FC2ブログ

ひとでなし(2/2)

2017.09.08.Fri.
<前話はこちら>

 他の同僚たちにもさりげなくリストラの噂や人事部に知りあいはいないか、探りを入れてみた。みんな噂があることだけは知っていたが、人事部に伝手のある者はいなかった。

 営業から戻って来た伊能と目が合った。ニヤリと意味深に笑ってくる。舌打ちしながら目を逸らした。あいつのものを舐めるだって? 冗談じゃない。俺にだってプライドはある!

(その程度なんだ?)

 頭で伊能の声が俺を冷やかす。

(大事な妻子を守るためになんだってするって言ってたくせに、今更男のプライドにこだわるんだ?)

 うるさい、うるさい!

 家族は大事だが、それと同じくらいに大事なものもある! それを捨てるほどまだ俺は落ちぶれちゃいない!

 気を取られる事が多すぎて仕事効率が下がる。タイプミスも増えていつもより余計に時間がかかった。

 みんなが昼休憩に出る頃になってもまだ書類仕事に追われていた。

 机に置いていたスマホが振動した。嫁からだ。この忙しいときに! と咄嗟にイラついたが、それは間違いだと思い直してスマホを取った。

「はい」
『あっ、いま電話して大丈夫?』
「大丈夫。昼休憩だから。どうかした?」
『さっきお義母さんから電話があってね、お義父さん、入院してるらしいの』
「えっ、入院?!」
『一昨日、出かけた時に段差で転んで、その時に足首を骨折したんですって。もう手術も終わってるし、心配はないけど、一応報告しとくって。私だけでも先にお見舞いに行こうかと思ってるんだけど。孫の顔見たら喜んでくれるかもしれないし』
「それはありがたいけど……いいの?」

 近い方とは言え、電車を乗り継いで一時間はかかる距離だ。まだ幼い娘と一緒に行くのは大変だ。

『私は大丈夫。お見舞いに何か買って行くわ。お義父さん、果物好きだった?』
「好きだけど。あっ、メロンは嫌い」
『わかった。それは避けて選ぶ』
「俺も今度の休みに行くって言っといて」

 嫁の電話を切ったあと、母親の携帯電話へかけてみた。嫁から聞いたのと変わらない話を聞いたあと、

『転んだくらいで骨折するなんて、お父さんも年よねぇ』

 と母がしみじみ言った。

『年寄りの骨折って怖いらしいわ。動けなくなって家を出なくなるからボケの第一歩なんですって』
「まだそんな年じゃないだろ」
『あら、私もお父さんも、もうそんな年よ』

 このあと嫁が見舞いに行く予定だということと、俺も次の休みに顔を見せることを伝えて電話を切った。

 確かに二人とももう若くはないのだ。ボケの第一歩、という母親の言葉が頭から離れない。まだ現役で働いているが、今回の骨折で仕事はしばらく休むそうだ。年だから治りも遅いだろう。完全に痛みがなくなるまでの完治も難しいかもしれない。

 いま父や母に倒れられたら……。想像するだに恐ろしい。

 やはり今俺がリストラされるわけにはいかないのだ。なんとしてでも阻止せねばならない。

 俺がたった一度の屈辱を耐えれば今の生活は守れるかもしれない。男のプライドなんてものにこだわっている猶予はないのだ。

 責任感が俺を突き動かした。パソコンを閉じて席を立った。

 まるでそれを待っていたようなタイミングで、休憩に出かけたはずの伊能が戻って来た。顔を見たら足がすくんだ。

「コンビニで弁当買って来てやったぞ」

 今朝のことなんかなかったみたいな顔で悠然とこちらへ歩み寄ってくる。俺が残業していたらよくこうして差し入れしてくれた。そんな男があんなことを言いだすなんて、信じがたいしショックだった。

「今朝のことだけど」
「……ああ。気がかわった?」

 伊能は隣の机に腰を下ろし、コンビニの袋を俺の机へ置いた。

「冗談じゃないのか? 本気で俺に……させたいのか?」
「お前がしたいかどうかだよ。俺は別にどっちだっていい」
「したくなんかない! でもそれしか方法がないなら、やる」
「やる?」
「ああ。やる」

 俺の顔をじっと見つめたあと、伊能は歯を見せずにニヤリと笑った。

「こんなことさっさと終わらせたい。トイレでいいか?」
「いま?」
「いま」

 伊能は無言で腰をあげた。そのまま男子トイレへと向かった。俺もそのあとに続いた。



 昼休憩とあって、男子トイレには誰もいなかった。ちょうどいい。しかしいつ誰が来るかわからないので二人で奥の個室へ入った。

 鍵をかけ、伊能と向き合う。

「本気か、斉藤」
「早く出せよ」

 伊能の足を蹴ってやった。伊能は小さく息を吐いてから今朝と同じようにベルトを外し、ズボンのチャックを下げた。

「家族のためにここまでするか。一家の大黒柱ってのは大変なんだな」
「黙れ。ブツブツうるさいぞ」
「噛むなよ。上手に頼むぜ」

 言いながら伊能はものを外へ出した。さすがに緊張しているのか縮こまっている。これを俺は今から舐めるわけだ。

 深く考えたら出来なくなる。頭を空っぽにして、淡々とこなしたほうがいい。

「俺の靴の上に膝を乗せるといい」

 しゃがむ俺に伊能が言う。その通りにしたら、目の前に伊能の股間があった。直視出来ず、目を逸らしてしまう。

「やめるなら今だぞ」
「島さんを紹介してくれるのか?」
「お前の年ならまた再就職できる」
「地獄に落ちろ」

 覚悟を決めて伊能のものを掴んだ。当たり前だが温かい。そしてまだ柔らかい。嫌悪感から心がくじけそうになる。伊能の言う通り、ここまでしてこの会社にこだわる必要があるだろうか。再就職して給料が上がる可能性だってある。自分に合った仕事が見つかる可能性だって。

 逃げる口実が次々浮かぶ。全部低い可能性だ。社会はそんなに甘くない。

 逆にこれを乗り切ればもう怖いものはない。なんだって出来る気がする。別人になってバリバリ働いて営業成績を伸ばし、こいつを抜かして鼻を明かしてやることだって……!!

