FC2ブログ

とどめを刺されたい(1/3)

2018.08.21.Tue.
<「ちょろい」→「やっぱちょろい」→「ちょろくない」→「生温い」>

※無理矢理モブ姦、暴力描写あり


「じゃ、水樹さん、行きましょうか」
「ハーイ」

 って気のない返事の女の子を車に乗せて指定の場所へ進路を取る。

 五木からデリヘルの店長という名の雑用係を任されて早三ヶ月。最初の一カ月は一日一件オーダーが入ればいいようなほど暇だったが、今では毎日コンスタントに依頼がきて俺一人ではそこそこ忙しい。

 そろそろドライバー雇ってくれって五木には頼んである。そのうち用意するって言われてけっこう経つ。あいつは意外と約束は守る男なので俺からせっつく真似はしない。

 こっちの仕事と、AV企画の仕事、二足の草鞋を履いてる状態じゃ、一日24時間じゃ足りないだろう。この前久しぶりにこっちに来たと思ったらずいぶん疲れた顔をしていた。

「1時間経ったら起こせ」

 って待機部屋のソファに寝転がって寝始めるし。出勤した女の子が五木の寝顔を見て「オーナーかわいい」って写メ撮ってた。悪夢でも見てんのかって苦悶の表情を浮かべる五木のどこがかわいいのか。女の子の独特の感覚は俺にはわからん。

 店で働く女の子のほとんどは五木が見つけてきた。最初はAV企画会社のツテで女の子をレンタルしていたが、今はほとんどがうちと契約した子ばかりだ。

 かわいい子、美人な子、清楚な子、ギャルっぽい子、お姉さん風に、ロリ風まで、幅広いくせに粒ぞろい。「あなた好みの子がきっと見つかる」それがいまのうちの店の売り。

 店の評判が書きこまれるデリヘルの掲示板では、俺がサクラで書きこまなくてもうちの店を利用した客からの評判はいい。

 女の子は五木が個人的に知りあった子とか、本業のほうで知りあったAV志望の子をこっちへ引き入れているらしい。AVだと映像として一生形に残るが、デリヘルだとその心配はない。AV出演をまだ迷っていそうな子、向いてなさそうな子に、本番なし、自分の都合のいいときに短時間で稼げるデリヘルを勧めているのだそうだ。

 そこから女の子を引き抜いた時は、もちろん紹介料として企画会社かAV女優のプロダクションへいくらか払っている。さらにこの店の売り上げも、何割か上部団体へ吸い取られている。

 パソコンを見て五木が不機嫌にため息をついている時はたいてい金の勘定をしている時で、自分の懐から掠め取られる金の計算をしてむかついているのだろう。

 指定されていたホテル付近についた。客の姿がないので電話を鳴らす。電柱から男が出てきた。車をおりて、禁止事項やプレイ内容、料金等の確認を男にしてから女の子を引き渡した。

 一時間コース。近くの駐車場で待つ間、支給されたパソコンで新しいメールがきていないかチェックする。それが終わるとスマホでゲームをして待つ。仕事用の携帯電話が鳴った。店にかかってきた電話がこっちに転送されたようだ。営業用の声で電話に出る。水樹の指定客。いま入ったばかり、移動時間を考慮して二時間後になることを伝えた。それで良いという返事。二時間後にまた電話をすると言って切った。

 やっぱりそろそろ俺一人では限界だ。五木を信じて待っていたが、もう一度俺から催促してみよう。



 二件の仕事を終え、水樹と一緒に部屋に戻って来たら五木がいた。車のなかではずっと煙草を吸いながらスマホを弄っていた水樹が五木を見ると黄色い声をあげた。

「五木さんの嘘つき! ぜんぜんこっち来てくれないじゃないですか」
「ごめんごめん、あっちの仕事が忙しくて」
「どうせ女の子の相手が忙しいんでしょ」
「仕事行ってきたの? ご苦労さま」

 って、労わるように水樹の背中に手を当てる。その時の五木ときたら。俺が高校生の時に初めて会った時と同じ。本性隠して、作った笑顔と、偽りの優しい声。水樹は簡単に騙されて「疲れた~、甘いもの食べたーい」って五木にねだっている。はぐらかされたことにも気づいてない。

 五木が俺を見た。はいはい、俺に買って来いって言うんだろ。椅子から腰をあげかけた時、トイレから水の流れる音がした。他に誰が?

