FC2ブログ



更新履歴・お知らせ

2019/5/26
お触り禁止2、完結

2019/5/25
お触り禁止1、更新

2019/5/18
お金じゃない2、完結

2019/5/17
お金じゃない1、更新

2019/1/26
よくある話2、完結

2019/1/25
よくある話1、更新

2018/12/7
カインとアベル3、完結

2018/12/6
カインとアベル2、更新

2018/12/5
カインとアベル1、更新

2018/11/27
Tedious story15、完結

2018/11/26
Tedious story14、更新

2018/11/25
Tedious story13、更新

2018/11/24
Tedious story12、更新

2018/11/23
Tedious story11、更新

2018/11/22
Tedious story10、更新

2018/11/21
Tedious story9、更新

2018/11/19
Tedious story8、更新

2018/11/18
Tedious story7、更新

2018/11/17
Tedious story6、更新

2018/11/16
Tedious story5、更新

2018/11/15
Tedious story4、更新

2018/11/14
Tedious story3、更新

2018/11/13
Tedious story2、更新

2018/11/12
Tedious story1、更新

2018/9/7
面倒臭い二人、更新完結

2018/8/28
愛で殴る2、完結

2018/8/27
愛で殴る1、更新

2018/8/26
宙ぶらりん2、完結

2018/8/25
宙ぶらりん1、更新

2018/8/23
とどめを刺されたい3、完結

2018/8/22
とどめを刺されたい2、更新

2018/8/21
とどめを刺されたい1、更新

2018/8/16
生温い2、更新完結

2018/8/15
生温い1、更新

2018/6/28
続・盲目の狼2完結

2018/6/27
続・盲目の狼1更新

2018/6/23
盲目の狼2更新完結

2018/6/22
盲目の狼1更新

2018/6/21
往事渺茫…15更新完結

2018/6/20
往事渺茫…14更新

2018/6/19
往事渺茫…13更新

2018/6/18
往事渺茫…12更新

2018/6/17
往事渺茫…11更新

2018/6/16
往事渺茫…10更新

2018/6/15
往事渺茫…9更新

2018/6/14
往事渺茫…8更新

2018/6/13
往事渺茫…7更新

2018/6/12
往事渺茫…6更新

2018/6/11
往事渺茫…5更新

2018/6/10
往事渺茫…4更新

2018/6/9
往事渺茫…3更新

2018/6/8
往事渺茫…2更新

2018/6/7
往事渺茫としてすべて夢に似たり1更新

2018/5/6
妄想2、更新完結

2018/4/13
おいくら?2、更新完結

2018/4/12
おいくら?1、更新

2018/3/31
ズッ友だょ、更新完結

2018/3/2
利害関係の終了2、完結

2018/3/1
利害関係の終了1、更新

2018/2/23
勝手にやってろ2、完結

2018/2/22
勝手にやってろ1、更新

2018/2/20
続・嫁に来ないか2、完結

2018/2/19
続・嫁に来ないか1、更新

2018/1/20
嫁に来ないか2、完結

2018/1/19
嫁に来ないか1、更新

2017/11/21
雨の日の再会2、完結

2017/11/20
雨の日の再会1、更新

2017/11/19
ピンクの唇、完結

2017/11/2
赤い爪、完結

2017/10/28
スカートめくり、完結

2017/10/23
続続続・ひとでなし2、完結

2017/10/22
続続続・ひとでなし1、更新

2017/10/21
続続・ひとでなし2、完結

2017/10/20
続続・ひとでなし1、更新

2017/10/19
続・ひとでなし2、完結

2017/10/18
続・ひとでなし1、更新

2017/09/08
ひとでなし2、完結

2017/09/07
ひとでなし1、更新

2017/09/02
ほんとにあったら怖い話2完結

2017/09/01
ほんとにあったら怖い話1更新

2017/07/28
コンビ愛更新、完結

2017/07/06
第二ボタン2更新、完結

2017/07/05
第二ボタン1更新

2017/05/25
ちょろくない2更新、完結

2017/05/24
ちょろくない1更新

2017/05/16
やっぱちょろい2更新、完結

2017/05/15
やっぱちょろい1更新

2017/02/11
メリクリあけおめ2更新、完結

2017/02/10
メリクリあけおめ1更新

2016/11/14
義父の訪問更新、完結

2016/10/27
覗き2更新、完結

2016/10/26
覗き1更新

2016/10/22
終わらない夜2更新、完結

2016/10/21
終わらない夜1更新

2016/10/16
凹の懊悩2更新、完結

2016/10/15
凹の懊悩1更新

2016/09/28
可愛さも憎さも百倍2更新、完結

2016/09/27
可愛さも憎さも百倍1更新

2016/09/22
利害の一致2更新、完結

2016/09/21
利害の一致1更新

2016/09/16
楽しい記憶喪失!3更新、完結

2016/09/15
楽しい記憶喪失!2更新

2016/09/14
楽しい記憶喪失!1更新

2016/09/13
楽しい同棲!2更新、完結

2016/09/12
楽しい同棲!1更新

2016/09/11
Phantom15更新、完結

2016/09/10
Phantom14更新

2016/09/09
Phantom13更新

2016/09/08
Phantom12更新

2016/09/07
Phantom11更新

2016/09/06
Phantom10更新

2016/09/05
Phantom9更新

2016/09/04
Phantom8更新

2016/09/03
Phantom7更新

2016/09/02
Phantom6更新

2016/09/01
Phantom5更新

2016/08/31
Phantom4更新
リンク一件追加

2016/08/30
Phantom3更新

2016/08/29
Phantom2更新

2016/08/28
Phantom1更新

2016/08/04
嘘7更新、完結

2016/08/03
嘘6更新

2016/08/02
嘘5更新

2016/08/01
嘘4更新

2016/07/31
嘘3更新

2016/07/30
嘘2更新

2016/07/29
嘘1更新

2016/07/18
Love Scars3更新、完結

2016/07/17
Love Scars2更新

2016/07/16
Love Scars1更新

2016/07/13
行きつく先は5更新、完結

2016/07/12
行きつく先は4更新

2016/07/11
行きつく先は3更新

2016/07/10
行きつく先は2更新

2016/07/09
行きつく先は1更新

2016/07/04
電話が鳴る7更新、完結

2016/07/03
電話が鳴る6更新

2016/07/02
電話が鳴る5更新

2016/07/01
電話が鳴る4更新

2016/06/30
電話が鳴る3更新

2016/06/29
電話が鳴る2更新

2016/06/28
電話が鳴る1更新

2016/06/16
今日の相手も2更新、完結

2016/06/15
今日の相手も1更新

2016/06/08
今日の相手は2更新、完結

2016/06/07
今日の相手は1更新

2016/05/25
いおや2更新、完結

2016/05/24
いおや1更新

2016/05/14
奇跡2更新、完結

2016/05/13
奇跡1更新

2016/04/28
ターゲット2更新、完結

2016/04/27
ターゲット1更新

2016/03/02
視線の先2更新、完結

2016/03/01
視線の先1更新

2016/02/23
性癖の道連れ2更新、完結

2016/02/22
性癖の道連れ1更新

2016/02/15
DL販売お知らせ

2016/01/20
尾行2更新、完結

2016/01/19
尾行1更新

2015/12/07
遺作2更新、完結

2015/12/06
遺作1更新

2015/12/02
昼夜2更新、完結

2015/12/01
昼夜1更新

2015/11/26
大小2更新、完結

2015/11/25
大小1更新

2015/11/15
彼はセールスマン2更新、完結

2015/11/14
彼はセールスマン1更新

2015/10/22
2度あることは2更新、完結

2015/10/21
2度あることは1更新

2015/09/18
死神さんいらっしゃい2更新、完結

2015/09/17
死神さんいらっしゃい1更新

2015/09/08
Congratulations2更新、完結

2015/09/07
Congratulations1更新

2015/09/01
待田くんに春の気配3更新、完結

2015/08/31
待田くんに春の気配2更新

2015/08/30
待田くんに春の気配1更新

2015/08/11
亀の恩返し2更新、完結

2015/08/11
亀の恩返し1更新

2015/08/07
Aからのメール2更新、完結

2015/08/06
Aからのメール1更新

2015/07/06
5年後2更新、完結

2015/07/05
5年後1更新

2015/07/04
待っててね2更新、完結

2015/07/03
待っててね1更新

2015/05/11
その後3更新、完結

2015/05/10
その後2更新

2015/05/09
リクエスト小説
その後1更新

2015/05/05
待田くんに春はこない2更新、完結

2015/05/04
待田くんに春はこない1更新

2015/04/30
楽しいシーソーゲーム!2
更新、完結

2015/04/29
楽しいシーソーゲーム!1更新

2015/04/21
楽しい親子喧嘩!1
楽しい親子喧嘩!2更新、完結

2015/04/16
楽しい放課後!2更新、完結

2015/04/15
楽しい放課後!1更新

2015/04/06
楽しい合コン!2更新、完結

2015/04/05
楽しい合コン!1更新

2015/04/01
楽しいお見舞い!2更新、完結

2015/03/30
楽しいお見舞い!1更新

2015/03/24
楽しい旧校舎!2更新、完結

2015/03/23
楽しい旧校舎!1更新

2015/03/16
楽しい入院生活!2更新、完結

2015/03/15
楽しい入院生活!1更新

2015/03/05
楽しい遊園地!2更新、完結

2015/03/04
楽しい遊園地!1更新

2015/02/27
楽しいロッカールーム!2更新、完結

2015/02/26
楽しいロッカールーム!1更新

2015/02/16
楽しいOB会!2更新、完結

2015/02/15
楽しいOB会!1更新

2015/02/14
一周年!!
いつもありがとうございます!
君は日向の匂い更新、完結
シンデレラアイドルのSSです

2015/02/13
保健室の先生2更新、完結

2015/02/12
保健室の先生1更新

2015/02/11
teeth2更新、完結

2015/02/10
teeth1更新

2015/02/09
楽しい初カノ!2更新、完結

2015/02/08
楽しい初カノ!1更新

2015/01/31
楽しい勉強会!2更新、完結

2015/01/30
楽しい勉強会!1更新

2015/01/23
楽しいお泊り!2更新、完結

2015/01/22
リクエスト小説
楽しいお泊り!1更新

2015/01/08
明けましておめでとうございます!
本年も宜しくお願い致します!
リクエスト小説
両想い1、2更新、完結

2014/12/12
楽しい合宿!2更新、完結

2014/12/11
楽しい合宿!1更新

2014/12/01
アガルタ2更新、完結

2014/11/30
リクエスト小説
アガルタ1更新

2014/11/23
朝のお楽しみ2更新、完結

2014/11/22
リクエスト小説
朝のお楽しみ1更新

2014/11/14
即位式2更新、完結

2014/11/13
即位式1更新

2014/11/04
裏ドSくん3更新、完結

2014/11/03
裏ドSくん2更新

2014/11/02
裏ドSくん1更新

2014/11/01
ひみつのドSくん2更新、完結

2014/10/31
ひみつのドSくん1更新

2014/10/30
伴侶1、2更新、完結

2014/10/27
支配人3更新、完結

2014/10/26
支配人2更新

2014/10/25
支配人1更新

2014/10/24
隣人3更新、完結

2014/10/23
隣人2更新

2014/10/22
隣人1更新

2014/10/15
元上司2更新、完結

2014/10/14
リクエスト小説
元上司 1更新

2014/10/10
ニコニコドッグⅡ 2更新、完結

2014/10/09
リクエスト小説
ニコニコドッグⅡ 1更新

2014/10/04
茶番2更新、完結

2014/10/03
リクエスト小説
茶番1更新

2014/09/12
「ちょろい 2」更新、完結

2014/09/11
「ちょろい 1」更新

2014/09/08
「新雪の君」更新、完結

2014/09/06
コメントお返事させて頂きました

2014/09/05
「すばらしい日々3」更新、完結

2014/09/04
「すばらしい日々2」更新
コメントお返事させて頂きました

2014/09/03
リクエスト小説
「すばらしい日々1」更新
コメントお返事させて頂きました

2014/09/01
「好きと言って4」更新、完結

2014/08/31
「好きと言って3」更新

2014/08/30
「好きと言って2」更新

2014/08/29
リクエスト小説
「好きと言って1」更新

2014/08/24
「純粋に近付いた何か2」更新、完結

2014/08/23
リクエスト小説
「純粋に近付いた何か 1」更新

2014/08/15
コメントお返事させて頂きました

2014/08/14
再会2更新、完結
コメレスさせて頂きました

2014/08/13
リクエスト小説「再会1」更新
「ノビ」の続編です

2014/07/26
コメントお返事させて頂きました

2014/07/25
息子さんを僕にください2更新完結

2014/07/24
リクエスト小説「息子さんを僕にください1」更新
娘さんを僕に下さいとは無関係ですw

2014/07/22
コメントお返事させて頂きました

2014/07/20
久しく為さば須らく2更新、完結
コメントお返事させて頂きました

2014/07/19
リクエスト小説「久しく為さば須らく1」更新
コメントお返事させて頂きました

2014/07/18
コメントお返事させて頂きました

2014/07/16
コメントお返事させて頂きました

2014/07/15
コメントお返事させて頂きました

2014/07/14
コメントお返事させて頂きました

2014/07/13
リクエスト小説「嫉妬せいでか2」更新、完結
コメお返事させて頂きました

リクエスト小説「嫉妬せいでか1」更新

2014/07/11
拍手お返事させて頂きました
お知らせ一件

2014/07/10
コメント、拍手お返事させて頂きました

2014/07/09
拍手お返事させて頂きました

2014/07/08
コメント、拍手お返事させて頂きました
耽溺 2更新、完結

2014/07/07
拍手お返事させて頂きました
リクエスト小説「耽溺 1」更新

2014/07/06
拍手お返事させて頂きました

2014/07/05
拍手お返事させて頂きました

2014/07/04
コメント、拍手、お返事させて頂きました

2014/07/03
コメント、拍手、お返事させて頂きました
吉原と拓海その後 2更新、完結

2014/07/02
コメント、拍手、お返事させて頂きました
吉原と拓海その後1更新しました

2014/07/01
コメントお返事させて頂きました
シンデレラアイドル2更新、完結

2014/06/30
拍手お返事させて頂きました
シンデレラアイドル1更新しました

2014/06/29
リクエスト募集してます

2014/06/27
拍手お返事させて頂きました

2014/06/24
目は口ほどに 更新、完結

2014/06/17
茶々丸更新、完結
獣姦っぽい

2014/06/11
連鎖 2更新、完結

2014/06/10
連鎖 1更新

2014/06/07
拍手お返事させて頂きました

2014/06/06
拍手お返事させて頂きました

2014/06/05
拍手お返事させて頂きました

2014/06/04
元旦那さん 2更新、完結

2014/06/03
元旦那さん 1更新
旦那さんの続きです

2014/05/29
昨日の記事の続きで拍手お返事させてもらっています

2014/05/28
旦那さん 2更新、完結

2014/05/27
旦那さん 1更新

2014/05/22
夢の時間2更新、完結

2014/05/21
アンケート1位小説「親子」
夢の時間1更新

2014/05/16
この物語はフィクションです更新、完結

2014/05/14
アンケート1位小説「教師と生徒」で先生受け。
信じて下さい更新。完結

2014/05/11
純粋とは程遠いなにか2更新。完結
ダウンロード販売のお知らせ

2014/05/09
純粋とは程遠い何か1更新

2014/05/01
長男としての責務2更新。完結

2014/04/30
長男としての責務1更新

2014/04/27
セフレ更新。完結

2014/04/21
嘘が真になる2更新。完結

2014/04/20
嘘が真になる1更新。
アンケート終了しました
投票してくださった皆さんありがとうございました!