 怒りをやる気にかえて口を開いた。唇に伊能のちんこが触れる。ぷにっとしていて、つるんとした肌触りだ。ゆっくりそれを口の奥へと招き入れた。

 初めてくわえた男根。それ自体は無味無臭と言っていいが、午前中外回りに出ていた伊能からは汗と体臭の混ざりあった匂いがする。目の前の陰毛も不快だ。

 先端を軽く舐めてみた。ピクリとカサが動いた。広げた舌で亀頭全体を舐めた。口の中の伊能がじわじわと体積を増やしていく。掴んでいる陰茎も硬く太くなっていく。はっきり脈動を感じるほどの血管も浮きだした。

「ヘタクソ」

 全神経を口に集中させていたので、突如降ってわいた声に驚いて目をあげた。首を前に傾けた伊能と目が合う。

「飴玉じゃないんだ。しっかりしゃぶってくれよ」

 跪いて男のペニスをしゃぶっている俺と、それを見下ろしている伊能。力関係のはっきりした構図に、全身火がついたような羞恥を自覚した。

 やっぱりやめておけばよかったと後悔してももう遅い。嫁がフェラの最中よく休んでいたが、その理由を理解できるほどの大口をあけて、俺は伊能のペニスを頬張っている。ここまでやったことを無駄にするなら、リストラ回避のため恥を捨てるほうがマシだ。

 心を殺して伊能のちんこに舌を這わせた。口腔内の粘膜全てで包みこんで顔を前後にゆすった。

「お上手」

 愉しげな伊能の声。からかうような指先がこめかみの髪を持て遊んでいる。

 鼻呼吸だけでは辛くなり、一旦口から離した。

「お前……男遊びもしてるのか?」

 口元の唾液を拭いながら伊能に訊いた。

「俺が節操無しなのはお前も知ってるだろ。結構前からお前を狙ってたんだ。いつかこういうチャンスが巡ってこないかってな」
「お前は人間の屑だな」
「屑だから、こういう楽しみ方しか知らないんだよ」

 ギリリと睨みつけると伊能は腕時計を指で叩いた。

「あと10分で休憩が終わるぞ。それまでに俺をイカせてくれなきゃこの話はナシ」

 10分?! 無駄話なんてしている暇はない。再び伊能のちんこを咥えた。一度目の抵抗感が薄れている。人間危機に陥ると日頃の感覚が麻痺するのだろう。頭の中は伊能を早くイカせることだけになる。

 単調に前後に揺すっていたのに角度をつけてみたり、急かすように先端を吸ったり、鈴口に舌先を突っ込んだりした。ビキビキに勃起した陰茎も当然扱いた。手の平がじっとり湿るほど熱くなっている。なのになかなか伊能はイカない。

 まさか最初から時間切れを狙っているのかと思った頃、

「出すぞ」

 と頭を押さえられた。逃げる間もなく口腔内に発射された。ドロリと生温かいものが口の奥へ吐きだされる。反射的に吐きだそうとした。舌の先で味わってしまい、あまりのまずさに嘔吐いた。

 それを察知した伊能が咄嗟に腰を引いた。まだ射精途中だった伊能のペニスから白い液体が俺の顔めがけて飛んでくる。よける暇はなく、便座の蓋を開けて顔を突っ込んだ。

 ウゲエッと呻きながら伊能の精液を吐きだす。終わった途端殺していた嫌悪感が蘇り、胃が震えた。出る、と思った時にはもう胃の中のものも吐きだしていた。朝食も昼食も抜いたから消化済みの液体が便器に溜まる。

 手探りで水を流すレバーを探していたら、それに気付いた伊能が水を流した。

「ほら」

 と目の前にトイレットペーパーが差しだされる。それを受け取り口元と、顔についた伊能の精液を拭った。今はどんな皮肉も慰めも聞きたくない。伊能が黙って個室を出て行ってくれたことは唯一の救いだ。

 感じたことのない疲労感があった。喪失感もあった。心とプライドをズタズタにされた。自分が決めたこととは言え、喪ったものは大きかった。

 一度深呼吸してから俺も個室を出た。伊能は鏡を見ながら前髪を整えていた。隣に立って水道で手を洗い、口をゆすいだ。伊能の精液の味がのどにこびりついている。一日二日では消えそうにない。

「約束は守る」

 顔を洗っていたら伊能の声が聞こえた。当たり前だ。ここまでやって約束を反故にされたらたまらない。

「今夜、島さんに会わせる」

 俺の肩をポンと叩くと伊能はトイレを出て行った。

 曲げていた腰を伸ばした。ポタポタと顔から滴が落ちる。ワイシャツが濡れて行く。

 俺はなんてことをしてしまったんだろう。






【続きを読む】
関連記事
スポンサーサイト
[PR]

ひとでなし(1/2)

2017.09.07.Thu.
※嘔吐注意。挿入なし。相思相愛じゃない。

 昨夜、同僚の伊能と一緒に飲んだ。その時、俺がリストラの対象になっているという噂があると教えてもらった。人事部に伊能の大学時代の先輩がいて、その人から仕入れた情報らしい。

 冗談じゃない。今年家を買ったばかりだ。まだ35年もローンが残っている。一昨年子供を産んだばかりの嫁はまだ育休中。小学校に入るまでは専業希望で、俺もそれに賛成した。リストラされたから働いてくれなんて情けなくて言えない。

 おかげで昨夜は一睡もできなかった。嫁からエッチのお誘いがあったがそんな気分になれなくて、明日朝が早いからと断った。

 眠れないまま朝を迎え、いつもより一時間早く家を出た。新築の家。小さいながらも庭がある。嫁は子供が大きくなったら犬を飼いたいと言っていた。自分で作った犬小屋を庭の隅に置きたいのだそうだ。

