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メリクリあけおめ(2/2)

2017.02.11.Sat.
<前話はこちら>

「あと20分ほどで着くと思います」と井口からメールが来たのは14時過ぎだった。時間的にもうすぐ電車が駅に到着する頃だろう。待つことに疲れていた俺は駅まで迎えに行くことにした。単純な道のりだから途中で出くわすだろう。

 案の定、半分を少し過ぎたあたりで前から歩いて来る井口を見つけた。俯き加減だが井口も俺に気付いたようで一瞬足が止まりかけた。

 目の前まで来ると横を向いて「来ましたけど」とまだ拗ねた口調で言う。

「ついでに買い物して行くわ」

 井口の隣に並び、駅前のスーパーへ向かう。不服そうな視線を感じたが、井口は黙って回れ右して俺についてきた。

 年末のスーパーは普段より混みあっていてカートを使った大量買いの客が目立った。俺たちはカゴを1つ掴んで他の買い物客の間を縫うように移動した。

「料理するんですか」

 俺が食材をポンポンとカゴに入れていくのを見て井口が口を開いた。

「鍋でいいよな」
「……昼は食べましたけど」
「夜に決まってんだろ。あ、朝飯食う派? 俺こう見えてパン派なんだけどお前は?」
「……ご飯派です」
「想像通りすぎて面白みねえな」
「悪かったですね」

 ぶすっと口を尖らせる。その先に吸い付いてやりたくなるからそんな可愛い顔するな。

 食パンと、こいつのためのベーコンとサラダをカゴに入れてからレジに並んだ。

「料理できるんですか」
「一人暮らし歴何年だと思ってる」
「彼女にやってもらってそうなイメージです」
「他人に部屋のもの触られるの嫌なんだよ。だから基本的にうちには呼ばねえしな」
「そういえば意外に部屋は綺麗でしたもんね」
「意外は余計だろ」

 目を伏せて井口はフフッと小さく笑った。やっぱり笑ってる顔を見るほうがいい。

 スーパーを出てマンションに向かった。あいかわらず無口だったが刺々しさはもうなくなっていて、俺の軽口に以前のような小憎らしい返しをするくらいには機嫌も直っているようだ。

「そういえばクリスマスは彼女とナイトクルージングだって?」
「先輩こそ、和気さんと食事行ったそうですね」
「和気さんの他にあと二人いたぞ」
「残念でしたね」
「もうアラサーで枯れてきちゃってるから。ご飯食べてお酒飲んだら眠くなっちゃうんだよ」
「次は二人で食事に行けるといいですね」
「キャピキャピしたのはもう無理だな。疲れる」
「遊びすぎるからですよ」

 なんて他愛ない話をしていたらマンションについた。買った食材はとりあえず冷蔵庫に仕舞い、かわりに缶ビールをテーブルに置いた。

 乾杯、と缶を当てる。井口が咽喉を晒してビールを呷る。道を歩く姿を見たときからずっと我慢していた。井口が抱く俺のイメージなんてもとから悪いんだし、今更取り繕っても意味がない。

 井口に擦りより細い首に唇を当てた。整髪料らしき匂いを吸いこむ。

「枯れてるんじゃないんですか」
「お前は別。お前は珍味だから」
「人を酒の肴みたいに言わないでくださいよ」

 声に拒絶の気配はない。そのまま押し倒してキスした。舌を入れても噛まれなかった。それどころか井口からも舌を絡めて来た。服のなかに手を入れたら「冷たい」と言われた。

「先に一緒に風呂入る?」
「……終わってからでいいんじゃないですか」

 井口が語る未来に胸が躍る。ほんの数十分先のことでも、2人一緒の前提で話をされると嬉しく思う。

「今日はちゃんとゴムつけるから」
「あとでお風呂に入るなら、別にどっちでもいいです」

 あんなに怒ってたくせに。でも言質は取った。井口の服を脱がせ、俺も裸になった。



 相変らず綺麗な肛門にローションを垂らし、指で解してから挿入した。世界三大珍味に匹敵する良い締まり具合だ。腰を動かすと井口の体がソファでずり上がった。それを引き戻しながら奥までちんこを何度もハメ込み、叩きこんだ。

