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勝手にやってろ(2/2)

2018.02.23.Fri.
<前話はこちら>

 大谷君と仲直りできないまま下校時間になった。それまで何度か僕のほうから話しかけてみたけどちゃんと返事はしてもらえなかった。いやらしいことを言う僕のことが嫌いになったのかもしれない。

「部活、頑張ってね」

 教室を出る前にもう一度大谷君に声をかけてみた。無言で頷くだけだった。

 悲しい気持ちのまま学校を出て駅に向かう。このまま駄目になってしまったらどうしよう。もう普通に女の子を好きになれる気がしない。大谷君以上の男がいるとも思えない。僕には大谷君しかないのに。

 ホームにやってきた電車に乗り込む。二つ先の駅でたくさん人が乗り込んできた。近くにある体育大学の学生がほとんどだ。僕は車両の奥へと押しやられた。電車が動きだしてから嫌な予感がした。背後から僕にぴたりと密着する人がいる。満員電車とは言え不自然なほどだ。

 しばらくして耳元に荒い息遣いが聞こえてきた。首筋に息もかかる。深く吸いこむ音が聞こえた。僕の体臭を嗅いでいるような音だ。また痴/漢かもしれない。

 後ろの人物から離れるために少し体をずらした。肩先で牽制する。横目に見たらスーツ姿の男だった。

 息は届かなくなったが、尻になにかが当たった。人の手だ。その手は僕の尻を鷲掴み、揉みしだいた。

 なんでこんな最悪な日に痴/漢なんてされなきゃいけないんだ。泣きそうになりながらまた体を動かした。手は追いかけてきた。尻の間に指を伸ばして奥を突いてきた。

「!!」

 僕が体をビクつかせると、近くで「ククッ」と笑い声がした。背後の男だ。抵抗しないと見ると指先に力を入れてグリグリ押してきた。ちゃんと的確に奥のすぼまりを。

 カーブで電車が大きく揺れた。そのどさくさで男は僕の前にも手を伸ばしてきた。僕のペニスの形をなぞり、先端に爪を立てた。

「……ッ……や……やめ……っ」

 亀頭とグニグニと揉まれるとそこが熱くなってきた。尻穴にも指が食いこむ。膝が震えた。見ず知らずの痴/漢なんか気持ち悪いだけなのに、物理的な刺激に僕の体が勝手に反応してしまう。

 助けて誰か……! 大谷君……!!

「ちょっ……! なんだ君は?!」

 背後から慌てた男の声がして振り返った。目の前に大きな壁があった。それは人の背中だった。

「こいつ俺の連れなんで」

 この低い声は大谷君!? ということはこの壁は……!

 大きな背中が振り返り、僕と目が合うと難しい顔で頷いた。

「大谷君、どうしてここに……? 部活じゃ」
「その話はあとだ」

 怒った声で遮られた。痴/漢から助けてくれたんだと喜んだのも束の間、大谷君の怒りを押し込めた表情を見て急に恥ずかしさがこみあげてきて俯いた。

 男のくせに痴/漢に遭うなんて。それを止めさせることも出来ずに、されるがままになっているなんて。挙句、勃たせてしまうなんて。

 大谷君はきっと全部見ていたんだ。そして僕が綺麗なんかじゃないと気付いたんだ。いやらしくて汚らわしい男だと、知ってしまったから怒っているんだ。

 俯く視界が涙で滲む。大谷君に嫌われた。もう僕たちはおしまいだ。

 瞬きを繰り返して涙を散らした。痴/漢された上、電車の中で泣くような女々しい男にはなりたくない。

「降りるぞ」

 ずっと黙っていた大谷君が口を開いた。僕の家の最寄り駅。ちゃんと知っててくれたんだ。

 ホームに降り立った人をやり過ごしたあと、改札に向かって歩き出した。

「大丈夫か?」
「えっ、うん、大丈夫」
「よく痴/漢されるのか?」
「ううん。たまにだよ。満員電車だとやっぱり……隙がある僕もいけないんだけど」
「お前は悪くねえだろ。どう考えても痴/漢するほうが悪い」

 優しい言葉にまた泣きそうになる。話題をかえよう。

「どうして大谷君、電車に乗ってたの? 部活は?」
「お前が心配で部活どころじゃなかった。喧嘩別れみたいになったまんま、明日まで待てねえだろ」
「僕を心配してくれたの?」
「当たり前だろ。お前を傷つけないって決めたのに悲しませちまったからな」
「僕を嫌いになったんじゃないの?」
「なるわけないだろ」
「でも、昼休みとか、さっきだって怒ってたじゃない」
「さっきのは怒るだろ。恋人が知らねえおっさんに痴/漢されたんだぜ。昼休みのは……」

 口ごもると大谷君はガシガシと頭を掻いた。

「あれはただの八つ当たりだな。こっちは必死で我慢してんのに、お前が煽るようなこと言うから、理性ぶっ飛びそうでよ」
「どういうこと?」
「この際だからはっきり言うけど、俺、お前の事初めて見た一年の時からぶち犯してやりてえってずっと思ってんだぞ。お前の穴にちんぽ捻じ込んでハメまくってやりてえって、毎日そればっかだ」
「うそ!」
「引くだろ? 嫌だろ? ただでさえ細っこいお前の体に俺のちんぽなんか入れたらぶっ壊れんだろ。だから部活で発散して、朝晩お前をオカズに抜いて、なんとか堪えてきたってのに」
「どうして我慢する必要があるの?」
「だからお前が大事だから……!!」
「大谷君がグズグズしてるから、さっきのおじさんにお尻の穴まで触られたんだよ!」
「なに?!」

