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愛で殴る(2/2)

2018.08.28.Tue.
<前話>

「一緒に気持ちよくなろうよ、先生」
「う、わ、お前、なに擦りつけてんだっ」

 尻に固いものが当たる。

「優しくするから」
「ちが、そういう問題じゃ」
「だから、早く、俺のこと好きだって言ってよ」

 言えるか。言ったらもう俺、超絶うっとうしい男になる。毎日だってキスしたいし、好きだって言いたいし言って欲しいし、おはようからおやすみまでメールとか電話したいし、休みの日はずっと一緒にいたいし、異性だろうが同性だろうがこいつに近づく奴全員に嫉妬するし、独占欲半端ないし、束縛だってしたい!

 前島と付き合っている時、無理して我慢してきたものが、こいつと付き合ったら全部爆発する。自分でわかる。

「う、ううっ、もう、その手やめろって」
「先生、乳首弱いんだね? 開発する必要ないくらい」

 それを確かめるように水沢が俺の乳首を弄る。前島は淡白な男だった。性的に強いほうじゃなかったんだと思う。仕事で疲れてるんだとセックスの誘いを何度も断られた。セックスは月一程度で、しかも前島は早くてすぐ終わった。一晩に二度なんて絶対なくて、俺がイケないまま終了することも多々あった。

 自然と一人で処理することが増えた。中途半端に火照った穴におもちゃを突っ込んで、前島にして欲しいこと言って欲しいことを想像しながら自分でやった。そのせいですっかり乳首は性感帯に育った。

「もともとここ、自分で触ってたの?」
「触ってないっ」
「じゃ、天然? やらしい体してんな、先生」

 ああ、なんてことだろう。俺が妄想していた理想のタチ様みたいなことを言いやがる。

「乳首だけでイッちゃったりして」
「そんなわけあるか!」
「だよね、こっちも触って欲しいよね」
「あっ、違う、そういう意味じゃな……!」

 シコシコシコと勃起を扱く手つきが早くなった。俺の膝はもうガクガク。

「あっ、あ、ばか、やめろ……ッ」
「先生の声、色っぽい」
「変なこと言うな」
「ほんとだって。その声、好き」

 前島と付き合いたての頃、俺はまだ経験が浅くて、とにかく相手を悦ばせるため、ネットで見た動画みたいにアンアンおおげさに喘いでみせた。そしたら「盛りすぎ。気持ち悪い」とバッサリ。以来、前島とセックスする時は声を抑えるようになった。ひとりよがりなセックスだったから、声なんか抑える必要もほとんどなかったわけだけど。

「待っ……、手、止めろ、やばい、出る」
「出す前に言うことあるよね、先生」
「なに……?」
「俺のこと、好きでしょ?」
「またそれか」
「だって先生言ってくれないから」

 どうして言わないとわからないんだ。嫌ならとっくに逃げている。ここまでされるがままなのは、好きって意外、どんな理由があると思っているんだ?

「言ってくれなきゃ、先生の気持ちわかんないよ。このまま続けていいのか不安になる。先生、俺のこと、ほんとはどう思ってる?」

 水沢の言葉にハッとなった。俺が前島に求め、結果与えられなかったもの。好きという言葉だとか、毎日の連絡とかじゃなく、それらがもたらす安心感。本当に俺が欲しかったものはそれだったんだ。

 水沢もそれを求めている。そりゃそうだ。気のある相手から思わせぶりな態度を取られているのに、肝心な言葉は言ってもらえないんじゃ、遊ばれていると思っても仕方がない。

 ただ自分が傷つきたくないために、俺は前島みたいなことを水沢にしてしまっていた。

 前島にはなりたくない。あいつと付き合っていた頃の俺みたいな気持ちを水沢にさせたくない。

 一世一代の勇気を振り絞るしかなさそうだった。

「安心しろ、ちゃんと好きだから」

 首をむりやりひねって水沢にキスする。自分から舌を絡め、水沢の勃起に尻を押しつけた。

「だから、続きはベッドで」

 水沢スイッチが入ったのが手に取るようにわかった。俺をベッドに押し倒すとすぐ馬乗りになってキスしてきた。俺は下から水沢のベルトを外し、ズボンと下着を脱がせてやった。

 ブルンと外へ飛び出したものは年相応にいきり立っていた。刺し貫く瞬間をいまかいまかと待ち構えている。

「先生、もっかい好きって言って」
「さっき言っただろ」
「何回だって聞きたい」
「好きだ」
「もっと」
「好きだ。水沢が好きだ。大好きだ」
「俺も! 俺も先生のこと大好き」

 はたからみたらただのバカップルだろう。それでいい。俺はバカップルに憧れてたんだ。

「待って、ローション持ってきた」

 水沢はポケットからボトルを取り出し手に出した。ベトベトになった手を俺の尻の間に差し込み、指を穴に入れてきた。人に触られるのは久しぶり。ゾクゾクと喜びに震えてしまう。

「ここに今から俺のいれるんだって、すごくね」
「う、うん、すごいな」
「男同士でも繋がって気持ちよくなれるんだよ」
「ああ」
「俺、猿みたいに毎日ヤリたくなるかも」
「ま、毎日はさすがに」
「高校卒業したら一緒に暮らそうよ、先生」
「えっ、一緒に?!」
「先生が嫌がるときはやんないからさ」

 違う。違う、違う。俺が驚いたのは、水沢が当たり前みたいに未来のことを口にしたから。俺がいる前提で。ずっと一緒にいると、言ってくれたから。

「お前、ほんとに俺でいいのか?」
「なに、なんの予防線張ろうとしてんの?」
「じゃなくて、俺、嫉妬深いからな」
「へー! 意外」
「束縛するし、かなりうっとうしいからな」
「上等じゃん。俺も相当重いほうだから」

 束縛したい、されたい。口出ししたい、されたい。もう、我慢しなくてもいいのか?

「別れたくなっても、しつこいからな」
「まず別れたくなんないよ」
「そんなのわからないだろ」
「行動で示して信じてもらうしかないね」

 もういいかな? 独り言みたいに呟いて水沢は指を抜いた。同じく用意しておいたのだろうコンドームの袋を破って装着し、俺に押し当てた。

「もう、先生と生徒には戻れないね」
「とっくにそうだろ」
「たしかに」

 水沢が笑う。笑いながら挿入してきた。比べるなんて失礼な話だが、前島とぜんぜん違う。固さも、太さも、熱さも、大きさも、なにもかも。

「すごい、きつい。先生、大丈夫?」
「大丈夫」
「動くよ?」

 頷いたら水沢がゆっくり動きだした。この年頃ならもっとガンガン腰を動かしたいだろうに、俺を気遣ってそうはしない。本当に俺を大事に思ってくれている証拠だ。

「もっと早くして大丈夫だから」

 ほんと? と目が問う。頷き返したら叩くリズムが早くなった。男らしいものが中を掻きまわす。俺の勃起がブルンブルン揺れる。

「上から見る先生、すっごいエロい」

 気持ち悪がられないよう、口を塞いで声を我慢する。

「何してんの、声聞かせてよ」

 手を剥がされた。

「はあっ、あっ」
「うわ、エッロい」
「や、だ、あ、あんっ」
「先生ってこんなエロかったんだ」
「違う、あぁっ、ああっ」
「しばらくこれをオカズにしよう」
「なに、言って、あっ、奥、だめっ」
「奥いいの? もっと?」

 俺の腰をぐっと掴んで自分のほうへ引きよせた。前島では届かなかった場所をこじ開けられる。

「やめ…そんな、中まできたら……イクッ……!」
「もうイキそう? ほんとに?」

 ガクガク頷いたら「かわいい」と笑われた。

「もうちょっと我慢してよ。一緒にイキたい」

 俺の根元をぎゅっと掴んで悪魔の微笑み。楽しげなピストン運動が始まった。俺にとっては地獄の時間。いや、至福の時間。こんなに快楽を与えられたことなんてなかった。

 口を塞ぐことも忘れて、喘ぎ声を出しまくった。気持ち良すぎて辛くなって、水沢にイカせてと頼んだ。

「だめ、初めてのときはやっぱ一緒じゃないと」

 水沢はなかなかイカない男だった。「一緒」にこだわって俺をイカせてもくれない。確かに水沢は重いというより面倒臭い男かもしれない。俺にはちょうどいい。

「先生、手、離すよ?」
「は、早くっ、イカせてくれ!!」

 水沢の手が離れる。勢いよく精液が飛び出す。水沢は俺の射精の瞬間をじっと見ていた。収まるのを待って、

「このまま二回目してもいい?」

 俺が望んできたものを、水沢はエスパーみたいに読み取って与えてくれる。これはもう愛の殴打だ。ノックアウトされた俺は、だらしない顔で頷くのだ。





例えば雨が降ったなら

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愛で殴る(1/2)

2018.08.27.Mon.
<前話「宙ぶらりん」>

「先生!」

 階段を降りていたら呼び止める声。振り返らずとも誰だかわかる。うちのクラスの水沢。

 水沢は俺の隣に並ぶと、「土曜日、先生んち行っていい?」と囁いた。

「だめ」
「いっつもだめじゃん。いつならいいの」
「来てどうする」
「先生とキスしたり」
「ばか」
「それ以上のこともしたいし」
「男同士だぞ」
「昨日、先生思ってマスかいた」
「そんな報告しなくていいから」
「だって先生のこと好きだし」
「う」
「好きな人にキスしたり触ったりしたいでしょ」
「わ、わかった、土曜日来ていいから」
「やった。約束ね」

 目の前に立てられた小指。水沢はニコニコ顔。若さって怖い。人の目がないことを確認してから水沢の小指に指を絡めた。

「指切りげんまん、嘘ついたら針千本のーます」

 指切った! 冷静に考えたら嘘ついたくらいで針を千本も飲ませられるって代償えぐいな。そんなことでも考えていなきゃ、俺の顔はどんどん熱くなって赤くなってしまう。

 恥ずかしげもない告白。惜しみない愛の言葉。意味のない約束。

 今まで俺が欲しくて、だけど与えられることのなかったものばかりだ。

「じゃあ、先生、土曜日、いつものコンビニで」

 階段を駆け下りて行く水沢の背中を見送る。俺も昔はあれくらい身軽に走れた。後先考えず、自分の欲望のままに、気持ちのままに。

 純粋な水沢を大人の俺に付き合わせていいのかと、何度目かの疑問が頭をグルグルする。

 本当はそんなきれいごとじゃなくて、また捨てられたくないっていうのが本音のくせに。

 ♢ ♢ ♢

「男同士ってやっぱり将来性ないから」

 将来性がないってどういう意味だ。子供産むことか? 男女の恋愛だって子供を作る目的じゃないだろ。子供を持たない選択をする夫婦だっている。だいたい男同士だって付き合う前からわかってんのに、いまさら別れる理由がそれ?! 馬鹿にしてんのか?