 微笑ましく思って聞いていた。事と次第によってはこの家を手放さなくてはならなくなる。

 嫌だ。やっと手に入れたマイホーム。料理上手で優しい嫁。嫁に似て可愛い娘。もしかしたら全て俺の手から離れてしまうかもしれないのだ。嫌だ。絶対嫌だ。どうしてリストラされるのが俺なんだ。

 家を出てすぐ伊能に電話をした。

『もしもし?』
「俺、斉藤」
『どした? こんな朝早く。なんかあった?』
「話があるんだけど」
『ああ……昨日のこと? 気にするなよ。まだ決定じゃなくて、候補の段階らしいから』
「俺の営業成績お前も知ってるだろう」
『お前ならやれる。大丈夫だよ』
「俺は誰かさんみたいに社長賞もらうほど優秀じゃないんだよ。気休めはよせ」
『それもそうか。話って、今日?』
「今からは無理か?」
『起きたばっかだぞ』
「そっちに行くから」

 電話の向こうで伊能はため息をついた。

『わかった。俺の家は知ってるな?』

 何度か伊能の家で飲んだことがあるので知っていた。電話を切ったあと、電車に乗って伊能の家へ向かった。



 インターフォンを鳴らすとすでにワイシャツにネクタイを締めた伊能が扉を開けた。

「ひでえ顔」
「一睡もできなかった」
「だよな」

 ワンルームの部屋はいつ来ても整理整頓されててきれいだ。今朝も急な訪問だったのにベッドの布団さえ乱れていない。

「コーヒー飲む?」

 伊能は料理が得意だ。俺はコーヒーだって淹れたことがないのに。

「時間がないから本題に入るけど。人事部の先輩って人を俺に紹介して欲しい」
「島さんに?」
「家を買って、子供も生まれたばかりなんだ。いまリストラされるのは困る。嫁と子供に苦労をかけるわけにはいかない。だからどうしてもリストラだけは勘弁してもらいたいんだ」
「直談判する気か?」
「他に方法が思いつかない」
「逆効果になんねえか?」
「じゃあどうしろっていうんだよ?!」

 思わず声を荒げた俺に伊能はコーヒーを差し出した。いい匂いがするが、今は悠長にこんなものを飲んでる場合じゃない。

「ま、落ち着けよ。まだ決定じゃないんだし」
「お前は優秀だからいいよ。必要とされてる人材だからそんな余裕ぶっこいてられるんだ。俺の身にもなってみろ。家族もいるから必死だよ。独身者のお前にはわかんないだろうけど」
「確かに俺にはわからんよ」

 ベッドに腰をおろし、伊能は足を組んだ。長い足が俺の目の前で交差される。

 受付の女の子が伊能には可愛い声色で挨拶してるの知っている。他の女子社員だって、伊能には色目使ってるの、男性社員はみんな知ってるんだからな。キャビンアテンダントの彼女が仕事で海外飛びまわってるのをいいことに、とっかえひっかえ女の子を食っちゃってることも、みんなが知ってるんだからな! お前なんかパイロットに彼女寝取られちまえばいいんだ。いやとっくに寝取られてるに違いない。そうであってくれ。でなきゃ不公平だ。

「今の会社にこだわる意味もわからんし」
「俺には守るべきものがあるんだよ! だからなんだってやる! 島って人に土下座だってするし、舐めろと言われれば足の裏だって舐めるさ!」
「へえ、そこまでやる?」

 伊能は眉を持ち上げた。持ってたコーヒーカップをテーブルに置いて、床を指さした。

「じゃ、島さんを紹介してくださいって、俺にも土下座しろよ」
「なっ?!」

 伊能の言葉に絶句する。土下座しろだって?!

「愛する妻子を守るためなら、なんでもすんだろ? 嘘だったのかよ」
「嘘じゃないけど……! あれは、言葉のあやって言うか……それに、お前は島さんじゃないだろ!」
「お前の本気を確かめたかったんだ。やっぱその程度じゃん」

 せせら笑う伊能に頭の血管が切れそうになった。こいつのことは友人だと思っていた。営業成績に雲泥の差があっても、お互い切磋琢磨しあえるいい関係だと。まさか溺れそうな犬を足蹴にするような奴だったとは思いもしなかった。

 会社から切られる俺は、こいつにとってはもう仲良くする必要のない、まったく利用価値のなくなったゴミのような存在なんだろう。だからこんな非道な真似ができるんだ。

「……そんな奴だったなんて、知らなかった」
「性格のいい奴が営業トップなんて取れるわけないじゃん。で、どうする? 土下座する? 可愛い嫁と娘ちゃんのためならなんでもできるんじゃなかったっけ?」

 こんな奴に頭なんか下げたくない。でも島さんと繋がりのある知り合いはこいつしか知らない。

「本当に紹介してくれるって約束するか?」
「約束は守るよ。信用のない営業マンは営業失格だからな」

 新人の頃、伊能とペアを組んで営業周りをしたことがあった。なんとか新規の客を掴もうと必死にかけずりまわった。飛び込んだとある会社。先方から無茶な条件を出された。断るための条件だった。引きさがろうとした俺に対し、何か考えこんだ伊能は別の条件を出した。先方にとって悪くない条件。こちらにとって少し損は出るが長期的に見ると利益を出す条件。咄嗟に思いついた伊能は流石だった。でもその条件を通すには上司の確認と承認が必要だった。

 その条件なら契約するという言質を取ると、伊能はすぐ社に戻って上司にかけあった。一旦は断られたが、トイレまで追いかけ回して説得し、契約書類に上司の判子をもらった。

「必ずこの条件で通すと約束しましたからね」

 伊能は先方の担当に笑って言った。新人と思えない自信たっぷりな笑顔だった。それを見た相手から「ずっと君が担当で頼むよ」と言われるほどだった。その間俺は横で相槌を打っていただけだった。