2014/04/15
親切が仇になる2更新。完結

2014/04/14
親切が仇になる1更新

2014/04/11
家庭教師更新。完結

2014/04/09
惚れ薬2更新。完結

2014/04/08
惚れ薬1更新

2014/04/05
ニコニコドッグ更新。完結

2014/04/03
健やかなるときも病めるときも更新。完結
アンケート設置1ヶ月記念更新
回答ありがとうございます!

2014/04/02
お隣さん2更新。完結

2014/04/01
お隣さん1更新

2014/03/28
B3-17 はるか更新。完結

2014/03/27
会話の語尾は常にハートマーク更新。完結

2014/03/24
僕の居場所更新。完結

2014/03/21
兄弟愛(3/3)更新。完結

ストックを全て出し切ってしまいましたので毎日更新は今日で終わりになります。
これからは書き終わり次第更新していきますので、引き続きよろしくお願い致します。

2014/03/20
兄弟愛(2/3)更新。

2014/03/19
兄弟愛(1/3)更新。

2014/03/18
7歳の高校生更新。完結

2014/03/17
7歳の高校生更新

2014/03/16
裏の顔更新。完結
アンケート2位「教師と生徒」
少し違う感じになりました。

2014/03/15
残業も悪くない更新。完結
アンケート結果を反映させてみました。
アンケートに答えてくださった皆さんありがとうございます。引き続きお願い致します

2014/03/14
片思い更新。完結

2014/03/13
クラスの地味男更新。完結

2014/03/12
吉原と拓海更新。完結

2014/03/11
罠更新。完結

2014/03/10
同級生更新。完結

2014/03/09
目覚め更新。完結
FC2小説にて、
閃光戦士フラシュレッド!公開。完結。

2014/03/08
やってられない更新。完結

2014/03/07
地下の城ピュラタ更新。完結

2014/03/06
地下の城ピュラタ更新。

2014/03/05
部室にて更新。完結

2014/03/04
すべからく長生きせよ更新。完結

2014/03/03
秘め事更新。完結
アンケート設置。ご協力お願いします

2014/03/02
映画館にて更新。完結

2014/03/01
大迷惑@一角獣更新。完結

2014/02/28
大迷惑@一角獣更新。

2014/02/27
僕はセールスマン更新。完結

2014/02/26
俺のセールスマン更新。完結

2014/02/25
夏の夜更新。完結

2014/02/24
妄想更新。完結

2014/02/23
先生 その2更新。完結

2014/02/22
洞窟更新。完結

2014/02/21
洞窟更新。

2014/02/20
先生 その1(1-2)更新。
先生 その1(2-2)更新。完結

2014/02/19
娘さんを僕にください更新。完結

2014/02/18
ノビ更新。完結

2014/02/17
ノビ更新。

2014/02/16
1万3千円更新。完結

2014/02/15
1万3千円更新。

2014/02/14
ファンレター更新。完結

2014/02/14
ブログ始動。
「ファンレター」公開。

よろしくお願いします。

最新記事

カテゴリ

ダウンロード販売

DiGiket.comさん

薔薇色の日々
  (「裏の顔」改訂版)

不埒な短編集
 短編3つ

不埒な短編集第二
 短編3つ

月別アーカイブ

おすすめ


検索フォーム

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。



--------(--) --:--| スポンサー広告| トラックバック(-)| コメント(-)

続・盲目の狼(2/2)

<前話>

「どーせ要のことだから、俺のこと好きだって思ってても、プラトニックでいいとか思ってたんでしょ。俺を穢すような真似はしない!とか決意しちゃってさ。そうやって我慢ばっかし続けるから俺の挑発でいきなり爆発しちゃうんだよ。要のことだから男同士でどうやるかなんて、なーんも調べてないだろ。調べることも悪だとか決めつけちゃってさ。おかげで俺、すっげえ痛かったんだかんね。初めてが強/姦とか。拷問じゃん。せめてちょっとくらいは解してほしかったよね。俺、痛いって何回も言ったよね。ぜんぜん潤い足んなかったもん。要には絶対そんな思いさせたくないからさ。予習復習ばっちりしてきたよ」

 ローションでぬるぬるになった指がさっきから要の尻穴を出たり入ったりしている。要はベッドに突っ伏し、尻を高く掲げた格好を取らされている。この屈辱的なポーズも、古瀬曰く「昨日のお仕置き」なのだそうだ。それを言われたら従うほかない。

「こうやって潤わせながら中を解してやんなきゃ。いきなりちんこ突っ込んだら怪我しちゃうでしょ」
「う、ごめん」
「ああ、ほら、これだ、きっと。ここが前立腺。わかる?」

 古瀬の指が中をグッグッと圧迫してくる。膀胱を刺激されるような感覚。要のペニスの先がピクピク揺れた。

「ここを俺のちんこで何回も何回も擦ってあげるからね。グリグリやられると気持ちいんだってさ。もう普通のオナニーじゃイケなくなるくらい。知ってる? 男も潮吹くんだって。俺、要に潮吹かせたいなぁ。メスイキもさせたい」

 指の腹で何度も前立腺を強く擦りながら古瀬がうっとり夢を語る。後半、なにを言っているのか要には理解できなかった。

 要は息を荒くしながら、重点的に責められている場所から体が熱く火照っていくのを感じていた。半立ちだったペニスは完全に立ちあがり、違和感しかなかった古瀬の指使いに体がビクビク震える。弾んだ声も危うく出そうになって、要は手で口を塞いだ。

「もう充分解れたかな。そろそろ入れるよ? 辛かったら言ってね。ま、俺より辛いことはないだろうけど。最初はやっぱ生でいいよね。要だって生中出ししたんだから、俺もしたい」

 指が抜け、今度はさらに太いものが押し当てられた。

 古瀬のことがずっと好きだったが、古瀬にそんな俗物的なものがついているなんて想像は避けてきた。守るべき存在として意識することで、自分の煩悩から遠ざけるためだった。

 昨日はそれを目の当たりにした。古瀬に似つかわしくないグロテスクなものが、立派な形を示して天を睨んでいた。冒しがたいはずの古瀬がただの男だと思い知らされた。

 そればかりか、いまはそれが自分をこじ開けようとしている。

 男の欲望息づく熱くて硬い肉棒は、ローションのぬめりを借りてズブズブと要の中へ飲みこまれていく。むりやり広げられ、奥まで異物が嵌めこまれる。

 想像以上の負担だった。これを昨日はローションも何の準備もなしにやってしまったのだ。一歩間違えば古瀬の体を壊してしまったかもしれない。

「うわっ……す……っごい、要のなか、熱い」

 背後で古瀬が呟く。中で古瀬が蠢く。粘膜でそれを感じて要は恥ずかしくなった。

「あは、締め付けきつくなったよ。痛い?」
「痛くない」
「良かった。今から動くよ。痛くなったら言ってね。やめないけど、加減はするから」

 ヌーッとペニスを引くと古瀬はまたローションを垂らした。要の尻にもかかり、冷たさに鳥肌が立った。

 ゆっくり古瀬がピストンを始める。古瀬のペニスが出たり入ったりしている。カリが中をひっかく。さっき教えられた前立腺を擦る。ローションが卑猥な音を立てる。だんだん古瀬の腰の動きが速くなっていく。

 突かれる振動が体のてっぺんにまで伝わってくる。シーツに押しつけた顔が擦れる。要のペニスがブルンブルンと弾む。

「んっ、んふぅ……う、んんっ」
「あれ、要、口塞いでんの? 駄目じゃん。ちゃんと声聞かせてよ。俺は昨日聞かせてあげたでしょ」

 古瀬に両手を掴まれた。手綱を握るように要の手頸を握る。手を後ろに伸ばされて、要は口を塞げなくなった。

「そろそろ激しめにいくよ」

 腕を短めに持ち直すと、古瀬は宣言通り、強く打ってきた。最初はあった痛みも、すぐに慣れて消えた。摩擦された内部が熱い。ペニスが痛いくらい勃起している。

「古瀬、いや、ああっ、いやだっ」
「やじゃないでしょ。ちんぽバッキバキじゃん」

 あの古瀬がちんぽなんて単語言うんだ。そんな驚きも一瞬で消えた。突き破らんばかりの勢いで中を抉ってくる。

「いっ、ああっ、奥、来すぎ……! 壊れるよぉ、古瀬、俺の体が壊れる……!」
「このくらいで壊れねえよ。これね、結腸責め。男のなかにも、女の子宮みたいなところがあるんだって。どうしても俺、要の子宮に中出ししてやりたくてさ。俺の子、孕めよ。なぁ、まじで、要」

 熱っぽい口調で言いながら激しく奥を突きあげてくる。要は目を白黒させながら射精した。責められ続けてペニスがまた強制的に立ちあがる。

「ううっ、あっ、いやだ……俺もうイッたのにっ! またイクッ……なんで、古瀬、なんで?! またイクッ」
「イキそう? 潮か? ドライか? すげえな、要。お前素質あんじゃん」
「いやあっ、あ、あぁん、やだ、止めろ! いやだあぁっ、イクのやだ、怖いよ、古瀬!! んっ、あああぁっ!!」

 ほとんど叫びながら要はまた絶頂を迎えた。わくわく顔の古瀬が覗きこむ。ペニスからは何も出ていない。ドライオーガズムだ。古瀬は目を輝かせると、腰の動きをさらに速めた。

「俺もイクぞ。お前の子宮にたっぷり出してやるからな」
「いやだっ、もうやめ……! 強いの……だめってば……!!」

 要の目からは涙がボロボロ零れた。全身性感帯にでもなったかのようにあちこちが敏感になっている。そんな状態で一番過敏な場所を激しく擦られては正気でいられない。

 気が狂うまえに要は意識を失った。


 翌朝、要は古瀬を迎えに家に向かった。インターフォンを鳴らすと古瀬が出て来て「おはよう」と微笑む。いつもの古瀬の笑顔だ。

「お尻大丈夫? いくら充分解したっていっても、俺のちんこ出たり入ったりいっぱい擦りまくったから痛いんじゃない?」

 要は咄嗟に古瀬の口を手で塞いだ。

「だ、大丈夫だから、そんなこと大声で言うなよ」

 古瀬が手をはがす。あらわれた口元はニヤリと笑っていた。

「気絶するほどヤッちゃったから責任感じてるんだよ。初めてで種付けメスイキは辛かったでしょ。腰、怠いんじゃない? 今日くらい学校休めば? 今度は俺がお見舞い行ってあげるから」

 こんなの俺の知ってる古瀬じゃない。と要は頭を抱えたくなる。純情で奥手で俺にだけ懐くかわいい古瀬はどこへ行ってしまったのだろう。

 これが古瀬の本性だったというのだろうか。だったら今まで自分が見てきた古瀬はなんだったんだ。どこの誰だったんだ。

「こんな俺、幻滅する? 嫌い?」

 寂しそうな声にハッと顔をあげた。古瀬が泣きそうな顔でこちらを見ていた。要はこの顔に弱い。長年抱いてきた古瀬のイメージはこれだ。俺が守らなくては、そう思わせてきたのはこの顔だ。

「嫌いになったりするわけないだろ。どんな古瀬でも俺の気持ちはかわらない。これからもずっと好きだよ」
「えへへ。嬉しい。俺もずっと好きだからね」

 照れ笑いの古瀬を見て胸がじんわり温かくなる。昨日の古瀬は夢だったんじゃないだろうか。尻の怠さはただの気のせい……と自己暗示をかけようとしたとき、古瀬が要の耳に口を寄せて囁いた。

「だからまた犯らせろよ。たまに俺のケツ掘ってもいいから」

 慌てて飛びのく要の頭に、犯されて泣いた古瀬の姿が蘇る。すわ股間が反応をみせる。今度古瀬を抱くときは、昨日の自分のように古瀬をいかせたい。古瀬言うところの「種付けメスイキ」をさせてみたい。リベンジだ。

「順番だ。次は俺だぞ」

 前かがみになりながら言うと、古瀬は嬉しそうに笑った。いや、愉しそうに。

 脱ぎすてた羊の皮。身も心も、軽い。






関連記事
スポンサーサイト
[PR]

[PR]


2018-06-28(Thu) 20:03| 続・盲目の狼| トラックバック(-)| コメント 3

続・盲目の狼(1/2)

<前「盲目の狼」>

※リバ注意

「古瀬透です」

 と、教壇の横で自己紹介した転校生を見た瞬間、要の心臓は爆発した。不明な動悸に顔が熱くなり、目は古瀬から離せなくなった。古瀬は教壇の廊下側一番後ろの席を用意された。隣になったクラスメートに激しい嫉妬を感じた。

 転校初日の緊張もあって、古瀬はぜんぜん笑わなかった。誰かに話しかけられても「うん」か「ううん」と首を少し動かすだけ。人見知りなのだな、と要は庇護欲をかきたてられた。

 古瀬はヒョロガリだった。洒落た服から伸びる手足の細いことモデルが如しで、女子受けは良かったが、男子受けは悪かった。案の定、クラスの馬鹿が古瀬にちょっかいをかけ、人見知りの古瀬は何も言い返さなかった。

 要は意気軒高に止めに入った。守らねば。俺が古瀬を守らねば! 小学五年生が抱くには熱すぎる使命感が要の胸に燃えた。

 その炎が消えたことはない。

 古瀬の過度なスキンシップは信頼の証。その証拠に古瀬は他の誰にも抱きついたりしない。自分に向ける特別な笑顔は他の奴には見せない。優越感という燃料を投下され続け、炎はいつしか要の全身を覆った。古瀬を独占したい。自分のものにしたい。そんな欲求を抱くようになった。

 中学に入っても古瀬は全幅の信頼を寄せてくれていた。雛のように無防備に近づいてきて、子猫のように甘えてくる。クラスが別れ、常に見守れなくなった不安から、休み時間はちょくちょく様子を見に行った。

 人見知りはまだ治っていなくて、古瀬はいつも不機嫌そうな顔つきだった。それが要を見つけるとパッと笑顔になる。その瞬間が見たくて、何度も古瀬の教室に足を運んだ。

「あいつって、すげえ二重人格だよな」

 小学校から一緒だった友達の妻夫木が古瀬をそう評した。

「古瀬は人見知りなんだよ」
「そうかなあ? 猫かぶりって言うんじゃない? 上村がいないときの古瀬が、本物の古瀬だと思うけど」
「本物の古瀬って?」
「あいつ、短気じゃん。絡まれたらすぐ手出すし、女子に鬱陶しくされたらブスだのなんだの容赦ないし。上村が思ってるほど、おとなしい奴じゃないよ」
「あっはは、古瀬がそんなことするわけないだろ。妻夫木の勘違いだよ」

 笑い飛ばすと、妻夫木は憐れむような呆れるような顔で要を見た。なにを言っても無駄だと悟ったように「ま、そのうち上村もわかるよ」と諦めの溜息をついた。

 そんな話、要が信じるわけがなかった。古瀬は同性から嫉妬されやすい男だと思いこんでいた。実際、そういう部分もあったので、要の思いこみは砕けなかった。

 前に一度、男同士の恋愛について、どう思うかと古瀬にきかれたことがあった。ギクリとしながら素知らぬ顔でありえないと否定した。お前を恋愛対象としては見られないと。それ以外言う言葉がなかった。