 戸が開いて男が出てきた。小柄な男。まだ二十歳前後に見える。金色の髪の毛、眉毛がなくて、目付きが悪くて、いかにもチンピラって感じの男は、俺に気付くと下から睨め付けてきた。

「なにメンチ切ってんだコラ」
「えっ、いや」

 素っ頓狂に高い声が、これまた定番の文言を言うもんだからおかしくて笑ってしまいそうになった。笑うと面倒な絡み方をされそうだから必死に堪える。

「隼人、頼めるか」

 五木がチンピラに声をかけた。隼人と呼ばれたチンピラは毛のない眉根を寄せて五木に目をやった。

「何をだよ」
「近くのコンビニ行って甘いもの買ってきてくれないか」
「なんで俺がそんなパシリみたいなことしなきゃなんねんだよ」
「水樹ちゃんが甘いもの食べたいんだって」

 五木の横にいる水樹が隼人に笑顔で手を振る。隼人は顔を赤くして、ぎこちなく目を逸らした。あまり女の子に免疫がないタイプらしい。

「なんで俺が」
「頼むよ。釣りは取っといていいから」

 五木が財布から出したのは1万円。隼人の目が金に縫い付けられる。ぶつくさ文句を言いながらも一万円を受け取ると部屋を出て行った。

「五木さん、なにあの子」

 水樹が俺の気持ちを代弁する。

「あれ、新しいスタッフ。北川隼人」
「何歳?」
「21歳」
「野良ネコみたいな子だね、かわいいー!」

 あれがかわいい? やっぱり女の子のかわいい基準は俺にはわからん。

 十五分ほどで隼人が戻ってきた。コンビニ袋いっぱいのスイーツ。どんな顔してこれをレジに持って行ったんだ。水樹に誘われて隼人も一緒にチョコレート菓子を食べている。隣に水樹がいるから緊張しているのか、床に正座してるのが笑える。

 俺と五木はそんな二人を手前の部屋から見ていた。

「あれが新しいドライバー?」
「しばらく横についてやってくれ」
「大丈夫なの、あいつ」
「他にどこにも行くとこねえからな。それはあいつもわかってるから、なんとかやるだろ」
「どっから拾ってきたんだよ、あれ」
「うちのアシスタントで入ってきたんだが、元は組事務所の部屋住みだ。あいつの兄貴分がパクられて、一人じゃシノギの才能がなくてな、あちこちたらい回されてこっちに押しつけられた」
「お荷物じゃん。ほんとに使えんの?」
「車の運転はできる。いないよりマシだろ」

 確かにそうだ。言ってしまえばキャストの送迎は誰にでもできる。あの頭の悪そうなチンピラでも、運転ができればこなせる。

「でもあいつ、女の子の管理できるかな。いまも顔真っ赤じゃん」
「ここでも使えなかったら破門になるって話だ。商品に手を出して追い出されたらどうなるか、あの馬鹿も理解してるはずだ」
「盃もらってんだ、あんなのでも」
「あんなのでも一応組員だから、それなりの対応しとけよ」
「面倒臭いなあ」

 五木はパソコンで予約状況を確認したり、売り上げやら金の計算を始めた。売り上げは右肩上がり。俺の給料もレンタルビデオ店で働いていた時の倍はもらってる。でも隼人が来たらその分人件費が増える。いまより稼がなきゃいけない。

 別の女の子が二人出勤してきた。五木の指示で、隼人と一緒に送迎に出かける。運転は隼人。俺は助手席。後部座席に女の子。

 運転しながら隼人に仕事の注意事項を伝える。チンピラにしか見えないくせに、やくざのプライドだけは高いみたいで、俺から指図されるたびにいちいち文句をつける。

 後ろの女の子たちが委縮するじゃないか、と思いきや、隼人の虚勢を見抜いているみたいでクスクス笑っている。

 一人目の客の自宅についた。隼人を連れて客に説明をする。客は隼人に睨まれて怯えるというより戸惑っていた。やはり迫力に欠けるのだろう。

 二人目をホテルへ届けた。また俺が客に説明をするところを隼人に見せた。待機部屋に戻る車のなかで、ドライバーの心得を言ってきかせた。

 とにかく大事なのは安全運転。女の子は商品、大事に扱い、下心を持たないこと。客を威圧するのは駄目。でも舐められても駄目。

「北川くんみたいにさ、誰彼構わず凄んでたら逆に舐められると思うよ」

 思ったことを素直に伝えたら案の定隼人はキレた。

「そうやってすぐ逆切れするのもよくないと思うよ」
「てめえ、俺を誰だと思ってんだ?! お前みたいなもんが馴れ馴れしく口きいてんじゃねえぞ!」
「客相手にそういう威嚇は絶対駄目だかんね。とくに北川くんは構成員なんでしょ。警察行かれたら即捕まっちゃうよ」
「お前、やくざが怖くねえのか?!」
「怖いよ。でも一緒に仕事するんだから、ちゃんと教えなきゃいけないし。ここクビになったら破門なんでしょ?」