 伊能は約束は守る男だ。それは俺が約束出来る。

 唇を噛みしめた。膝を折り、床に正座した。伊能を見据えながらゆっくり頭をさげた。伊能は愉快そうにそんな俺を見下ろしている。こいつはもう友人でもライバルでもない。まったくの赤の他人だ。リストラ問題が片付いたら空気みたいに無視してやる。

「これでいいか?」
「ほんとにやりやがった。そんなに嫁と子供が大事か?」
「当たり前だろ! 彼女がいながら遊びまくってるお前にはわからないだろうけどな!」
「……まあね」
「じゃあ、島さんを紹介してくれるんだな?」
「マイホームと大事な家族、土下座ひとつじゃ安すぎないか?」
「何度土下座すればいいんだよ!?」
「土下座よりして欲しいことがあるんだけどな」
「なんだ?」
「これ、舐めてよ」

 立ちあがった伊能がベルトを外し、ズボンのチャックを下ろした。俺は思考停止した頭で茫然とそれを見つめていた。

 ぼろんと零れ出たのは俺の股間にぶら下がっているものと同じもの。ペニス。ちんこ。陰茎。ちんちん。マラ。息子。呼び名は色々あるが、排泄機能のある生殖器官だ。それを伊能は俺の眼前に晒して、あまつさえブンブンと上下に振っているのだ。

「舐め……なっ……なにを……お前、なにを言って……え、え……」

 混乱状態で言葉が出て来ない。状況が理解できない。俺も伊能も当然男だ。俺も伊能もホモじゃない。ノンケの男がちんこをしゃぶらされるなんて屈辱以外のなにものでもない。いくら伊能の正体が冷酷非道なひとでなしだったとしても、こんなことを俺にさせるほどだったとは想像もしていなかった。第一伊能にとっても得にならないはずだ。

「ほん、本気か?!」
「もちろん本気。ほら、舐めろよ」
「そんなことできるわけないだろ!!」

 引っぱたいてやろうと腕を振ったが、当たる前に伊能はものをひっこめた。

「じゃ島さんには紹介してやんないぞ」
「それで構わない! そこまでしてお前に頼る気はない! 見損なったぞ、伊能!!」
「見損なわれるほど、俺ってお前の中でいい奴だった?」
「ああ、頼りがいのあるいい友達だと思ってたよ。今朝までな!」
「あはは、見る目なさすぎ。お前、営業向いてないよ」
「うるさい! くたばれ!!」

 どかどか足を踏み鳴らして玄関へと向かう。靴を履く俺の耳に「気がかわったらいつでも声かけろよ。ちんこ洗って待ってっから」と伊能の声が聞こえた。

 何か言い返す気にもなれず、乱暴に扉を閉めて部屋を出た。






関連記事

ほんとにあったら怖い話(2/2)

2017.09.02.Sat.
(前話はこちら)

 隣の和室へ移動して俺たちは抱き合った。キスしながら隙間なく密着する。俺の太ももの間に父さんの勃起したままのちんこが差し込まれ、俺もまた勃起した。

 それに気付いた父さんがちんこを二本握って扱いた。

「ああっ、あんっ、あぁんっ」
「気持ちいいかい?」
「気持ちいいっ、ああん、父さんのちんぽ、熱くて硬くて気持ちいいっ」
「ここへ入れてもいい?」

 父さんの指が俺の肛門をつんつんする。一瞬身がすくんだが、父さんに貫かれる自分を想像したらそれだけで幸せな気分になった。

「いいよ、俺も父さんのちんこ入れて欲しいっ!」
「うつぶせになって、腰をあげてくれるかい?」

 言われた通り、尻を父さんのほうへ向けた。何から何まで父さんに丸見えだ。穴の周辺を指でくるくると撫でられた。

「恥ずかしいよ!」
「痛くしないから大丈夫だよ」

 今度は生温かい舌でそこをピチャピチャと舐め始めた。

「ああっ、うそ、父さん……! そんなとこ、汚いっ」
「汚くなんかないよ。かわいらしい」

 慌てる俺の腰をしっかりつかんで、父さんは犬みたいに何度も何度も舐めてそこを唾液だらけにした。死ぬほど恥ずかしいと思うのに、俺のちんこはビンビンに勃起して、先っぽからは我慢汁がダラダラと溢れてきた。

「やだぁ……あぁんっ、父さんっ……変になっちゃうよぉ……!」
「どんなに乱れた明宏も、僕は大好きだよ」
「いやっ、あっ、ああっ」

 周囲を舐めていた舌がツプッと中へと入ってきた。狭い入り口をこじ開けて、伸ばせるだけ奥へと入ってくる。そして中の隅々まで舐め回した。

「ああっ、やっ、そんなとこ……やだぁ……父さん、もう抜いてっ」
「明宏のここ、すごく濡れてきたよ」
「やだっ、そんなこと言わないでよ!」
「男でも濡れるんだよ。明宏は素質があるみたいだね。グチョグチョになってきた」

 舌のかわりに父さんは指をいれてきた。長い指は舌じゃ無理だった場所まで届いて、体の中に父さんが入り込んでいるとしっかり自覚できるほどだった。

 指でこれなら、父さんのちんぽが入ったら……。想像しただけで体が震えた。

 父さんは念入りに中を解した。おかしな感覚になる場所は前立腺だと教えてくれた。そこをいじられるとビクンビクンと腰が跳ねあがって声を抑えられなかった。自分が自分じゃなくなるような感覚。淫らな格好で、女みたいに喘いで、ついには「早く入れて!」と叫んでいた。

