにはなれなかった。俺にだけ甘えてるんだ、素を見せてるんだって、間違った優越感に浸って気持ち良くなってた。高山から雑に扱われるようになったのは、俺にも問題があったと思う。受け入れて我慢したのがいけなかった。高山だけを責められない。

 映画を観終わったら今度は街ブラに出かけた。服屋に入れば高山に似合いそうな服ばかりに目が行く。スタイルがいいからなんでも似合いそうだ。つい買いたくなるが、俺が甘やかすことで昔の高山に戻ったら嫌なので我慢する。

「宝生、これ、おまえに似合うんじゃないか?」

 すごい発見をしたって嬉しそうな顔で俺の胸に服を当てる。落ち着いた色あいの襟付きのシャツだ。俺がよくカットソーと合わせていたのを覚えていてくれたのかもしれない。

「おお、いいかも」
「だろ、絶対似合うよ。俺、これ買ってくる」
「え、おい」

 高山はさっさとレジに行くと会計を済ませて戻ってきた。

「もらってくれる?」

 イケメンが顔を誇ろばせながら、でもちょっと不安そうな目で俺を見るんだ。ぎゅうううって心臓を掴まれたみたいな感覚になる。こいつ、こんなにかわいい奴だったか? つい首のあたりに継ぎ目がないか探してしまいそうになる。偽物なんじゃないかって。

「もらっていいの?」
「当たり前だろ」

 高山にプレゼントするのを躊躇した自分が恥ずかしくなった。この服を見るたび、しばらく罪悪感で苦しみそうだ。

「お腹空いてる?」

 日が落ち、あたりが暗くなり始めた頃、腕時計を見ながら高山が言った。昼に食べたカレーがまだ腹に残ってる感じがする。それにもしこのあとホテルに行くなら、腹パンパンだとやることやりにくくなりそうだし。

「そんなに空いてない」

 だからとっととホテルなり、どっちかの部屋なり行きたかったのだが、

「そっか。じゃあそろそろ帰るか」

 びっくりすることに高山はデートを切りあげてしまった。

「えっ、もう帰んの?」
「宝生も明日仕事だろ。あんまり遅くまで連れまわすわけにいかないからな」

 イケメンか。いやイケメンだけど。心までイケメンか。俺が女ならコロッと落ちてるわ。そりゃ俺たちは付き合ってまだ1カ月の初々しいカップルでデートは今日を入れて3回しかしてないけど、その前に付き合ってたときはキスはもちろん、フェラだってセックスだってしてた仲なんだぞ。

 なのにどうして大人になった俺たちが、小/学生みたいなお子様デートしなきゃなんないの?

 同窓会のホテルのトイレで俺を抱きしめたのを最後に、高山は手さえ触れてこない。

 俺を物みたいに扱った昔のことを反省しているのはわかるけど、度を越し過ぎてないか? 俺ももう子供じゃないんだけど? 昔と違うって言うなら、一回セックスしてみないと俺も判断つかないんだけど??

 高山には悪気がない。むしろ俺を思っての行動だ。だから俺もなにも言えない。憤懣やるかたない気持ちのまま駅に到着して、高山と改札で別れた。

 3回目のデートが終わったのに、高山が俺に触った回数はゼロ。もちろんキスなし。セックスもなしだこの野郎!




ぺこと先生


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