 大谷君は目を吊り上げた。もういなくなった電車を追って線路の彼方を睨みつける。

「野郎……やっぱボコボコにぶん殴ってやりゃよかったな。お前が恥ずかしい思いすんじゃねえかって遠慮すんじゃなかった」
「僕、知らない人に触られるのやだよ」

 そっと大谷君の手を握った。

「触って欲しいのは大谷君だけなのに」
「井上……」
「家まで送ってくれる? まだ親は二人とも仕事だから、誰もいないんだ」

 ゴクリ、と大谷君が咽喉を鳴らす音が聞こえた。



 家までの道のり、大谷君は言葉少なく緊張している様子だった。僕の部屋に案内した時も「綺麗に片付いてるな」ってぎこちなく笑った。

 大谷君に抱きついた。踵をあげて口を合わせた。舌を滑り込ませ、奥で縮こまってる大谷君の舌を吸い出した。いつもみたいに絡めあっただけで僕のペニスは勃った。

「触って、大谷君」

 それを大谷君の太ももに押しつけた。僕の腹に当たる大谷君のものもしっかり立ちあがっている。嬉しい。

 僕たちはお互いのペニスを扱き合った。

「舐めてあげる」

 大谷君の大きな体をトンと押した。簡単にベッドに倒れ込んだ。馬乗りになり、ズボンとパンツを脱がせた。ブルンッと飛び出したペニスを握った。熱くて硬くて太くてグロテスク。だけどとても愛おしい。

 舐めて、咥えて、しゃぶった。

「ああ……はあっ……はあ……」

 気持ち良さそうな声が聞こえてきた。僕ははりきって口を動かした。

「もういい……っ……今日はやばい、すぐイキそうだ……」

 いつも人を早漏呼ばわりする大谷君が一分ももてないなんて愉快だった。

「まだイッちゃ駄目。今日こそ僕のなかに出してもらわなくちゃ」
「でも、井上……」
「僕は大谷君が思うような綺麗な人間じゃないんだ。スケベでエッチでいやらしくて汚れてる。ごめんね、幻滅した?」
「いや、お前が一番綺麗に見える時は、スケベなことしてる時だからな。発情してフェロモンでまくりでめちゃくちゃエロい」
「じゃあ今の僕、綺麗?」
「ああ。見てるだけでイキそうなくらい、綺麗だ」
「大谷君もすっごくエロくてかっこいい」
「そんなこと思うのお前だけだぞ」
「大谷君は誰にも渡さない。僕だけのものにする。だから、僕が大谷君を犯すんだよ」

 布団の下に隠しておいたローションを取り出し、大谷君のペニスにたっぷり垂らした。手で全体になじませたあと、尻にあてがい、ゆっくり腰をおろした。

 口で感じる以上の大きさが僕の尻穴をこじ開ける。まだ亀頭も入っていないのにすでに限界まで開いている。

「無理するなよ」
「大谷君の、おっきくて太くて熱くて、僕大好きなんだよ……っ」
「俺のちんぽ好きか?」
「好き……、大好きっ……ぅん……ぁ……ッ……」
「いつもうまそうにしゃぶってくれるもんな」
「でしょ……? あ……あ、はあっ……あ、入……った……ッ…」

 亀頭を飲みこみ、刺し貫かれるような苦痛の中なんとか竿も収めた。僕の尻が大谷君の腹に乗っている。足の力を抜くと自重でさらに深く入り込み最奥を圧迫される。それが少し恐い。

 大谷君のお腹に手をついて腰を前後左右にグラインドさせた。腹を掻きまわされるような感覚に顔が歪む。

「大丈夫か?」
「前立腺っていうのが……ある、らしいんだ……そこに当たれば僕も気持ちよくなるから……っ」

 男同士のセックスはネットで調査済みだ。ただ実践となると難しいだけで。

「ちょっと動くぞ」

 僕の背中に手を当て、大谷君がゆっくり体を起こした。向き合うように座った格好を経て、今度は僕が下、大谷君が上になった。

「そんな奥じゃねえだろ」

 ズルリと大谷君が引いていく。やっと入れたものを抜かれるのかと焦ったが、亀頭を残したところで止まり、小刻みにまた中に入って来た。

「このへんか? 案外わかりにくいもんだな」

 前立腺を探して大谷君のペニスが直腸を擦りあげる。

「大谷君、前立腺知ってるの?」

 まさか僕の前に男と?!