「ねえ、早く……もう入れてよぉっ……父さんのちんぽ入れてってば!」
「わかったから、そんなに焦らないで」

 指が抜かれ、かわりにあてがわれたのはその何倍も太さのあるもの。父さんは自分の先走りを俺の肛門になすりつけた。ネチョネチョと音がする。

「いい? いまから入れるよ?」
「早く……!!」

 ゆっくり先端が押し込まれる。

「わかる? 僕のものが明宏のなかに入っていくよ」

 話しかけながら父さんは腰を押し進め、じわじわと時間をかけて僕の中に入って来た。尻に父さんの腹がぶつかり、全部入ったことがわかった。無意識に止めていた息を吐きだし、俺は深呼吸した。

「ありがとう、明宏。僕のを全部、飲みこんでくれたね。嬉しいよ」
「俺も嬉しい……父さんのちんぽ、すごく感じる……これで俺たち、本当の親子だよね」
「ああ。血は繋がっていなくても、身も心も繋がった正真正銘の親子だよ」
「父さん、俺のなかでイッて」
「かわいい明宏。愛しているよ」

 父さんのビキビキに勃起したちんこが俺の中を何度も何度も突きあげた。

 異物感があったのは最初だけで、前立腺をゴリゴリと擦られる度たび俺のちんこの先からは我慢汁が溢れ出した。ガンガン奥を打たれる動きに合わせてブルンブルンとちんこが揺れる。シーツにこすれる刺激も手つだって、触らなくてもイッてしまいそうになる。

「はぁ! あっ、あっ! あんっ! あぁん!! 父さん、止めてっ! ちんぽ止めてっ!」
「どうしたんだい?」
「あぁっ、イッちゃうっ、あっ、やぁっ、ちんぽズボズボされるの、気持ちよくてイッちゃうから! 止めて!!」
「もうイッちゃうの? 若い証拠だね」

 促すように父さんは俺のちんこを握るとコスコスと上下に扱いた。

「ああぁ!! だめってばっ! ほんとにイッちゃうっ、あっあっ、やだっ、ああっ、あぁああんっ!!」

 二回目だというのにビュルルルッと勢いよく精液が飛び出した。俺ばかりがイカされている。父さんは気持ちよくないのだろうかと不安になって振り返って見た。

 父さんの全身から男の色気がムンムンと立ちこめている。男というより、雄という匂いがする。胸がキュンとした。

「良かったかい?」
「父さんは良くない?」
「凄く気持ちいいよ。明宏のなかトロトロに仕上がってる。僕もこのなかに出していいかな? 実はさっきからずっと我慢してるんだ」
「俺のこと好き?」
「好きだよ」
「母さんより?」
「ああ。母さんよりも誰よりも、明宏を愛してる」
「じゃあ、父さんの精液、俺の中にいっぱい頂戴。俺を父さんの女にして」
「明宏はもう僕の恋人だよ」

 父さんは一旦ちんこを抜くと俺を仰向けにして再度挿入した。顔を見ながらの正常位の挿入は格別だった。

「俺また立っちゃうかも」
「何度でもイケばいいさ」

 父さんがキスをしてくれる。舌を絡ませながら父さんのちんこが俺の中を動く。

 しばらくして、父さんは俺の中で果てた。



 翌日の昼前に旅館を出た。父さんの車で家へと向かう。

「まだ時間もあるし、どこか遊びに行こうか?」

 父さんの提案に曖昧に頷き返す。今はとにかく二人きりでいたい。さっき通りすがりに見えたラブホテル。あそこだっていい。いや、ああいう場所がいい。

 昨日はほとんど一日中裸で過ごした。さすがに射精に至るようなセックスは疲れるから、肌と肌を密着させ、お互いの体を触ったり、キスしたり、イチャイチャしてばかりいた。

 今日もずっとそんなことをしていたい。

「コンビニがあるけど、寄るかい?」

 少し先にコンビニの看板が見えた。

「俺、あそこと同じ系列のコンビニでバイトしてたことある。母さんが父さんと再婚する前」
「知ってるよ」
「話したっけ?」
「母さんから君の話はよく聞いていたからね。自慢の息子だって」
「店長が嫌な奴で辞めちゃったんだよね」
「そうだったんだ。そんな店、辞めて正解だよ」

 コンビニにもどこにも寄らず、まっすぐ家に帰ることにした。助手席から父さんの太ももに手を乗せた俺の意図を父さんもわかってくれたらしい。父さんは俺の手を自分の股間へ導いた。布の下にある肉の塊。それを触っていやらしい気持ちになる日がくるなんて思いもしなかった。

 家のガレージに車を止め、トランクから荷物を出していたら近所のおばさんが声をかけてきた。

「あら、こんにちは。おでかけだったの?」
「ええ。たまには息抜きでもと思って温泉に」

 父さんが穏やかに笑いながら答える。

「まあいいわね。奥さんは? お留守番?」

 父さんはチラッと俺の方を見た。

「妻は体調を崩して前から実家のほうで静養中なんです」
「そうだったの? 私何も知らなくて。大変ね。じゃあ今はお二人で?」
「ええ。男二人ですけど、なんとかやれてます」

 感心感心とでもいうようにおばさんは頷いた。

「そういえば、田舎暮らし始めたっていうご両親はお元気?」

 えっ、と父さんを見上げる。父さんの両親はすでに亡くなっているはずじゃ?