 と、3年付き合った前島から別れを切りだされた時、俺は頭の中でたくさんの言葉が浮かんだが全部飲みこんだ。

 前島が、ギャーギャーやかましく言われることを嫌う奴だと知っていたから、自然と我慢を覚えた。

「わかった。そういうことなら、俺がどうこうできる問題じゃないしな」
「君ならわかってくれると思ってた。それと、誰かから聞くより俺の口から知らされるほうがいいと思うから言うけど、年末に結婚する予定なんだ。祝福してくれとは言わないけど、邪魔だけはしないでくれるか」

 読書家で小難しそうな本が家に千冊以上もあって、寡黙で、どんな時も冷静で、俺より5歳年上の落ち着きがあって、論理的で理論的な話し方も、無駄を嫌う合理的なところも、全部俺にはないもので魅力的に見えていたけど、こいつが実は人の心を思いやれない冷血漢で自分優先の自己中野郎で、損得勘定が得意な奴だってことに、この時やっと気付いた。

 いや、今までもそれに気付く場面は幾度となくあった。惚れた弱みで見てみぬふり、気付かないふりをしてきただけだった。

 そんな奴だと薄々気付きながら3年も付き合い、挙句バカみたいな振られ方をした自分が情けなくって情けなくって、しばらく立ち直れなかった。前島は宣言通り、管理栄養士だという女と結婚した。いまでもこうして夢に見るくらいには、引きずっている。

 でも最近は夢に見る頻度は減ってきた。誰のおかげか。水沢のおかげだ。それがわかるくらいには、俺は水沢を意識している。惹かれている。ぶっちゃけ、好き。

 水沢と付き合ったら。水沢は俺の理想の彼氏になってくれそうな気がする。

 前島は「そんなこと言わなくてもわかるだろ」と、滅多に、いやほとんど好きだと言ってくれなかった。セックスの時以外、ベタベタすることを嫌ったし、冗談言っても笑わないし、下ネタなんて挟んだら汚物でも見るような目で見られたし、遊園地デートを提案したら「男同士で行くような場所じゃない」と即却下、挙句俺を子供扱い。

 思い出せば思い出すほど、どうして俺、あんな男が好きだったんだろうと不思議になる。催眠術にかけられていたとしか思えない。

 水沢は俺がしたいこと全部してくれそうだ。言って欲しいことも、俺が頼む前に言ってくれる。

 だからこそ、水沢の言動を間に受けて突っ走ったら止まれなくなってしまう自覚がある。夢中になってから「やっぱ将来性ないし、男同士とかむり」なんて振られたら号泣して縋りつく自信がある。

 前島のときは自制できたものが、水沢との蜜月を経験したあとではできなくなる、それがわかるから、簡単に水沢の気持ちを受け入れられない。

 精一杯ブレーキを踏んでいる。水沢が素直に感情表現してくれる度、ブレーキが壊れそうになる。大きな音を立てて火花を散らせて。ブレーキを踏む足の力を緩めたい誘惑と常に戦いながら。

 そのくせ、水沢と会う約束をするとその日が楽しみでたまらない。家の掃除もせっせとするし、水沢が好きそうな飲み物やスナック菓子を用意したり、楽しめそうなDVDを買っておいたりしている。嫌われたくない。好かれたい。愛想を尽かされたくない。いつまでも好きでいてほしい。

 俺はなんてずるい大人だ。

 ♢ ♢ ♢

 土曜日、水沢をコンビニで拾って自宅へ連れ帰った。車中、俺をじっと見つめながら「いますぐキスしたい」と俺を舞い上がらせる台詞を言う。「運転中だぞ」ってもっともらしいことを言いながら、顔がニヤけそうになるのを必死に止めた。

 部屋に入るなり、水沢は俺に抱きついてきた。

「先生のにおい好き」

 とうなじに鼻をこすりつけてくる。出る前シャワーを浴びておいてよかった。

 水沢の手が腹のあたりでゴソゴソ動いてると思ったら、服の下に手が入ってきた。

「おい、水沢っ」
「触るだけ」
「おっさんの腹なんか触ってなにが楽しい」
「先生の裸を想像してる」
「あ、おい、動かすな」

 水沢の手がじりじりと上へ移動する。触り方が性的でゾクリと体が震えた。

「先生とエッチなことしたい」
「なんてこと言うんだ、お前は」
「好きな人に触ったらしたくなんの、ふつうだろ」

 平気で好きだと言い、平気でセックスしたいと言う。俺が前島に言いたかったこと。言ってほしかったこと。でも言えず、言ってもらえなかったこと。水沢は言うのが当たり前みたいに自分の感情を素直に言葉にする。心臓がもたない。

「あっ、ちょっと」

 水沢の指が俺の乳首に触れた。人差し指でこねまわしたり、押しつぶしたり。簡単にそこが立ちあがる。指でつままれ、引っ張られた。

「も、やめっ」
「やだ」
「ばかっ、シャレにならん」
「シャレじゃないし」

 いきなり股間を鷲掴まれた。手の平で揉むように撫でられる。そこに血液が集まり、固くなっていく。

「水沢! いい加減にしろ」
「先生、俺のこと好き?」
「なっ」

 いまこの状況でそんなことを聞くか?! 嫌いなわけがない。好きだ。好きに決まってる。でも俺がそんなこと言えると思うか?!

 言ったら最後、こいつに全部さらけ出してしまうことになる。年上のプライドとかそんなの関係なく、こいつに夢中になって、みっともない姿をさらすことになる。そのあと、「やっぱ男同士ってない」と振られたら、一生立ち直れない。

 だから、なにも聞かずそのままことを進めてくれたら、口ではやめろと言いながら流されるつもりだったのに。

「どっち? 好き?」
「嫌いじゃ、ない」
「嫌いじゃないなら、好き?」
「どっちだっていいだろっ」
「良くないよ。愛のないセックスなんてだめじゃん」
「ただヤリたいだけのくせに、なにもっともらしいことを」
「違うよ、俺、先生に無理強いしたくないし」

 器用にベルトを外すと水沢の指がなかに侵入してきた。

「それにやっぱ、ちゃんと好きって言ってもらいたいし」

 指先が先端に触れる。ぬるりとした感触。先走りのせいだ。恥ずかしくて死にそう。

「前はゆる勃ちだったけど、今日はすごいね」

 パンツから引っ張りだされた。見なくてもわかっているのについ下を確認してしまう。完全に勃起している。それを水沢が握っている。

「男同士がどうするのか、ちゃんと調べたよ俺」
「そんな時間があるなら勉強しろ」
「俺の、入れていい?」
「駄目に決まってるだろ」
「気持ちいいんだって」
「知るか」

 いや、知ってるけど。そんなふうに耳元で求められ続けたら腰が砕けそうになる。もしかしてわざとか? こいつ、知っててわざとやってんのか?!





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宙ぶらりん(2/2)

2018.08.26.Sun.
<前話>


「何時に帰る?」

 そろそろ日が沈むころ先生が時計を見て言った。

「晩飯食って行っていい?」
「俺はいいけど、親御さんは心配しないか?」
「早く帰ったら逆に心配される」
「どんな家庭だ」

 期待するなよ、と先生がキッチンに立って手料理を振るまってくれた。野菜炒めと味噌汁と豆と白米。家の食卓に並んだら文句言ってるメニューだけど、先生んちだから何も言わない。食べてみると意外とうまい。味付けがうちと違うせいかな。

「先生、料理うまいね」
「割と作るからな」
「彼女にも作ってあげてたの?」
「え? ああ、まあな」
「今頃彼女は後悔してると思うよ。先生振って別の男と結婚したこと」
「どうかな。相手は管理栄養士で料理上手って噂だ」
「へえ……?」

 かんりえいようしって職業がいまいちピンとこない。たぶん、調理師と似たような免許だろう。

 満腹になったら眠くなった。

「泊まっていっちゃだめ?」
「だめに決まってんだろ」

 さすがにそうか。

「ご飯食べるとなんで眠くなんの?」
「消化のために血液が胃に集まって脳にいく血液が少なくなるとか、色々言われてるな」
「三大欲求のひとつが満たされたら他のも満たそうとすんだろ?」
「ふはっ、食欲、睡眠欲、性欲?」
「ちょっとだけ寝たい。お願い、寝かせて」
「一時間だけだぞ」

 先生の許しをもらったのでベッドに移動して寝転がった。俺の布団とは違う匂い。先生の匂い。もっとおっさんくさいのかと思ったけど、ぜんぜんそんなことなかった。加齢臭とかってもっと年いってからなのかな。先生の布団はいい匂いがする。

 目を閉じたらすぐ夢の中だった。俺は学校にいた。教室で俺と先生、二人きりの授業。先生はいつもの無難な服装じゃなくて、男を主張した服で髪型もキメてた。いきなり教室の戸が開いて、ウエディングドレスを着た女が乱入してきた。

「やっぱりあなたしかいないの!」

 と涙を流して叫ぶ。きっと先生を捨てて別の男と結婚した彼女だ。顔は知らんけど。

 いまさら勝手すぎるだろ、と俺が口を挟む前に、先生は女の手を取って教室を出て行った。取り残された俺は、机の上のノートや教科書を手で薙ぎ払った。すごく腹が立ったし、胸が痛んだ。

「……きろ、おい、起きろ!」

 先生の声でハッと目が覚めた。目の前に先生の顔。どこにも行かず、ここにいてくれた。夢だとわかってほっとした。

「変な夢みた」
「どんな」
「先生がウエディングドレス着た女と学校からいなくなる夢」
「なんだそれ」
「もし、別れた彼女がやりなおしたいって言ってきたらどうする?」
「ねえよ、そんなこと」
「もしもだって」
「さあな」
「考えて」
「やり直すなんて、ありえないな」
「いまも好きなんだろ?」
「好きとは違うな。ひどい別れ方だったから混乱のほうが強い」
「別れたとき泣いた? 俺は泣いた」

 先生は俺をじっと見た。冗談で済まそうか、本当のことを言おうか、迷ってるように見える。本当のことを聞きたくて、俺も真顔でじっと見つめ返した。先生は「めっちゃ泣いた」と白状した。

 先生が泣いたところなんて想像できない。成人した大人が泣くほど、恋とか愛が辛いものなんて、夢がない。

「なんで人を好きになるんだろう」
「哲学的な疑問だな」
「だってさ、必ず成就するわけじゃないし、死ぬまで別れない保証もないわけだし」
「惹かれるのは本能的なものだろ」
「子孫繁栄的な?」
「それもあるけど、人に説明できる理由なんてない場合もあるだろ」
「例えば一目惚れとか?」
「一緒にいて、なんとなく好きになっていくとか」

 ふと、俺と先生が、日常の枠を外れて過ごすこの時間はそれに当てはまるのだろうかと思った。今日の約束をした日から、先生はただの担任じゃなくなった。学校の先生じゃなく、一人の生身の男として俺の目に映るようになった。生徒と教師って関係が曖昧な空間は居心地がよくて、年上の友達みたいな錯覚を抱いてしまう。

 さっきの夢でもそうだ。先生を連れて行った女に腹を立てた。俺を置いて行く先生にもむかついた。

 もしかして俺、先生のことを好きになれるのかもしれない。いや、もしかしたらすでにちょっと先生のこと好きになってるのかもしれない。

「俺が先生のこと好きだって言ったら?」

 先生は軽く目を見開いた。

「びびる」
「そんだけ?」
「気の迷いだって説得する」
「迷いじゃなかったら?」
「体が目当てなのか?」

 胸を隠す仕草で場をごまかそうとする。そうはいくか、と俺は真剣な空気を維持する。

「そうじゃないけど。でも、そうかも」

 先生の腕を掴んで顔を寄せた。先生の体が強張る。

「ちょ、おい」
「俺、先生とキスできるかも」
「できるかどうかじゃなく、必要かどうかだろ」
「この気持ち確かめるのに必要だと思う」

 先生がしまった、って顔をする。俺は男にしか見えない先生の顔を見つめながらキスした。彼女としたキスとかわらない。柔らかな感触。漂ってくる匂いが、女じゃなく男のものだってだけ。掴む腕がごついのも違うか。

「ばか、本当にするな」

 先生が俺を突き放す。慌てる姿が珍しいし、顔が赤いのもかわいい。かわいい? 先生相手にかわいいと思うのか、俺は。

 もう一回キスしようとしたら手で防がれた。

「もういいだろ、男として何が楽しい」
「好きな人とキスしたくなるの、ふつうだろ」
「好きな人ってお前なあ」
「俺、先生のこと好きだと思う、たぶん」
「たぶんて」
「先生がかわいいし、キスしたい。好きってことだろ?」
「んな短絡的な」
「先生は俺とキスしてどう?」
「どうもしない」
「顔赤いよ?」
「教師をからかうな」
「ちゃんと答えてよ」
「お前でもドキドキはする」
「俺のこと好き?」
「桶谷先生とキスしてもたぶんドキドキする」

 先生は生活指導のいかつい桶谷の名前を出した。つまり、キスしたら誰とでもドキドキするとごまかしたいわけだ。

「じゃ、もっかいキス」
「なんでそうなる」
「キスして勃ったら俺が好きってことで」
「嫌だよ!」
「自信ないんだ?」
「男の生理現象甘くみんな」
「ほんとに無理なら勃たないよ」

 先生の肩を掴んでベッドに押し倒した。先生がハッと息を飲んで俺を見上げる。羞恥と戸惑いと、ちょっとの怯え? そんな顔もするんだ。グッとくる。

「俺、キスうまいからね」

 唇を舐めて潤してから先生にキスした。うおって驚く口に舌を差し込む。歯の隙間を抜けて、ぬるっと触れ合った舌に頭がくらりとした。男同士の嫌悪感なんか心配する必要なかった。最初から最後まで、徹頭徹尾、俺は先生に興奮できる自信がある。

 膝でごりっと股間を押してみた。固くなってない? 目を開けたら先生と目が合った。俺の勝ちだね。目で笑いかける。肩を強く押されたと思ったらいきなり視界が反転した。いつの間にか俺が先生の下になっていた。