「お前を初めて見た一年の時にとっくに調べてあんだよ」

 僕より先に大谷くんがそんなことを調べていたなんて驚きだ。その姿を想像したらちょっと可笑しい。

「あっ……大谷君、そこかも……」
「どこ? ここ?」
「あっ、うん、たぶんそこ」
「……ああ、確かにちょっとポコッとしてるな」

 場所がわかると大谷君はそこめがけてペニスを動かした。小さく刻むような繊細な動き。大谷君の性格を考えたらきっともっと大胆に動きたいはずなのに。

「んっ、あっ、変な感じっ」
「痛い?」
「違くて……変っ……ぁあ……なに、これ、変だよ、大谷君……っ」

 苦痛で萎れていたペニスが触ってもいないのに立ちあがる。それどころか痛いくらい勃起した。

「ここ、硬くなったぞ」
「あっ、だめっ、ああんっ」

 前立腺をゴリゴリやられてあられもない声が出た。

「気持ち良くなってきたみたいだな」
「やあっ、あ、あんっ、だめ、動いちゃだめっ」
「気持ちいいんだろ。すごくエロい顔してるぞ」
「あはあっ、ああっ、あぁんっ、やだっ、おちんちん当てないでっ」
「お前の好きな俺のちんぽだぞ」
「大谷君のおちんぽ…好きぃ……! あっ……やぁあっ、だめっ、あっ、あはぁんっ」

 いつの間にか大谷君の腰の動きが大きくなっていた。ローションだけじゃないぬめりも感じる。

「そんなにしちゃやだ! あっ、あんっ、大谷君だめっ」
「お前のちんぽもガッチガチじゃねえか」

 大きな手が僕のペニスを軽く扱いた。

「いやあっ、しごいちゃだめぇっ! あぁあっ、出ちゃう、イッちゃうぅーっ!!」

 ビクビクッと体が震えた。ペニスからは勢いよく精液が飛び出した。

「いつもより早いんじゃないか?」
「はあ……はぁっ……きっと、大谷君が僕のなかにいるからだよ……」
「もうきつくねえのか?」
「うん……変なこと言うとね、大谷君を感じられて安心してる……ずっとこのまま繋がってたい」
「俺も。お前のなかは温かくて気持ちよくて、ずっとここにいたいよ」
「嬉しい。大谷君が好きな時にいつでもきて」
「お前も俺のちんぽが欲しくなったらいつでも言えよ。お前相手ならすぐ勃つから」
「じゃあ、もっと動いて欲しい。今度は大谷君が僕のなかでイッて。いっぱい中に出して」

 大谷君はふと真面目な顔つきになると「今でのイキそうになった」と呟いた。

「お前が俺と同じくらいスケベな奴で良かったよ」
「これからいっぱいエッチしようね」
「ああ。動くぞ」

 早くしても大丈夫だとわかると、大谷君は大胆に腰を動かした。パンパンと音を立てて僕にぶつけてくる。尻に当たる玉が痛いくらいだ。激しい出し入れにまた僕も勃起した。

「気持ちいいか?」
「いいっ……はあぁん、そんなに擦られたら…またイッちゃう……!」
「俺もそろそろイキそうだ」
「一緒に…ッ…中に出して! 大谷君の精子、僕にちょうだいっ!!」

 大谷君の動きが止まった。その直後ビュービューッと熱いものがたっぷりと僕の中に注がれた。念願のセックスと、生中出し。僕たちは正真正銘、恋人になった。





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勝手にやってろ(1/2)

2018.02.22.Thu.
<前話「やってられない」>

 鏡に映る自分を見つめる。小さい頃はよく女の子に間違えられた。オカマだなんだとからかわれるこの顔が嫌いだった。「かわいい」「きれい」を褒め言葉だと思って言ってくる人たちも嫌いだった。

 でも今は違う。そう言われると嬉しくなる相手ができた。体が大きくて顔も性格も男らしい大谷君。少し乱暴だけど僕は彼が大好きだ。

 以前は僕の容姿と頼りない性格のせいで大谷君からいじめられていた。恥ずかしくて屈辱的で嫌悪感しかなかったのに、大谷君の男らしさを見せつけられていたらいつの間にか羨望を抱くようになり、憧れが好意にかわっていった。

 汗と体臭の混じる逞しい体から発せられる熱は僕の体まで熱くした。僕の細い首なんて簡単に折ってしまいそうな大きな手で触られると甘美な感覚に包まれた。体どころか、僕の尊厳や命まで、すべてを大谷君の手に委ねてしまいたい、そんな思いを抱くようになった。

 大谷君のペニスを舐めろと言われた時は嫌だった。その大きさは僕と比較にならなくて、色も大きさも正直グロテスクだった。

 嫌々舐めた。臭いがきつかった。しょっぱい味も吐き気がした。咥えるよう言われてその通りにした。亀頭だけで口の中に隙間がなくなるくらいの大きさだった。

 辞書みたいな分厚い手で頭を押さえられ、咽喉の奥まで押し込まれた。嘔吐きながら頭を上下に動かした。驚いたことに大谷君のペニスはさらに太さと硬さを増した。血液が集中しているのが口の粘膜で感じ取れた。とても熱かった。これぞ男の象徴という雄々しさだった。

 精液の量も驚きの量だった。最初は口の外へ出して射精していたからその量を目の当たりにすることができた。僕が一飛ばしで終わるところを、大谷君は二度、三度と飛ばした。10ml、もしくはそれ以上あったかもしれない。

 何もかもが、僕以上。いや平均の男子高校生以上だと思う。

 腕っぷしも強かった。大谷君にいじめられている僕を、他の奴もいじめようとしてきたことがあった。大谷君はそいつを打った。太い腕が軽くしなっただけで、そいつの体は吹っ飛んでいった。思えばあれが、大谷君が僕を守ってくれた最初の出来事だった。

 大谷君に倣って僕をからかったりいじめようとしてくる奴は他にもいた。そのたび大谷君は暴力という方法で僕を守ってくれていた。あの頃はその圧倒的な力の差と、躊躇ない暴力に怯えるだけでそれに気付かなかった。