 すぐ井口の口から嬌声が飛び出した。「気持ちいい、もっとして」と小一時間ほど前までの不機嫌が嘘みたいに素直にねだってくる。

 こんな体でどうやって女を満足させられるっていうんだろう。

「あっ、あっ、ああ、そこ……! せんぱ……あっ、あぁんっ」
「彼女として、こんなに気持ちよくなれるのか?」
「な、らな……です……!」

 ぎゅっと目をつぶりながら井口は頭を振った。同じように頭を揺らすちんこからは我慢汁が垂れ落ち糸を引いている。

 それを握ってしごいてやった。

「ああっ! それ……したら……っ! だめ、イク! イッちゃいます、から……!!」
「気持ちいい?」
「はいっ……あっ、ああっ、や、あぁあっ」
「おもちゃより?」
「おもちゃ、より……先輩の、が……い……んっ」
「いっぱい出せばいいよ」

 シュッシュと数回擦ったら井口は勢いよく射精した。ハアハアと荒い息遣いだけど、ちんこのほうはあまり小さくならない。

「今日は来る前に出さなかったのか?」

 恥ずかしそうに睫毛を震わせながら小さく「出しました」と白状する井口がたまらなくて、キスしながら腰を振った。

「はあぁんっ、あっ、あはあっ」

 舌を絡めあう余裕もないように井口が声をあげる。だけど求めるように俺の舌を追いかけて来る。

 ささやかな優越感と独占欲が満たされる。こんな姿の井口を知っているのはおそらく俺だけだろう。今後もずっと、俺だけであればいい。

「中出し、やめとく?」

 耳元で囁いた。井口はかすかに首を左右に振った。

「抜かない……でっ……、このまま、はあっ……俺のなかで、イッてください……!」

 拗ねた井口も可愛いと言えば可愛いんだが、やっぱりいつも通りの井口がいいので、了承を得てから遠慮なくたっぷり奥へ注ぎ込ませてもらった。


 井口の喘ぎ声が小さくなって疲れたような息遣いになったので一旦行為を止めた。時計を見るともう夕方で、言われてみれば部屋が暗くなっていた。

 トイレに行ったあと明かりをつけ、途中移動したベッドに寝そべる井口を見下ろせば体中に白濁した液体が付着していた。

「先輩は嘘つきですよね」

 だるそうに目だけをあげて井口が俺を非難する。ゴムなしで中に出していいと言ったじゃないかと反論しようとしたら「ぜんぜん枯れてないじゃないですか」と予想と違うことを言った。

「だからお前は珍味なんだって」

 ベッドに腰かけて汗で湿る前髪をかきあげてやる。それが気持ちよさそうに目を閉じる。

「こんなにがっついたらすぐ飽きますよ」

 井口に飽きる日がくるだろうか。来ないような気がする。でも口を噤んで曖昧に笑顔を返した。

 足腰が立たない井口を抱えて風呂に入り、比較的新しい寝間着を着せてやったあと俺は台所に立った。鼻歌混じりに白菜を切って鍋の準備をしている自分が嫌いじゃない。

 今までは当たり前のように歴代の彼女が作ってくれるのを待つ立場だったが、俺は案外尽くすタイプだったのかもしれないぞ。

 鍋が出来上がると井口は億劫そうにソファへ移動し、しかし食欲はあるようで黙々と箸を動かしていた。テーブルを片付け、酒を飲みながら年末恒例のバラエティ番組を見る。

 俺の肩に頭を乗せて井口がもたれかかってくる。それを抱き止めながら、CMに入ると同じシャンプーの匂いがする頭にせっせとキスした。

 体力が戻ってきたようで、テレビを見て井口は声をあげて笑った。俺がビールを飲んでいるとそれを欲しがったので飲ませてやった。

 もう一度セックスしたいが、井口の体を思うと今夜は寝かせたほうがよさそうだ。どうせ今日は泊まっていくのだから時間はある。明日の朝からしたっていい。

 遠くから除夜の鐘の音が聞こえて来た。

「年、変わったみたいですね」

 井口も気付いたようだ。

「あけおめ」と俺が言えば「ことよろ」と返してくる。

「俺、家族以外の人と年を越したのって先輩が初めてです」
「彼女とは?」
「ないです」
「来年も俺と過ごす?」

 腕のなかで井口は顔をあげた。考えるようにじっと俺を見たあと「考えておきます」と井口らしい返事がかえってきた。

 顔を近づけたら触れ合う直前で井口がふっと笑った。

「先輩、キス好きですよね」
「好きだよ」

 秘めたる思いを言葉に隠して届ける。キスする耳からテレビ番組の音声は遠のいて行く。休ませなきゃいけないのに股間が熱くなる。井口の体をまさぐってしまう。

 井口との先に何かを期待したって無駄だと言い聞かせても気持ちは止まらない。

 十代に戻ったみたいな恋をしている。




隣りのしばふ

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メリクリあけおめ(1/2)