「先生?」

 先生は食いつように俺にキスしてきた。俺がしたより激しく深いキスは、さっきの仕返しだと言わんばかりだ。歯の裏、口蓋、頬の裏、舌の先から裏側まで、余すところなく先生の舌が這う。

 あまりの気持ち良さにうっとりしてたら、股間をギュッと掴まれた。

「大人を舐めるなよ」

 先生は俺の勃起をいい子いい子すると体を起こして立ちあがった。

「送ってやる。帰るぞ」
「えっ、ちょ、この状態で無理!」
「知るか。自業自得だ」
「先生だって勃ってたじゃん!」
「ゆる勃ちな」

 早くしろ、と先生が俺に背を向けた。先生の耳が赤い。俺はそれを見てまたかわいい、と思った。

 帰りの車の中、先生は今日のことの口止めをした。先生と二人の秘密だ。誰にも言うつもりなんかない。

 待ち合わせに使ったコンビニの駐車場に車を停めて、先生は大きな溜息をついた。

「あー、お前を家に呼ぶんじゃなかった」
「キスしておいて、それはないんじゃない」
「教え子に手を出すとか最低だろ俺」
「先に手を出したの俺だから」
「そういう問題じゃねえ」
「今度はもっとやらしいことするから」
「今度なんかねえよ」
「勃ったじゃん。俺のこと好きってことだろ」
「だから、ゆる勃ちな」
「同じだし」
「ちげえし」
「ガキかよ」
「ガキはお前だろ」
「ガキだから我慢しねえもん」
「都合よくガキになるなよ」
「俺のこと嫌い?」

 先生はぐっと言葉を詰まらせた。

「……卑怯な訊き方するなよ」

 ハンドルを握る腕に顔を埋めて先生は呻った。首筋を撫でたらビクッと顔をあげる。

「大丈夫、卒業までには好きになってもらうから」
「どっからその自信わいてくるんだ」
「先生の態度見て? 満更でもないっしょ」

 先生は困った顔で口をモゴモゴさせてたけど、最後は諦めたように頷いた。

「満更でもない」
「ねっ」

 先生の首に手をかけてキスをする。迷った末、先生がキスに応えてくれた。明日からまた学校の中では生徒と先生。傍目にみたらそう。でも俺たちはキスしてもいい関係。恋人って呼ぶにはまだ不完全だけど、いつかきっと先生を俺に惚れさせて、別れた彼女を忘れさせるし、彼女以上にメロメロにさせてみせる。





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宙ぶらりん(1/2)

2018.08.25.Sat.
※キス止まり

 先生と、授業中に目が合った。一瞬俺の目に留まる視線。生々しいっつーか。

 大胆にも微かに笑ってみせて、視線が逸らされた。誰かに気付かれたらどうすんだ。

 案外先生、俺にもうメロメロなんじゃない?

 ♢ ♢ ♢

 二週間前、塾の帰りに雨が降ってきて、コンビニで雨宿りしてたらたまたま先生が店に買い物にきた。俺を見つけると、こんな時間までウロつくなって頭をガシガシ撫でられた。

 いつも学校で見る服装とは違って、もっとカジュアルでラフな先生の格好に、この人って普通の兄ちゃんだったんだなって、当たり前のことに気付いた。

 塾帰りに雨宿りしているだけだと言うと、先生が車で送ってくれることになった。

 コンビニに停めてある黒い車の助手席に乗った。UFOキャッチャーで取ったようなぬいぐるみとか、ダッシュボードのフェイクファーとか、面白いものは何もない。

「何さがしてる」

 先生はキョロキョロする俺に苦笑して言った。

「つまんねえ車」
「車につまるもつまらんもあるか」
「女っけもない」
「俺ぁモテるぞ」
「彼女いないじゃん」
「今はな」
「でた、強がり」
「お前もいないだろ」
「なんで知ってんの」
「担任だから」
「把握してんの? キモッ」

 あははって先生が笑う。学校で滅多に聞かない大きな笑い声。夜。学校外。先生の車の中。普段と違う空気が、俺に大胆な行動を取らせたんだと思う。

「先生の家行ってみたい」

 思いつきが口をついて出た。

「だめ」

 即答されたら余計、意地になる。

「なんでだめ?」
「時間が遅い」
「遅くなかったらいいの?」
「だめ」
「なんで」
「生徒は家に呼ばない主義」
「なんで」
「依怙贔屓って言われるだろ」
「誰にもいわないよ」
「信用できない台詞第一位だわ、それ」
「ほんとだって」
「だーめ」
「じゃ、卒業してからだったらいい?」
「そんなに来たいのか?」

 呆れた顔で先生が俺をチラッと見た。対向車のヘッドライトに先生の顔が照らされる。夜の車のなかで見る先生の顔は、学校で見るのと違ってすごく大人で、車を運転する姿とか、実はけっこうかっこいいんじゃんって気付いた。俺も免許取ろう。

「行きたい。卒業してから行っていい?」
「その頃には忘れてるだろ」
「俺は忘れないよ」
「信用できない台詞第2位」
「ほんとだって」

 本気にされてないことに腹が立って声が力む。

「わかったわかった」

 先生はそんな俺を子供をあしらうみたいにいなす。

「行っていい?」
「必死か」
「行っていい?」
「わかったって」
「約束」

 いま思えば、そこまでして先生の家に行きたいわけじゃなかった。ただ思いつきを口にして、それを速攻で断られて、ただ意地になっていただけ。

 それに、いつもと違う場所で先生と話をしてたら、先生と生徒って当たり前の関係がちょっと曖昧にぼやけて、前より少し親密な関係だと錯覚してしまった。

 ただそれだけだったのに。

「俺はそんな先の約束覚えてる自信ねえよ」

 なかったことにされるのかと構えていたら、

「今回だけ、特別。絶対誰にも言うなよ」
「それって」
「今度の休み、来るか?」
「行く!」

 生徒と教師。その境界線から先生は手を伸ばし、俺がその手を取った瞬間だった。



 約束したから先生の家に行くことは誰にも言わずに一週間を過ごした。

 学校にいる先生はいつもの見慣れた先生だった。でも車の中で過ごした時間が、今までなかった些細な変化を生んだ。

 あの夜の先生は髪を下ろしていたけど、学校の中では前髪後ろに流してることに気付いたり。

 皺のあるワイシャツを見て、本当に彼女いないんだ、と密かに笑ってしまったり。

 職員用の駐車場で先生の車はすぐ見つけられるようになったり。

 廊下を歩いてるときとか、先生の声は遠くからも聞き分けられるようになったりとか。

 自分でも驚くくらい、先生の家に行くことが楽しみだった。

 週末目前の休み時間、廊下を歩いていたら先生に呼び止められた。こっち来いって手招きされて、ピンと来たから、友達を先に行かせて先生のもとへ駆けよった。

「どこで待ち合わせする? 何時?」
「声がでかい」
「楽しみだもん」
「この前のコンビニでいいか?」
「いいよ。何時?」
「何時がいい? 朝早くはだめだぞ」
「じゃ、11時。お昼なんか食べに行こうよ」
「誰かに見つかったらどうする」
「買って行って先生の家で食べよう」
「ん。それじゃ11時ってことで」
「OK!」

 元気よく返事をすると、先生は優しく笑った。



 約束の日、時間より早くコンビニについた。雑誌コーナーで立ち読みしてたら先生の車が見えて店を出た。

 先生は今日はジャケット姿だった。腕にはごつい腕時計。学校に着てくる日和ってる服とは違う男臭さがあった。

「何食べる?」

 車を出しながら先生が言う。

「どっか連れてってくれんの?」
「せっかく出てきたんだし、家で食うのもな」
「牛丼!」
「そんなもんでいいのか」

 先生が苦笑する。先生が笑うところを見るのが好きだ。

 牛丼屋で並んで食べて、コンビニ寄ってから先生の家に向かった。

 先生の家はマンションの二階。意外と片付いたワンルーム。ここでも面白いものが見つからないかとキョロキョロしてたら、「こら」と頭をつかまれた。

「先生ほんとに彼女いないんだね」
「今はな」
「いつから?」
「それ聞く? 涙なしでは聞けないぞ」
「聞きたい」
「まじか。教えないけどな」
「ケチ」
「お前はどうなんだ」
「俺もいないって知ってるだろ」
「なんで別れた?」
「ハンカチの用意は?」
「ティッシュがある」

 前に付き合ってた彼女と別れたのは半年以上も前。よくある話だけど、彼女に二股かけられてて、しかも俺は本命のほうじゃなかった。彼女は別の高校のイケメンと付き合っていた。

 彼女が男と腕組んで歩いてるって友達から聞いて問い詰めたらゲロッた。そんな女こっちから振ってやった。もちろん、泣いた。

「話したんだから、先生も教えてよ」
「やだよ」
「嘘つき」
「教えるなんて言ってないだろ」
「なんで言えないの?」
「なんつーか、まだ処理できてないっつーか」
「まだ好きなの?」
「大人の恋愛はそんな単純じゃないんだよ」
「複雑なんだ?」
「いや、単純だけど」
「どっちだよ」
「結婚したんだよ」

 吐きだすように先生は言った。意味が理解できなかった。

「誰が?」
「付き合ってた相手が、別の奴と」
「うっそ、どういうこと?」
「俺とは一緒にいられないって。俺と別れて別の奴と結婚した」
「別れてすぐ?」
「そうだ。ずっと一緒にいようって言ってたくせにな」
「先生も二股かけられてたの?」
「そういうことになるな」
「俺と一緒じゃん」

 うん、と先生は噛みしめるようにゆっくり頷いた。微笑を浮かべてるけど、悲しい笑顔で見てるこっちが罪悪感を持ってしまう。しつこく聞くんじゃなかった。

「だから俺、先の約束はしないことにしたんだ」

 高校卒業後に、先生の家に来る、というあの夜のやりとりのことを言っているんだろう。おかげで今日、俺はここへこれたわけだ。

 そのあと適当にだべりながらテレビを見たり、ビデオを見たり、成績のことで軽く説教されたり、進路相談みたいな話をしたり。とにかくあっという間に時間は過ぎていった。






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とどめを刺されたい(3/3)

2018.08.23.Thu.
<前話>

 男から解放されて、シャワーも浴びずホテルを出た。どこへ行こう。どこへ帰ろう。店? どこの? レンタル店は潰れた。隼人がいる店? あそこにはもう行きたくない。俺の負けでいい。逃げたい。隼人から逃げたい。

 スマホを出した。迷ったけれど五木に電話した。もうあの仕事は辞める。隼人が店長やりたいって言ってるんだから、あいつがやればいい。この結果を招いたのは五木の責任でもあるんだから、また人手不足になっても俺の知ったことか。

 意外にも五木は数コールで電話に出た。珍しい。雪が降るんじゃないか。

「俺、仕事辞めるから」

 一瞬の間。

『いまどこにいる?』
「どこでもいいだろ。とにかく、辞めるから! 今日! 今すぐ! もう店に戻んねえから!!」

 堰を切ったように大声が出た。喚く俺に対し、五木の冷静な声。

『何があった?』
「……ッ! あんたに関係ないだろ! 言ったってどうせ、自分でどうにかしろって言うくせに!」
『とにかくいまどこにいるか言え。すぐ迎えに行ってやるから』

 五木のくせにちょっと優しい口調で言うもんだから、俺もついぽろっと自分の居場所を教えてしまった。

 十五分ほどで五木の車が見えた。助手席に乗り込んで、さっきの出来事を話した。

「舐めた真似してくれたな、あいつ」

 イラついた様子で五木がステアリングを指で叩く。

「言っとくけど、あんたが昔俺にしたのと同じだかんな」
「俺はもっと優しかっただろ。ちゃんと金もやったし」
「よく言う! 動画撮って脅したくせに」
「そっちこそよく言うぜ。イキまくってたくせに。今日の客とヤッてイケたか?」
「イケるわけねえだろ」
「じゃ、お前のにおいは全部客のか」

 言うと五木は窓を開けた。シャワーを浴びてないから、そうとうイカ臭かったようだ。

 車は五木のマンションに入った。久し振りに足を踏み入れた五木の部屋。においを嗅いだだけで、現金にも股間が疼いた。

 浴室に押し込まれ、シャワーをかけられた。服が濡れていく。

「着替えないんだけど」
「俺のを貸してやる」
「やだよ。あんたのおっさんくさい」
「おっさんで悪かったな」

 言いながら五木は腕まくりした。濡れて重くなった俺の服を脱がせていく。全裸になると後ろを向かされた。尻の間に五木の指が入ってくる。客のちんこが出入りしたばかりで熱い。