 女子と接することも苦手としている奥手な古瀬が、男同士の恋愛に興味を持ったことは意外だった。誰かに何か吹きこまれたのだろう。

 何年経っても、要もなかで古瀬は純真無垢であり、守り慈しむ存在だった。

 それなのに。

 いつもの古瀬のスキンシップはクリアできた。心頭滅却の精神でやましい気持ちなど浄化できる術をこの数年で育てた。だが、この日は無理だった。

「……要のすごく固くなってきたよ」

 要の一物を古瀬が握りながらそんなことを耳に吹きこんだのだ。堆積した欲望に火花を落とされたも同然。要は古瀬に襲いかかった。古瀬は泣いて痛がった。

 それを見て罪悪感はわかなかった。愛しい、と。ただその思いをぶつけた。自分がこんな冷酷無比な人間だったのかと、要自身初めて自覚した人格だった。

 優しい古瀬は強/姦した相手に「このくらい平気」と微笑んでみせた。菩薩か。

「俺も、要のこと好きだもん。ぶっちゃけ嬉しい。ちょっと予定と違ったけど……、今度はちゃんと準備してしようね」

 罪悪感を抱かせないために古瀬はそんな嘘をついた。仏か。泣きそうになった。

 古瀬が股の間を拭うティッシュがチラリと見えた。白い液体と赤い液体が付着していた。それを見た瞬間、窓から飛び降りようと思った。そうしなかったのは、外へ遊びに行っていた妹の華が「ただいまー!」と元気よく帰って来たからだ。

 夕飯の支度がまだだ。こんなところを妹に見せるわけにはいかない。我に返った要は床に落ちていた制服を拾い「急げ」と古瀬に投げつけながら自分も服を着た。

「お前は帰れ」

 と部屋から追い出したことをあとになってから酷く後悔した。いくら慌てていたからと言って、あれはない。やることだけやったら女を追い返す最低なヤリチンカス野郎みたいじゃないか。合意を得ていないから、それよりもっと悪い。

 死んで詫びよう。その前にこうなったわけを伝え、きちんと謝罪してから死のう。天国の母さんに顔向けできない。いや、俺は死んだら地獄行きだ。

 その夜、要は一睡もできなかった。



 いつも朝迎えに来る古瀬が今日はこなかった。当たり前だ。強/姦した相手の顔なんか見たくないに決まっている。あの細い体に相当な負担をかけた。繊細な古瀬には耐えられないような仕打ちだ。

 顔を合わせずらかったが心配だったので古瀬の家のインターフォンを鳴らした。古瀬の母親が出た。

『あっ、要くん? 透から連絡きてない? 今日あの子熱出しちゃって学校お休みなの』
「熱?! 大丈夫ですか?」
『大丈夫、大丈夫。熱はあるけど、本人は元気だから』

 熱が出たのは昨日のあれのせいだ。要は母親に「すいませんでした」と詫びてから学校へ向かった。

 下駄箱で靴を履き替えていたら、古瀬と同じクラスの女子が「今日、古瀬は?」と声をかけてきた。名前は確か伊木。古瀬につきまとう姿をよく見る。古瀬は見た目がいいから女の子にモテる。その古瀬を昨日は自分が女の子にしてしまった。う、と要は自分の胸を押さえた。

「大丈夫?」
「俺は大丈夫。古瀬は今日、熱が出て休みだよ」
「珍しいね。お見舞い行こうかな」
「病人に迷惑だろ」

 もっともらしいことを言ったがただの嫉妬だ。誰も古瀬に近づけたくない。人見知りの古瀬が気を許せる相手は自分一人でいい。

「案外、ただの仮病かもよ」

 伊木は笑った。古瀬がそんな姑息なことをするわけがない。古瀬のことを何も知らない。わかってない。そんな奴ならなおさら、古瀬には近づいて欲しくない。

 学校にいる間、ずっと古瀬のことを考えていた。昨日のこと。これまでのこと。この先のこと。死んで詫びてもいいと昨日は思っていたが、そんなことをしたら優しい古瀬は気に病むかもしれないと思い直した。

 土下座でもなんでもする。慰謝料を払えというなら、この先何年かかっても払う。殴られるくらいなんでもない。死ねと言われたら、その時は死のう。

 伊木には「迷惑だろ」と言ったが、放課後になると要は古瀬の家へ寄った。古瀬のお母さんが出てこない。ということは今日は仕事の日のようだ。家には古瀬一人。好都合だった。

 もう一度インターフォンを鳴らした。しばらくして中からドタドタと足音が聞こえ、玄関の戸が勢いよく開いた。

「要! 来てくれたの?」

 おでこに冷却シートを張りつけた古瀬が、いつもの子犬みたいな笑顔で駆け寄ってくる。昨日のことなんかなかったみたいに。要はまたう、と胸を押さえた。罪悪感で心臓が痛い。

「熱出たんだろ。大丈夫か? 一応ポカリとかアイス買ってきたけど」
「ほんとに? ありがとう、要。今日親が仕事だからドラッグストア行って薬とか買ってきたんだけど、アイス買うの忘れちゃってさ。一緒に食べようよ。入って入って」

 熱い手が要の腕を掴む。昨日繋がった時のことを思い出して、要は顔を赤くした。

「その、あっちは大丈夫か? 昨日、俺、無茶なことして……本当に悪かった」
「……そのことについて、話もあるし。ほら、要、入って」

 こくんと頷いて要は足を踏み入れた。戸が閉まる。日の光が遮断され、薄暗くなった玄関で、古瀬がにんまりと笑ったことに、要は気付かない。



 古瀬の部屋に入るなり、要は土下座した。

「昨日はごめん! 煮るなり焼くなり、好きにしてくれ!」

 ギシッとベッドの軋む音がした。古瀬はベッドに足を組んで座った。

「昨日はほんとにびっくりしちゃった」
「古瀬にあんなことされて、我慢できなくなったんだ。古瀬のせいだって言ってるんじゃない! もちろん俺が悪い! ずっと好きだった相手にあんなことされて、理性がもたなかった」
「俺のこと、ずっと好きだったの?」
「ああ。初めて見たときからずっと。お前を守ってやらなくちゃって思ってたのに、まさかこの俺がお前を傷つけるなんて……殴るなり蹴るなり、お前の気が済むようにしてくれ」

 額を床に擦りつけた。

「お尻、すっごく痛かったんだよ」
「ごめん! お前が今日熱出たのも俺のせいだ」
「ほんとそうだよ。なんの準備もなしにさあ。あれ、強/姦だからね」
「警察につきだしてくれ。お前が死ねって言うなら死ぬ。本当に後悔してるんだ」

 じわっと目が熱くなり、どっと涙が溢れてきた。こんなに涙が出るのは母親が死んだ時以来だ。床を汚しちゃいけないと思って鼻を啜りあげた。

「要?! 泣いてるの?!」

 ベッドから古瀬が飛びおりてきた。肩に腕をまわされて、抱き起こされる。要の泣き顔を見た古瀬は顔を綻ばせた。

「意地悪してごめんね。ちょっとだけ、お仕置きしたくなったんだ。だって俺が下だなんて、想定外だったんだもん。どう考えても要が下でしょ。こんなにかわいいのに」

 要の頬を両手で挟んで古瀬が顔を近づけてくる。唇が重なる。上唇を舐められて要は口を開いた。すぐさま熱い舌が入ってきた。ぬるりと歯を舐められる。いやらしく舌にからみつく。歯茎をなぞられ、唾液を送り込まれた。

 要はショックで涙が止まった。

「なんで俺がこんなことするんだって思ってる?」

 至近距離で目を合わせながら古瀬が問う。要は茫然と頷く。

「要と同じ理由だよ。俺も我慢できなくなった。理性の限界。ずっと要が好きだった。俺の場合、気付いたのは中学入ってからだったけど、長さなんか関係ないよね。ようは思いの強さだなんだから。それは要に負けない自信があるよ。ドラッグストアでコンドームとローション買っておいたんだ。熱出てんのになにしてんだって思わないこともなかったけど、要のためを思ったらこのくらいなんでもないよ」

 とニコリと笑う。

「古瀬、俺のことが、好きなのか……?」
「好き好き、大好き。ほら、これが証拠」

 要の手を取り、古瀬は自分の股間へ押し当てた。盛りあがって固い。要はぎょっとなった。

「中/学生のときは、要のそばにいるときほとんど勃起してたと言っても過言じゃないよ。高校生になってさすがに落ち着いたけど、いつでもこの通り。ほんとにレ/イプされた相手に、こうはならないでしょ?」
「ほんとに?」

 声が震えた。古瀬は優しく微笑みながら頷いた。夢みたいだ。昨日は窓から飛び降りて死のうと思っていたのに、まさか両想いだったなんて。嬉しさと安堵、そしてまた湧きあがる罪悪感から要はボロボロと涙を零した。

「ほんとにごめん、俺、お前にひどいこと……っ」
「まあ、やり方はあれだったけど、俺にはひどいことじゃなかったよ。嬉しかったって昨日も言ったじゃん」

 古瀬は優しいから、あの言葉は自分のためを思っての嘘だと思っていた。

「もー、泣くなよ。まったくどっちが泣き虫なんだか。ほんとに要はかわいいなあ」

 古瀬に頭を抱きかかえられた。拒絶されて当然の腕のなかにいる。信じられない。あんなにひどいことをしたのに、古瀬はそれを許すどころか嬉しかったとさえ言ってくれるのだ。天使か。

「じゃあ、今日は俺の番だよね」

 要の肩に古瀬がぽんと手を置いた。

「俺の番?」
「今度は俺が要を抱く番」
「──えええっ?!」

 思わず古瀬の胸を押し返していた。古瀬が眉を寄せる。

「俺の好きにしていいんでしょ? 気の済むようにしてくれって、さっき土下座してたじゃん」
「そ、それはそうだけど……! お、お前が俺を?!」
「そんなに意外? 要は俺のこと買いかぶり過ぎだと思うよ。っていうか、夢見過ぎ? 俺だって男なんだよ。性欲の塊。要に抱きついたり触ったりしてたのって、全部下心だからね」
「う?! 嘘だ……ッ」
「ほんとほんと。今日は要を犯るつもりで学校終わるの待ってたし。要の性格考えたら、絶対謝りに来るだろうと思ってたから」

 ドラッグストアの袋からローションとコンドームを出し、古瀬はにこっと微笑んだ。

 本当に買ってた! しかもそれを要に使うという。要は眼前に迫りくる古瀬を見上げてゴクリと唾を飲みこんだ。

 獲物を前にした肉食獣のように古瀬が目を細め唇を舐める。

「逃がさねえからな……、要」

 誰?!

 要は目の前にいる人物が誰だかわからなくなった。






【続きを読む】
関連記事

2018-06-27(Wed) 21:06| 続・盲目の狼| トラックバック(-)| コメント 0

盲目の狼(2/2)

<前話>

 要は買った食材を所定の場所へ仕舞うと、一旦自分の部屋へ着替えに行った。もちろんついていく古瀬である。友達の立場を利用して、要の生着替えを見つめる。集中しすぎて勃起しそうになるが見るのを止められない。

「今度どっか遊びにいかない?」

 話しかけたのをきっかけに要に抱きつく。要はTシャツ一枚。下はボクサーパンツ。薄い生地からソレを確かめるために腰を押しつけた。

「どっかって?」

 古瀬のスキンシップに慣れっこの要はそれを怪しいとも思わず話題を続ける。

「どっかさ。二人きりになれる場所」
「いい加減人見知りなおせよ」

 人の多い場所を嫌がる理由を、要は人見知りのせいだと思っている。転校してきたばかりの、ただ周りの様子を窺っておとなしくしていた古瀬をそうだと決めつけた時からその認識が改められることはなかった。

「着替えられないから離れろって」
「えへへ、なんで?」

 おふざけの振りをしてさらに腰をしつける。股間がゴリゴリと擦れる。さすがに要も顔色を変えた。

「ばか、ふざけるなって」
「要、立ってきた?」

 熱を帯び、固くなってきていた。もちろんそうなるように腰を擦りつけたのだ。

「お前のせいだろ。離れろっ」

 要が身をよじる。腕に収まる体が暴れたところで簡単に封じることができる。このまま押し倒してやろうか。凶暴な思考が一瞬過ったが、弱っちい古瀬を演じることを思い出して体を離した。

「俺、立っちゃった。どうしよう?」

 泣きそうな顔を作る。そして要に助けを求める。そうすれば要は絶対怒らない。困った顔をして、どうしようかと考えてくれる。

「立ったのか、お前……? まったく、変なことするからだぞ」
「だって、要がすごくいい匂いするから」
「はあ? 俺今日体育だったから汗臭いぞ」
「ううん、要はいつもいい匂いがするよ。なんの匂いだろう?」

 とまた口実を見つけて要の肩を掴み、首元に鼻を近づけた。

「お前、匂いフェチかよ」
「えへへ」

 照れ笑いもお手の物だ。

 古瀬は匂いフェチではなく、要フェチだ。上目遣いに睨んで見える大きな目も、小さな鼻も、右の鎖骨にある黒子も、健康的に焼けて太陽の匂いがする肌も、薄く光る産毛も、何もかもがその対象だった。特に好きなのは、膝の裏。今は眺めるだけだが、いつかこの思い成就した暁には存分に舐め回したいという野望を抱いている。

「ほっとけば静まるだろ」

 要がズボンに足を通そうとする。思わずそれをひったくった。

「要だって立ってるじゃん」
「お前のせいだろ」
「いつもどうやるの?」
「なにを?」

 問い返した要の顔は質問を理解している顔だった。少し頬が赤い。古瀬は声を潜めて「オナニー」と囁いた。要は困惑の表情になった。

「どうした? 今日のお前、変だぞ」

 はぐらかそうと言う腹だ。そうはいくか。

「教えてよ。要はいつも、どうやるの?」
「おふざけはおしまい」
「俺も教えるから」

 ぎょっとする要の前でズボンとパンツをずりおろした。好きな人の前で恥部を露出させる行為に興奮が高まる。眩暈を起こしたように頭の中がぐらりと揺れて、胸は押しつぶされたように苦しい。古瀬のものはますますいきり立った。

 それを握り扱いた。要を見ると立ち尽くしたまま古瀬の手元を見ている。頬が強張っていた。

「要も一緒にしようよ」
「や、やだよ。どう考えても変だしおかしい」
「俺がここまでしたのに、ずるいよ」

 勝手にしたのを棚に上げ要に抱きついて股間に手を伸ばした。さっきより大きくなっている。

「俺がしてあげよっか?」

 パンツの上から手で包みこむ。薄い布、はっきりその形、固さ、熱が伝わってくる。

「ばかっ、変態なことするな!」

 変態という罵りに傷つく。と同時にゾクゾクとした。それが自分の本性であると古瀬は認めた。

 要は屈んで身をよじる。古瀬は潰さない程度に力を込めて握った。

「いっ……たい……はなせっ」
「……要のすごく固くなってきたよ」

 いやらしい言葉を、かすれ気味の声で要の耳に吹きこむ。要は顔を赤くしてギュッと目を閉じた。諦めか、要の抵抗が弱まる。その隙を見逃す古瀬ではない。パンツのなかに手を入れて直に触った。