「実は……」

 父さんは難しい顔で目を伏せた。

「田舎暮らしを初めてすぐの頃、車の事故で二人とも……。本当はお知らせしなきゃいけなかったんですが、突然のことで僕も心の整理がつかなくて」
「まあまあ!! そうだったの?! それはそれは……お気の毒ねえ。お葬式はどうなさったの?」
「田舎のほうで身内だけで……報告が今頃になってしまって申し訳ありません」

 父さんが頭をさげるとおばさんは顔の前で手をブンブン振った。

「そんな! 私こそ色々聞いちゃってごめんなさいね! 辛いこと思い出させちゃって! 奥さんもご病気だったなんて……ねえ……。お父さんを支えてあげてね」

 最後は俺に向かって言われたので、「はい」と頷いておいた。

 それでは、と父さんに背中を押されて家の中に入った。

「あの人話好きな人だから、色々聞かれちゃったね。母さんのこと、嘘ついてごめんね」
「いいよ。好きな男ができて出て行ったなんて恥ずかしくて言えないよ」
「母さんがいなくて寂しいかい?」
「父さんがいてくれるからそれでいい。ぶっちゃけ、今は母さんに帰ってきてほしくないかも」

 笑いながら父さんに抱きついてキスする。

「こんなとこ、見せらんないし」
「そうだね。僕も母さんより明宏のことを愛しているから、いま帰って来られても困るな」

 父さんの手が俺の尻を鷲掴む。その指先が奥の穴を探り当てる。

「そんなに俺が好き?」

 そう問いかける俺はすっかり雌の顔つきだ。見なくてもわかる。

「ああ。好きだよ。明宏だけが、ずっとずっと好きだった。初めて見た時から、ね」

 口を塞がれ舌を差し込まれる。のどの奥まで舐めつくすような激しいキスに呼吸が苦しくなる。喘ぐ俺の服を父さんが脱がせていく。

 きっと今日もどこにも行かずにセックスばかりしているだろう。盛りのついた猿みたいに。明日も明後日も、ずっと二人だけで。

 ※※※

 寝室まで待てずに、玄関に近い和室を明宏はセックスの場所に選んだ。もうすっかりセックスの虜だ。さっきのご近所さんがまだ外にいたら、明宏のはしたない声を聞かれてしまうかもしれない。

 両親のことを訊かれた時は少し焦った。しかしすぐ、明宏に聞かせていた話と繋げた新しい嘘を思いついた。

 30代に入ったあたりから、結婚はまだかと急かしてきた僕の両親。自分が男しか好きになれないと言ってみたら酷い剣幕で父は怒り、母はノイローゼになったと精神科へ通うようになった。

 あなたのせいで眠れなくなったと嫌味を言いながら僕の目の前で睡眠薬を飲む母を見て吹っ切れた。

 二人の食事に睡眠薬を入れ、ぐっすり熟睡している二人を手にかけた。二人の遺体は父の実家があった田舎へ運び、父所有の山林へ埋めた。帰りの山道、父の車を崖から落としておいた。その車が発見されるまでに三年かかった。遺体は動物に食われたか、事故直後まだ生きていた二人がどこかへ移動し、そこで力尽きたのだろうと判断された。

 本当の居場所には二人が欲しがっていた僕の妻も眠っている。

 彼女には申し訳ないことをした。明宏を手に入れるために彼女を利用してしまった。

 明宏を初めて見たのはたまたま入ったコンビニでだった。かわいい子が働いているなと気になって何度か通った。仕事終わりを待って尾行もした。彼が母子家庭であることを知り、ある計画が閃いた。

 彼の母親に近づき、結婚までこぎつけた。

 養子縁組を迫った時、彼女はそれを拒んだ。お金目当てだと思われたくないだとか言っていたが、彼女の慎ましさはただ鬱陶しいだけだった。僕はただ戸籍上でも明宏と結ばれたかっただけなのに。

 もしかしたらその頃から女の勘が働いていたのかもしれない。結婚数ヶ月後、彼女から「あなた、本当に私が好きで結婚したの? もしかして……」と最後言葉を濁した彼女の唇は次に「あ」という声を発しようとしていた。明宏の「あ」。

『もしかして、明宏目当てだったの?』

 彼女の心の声が聞こえた気がして、面倒なことになる前に口を塞いだ。

 彼女を手にかけた場所は偶然にも、いま明宏を抱いているこの和室だ。母親を奪ったことは申し訳ない。一生をかけて明宏には償いをしよう。母親とろくでもない男だったという実の父親、祖父母、彼らの分まで僕が明宏を愛そう。

「ああっ、あんっ、気持ちいいっ、父さんのちんぽ、気持ちいいっ!!」
「出すよ、明宏の中に」
「イッて! 俺のなか、父さんの精液でいっぱいにして!!」

 一心不乱に快楽を貪り、すすんでいやらしい言葉を口にするかわいい明宏。明宏は僕のものだ。この先、一生。何があっても。




ポルノグラファー

関連記事

ほんとにあったら怖い話(1/2)

2017.09.01.Fri.
※義理父子。嫌な予感がしたらそっ閉じ推奨。幽霊は出ない。


「おはよう」

 キッチンにいる父さんへ声をかける。家に父さんの姿しか見当たらないことにも段々慣れて来た。

「早く歯磨きしておいで。すぐ朝ご飯の支度するから」

 父さんのエプロン姿も見慣れて来た。それを言ったら「恥ずかしいな」って父さんは照れて笑った。



 父さんは信じられないくらいいい人だ。

 高校生の息子がいるアラフィフの母さんと結婚してくれたのがまず信じられない。父さんはまだ三十代後半。もっと若い人と結婚して、自分の子を産んでもらうことも出来たはずなのに、母さんを選んでくれた。

 初めて顔を合わせた時から俺にも優しかった。食事の店を探す時も俺や母さんの意見を尊重してくれたし、ゲーム機をプレゼントしてくれた時は「一緒にやろう」とこちらが負い目を感じないやり方で場をなごませてくれたりした。

 酒乱で酒を飲むと暴力を振るっていた実父との落差に、同じ大人の男でもこんなに違うのかと驚いたほどだ。

 しばらくして「男同士で話がしたい」と二人きりで会った時には「絶対にお母さんを幸せにするから僕たちの結婚を許してくれないだろうか」と、高校生の俺なんかに頭をさげてくれた。