 いじめられている僕を大谷君から助けようとしてくれた奴もいた。そいつのおかげで僕は自分の本当の気持ちに気付き、大谷君の気持ちも知ることができた。僕たちは恋人同士になった。

 大谷君は今までの罪滅ぼしだととても優しくしてくれる。毎日とろけたような顔で僕を見つめては「かわいい」「好きだ」と言ってくれる。僕も同じようにとろけた顔で頷く。

 今まで僕にさせてきたことを、今度は自分がしてやるんだと、僕の体を愛撫する。

 僕を気持ち良くさせるために長い時間僕の体をまさぐる。射精まではいかない快楽を与えられ続ける。ソファみたいな大谷君の膝の上で僕は体をくねらせ、息を乱れさせ、物欲しそうに大谷君を見上げて、甘えた口調でイキたいと訴える。その時見せる大谷君の嬉しそうな顔が好きだ。

 肉食獣みたいな大谷君の大きな口に僕の小さなペニスが咥えこまれる。アイスキャンデーでも食べてるみたいに口のなかで転がされて僕は果ててしまう。もちろん大谷君は僕の精液を飲む。おいしいぞ、おかわりが欲しい、なんて言う。

 僕を傷つける言葉も、無理強いもない。ひたすら僕に優しく甘い。あの乱暴者の大谷君が。

「これからはお前の嫌がることは一切しない。お前を大事にして大切にする。俺の宝物だ」

 そう言って僕を抱きしめてくれる。壊れやすい陶器でも扱うかのような優しい手つきで。

 僕が大谷君のものをしゃぶろうとしても「お前はもうそんなことしなくていい」と言う。僕がやりたいのだと言ってやっとやらせてくれる。前は口に出されていた精液も今は必ず外へ出す。

「僕は平気だよ。ううん、飲みたい」
「いいんだ、舐めてくれるだけで。お前は本当に綺麗な人間だ。綺麗なお前にこんなもの飲ませられない。あんな酷いことをしてた自分が許せねえんだ」
「大谷君は僕のを飲んでくれるじゃない」
「お前のは小便も綺麗だからな。俺、お前の小便だったらほんとに飲めるぞ」

 なんて僕を赤面させることを言って。

 大事にしてくれるのは嬉しいけど、扱いがだんだんお姫様かなにかと同じになってきてる気がする。僕はそこまで綺麗でもなければ純情でもない。大谷君とキスしただけで勃起するし、家では大谷君を思って自慰だってする。なんだったら頭のなかそればっかりで、一日中だって大谷君とイチャイチャしていたい。

 鏡に映る僕は欲求不満の顔。自分でもぞっとするほど女の顔だ。だから最近電車で痴/漢される回数が増えたんだろうか。

 息を吐いた。熱い息だ。

 ※※※

 最近、昼休みは校舎裏の非常階段で過ごしている。付き合う前はクラスの中で辱めを受ける地獄の時間だった。大谷君に触られることは気持ちよくても、それを他のみんなに見られることは嫌だった。

 今は僕たち以外誰もいない。好きな時に大谷君に触れることができる。

 お弁当を広げる前に大谷君の太い首に腕をまわし、口に吸い付いた。柔道部の練習があるから大谷君と二人きりになれるチャンスは学校の休み時間しかない。

 大谷君の手が僕の背中にまわされる。熱くて少し汗ばんでいるのが制服のシャツ越しにもわかる。

 僕が口を開けば舌が入ってくる。大きい蛭みたいな舌だ。ヌルヌルと僕の中を動きまわる。口蓋をなぞられると体から力が抜ける。誘うような甘ったるい息遣いを漏らしながら、大谷君の股間に手を伸ばした。そこはもう硬く膨らんでいた。

 ベルトを外し、チャックをおろす。パンツのゴムを引っ張ったらブルンと亀頭が飛び出した。先端を捏ねるように撫でた。すぐ先走りが出てきて手の平が濡れた。滑りのよくなった手で竿を握り上下に扱いた。

「気持ちいい?」
「ああ、気持ちいいぞ」

 ちょっと目を伏せて、頬を上気させて、口を半開きにする。大谷君のこの表情が好きだ。もっとこの顔を見たいから頭を下げた。

「井上っ」
「やりたいの。僕にもさせて」

 先端の汁をペロッと舐める。最初は嫌で仕方がなかったのに、いまはもっと舐めたい。独特の味と臭気とのどに絡む感じが吐きそうだったのに、好きだと言う言葉以上に気持ちを伝えたくて飲んであげたいと思う。それ以上のことも──。僕は顔だけじゃなく、心まで女に近づいているのかもしれない。

 ぱくりと咥えた。あいかわらず大きい。ドクドク脈打つ血管は、大谷君も興奮している証。何度も触ってきた僕だからわかるが、まだ余裕がある。これからもっと太く逞しく成長するはずだ。

 涎を垂らしながら顎が外れるほどの大口を開けて大谷君のペニスを口で扱いた。溢れる我慢汁を啜ったらいやらしい音になった。僕もズボンの前が窮屈になる。

「井上、もういい。口をはなせ」

 もうすぐ出そうなのだろう。僕は首を横に振った。

「充分だ。もういいから。早く」

 嫌だ、とまた首をふる。

「いい加減にしろ、怒るぞ」

 そう言いながら困った声色だ。少し悪い気がしたが、また首を振った。

「井上っ……頼む、はなしてくれ……!」

 僕を引きはがそうと肩を掴まれた。僕を傷つけまいと加減する手では思い通りにはできない。僕はさらに深く咥えこんだ。咽喉の奥まで入り込んだ大きな存在感に目に涙が滲んだ。苦しくても僕の口の中でイッて欲しかった。