 幾度となく思い描いてきたものだ。妄想のなかで、触り、扱き、嬲り、舐め、咽喉の奥までしゃぶりついたものに現実で触れている。射精しそうな勢いで感動した。

「要も俺の触って」
「やだ……こんなの、いやだ」

 顔を背けた要の肩が震えていた。やり過ぎたことに気付いて古瀬は罪悪感から一気に興奮がさめた。

「ごめん、ごめん要。泣いてる?」
「俺の気持ちも知らないで……こっちは必死におさえてきたのに……」

 ブツブツと要が何事か呟く。初めて見る様子に怒らせすぎたと古瀬は焦ってご機嫌取りに回った。

「急にスイッチ入っちゃって。ごめんね、こんなつもりじゃなかったんだ。怒ってる? ねえ、要、無視しないでよ」

 振り返った要の顔を見て古瀬は「誰だ、こいつ」と本能で思った。誰でもない、上村要に間違いないのに、そっくりなマスクを被った別人のように感じた。

「もうお前とは友達でいられないな」

 抑揚のない声が言う。要にそんなことを言われたら情けなく泣き縋って撤回を求める自信がある古瀬だが、いまは違った。蛇に睨まれたカエルのように身動きできない。

「古瀬が甘えてくるの、俺好きだったよ。くすぐったくて、心地よくて、他の奴らにはしないから、優越感もあったし」

 要の口が動いて要の声が聞こえてくる。なのに違和感は消えない。古瀬は茫然と要に見える目の前の人物を見つめた。

「お前に下心なんかないのはわかってても、俺は頼られてすごく嬉しかった。なんか頼りなくて、放っておけなくて、初めて見た時からお前を守ってやらなきゃってずっと思ってたんだ」

 聞いているようで理解は追い付いていない要の言葉を聞きながら、耳にひっかかった「下心」という単語に「いや俺、下心なしで要といたことねえし」と頭の隅で思う。

「純粋なお前に、こんな真似、絶対したくなかったんだぞ。なのにお前が俺を挑発するから……やめろって言ってるのに」

 純粋なんかじゃない。買いかぶり過ぎだ。古瀬の口許に苦笑が浮かぶ。それを見て要は辛そうな顔をした。

「こんな時でも、お前は優しく笑ってくれるんだな。そういうところが俺はほんとに好きなんだ」

 好き、という言葉に古瀬は混乱した。直後、口を塞がれた。焦点を合わすのが疲れるほど近くに要の顔がある。目がある。息がかかる。視線が合った。要の熱がそこから伝わってきて、脳の裏まで這った。

 口の中に要の舌が潜り込んできた。ぬるぬると中を動き、古瀬の舌を絡め取り、吸ったり食んだりと官能的な動きをする。古瀬は思わず要にしがみついた。腰がくだけた。

「こんなことされてショックだよな。ごめんな。でも、まだ終わりじゃないから」

 あれと思う間もなくベッドに押し倒され、上から要がのしかかってきた。古瀬は心臓をドキドキ高鳴らせながら要をみあげた。見たこともない、男らしく大人びた顔に、古瀬の心は乙女になっていた。

「いまから酷いことするよ。ごめんな」

 脱ぎかけのズボンとパンツを足から抜かれて、膝を持ち上げられた。そしてその奥へ張りのある肉の先端が押しつけられた。古瀬が昼夜問わず妄想していた場面が実現している。違うのは自分のおかれた立場。

 俺がこっち?!

 乙女から一瞬我に返ったが、ググッと押しつけられた剛直に顔を顰め、歯を食い縛った。そこが広げられる。ピリピリとした痛みが走る。古瀬は要の腕に爪を立てた。

「あっ、ああ……待って、要っ」
「ごめんな、古瀬。親友の顔してお前のそばにいたくせに、ほんとは俺、こんな最低な奴なんだ」

 内壁を擦って要が押し入ってくる。苦悶の表情を浮かべ、相手の名を呼ぶ。それを見下ろしているのは自分のはずだったのに。してやられた、と悔しさがないではないが、要の熱さと固さが、そのまま自分への想いだと思うと、目尻に涙が滲んだ。

「泣かせてごめんな。ひどいよな、裏切りだよな」

 ごめんごめんと言いつつ、要はちゃっかり奥まで刺しこんだ。もうすでに腰をゆるゆる動かしている。小刻みな振動が苦痛だ。想像してたのとは違う。ぜんぜん痛い。ぜんぜん気持ち良くない。

「痛いよ……要」

 それを聞いた要の体が小さく身震いした。頬を引きつらせたような笑みを浮かべて「かわいいよ、古瀬」とうっとり言った。

 古瀬は自分を犯す要こそが上村要であると悟った。今まで見てきた要は偽物。自分が弱っちい転校生を演じ続けていたように、要も古瀬から甘えられる鈍い兄貴分を演じていたのだ。二人が同じ志を持つ者同士だとやっと理解した。一方、要の方は古瀬の正体にはまだ気付いていないようで、申し訳なさそうな顔を崩さない。

 要はせっせと腰を振る。どうにか気持ちよくならないものかと、古瀬は自分に暗示をかけようとしてみたが、痛いものは痛かった。

「要……痛いっ……痛いってば……優しくしてよ、もっと、ゆっくり……!」

 焦らなくていい。俺も同じ気持ちなのだから。そう伝えようとしても間隙なく突かれて揺さぶられていたので、呻きと泣き言で伝える暇がない。

 この次はちゃんと準備しよう。自分の気持ちを伝え、両想いだとわかってから恋人同士のキスをして、お互いの体を触りあって高め合い、ローションなりで充分解してから事に至ろう。でないと受ける側は大変だ。

「はあっ、あっあぁあん、やだっ、ゆっくりして、要っ、もう、くそっ」

 もちろん次は自分が攻める側だ。涙と鼻水を垂れ流しながら古瀬は心に誓った。

※ ※ ※

 俺の信用が目の前で壊されていく。破壊しているのは自分だ。

 古瀬は痛がって泣いている。嫌だと拒絶している。だがもう欲望は止められない。ずっと我慢してきた。この気持ちを押し殺してきた。古瀬の過剰なスキンシップは俺への愛情と信頼の証だったのに、俺はそれを邪な気持ちでしか受け取れなかった。

 羊の皮を被って、人畜無害な振りをしてきたが、今日はもう誤魔化せなかった。限界だった。

「痛いっ、要、ああっ、やだ、そんながっつくなよっ」

 泣きながら顔を背ける古瀬ののどに俺は歯を立てた。中が締まる。射精した。






【続きを読む】
関連記事

2018-06-23(Sat) 21:14| 盲目の狼| トラックバック(-)| コメント 3

盲目の狼(1/2)

 俺は、自分が羊の皮をかぶった狼である自覚があった。

※ ※ ※

 古瀬が油断をさせてそののど元に噛みついてやろうと虎視眈眈と狙うのは親友の上村要。小学五年に要の隣家へ引っ越してきて以来の付き合いだ。

 要は面倒みがよく、たまたま同じクラスになった古瀬の世話を頼まれもしないのに買って出た。

「いじめられたら俺に言えよ」

 要は失礼なことに古瀬の見た目だけで弱っちそうだと決めつけて兄貴風を吹かせてきた。一応親切心だとわかったので、古瀬は「ありがとう」とそれを受け入れ、要が思いこむ弱っちそうな転校生役を演じた。そのほうが楽だったからだ。

 顔もそれなりに整っていた弱っちそうな見た目は女子に受けた。転校生という要素も加算されカッコいい子が転校してきたと学年で噂されてしまった。

 当然男子の反感を買う。要と同じように古瀬を弱い奴だと決めつけからかってきた。言い返すのも面倒で放置していたら、お節介な要がしゃしゃり出てきて古瀬を庇った。面倒事を引き受けてくれるのだから、古瀬は自分のイメージなんか二の次でか弱い転校生でいた。

 そのイメージは高校生になっても要のなかで定着したままだ。

 いつまでも庇護下に置かれ、兄貴風を吹かれるのも鬱陶しい。中学でクラスが別れてからは割と伸び伸びやった。からかってくる男子がいれば時に辛辣にあしらった。調子に乗って肉体的攻撃に出てくる輩には鉄拳をもって応酬した。もともと手が早く、気は短い質だった。

 古瀬が実は優男の見た目に反した強い男だとわかるとからかいは止んだ。惚れなおす女子が多発した。

 にもかかわらず、古瀬が要の前ではイメージを崩さなかったのには、あるわけがある。

 中学一年の夏の終わり、要の母が他界した。夜、隣がやけに騒がしかった。どうしたのだろうと家で話していたら救急車のサイレンが近づいて、家の前で止まった。

 家族と外へ飛び出した。しばらくして担架で運ばれる要の母と、付き添う父親、顔の色も表情も失った要と泣きじゃくる妹が、救急車に乗り込んで走り去った。

 亡くなったのはその深夜過ぎ。古瀬は親と一緒に葬式も通夜も参列した。その間、表情豊かなはずの要は無表情だった。

 要は数日、学校を休んだ。隣からにぎやかな声は聞こえない。笑い声一つない。たまに妹の泣き声が聞こえる。

 数週間が経って、父親の二泊三日の出張のため、要と妹を古瀬の家で預かることになった。父親が夜に頼みにきた。実家は遠く、また妻の死を義父母から恨まれていることを話しているのを階段の上から聞いていた。

 要は古瀬の部屋で、妹は母の部屋で寝た。

 要は笑顔を見せるようになっていたが、どこか弱々しく無理をしているように見えた。

 母を亡くしたばかりの親友に同情した。

 自分より一回り小さい体がとても頼りなく。俯く項が細くて。いままで何かと世話を焼いてくれた兄貴分が。まさか自分よりこんなにはかなげな存在だっとその時目の当たりにして。古瀬の気持ちはグラグラと揺れた。初めての感覚に胸が詰まった。

 なのにその夜、「新しいクラスには慣れたか」と要はまた性懲りもなく兄貴風を吹かせた。温かくも哀しい風に当てられて、古瀬はわけもなく涙が流れた。

「うまくいってないのか? 俺はクラスが違うんだからしっかりしろよ。ほんと泣き虫だなあ」

 自分が同情されていると知ってか知らずか、要は古瀬の頭を撫でた。古瀬は「俺がいつどこで泣いた」と内心では思いながら、要に頭を撫でられ続けた。甘えるような気持ちが働いて要の胸に抱きついてみたら抱き返された。

 抱き心地の良さに戸惑ったが、しばらく抱擁を続けた。

 その一件があり、古瀬は自分の本性を要に見せることに躊躇があった。隠していれば要は頭を撫でてくれるし、優しくしてくれるし、甘えさえてくれるし、抱きついても怒らない。

 自分がなにをしたいのか。なぜそんなことを望むのか。その答えは近日、あっさり如実にはっきりくっきりと出た。

 古瀬の家のソファで並んでテレビを見ていた。肌を密着させるだけに飽き足らず、要にもたれかかり腰に腕をまわし、ほとんど抱きつく様な格好で、テレビの内容なんか上の空で要の匂いを嗅ぎ、息遣いを聞いていた時──。

 古瀬はついに勃起した。理由は単純明快。要の甘い体臭と、こちらを気にもしていない息遣いのせいだ。テレビに夢中なのをいいことに、無防備なのど元に唇をおしあて、耳の裏に鼻を突っ込んで匂いを嗅いでも要は気付かないんじゃないかと。そんな想像をした時の出来事だった。

 古瀬は身動きせず静めることに集中した。ところがますます激しくなる。

 要に冷蔵庫からお茶を出してほしいと頼み、キッチンに立ったその隙に古瀬はトイレに逃げ込み事なきを得た。

 友を相手に勃起させ、友をオカズに抜いた、初めての日だ。

 それからといもの古瀬のオナネタは必ず要だ。剥き出しの肌に触れるとドキドキしてそのたび勃起した。中/学生とはそういうものだった。

 純真無垢な要は疑うことを知らず、ベタベタする古瀬をただの甘えん坊だと片付けて気にもしていなかった。たまに鬱陶しがってみせるが、気付くとくっついている古瀬に諦めモードだった。

 古瀬がどんな下心を抱いているかなんて、想像どころか、可能性の一ミリも考慮していなかったに違いない。

 だから古瀬はそれを逆に利用して大胆に質問することができた。

「要は男同士の恋愛ってどう思う?」
「わからないけど、見たらびっくりするだろうな」

 要は質問の意図なんか探らず素直に答えた。

「じゃあもし俺が要のこと好きになったらどうする?」
「古瀬は友達だから考えられないな。うーん、やっぱ無理かな」

 これまたあっけらかんと否定されて古瀬は落ち込んだ。

 それからも要の弟分を演じながら、秘めたる思いを燃やし続けた。いつかそののど元に噛みつきたい。自分の思いをぶちまけて、驚く要を乱暴に組み敷きたい。

 庇護対象だと思っていた男が実は自分より力が強く、常にいかがわしい目で見ていたと知った時、このお人よしはどんな顔をするか。

 それを想像すると古瀬はいつも身震いした。



 学校の帰り、少し先を要が歩いていた。いつもと違う角を曲がるので走って声をかけた。

「どこ行くの」
「買い物。今日は俺が当番だから」

 母を亡くしてからここの家族はみんなで家事を分担していた。中/学生になった妹も最近料理当番に加わったという。

「俺もアイス食べたいから一緒に行く」

 古瀬は要についてスーパーに行った。要はカートを押して店内を歩いた。他の主婦と同じ様子で野菜や肉を選んでかごに入れていく。家に帰って待っていれば料理がテーブルに並べられている自分と比べて申し訳ないような後ろめたい気持ちになる。

 スーパーを出て、古瀬はアイスの袋を破った。一口食べ、隣の要の口に持っていく。

 要が口を開いてかぶりつく。シャクシャクと咀嚼音にすら、やましい気持ちがわき起こる。当然エロい気持ちで要が食べたあとをなぶる。最近、むやみやたらに勃起はしなくなった。

「今日、遊びに行ってもいい?」
「いいけど。俺、ご飯作るから相手できないぞ」
「俺も手伝うよ」

 かくして古瀬は要の家にあがり込むことに成功した。







関連記事

2018-06-22(Fri) 21:55| 盲目の狼| トラックバック(-)| コメント 0

往時渺茫としてすべて夢に似たり(15/15) 

1011121314


 翌日、現地スタッフが運転する車に乗せてもらい、国見さんとマネージャーの林田さんと一緒に撮影場所へ向かった。

 中国の俳優と国見さんが談笑している。片言の中国語と英語と日本語。あとは身振り手振りでなんとかなるらしい。

 監督らしき男がやってきて二人に指示をした。通訳がその言葉を国見さんに伝える。国見さんの表情は真剣そのものだ。彼の仕事風景を見られるなんて幸運だ。

 興奮していて、ポケットの携帯がマナーモードで震えていることになかなか気づかなかった。スタッフらしい若い女性が近づいてきて電話を耳にあてる仕草で私に教えてくれた。

「謝謝了」

 覚えたての言葉で礼を言い、少し離れた場所で電話に出た。

『おう。うまくいったのか』
「おかげさまで。広田には感謝してもしきれないよ」
『中国土産頼むぞ』
「もちろん。みんなに買って行くよ。迷惑なのはわかってるんだけど、もう少しこっちにいてもいいか。今週、彼の誕生日だから一緒に祝いたいんだ」
『今月一杯そっちにいてもいいぞ。有給溜めすぎなんだよお前は』
「ありがとう。甘えさせてもらうよ」

 国見さんがこちらへ駆けてきた。小声で「もうすぐ撮影始まるよ」と教えてくれた。

「オーナーから。もう切るよ」

 と応えた声を広田は聞き逃さなかった。

『そこに国見栄一がいるのか? 代われ』
「え、いや」

 大きな声が漏れ聞こえていたのか、国見さんが何か察した顔で自分の顔を指さす。申し訳なく頷くと、国見さんは手を出した。私のスマホを彼に渡す。

「もしもし、国見です」

 広田が失礼をしないか心配になり耳を寄せた。

『諸井の上司の広田です。初めまして』
「初めまして。諸井さんが仕事を放って中国に来たのは僕のせいなんです。すみませんでした。お詫びします」
『とんでもない。なかなか有給取らない奴なんで、助かりましたよ。今月一杯休みにしてありますから、戻ってこないようそっちで縛りつけておいてください』
「わかりました、そうします」