2017.02.10.Fri.
利害の一致>→<凹の懊悩

 もうすぐクリスマスだっていうのに、いっしょに過ごす相手がまだ見つからない。後輩に頼んだ合コンで、すでに何人かの女の子の連絡先は手に入れているが、どれもこれもピンとこない。

 後輩には「高望みしすぎっすよ」と呆れ顔で言われた。

「高望みなんかなー。お前が用意する子って、みんな良くも悪くも『女』って感じのばっかじゃん。もっとさー、雰囲気違う子いない? 面白い子」
「お笑い担当みたいな子っすか?」
「それは違う。それは面白いの意味が違う。人として面白いっていうか、今までとタイプの違う子がいいんだよなー」
「具体的には?」
「具体的には……」

 考えこむと、別の後輩のスカした顔が浮かんでくる。あれの女版が合コンに来たらきっとつまんなそうな顔してるんだろうな。場の空気悪くなっても気にしないで、自分の好きな物注文して、飲み食い終わったら「お先に」って帰りそうだ。

 そいつの名前を出すわけにはいかないので、「わがままじゃないけど、空気読まない感じの」って言ったらしかめっ面をされた。

「俺じゃ手に負えないんで、自力で探してくださいよ」

 しまいには見放されてしまった。

 後輩がいなくなった喫煙ルームで一人、煙草を咥える。結局はただのないものねだりだということは自分が一番よくわかっている。

 井口の女版なんて、そうそういるはずがない。いたとしても、魅力を感じるかどうかわからない。俺がいま気になっているのは、男の井口なんだから。

 後輩で、同じ男である井口とセックスした。しかも2回。1回目は井口から誘われた。2回目は俺から誘った。しかも強引に。

 井口とのセックスは案外良かった。小憎たらしいの後輩の意外な一面が可愛かった。またセックスしたいと思ったし、実は井口も同じ気持ちなんじゃないかと期待させる態度だった。

 なのに、まさか。あいつに彼女がいたとは。

 ちょっとでも気があるから俺を誘ったのかと思いきや、井口が言った通り俺は風俗以下の、ただのバイブのような存在だったわけだ。じゃあもう、ただの突っ込む棒として井口を誘うしかなかった。

 悔しいことに二度目のセックスも気持ちよかった。フワフワした感じで終始した一回目とは違って、ほとんど素面で、手順を踏んだ、ちゃんとしたセックスだ。どさくさに紛れて、一度目の時には断られたキスもしてやった。

 キスなんかでドキドキ胸が躍ったのは久しぶりだ。

 よくわかんないまま体から始まった関係だが、お互いその気があるなら、セックスしながら今後の二人の形が見えて来ると考えていたのに。

 彼女がいるなら、形になるような未来なんかない。

 井口とのセックスは、食べてみたら意外に美味しかった珍味みたいなもんだ。食べ慣れたものを食べていたほうが、体は壊さないはずだ。

 好都合なことに、井口は先日のあれ以来、俺に腹を立てている。

 なにを拗ねているのか。心当たりはある。ゴムをつけるからと誘ったのに、生でヤッてしまったからだ。終わったあと処理しながら腹が立ってきたのだろう。井口って潔癖なところがあるから些細な裏切りも許せないタイプっぽいし。

 だから昼休憩で食事に誘おうと井口を見ても目が合うことは絶対ないし、視界にすら入れないように体ごと顔を背けられたりしている。

 仕事で話しかけても淡々と短く応答するだけで、意味のない世間話なんてひとつもしない。冗談も通じなかった入社したばかりの頃の井口に戻ってしまっている。

 このまま必要最小限の会話をする仕事だけの間柄に戻ったほうがいいんだろう。そのほうがお互いのためだ。

 と、自分を納得させた時、禁煙ルームに和気さんが入って来た。

「木下さん、ここにいたんですか」

 と、俺の隣へやってくる。

「なに。俺のこと探してたの?」
「聞いてくださいよ。さっきお昼食べながら話してたんですけど、クリスマスに予定がないのって、私だけだったんですよ。これってかなり可哀そうですよね、私」
「彼氏いないの?」
「そうですよ。前に話したじゃないですか」
「そうだっけ。ごめんごめん。俺と一緒だね。俺も彼女いないから、クリスマスの予定は仕事だけ」
「同じですね」
「ねー」

