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第二ボタン(2/2)

2017.07.06.Thu.
<前話はこちら>

 母さんが日課のヨガを始めたのを確かめてから航士の部屋へ向かった。勉強している背中がかっこいいと思っていた。今はただひたらすら腹が立つだけだ。

「どうしたの、兄さん。また構って欲しいの?」

 椅子を回転させながら航士が振り返る。余裕ぶった態度。俺が全部知ってるなんて思ってもいないんだろう。

「お前、好きな子いるのか?」

 俺の質問に航士が軽く目を見張る。立ちあがって近寄ってくると「兄さんに決まってるでしょ」と俺の頬を手で包んだ。全部知ったいまでも、その手の温もりにドキドキしてしまう。間近で見つめられると心臓が苦しくなるんだ。

「放ったらかしにされて不安になった? 僕が好きなのは兄さんだけだよ。今も昔も。ずっと変わらない」

 と言ってキスしようとしてきたので思わず突き飛ばした。航士が驚いた顔をする。

「勝手にすりゃいいよ。お前がどこ受験しようが、誰と付き合おうが、俺にはどうでもいいし! 俺もお前のことなんか本気じゃないし、大学に可愛い子いっぱいるし! 男で実の弟なんか面倒なことばっかだし! だからお前も好きにしろよ。もう俺に遠慮することないから!」

 食事中、航士の顔を睨みながら責める言葉や文句ばかりが頭のなかをグルグル回っていた。でも兄としてのプライドからそのまま伝えることは出来なかった。振られるなら、こっちから振ってやる。それがわずかに残された俺の矜持だ。

「急にどうしたの、兄さん。僕、何かしたかな?」

 困惑した顔もかっこいいとか。どこまでもふざけた奴だ。

「もう全部知ってるから!」
「何を?」
「お前が奈緒子を好きなことに決まってるだろ」
「奈緒子?!」

 航士は目を大きく見開いた。

「なにがどうしてそういう結論になったのか、最初からちゃんと話してくれる?」

 とぼけるつもりか。上等だ。言い逃れできないよう、全部話して聞かせてやる。

 奈緒子から聞いた情報、母さんの話、俺の記憶等々、航士がひた隠してきたことと、俺の推理と結論を披露した。

 全部聞き終わった航士は額に手を当てて、深くため息をついた。今のうちになにか言い訳を考えているんだろうが、全部俺が論破してやる!

「僕が中学の時に奈緒子にボタンをあげたのは事実だよ」
「ほら! やっぱり!」
「でもあげたのは僕たちが卒業する時じゃないよ。兄さんの卒業式の日だ」
「お? 俺の?」
「奈緒子はね、昔から兄さんのことが好きだったんだよ。それで兄さんの卒業式の日の夕方、兄さんのボタンが欲しいって僕に頼みに来たんだ。兄さんのものは髪の毛一本誰にもあげたくなかったから僕のボタンをあげた。奈緒子には黙ってたけど、たぶん、ボタンのない僕の制服を見て気付いたんだと思う」

 新しい情報に頭が混乱する。奈緒子が俺を好きだったって? 航士がボタンをあげたのは、俺のボタンを奈緒子に渡したくなかったから?!

「そ、そんなのあとから何とでも言えるじゃん!」
「母さんがボタンを付け替えるのを兄さんも見てたんだろう? 考えてもみてよ、僕が卒業した時なら、わざわざボタンを付け替える必要はないよね? もう着ないんだから」

 確かに。言われてみればそうだ。

「付け替える必要があったのはあと一年、僕には制服を着る必要があったから。つまり奈緒子がボタンを欲しいと言いだしたのは僕がまだ中2のとき。兄さんが卒業する時なんだよ。これだけじゃなんの証拠にもならないけど、まだ僕を信じてくれない?」

 思い返すと、奈緒子も「卒業シーズン」という言い方をして、自分たちの卒業式だったとは一言も言っていなかった。

 もしかするとこれは本当に恥ずかしいことをやらかしてしまったのかもしれない。

「でも……でも、志望校が奈緒子と同じじゃんか」
「今日兄さんに聞くまで奈緒子の志望校なんか知りもしなかったし、知った今でもぶっちゃけ合否の結果も興味ないよ」
「じゃあ、なんで急に志望校かえたんだよ」
「家から通えるからだよ」
「は?」

 こっちは真剣に聞いているのに間の抜けた答えが返って来た。

「前の志望校を決めた時はまだ兄さんとこうなる前だったから」

 と言って航士は俺の腰に手を回し自分のほうへ引きよせた。

「兄さんから離れることを第一条件に選んだ大学だったんだ。でも今は一分一秒も離れたくないから、行きたい学部があって家から通える大学を探したら、偶然奈緒子と同じだっただけ」

 航士が以前志望していた大学は県外で、合格したら寮に住むと話していたっけ。俺はそれを羨ましいと思いながら聞いていたけど、その頃の航士は好きになってしまった俺から離れるために家を出る覚悟をした時期だったのだ。

「本当に奈緒子のことは、なんとも思ってないんだな?」
「奈緒子がベッドの上で裸で寝てても勃たないよ」
「お、俺は……?」
「視界に入っただけで、めちゃくちゃヤリたくなる」

 俺の耳元で囁いた航士の股間は、それを証明するように熱く硬くなっていた。



「一瞬でも僕の愛を疑うなんて許さない。お仕置きが必要だね」

 と誤解が解けたあと、航士は俺をベッドに押し倒すと口と手で俺の体中を愛撫しまくり、ご褒美みたいなお仕置きで俺を一回イカせたあと、今日もこれで終わりかと落胆する俺の尻穴にローションまみれの指を突っ込んできた。