 国見さんが苦笑する。

『今度またうちの店に来てください。最高の料理でおもてなしさせていただきます。諸井の恋人なら私にとっても身内のようなものですから』
「ありがとうございます。是非うかがわせていただきます」

 通話を切って、私にスマホを返した。

「いい人だね」
「お節介な奴なんですよ」
「ちょっと嫉妬する」

 国見さんの唇が小さく尖る。

「あいつとは何にもありませんよ」
「大学生の時からの付き合いなんだよね。僕はその頃の諸井さんを知らない」
「あいつが知らない私をあなたは知っていますよ」
「例えば?」
「ベッドの中の私とか」

 声をあげて彼は笑った。嫉妬されるのは嬉しいが不安にはさせたくない。

「それならいいや。もうすぐ撮影だから。見てて」

 国見さんは元いた場所へ戻って行った。現場の緊張感が高まっていくのがわかる。部外者の私は邪魔をしないよう、端っこに立って息を潜めた。

 しかし待っていてもなかなか撮影が始まらない。中国語だからなにを喋っているのかもわからない。

 手持無沙汰にしていると林田さんが隣に来て映画のことを教えてくれた。内容はサスペンス。国見さんは中国と日本のハーフという設定で、美しき殺人鬼の役らしい。優秀な刑事との絡みはちょっと同性愛を思わせる演出がなされる予定だそうだ。

「作りものなんで、妬かないでくださいね」

 林田さんが冗談めかして言う。

「事務所は黙認なんですか。私と国見さんのことは」
「僕は国見さんが十代の時からの付き合いなんですよ。引退しようかと真剣に相談されたこともありましたけど、そんなことで引退させるなんて勿体なくて。うちの社長も同意見です。俳優としてこれ以上ない才能があります。これはファンだけじゃなく、世間も認めざるを得ない才能です。国見さんは私生活が安定している時のほうがいい仕事をするんですよ。ひとりのファンとして、ずっと見守ってきた者として、国見さんの恋愛は応援しますが、良くない相手だと思ったら全力で止めます」

 林田さんが横目に私を見た。彼を守る一人の男としてシビアに私を見定める目だ。

「この程度のスキャンダルで潰れる男じゃありません。この先もっと飛躍しますよ、国見栄一は」

 誇らしげに語る林田さんにつられて国見さんを見た。私が見たことのない顔でカメラの前に立つ、俳優国見栄一がいた。

 ※ ※ ※
 
 今日は、先月の誕生日に国見さんからプレゼントされたスーツに袖を通した。オーダーメイドのスーツは体にピタリとフィットして動きやすい。既成のスーツとはやはり着心地が違う。

 同じく一昨年の誕生日にもらった濃紺のネクタイを締め、去年のクリスマスにもらった腕時計をつけてて振り返った。全身、国見さんからのプレゼントだ。

 ベッドに腰かける国見さんは「似合う」と顔をほころばせた。

 立ちあがって360度私の体を眺める。途中襟を直したり、皺を引っ張ったりする。

「やっぱり千秋さんはスーツ姿が一番かっこいい」
「おほめに預かり光栄です」

 恭しく礼をしてから彼の腰に腕を回した。

「本当に一人で大丈夫?」
「大丈夫。もう仕事辞めろなんて言わないよ」
「連休を取って会いに行くから」
「待ってる」

 彼に引きよせられてキスした。しばらく触れられなくなる体を名残惜しく求めてしまう。国見さんは今日、中国へ発つ。久し振りの芸能活動だ。

 一昨年開始した中国での映画を撮り終わると国見さんは一年間の休業宣言をした。

 急な休業宣言に日本のワイドショーは連日それを取りあげた。しかしその少し前のお祭り騒ぎに比べればおとなしいものだ。

 撮影終盤の頃、国見さんは中国の雑誌のインタビューを受けた。そこで撮影現場に連れて来た男は恋人かという質問に、そうだと答えた。

 彼はそこでバイセクシャルを公表し、私を恋人だと認めた。日本のマスコミは大盛り上がりを見せた。日本の芸能リポーターがわんさか中国へやってきた。邪魔になるからと撮影現場から芸能記者はシャットアウトされた。私は帰国したあとだったので、彼らは2ショットは撮りそこねた。

 このことはもちろん私も彼の所属事務所も全て了承済みだ。話し合って決めた。言いだしたのは国見さんだった。嘘をついたり隠したりすることに疲れてしまったと言った。私は反対しなかった。彼の恋人として世間に知られることの恐れはもちろんあったが、私自身、彼に嘘をつかせるのも、彼を隠すこともいやだった。

 事務所側は時期尚早だという考えだった。話し合いが長引きそうだと思った時、味方してくれたのはマネージャーの林田さんだった。国見さんの意思が固いということ。もうずっと我慢させ続けてきたこと。この程度で潰れる彼ではないことを訴え、説得してくれた。

 撮影が終わると同時にマスコミ各社へ休業宣言のファックスが送られた。

 十代の頃からずっと仕事を続けてきた。一度芸能の仕事から離れ、自分を見つめ直す機会が欲しいと思った。なにが大事でなにを大切にすべきなのか、今後芸能活動を続ける上で休業は必要不可欠な選択だった。

 という内容だ。

 ワイドショーは彼のバイセクシャルの公表と交際宣言だけでお祭り騒ぎだったのに、その熱も冷めやらぬうちに今度は休業宣言。

 交際相手が一般人であること、自分も休業に入ることを理由に、取材および報道は控えて欲しい旨も伝えられていたが、マンションの外に怪しげな車が止まっているのを何度も見かけたし、二人で出かけた姿が週刊誌に載っていることもあった。

 大手の雑誌社は事務所と話しあいがついているらしく行き過ぎた取材はなかった。そのかわり、復帰後の便宜が図られるのだろう。

 一年間、国見さんを独占してゆっくりしていられると思ったが、休業して間もなくまた中国から映画の出演オファーが入った。以前とは違う監督だ。

 最初キャスティングされていた中国の俳優が降板し、急遽代役を探すことになって国見さんに白羽の矢が立った。イメージにぴったりで国見栄一しかいないと熱烈な出演依頼だったそうだ。

 今度の映画は時代もの、日本でも有名な三国志。彼は三国志に出てくる周瑜という武将の役だ。
 
 日本人が中国人の役を、と批判もあったらしいが、監督は「国見栄一こそ美周郎にふさわしい。私は何も心配していない。努力家で完璧主義の彼なら中国語も吹き替えが必要ないレベルにしてくるだろう。それに、映画を観た観客が彼が大陸の人間かどうかなんて気にしなくなることもわかっている。なぜかって、みんな彼の虜になるからだ」とべた褒めだ。

 他の演者のキャスティングやスケジュールの都合で、どうしても今しかなったらしいが、そこまで言われたら、と国見さんは予定を半年早めて復帰することになった。

 と言っても雑誌やテレビの取材はNG、ただ映画の撮影をするだけという条件だ。

 映画の撮影が終わってもゆっくりはできない。

 復帰後の彼のスケジュールはすでに予定が詰まって真っ黒になっている。林田さんの言っていた通り、この程度のスキャンダルで潰れる男ではなかった。さらなる高みへ飛び立とうとしている。

 私は彼との家でその帰りを待つ。疲れて帰って来た彼を癒してあげられる存在でいたいと思う。

 国見さんが日本に戻ってきてすぐ二人で暮らす部屋探しをした。この半年間は誰にも邪魔されない二人きりの時間を過ごした。蜜月だった。

 深く口付けするほど、彼の体に触れるほど、別れが辛くなる。

「そろそろ林田さんが来る頃ですね」

 理性で唇を引きはがした。濡れた唇が「そうだね」と返事をする。

「夜に電話するから」
「体に気を付けて」
「僕がいなくても浮気しないでよ」
「しません。栄一くんこそ、向こうのイケメンに口説かれないように」
「これがあるから大丈夫。お守り」

 左手を私に向けて微笑む。薬指には私とおそろいの銀の指輪が嵌めてある。なんの法的拘束力もないが、私と彼の永遠の誓い、その証だ。

 国見さんのスマホから着信音が流れて切れた。林田さんが駐車場についた合図だ。

「じゃあ、いってきます」
「いってらっしゃい」

 彼の左手に唇を落とす。この指に指輪を嵌めたときの誓いを改めて心に誓う。病める時も健やかなる時も、喜びの時も悲しみの時も──。

 私はもう完全に過去から脱していた。いま現在を、愛する人と共に生きている。これ以上の幸せがあるだろうか。

 





関連記事

2018-06-21(Thu) 22:03| 往時渺茫としてすべて夢に似たり| トラックバック(-)| コメント 3

往時渺茫としてすべて夢に似たり(14/15)

10111213


 19時過ぎ、中国に到着した。タクシーに乗って国見さんが宿泊しているとされるホテルへ向かう。国見さんに会わせて欲しいとフロントへ言っても相手にされないだろう。

 駄目元で国見さんの携帯へ電話をかけてみた。呼び出し音が続く。

 国見さんのマネージャーを思い出して、今度はそっちへかけてみた。事件のあと必要があって連絡先を交換しておいたのが役に立った。呼び出し音が続いて、駄目かと諦めかけた時『はい、林田です』繋がった。

「お久しぶりです、諸井です」
『お久しぶりです。お変わりありませんか』
「はい。林田さんに折り入って頼みが。国見さんに会わせてくれませんか」
『えっ、知ってると思いますけど、いま中国に来てるんですよ?』
「私もこっちに来ています」
『そうなんですか?! でもどうして僕に?』
「怒らせてしまって、電話に出てくれないんです」
『ハハハ、なんとなく国見さんの様子を見てそうじゃないかなと思ってましたけど』

 笑い事じゃない。いいから会わせてくれ。

『国見さんはいま監督と打ち合わせ中なんで、電話に出れなかったんだと思いますよ』

 それが本当ならどんなにいいか。

「体調を崩していると聞いたんですが」
『ああ、ちょっとこっちの空気に合わなかったっていうか。今はもう平気です。アクションのトレーニングも再開してますしね』

 それを聞いて安心した。テレビでは軽い鬱だとかなんだとか言っていたから、心配でたまらなかった。

『僕から諸井さんに電話するように言っておきましょうか?』
「お願いします」

 礼を言って電話を切った。そういえば今晩泊まる宿を確保していなかった。国見さんと同じホテルに空き部屋があったので、チェックインして部屋で電話を待った。

 テレビをつけても言葉がわからない。窓から外を眺めたり、ベッドに寝転がって時間を潰した。23時を回った頃、やっと電話が鳴った。

 ベッドから飛び起きてスマホを耳に当てた。

「諸井です、国見さん?」

 沈黙。かすかに物音が聞こえるので繋がっているのは確かだ。

「林田さんから聞いたでしょう。私もいまこっちに来ています。一度会って話がしたい」
『なんでこっちに来たの』

 よそよそしく硬い声だったが、間違いなく国見さんの声だ。

「あなたに会いたいからです。体調を崩したと聞きました。大丈夫なんですか?」
『あんたとはもう別れるって言っただろ』
「嫌です。私は納得してません。ちゃんと会って話をさせて下さい。君はあんな終わり方で本当にいいんですか?」

 長い間のあと、ボソッと部屋番号だけを伝えると国見さんは通話を切った。それだけで充分だ。

 教えてもらった部屋へ急いで向かう。ノックをして待った。ドアが開き、難しい顔の彼が私を出迎えた。思っていたより元気そうで安心する。役柄のためなのか、前に会ったときより髪が短くなっていた。

「その髪型、よく似合ってる」
「うん」

 私から目を逸らし、彼は自分の襟足を撫でた。短い返事は照れ隠しだろうか。だとしたらまだ望みを持っていいということだろうか。

「あんなに中国へ行くの嫌がってたのに、どういう風の吹きまわし?」

 この嫌味も、まだ私に関心があるからだと思ってもいいのだろうか。

「何が大事がわかったんですよ」
「仕事。でしょ?」
「君が本当に私に仕事を辞めて欲しいなら、いつだって辞めますよ」
「嘘だ」
「なにが大事か、やっとわかったんです。私はできるだけ君と対等でいたかった。君に釣りあう男でいたかった。そんなつまらないことにこだわる自分がいかにちっぽけだったかやっと気付いたんです。仕事より何より一番、君が大事だ。君のいない人生は考えられない。私には君が必要だ。君がまだ私を必要としてくれるなら、このままずっとここに残ります」

 彼は疑わしそうに私を見た。

「本当に仕事を辞めてもいいの?」
「まずは休職できないか頼んでみます。駄目なら辞める。でも日本へ戻ったら仕事は探します。君に養ってもらうのも悪くないが、そうなると対等に話ができなくなってしまいそうで、それは嫌なんです。働きながらでもできるだけ君のそばにいられる仕事を探してみます。君も私のスーツ姿を好きだと言ってくれたでしょう?」
「そうだけど……本当にそれでいいの?」
「君と仲直りできるなら」 

 私を凝視していた国見さんの端麗な顔が歪んだ。唇が震える。

「国見さん?」
「……ごめんなさい……! 仕事、辞めないで……っ」

 彼の赤く潤んだ目に涙が溜まる。やはり彼は泣き顔も綺麗だ。以前感じた別人のようには見えなかった。私が愛した生身の国見栄一だ。腕を伸ばすと彼が胸に飛び込んできた。体中で感じる国見さんの感触と温もりに私まで目が熱くなる。視界が潤む。

「ごめんなさい、馬鹿なことを言って……僕が間違ってた……、あの時はもう、諸井さんについてきて欲しくて、わけわかんなくなってて……」
「あの頃は色々あった直後でしたから。私も意地になっていたしね。君から求められることがどれほど幸せなことか、私はつい、そのことを忘れてしまってたんです」
「僕が悪い……、僕が……わがままを言って諸井さんを困らせて……」

 私の胸に額を擦りつけて彼はかぶりを振った。頭を撫でて柔らかな髪にキスした。私の指も震えていた。

「別れないでくれますか?」
「別れない。諸井さんはこんな僕でいいの?」
「君がいいからここに来たんですよ」
「こっちに来てから、ずっと後悔してて……、なんであんなこと言っちゃったんだろうって……、絶対愛想尽かされたと思ってた。電話もメールも怖くてできなかった。諸井さんに嫌われたと思って……」
「前よりもっと君のことが愛しくなりました。君の言う通りにして良かった。後悔したくなかったので、必死になってみました」

 自分の言ったことを忘れているのか、彼はきょとんとした顔を見せた。頬は赤く、目は涙で潤んで、唇は赤くなっていた。あどけない表情に胸が締め付けられた。もう二度と見られなくなっていたかもしれないのだ。

「君を失ったかもしれないと思って、すごく怖かった」

 彼にしがみついた。私の震える声を聞いた彼が、優しく背中を撫でてくれた。

 ※ ※ ※

 お互い泣きやんだあと、ベッドに座って近況報告をしあった。私が統括マネージャーになったと聞くと「すごいね。お祝いしないと」と自分のことのように喜んでくれた。

「自分のことばっかで、諸井さんの話をぜんぜん聞いてなかったんだね。何でも話してって僕が言ったのに」
「今度からなんでも言うようにするよ。じゃあ早速ひとついい?」
「なに?」
「城田さんはどうしてここに来たの?」