「中に出されたな?」
「尻に一回、口に一回。なんでもありで1時間1万だって。俺って安すぎない?」
「ああ、安すぎだ」

 シャワーのヘッドが尻に押し当てられた。熱いお湯が中に入ってくる。離れると五木の指が中の精液を掻き出した。セックスのあとの処理をされたのは初めてだ。あの五木が強/姦された俺を労わってくれてるなんて驚きだ。

 俺のちんこはいつの間にか勃起していた。先からシャワーのお湯だか先走りだかわかんない水滴が滴り落ちている。

 ホテルの客としてる時は当然勃たなかった。さっき車のなかで五木も同じことをしたと詰ってみたが、俺の体が見せる反応はまるで違う。

 握って上下に手を動かした。すぐイキそうになる。

「勝手にするな」

 イク寸前、五木に止められた。不満に思って振り返ったら目の前に五木の顔。背中に五木が密着している。熱い怒張が俺の尻に張り付いている。

「入れるぞ」

 囁くような低い声が鼓膜を震わせる。頷く前に入ってきた。壁に手をついて尻を突きだす。奥までゆっくり五木のもので侵略される。

「あ、ヤバ……出るかも……ッ」

 触ることなく。三擦り半という最速記録を叩きだして俺は射精していた。排水溝へお湯といっしょに精液が流れていく。背後から聞こえる五木の息遣いだけで俺の体はまた熱くなる。

「中、出したあと……、口にも出して、欲しっ……、客の精子の味、まだ取れねえから……!」
「あとで出してやる。上も下も中まで全部犯しまくってやるから、安心しろ」

 五木がそう言うから、俺は安心して身を任せた。



 セックスのあと仮眠を取っていたら五木に揺さぶり起こされた。

「行くぞ、支度しろ」

 と急かされてまた車に乗る。向かった先は隼人がいる店。「早く来い」と助手席から動かない俺の腕を五木に捕まれ引きずり降ろされた。

 505号室。五木が先に中に入った。五木を迎える女の子たちの甲高い声。

「五木さん、連絡くれたら、自分迎えに行ったのに」

 と隼人の声が聞こえて回れ右して帰りたくなった。五木に腕を掴まれてて逃げられない。俺の顔を見たら隼人はどんな顔をしてなにを言うんだろう。俺のプライドはもうズタボロだ。これ以上傷つきたくない。

 五木は無言で女の子たちがいる待機部屋の仕切り戸を閉めた。女の子たちを締めだして振り返った五木の顔が一変する。冷酷な目で隼人を見下ろす。

「隼人、お前、いますぐ土下座してこいつに詫びいれろ」

 五木は俺を前に押しだした。俺を見て隼人が顔を歪める。戸惑いの目と、半笑いの口元。あべこべの表情。

「は? 俺がこのホモに土下座? 意味わかんねえ」
「意味ならわかるだろ。お前、自分のケツも拭けねえのか? シノギがねえ破門寸前の無能をうちが温情で雇ってやってんだぞ。こいつはお前の上司だ。上司に舐めた真似してんじゃねえぞ」
「てめえこそ何様だ! 俺に舐めた口きいてんじゃねえよ! お前らみたいな半端な準構とは違えんだよ!!」
「誰が準構だこら。俺もやくざだ馬鹿野郎が」

 五木の右手が動いたと思ったら隼人が吹っ飛ばされた。大きな音を立てて隼人の体がシンクに倒れ込む。突然の五木の豹変に腰を抜かして俺は床にへたりこんだ。

「てめえ、この野郎……!!」

 シンクに手をついて隼人が体勢を立て直そうとする。その隙を与えず五木の踵が隼人の腹にめり込んだ。隼人は体を二つに折って床にうずくまった。グボッと音がしたと思ったら隼人は嘔吐していた。

「こいつに土下座して詫び入れろ」

 体を震わせながら隼人は首を左右に振った。五木は呆れたように鼻で笑ったあと、躊躇なく隼人の顔を蹴りあげた。俺は思わず目を背けた。

「土下座して、詫び入れろ」

 腹を押さえていた手を床について、隼人が頭をさげる。

「相手が違うだろうが」

 よろめきながら、隼人は這いつくばるように体の向きをかえると俺に頭をさげた。

「言うことあるだろ、おい」
「す……いません……した……」
「こいつは堅気だ。手を出したらどうなるかわかるな」

 床に額をこすりつけたまま隼人が頷く。

「お前に価値はねえが、こいつには価値がある。お前は使えねえただの馬鹿だが、こいつは俺の稼ぎに貢献してる。お前は何ができる? 言われた通り車出して女運ぶしか能がねえくせに、調子に乗った真似してんじゃねえよ。ここは俺の店だ。なに勝手に客引いてんだ? いつからお前の店になったんだよ?」
「すいませんでした」

 涙で濁った声が許しを請う。ずっと土下座したまま。顔を上げることもできないみたいだ。

「お前にも客を取らせる。こいつがされたのと同じことをさせる」
「勘弁してください!!」
「いまさら調子良すぎるだろ」
「すいませんでした! それだけは勘弁してください!!」

 必死の声で五木に泣き縋る。隼人がなんだか可哀そうになってきた。もう暴力もゲロのにおいもうんざりだ。

「もういいよ、俺は」

 言うと五木は顔を顰めた。

「おい、ここでちゃんとシメとかねえと、こいつはすぐ調子に乗るぞ」
「乗りません! もう絶対乗りません!!」

 かぶせ気味に隼人が否定する。年下の弱い者いじめをしているみたいな気分だ。

「次、なんかしたらクビってことで」

 俺の提案に五木は肩をすくめた。

「甘いな、お前は。隼人、感謝しろよ」

 ありがとうございます!ってでかい声で隼人が何度も頭をさげる。俺を蔑む目は消えて、必死に媚びへつらう姿は哀れだ。あの威勢の良さはなんだったんだ。

 隼人に部屋の掃除を命じたあと、五木は奥の仕切り戸を開けて「ごめんね、驚かせて。俺が怖くなるのは男の従業員だけだから」と女の子たちへのフォローをしてた。俺はドン引き中だったけど、女の子たちの立ち直りは早くて「五木さん、やくざさんだったの?」と遠慮なく踏みこんだ質問をする。

「代紋があったほうが色々便利かなと思ってね。大丈夫、俺は怖くないやくざだから。みんなを驚かせたお詫びに何か甘いもの買ってくるよ」

 怖くないやくざなんているんだろうか。そんな素朴な疑問が頭に浮かんだけど、口を開くのも億劫だった。よく考えたら俺、今日ホテルでおっさんに犯されて五木ともセックスして、そのあとこの大立ち回り見せられたんだった。そりゃクタクタにもなる。

「行くぞ」

 床にへたりこんでいる俺に五木が声をかける。重い腰をあげ、五木と一緒に部屋を出た。二人きりでエレベーターに乗り込む。

「あんた、いつやくざになったんだよ」
「店立ち上げる時にな」
「入れ墨入れてんの?」
「入れてねえよ、見ただろ。あんな不自由なもん誰が入れるか」
「本格的にやくざの奴隷じゃん」
「同じ奴隷なら、稼ががねえと損だろ」
「かわいそ。上納金、きつくなんじゃないの?」
「しっかり稼げよ、俺のために」
「稼いで欲しかったら、もっと従業員を大切にしろよ。ずっとほったらかしにしやがって」
「大切にしてるだろ。さっきも隼人に灸すえてやっただろ」

 やりすぎだが、実はちょっとスカッとした。あの馬鹿がこれでもう俺にちょっかいかけてこないとしたら、かなり嬉しい。五木が俺のためにあそこまでしてくれるとは思わなかった。ただ、上下関係を隼人に教えるためだったのかもしれないけど。

「あんたってなにげに俺を大事に扱ってくれるよね」
「今頃気付いたのか」
「あんたの愛情表現ってわかりにくいんだよ」
「これならわかりやすいか?」

 いきなり壁に押しつけられてキスされた。もうクタクタになってるはずなのに、舌を絡め合っていたら股間が熱くなった。五木も暴力のあとで興奮しているのかもしれない。腰に固いものが当たる。

「車でいいか?」

 五木の誘いにすぐ頷いた。エレベーターを出て、五木の車の後部座席に二人で乗り込む。キスをしながらお互いの服を脱がせあい、性急に繋がった。

 女の子たちに甘いものを買いにいかなきゃいけない。予約も入ってる。仕事もしなきゃいけない。隼人が女の子たちをさばけると思えない。でも今は。

 五木と繋がったこの時間を、誰にも何にも、邪魔されたくなかった。





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とどめを刺されたい(2/3)

2018.08.22.Wed.
<前話>

 翌日、隼人は遅れずちゃんとやってきた。あいかわらず俺への態度は悪い。でも女の子への言葉使いは柔らかくなった。それを心がけて自制しているのが見てるこっちにも伝わってくる。

 その不器用さが女の子にはウケているようで、意外に可愛がられていたりする。話しかけられると顔を赤くするところも、ウブな感じで「かわいい」らしい。

 今日も隼人と一緒に車に乗って女の子の送迎をした。客の対応は隼人に全部任せた。そこそこ仕事にも慣れてきたようだ。

 翌日から送迎は隼人一人に任せてみた。俺は店で電話番。五木から隼人はどうしてる?と電話があった。

「こんな仕事楽勝だってさ」
『舐めてんな。あの馬鹿しっかり管理しろよ』
「俺の言うこときくと思ってんの?」
『お前は店長だろ』

 言いたいことだけ言うと五木は電話を切った。今日、こっち寄るのか聞きたかったのに。寄れたとしても隼人がいたら二人になれない。あいつほんと邪魔だな。

 二週間も経つと隼人の仕事ぶりも板についてきた。女の子を乗せて指定場所へ行き、客に説明する。そして女の子を乗せて帰ってくる。俺の指示通りに動くだけなので、馬鹿でもできる。

 隼人は目に見えて調子に乗るようになった。店の管理も自分ができると言いだした。

「俺が仕事捌くから、お前がドライバーやれよ」

 俺より小さいくせに顎をあげて俺を見下ろそうとする。

「あのさ、北川くん、五木さんからドライバーで雇われたんだから……」
「お前、AV出てたんだってな?」

 隼人が勝ち誇ったように粘ついた笑みを見せる。俺は一瞬、思考が停止した。

「ヒロミから聞いたぜ。女装して男にヤラれてたんだろ?」

 うちで契約してるヒロミ。AV女優だったが仕事が減って引退し、こっちで働きながら婚活をしている女。そこそこ業界に長くいたから、俺のこともどこかから流れ聞いて知っているんだろう。

「お前はデリで体売ったほうがお似合いだよ」

 なあ、と俺の肩を小突く。年下の。破門寸前の下っ端やくざに。どうしてこんな真似されなきゃいけないんだ。

「ホモのデリヘル枠作ったらいいんじゃねえか? 今度五木さんに言ってやるよ。お前もちんぽしゃぶりてえだろ?」

 ニヤついた隼人に顔を覗きこまれて手が出そうになった。こんなのでも一応やくざだ。隼人を押しのけて部屋を出た。閉まる扉の隙間から「職場放棄か、おい、ホモ野郎」って声が追いかけてきた。あいつまじぶち殺してえ。

 エレベーターから五木に電話をかけた。もちろん一回目では出ない。何度も何度もかけ続けてやっと『うるせえ』って不機嫌な声と繋がった。

「俺、もう無理」
『……何がだ』
「隼人だよ、あの馬鹿の相手もうやだ」
『やだとかわがまま言うな』
「俺が女装してAV出てたこと、ヒロミがあの馬鹿に言ったらしい」
『隼人にバレて絡まれたか』
「ホモのデリヘル枠作れだってさ」
『いいな。将来的にホモ専用も作るか』
「ふざけんな、おい」
『ふざけてんのはお前だ。隼人に絡まれたくらいで俺に電話してくるな。お前は管理職だろうが。そのくらいてめえで処理しろ』
「あんたはオーナーだろ。最近ぜんぜんこっちに顔出さねえじゃん」
『隼人がいるからな、あいつの相手は面倒臭い』