 俺が反対する理由なんかなくて、「よろしくお願いします」と同じように頭を下げたら、父さんは目を真っ赤にして「ありがとう」と俺の手を握って来た。

 結婚後は父さんの実家へと移り住んだ。父さんの両親はすでに他界していて、新しい親子三人、幸せに暮らせていたと思う。

 なのに、何が不満だったのか、結婚して一年も経たないうちに母さんは突然家出した。

『ごめんなさい。他に好きな人が出来ました。探さないでください』

 こんな短い書き置きを一枚残して行くなんてふざけてる。それを見つけた朝は頭が真っ白になった。父さんは手紙を持ったまま立ち尽くしていた。青白い顔で。

 父さんに申し訳なくて何度も謝った。

「明宏が謝ることじゃないよ。これは僕たち夫婦の問題だからね」
「警察に届けようよ! 捜索願とか、そういうの出せるんだろ?!」
「どうかな。単なる家出だと警察はちゃんと探してくれないかもしれない。それに見つかったとしても、母さんは僕たちのところへ戻ってきてくれるかな」

 自信なさげに呟く父さんを見て、俺は猛烈に腹が立った。もちろん母さんに、だ。好きな男が出来たからと旦那と息子を捨てていくなんてあの女どうかしてる。

 この時俺は自分が実の母親に捨てられたショックより、父さんへの申し訳なさと母さんへの憤怒のほうが強かった。五十手前の女が色恋に目を眩ませて家庭を壊すなんて、と軽く女性不信にもなった。

 怒りが収まったあと、すぐ我に返って不安になった。

 母さんがいなくなった今、父さんが俺を育てる義理はない。

 切りだされる前に自分から言おうと思って、数日後の夜、「部屋を借りられるだけのお金が貯まったら俺も出て行くから」と夕飯の支度をする父さんの背中に言った。

 父さんはびっくりした顔で振り返った。それはもう、怒っていると言ってもいいような表情だった。

「何を馬鹿なことを言っているんだ! 僕たちは親子なんだよ! 母さんがいなくたって、明宏が僕の息子であることにかわりはないんだ! 出て行く必要なんてない!」

 あまりの剣幕だったから俺はびびっちゃって、でもそれがすごく嬉しくて、泣きながらごめんって謝った。僕も大声出してごめんって父さんも目を潤ませながら謝ってくれた。この一件でより一層父さんとの絆が深まった気がする。

 だから母さんが家出した事実もわりと冷静に受け止められた。

 家事の役割分担を決めて俺も掃除や洗濯、たまに料理も手伝った。一人暮らし歴が長かった父さんの家事の腕前は母さんに負けないくらいで、正直、母さんがいなくなって不便を感じることも少なかった。

 不思議と寂しさも悲しみもなく、女の性を見せつけて跡を濁すような家出の仕方をした母さんが不潔で嫌らしいとさえ思っていた。
 


 父さんに言われた通り歯磨きをしてリビングに戻った。テーブルにはすでに朝食の皿が並んでいる。

「いただきます。明日は休みだし、俺が作るよ」
「それは助かるけど、たまには二人とも家事しないってのはどうかな?」
「どういうこと?」
「息抜きに温泉に行かない?」
「温泉!? 行きたい!!」
「じゃあ決まりだ。明日は一日、何もしないぞ」

 というわけで急遽温泉に行くことになった。



 翌日、父さんの運転で有名な温泉街へやってきた。硫黄の匂いがすることに俺がはしゃいでいると父さんは優しく目を細める。

 実父が家族サービスなんてしてくれたことはなかった。離婚してからはそんな金も時間の余裕もなくて来られなかった。

 ちらりと母さんを思い出した。今どこでなにをしているんだろう。新しい男と温泉旅行にも行ったのだろうか。会社も無断欠勤が続いてとっくの昔に退職扱いになっているらしい。収入もないのにどうしてるんだろう。

 またムカムカ腹が立ってきたが、仲居さんに案内された部屋を見て母さんのことは頭から吹き飛んだ。よくテレビで見るようなテーブルと座椅子があるだけの和室で、奥の窓から外の景色が見えた。隣にももう一つ部屋があり布団が二組敷かれている。その部屋の奥には小さい露天風呂があった。

 料金が高いんじゃないかと父さんを窺い見ると、俺の思考を読み取ったらしい父さんが「たまには贅沢しないとね」と微笑んだ。

 外を散歩するかと誘われたが断ってさっそく風呂に入った。下は川が流れ、川の向こうは竹林になっている。外気に触れながら入る風呂は解放感があって気持ちがいい。暗くなりかけの空もまたいい。

「僕もお邪魔するよ」

 だらしなく湯船につかっていたら父さんもやってきた。男同士だし全然平気だが、父さんの裸を見るのは初めてだと気付いたら妙にドキッとして焦った。

 ジロジロ見ちゃいけないと思うと余計目が釘付けになった。父さんは意外といい体をしていた。適度に筋肉がついていて、余分な脂肪もついていない。反射的にチェックしてしまった股間のものも、さすが大人だなと思えるものだった。

 自分のものを見下ろして少し恥ずかしくなるほど。

「気持ちがいいなぁ。来て正解だったね」

 体を洗いながら父さんがしみじみ言った。

「俺、旅館に来たの初めてなんだ」
「そうなの? また連れて来てあげるよ。何度でも」
「今度は俺が父さんを招待したい」
「嬉しいな。僕たちの恒例行事にしようよ」
「いいね。毎年一回は、どっか旅行しよう」

 母さんと結婚してくれた父さん。なのに母さんに逃げられた父さん。残ったのは血の繋がらい連れ子だけ。だけど追い出さずに親子を続けてくれた。父さんには感謝しかない。なにか親孝行したかった。それが旅行でもプレゼントでも、父さんのためなら、なんだってしてあげたい。

 胸の底から湧きあがる温かいような熱い感情。これはきっと愛というやつだ。俺は父さんと本物の親子に近づいてるんだ。

 感動したのも束の間、自分の体の一部が変化していくことに俺は慌てた。足を組んで股間のものを挟んだ。まさかこのタイミングで勃起するなんて。

 父さんは頭を洗っている。腕の動きに合わせて隆起する筋肉とか。脇の下の繁みとか。俺と同じ平らな胸とか。股の間にぶら下がるものとか。父さんが目を瞑っているのをいいことに、気付くと舐め回すようにそれらを見ていた。