 彼はあっ、と気まずそうな顔をした。

「知ってるの?」
「たまたま日本でテレビを見て知った」
「向こうも僕が体調崩したってテレビで知って、大丈夫かって電話くれたんだ。その時に、ちょっと愚痴ったらわざわざ来てくれて。以前は僕の主治医みたいなもんだったから」
「城田さんはまだ君のことが好きなんだね」
「ぜんぜん! そういうんじゃないよ。向こうも研修医のこと僕に愚痴ってきたんだ。付き合うことになったらしいんだけど、その途端病院でも彼氏面されて先輩後輩の立場がどうとかって喧嘩になったんだって。そういうのと付き合ったのはそっちなんだから知らないよって話なんだけど。こっちに来たのは完全に研修医へのあてつけだよ。僕は利用されただけ」

 と国見さんは苦笑した。その話を聞いてもやはり嫉妬してしまう。

「妬けるよ、正直」
「ごめん」

 彼は笑みを引っ込めた。

「でも城田さんには感謝もしてる。あの人がここに来てると知って、ブチ切れて飛んできたんだから」
「諸井さんがブチ切れたの? 想像つかないよ」
「仕事もほっぽりだしてきた。お詫びにお土産を買って帰らないと」

 彼の顔が少し曇ったように見えた。

「まだ帰らないよ。ここにいる」

 申し訳なさそうな安堵の笑みを浮かべ、私にもたれかかってきた。

「あまり僕を甘やかさないほうがいいよ。諸井さんがいなきゃ、なにもできなくなる」

 肩を抱きよせてキスした。ベッドへ倒れこみ深く口づける。彼の手が背中にまわされる。服をたくしあげ、胸に吸い付いた。

「あっ、待った! シャワー! 今日トレーニングしたから汗かいたんだ!」
「このままでいいよ。君の匂いが好きなんだ。それに私が待てない」

 ベルトに手をかけた時だった。携帯電話の着信音が部屋に鳴り響いた。顔を見合わせたあと、彼はテーブルの携帯電話を取った。画面を見て舌打ちする。私に視線を戻すと電話に出る仕草をした。私は頷いた。

「はい。こんな時間になんの用……、あっそう、明日帰るの。わざわざ報告してくれなくてよかったのに。彼によろしく。あっ、あんたのこと日本のワイドショーで話題になってるって。俺のせいじゃないよ。そっちが勝手に来たんだろ。……はいはい、わかったわかった。あ、一応礼だけ言っとく。心配してくれてありがとう。……言われなくてもとっくに仲直りしたよ。たった今ね」

 彼は私に目配せして悪戯っぽく笑った。電話の相手は元彼の医者。どうやら明日帰るらしい。

「そういうこと。だからもう切るよ。じゃあね。気を付けて」

 電話口に吹きこむように言って彼は通話を切った。ついでに電源も落とした。前に城田さんと電話をしているのを見た時は、元彼に会いに行く国見さんを見送る立場だった。今日は私の元に残ってくれる。この違いに密かに感動してしまう。

「さて。続きしよう」

 彼は自ら服を脱ぎすてた。前より引きしまった体になっている。

「少し痩せた?」
「ちょっと」
「私のせいだね」
「違うよ。役作りで落としただけ」

 彼の額にキスする。愛しさが際限なく溢れてくる。学生の時の遊びでは得られなかった感情。小泉さんの時には与えられなかった満ち足りた幸福感。幸せ過ぎて死んでしまいそうだ。


 

うつくしい体(1)



関連記事

2018-06-20(Wed) 20:21| 往時渺茫としてすべて夢に似たり| トラックバック(-)| コメント 0

往時渺茫としてすべて夢に似たり(13/15)

101112

 エリア巡回のあと、オーナーに呼び出されていたので指定された店へ向かった。黒い壁に囲まれた、一見するとなんの建物なのかもわからない店だ。

 内装も黒で統一されていて照明も薄暗く、通路を歩くことも覚束ないほどだ。右手にカウンター、左手は全て個室。店員の出入りでチラリと見えた客層は若い。

 奥の部屋で広田が待っていた。

「先にやってる」

 とグラスを傾ける。

「お疲れさまです」
「お疲れ。どうこの店」
「暗すぎます。これじゃ食事どころか、一緒に来た連れの顔も見えやしない」
「こういう店、増えたよなあ。若いのに流行ってるらしい」
「まさかうちの店も照明を絞る気ですか」
「うちは舌でも目でも料理を味わってもらうまっとうなレストランだからそんな真似はしないよ」
「それを聞いて安心しました」
「隣の客と顔を合わせたくない奴にはいいんだろうな。芸能人とか」

 また広田のお節介虫が騒ぎだしたのだろうか。その手には乗らない。

「店の売り上げですが、いま現在前年比を上回ってはいるものの、常連のお客様にはそろそろ目新しいメニューをお出しする必要があると思いますね」
「売り上げがいいのは国見栄一効果だな。お菓子の詰め合わせは通販しないのかって問い合わせがいまだにくる」
「検討されてもいいかもしれませんね。それで、新メニューですが──」
「うまくいってるのか、お前たち」
「従業員のプライベートに上司が首を突っ込まないでください」
「テレビで見たけど、いまは中国にいるんだろ」
「らしいですね」

 先日、中国へ発ったとネットニュースで知った。ホテルで喧嘩別れしてから連絡は一度もこない。私からしても無視をされる。もう駄目なのだろうか。望みが小さく萎んで行く。

「休み取って会いに行っていいんだぞ。お前は変に義理堅くて真面目だから遠慮してんだろうけど」
「そんなことは……。彼とは喧嘩中なので」
「だったらなおさら、仲直りのために会いに行けよ。尻込みしてたら手遅れになるぞ」

 耳に痛い。もうすでに手遅れかもしれないのだ。

「人の恋愛なんかどうでもいいだろ」
「よくない。相手はあの国見栄一だぞ。嫁と麻帆が大ファンなんだと。その恋人と噂される男が俺の店で働いてるんだ。家の中で俺の株爆上りよ。会わせろなんだのやかましいんだ」

 弱々しく笑い返した。奥さんとお嬢さんの頼みはきいてやれないかもしれない。

 私の表情の変化に、敏い広田はすぐ気がついた。

「喧嘩って、深刻なやつなのか?」
「誰にも譲れない部分はあるだろう」
「まあな」

 広田は少し黙って考えこんだあと、頭をガシガシと掻いた。

「俺から言えるのは、理性で恋愛すんなよってことだけだ。本能で国見栄一と向き合え」
「彼と出会ってから煩悩まみれの私が理性的だとでも?」
「俺の目にはまだそう見えるね。喧嘩した恋人が中国に行ったら普通追いかけるだろ」
「追いかけたところでまた口論になる。同じことの繰り返しだ」
「口論上等。仲直りのあとのセックスは最高に燃えるぞ」
「ばか」

 私が吐き捨てると広田は笑った。

 お嬢さんの名前が出たとき、記憶の襞から何かが零れ落ちてきた。それは懐かしい小泉さんの記憶。お嬢さんが連れて来た相手が、まさかの小泉さんの元彼だった。

 小泉さんが去ったあと毎日思い出していたのにいつの間にか思い出すことを忘れていた。私の全部を国見さんが占めている。

 小泉さんのことが遠い過去になったのなら。いつか国見さんとのこともそうなるのだろうか。

 少し考えてみただけで、胸が引き裂かれたように痛んだ。

※ ※ ※

 アラームで目が覚めた。くるまった布団から出たくない。覚悟して布団を出て、冷たいフローリングに足を置く。いつの間にか肌寒い季節になっていた。

 朝食をとりながら新聞に目を通す。食器を片付けてから身支度をした。ストライプの濃紺のネクタイを横目に見ながら違うネクタイを選んで首に巻いた。コートを腕にかけて家を出る。

 11月半ば。もうすぐ国見さんの誕生日だ。11月に入ってからずっとそれを意識している。しかしプレゼントを渡したい相手は日本にはいない。

 ホテルで喧嘩別れした日が、彼に会った最後の日になってしまったら──。

 あんな終わり方をするなんて本意じゃない。彼が帰国する頃にまた連絡をしてみるつもりだった。その頃には彼も冷静になって話を聞いてくれるかもしれない。祈る気持ちでそう願う。

 午前中、店を回って新メニューの試食とアドバイスをした。昼は古巣のまかないを頂くことにした。なんだかんだ長年働いた店が一番居心地がいい。

 店の駐車場に車を入れ、裏口から入った。支配人室をノックしたが木原さんはいなかった。休憩室のほうへ足を向ける。馴染みの顔が私を見て挨拶を寄越す。

「支配人は?」
「厨房だと思います」
「ありがとう」

 厨房へ向かうと、途中で話声が聞こえてきた。

「俺の仕事は料理を作ることだ。それに集中させてくれよ」
「もちろん集中してもらわないと困ります。でも新人教育も三井さんの仕事なんですよ。キッチンスタッフは三井さんがリーダーになってまとめてもらわないと」
「そんなのスーシェフに任せりゃいいだろう。そもそも連絡なしにブッチするような奴、どうまとめろっていうんだ」
「聞いたら初日の挨拶だけで、それ以降まともに話もしてないそうじゃないですか」
「当たり前だろ。なんで俺が新人相手にご機嫌取りしてやらなきゃなんないんだ」
「三井さんは怖いんですよ! 話しかけにくいし、口も態度も悪い!」
「なっ、誰がそんなこと言った? 木原ちゃんもそう思ってるのか?」
「私のことは支配人と呼んでくださいって、何回も言ってますよね」
「今更呼びづらいんだよ。別にいいだろ、俺は」
「よくありません。いいですか、三井さんの評価を上げるも下げるも私の印象次第なんですからね」
「おい、それは職権乱用だろう」

 たまらず吹きだしてしまった。二人が揃って振り返る。私を見て木原さんは笑顔になり、三井くんは少し照れの混じった気まずそうな顔をした。

「いらしてたんですか。恥ずかしいとこ見られちゃいましたね」
「うまくやっているようじゃないですか、問題児の三井くんと」
「ちょ、俺は問題児なんかじゃないでしょ」
「本気でそう思ってるんですか?」

 木原さんの鋭いツッコミに三井くんは言葉を詰まらせた。最初は不安だったが、案外この二人はいいコンビのようだ。

 まかないの用意を待っている間、支配人室で木原さんと仕事の話をした。入って二週間目の厨房スタッフが今週から無断欠勤をしている話も聞いた。

「三井さんって横柄じゃないですか。あの人のせいで辞めたスタッフ何人いるか」
「腕は確かなんだけどね」
「ですよね。料理の腕だけは男前なんですけどね」

 木原さんの表現に笑ってしまう。言い得て妙だ。大胆であり、繊細。彼の料理は確かに男前だ。

 スタッフに呼ばれてホールへ出た。テーブルに並ぶまかない料理。作った若いスタッフの説明を聞いてからみんなで食事をとる。三井さんが厳しくも的確な指導をしている。下のものに慕われるようになれば、彼も一人前だ。

 食事のあと、外へ出かける者、椅子を並べて仮眠を取る者、みんなそれぞれの方法で時間を潰す。私は他の数名と一緒に休憩室へ移動し、コーヒーを飲みながら三井くんが作る新作メニューの完成を待っていた。

 休憩室のテレビがついていた。ワイドショーの司会者が女性アイドルの熱愛スクープを伝えている。

「それじゃ、次。こちらも熱愛と言っていいのかな。映画の撮影のために中国へ渡った国見さんなんですが、ついてすぐ、体調を崩したそうなんですね」

 国見さんの名前が出て休憩室はシンと静かになった。休憩室にいるスタッフが私をチラリと見る。

 国見さんが中国へ行って体調を崩したなんて話は、テレビを見ない私には初耳だった。国見さんから連絡もきていない。私はもう頼られる存在じゃないのだろうか。まだ怒っているだけだと信じたい。あんな喧嘩ひとつで別れてしまうなんて納得できない。

「やっぱり生活環境がかわって、言葉も通じませんしね、体調も崩しますよね。それにあの事件のことがありましたから。普通の人だって体調崩しますよ。だって怖いですよ。家帰ったら知らない女がいたなんて。ねえ」
「普通に怖いです。トラウマになります」

 アシスタントの女性が深く頷く。

「あの事件があって連日マスコミに追いかけられて、気が休まらないからって中国行きを早めたらしいんですが、言葉通じないでしょ、生活環境もがらりとかわって精神的に相当参って、軽い鬱状態だっていう話らしいんですよ」

 良かれと思った選択が裏目に出たんですかね、とコメンテーターが訳知り顔で言う。

「で、ですよ。国見さんと親しくされていた例のお医者さんが中国まで会いに行ってるそうなんです。国見さんの泊まってるホテルにそのお医者さんが出入りする姿が何度も目撃されてるそうなんですね」

 体中の血が逆上した。みんなテレビを見ていて良かった。私の顔はいま般若のようになっているだろう。私の知らないところで、知らないうちに二人が再会していた。それをワイドショーの芸能ニュースで聞かされるなんて。

「異国の地で不安になっている時に駆けつけてくれるってかなり心強いですよ」

 アシスタントの言葉に司会者が同意する。

「国見さんが呼んだのか、お医者さんが心配になって会いに行ったのかはわかりませんけど、二人の絆は相当強いってことですよね。仕事休んでちょっと中国行ってくるってなかなかできませんよ」

 今度は燃えてしまいそうなほど自分が恥ずかしくなった。いっそ燃えて消えてしまいたいくらいだ。

 彼から涙ながらにあんなに懇願されたのにそれを突っぱねた私と、彼の体調不良を聞いてすぐに中国へ飛んだ医者の元彼。彼にも仕事が、待っている患者がたくさんいるだろうに、それを差しおいて国見さんを選んだ。何が大事かを、よくわかっている。

 仕事にしがみついた私はなんて小さな人間だ。本当は自分に自信がなかったから、仕事を理由に国見さんの頼みを断ったんだ。芸能人の彼に内心引け目を感じていた。元彼の医者にも。

 自分の仕事に誇りを持っている。だが無意識に二人の仕事と比べていたのではないか。私にはかわりがたくさんいる。現に支配人を辞める時、木原さんに引き継いでもなんの問題も起らなかった。統括マネージャーの仕事も、いつだって他の誰かへ引き継げる。

 だが国見さんの代わりはいない。国見栄一だから仕事の依頼がある。人の命と健康を守る医者の仕事も立派だ。私とは比べ物にならない。

 三ヶ月くらい休めばいいと国見さんに言われて、私が彼に抱く一番のコンプレックスを刺激された。だから私も意地になった。今になってわかった。

 何より大事だと思っていた国見さんより、私は自分のプライドを優先していたのだ。彼なしの人生など考えられないと思っていたのに。それが本音なら、事件があって不安な彼を一人にはさせなかったはずなのに。

 そうだ、彼は不安がっていた。距離があけば心も離れると。医者と別れた理由もそれだった。すれ違いが続いて、医者が研修医によそ見した。あの二の舞を恐れていた。私ならわかったはずなのに、なぜ失念していたのだろう。

「でもこの二人って、レストランで喧嘩して以来、仲違いしてたんじゃないですか? それで、国見さんはレストランの支配人と親しくなったって」

 コメンテーター席の女性タレントが言う。まるで私を嘲笑うかのような顔で。

「芸能リポーターの人にきいた話では、支配人の方とはあの事件以降、会ってないそうですよ。まあ、マスコミとか世間の目がありますから会わないようにしてたのかもしれませんが。でも今回、国見さんが体調崩した時に飛んで行ったのがお医者さんだったってことは、やっぱまだこの二人は続いてたってことじゃないですか」