 と笑う。俺には自分でなんとかしろと言うくせに。

「ずりい」
『あいつ一人手懐けられねえなら仕事辞めろ。ホモビデオの仕事斡旋してやるから』

 イラついた口調に変わった。突き放されて、俺は言う言葉を失くす。これ以上なにか言ったら五木を怒らせることがわかっている。

「あんたには頼んねえよ!」

 切られる前にこっちから通話を切ってやった。マンションの周りを少し歩いた。頭が冷えてから部屋に戻った。ニヤついた隼人と目を合わさず、パソコンを置いてあるデスクに座る。

「このあと水樹さん迎えに行ってもらうから。そのまま客んとこ届けて」
「今度五木さんに会ったとき、ホモのデリヘル作るように頼んどいてやるからよ」

 五木に避けられてるくせに何言ってんだ。こんな馬鹿、まともに相手にしちゃ駄目だ。

「ここでも女装していいんだぜ? なあ、ホモのオカマちゃん」
「無駄口叩く暇あったらすぐ出てくれる? 水樹さん、待たされるの嫌うから」
「カマ野郎が俺に偉そうな口叩くんじゃねえよ、ホモとか気持ち悪いの我慢してやってんだぞ」
「そんなに気持ち悪いホモにわざわざ絡むって、もしかして愛情の裏返し? 俺のこと好きなの?」

 我慢できずに言い返したら鉄拳が飛んできた。すごい衝撃に椅子から転げ落ちる。

「次そんなふざけたこと言ってみろ、ぶっ殺すからな」

 普段の高めの声じゃなく、ドスの効いた声で言うと、隼人は車のキーを掴んで部屋を出て行った。扉が閉まり足音が聞こえなくなってから、いつの間にか止めていた息を吸いこんだ。

 殴られた頬が痛い。もうすでに腫れているのがわかる。歯に当たった唇も痛い。舐めたら血の味がした。

 年下の隼人に侮辱されて殴られたことへの怒り。あれを俺に押しつけてどうにかしろと突き放す五木への怒り。

 あの薄情者! 自分の店だから顔を出すって言ってたくせにぜんぜん来ないし。何かあったら電話しろって言ったくせに力になってくれないし。おかげであのチビに酷いこと言われるわ殴られるわで、散々な目に遭った。

 たまたま女の子たちが出勤してくる前で良かった。隼人のことはかわいがっているが、暴力の瞬間を見たらさすがに見る目がかわって怯えてしまう。

 冷蔵庫から保冷剤を出して頬に当てた。あんなの手懐けろって無茶な話だ。あっちはこっちを一方的に毛嫌いしてるんだからどうしようもない。
 


 隼人に殴られて一週間。頬の腫れは引いたが、あいかわらず隼人の俺への侮辱は止まらない。女の子たちの前でも俺をホモだのオカマだのと罵る。

 事情を知らなかった女の子たちにも知れ渡ることになり、俺のあってなかったような威厳は地の底へ落ちた。

 最近では仕事を頼むと「あたし疲れてるから店長かわりに行ってよー。慣れてるでしょ」なんて言われる始末。待機時間にはネットで見つけてきた俺の動画を鑑賞してみんなで笑い物にしている。

 胃が痛い。レンタルビデオ店で働いた時は漠然とした将来の不安というものはあったが、こんなふうに胃が痛くなったり、夜眠れなくなったりすることはなかった。

 給料は良くてもレンタルビデオ屋で暇な店番してたほうがよっぽどマシだ。

 この仕事向いてないのかもしれない。辞めたい。でも隼人にいじめられて逃げるみたいで嫌だ。踏ん張るべきか、辞めるべきか悩む。金に不自由するのは嫌だ。いまの収入を維持できる仕事なんて俺には見つからない。贅沢な悩みなんだろうか。俺が甘すぎるんだろうか。

 悶々と悩んでさらに数日経ったある日、送迎に出た隼人から『トラブッた』と電話がかかってきた。

「トラブルって、どんな?」
『プレイのことで客が怒ってる。とりあえず責任者呼べって。一応お前だろ、オカマ店長』
「場所どこだっけ?」

 隼人から聞きだしたホテルへ急いで向かった。

 ホテルの前に隼人が腕を組んで立っていた。トラブッたと言うわりに、顔がニヤついているのが気になった。

「客は?」
「なかで待ってる。来たらすぐ来いだってよ」
「女の子は?」
「車にいる。俺らは先に帰ってるぞ」

 部屋番号を聞きだして客が待つ部屋へ急いだ。隼人のことだ、客相手にとんでもないことをやらかしているかもしれない。まさか手は出していないと思うけど、ありえないことでもないから怖い。隼人に殴られた頬を押すとまだ地味に痛む。警察とか治療費とか、良くないワードが頭に浮かぶ。

 部屋の戸をノックした。中から中年男が出てきた。

「失礼します。私が店長の──」
「知ってる。ミワちゃんだろ」

 男の唇が左右につりあがった。絶句する俺の腕を男が掴み、ベッドへ押し倒した。



「前に利用したとき、ドライバーさんに男とできる特別コースがあるって教えてもらったんだよね」

 男は俺を犯しながらベラベラと喋った。

「興味あったからネットでミワちゃんを探してみたら、好みだったから指名することにしたんだ」

 男のちんこが俺の中を出たり入ったり。俺はシーツに顔を押しつけて、苦痛の声を殺した。

「できれば女装して来てほしかったけど、それはオプションで高くなるから我慢したんだ。でもやっぱお金払ってでも女装して来てもらえばよかったな。いまのままでも可愛いけど、女装したほうが絶対かわいいよ。一万円でなんでもさせるなんて、ミワちゃん自分を安く売りすぎだよ。お買い得で客からしたらラッキーだけどさ。中出ししたあと、お掃除フェラしてもらって、そのあとオナニー見せてね。その間に復活させるから、今度はイマラチオでごっくんお願いね」

 顔を布団に押しつけてるからちょっと酸欠気味なのか、頭がボーッとして、男が言ってることの内容がよく理解できない。自分の状況がわからない。これってAVの撮影だったっけ? いや、違う? 五木に騙されて、脅されて動画撮らされてんだっけ?

 ズコズコと後ろから男が腰を振ってくる。無遠慮に、公衆便所が如く中出しされて、俺は自分がどんな人間だったか思い出した。

 そうだ、俺、五木たちに輪姦されて、ただの肉便器になり果てたんだった。

「イッちゃう……、おまんこされて、あたしもイッちゃう……っ」

 五木たちに教えられた台詞。呪文のように唱える。俺のちんこは縮こまっている。射精の兆しはまるでない。

 言葉を聞いて男は喜んだ。引き抜いたちんこを俺の口に押しつける。俺は口を開いた。





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とどめを刺されたい(1/3)

2018.08.21.Tue.
<「ちょろい」→「やっぱちょろい」→「ちょろくない」→「生温い」>

※無理矢理モブ姦、暴力描写あり


「じゃ、水樹さん、行きましょうか」
「ハーイ」

 って気のない返事の女の子を車に乗せて指定の場所へ進路を取る。

 五木からデリヘルの店長という名の雑用係を任されて早三ヶ月。最初の一カ月は一日一件オーダーが入ればいいようなほど暇だったが、今では毎日コンスタントに依頼がきて俺一人ではそこそこ忙しい。

 そろそろドライバー雇ってくれって五木には頼んである。そのうち用意するって言われてけっこう経つ。あいつは意外と約束は守る男なので俺からせっつく真似はしない。

 こっちの仕事と、AV企画の仕事、二足の草鞋を履いてる状態じゃ、一日24時間じゃ足りないだろう。この前久しぶりにこっちに来たと思ったらずいぶん疲れた顔をしていた。

「1時間経ったら起こせ」

 って待機部屋のソファに寝転がって寝始めるし。出勤した女の子が五木の寝顔を見て「オーナーかわいい」って写メ撮ってた。悪夢でも見てんのかって苦悶の表情を浮かべる五木のどこがかわいいのか。女の子の独特の感覚は俺にはわからん。

 店で働く女の子のほとんどは五木が見つけてきた。最初はAV企画会社のツテで女の子をレンタルしていたが、今はほとんどがうちと契約した子ばかりだ。

 かわいい子、美人な子、清楚な子、ギャルっぽい子、お姉さん風に、ロリ風まで、幅広いくせに粒ぞろい。「あなた好みの子がきっと見つかる」それがいまのうちの店の売り。

 店の評判が書きこまれるデリヘルの掲示板では、俺がサクラで書きこまなくてもうちの店を利用した客からの評判はいい。

 女の子は五木が個人的に知りあった子とか、本業のほうで知りあったAV志望の子をこっちへ引き入れているらしい。AVだと映像として一生形に残るが、デリヘルだとその心配はない。AV出演をまだ迷っていそうな子、向いてなさそうな子に、本番なし、自分の都合のいいときに短時間で稼げるデリヘルを勧めているのだそうだ。

 そこから女の子を引き抜いた時は、もちろん紹介料として企画会社かAV女優のプロダクションへいくらか払っている。さらにこの店の売り上げも、何割か上部団体へ吸い取られている。

 パソコンを見て五木が不機嫌にため息をついている時はたいてい金の勘定をしている時で、自分の懐から掠め取られる金の計算をしてむかついているのだろう。

 指定されていたホテル付近についた。客の姿がないので電話を鳴らす。電柱から男が出てきた。車をおりて、禁止事項やプレイ内容、料金等の確認を男にしてから女の子を引き渡した。

 一時間コース。近くの駐車場で待つ間、支給されたパソコンで新しいメールがきていないかチェックする。それが終わるとスマホでゲームをして待つ。仕事用の携帯電話が鳴った。店にかかってきた電話がこっちに転送されたようだ。営業用の声で電話に出る。水樹の指定客。いま入ったばかり、移動時間を考慮して二時間後になることを伝えた。それで良いという返事。二時間後にまた電話をすると言って切った。

 やっぱりそろそろ俺一人では限界だ。五木を信じて待っていたが、もう一度俺から催促してみよう。



 二件の仕事を終え、水樹と一緒に部屋に戻って来たら五木がいた。車のなかではずっと煙草を吸いながらスマホを弄っていた水樹が五木を見ると黄色い声をあげた。

「五木さんの嘘つき! ぜんぜんこっち来てくれないじゃないですか」
「ごめんごめん、あっちの仕事が忙しくて」
「どうせ女の子の相手が忙しいんでしょ」
「仕事行ってきたの? ご苦労さま」

 って、労わるように水樹の背中に手を当てる。その時の五木ときたら。俺が高校生の時に初めて会った時と同じ。本性隠して、作った笑顔と、偽りの優しい声。水樹は簡単に騙されて「疲れた~、甘いもの食べたーい」って五木にねだっている。はぐらかされたことにも気づいてない。

 五木が俺を見た。はいはい、俺に買って来いって言うんだろ。椅子から腰をあげかけた時、トイレから水の流れる音がした。他に誰が?