「ああ、井上っ、頼む……ああ、あ……だめだ、イッちまう、井上……!」

 ドクンと大きく脈打った。口のなかでペニスがのたうち嘔気がこみあげてきたが耐えた。咽喉の奥に熱いものが注がれる感覚があった。二度、三度、四度も吐きだした。

 少し萎んだペニスがズルリと口の中を動いた。隙間が空いて口で大きく息を吸った。精液の匂いがした。咽喉が粘ついた。久し振りの大谷君の精液。僕は大谷君の腰にしがみつき、体をブルッと震わせた。

「悪い、井上。どうして無茶をするんだ」
「無茶、なんかじゃ……ッ」
「泣いてるのか?」

 僕の声が震えているのを泣いていると勘違いして、焦った大谷君が僕の体を抱き起こした。心配そうに顔を覗きこんでくる。

「大谷君……僕、イッちゃった……」
「……え? 舐めただけで、か?」
「大谷君が僕の口でイッてくれたのが嬉しくて、大谷君の精液でイッちゃった」
「嘘だろ」
「ほんとだよ。確かめて」

 膝で立ち、ズボンをおろした。パンツにできる染み。大谷君は恐る恐るといった感じで僕のパンツを脱がした。ペニスの先端から糸を引いて精液が垂れる。それを見た大谷君は感極まった顔を弾きあげた。

「お前はなんてかわいいんだっ」

 そう言って四つん這いになると僕のペニスについた精液をベロベロと舐め始めた。くたりとしていたものが、その刺激でまた立ちあがった。

「今度は俺がしゃぶってイカせてやる」
「う、うん……」
「嫌なのか?」

 煮え切らない僕の返事に不安そうな顔をあげる。

「そうじゃなくて、僕もまた大谷君をイカせてあげたいの。僕だけはやだ」
「じゃあ扱いてくれるか」

 決して口でやれとは言わない。僕の望みもそっちじゃない。

「出して欲しいんだ……」
「?」

 意味がわからず大谷君は首を傾げた。

「僕の中に……僕のお尻の中に入れてイッてほしい」
「なっ!!!!」

 目がこぼれ落ちそうなほど見開いて大谷君は大声をあげた。

「なっ、なに言ってんだ! 俺はお前にそんなことはしないぞ!」
「僕たち付き合ってるんだよ? セックスしたい、僕を抱いてよ!」
「セッ……そんなことをお前が言うな! 汚れる!」
「僕は綺麗じゃない! ただの男だよ! 大谷君とエッチなこといっぱいしたい!!」
「それ以上言うな!」
「嫌だ! このおっきなおちんちん入れてよ! 僕を抱いて! 僕が好きじゃないの?!」
「好きに決まってるだろ!! 好きだからお前を大事にしてるのに、どうしてわからないんだ!」
「大谷君こそどうしてわかってくれないんだよ! 僕は大谷君のだったらしゃぶりたいし、精液だって飲みたい! 大谷君が言うなら大谷君のおしっ/こだって飲めるよ!」

 大谷君はハッと僕を見つめた。ワナワナと唇を震わせたあと、ギュッと目を閉じた。

「すまん、井上……俺のせいだな、俺が酷いことをしてきたせいで、そんなこと……」
「違うよ! 大谷君が好きだからだよ! どうしてわかってくれないの?!」
「お前こそなんで俺の気持ちがわかんねえんだよ! 俺はもうお前を傷つけることはしないって誓ったんだ!」

 大声で怒鳴ると大谷君は僕を押しのけ立ちあがった。

「どこ行くの?!」
「冷静になれ。俺も頭冷やしてくる」

 大谷君は僕に背を向けると非常階段からいなくなってしまった。




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続・嫁に来ないか(2/2)

2018.02.20.Tue.
<前話はこちら>

「びっくりさせてすみません。怖かったですよね?」

 部屋に入ると中田さんは俺の腕をはなした。すまなさそうな顔で俺に謝る。謝るくらいなら最初からこんな真似やめてくれ。

「とりあえず、なんで俺の家知ってんの」
「大澤さんが寝てる間に、浮気アプリってやつを仕込みました。それで大澤さんの現在地がわかるんです」

 水戸の印籠みたいに俺にスマホを見せながら悪びれもせず笑う。

「勝手にそんなもの入れるなよ! 犯罪だろ! すぐ消せ、いま消せ!」
「嫌です。浮気防止のためなんで」
「浮気ってあんたなあ……! 付き合ってもないだろ!」
「でもツバはつけました」

 と舌を出す。ツバってあれのことか。俺を犯したこと。

「あれだって犯罪だから!」
「でも良かったでしょ」
「良くねえよ」
「もう一回動画見ます?」
「バカ!! あれは!! クスリのせい!!!」

 女とセックスした時だってあれほど気持ちよかった経験はなかったかもしれない。あんなに何度もイッたことはなかった。意識が飛ぶほどの経験はなかった。噂には聞いていたがセックスドラッグの威力は恐ろしい。

