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インモラル 5

2019.07.31.Wed.
兄の仕事。

※殺し

 雇い主から仕事を頼まれ、他県に赴いた。相手も馬鹿じゃないようで、最初に聞いていた場所はもぬけの殻。おかげで余計な時間がかかった。弟のためのお土産を物色しながら、今回のターゲットの足取りを探った。

 見つけたのはこっちへ来て3日目。雇い主の息がかかった連中がいる繁華街から抜け出せない程度には馬鹿らしい。おかげでこっちは助かるわけだが。

 組から金を持ち出して逃げおおせると思う時点で、この世に生きてる資格がない。

 金をちらつかせて転がり込んだ風俗嬢の部屋に、そいつはいた。出勤前の嬢と乳繰り合ってる最中、部屋に忍び込んだ。突如現れた俺を見て、そいつはすぐ組の回し者だと悟ったようだ。

 女が悲鳴をあげる──その前に口を封じた。可哀そうで気の毒な女。だから何が起きたのかわからないうちに絶命させた。苦痛も感じなかったはずだ。

 男は逃げようと一瞬考えて窓に目をやった。ここがマンションの五階だと思い出し、今度は武器になりそうなものを部屋のなかに探した。逃亡中のくせに獲物の用意もしていない。萎れかけたペニスに呆れる。

 こんな奴のせいで哲郎は一人で留守番を強いられた。ちゃんと食事と睡眠を取れているだろうか。

「金はいくら残ってる」
「てめえ、蝉丸か」
「俺を知ってるのか」
「組長お抱えのヒットマンだろ。噂は聞いてる。やっとそのツラ拝めたぜ。何十人って殺ってんだろ。どんなサイコ野郎かと思ったら、ただ背がでけえだけの優男じゃねえか。てめえ本当に蝉丸か?」
「証明する術はない。必要もない──ちょっと待て」

 ポケットでスマホが震えた。哲郎からの着信。いまは学校のはず。なにかあったのか?

「どうした?」

 哲郎からの連絡はどんな時も無視できない。

『あ、お兄ちゃん? 仕事まだ終わらないの?』

 背後から聞こえる物音、複数の話し声。学校にいるのは間違いない。そうか。いまは昼休みか。

「もうすぐ終わるよ。それよりちゃんとご飯食べてるか?」
『食べてるよ。お兄ちゃんが用意していった作り置きがなくなったから昨日はハンバーガー食べた』
「ジャンクフード! まあ今回は仕方ない。俺がいないからってハメ外しすぎるなよ。夜更かししてないか?」
『もう子供扱いしないでよ。ひとりでちゃんと留守番してるから』

 まだ小/学生だった頃、テレビの心霊特集を見た哲郎は、ひとりじゃ怖くて眠れないと、数日俺と一緒に寝た。仕事で家をあけるとき、哲郎をひとり残していくのが不安になるのは、この出来事も影響している。俺がいなくて、ベソかいてやしないかと。

「今夜戻るよ。なにが食べたい?」
『オムライス』
「おっけー。フワフワ卵のオムライス作ってやるな」

 ずっと俺の隙を狙っていた男が玄関に向かって飛び出した。男の顔を蹴った。男が壁まで吹っ飛ぶ。行かせるわけない。

『なんの音? すごい音したけど』
「なんでもないよ。お土産楽しみにしてな」
『うん。早く帰ってきてよ。じゃあね、お兄ちゃん。気を付けて』

 俺が心配で電話してきてくれたのかな。ときどきすごく甘えん坊になるし、俺の声が聞きたくなったのかもしれない。どっちにしろ俺の弟はかわいい。

 スマホをポケットに戻し、男に向き直った。時間がもったいない。

「聞いてたよな? 急いでるんだ。金はいくら残ってる」
「しゃんれん、ろっひゃくまん」

 血が流れる口を手でおさえながら、男が不明瞭な声で言う。3600万。使ったのは400万。

「おまえにれんぶやる。らから、おえをみよがしてくえ」
「金はいらないし見逃さない。お前は売れる臓器を全部抜かれて死ぬ」

 男が鬼の形相で俺にとびかかってきた。躱し、背後にまわり、羽交い絞めにした。

「金はどこだ?」
「……ベッドのいた……たのむ、みよがしてくえ……」

 ベッドの下にバックパックが見えた。足で引きずりだす。開いていたチャックから札束が零れ落ちた。俺の仕事はここまでだ。男を締めあげ、気絶させた。処理専門の奴に電話をし、そいつに引き渡した。

 組に金を持って行き、スーパーに寄ってから哲郎の待つ家へ帰った。腕によりをかけて、愛情たっぷりのオムライスを作ってやろう。





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