 戸が開いて男が出てきた。小柄な男。まだ二十歳前後に見える。金色の髪の毛、眉毛がなくて、目付きが悪くて、いかにもチンピラって感じの男は、俺に気付くと下から睨め付けてきた。

「なにメンチ切ってんだコラ」
「えっ、いや」

 素っ頓狂に高い声が、これまた定番の文言を言うもんだからおかしくて笑ってしまいそうになった。笑うと面倒な絡み方をされそうだから必死に堪える。

「隼人、頼めるか」

 五木がチンピラに声をかけた。隼人と呼ばれたチンピラは毛のない眉根を寄せて五木に目をやった。

「何をだよ」
「近くのコンビニ行って甘いもの買ってきてくれないか」
「なんで俺がそんなパシリみたいなことしなきゃなんねんだよ」
「水樹ちゃんが甘いもの食べたいんだって」

 五木の横にいる水樹が隼人に笑顔で手を振る。隼人は顔を赤くして、ぎこちなく目を逸らした。あまり女の子に免疫がないタイプらしい。

「なんで俺が」
「頼むよ。釣りは取っといていいから」

 五木が財布から出したのは1万円。隼人の目が金に縫い付けられる。ぶつくさ文句を言いながらも一万円を受け取ると部屋を出て行った。

「五木さん、なにあの子」

 水樹が俺の気持ちを代弁する。

「あれ、新しいスタッフ。北川隼人」
「何歳?」
「21歳」
「野良ネコみたいな子だね、かわいいー!」

 あれがかわいい? やっぱり女の子のかわいい基準は俺にはわからん。

 十五分ほどで隼人が戻ってきた。コンビニ袋いっぱいのスイーツ。どんな顔してこれをレジに持って行ったんだ。水樹に誘われて隼人も一緒にチョコレート菓子を食べている。隣に水樹がいるから緊張しているのか、床に正座してるのが笑える。

 俺と五木はそんな二人を手前の部屋から見ていた。

「あれが新しいドライバー?」
「しばらく横についてやってくれ」
「大丈夫なの、あいつ」
「他にどこにも行くとこねえからな。それはあいつもわかってるから、なんとかやるだろ」
「どっから拾ってきたんだよ、あれ」
「うちのアシスタントで入ってきたんだが、元は組事務所の部屋住みだ。あいつの兄貴分がパクられて、一人じゃシノギの才能がなくてな、あちこちたらい回されてこっちに押しつけられた」
「お荷物じゃん。ほんとに使えんの?」
「車の運転はできる。いないよりマシだろ」

 確かにそうだ。言ってしまえばキャストの送迎は誰にでもできる。あの頭の悪そうなチンピラでも、運転ができればこなせる。

「でもあいつ、女の子の管理できるかな。いまも顔真っ赤じゃん」
「ここでも使えなかったら破門になるって話だ。商品に手を出して追い出されたらどうなるか、あの馬鹿も理解してるはずだ」
「盃もらってんだ、あんなのでも」
「あんなのでも一応組員だから、それなりの対応しとけよ」
「面倒臭いなあ」

 五木はパソコンで予約状況を確認したり、売り上げやら金の計算を始めた。売り上げは右肩上がり。俺の給料もレンタルビデオ店で働いていた時の倍はもらってる。でも隼人が来たらその分人件費が増える。いまより稼がなきゃいけない。

 別の女の子が二人出勤してきた。五木の指示で、隼人と一緒に送迎に出かける。運転は隼人。俺は助手席。後部座席に女の子。

 運転しながら隼人に仕事の注意事項を伝える。チンピラにしか見えないくせに、やくざのプライドだけは高いみたいで、俺から指図されるたびにいちいち文句をつける。

 後ろの女の子たちが委縮するじゃないか、と思いきや、隼人の虚勢を見抜いているみたいでクスクス笑っている。

 一人目の客の自宅についた。隼人を連れて客に説明をする。客は隼人に睨まれて怯えるというより戸惑っていた。やはり迫力に欠けるのだろう。

 二人目をホテルへ届けた。また俺が客に説明をするところを隼人に見せた。待機部屋に戻る車のなかで、ドライバーの心得を言ってきかせた。

 とにかく大事なのは安全運転。女の子は商品、大事に扱い、下心を持たないこと。客を威圧するのは駄目。でも舐められても駄目。

「北川くんみたいにさ、誰彼構わず凄んでたら逆に舐められると思うよ」

 思ったことを素直に伝えたら案の定隼人はキレた。

「そうやってすぐ逆切れするのもよくないと思うよ」
「てめえ、俺を誰だと思ってんだ?! お前みたいなもんが馴れ馴れしく口きいてんじゃねえぞ!」
「客相手にそういう威嚇は絶対駄目だかんね。とくに北川くんは構成員なんでしょ。警察行かれたら即捕まっちゃうよ」
「お前、やくざが怖くねえのか?!」
「怖いよ。でも一緒に仕事するんだから、ちゃんと教えなきゃいけないし。ここクビになったら破門なんでしょ?」

 隼人はハンドルをグッと握って下唇を噛んだ

「兄気がパクられなきゃ、こんなとこ好きでいねえよ」

 ばかばかしい気持ちで窓の外に目をやった。こっちだって好きで一緒に働くんじゃない。面倒なお荷物を押しつけられたから仕方なく、だ。



 二人をピックアップしてから待機部屋に戻った。五木と水樹がソファに座ってテレビを見ていた。今度は水樹の送迎を頼まれた。

 また隼人と一緒に店を出る。隼人の運転で待ち合わせ場所へ向かう。今度は隼人が客に禁止事項などの説明をした。覚えていない箇所は俺が付けたし、フォローした。

「こんな簡単な仕事、楽勝だろ」

 水樹を待ってる間、こんな言葉が飛び出した。すぐ調子にのるタイプらしい。

 水樹は今日はもう終了なので仕事が終わると自宅近くまで送り届け、俺たちは店に戻った。五木は両手に女の子をはべらせてまだテレビを見ていた。

「今日の営業はもう終わりにして飯でも行くか」

 五木の提案で四人で食事に行くことになった。女の子たちのリクエストで焼肉。隼人は飢えた餓鬼のようにガツガツと食べた。遠慮ってもんがないのか。

 駅前で女の子たちとは別れた。隼人はどうしていいかわからないと言う顔で俺と五木を交互に見た。

「隼人ももう帰っていいぞ」

 五木の言葉に曖昧に頷く。

「どうした?」
「……兄貴といる時、こんなぬるい一日なんてなかったからよ。ほんとにこれでいいのかよ」
「なにを期待してるんだ」

 五木が苦笑する。

「迷惑な客をぶん殴るのが俺の仕事じゃねえのかよ」
「手は出しちゃ駄目だ。よっぽと悪質な客じゃねえ限り、こっちが悪くなる。隼人がパクられたら俺が上から怒られるんだから、下手な真似してくれるなよ」
「ただ車運転して、女とだべって飯食って、こんなうまい話があるのかよ」
「あるんだよ。隼人がちゃんと仕事してくれりゃ、それなりに給料も出る」
「金ももらえんのか。兄気といた時、どうしても食えねえ時は当たり屋やって、体ボロボロにしながらやっと金もらってたんだ。うまくできねえと兄貴から殴られたりしてよ」
「うちはそこまでの肉体労働じゃない。ちゃんと仕事さえしてくれりゃ殴ることもない」
「まじかよ」

 隼人は茫然と呟いた。今までどんな生活を送ってきたんだ、こいつは。

「五木、さん、俺をあんたのショーファーにしてくれよ」

 目を輝かせ、隼人は前のめりに言った。

「ショーファーなんか必要ねえよ。それに隼人、お前今日飲んだだろ」
「次から絶対飲まねえよ。五木さんの足になるからさ、俺のこと好きに使ってくれよ」
「必要な時は呼ぶよ。それまではデリヘルのドライバー頼むぜ」
「任せてくれよ」

 なんか俺、蚊帳の外なんですけど。隼人の眼中にはもう五木しかない。俺のこと忘れてんじゃないだろうか。

「五木さんはこのあとどうするんだ?」
「俺は……」

 五木の目が俺を捉える。いつもの流れなら、五木の自宅で飲み直すかセックスするか。でも今日は隼人がいる。

「今日は帰る」

 帰るという五木に、隼人はついて行くと言いきった。

「五木さんの家を知ってなきゃ迎えに行けねえからな」

 ということらしい。結局押し切られるように、五木は隼人と一緒にタクシーに乗って帰っていった。いつもだったら隣にいるのは俺だったのに。店に五木がいるのを見た時から期待に下心が膨らんだ。発散する場所を失ってこの熱をどう処理すればいいんだよ。こんなことなら運転手なんかいらねえよ。




偲べば恋 2


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生温い(2/2)

2018.08.16.Thu.
<前話>

 2、3時間って言ったくせに、実際五木から電話がかかってきたのは4時間も経ってからだった。わかってたけどむかつく。しかも五木は一旦家に帰ったのか、スーツに着替えていた。俺、パーカーにジャケットって学生みたいな格好なんだけど。

 五木の車でホテルに乗りつけて、いつの間に予約取ってたのか五木の名前で席に案内された。ディナータイムなので静かで上品な雰囲気、ドレスアップした客も多い。ますます俺が浮くじゃん。

「好きな物頼めよ」

 メニューを広げる俺に五木がニヤニヤ笑う。メニューが難解すぎてどんな料理か想像できねえよ。

「あんたに任せる」

 五木はこなれた感じで注文するとメニューをウエイターに返した。荒稼ぎした金でこういう店に女連れて来てたんだろうってのがわかる。

「そういえば何歳になったんだ?」
「えっ」
「誕生日だったんだろ」
「25」
「初めて会ったのが18の時だから、もう7年になるのか」
「なかなか濃い7年だったよな。騙されて犯されるわ、AV出演させられるわ、あんたはやくざの奴隷になって、刑務所入れられるしさ」
「そう言われると、お前と出会ってからろくなことがないな。疫病神か」
「こっちの台詞だし」

 ワインが運ばれてきたので会話を一旦中止する。白ワイン。口当たりがよくておいしい。

「そういえばさっき電話でえらく不機嫌だったな。何があった?」
「別に。あんたに関係ないことだよ」
「ならいい」

 またさっきのウエイターが料理を運んできた。大きな皿に少しの料理。小洒落た盛り付けでそれっぽく見えるだけじゃん、こんなの。一皿食べ終わるとまた次の皿がくる。これがコース料理か。25歳にして初めて食うわ。メインの肉も少なっ。こんなことならやっぱ焼肉にしときゃよかったかも。

「カードキー。忘れる前に渡しとく」

 デザートを待つ間、五木が思い出したようにポケットからカードを出した。

「ほんとに部屋取ってくれたんだ?」
「誕生日プレゼントだ。もう俺に集るなよ」

 テーブルのカードキーと五木の顔を交互に見る。

「なんだ」
「あんたは帰んの?」
「俺はお呼びじゃねえんだろ」

 確かにそう言ったけど。あんな本心隠したやり取りなんていつものことだろ。わかれよそんくらい。口をモゴモゴさせる俺を見て、五木は「クッ」と笑った。

「そんな顔で誘われちゃ仕方ねえな」

 って言うとテーブルのカードをまた自分のポケットに戻した。

「誘ってねえし」

 誘ってはいないが、縋る顔をしていた自覚はあったので抗議の声も自然と控えめ。五木はずっとニヤついている。恥ずかしくって顔あげられない。



 デザートを食べてすぐ部屋に向かった。五木をベッドに押し倒し、その上に馬乗りになる。ベルトを外して前を緩め、もどかしく引っ張りだしたちんこにしゃぶりついた。

「そんなにこれが欲しかったのか」

 口の中で五木のちんこがピクピク動く。俺は無言でしゃぶり続けた。完全に勃ちあがるとそこへ跨り、尻を落としていった。久し振りでけっこうきつい。歯を食い縛って五木を咥えこむ。

「お前、最後に女とセックスしたの、いつだ?」
「なんで? 覚えてないけど」
「覚えてないくらい前か?」
「出会いがないんだから仕方ないだろ。あんたみたいに、3Pしてる暇もないし」
「女抱けるのか?」
「どういう意味だよ」
「前に言ってたよな、お前、男とヤルとき俺がいなきゃ勃たないって。もしかして、女とヤルときも勃たないんじゃねえのか?」
「勃つよ! 今日だって勃ってたじゃん」
「なかなかイカなかっただろ。最後は俺の顔を見ながら扱いてた。あれ、俺を見ながらじゃなきゃイケなかったんじゃねえのか?」

 内心ぎくりとしてたら五木がにっと笑った。

「図星だな。中が締まった」
「あんたの顔なんか見なくてもイケるし」
「じゃあまた仕事頼もうかな」

 俺の腰を掴んで五木が下から突きあげてきた。

「ハッ、あっ」
「あいかわらずキツいな。男ともしてねえのか? ああ、俺がいなきゃ勃たねえんだっけ」

 楽しそうな声。リズムをつけて突きあげてくる。いいところに当てるために俺も腰を動かし、振り落とされない態勢を取る。

「ちゃん、と、勃つ、しっ!」

 家で一人でするときは勃起もするし射精もする。でもなぜか生身相手になると気分が乗らなくなって射精にまで至らなくなる。

 今日、女優さんにぶっかけるって時にその感覚に陥って焦った。五木を探したのはほとんど無意識だ。若い女の裸を見ても興奮はしなかった。射精のプレッシャーのほうが大きかった。そんな時に五木を見るとその気になれる。刷り込まれた反射。いつまで俺を縛りつけるんだ。

「一回抜くぞ、腰が痛い」

 五木は体を起こすと俺を押し倒し、また挿入した。

「3Pなんかするから痛いんじゃないの」

 俺の嫌味をフンと鼻で笑う。

「まだ根に持ってんのか」
「ケーキとられたんだぞ。あんたと食べようと思って買ってったのに」
「悪かったって。撮影のいろはを教える名目なだけで、あいつらも仕事欲しさに枕営業必死なんだよ」
「役得だね」
「馬鹿言え。興味ない女相手に勃起させ続けるのも大変なんだぞ」
「年だからじゃないの? あんたこそ、何歳だっけ」
「舐めんな、まだ32だ」