「クスリね、あれ、嘘ですよ」

 上着を脱いで中田さんはソファに腰をおろした。長居する気かよ。

「嘘って、なにがどういう意味?」
「大澤さんにクスリなんて使ってませんって意味」
「嘘つけ。現にクスリの効果が……」
「思い出してください。あの日出した料理。体が温まる食材でした。酒も飲ませたし、エアコンの設定温度も僕が暑くなるくらいの温度にしました。体は熱いし、クスリを飲ませたって僕の言葉を聞いて暗示にかかっちゃったんですよ」
「暗示……って……そんな馬鹿な」
「馬鹿な話でも事実です。クスリなんかなくても大澤さんはよがりまくってたし、気持ちよくて変になりそうだって叫んで僕の背中を傷だらけにしたし、5回目にイッた時はアヘ顔で失神したんです。これは嘘偽りのない真実ですから」
「嘘だ!!」
「動画で確認しますか?」

 止める間もなく中田さんが操作したスマホから俺のいやらしい喘ぎ声と卑猥な音が部屋に響き渡った。

『や、だあぁっ……そんな……両方したらっ……あはあっ、また出ちゃ……も、やだ、こんなイッたこと、ない……!!』

 さっきとは違う動画だ。いったい何本撮ったんだ。 

 ぜつぼうだ。絶望に頭が真っ暗になって体から力が抜けていった。床にへたりこんだら中田さんが飛んできた。

「大丈夫ですか? 飲み過ぎですよ。水持ってきましょうか?」

 そうだ。こいつ、俺の行動を本当に監視してやがったんだ。浮気アプリなんてもん、勝手に入れて。

「──もしかして、俺のこと尾行したのって、今日が初めてじゃないんじゃ……?」
「あ、バレました? 心配だったから、何度か見に来てました」

 中田さんの唇の端がゆっくり左右につりあがった。俺が街中や地方ロケで見ていた幻は何割かは本物だったのか。

「なんで、こんなことすんの?」
「好きだからに決まってるじゃないですか」
「好きだからって……こんなことしていいと思ってんの?」
「駄目だってわかってます。でも自分で自分を止められないんです。大澤さんのこと初めからレ/イプするつもりなんかなかったし、アプリを勝手に入れるのも尾行するのも、悪いことだってわかってるのに止められなかったんです。だから僕を警察につきだしてください。檻に閉じ込められないと、僕の暴走は止まりません」

 それを証明するように中田さんは俺を床に押し倒した。

「早く警察を呼ばないと。また前みたいなことしますよ」

 そう言って顔を近づけてくる。顔を背けたら頬に、首に、キスされた。その感触には身に覚えがあった。あの夜の快感を一気に思い出して全身の毛穴が開いた。

「卑怯者! 警察なんかに言ったら、俺があんたに何されたか世界中が知ることになるじゃないか! そんなことできるわけだろ!」
「じゃあ、また僕に抱かれてくれるんですか?」
「どうせそれが目的できたくせに!」
「だったらまた暗示にかけましょうか?」
「ああ、ぜひそうしてくれ!」

 自棄になって叫んだ。開き直りだ。一度されたことを二度されたくらいなんだ。男相手という気持ち悪さは拭えないが、快感があったことも確かだ。これも遊びだ。セックスドラッグに酔って男とセックスする馬鹿なアイドルだと自分に言いきかせればいい。これがいつか芝居の糧になるなら本望だ。

「じゃあ、大澤さんに暗示をかけますね」

 中田さんに顎を掴まれた。正面を向かせられる。間近に中田さんの顔があった。真剣な目が俺を見据える。

「大澤さんは僕のことが好きなんですよ。あの日僕たちは両想いになったんです。大好きな僕に抱かれるのが嬉しくてたまらないでしょ?」

 最悪な冗談だ。まったく笑えない。

「そんな顔しないでください。二週間、僕に会えなくて寂しかったですか?」
「クスリ飲まされるほうがマシだ」
「機嫌直して。今からいっぱい愛してあげますから」
「ゲボ出そう」
「まずはここ、解さないと」

 いきなり尻の奥を指でぐっと押されて体が飛び跳ねた。

「まだ覚えてますか? 僕のがここを出たり入ったり、いっぱい中を擦ったこと」
「い、言うな」
「初めてだったのに熱くてトロトロに蕩けて僕もすごく気持ち良かった。何度出してもまた中に戻りたくてすぐ勃起しました。あんなに何回もイッたこと、僕も初めてです」

 喋りながら中田さんは俺のジーンズとパンツを脱がせた。直に絨毯の感触。ここですんのか。絨毯汚れるし体が痛そうだ。寝室に誘う? 俺がこいつを受け入れたみたいじゃないか。それは嫌だ。

「大澤さん、四つん這いになってください」

 いきなり体をもちあげられたと思ったらひっくり返された。着地と同時に四つん這いになっていた。尻を左右に引っ張られ、その奥に息を吹きかけられた。

「なにしてんの!!」
「ここ、すごくかわいい」

 意味のわからないことを言った中田さんは、その後しばらく無言だった。なぜなら俺のかわいいソコを犬のように舐め続けたからだ。俺は恥ずかしさのあまり叫んで泣いて、本当に吐きそうになりながら羞恥プレイに耐えることを強要された。