 いつもなら丁寧に解されるのだが、今日はある程度解すとすぐさま航士のちんこが入って来た。

「ごめんね。僕も相当、溜まってたみたい」

 とすまなさそうに言う航士がたまらなく愛しかった。自ら足を広げ航士を受け入れた。気持ちよくなってもらいたくて締め付けた。いつもより早く、航士は射精した。

 中出しをねだったのは俺だ。倒錯した快感に、ほぼ同時に俺も果てた。

 二人とも一度や二度じゃ収まらなかった。

 体位をバックにかえて、背後から貫かれた。

「うっ……ひぐぅ……ッ……ン……あっ、あはあぁんっ!」

 航士に突きあげられた拍子に口を塞い出ていた手が外れ、大きな声が漏れた。

「ちゃんと手で押さえてて。母さんに聞かれちゃう」
「ご、ごめっ……アッ、あ、待って……んんんっ!!」

 俺の腰を掴み、航士が高速ピストンで中を抉ってくる。さっき一度航士が出したものがグチョグチョと音を立てている。

 シーツは俺の出した精液ですでにドロドロだ。

「だから言ったのに。僕、止まらなくなるよって」

 俺が誘っても誘ってもなかなか最後までしてくれなかったことを言っているのだろう。俺は朝までだってこうしてたいのに。明日のことなんかどうだっていい。

 でも航士の受験勉強も邪魔はしたくない。

「ごめんっ、あんっ、航士……ごめ……でも……はぁんっ、あ、気持ち良い……ッ」
「僕も。兄さんのここ、すごく気持ちよくてずっと中に入ってたいよ」
「いれば……いいじゃんっ……ローターもディルドもやだッ……航士がいいっ……航士のちんぽでいっぱいして欲しい……っ」
「もちろん、死ぬまでいっぱいしてあげる。その前に」

 航士は俺のちんぽの根本をぎゅっと握った。

「僕のこと本気じゃないって? 大学の可愛い子に乗り換えるんだって?」
「あれは……! 勢いって言うか……」

 首をひねって見た航士はいつものように穏やかに微笑んでいたが、目は笑っていなかった。顔が整っているからか変に凄みがあってちょっと怖い。

「勘違いしただけで本心じゃないってわかってるつもりだけど、言われた時はショックだったし傷ついた。全くそんな気持ちがなければ出て来ない言葉だろうし」

「違う! ほんとにあれは嘘……っていうか……ほんとはお前に捨てられるのが怖くて仕方なかったんだ。夢中なのは俺だけだったんだって思ったら悲しかったし」
「僕のほうがずっと兄さんに夢中だよ。物心ついた頃から兄さんのことばかり見てる。僕の生活も人生も、全部兄さんが中心だ。やっと手に入れたのに、くだらない情報に惑わされないでよ。僕だけを信じて。僕だけを見て。僕だけを愛してよ」

 懇願するような口調で言われて胸が痛んだ。こんなに好いてくれている航士を疑って本当に悪いことをした。毎日好きだと言ってくれるし、毎日キスもしてくれる。俺がねだれば勉強で忙しいのにその合間を縫って俺の相手もしてくれる。航士もずっと欲求不満だったはずなのに、文句ひとつ言わないで俺の欲求だけを沈めようと努力してくれる。

 これじゃ捨てられたって文句言えないや。

「ごめん、航士……俺、お前だけが好きだし、お前だけを見るよ」
「愛してくれないの?」

 そんなことを訊かれて顔が熱くなる。

「あ、あいしてるよっ」

 恥ずかしくて声が裏がえった。でも航士は笑わずに、「絶対、一生、二人一緒だからね」と執念が滲む真剣な口調で言った。

「わかってる。お前よりいい男なんか他にいないしな」
「それに、こんなに兄さんを愛してあげるのも、僕だけなんだからね」

 俺の背中にキスしたあと、航士は腰の動きを再開した。リズムよく突きあげられる。

「ふんっ、んんっ、あっ、あはぁっ、ああん!」
「大学を卒業したら家を出て2人で暮らそうね」
「あっ、ん、うんっ……一緒……!!」
「毎日好きなだけセックスしようね」
「やぁっ、あっ、出るッ、イクッ、航士……手ぇ、はなして……!!」
「愛してるよ、兄さん」
「あ……ッ!! ああ──ッ!! イッ……ぁ……ああぁ……っ!」

 航士が手を離した瞬間、勢いよく精液がぶちまけられた。



 友人たちと遊びに行くらしく、卒業式を終えた航士が着替えのために一旦家に帰って来た。リビングでテレビを見ていた俺に「早く帰るからね」と耳打ちついでにほっぺにキスする。

「卒業式の日くらい、ゆっくり馬鹿騒ぎして来いよ」
「早くこの続きしたいでしょ」

 言うと、いきなり口を合わせて濃厚なベロチューをしてきた。それだけで簡単に半立ちになる俺。したり顔の航士。

「あとこれ。もらってくれる?」

 差し出された航士の手には制服のボタン。

「これって」
「僕の制服の第二ボタン。兄さんにもらって欲しくて死守したんだよ」

 言われてみると、他のボタンは全部なくなっている。

「……やっぱり早く帰ってこい」
「そのつもりだよ」

 笑顔で航士が言う。こんなに愛されてていいんだろうか。





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