 足を押し広げられた。叩きこむように五木が腰を振る。

「ふあっ、あっ」
「今度好きなだけケーキ食わせてやるよ」
「あっ、あんっ、一緒に……食ってくれんの?」
「ああ、歌も歌ってやるぜ」
「はあっ、あ、もっと奥、来て……!」

 五木が俺の膝を押しあげた。体が曲げられて、自分のちんこはおろか、五木との結合部も見える。ほとんど真上から五木のちんこが中を抉るように突き刺さる。深い挿入に息がつまりそうになる。

「ああっ、やっ……! もっと、来てよっ」

 目の前に垂れるネクタイを引っ張った。五木の顔が近づいてくる。俺も首を伸ばして口を合わせた。無理な体勢。ぴったりくっつかない唇。必死に舌を絡め合う俺たち。獣じみている。

「はあっ、はっ、ん、んんっ」
「キス好きだな、お前」
「あの女優ともした?」
「しねえよ」
「他の誰かとしたら、許さねえかんな」
「そんな相手、お前しかいねえよ」

 五木の顔から余裕が消えた。腰の動きも早くなる。ちんこを扱きたい衝動を我慢する。擦ったらすぐ出ちゃいそうだから。五木の顔を見ただけで。匂いを嗅いだだけで。それだけで俺は反応する。

 結局長くはもたなくて、五木がイクまえに俺が先にイッてしまった。



 朝の六時半に叩き起こされた。五木はすでにワイシャツにネクタイを締めている。

「出るぞ。お前も仕事だろ」
「あー、うん」

 寝惚けながらベッドを出て洗顔と歯磨きを済ませる。部屋を出て五木の車に乗った。

「そうだ、俺、またあんたのとこで働こうかな」
「ホモビデオか? どうした急に」
「店畳むかもしんないんだって。オーナーから連絡あってさ。俺無職になるかも」
「今まで潰れなかったのが不思議なくらいだ」
「とりあえず食ってかなきゃなんないから、何かしないと」
「せっかく足洗えたのにか?」
「俺馬鹿だし学歴ないから、他に稼ぎ方知らねえもん」
「もっと慎重に考えろよ」
「あんただってまた仕事手伝えって言ったじゃん」
「本職にするのとはわけが違うだろうが」
「この道に引きずり込んだのはあんたのくせによく言うよ」

 いつもの軽口のつもりだったのに、五木は口を閉ざして黙り込んだ。なんだよ、マジな空気出されたら俺が気まずいだろ。

「まあ、ずるずる続けたのは俺だけどさ」

 なに五木をフォローするようなこと言ってんだ俺。

「……ほんとにやる気ならちゃんとした事務所紹介してやるよ」

 妙に低い五木の声。

「あんたんとこは?」
「うちはメーカー会社のほうだからな。プロダクションじゃねえんだ。専属がいることはいるが女ばっかだ」

 五木がいない他の事務所じゃ入る気がしないな。

「現場に俺がいなきゃ勃たねえのに、どうすんだよ」

 いつもの口調に戻って五木が俺を茶化す。確かにその通り、かもしれないので、ぶすっと口を尖らせていたら五木に頭を撫でくり回された。

「まあ、ちょっと待て。お前の働き口くらい、俺がなんとかしてやる」

 五木にそう言われると。なんかものすごく安心する。



 ネパールにいたオーナーが帰国した。ネパール人の彼女を連れて。実家にはもう挨拶に行って、結婚の話もしたそうだ。両親は最初驚いていたが祝福してくれたらしい。

 という話をネパール土産を持って店にやってきたオーナーから聞いた。その時、この店の話もした。俺がここを買い取ることは無理で断った。ローンを組む甲斐性も将来性もない。

 オーナーはしきりに残念だと惜しんでくれた。それなりにこの店と俺に愛着を持っていてくれたのだろう。

 店は他の誰かに売るらしい。すでに実家の両親に話を持ちかけてきた人物がいたそうだ。そのことがあったから、オーナーは急に俺に店を買わないかと言いだしたのだそうだ。

 レンタルビデオ店は他の誰かの手に渡る。今月一杯で営業も終了。俺は無職確定。

 働き口をなんとかしてやると言っていた五木からは連絡がない。俺、どうなっちゃうの。

 不安になって五木に電話してみた。いま忙しいとなかなか時間を作ってくれない。そうこうしているうちに店は閉店、俺は無職になった。

 一人暮らしの金もなくなり実家に戻った。はやく次の仕事を見つけて来いと毎日親から言われて肩身が狭い。家に居づらく高校時代の友達と遊びに行ったりして貯金を使い果たした頃、やっと五木から連絡してきた。

「おっせーよ、ハゲ」
『ハゲてねえよ。迎えに行ってやる。いまどこだ?』

 毎度毎度、俺に用事があるとか考えないのかこの自己中は。あいにく予定もなかったので、実家近くの駅を指定した。待つこと十分、五木の車がやってきて助手席に乗り込んだ。

「とうとう俺、無職なんだけど。いつ俺に仕事紹介してくれんの」
「今日」

 見覚えのある道を車が走る。雨の日も風の日も、働くのが面倒だった日も、毎日通ったレンタルビデオ店への道。ほらもう見えてきた。

 店の窓からポスターの類は全部剥がされ、ベニヤ板のようなものが全面に貼られていた。出入り口だった扉には、俺が手書きした閉店のお知らせの紙がまだ残っている。

 店のまえを車が通りすぎた。少し行った先のマンションの駐車場に入って車は止まった。

「なんの仕事紹介してくれんの?」
「デリヘルの店長」
「はあ?!」

 目を剥く俺の背中を押して五木はエレベーターに乗り込み、5階のボタンを押した。

「とりあえず、AV女優志望の女何人かこっちに引っ張って来てるから。将来的にはAV女優とヤれる店って売りにしようと思ってる。超VIP向けのメニュー作ってな。オーナーが俺でお前がフロント。仕事内容は女の子の管理と送迎、電話番。いまのとこ男の従業員はお前ひとり。仕事が増えて来たらドライバーを雇う」
「ちょちょ、ちょっと待てよ、俺そんなのできねえよ」

 勝手に喋り続ける五木を慌てて止めた。

「お前ならできる。むしろ適任だろ。お前のその当たり障りない人付き合いしかできねえところとか、勃たねえから商品の女に手を出しようもないところとか」
「褒めてねえじゃん、悪口じゃん。あんたは? あんたは何すんだよ」
「俺はまだ今のところを辞められねえんだよ」
「なんで?」
「最初のうちは向こうから嬢をレンタルさせてもらうから、いい女の引き抜き防止と、こっちが失敗したとき俺が飛ばねえように監視目的だな」
「ああ、あんた、やくざの奴隷だもんな」
「そういうこと。当面、お前ひとりで頑張れ」

 止まったエレベーターを出て通路を進む。505と書かれた部屋の前で止まり、五木は鍵を差し込んだ。部屋の間取りは1K。手前のキッチンにパソコンと電話が乗ったデスク。奥の部屋にはテーブルとソファ、テレビが置いてある。ここが女の子たちの待機場所。

「まじで? 俺、自信ない」
「売上次第だが、うまくいけば同年代の平均年収は軽く稼げるぞ」
「金の問題じゃなくって」
「なにが問題だ?」
「一人じゃ不安だって」
「俺がいるだろ。何かあれば連絡してこい。営業は明日からだ。しばらく暇だろうが、客から電話があったらオーダー聞いて俺に電話しろ。女はこっちで見繕う。お前はここで待機して俺の指示で車を出せ」
「車は?! 持ってない!」
「下に用意してある」

 用意周到だ。ここ最近忙しいと言っていたのは、これの準備のためだったのかもしれない。

 いきなりの展開すぎて頭がついていかない。戸惑う俺を五木はソファに座らせた。

「やりたくないならしなくていい。ゲイビでも男優でも、好きなことをやればいい」

 少し前まで本気でAV業界に戻ろうかと考えていた。でも五木が言う通り、俺は五木がいないと男相手に勃たないし、女相手でも射精できなくなってしまった。こんなんじゃどこも使ってくれない。

 かと言って何かやりたい仕事もないし、選べるほど優秀な人間でもない。

 もうずっと流されるだけの人生だった。いまさら流れに逆らったりなにか考えるなんて性に合わない。これまでなるようになってきたんだ、なんとかなるだろう。ならなけりゃ、その時また考えればいい。

「あんたもたまにはここに顔出してくれる?」
「当たり前だろ、俺の店だ」
「じゃあ、やってみようかな。できるかわかんないけど」
「よし、決まりだ」

 ソファから立ちあがると、五木は小さな冷蔵庫を開け、ケーキとシャンパンを持ってきた。

「これって」
「一緒にケーキ食うって約束しただろ」

 プレートに「誕生日おめでとう ミワ」って書いてある。こういうとこ、ずるいと思う。女嫌いのくせに女をこますことがうまいのも、こういう天性のたらし気質のせいだ。

「ローソクつけるか?」

 ライターを探す五木に抱きついた。

「なんだ、ケーキだけじゃ足りねえのか」
「足りない」
「なにが欲しい」
「あんたが欲しい」

 言い終わるや、五木にキスした。五木が俺を抱き返し、ソファに押し倒す。勃起に触られただけでイキそうになる。

 もしかしたら俺、一生五木から離れられないかもしんない。





会いたくなかった1

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生温い(1/2)

2018.08.15.Wed.
<「ちょろい」→「やっぱちょろい」→「ちょろくない」>

※男女性描写あり

 仕事終わりにスマホ見たら誕生日オメってメールが何通が来てた。すっかり忘れてたけど、今日って俺の誕生日じゃね? 気付いたらケーキが食べたくなった。1人で食べるのも寂しいし、コンビニ寄ったあと五木のマンションに向かった。

 刑務所から出所後に借りたマンションも相変らずオートロック。あいつは人を信用してないから。っていうか、被害者から呪いかけられるほど悪いことしてきたから、ビビッてんだな、情けない奴。

 刑務所に入ったからって禊が済んだわけじゃない。言っておくが俺だって被害者の一人で五木にされたことを許したわけじゃない。俺にも落ち度があったし、そのあと特殊性癖に目覚めたりして、まあ今のところ不問にしてやってもいいという気分なだけ。

 それに、こうして夜いきなり押しかけたりできるのって五木くらいだし。高校の友達にはやっぱ前もって連絡しとかなきゃ悪いなーって思うけど、五木だったら怒らせたって別にいいやって思える。だってあいつ、俺にさんざん嫌なことしたんだから、このくらいで目くじら立てんなって感じ。

 23時21分。五木ならまだ起きてるだろう。刑務所出てまともな職につけるわけもなく、五木はまた元鞘に戻ってやくざのフロント企業で働いている。女をこますことが相当うまと思われているみたいで、またAV撮影の仕事。もちろん男優じゃなく、制作側の人間。

 前に会った時、「もうまんこもちんこも見たくない」って疲れた顔してぼやいてたっけ。男遊びが激しい母親を呪い、女を嫌い、その女を道具のように扱ってきた罰だと思う。そう言ったら心底嫌そうな顔してたけど。

 五木の部屋のチャイム鳴らそうとしてたら、ちょうどマンションの住人が外へ出かけていくところだった。なのでそのまま中に入って、エレベーターに乗り込んだ。五木の部屋は最上階。バカとなんとかは高いところが好きってやつ? 言ったらぶん殴られそうだから言わないけど。