 背中に絨毯の毛が張り付く感触がする。汗をかいている。背中だけじゃなく、全身びっしょり。それは中田さんも同じだ。

 さっき俺のなかに出したあと「暑い」と言って服を脱ぎすてていた。二度目の余裕か、中田さんの鍛えられた肉体に気付く。俺はこの体に抱かれたのだ。

「あっあぁぁ、やだ、もう……そこやだ……っ」
「ここが気持ちいいでしょ」

 軽い口調で言って、中田さんは俺の奥にちんこをぶち当てて来る。丁寧に執拗にソコを舐め解されたから痛みはない。むしろ、舌と指では届かなかった場所を擦られてあっけなく射精してしまったくらいだ。

 当たり前みたいに快楽を受け入れて喘いでいる。

 まだ十代の、芸能界のげの字も知らなかった頃、俺にも好きな女の子がいた。同じクラスで見ているだけでドキドキした。言葉を交わした日は一日中幸せな気分でいられた。

 それがいつしか。先輩が連れて来た初対面の女の子とベッドインするような人間になってしまった。顔も名前も忘れた娘が何人いるだろう。芸能人という特別な存在と金の匂いに群がる女を使い捨てることに罪悪感すら感じなくなった。

 その報いだろうか。

 初対面の男に犯され、二週間の間ずっと行動を監視されて、また犯されている。

 嫌なら逃げればいいのにそれもしないで、好きでもない相手にむりやりされているのに、気持ちよくなって射精までしている。

 どこまで俺は汚れてしまったのか。この先どこまで堕ちるのか。

「はあっ、はぁ、中田さん……、あんた、俺のどこがいいの……?」

 この数年、誰かを真剣に好きになったことはない。誰かから真剣に好かれたこともない。

 中田さんはちょっと考える仕草を見せたあと「顔」と短く答えた。

「顔?」

 中身じゃないのかよ。

「やっぱり謝罪会見の印象が強いです。泣くのを堪える顔。怖くて逃げだしたいけど逃げられない絶望の顔。さっき俺を見たときの顔。気持ちいいのを素直に言えない今の顔。考えてることが手に取るようにわかる、大澤さんの顔が一番好きです」
「別に気持ち良くないし」
「本当に?」

 いたずらっぽい顔で中田さんは俺のちんこを握った。ゆっくり中を擦りながら手も動かす。

「あ……っ」
「これ好きですよね」
「好きじゃな……はッ、あ、ああ……っ」

 腰と手の動きがだんだん早くなる。リズミカルに突かれながらちんこを扱かれたら頭がおかしくなるくらい気持ちがいい。

「やっあっ、あっ、中田さんっ」
「なんですか」
「ああっ、あ、やだっ、ちんこ、止めてっ」
「気持ちいいのは僕のことが好きだからですよ」
「ちがっ、あっ、はあんっ、あ、あ、イクッ……!」
「かわいい。大澤さん、大好きですよ」
「やだっ、ああっ、あっ、イクッ、中田さん!」

 ガクガクと揺さぶられながら射精した。中田さんの動きは止まらない。中田さんがこの程度で止めてくれないと俺はわかっている。

「ちょっと……休憩したい……」

 ダメ元で言ってみたが「夜は短いですから」と優しい笑顔で却下された。俺はまた意識がなくなるまで中田さんに犯されるのかもしれない。咽喉が枯れるまで喘がされるのかもしれない。明日は幸いオフだ。酷いあり様を人に見せずに済む。

「待って、じゃあ、ここはやだ。ベッド連れてってよ。やっぱ体痛い

 中田さんは軽々俺を持ち上げた。恐ろしいことに中に入ったまま。いわゆる駅弁スタイルだ。重さでさらに奥深くまで突き刺さる。その存在感たるや。

「そんな色っぽい顔しないでくださいよ」
「してないし」
「連れて帰りたくなるじゃないですか」

 口調は冗談めいていたが、目はマジだ。前に嫁にこないかと言ってたけど、あれも本気だったのかもしれない。俺が農家の嫁? 男だから婿? 確かに土いじりはきつかったけど楽しいっちゃ楽しかった。意外に向いてるのか?

 いやいや。なに前向きに検討してるんだ。やっぱこの顔だ。中田さんの人の良さそうな顔。そんなに悪い人じゃないのかもと騙されてしまうんだ。

「芸能界で仕事なくなったら考えるわ」
「いつまでも待ちますよ」

 中田さんなら本当に待ってる気がする。俺の行動を監視しながら、ずっと。




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続・嫁に来ないか(1/2) 

2018.02.19.Mon.
<前話「嫁に来ないか」>

 中田さんにあんなことをされてから二週間。俺のなかであの出来事はトラウマになり、いまでもその後遺症に悩まされている。

 視界の端、街のあちこちで中田さんを見つけてしまうのだ。

 ほんとうはただ年齢と背格好が似てるだけの赤の他人なのに、一瞬本人登場かと思って焦ってしまう。中田さんがウォーリーなら俺は誰よりも早く見つけられるんじゃないだろうか。

 昨日も「アイドルの手も借りたい!」で地方ロケがあったが、そこでも中田さんの幻を見てしまった。忘れてしまいたいのに、行動を監視されているようで、もうノイローゼになりそうだ。

 そんな理由で出不精になりつつあった二週間の俺を心配して、共演がきっかけで仲良くなった芸人の城野さんが今日は食事に誘ってくれた。

「最近元気ないし誘っても断るし、どうしたん?」

 乾杯が終わったあと城野さんから柔らかい口調で訊かれた。あれをどう説明すればいいのだろうか。クスリ盛られて犯されたなんてことは口がさけても言えないから、そこのあたりはボカすしかない。

