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とどめを刺されたい(2/3)

2018.08.22.Wed.
<前話>

 翌日、隼人は遅れずちゃんとやってきた。あいかわらず俺への態度は悪い。でも女の子への言葉使いは柔らかくなった。それを心がけて自制しているのが見てるこっちにも伝わってくる。

 その不器用さが女の子にはウケているようで、意外に可愛がられていたりする。話しかけられると顔を赤くするところも、ウブな感じで「かわいい」らしい。

 今日も隼人と一緒に車に乗って女の子の送迎をした。客の対応は隼人に全部任せた。そこそこ仕事にも慣れてきたようだ。

 翌日から送迎は隼人一人に任せてみた。俺は店で電話番。五木から隼人はどうしてる?と電話があった。

「こんな仕事楽勝だってさ」
『舐めてんな。あの馬鹿しっかり管理しろよ』
「俺の言うこときくと思ってんの?」
『お前は店長だろ』

 言いたいことだけ言うと五木は電話を切った。今日、こっち寄るのか聞きたかったのに。寄れたとしても隼人がいたら二人になれない。あいつほんと邪魔だな。

 二週間も経つと隼人の仕事ぶりも板についてきた。女の子を乗せて指定場所へ行き、客に説明する。そして女の子を乗せて帰ってくる。俺の指示通りに動くだけなので、馬鹿でもできる。

 隼人は目に見えて調子に乗るようになった。店の管理も自分ができると言いだした。

「俺が仕事捌くから、お前がドライバーやれよ」

 俺より小さいくせに顎をあげて俺を見下ろそうとする。

「あのさ、北川くん、五木さんからドライバーで雇われたんだから……」
「お前、AV出てたんだってな?」

 隼人が勝ち誇ったように粘ついた笑みを見せる。俺は一瞬、思考が停止した。

「ヒロミから聞いたぜ。女装して男にヤラれてたんだろ?」

 うちで契約してるヒロミ。AV女優だったが仕事が減って引退し、こっちで働きながら婚活をしている女。そこそこ業界に長くいたから、俺のこともどこかから流れ聞いて知っているんだろう。

「お前はデリで体売ったほうがお似合いだよ」

 なあ、と俺の肩を小突く。年下の。破門寸前の下っ端やくざに。どうしてこんな真似されなきゃいけないんだ。

「ホモのデリヘル枠作ったらいいんじゃねえか? 今度五木さんに言ってやるよ。お前もちんぽしゃぶりてえだろ?」

 ニヤついた隼人に顔を覗きこまれて手が出そうになった。こんなのでも一応やくざだ。隼人を押しのけて部屋を出た。閉まる扉の隙間から「職場放棄か、おい、ホモ野郎」って声が追いかけてきた。あいつまじぶち殺してえ。

 エレベーターから五木に電話をかけた。もちろん一回目では出ない。何度も何度もかけ続けてやっと『うるせえ』って不機嫌な声と繋がった。

「俺、もう無理」
『……何がだ』
「隼人だよ、あの馬鹿の相手もうやだ」
『やだとかわがまま言うな』
「俺が女装してAV出てたこと、ヒロミがあの馬鹿に言ったらしい」
『隼人にバレて絡まれたか』
「ホモのデリヘル枠作れだってさ」
『いいな。将来的にホモ専用も作るか』
「ふざけんな、おい」
『ふざけてんのはお前だ。隼人に絡まれたくらいで俺に電話してくるな。お前は管理職だろうが。そのくらいてめえで処理しろ』
「あんたはオーナーだろ。最近ぜんぜんこっちに顔出さねえじゃん」
『隼人がいるからな、あいつの相手は面倒臭い』

 と笑う。俺には自分でなんとかしろと言うくせに。

「ずりい」
『あいつ一人手懐けられねえなら仕事辞めろ。ホモビデオの仕事斡旋してやるから』

 イラついた口調に変わった。突き放されて、俺は言う言葉を失くす。これ以上なにか言ったら五木を怒らせることがわかっている。

「あんたには頼んねえよ!」

 切られる前にこっちから通話を切ってやった。マンションの周りを少し歩いた。頭が冷えてから部屋に戻った。ニヤついた隼人と目を合わさず、パソコンを置いてあるデスクに座る。

「このあと水樹さん迎えに行ってもらうから。そのまま客んとこ届けて」
「今度五木さんに会ったとき、ホモのデリヘル作るように頼んどいてやるからよ」

 五木に避けられてるくせに何言ってんだ。こんな馬鹿、まともに相手にしちゃ駄目だ。

「ここでも女装していいんだぜ? なあ、ホモのオカマちゃん」
「無駄口叩く暇あったらすぐ出てくれる? 水樹さん、待たされるの嫌うから」
「カマ野郎が俺に偉そうな口叩くんじゃねえよ、ホモとか気持ち悪いの我慢してやってんだぞ」
「そんなに気持ち悪いホモにわざわざ絡むって、もしかして愛情の裏返し? 俺のこと好きなの?」

 我慢できずに言い返したら鉄拳が飛んできた。すごい衝撃に椅子から転げ落ちる。

「次そんなふざけたこと言ってみろ、ぶっ殺すからな」

 普段の高めの声じゃなく、ドスの効いた声で言うと、隼人は車のキーを掴んで部屋を出て行った。扉が閉まり足音が聞こえなくなってから、いつの間にか止めていた息を吸いこんだ。