 廊下の一番奥。五木の家のチャイムを鳴らした。しばらく待つと『お前、何しに来た』って不機嫌そうな声が聞こえてきた。

「ハッピーバースデー!」
『誕生日じゃねえよ』
「俺俺!」
『帰れ』
「ケーキも買ってきたのに。あんたの分もあるよ」
『いらねぇ……あっ、こら、待て!』

 お? なんか他に人の気配? 誰かと一緒? あの用心深い五木が自宅に誰か呼ぶなんて珍しい。

 ガチャッと解錠の音。そのあと勢いよく扉が開いたと思ったら、俺を出迎えたのは五木ではなく、裸の女。それもすっごくかわいくて、スタイルのいい、俺より若そうな女の子。

「ケーキ? これケーキ? あたしがもらってあげるー!」

 俺から許可なくコンビニ袋を奪うと裸の女は部屋の奥へ走って行った。なにあの股だけじゃなく頭も緩そうな女。

 ケーキ奪われたけど、せっかくここまで来たんだから、お茶の一杯くらい出してもらわないと。ついでに五木がいまどんな顔してんのかも見てやらないと。

 靴をぬいで勝手に家にあがる。リビングへ行くと、腰にタオル巻いただけの五木が超絶不機嫌な顔で俺を睨んでた。

「あっ、お取込み中? お邪魔しちゃった?」
「ふざけるな。来る前連絡しろっていつも言ってるだろ」
「優しいあんたのことだから、俺のサプライズパーティー準備してくれてると思ったのに」
「するわけないだろ。お前の誕生日すら知らねえよ」
「ひどーい。自分だけ楽しんじゃって」

 さっき俺のケーキを強奪していった女の姿が見えない。たぶん、寝室? チラッと寝室のほうへ視線をやると、偶然扉が開いて、女が顔を出した。

「五木さーん、まだ?」

 さっきと違う女が、甘えた声で五木を呼ぶ。

「すぐ行くから、そっちで待ってて」

 俺と話す時とはぜんぜん違う優しい声と言葉遣い。なにそれ。すっげえむかつくんだけど。

 女は「はぁい」と返事して顔を引っこめた。

 視線を五木に戻す。五木はうんざりした顔つきで小さく息を吐いた。

「3P?」 
「うるさい」

 もうまんこなんか見たくないんじゃなかったのかよ。

「あんたって、ああいう女がタイプなんだ? へー、ふーん」
「仕事だ、馬鹿」
「撮影? もしかしてまた素人強/姦もの? 懲りたんじゃないの?」
「あの二人は新人女優なんだよ。撮影はまだ緊張するって言うから」
「で、なんであんたと3Pの流れになんの? 意味わかんない」
「カメラが回ってないところで、撮影のあれこれを教えてやるんだ」
「社長自ら手取足取り?」
「俺はもう社長じゃねえよ」
「あっ、今はプロデューサーだっけ?」

 厭味ったらしく笑ってやると五木は鬱陶しそうに顔を顰めた。

「お前いつからそんなに性格歪んだんだ」
「あんたに騙されて輪姦された時じゃない?」

 五木はなにか言い返しかけたけど、途中で面倒になったのか口を閉じて溜息をついた。

「俺は戻る」

 俺を押しのけて寝室へ向かう。

「邪魔して悪かったな! 俺の誕生日に! さっきの女にケーキとられたけど!」

 五木は振り返らない。何も言わない。むかつく。腹の虫が収まらない。なに女連れこんでんだよ。まんこは見飽きたんじゃないのかよ。女嫌いのくせに二人も相手にしてんじゃねえよ。

「インポ野郎! お前なんかちんぽ腐って死ね!!」

 大声で捨て台詞を吐いて五木の家を出た。まだムカツクので扉を思いっきり蹴ってやった。最悪な誕生日じゃん。

 

 俺が働いているレンタルビデオ店の唯一のアルバイト君が、知り合いのツテで就職が決まったから今月いっぱいで辞めたいと言ってきた。聞けば俺も知ってる会社名、条件もいい。代わってくれという言葉をなんとか飲みこんで、店長らしく「良かったな」とバイト君を送りだした。

 店は俺一人になった。小さな個人経営のレンタルビデオ店。微々たる売り上げ。バイト君がいなくなった分人件費が浮いて赤字は解消されたけど、朝から晩まで俺一人でまわさなきゃならない。いくら暇な店でもきつい。

 俺も他に就職先を探そうか。考えてみるけど、こんな気楽な職場に慣れてしまったら、他でやっていける自信がない。

 こうやって何度も同じことをグルグル考えて結局行動しないまま今まできた。この先もきっと同じことを繰り返すんだろう。俺の人生ってそんなもんだ。

 今日もあくびしながら一人店番をする。正午過ぎが一番暇な時間帯。映画館で見たいと思いながら結局行かなかった洋画を見ながら昼飯を食べる。

 食後のコーヒーを飲んでいたらスマホが鳴った。「五木のアホ」って表示。今度「五木の腐れちんこ」って登録変えてやろう。

「なんだよ、俺いま仕事中で忙しいんだけど」

 洋画を一時停止して五木からの電話に出た。

『潰れかけのレンタル屋がなにほざいてやがる』
「あんたこそ、新人女優の相手が忙しいんじゃないの?」
『仕事でするセックスはもう飽きたって言ってんだろ。お前暇だろ。いまから出て来いよ。晩飯奢ってやる』

 もしかして、この前の誕生日のことちょっとは悪かったと思ってその埋め合わせしようとしてる? 可愛いとこあるじゃん。

「なに奢ってくれんの?」
『ただし条件がある』
「無理!」

 こいつから出てくる条件なんて嫌な予感しかしない。

『話聞いてないだろ。これから午後の撮影なんだが汁男優が一人使い物にならなくなった。お前、代わりに出ろ。そんな店、営業してるだけで赤字なんだから』
「やだって。俺、あんたがパクられた時足洗ったのに」
『今回だけだ。お前ならAV撮影の勝手もわかってるだろ』

 そりゃまあ何本も撮影してるからわかってはいるけど。迷う俺の耳に『好きな飯奢ってやる』って五木の声。俺の目が店の出入り口を確認してる。客は来ない。

「わかったよ。肉、奢れよ。鉄板焼き」
『場所はあとでメールする。すぐ来い』

 返事を聞いたらもう用はないとばかりに無遠慮に通話が切られた。そういう奴だとわかちゃいるがむかつく。結局あいつの頼み事をきいてしまう自分が馬鹿みたいに思えるから。



 わざと遅く行ってやろうかと子供じみた復讐心がないではなかったが、撮影にはたくさんの大人とそれなりのお金がかかっていることは知っているので、店を臨時休業させると急いでメールに書かれた住所へ向かった。前に俺も使ったことがある撮影スタジオだった。

 中に入ったら、撮影スタッフの面子のなかに知った顔もあった。向こうも覚えてたみたいで「ミワちゃんじゃん」と声をかけてきた。

「お久しぶりです」
「ミワちゃん復活?」
「まさか! 今日はただのピンチヒッター」
「男優さんが一人、勃たなくなっちゃったんだよね」

 と、部屋の隅へ視線を向ける。つられてそっちを見ると、バスローブ姿の男が椅子に座ってベソかいてた。

「もともと経験浅い子で、急に緊張して勃たなくなったみたい」
「あちゃー。かわいそう。俺もインポになりかけたことあるから気持ちわかるわー」
「ミワちゃんがインポ? 初耳だなあ」
「もう治りましたけどね。でなきゃ来ないよ」
「だよね」

 ワハハって笑ってたら「おい!」って五木が遠くから指で「来い」ってしてる。俺は犬かよ。

「急に呼び付けておいてその態度」
「監督、男優揃いました。午後の撮影始めましょうか」

 俺の肩をグイッと掴んだと思ったら、いかにも監督ぽい男のほうへ体を向かせられた。

「へえ、この子が前に男の娘やってた子?」
「そうです。勝手はわかってるんで、そこらの素人よりは使えます。ほら、さっさとシャワー浴びて来い」

 挨拶もそこそこにシャワーを浴びてこいと命令され、しぶしぶ従った。そのあと、女優待ちのスタンバイ。その間に今回の撮影の設定と自分の役回りを確認し、空いた時間は一緒に出演する他の男優と軽く世間話をした。

 控室から女優さんが出てきた。ラッキーなことに若くて可愛い。なんかどっかで見たことある。最近みたAVだっけ?

「五木さん、私頑張るね」

 とガッツポーズを作る女優の声を聞いて思い出した。俺の誕生日に五木の部屋にいた女。俺のケーキを強奪してった女だ。

 五木を見た。五木はスタッフと真面目な顔で話し中。あいつが寝た女かよ。なんか急に萎えたわ。

 監督の声があがり、撮影スタート。主演女優と男優のわざとらしい演技が始まる。騙されて男の部屋に連れて来られた女の子が、待ち受けていた男たちから輪姦されるという、見たことのあるストーリー。まぁ、ありがちっちゃありがちなんだけど。

 俺は待ち受けていた男Dの役。カメラの位置を確認しながら女優さんの手足を動かして視聴者を煽るポーズを取らせる。だいたい俺が取らされたことのあるポーズだったりする。

 髪の毛で顔が隠れないよう、乱れた前髪を撫でつけてやったり。気分高めてもらうためにも乳首触ったり吸ったり。女優さん相手のAVは奉仕精神がないとやっていけないから大変だ。

 ふと思い出して五木を見た。腕組しながら壁にもたれて白けた顔をこっちに向けている。店で一番高い肉奢らせてやるからな。

 撮影もクライマックス。ちんこ扱いて女優にぶっかけるのが俺の仕事。勃起はするけどなかなか出ない。他の汁男優は次々出していく。焦ってつい、五木の顔を探した。まっすぐ俺を見ていた五木と目が合った。感情が死んだような目だ。毎日こんな現場じゃ、まんこもちんこも見たくなくなるのも無理ないだろうな。

 急に五木がフッと笑った。俺の目を見つめたまま。ブワッと全身の毛穴が開いたような感じになって、俺も無事、女優さんに精液をぶっかけて仕事は終了した。



「さすがミワちゃん、撮影慣れしてるから助かったよ」

 と、かつての顔見知りスタッフに褒められながらスタジオをあとにした。五木は当然このあと仕事が残っている。終わったら連絡をくれることになっているが、いったい何時になるやら。

 待ってる間近くの漫画喫茶で時間を潰すことにした。漫画読んでたら、いまネパールにいるレンタルビデオ店のオーナーから電話がかかってきた。

 簡単な近況報告のあと、オーナーは申し訳なさそうに『急な話で悪いんだけど』と切りだした。

「なんですか?」
『うち、売り上げ悪いじゃない? バイトも雇えないくらいに。だからいっそ店畳もうかなって思ってんのよ。実はこっちで彼女が出来てさ。このまま結婚もありかなーって。うちの親ももう年だからまた店やる気もないし、売るとしても建物が古いから買い叩かれるだろうし、それならうちでずっと働いてくれた北野くんに買って欲しいなって思ってんのよ。もちろん北野くんに買う気があればの話だけどね。北野くんが買ってくれるなら、知り合い価格で20坪で2200万。どうかな? 買う気がなければいいのよ。他に売る前に北野くんに話持ってきただけだから』

 いきなり店を畳むというのも寝耳に水の話で驚くのに、さらに2200万で買わないかだって? そんな大金、俺に用意できるはずがない。ローンだって、店を畳まれたら無職になる俺が組めるわけないし、経営を続ける条件であっても店の売り上げを考えたら銀行が貸してくれると思えない。

「ちょ、ちょっと、オーナー、急すぎだって!」
『ま、考えてみてよ。すぐ店閉めるってわけじゃないし。僕もそっち帰ってからの話だから』
「いつぐらいですか?」
『んー、早ければ今月中? 遅くても来月中かな。帰る前にまた連絡するから、考えてみて』

 その時お土産渡すねーとのんびり言ってオーナーからの電話は切れた。まじかよ。俺無職かよ。2200万なんて金ない。貯金残高16万しかないんだぞ。今日の稼ぎは実質汁男優の1000円のみ。満喫入ったから完全赤字だ。こんなことなら店番しときゃよかった。全部五木のせいだ。

 腹いせに五木に鬼電かけたら『仕事だっつってんだろうが』と怒られた。うるせえ。こっちはむかついてんだ。

「晩飯、ホテルのレストランに変更な。あんたのせいで赤字になったんだから、このくらいいいだろ」
『なに怒ってるんだ?』
「ついでに一泊したいなー」
『誘ってんのか?』
「お呼びじゃねえよ」
『出したばっかでもう欲求不満かよ』
「違うって言ってんだろ。それに3Pしてたあんたに欲求不満とか言われたくないし! 今日の女優、あん時あんたがヤッた女優じゃん! なんであんたが仕込んだ女優に俺がぶっかけなきゃなんないんだよ」

 電話の向こうから『面倒臭え』って小さな声と舌打ちが聞こえた。

『あと2、3時間で終わらせるから、それまで待ってろ』
「あんたの2、3時間は4、5時間じゃん!」

 って俺の喚き声が五木に届く前に通話は切られていた。






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