「ロケ先で会った素人さんが強烈な人で……こっち帰ってきてからも、なんかその人の幻を見ちゃうんですよね」
「へえー、女?」
「男ですよ」
「どう強烈やったん?」
「常識が通じないっていうか、話も通じないっていうか」
「なんかされたん?」
「いや! なにもされてはないですけど。なんか、理解できない人種だったなぁって」
「ヤッバイ人って世の中腐るほどおるからなぁ。そういう人ってこっちの世界の理をぜんぜん理解しようとせえへんし配慮もないから、相手するだけ疲れるよ」
「ほんとですよね」
「アイドルはイメージ大事やし、邪険にできんから大変やな。俺ら芸人は『アホんだら、どつきまわすぞ!』って言えるけど」

 城野さんはツッコミだからそういう悪態も世間に通じるが俺の場合そうはいかない。ただでさえメンバーの小東が未成年の時に大麻使用で世間を騒がせた過去があるのだ。これ以上悪いイメージは今後の芸能生活に関わる。

「あんま気にしいなや。強烈な奴に引っ張られたらこっちの精神まで参ってしまうで」
「そうですね」

 忘れることは不可能でも思い出さないようにすることは出来るはずだ。似た男を見るとビクついてしまうのは俺がいつも中田さんを思い出しているからに他ならない。思い出さないでいれば、群衆の中から中田さんに似た人物を見つけることもなくなるはず。

 その後、城田さんの後輩芸人も二人やってきて賑やかで楽しい食事会になった。日付がかわるころお開きになり、タクシーで自宅マンションに帰った。帰宅したときの癖で郵便受けを確認していたら「おかえりなさい」と声をかけられた。

「あ、どうも」

 マンションの住人だと思って振り返った。顔を見て心臓が止まりそうになった。足元がぐらりと揺れて、目の前に中田さんがいることが理解できなかった。

 これも幻なんだろうか。いつもは二度見したら消えていたり、他人の空似だとすぐ気付くのに、今日の幻は消えないし別人にもならない。

「ずいぶん遅いですね」

 しかも声までかけてきた。

「え……本物? なんで、どうして、ここに……?」
「今までなにをしてたんですか?」
「なにって、知り合いと飲んでただけ……っていうか、ほんとなんでここにいんの?!」

 夜中だってことも忘れて大声が出た。幻でないとしたら、どうして俺の家を知っているのか、そっちの恐怖でパニック寸前だ。

「なっ、なんで……! ここ、なんで知ってんだよぉ!」
「大きな声は近所迷惑じゃないですか。とりあえず部屋行きません?」

 と俺の腕を掴んでくる。俺は半狂乱でそれを振り払った。

「警察! 警察呼ぶから!!」
「その前にこれ」

 ポケットから中田さんが出したのはスマホ。操作して俺に画面を見せる。我が目を疑った。軽い眩暈がした。拒否する目の焦点をなんとか合わせてちゃんと確認した。裸の俺の写真。苦しそうに顔を歪め、口は半開き、胸には白い付着物も見える。精液だ。

 あの時の写真。あの夜の後半の出来事はほとんど記憶にない。執拗に責められて意識は飛びかかっていた。自分がなにを口走ったか、どんな乱れ方をしたかも覚えてない。写真を撮られたことすら理解していなかった。

「なんでそんなもの!」
「記念に残しておきたいと思って。あとこれ」

 また別の画像を見せられた。と思ったら動画だった。耳を塞ぎたくなるような卑猥な音声が辺りに響き渡った。

『あっ、ああぁ、あぁんっ、奥、当たって……ぁあんっ、あ、はああっ、やっ、やめ……またイクッ……中田さん、イカせて……!』

 男に揺さぶられながら喘ぐ俺の姿。考えるより先にスマホに飛びついていた。寸前でかわされた。中田さんを睨みつけた。

「……俺を脅しに来たのか?」
「まさか。やっと繋がった大澤さんとの縁を切りたくなかったんですよ」
「金蔓にして死ぬまで強請る気か!!」
「僕の収入で大澤さんを養いたいくらいなのに、そんなことしませんよ」
「じゃあ、なにしに来たんだよ」
「悪い虫がついてないか、心配で様子を見に来ました。城田さんとはいつから親しいんですか? 『お昼はごきげん』で共演してからですか?」

 城田さんの名前が出てきて血の気が引いた。

「あんた……俺のあと、つけてたのか……?」
「はい。とりあえず話は中でしませんか?」

 中田さんは人の良さそうな顔でにこりと笑った。笑顔が怖い。俺の家で待ち伏せされていたことも、俺の行動を監視していたことも、俺の人間関係まで把握していることも、全部が怖かった。

 反撃することも考えたが、体格は中田さんのほうが上。しかも向こうはなにを準備しているかわからない。上着のポケットにナイフが入っているかもしれないと思うと反撃の勇気はでなかった。

 逃げだそうかとも思った。でも移動はもっぱらタクシーの自分が、毎日農作業で鍛えている中田さんから逃げおおせるとは思えなかった。逃げることで中田さんを逆上させてしまうことも怖かった。

 2、3秒の間でいろいろ考えたが、中田さんに腕を掴まれ促されると逆らえなかった。一緒にエレベーターに乗り込み、自分の部屋へと招き入れてしまった。この優しい顔の悪魔を。




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