 鼓動が早くなった。すでにのぼせたように顔が熱くなった。思わず舌なめずりした。俺ははっきり自分の欲求を自覚した。

 泡を流した父さんが俺の隣へやってきた。静かな俺に首をかしげる。

「どうした? のぼせた?」
「そうかも」
「外に出て風に当たるといいよ」

 父さんの提案に頷くことができない。いま出たら勃起した俺の一物を見られてしまう。なぜ立たせてるんだと怪しまれてしまう。

「明宏? 大丈夫?」
「大丈夫……」
「顔が真っ赤だ」

 父さんは俺の両頬を手で挟むと自分の方へ向かせた。至近距離から目を覗きこまれて眩暈がした。

「ほんと、平気」

 喘ぐように言って父さんの腕を振り払おうとした。そうしたら逆に腕を掴まれ、引きよせられた。湯の中だから簡単にバランスを崩して父さんの胸へと倒れ込んだ。

「僕は明宏の父親だよ。嘘はわかる。無理しないで一旦出よう」

 俺の脇の下へ手を入れた父さんが立ちあがる。俺を浴槽の縁へ座らせると、父さんはおやっという表情をして俺の股間を見た。

 顔から火が出るほど恥ずかしい瞬間だ。両手で必死に股間を隠してたら湯船から出られない理由なんてバレバレだ。こんな状況でも手の平の下で俺のちんこはドクンドクンと脈打つ。

「ああ……そういう……ごめん」

 父さんのほうも気まずそうだ。

「こっちこそ、ごめん。なんか急に立っちゃって」
「まだ若いからね。突拍子もないタイミングで立つことはあるよ」
「父さんもあった?」
「授業中とかね。あったよ」
「ほんと?」
「ほんとさ。今だってほら。明宏に釣られて僕も立ってきた」

 見ると父さんのものがゆっくり鎌首もたげてきた。俺は茫然とそれを見ていた。上を向くにつれどんどん太く大きくなっていく。浮き出た血管の脈動が、手の下に感じるものと重なって、父さんのものを触っているような錯覚を起こして頭がクラクラした。

「母さんがいなくなって、けっこう経つからね」

 言い訳するように父さんが呟く。手が勝手に動いて父さんのちんこを握った。

「すげえ」

 驚きと感心の声が漏れた。父さんはふふっと笑った。

「使っていれば嫌でもこうなるよ」
「まじで?」
「まだ経験ない?」
「……ない」
「じゃあ、扱き合いっこする?」
「えっ」
「明宏はしなくていいよ。僕がやってあげる」
「や、やだ。俺もしたいっ」

 父さんの笑みが深まる。口から心臓が飛び出しそうで、俺は無意識に唾を飲みこんだ。

 俺と父さんは向かい合って立つとお互いのものを握りあった。大きな父さんの手が俺のちんこをシュッシュと扱く。俺は簡単に果てそうだった。

「まっ、待って……もう、出そうだからっ」
「出せばいいよ」

 耳元で囁かれて背筋がゾクゾクとした。見上げる顔が、いつもの父さんに見えなくて混乱した。父さんの胸に視線を落とした。あの胸のなかに飛び込んで頬を擦りつけたいと思った。思いきり甘えたい、と。

 俺はもう父さんを父親として見られなくなっていた。

 俺たちは無言で手を動かし続けた。俺は荒い息遣いでたまに甘ったるい女みたいな声が漏れた。この恥ずかしい口を父さんの口で塞いで欲しかった。

 優しく俺を見つめる黒い目はそれに気づいているのかいないのかわからない。でもずっと俺を見つめ続ける。俺は体の芯から焦がされた。

「はあ、はあっ、あっ……もう、出る……出ちゃうよ、父さん……っ」
「いいよ」

 父さんの勃起を握りしめたまま俺は射精をした。たっぷり出たものがべっとりと父さんへと降りかかる。父さんは微笑んだままそれを湯で流した。

「ごめん、俺……」
「なんで謝るの?」
「父さんのこと、イカせらんなかった」

 意外な答えだったみたいで軽く目を見開いたあと父さんはプッと吹きだした。

「そんなこと。年が違うもの。僕はもう若くないから時間がかかるんだよ」
「父さんはまだ若いしかっこいいよ。母さんとは離婚して新しい奥さん見つけなよ」
「そうなったら明宏はどうするの?」
「父さんが幸せになってくれるなら、俺は喜んで今の家を出て行くよ」
「新しい奥さんはいらないし、僕の家族は明宏だけだよ」

 期待した嬉しい言葉が帰ってきて心がくすぐられる。

「俺が母さんの代わりになるよ」
「どういうこと?」
「父さんが嫌じゃなかったら、こっちも、俺が……」

 いまだ天を向いたままのちんこを握る。

「自分がなにを言ってるかわかってる?」

 俺の手に手を重ねて父さんが言う。断られたら死ねる。気持ち悪いことを言うなと罵られたら裸でここから逃げよう。ぎゅっと目を瞑った。

「お母さんが家出した負い目だけで言ってるなら、それは大きな間違いだよ」
「そんなんじゃない! 俺、俺……父さんのこと好きだから……!」
「明宏、目を開けて僕を見て」

 恐る恐る目を開け父さんを見る。いつの間にか目の前にあった顔。近いと驚いた次の瞬間には、唇が合わさっていた。

「嬉しい。ほんとに嬉しいよ。僕だって明宏のことが好きだよ。これから君は僕の息子であり妻であり恋人だ。そう思っていいんだね?」

 断られなかったことに安堵して、俺は何度も何度も頷くことしか出来なかった。







【続きを読む】
関連記事