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ラプラスの悪魔(1/3)

2019.08.15.Thu.
※第三者視点。フェラまで。未挿入

 クラスに一人は変わった奴っていたけど、大学で知りあった神永とその同居人ほど変わった奴らには、まだ出会ったことがない。

 飲み会をした帰りだった。雨が降っていた。方向が同じ数人はタクシーで帰り、女同士は相合傘で駅に向かい、何人かはコンビニ傘を買い、俺はどうしようかと店の軒先で雨が降り続く夜空を見上げていたら、傘を持たない神永が「おつかれ」と俺の横を通り抜けた。

「神永はどうすんの? 傘ないだろ」
「家、近いから」

 そういえば一人暮らししているんだっけと思い出した。

「神永んち行っていい?」

 神永は振り返り、少し考えてから「いいけど」と答えた。雨の中、神永の隣に並んだ。

 神永の家は「近い」と言うわりに少し遠くて、マンションにつく頃には2人ともけっこう濡れた。神永は玄関で服を脱ぎ捨てると洗濯機に放り込んだ。

「先にシャワー浴びといでよ」
「いいの?」
「服貸すよ」

 お言葉に甘え、俺も玄関で服を脱いで、手前の浴室でシャワーを浴びた。脱衣所の洗濯機の上にタオルと、着替えが置いてあった。パンツはまだ封を切ってない新品だ。こりゃ買って返さなきゃな。

 明かりがついている奥の部屋へ行った。普通のワンルーム。ベランダの前にベッドがあって、手前に小さいテーブルとテレビ、座椅子。壁には天井まである本棚。神永は座椅子に座ってテレビを見ていた。

「ありがと、すげえ助かった」
「うん。俺もシャワー浴びてくる。適当にくつろいでて」

 立ちあがった神永の横に人がいることに初めて気付いた。誰かいるなんて思わなかったし、聞いていなかったから驚いた。

 挨拶しなきゃ、と顔を作って声を出そうとした時、ある物が目に入って固まった。

「ああ、この人なら気にしなくていいから」

 言葉を失って硬直している俺に言って、神永は浴室へ向かった。シャワーの音が聞こえてくる。俺もさっきシャワーを浴びたばっかなのに背中に冷や汗が流れた。

 神永が「この人」と言ったのは、俺らより少し年上の二十代前半ぽい男。男は無表情に俺を見ていた。異常なのはその格好。男は全裸で、黒い首輪をつけていた。

 20年という人生経験のなかで得た色んなヤバい情報が頭のなかをグルグル回った。これ監禁だよな。SMプレイなのかな。神永は危険人物で、俺殺されちゃうんじゃないかな。とか。心臓バクバクさせながら立ち尽くしていたら、首輪の男が「とりあえず座ったら?」と声をかけてきた。

 そこ普通なんだ。普通に会話してくるんだ。

 神永の尻の形に合わせて凹んだのだろう、年季の入った座椅子に座ろうとしたら、男に「そこはだめ」と止められた。なので玄関に近い手前に座った。

 あ、座っちゃった。神永がシャワーのあいだに帰ったほうが良かったんじゃないかこれ。今からでも遅くない。やっぱ帰ろう。ここは怖い。

 腰を浮かしかけたら「秀人の大学の友達?」と男から話しかけられた。軽く自分の紹介とか全裸で首輪の説明とかしてくれたらすごく助かるんだけどする気はないみたいだ。俺からも聞きにくい。

「まあ、はい」
「学校の秀人ってどんな感じ?」
「どんなって、普通の。ああ、神永は静かなほうですかね。落ち着いてるっていうか」
「だよね。そこがかっこいいんだよね。モテるでしょ」
「えっ、いやあ、どうかな」

 パッと見、雰囲気イケメンなんだけど、ほんとに静かっていうか口数少なくて沈黙が苦じゃない奴だから、あんまり女の子と発展しにくいタイプだ。実際、付き合ってる子を過去も現在も俺は知らない。

「えーっと、神永の、お兄さん? ですか?」

 こんな得体の知れない男と過ごす異様な空間が耐え切れなくてついに訊ねた。

「あははっ、こんな格好のお兄さん嫌でしょ。君の兄弟は全裸で首輪してんの? してないでしょ。俺は秀人の奴隷だよ」

 奴隷だよって、軽い口調で言われても。

「奴隷って、あの、奴隷ですか?」
「ほかの奴隷を知らないけど、秀人の命令には絶対服従の、あの奴隷」

 首輪から伸びるリードを持ち上げて、奴隷のお兄さんは笑った。とりあえず監禁とか犯罪系じゃない。プレイだ。合意の上での奴隷プレイ。神永も俺に見られてよく平気な顔していられるな。そもそも家に呼ぶなよ。行きたいって言われても断れよ。でも断らないとこが神永っぽい。とりあえず俺をプレイに巻きこまないで欲しかった。