 殴られた頬が痛い。もうすでに腫れているのがわかる。歯に当たった唇も痛い。舐めたら血の味がした。

 年下の隼人に侮辱されて殴られたことへの怒り。あれを俺に押しつけてどうにかしろと突き放す五木への怒り。

 あの薄情者! 自分の店だから顔を出すって言ってたくせにぜんぜん来ないし。何かあったら電話しろって言ったくせに力になってくれないし。おかげであのチビに酷いこと言われるわ殴られるわで、散々な目に遭った。

 たまたま女の子たちが出勤してくる前で良かった。隼人のことはかわいがっているが、暴力の瞬間を見たらさすがに見る目がかわって怯えてしまう。

 冷蔵庫から保冷剤を出して頬に当てた。あんなの手懐けろって無茶な話だ。あっちはこっちを一方的に毛嫌いしてるんだからどうしようもない。
 


 隼人に殴られて一週間。頬の腫れは引いたが、あいかわらず隼人の俺への侮辱は止まらない。女の子たちの前でも俺をホモだのオカマだのと罵る。

 事情を知らなかった女の子たちにも知れ渡ることになり、俺のあってなかったような威厳は地の底へ落ちた。

 最近では仕事を頼むと「あたし疲れてるから店長かわりに行ってよー。慣れてるでしょ」なんて言われる始末。待機時間にはネットで見つけてきた俺の動画を鑑賞してみんなで笑い物にしている。

 胃が痛い。レンタルビデオ店で働いた時は漠然とした将来の不安というものはあったが、こんなふうに胃が痛くなったり、夜眠れなくなったりすることはなかった。

 給料は良くてもレンタルビデオ屋で暇な店番してたほうがよっぽどマシだ。

 この仕事向いてないのかもしれない。辞めたい。でも隼人にいじめられて逃げるみたいで嫌だ。踏ん張るべきか、辞めるべきか悩む。金に不自由するのは嫌だ。いまの収入を維持できる仕事なんて俺には見つからない。贅沢な悩みなんだろうか。俺が甘すぎるんだろうか。

 悶々と悩んでさらに数日経ったある日、送迎に出た隼人から『トラブッた』と電話がかかってきた。

「トラブルって、どんな?」
『プレイのことで客が怒ってる。とりあえず責任者呼べって。一応お前だろ、オカマ店長』
「場所どこだっけ?」

 隼人から聞きだしたホテルへ急いで向かった。

 ホテルの前に隼人が腕を組んで立っていた。トラブッたと言うわりに、顔がニヤついているのが気になった。

「客は?」
「なかで待ってる。来たらすぐ来いだってよ」
「女の子は?」
「車にいる。俺らは先に帰ってるぞ」

 部屋番号を聞きだして客が待つ部屋へ急いだ。隼人のことだ、客相手にとんでもないことをやらかしているかもしれない。まさか手は出していないと思うけど、ありえないことでもないから怖い。隼人に殴られた頬を押すとまだ地味に痛む。警察とか治療費とか、良くないワードが頭に浮かぶ。

 部屋の戸をノックした。中から中年男が出てきた。

「失礼します。私が店長の──」
「知ってる。ミワちゃんだろ」

 男の唇が左右につりあがった。絶句する俺の腕を男が掴み、ベッドへ押し倒した。



「前に利用したとき、ドライバーさんに男とできる特別コースがあるって教えてもらったんだよね」

 男は俺を犯しながらベラベラと喋った。

「興味あったからネットでミワちゃんを探してみたら、好みだったから指名することにしたんだ」

 男のちんこが俺の中を出たり入ったり。俺はシーツに顔を押しつけて、苦痛の声を殺した。

「できれば女装して来てほしかったけど、それはオプションで高くなるから我慢したんだ。でもやっぱお金払ってでも女装して来てもらえばよかったな。いまのままでも可愛いけど、女装したほうが絶対かわいいよ。一万円でなんでもさせるなんて、ミワちゃん自分を安く売りすぎだよ。お買い得で客からしたらラッキーだけどさ。中出ししたあと、お掃除フェラしてもらって、そのあとオナニー見せてね。その間に復活させるから、今度はイマラチオでごっくんお願いね」

 顔を布団に押しつけてるからちょっと酸欠気味なのか、頭がボーッとして、男が言ってることの内容がよく理解できない。自分の状況がわからない。これってAVの撮影だったっけ? いや、違う? 五木に騙されて、脅されて動画撮らされてんだっけ?

 ズコズコと後ろから男が腰を振ってくる。無遠慮に、公衆便所が如く中出しされて、俺は自分がどんな人間だったか思い出した。

 そうだ、俺、五木たちに輪姦されて、ただの肉便器になり果てたんだった。

「イッちゃう……、おまんこされて、あたしもイッちゃう……っ」

 五木たちに教えられた台詞。呪文のように唱える。俺のちんこは縮こまっている。射精の兆しはまるでない。

 言葉を聞いて男は喜んだ。引き抜いたちんこを俺の口に押しつける。俺は口を開いた。





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