 司会者が締めくくったことで次の話題へ移った。

 ここが店の休憩室で良かった。自分の家なら私は喚いて家中のものを壊していたかもしれない。いや。なぜ休憩室で良かったと? 大事なものもわからずに、一番愛する人を傷つけて、その結果失ったのに、私はまだ外面やどうでもいいことを気にするのか? なんて愚かしいことだろう。

 私はまた同じ間違いを犯した。小泉さんを元彼に奪われたのと同じように、国見さんも医者に奪い返されてしまった。

『あんた、物わかりいいふりして、指咥えて見てそうだもん』

 国見さんに言われた言葉が頭に蘇った。一言一句、彼との会話を覚えているほど好きだったのに。

『ほんとに好きなら必死になったほうがいいよ。後悔しても遅いから』

 胸が苦しくなった。今更遅いかもしれない。彼が私を見限り医者を選んだのなら潔く身を引くしかない。だが、もう一度、それを確かめるチャンスだけは与えて欲しい。

 休憩室を出て支配人室をノックした。

「すみません、急用ができたので帰ります。三井くんには申し訳ないと伝えておいてください」

 驚く木原さんを残し、すぐに店を出た。車に乗り込みエンジンをかける。ハンズフリーで広田へ電話をかけた。

『おう、どうした』
「諸井です。私をクビにしてください」
『なんだ急に。なにかあったのか?』
「中国に行ってくる」

 電話の向こうで広田が息を飲む音が聞こえた。そして、笑い声。

『本能で恋愛する気になったか。いいよ。有給扱いにしてやる。行って来い』
「恩に着る」

 急いで自宅へ帰り、パソコンを開いた。調べれば彼が宿泊するホテルの名前がすぐに出てきた。セキュリティーはどうなっている。近くの空港を調べ、すぐ乗れる飛行機を予約し、パスポートを持って家を飛び出した。




百と卍



関連記事

2018-06-19(Tue) 20:47| 往時渺茫としてすべて夢に似たり| トラックバック(-)| コメント 2

往時渺茫としてすべて夢に似たり(12/15)

1011

 豪華なブレックファーストを前に、国見さんはまだ眠そうな顔であくびをした。

 彼と共に寝て、共に起きる。同じ空間で同じものを食べることの幸せはなにものにも代えがたい。この時間が永遠に続けばと願ってしまう。

「ぐっすり眠れたの、久し振り」

 パンに手を伸ばして国見さんが言った。

「そんなに眠れてないんですか?」
「色々あったし、片付けなきゃいけない仕事があったりね」
「いまくらい、少し仕事をセーブしてもいいのでは?」
「一応、そういう方向でやってくれてるんだよ。今月はあとCM撮影一本と雑誌の取材一本だけだし」
「それならいいですが。ホテルにはいつまで? 新居はまだ見つからないんですか?」
「しばらく家は探さないかもしれない」
「なぜ?」

 彼はちぎったばかりのパンを皿に戻した。

「もっと前に話そうと思ってたんだけど……あんなことがあってタイミングを逃しちゃって。電話で言う話でもないし」
「なんのことです?」

 彼が真剣な顔つきなので、私もナイフとフォークを置いた。

「来月から映画の撮影が始まる」
「そうですか。また忙しくなりますね」
「うん……、実は中国の映画なんだ。監督がたまたま僕のことを見てオーディションを受けないかって。好きな監督だったから受けてみたら役が決まっちゃって」
「良かったじゃないですか。おめでとうございます」
「ありがとう。それで、撮影は当然中国でするんだけど、あんなことがあったから少し早めにあっちに行ったらどうかって。中国語も練習しなきゃならないし、アクションもあるからその特訓もあるし」

 だんだん話が見えてきた。

「早めって、どのくらい?」
「こっちの仕事が終わったらすぐだから、来週には。丸三ヶ月はあっちにいることになると思う」

 三ヶ月も。この一カ月でさえ半身を引き裂かれたような思いで過ごしていたのに、日本で彼の帰りをそんなに長く待てるだろうか。

 本音を言えば行って欲しくない。だからと言って、彼のキャリアを潰す真似もしたくない。ここは彼を想う年上の男として、気持ち良く送りだすのが正しい選択だ。

「寂しいですが、仕事なら仕方ないですね」
「断ってもいいんだ」
「断るなんて駄目です。やりたいんでしょう?」
「やりたい。けど、三ヶ月も会えないなんて寂しいし、その間に諸井さんが僕のこと好きじゃなくなるかもしれない。諸井さんはモテそうだから僕以外の誰かと……そんなの、絶対嫌だし……」

 彼の声が自信なさげに小さくなっていく。

「私はモテないし、君以外の誰かとなんてありえない。私の方こそ常にその不安と戦ってる」
「離れたくないんだ」
「私だって」
「じゃあ一緒にきてよ!」

 叫ぶように彼が言った。

「同じホテルに泊まって、毎日こうして一緒にご飯を食べて、時間があったら二人で観光して……、三ヶ月、諸井さんとそうやって過ごたい」
「それは……私だって、そうできたらどんなに幸せか」
「だったら! 一緒に行こうよ!」
「私にも仕事があります」
「休めばいいじゃないか」

 簡単に言ってくれる。説得しようと彼も必死だったのかもしれないが、私の仕事を軽視しているように思えていい気はしなかった。少し腹も立った。

「あなた方の世界では簡単に休めるのかもしれませんが、私のような一般の勤め人は三ヶ月もそう易々と休めないんですよ。よほどの事情がない限りは」
「これはよほどの事情じゃない?」
「恋人の仕事に付き合って三ヶ月休むなんてオーナーに言ったらクビにされます」

 広田なら事情を離せば許してくれそうな気がした。むしろ、喜んで送りだしてくれそうだ。さんざん迷惑をかけたのに、それに甘えるわけにはいかない。

「クビになったら僕のところに来ればいいよ。諸井さん一人くらい食べさせていける。不自由のない生活をさせるから。諸井さんは働かなくていい。僕のそばにいてくれるだけでいいから」
「飼い殺しですか、私を」

 怒りを押し殺した低い声になった。あまりに私を馬鹿にした発言だった。いくら国見さんでも許せるものじゃない。

 私の異変に気付いて国見さんも顔色を変えた。

「言い方が悪かったなら謝る。でもお願いだから、一緒に来てよ。僕は諸井さんと一緒じゃなきゃ中国へ行かない。離れるなんて不安でたまらないんだ」
「駄々っ子みたいなことを言うのはやめなさい。引き受けた以上はきっちりやるのが筋です。私もここで与えられた仕事をしてあなたの帰りを待ちます」
「嫌だ。一緒に来てくれないなら中国に行かない。行ったら諸井さん、絶対浮気するでしょ」
「しません。誰が私なんか相手にするもんですか」
「三ヶ月の間、何があるかわからないじゃないか。会えなくなったら気持ちも離れちゃうんだよ。そうなったらもう終わりだ。だったら捨てられる前に別れる。今、諸井さんと別れる!」

 感情が昂った国見さんの目は涙で濡れていた。泣き顔もこんなに美しいのに、今日はなぜか別人を見ているような気分になる。

「それは脅しだ、卑怯ですよ」
「脅しじゃない、本気だ。あんたみたいな薄情な人とは別れる! わかったらもう出てけよ!」

 立ちあがった国見さんが私の腕を引っ張る。こんなことで終わるだなんて冗談じゃない。

「落ち着いて。ちゃんと話を──」
「話はもう終わった。一緒に来てくれないんだろ?」
「それは──、一ヶ月待てたんだから三ヶ月だって乗り越えられる」
「ずっと一緒にいるって誓ったくせに」

 綺麗な目からぽろりと涙が滑り落ちた。昨夜、彼が寝る間際の私の言葉。ちゃんと届いていたのか。

「本当です。ずっとあなたのそばにいます」
「だったら一緒に、」
「それとこれとは話が別です。仕事とプライベートの区別はつけないと、私たちの関係も長続きしなくなくなる」
「そっちこを俺を脅してるじゃないか。明日も明後日も、ずっと一緒にいてくれるって言ったくせに。嘘つき。出てけよ、出て行けってば!」

 興奮した国見さんにはもうなにを言っても無駄だった。力任せに突き飛ばされて、よろけながら部屋を追い出された。

 あんなに取り乱した彼を見たのは初めてだ。ストーカー女に襲われた時も、こうはならなかった。

 確かに三ヶ月は長い。私だって出来ることなら彼のそばにいたいし、いてあげたい。だからと言って仕事は休めない。そのくらいの分別はある。彼も同じだと思っていたのに。やはり芸能人と一般人とでは、そのあたりの感覚が違うのだろうか。

 それとも、彼の言いなりになると思われていたのだろうか。下に見られていたとしたら、とても残念だし悲しい。

 携帯電話をテーブルに置いたままだったが、諦めて立ち去った。

 ホテルに置きっぱなしの携帯電話は後日、店のほうへ郵送されてきた。「さよなら」と書かれたメモと一緒に。電話した。メールも送った。どちらも無視された。

 これは一時的なもので、彼が頭を冷やして冷静になれば仲直りできるはずだ。だがもし万が一、メモに書かれた言葉が彼の本心なら、私はどうすればいいのだろう。






関連記事

2018-06-18(Mon) 20:23| 往時渺茫としてすべて夢に似たり| トラックバック(-)| コメント 0

往時渺茫としてすべて夢に似たり(11/15)

10

 事件から一週間、ワイドショーでは連日トップニュース扱いで報道されていたが、二週目になると他の芸能人が起こした追突事故がトップニュースに入れ替わり、三週目はこの事件をきっかけにうちがなかなか予約の取れない店になっているというどうでもいい情報をわざわざテレビで流していた。

 最初の一週間はマスコミが店に押しかけて来て大変だった。食事に来た客からも「国見さんを助けた支配人はいますか?」との問い合わせが多かった。ずっと裏方業務に徹していたが、呼び出された時は対応した。みんな国見さんのファンのようで、私の怪我の具合を心配してくれる人がほとんどだった。中には国見さんを助けてくれてありがとうございましたと礼を言う人もいた。

 彼がどれだけ多くの人から愛されているのかを実感した。

 彼とは会えなかったが電話連絡は頻繁にしていた。事件のことも彼から電話で教えてもらった。

 あの女はハウスクリーニングのスタッフだった。以前から国見さんのファンではあったが、彼の部屋を掃除するようになってから勝手に運命を感じ、自分の存在をアピールするためにリモコンの場所を変えたり、マウスの電池を逆に入れたりしていたのだという。カーテンを取り返たのもこの女だった。

 なかなか自分の存在に気付いてくれない。どころか、国見さんは他に恋人を作った。それは間違った選択だ、と女は思いこんだ。間違いを正すために、姿を見せることにした、というのだ。

 あの日も他のスタッフたちと一緒に国見さんの部屋の掃除をしていた。掃除が終わる頃に体調が悪いと先に帰ったように見せかけてずっと国見さんの部屋に隠れて待っていたというのだ。

 そこへ私と国見さんが帰宅した。国見さんの次の恋人は自分だと思いこんでいた女は、私を見て激高し、襲い掛かって来た。頭突きをされた傷はもう治った。ひっかき傷も消えた。

 だが今でもあの女の喚き声が耳に残っている。不気味な声と目が、頭から離れない。

 国見さんの事務所の弁護士を通して、女の家族から治療費、慰謝料として60万円が送られてきた。それとは別に、国見さんの事務所から見舞金も送られてきたがそれはもらう意味がないので送り返した。

 国見さんはマンションを引き払い、今はホテル住まいをしている。ホテルでも部屋に入る瞬間は怖いと漏らしていた。当然だ。出来るなら私が常にそばにいてあげたいが、世間の目があるのでできない。それがもどかしい。

 四週目に入り、大物芸能人同士の結婚報道があって国見さんのニュースはやっと消えた。店に押しかけて来たマスコミもいなくなった。

 今月から私が統括マネージャーになって一つの店に常駐することがなくなったのも大きい。

 担当する店へ出向くと、そこの従業員から好奇の目を向けられた。それは仕方がない。今回のことを遠慮なく訊いてくる者もいた。それも最初だけで、今は普通に接してくれている。

 統括マネージャーの仕事は忙しく、国見さんに会えない寂しさを紛らわすにはちょうどよかった。本音は心配でたまらないし、今すぐ会いに行って抱きしめたい。そんな時間も機会もなく、仕事に没頭するしかなかった。

 支配人の立場では見えなかったことが見え、出来なかったことができる。やらなければならないことは増えたが、やり甲斐はある。きっかけは広田に強引に誘われたからだったが、この業界の仕事が好きなのだと思う。引き止めてくれた広田には感謝しかない。

 事件から一ヶ月目にして、ようやく国見さんに会える日がきた。こんなに時間がかかるとは思ってもいなかった。

 仕事を終え、車は店の駐車場に残してタクシーに乗った。降りるとビルとビルの細い裏道を抜け、またタクシーを拾った。尾行の気配がないことを確認しながら、国見さんと待ち合わせをしたホテルに到着した。もちろん、寝取りまりしているホテルとは違うホテルだ。

 事前に教えてもらった部屋へ向かう。あたりを見渡してからドアチャイムを鳴らした。しばらくしてドアが開いた。一ヶ月ぶりの国見栄一が私を見て微笑んだ。

「入って。早く」

 部屋の中へ身を滑り込ませる。ドアが締まると彼が抱きついてきた。久し振りの匂いに胸が痛くなった。

「会いたかった」
「私もです」

 キスをしながら彼を壁に押しつけた。最初は普通に話をしようと思っていたが無理だった。学生みたいに抑えがきかない。体中が彼を欲しがっていた。

 剥ぎ取るように服を脱がせた。露わになっていく肌に順に口付けた。彼も同じように性急な手つきで私の服を脱がせていく。転げそうになりながら部屋の中を移動し、ベッドへ倒れ込んだ。

 息を乱れさせながら彼が私を見上げる。美しく凛々しいのに、こういう時の彼の表情は非常に煽情的でオスの部分を掻き立てる。

 一カ月分のキスをしながら彼の体をまさぐる。うち震えるそれを扱いたら甘い声が漏れた。もっと聞かせて欲しくて口に咥えた。彼の手が私の髪をくしゃくしゃに乱す。いつもより早く彼は達した。

 早く彼の中に入りたかったが、離れていた分、彼の体を堪能したい思いもあって、結局泣かせてしまうほど体中を愛撫した。

「早く、きて。おかしくなる」

 私をせがむ彼は本当にかわいらしかった。挿入し、少し呼吸を整えた。彼の中は熱く脈打っていた。

「まだ動かないで」

 私の背中に爪を立てた。ようやく会えた喜びと、体中を愛され敏感になった体には刺激が強すぎたようだった。脇の下から腕を入れて彼の肩を掴んだ。ピタリと密着する。さらに奥へと進む。先端に吸い付く様な感覚があった。

「だっ……あ、ああ──ッ!!」

 最奥に到達すると彼は私にしがみついた。

「動いても? まだこのまま?」
「もうすこし、このまま……っ」

 顔の横で彼がかぶりを振る。熱い頬にキスする。耳を舐めたら奥が締まった。

 緩く腰を動かした。小さくリズムを刻む。私の形に慣れてきた頃、大きくグラインドさせた。彼がまた達した。彼の色気はそのたびに増していく気がする。

 煽られるまま、本能が欲しがるまま、腰を振った。

 もう二度と、彼のいない人生には戻れないだろう。



 シャワーのあと、二人でベッドに寝転がった。もう明け方近い。流石に彼は疲れた様子だ。シャワーの間もぐったりしていた。やりすぎを謝ったら、「最高だった」とご褒美のキスをくれた。