 ということは、神永ってホモだったのか。そんでSM好きで奴隷飼っててS側なんだ。今まで知らなった意外な一面。猥談にも乗ってこないから淡白だと思ってたのにむしろ別次元までステージ進ませてたから興味なかっただけなのかよ。

「お、俺やっぱそろそろ帰ろうかなー」
「ゆっくりしていきなよ。秀人が友達連れて来るなんて初めてなのに」

 いやいや。俺の身の安全! 神永に襲われちゃうかもしれないじゃん。

「もしかして怖い? 秀人に襲われちゃうとか思ってる? そんな心配いらないよ。間違っても秀人は君にその気にならないから」
「どうしてそう言いきれるんですか」
「秀人は男が好きなわけじゃないから」
「え、でもお兄さんとSMプレイしてんですよね」
「お兄さんじゃなくて、夏目。SMプレイはしてないよ。この格好は俺が好きでしてんの。俺の全部、秀人のものだってわかって欲しくて。俺は逆らわないからいつでもなんでも命令していいって言ってんだけどね。死ねって言われたら死ぬ覚悟もできてるのに、秀人は俺になにひとつ命令してくれないんだ。冷たいだろ」

 冷たいとかじゃない。この人をなにに分類したらいんだ。押しかけ系ストーカーマゾ? 神永もどえらいもんに好かれてしまったんだな。

 そこではたと気付いた。なんでも命令を聞くなら、「出て行け、付き纏うな」と命令すればいいのでは? いや、こういう人はそれとこれは別って言って結局聞いてくんないんだよな。

 シャワーの音が止んで神永が戻ってきた。冷蔵庫から缶酎ハイを二本取り、一本を俺に渡すと座席に腰をおろした。夏目の分はない。

 夏目は神永の背後にまわり、濡れた神永の頭を拭き始めた。されるがままの神永は無頓着に酎ハイを飲む。夏目の存在すら目に入ってないみたいに振る舞う。このふたりはいつからこういう関係なんだろう。

「神永がシャワー浴びてるあいだに、そこの夏目さんと話してたんだけど」
「ああ、そう」

 家に奴隷がいることへの説明も釈明もする気はないみたいだ。

「神永の奴隷なの?」
「自称だよ。俺はそんなの求めてない」
「どこで見つけたの?」
「実家。もともと家が近くだった」
「あー、え? 幼馴染み的な?」
「そう」

 もっと自分からペラペラしゃべってくれれば楽なのに。なんで全部俺から質問せにゃならんのだ。

「いつから奴隷なの?」
「半年前……ぐらい?」

 後ろの夏目へ問いかける。夏目は「そうだね」と頷いた。

「なにきっかけで?」
「急にやってきて俺の奴隷にしてくれて言いだしたんだ。さすがに面食らった。意味わかんなくて」
「で、神永はどうしたの?」
「奴隷なんかいらない、帰れって言った」
「そしたら?」
「ここに置いてくれって泣きだしたから、仕方なく家に入れた」

 いやいや、普通入れんだろ。俺だったら何がなんでも追い出すわ。それか実家に連絡して夏目の親に引きとりに来てもらうわ。でもそれを受け入れるところも、なんか神永っぽいと納得させられてしまう。なんなのこいつの懐でかいキャライメージ。

「俺、お風呂掃除してくるね」

 首輪からリードを外すと夏目は風呂場へ行った。自分で取り外し自由の拘束って意味ないじゃん。

「あの人、家事やってくれんの?」
「料理上手だよ」
「へー、べ、便利だね(?)」

 神永は目を伏せてフフと笑った。自分でもなにを言っているのかよくわからなかった。

「今日泊まっていけば? 朝ご飯食べていきなよ」
「いいの?」
「いいよ」

 そう言うなら泊まって行っちゃおうかな。俺に危害が加えられることはないようだし。外はまだ雨が降ってるし。神永たちの妙な関係もちょっと興味あるし。夏目が作る朝ご飯も食べてみたい。

「あ、でも布団が」
「大丈夫。あの人に取ってこさせるから」

 どこから?

 風呂掃除を終えた夏目が戻ってきた。

「今日泊まるから、俺が前に買った布団持って来て」

 神永が夏目に言う。

「あ、お泊りするの? すぐ持ってくるね」

 夏目は季節外れのコートを羽織ると外へ出て行った。

「えっ?」
「あの人、隣に部屋借りてるんだ。寝泊りはしてないけど」
「えっ。なにそれ。神永がいるから、越してきたの?」
「うん」
「怖くない?」
「怖くは、ないかな。もう慣れた」

 慣れってこええ。しばらくして布団を抱えた夏目が戻ってきた。




ハレルヤ ベイビー 1


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