 隼人はハンドルをグッと握って下唇を噛んだ

「兄気がパクられなきゃ、こんなとこ好きでいねえよ」

 ばかばかしい気持ちで窓の外に目をやった。こっちだって好きで一緒に働くんじゃない。面倒なお荷物を押しつけられたから仕方なく、だ。



 二人をピックアップしてから待機部屋に戻った。五木と水樹がソファに座ってテレビを見ていた。今度は水樹の送迎を頼まれた。

 また隼人と一緒に店を出る。隼人の運転で待ち合わせ場所へ向かう。今度は隼人が客に禁止事項などの説明をした。覚えていない箇所は俺が付けたし、フォローした。

「こんな簡単な仕事、楽勝だろ」

 水樹を待ってる間、こんな言葉が飛び出した。すぐ調子にのるタイプらしい。

 水樹は今日はもう終了なので仕事が終わると自宅近くまで送り届け、俺たちは店に戻った。五木は両手に女の子をはべらせてまだテレビを見ていた。

「今日の営業はもう終わりにして飯でも行くか」

 五木の提案で四人で食事に行くことになった。女の子たちのリクエストで焼肉。隼人は飢えた餓鬼のようにガツガツと食べた。遠慮ってもんがないのか。

 駅前で女の子たちとは別れた。隼人はどうしていいかわからないと言う顔で俺と五木を交互に見た。

「隼人ももう帰っていいぞ」

 五木の言葉に曖昧に頷く。

「どうした?」
「……兄貴といる時、こんなぬるい一日なんてなかったからよ。ほんとにこれでいいのかよ」
「なにを期待してるんだ」

 五木が苦笑する。

「迷惑な客をぶん殴るのが俺の仕事じゃねえのかよ」
「手は出しちゃ駄目だ。よっぽと悪質な客じゃねえ限り、こっちが悪くなる。隼人がパクられたら俺が上から怒られるんだから、下手な真似してくれるなよ」
「ただ車運転して、女とだべって飯食って、こんなうまい話があるのかよ」
「あるんだよ。隼人がちゃんと仕事してくれりゃ、それなりに給料も出る」
「金ももらえんのか。兄気といた時、どうしても食えねえ時は当たり屋やって、体ボロボロにしながらやっと金もらってたんだ。うまくできねえと兄貴から殴られたりしてよ」
「うちはそこまでの肉体労働じゃない。ちゃんと仕事さえしてくれりゃ殴ることもない」
「まじかよ」

 隼人は茫然と呟いた。今までどんな生活を送ってきたんだ、こいつは。

「五木、さん、俺をあんたのショーファーにしてくれよ」

 目を輝かせ、隼人は前のめりに言った。

「ショーファーなんか必要ねえよ。それに隼人、お前今日飲んだだろ」
「次から絶対飲まねえよ。五木さんの足になるからさ、俺のこと好きに使ってくれよ」
「必要な時は呼ぶよ。それまではデリヘルのドライバー頼むぜ」
「任せてくれよ」

 なんか俺、蚊帳の外なんですけど。隼人の眼中にはもう五木しかない。俺のこと忘れてんじゃないだろうか。

「五木さんはこのあとどうするんだ?」
「俺は……」

 五木の目が俺を捉える。いつもの流れなら、五木の自宅で飲み直すかセックスするか。でも今日は隼人がいる。

「今日は帰る」

 帰るという五木に、隼人はついて行くと言いきった。

「五木さんの家を知ってなきゃ迎えに行けねえからな」

 ということらしい。結局押し切られるように、五木は隼人と一緒にタクシーに乗って帰っていった。いつもだったら隣にいるのは俺だったのに。店に五木がいるのを見た時から期待に下心が膨らんだ。発散する場所を失ってこの熱をどう処理すればいいんだよ。こんなことなら運転手なんかいらねえよ。




偲べば恋 2


関連記事
スポンサーサイト
[PR]