「僕があげたネクタイ、使ってくれてる?」

 天井を見つめたまま、彼がぽつりと言った。

「もちろん。会えない間、君を近くに感じられるように」
「クリスマスにはスーツをプレゼントしたいな。オーダーメイドの。諸井さん、スーツがすごく似合うからプレゼントのし甲斐がある」
「先に君の誕生日だよ。何か欲しいものはある?」
「どこでもドア。毎日諸井さんに会いに行ける」
「それは私も欲しいな。毎日君の寝込みを襲いに行ける」
「セクシーな下着買っておかなきゃ」

 私のほうを向いて無邪気に笑う。頬に手を添えると目を閉じた。キスに応じる動きは緩慢だ。

「疲れた?」
「ホテル暮らしのせいか最近熟睡できてないんだ。諸井さんがそばにいると安心する」
「ずっとそばにいるよ」
「ほんとに? 明日も明後日も、一年後も、十年後も、ずっと……」

 呂律のまわらない口調でかわいらしいことを言う。

「君のそばにいると誓うよ」

 私の胸に顔を埋めて、彼は眠ってしまった。






関連記事

2018-06-17(Sun) 19:39| 往時渺茫としてすべて夢に似たり| トラックバック(-)| コメント 0

往時渺茫としてすべて夢に似たり(10/15)



 翌日、出勤したスタッフ全員を休憩室に集めた。寝不足と、ゆうべ女にもらった頭突きと、複数のひっかき傷のせいで酷い顔の私を、みんなが興味津々に見つめる。

「私はしばらくホールには出られません。皆さんには迷惑をかけて申し訳ありません」

 頭を下げて謝罪する。この先のことを考えると、気が重い。

「どういうことですか。その傷も、何があったんですか?」

 からかいと詰問が混じったような口調で三井くんが言う。当然の疑問だ。

「いずれわかることだと思うので先に皆さんには言っておきます」

 リモコンを取ってテレビをつけた。さっそく昨夜の事件の報道をしている。

 昨夜、国見さんのマンションにストーカーの女が侵入し、逮捕されたこと。国見さんは一人ではなく、知人男性と一緒だったこと。知人男性は軽傷、国見さんに怪我はないということを深刻な顔で伝えていた。

「この知人男性は私です」

 一瞬の間のあと、全員から「えっ」と驚きの声があがった。中にはテレビと私を何度も見比べる者もいる。身近な人間がテレビで報道されるような事件に巻きこまれたと知ればこうなるのも無理はない。その目が好奇心にまみれているのを責めることはできない。

「マスコミがまた店に来ると思います。皆さんは何も知らないで通してください。今朝、オーナーには店を辞めることを伝えました。辞めた人間のことは何もわかりませんと言ってくれればいいです」
「国見栄一のマンションに支配人がいたんですか?」

 遠慮のない三井くんが質問する。この際、言えることは全て言ったほうがいいだろう。

「そうです。以前国見さんがお食事に来られた時に知りあって、それ以来何度かお誘い頂いています」
「え? 二人は付き合ってるんですか?」
「三井くんが思っているような付き合いじゃありません。知人の一人として、たまに会っていただけです」

 昨夜、警察が来た直後に国見さんのマネージャーと事務所の人がやってきて、今後のことを話し合った。というか、一方的にこうしてくれと押しつけられた。

 私と国見さんは恋人ではなく、あくまでただの知人で、昨夜は酔っていた国見さんを家まで送り届けただけ、その時、襲い掛かってきた女を私が取り押さえた、と。

 マスコミになにを聞かれても詳しいことは話さないようにと釘をさされた。俳優、国見栄一を守るためだと。

 そんなことを言われなくても、私が自分から国見さんの恋人だと名乗るつもりはなかった。

 世間もワイドショーもそうだと決めつけるだろうが、決して認めることはせず、否定をして欲しいと頼まれた。

 その話をしている間、国見さんは腕を組んでそっぽを向いていた。不機嫌なのは横顔でもわかった。

「俺を助けてくれた諸井さんに、どうして嘘をつかせなきゃいけないんだ。そんなことなら全部公表しよう。いい機会だ。」

 彼が憤慨して言うと「諸井さんに迷惑がかかる」とマネージャーに叱責されて黙った。

 私が被る迷惑なんて微々たるものだ。一時耐え忍べばいいだけ。でも彼への影響は計り知れない。医者との彼のことがあるから公然の秘密にはなっているようだが、それを認めたことは一度もない。認めてしまえば彼の仕事の幅は大幅に狭まるだろう。

 彼ほど華があり、存在感もあり、画になる俳優はそういない。所属タレントを守りたい事務所の意向はよくわかる。私だってこんなスキャンダルで彼の俳優生命を危険にさらしたくない。

 だから了承した。

「今回の事件のことについて、これからマスコミが押しかけて来るかもしれません。オーナーには臨時の警備員の配置をお願いしました。お客様に迷惑がかからないよう、敷地に入ってくる部外者は全部追っ払ってもらいます。この顔なのもありますが、引継ぎが終わるまでは私は裏方に回ります。みなさんには迷惑をかけて本当に申し訳ない」

 もう一度頭を下げた。

 今朝、オーナーの広田に今回のことは全部話した。寝ているところを起こされて不機嫌だった広田は、私が話し終わるまで相槌もなく黙って聞いていた。

 広田は「お前が辞める必要はない」と言ってくれたが、そういうわけにもいかない。今回の件は、他の従業員とお客様も巻きこんでしまうだろう。その責任はとらなければならない。

 それに国見さんを失ったと感じた時期に、一度仕事への情熱が消えた。国見さんが戻ってきてくれたことに安堵して、しれっと仕事を続けてはいるが、その時芽生えた、何か新しいことをしたいという気持ちはまだ残っていた。

 いまがちょうどいいタイミングなのかもしれない。

「辞めるって、いつ辞めるんですか?」

 ぶすっとした顔で三井くんが言う。

「木原さんに引継ぎができ次第。長くても一週間。あとは有給を消化させてもらいます。その間、他店から応援もお願いしておきます」
「ふーん。ま、俺は厨房の人間ですから、いつも通り仕事ができればそれでいいですよ」

 もう聞くべきことは聞いたと三井くんは「行くぞ」厨房スタッフの背中を叩いて休憩室を出て行った。あとに残されたホールスタッフは指示を待って私の顔を見つめる。

「私からは以上です。あとは木原さんの指示に従ってください」

 休憩室を出ると木原さんが追いかけてきた。

「本当に辞めちゃうんですか?」
「大変なことを引き継がせてしまってすみません」
「そんなことはどうだっていいんです。でも一週間で支配人がいなくなってしまうのは本当に困ります。まだ私一人じゃ無理です。年内は店にいてくれるんじゃなかったんですか?」
「辞めるから無責任に言うわけじゃありません。木原さんならできます。その器がある」
「ありません。支配人がいてくれると思うからなんとかできてるんです」
「じゃあそろそろ独り立ちをする時期ですね。オーナーも木原さんに期待していましたよ」

 まだ縋る目を向けて来る木原さんを振り切るように支配人室に入った。トボトボ遠ざかる足音に罪悪感がないわけじゃない。こんな状態で引き継ぎたくはなかった。彼女にやる気と自信をつけるにはまだ少し不十分だとわかっている。でも仕方がない。私が残るほうが店と従業員に迷惑をかけてしまう。いなくなって事態の収束をはかるほうが賢明だ。

 目に見えない大きな力と流れが目前に迫っている。今は嵐の前の静けさだ。もうすぐ嵐のなかに巻きこまれる。その予感があるのに何もできない。己の非力さが情けなく腹立たしい。

 ため息をつきながら椅子に座った。机に置いておいたスマホが点滅している。

 国見さんからメールが一通。

『昨日は僕のせいで大変なことに巻きこんでごめんなさい。傷の具合はどう? お見舞いに行きたいけどこんな状況だから行けなくてごめん。捕まった女のことも会って話したいけど、しばらくは無理だね。うちの弁護士が全部話をつけるから、そっちは安心して。諸井さんの悪いようには絶対しない。マスコミ対策も、出来る限りのことはさせてもらうから。色々話したいことがある。今夜電話してもいい?』

 自宅に侵入され、襲われたのは国見さんだというのに、昨夜から私のことを気遣ってばかりだ。普通あんな目に遭ったらショックで冷静ではいられないはずだ。彼は優しいだけじゃなく、心も強い。

 メールの他にオーナーから着信が一件あった。メールの返事は時間をかけたかったので、先にオーナーへ電話をした。

『ニュースになってるぞ、お前』

 電話に出るなり、オーナーの広田は楽しげに言った。朝はまだ寝ていた頭も覚醒したようで、溌溂とした声だった。

「申し訳ありません。これからもっと騒ぎになるかもしれません」
『なるだろうな。国見栄一をストーカー女からお前が救ったんだ。ヒーローだ』
「ですが皆には迷惑をかけることに」
『だから責任取って辞めるって話だったな。今朝も言ったがそれは却下だ。責任を感じるなら残れ。自分の尻ぬぐいは自分でしろ』
「実は前から辞めようと思っていたんですよ」
『辞めて何する気だ。お前みたいなオヤジの再就職がどれだけ難しいか現実わかってんのか』
「わかってるさ」

 決めつける口調にムッとしてつい素が出た。

『アテがあるのか? どっかから誘われてるのか?』
「そんなものはない。何か新しいことにチャレンジしてみたくなっただけだ」
『……なんか危ねえこと、やってんじゃないだろうな』

 広田は声のトーンを落とした。

「危ないこと?」
『金のあるところには変な奴らが寄ってくる。国見栄一ほどの人間なら、そんなのはじゃんじゃか群がってくるだろうよ。そういう奴らから妙な仕事の話されてないかって聞いてるんだよ』

 そういうことか。広田も過去に少なからずその手の不快な目に遭っている。今までそういったものと縁遠かった私も、国見栄一を通して接点ができてしまったと心配してくれているのだろう。

「彼の周りでそんな話は一切ない」
『信じていいんだな』
「信じろ」

 広田と私の出会いは大学時代。ハッテンバに出入りしていたところを偶然広田に見つかった。無知だった広田はあの場所はなんなのだ、男ばかりでなにをしていると私を質問攻めにした。

 本当のことを教えてやるとひどいショックを受けていた。別の日にまた話しかけてきて、あの場所は恋人を作る場所なのかと訊いてきた。違うと答えたら、いつか危ない目に遭うかもしれないから、利用するのは止めろと言ってきた。

 放っておけと突き放した。言いふらすなら言いふらせ、とも言った。広田は誰にも何も言わず、ただ俺に病気の危険や、付き纏い、強/姦のリスクがあることを懇々と説明した。そんなことこっちは百も承知で通っているというのに。

 聞く耳もたないでいると押しかけて来るようになった。私の遊びの邪魔をした。いくつかで出禁をくらい、私のほうが根負けした。

 あの頃の広田の口癖は「俺はいい男だけど惚れるなよ。俺には彼女がいるから」だった。惚れるもんか。鏡を見ろ、といつも返していた。恋愛の好意はなかったが、広田のことは恩人に近い友人だと思っている。広田の言う通り、嵌り込むには危険な遊びだった
それを止めてくれた広田に嘘はつかないし迷惑もかけたくない。

『だったらなおさら辞める必要はないな』
「私がいると店の評判に影響が出る」
『これしきで影響が出るような商売はしてないぞ。むしろいい宣伝になるだろ。前に国見栄一が来たってテレビで取りあげられた時も、売り上げが伸びただろ』

 広田の言う通りだった。あの一件の直後女性客が増えた。国見さんが居合わせた客全員にご馳走したプティフールのお土産はいまでも前年比三割増しの売り上げを維持している。彼の影響力は想像以上だった。

「前回と今回はまた違う」
『前回はただ国見栄一が利用しただけの店、今回は国見栄一をストーカーから助けた英雄が働いてる店だぜ』
「そんな噂話を目当てに客が来るような店になっていいのか?」
『今までとは違う客層に広く知ってもらう機会だと思えばいい』

 なにを言っても無駄か。

「私が辞表を出せばお前は受理しなければならない立場なんだぞ」
『頑固者。また言わせたいのか。お前が必要なんだよ。これで満足か』

 広田のもとで働くきっかけになった言葉を、ずいぶん久し振りに言われた。

 大学卒業後、就職してしばらくした頃に広田に呼び出されて会った。仕事の手伝いをして欲しいと頼まれた。親の仕事を引き継いだことは知っていた。なぜ私だと問えば、「表と裏の顔をきっちり使い分けられるのは理性が強い証拠だ。お前は優秀だし、愛想を振りまくのもうまい。接客業に向いている」とのことだった。

 やっと少し仕事に慣れてきた頃、新しい職種への転職なんて考えられないと断ったら「五年以内に俺がイチから作りあげた店をオープンさせる予定だ。店を守ってくれる信用できる奴が必要なんだ。諸井になら任せられる。お前が必要だ。頼む」と頭を下げられた。そこまでされて無下にすることもできず、迷ったが引き受けることにした。

 ハッテンバで誰彼構わず寝ていた私を、時間と労力を使って止めてくれたお人よしの頼みを一度くらいきいてもバチは当たらない。

「もう私は必要ないだろ。信用できるスタッフはたくさんいるじゃないか」
『まだ足りないのかよ。新しいことがしたいんだったな。よし、お前は来月から統括マネ―ジャーだ。俺一人じゃ全部の店は見て回れないから前からどうにかしたいと思ってたんだ。これでどうだ。出世だぞ。給料も上がる』
「また急にそんなことを」

 広田は有言実行の男だ。宣言していた通り、私を引き入れて五年目に自分の店をオープンさせた。「この店の支配人はお前だ」と別の店で働いていた私が急に呼び出された。

「どうしてそこまでして引き止めたいんだ」
『お前が俺のため、店のためって言いだす男だから俺は止めるんだ。この程度の騒ぎで親友を放りだすわけないだろ。お前も知ってるだろ、俺がそうする男だってことは』

 知っている。お節介で正義感が強くて自分の信念を決して曲げない男。それが広田だ。よく知っている。そのまっすぐさ故に誤解されたり人に妬まれることがあることも知っている。広田を陰から支えようと思っていた若かりし頃の自分を思い出した。

「お前には負けたよ」

 ため息が出た。電話の向こうで広田は笑い声をあげた。

『惚れるなよ。お前には国見栄一がいるんだから』
「当たり前だ。彼とお前じゃ月とスッポンだ」
『おい、その発言、給料査定に響くぞ。とりあえず木原ちゃんに引継ぎが終わったら一遍俺んとこに顔だせ。正式な辞令とかはそのあとだ』
「仰せの通りに、マイボス」

 私はまた広田に借りを作ってしまったのかもしれない。






関連記事

2018-06-16(Sat) 20:48| 往時渺茫としてすべて夢に似たり| トラックバック(-)| コメント 0

ご挨拶

お越しくださりありがとうございます。 初めに「当ブログについて」をご一読くださいますようお願い致します。
管理人が以前、某掲示板で書いていたものをここで再利用しています。決してパクリでは御座いません。そしてお願い。GKさんの小説を保存しておられる方いましたらぜひご連絡頂けないでしょうか。いまとても読みたいのです…

お世話になってます

参加してます

惚れリンク

最新コメント

カウンター






上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。