 煙草を咥えて火をつけた。和気さんは、そんな俺の動作を上目遣いにじっと見つめている。フワッとした雰囲気の、可愛い子だ。俺が食べ慣れて来た味の女の子だ。

 もったいつけたつもりじゃなかったが、結果的にそうなってしまった。煙を吐きだしてから、

「一人もの同士、いっしょにご飯行く?」

 誘ってみると、和気さんは「えー、ご飯ですかぁ?!」と大きな目を更に大きくした。

「考えといてよ。直前でキャンセルしてもいいから」
「はーい、わかりました」

 和気さんがにこりと笑う。以前ならこんなに簡単に食事に付き合ってくれる女の子が見つかったら何も考えずにラッキーだと思っていただろう。でも今は複雑だ。癖のように自分から誘っておきながら、面倒臭いと思っている。

「そういえば! 井口さんって彼女いたの知ってました? 勝手に井口さんって彼女いなさそうだと思ってたんですけど、クリスマスは彼女とナイトクルージングとかしちゃうタイプなんですよ。びっくりじゃないですか?」
「井口が?」

 なぜかワイングラスを揺らすタキシード姿の井口を想像してしまい、吹きだしそうになった。ぜんぜんキャラじゃない。

「ああ、きっとあれだ。夜の工場を見に行くつもりなんじゃないかな」
「工場?」

 怪訝そうに眉を寄せる和気さんに、井口の工場見学趣味を話してやった。

 クリスマスは彼女と工場夜景か。綺麗だねって夜景の感想を言うふりをしながら彼女を褒めつつ、その夜はお盛んにイチャつくわけだ。あいつは実家暮らしだからどっかのホテルか、彼女の部屋か。

 ケツであんなに感じるあいつが、普通のセックスで満足できるのか甚だ疑問だ。彼女とするときもあんな風に声をあげることはあるんだろうか。どんな顔してやっているんだろうか。

 しなくていい想像をしたらだんだん腹が立ってきた。俺をこんな複雑な気持ちにさせておきながら、自分は彼女と良好な関係を続けているなんて許せない話だ。



 席を立った井口のあとを追いかけた。喫煙室の向こうのトイレへと歩いて行く。角を曲がったところで腕を掴んだ。驚いた顔で井口が振り返る。

「……な、なんですか」

 弱い力で腕を振りほどこうとする。さらに強く握ったら井口は唇を真一文字にして俺を睨んだ。中出ししたことをまだ怒っている様子だ。

 井口を壁に押さえつけてキスした。予想通り反発された。腕を突っ張って俺を押し返そうとする。噛まれたら嫌なので舌は入れずに表面だけを存分に擦り合わせてから離れた。

 顔を赤くした井口がゴシゴシと袖で唇を拭う。ガキかよ。

「なにするんですかっ」
「クリスマス、空いてるか」
「空いてないですよ」

 和気さんから聞いていても自分で確認せずにはいられなかった。自分だけ彼女とよろしくやってんじゃねえぞ。

「じゃあ年末は」

 スケジュールを思い出すように井口の目が横へ揺れる。

「あ、空いてな──」
「空けとけよ。泊まりに来い。初詣に行くぞ」

 井口が断る前に強引に話を進める。年末の予定を即答できないのは、何も約束が入っていないからだ。

 井口は口を噤み上目遣いに俺を睨んだ。子供みたいに少し唇を尖らせながら、何か言いたげな不満そうな表情をする。二十代半ばの男のこんな表情に興奮を掻き立てられるなんて、俺は相当おかしくなってる。

 さっき井口とは適切な距離を保とうと決めたばかりなのに、もうさっそく自分から近づいて行っている。支離滅裂だ。

 井口の唇が細かく震えた。きっと断りの言葉を発するつもりだ。

「先輩命令な」

 先に釘を刺し、何か言われる前にその場を立ち去った。

 廊下を一人歩きながら緊張していた自分に気付いた。握りしめていた拳を緩めた。彼女がいる男を追いかけ回してどうするつもりだ、俺は。



 休みに入った29日に一度実家へ戻り、正月は帰らないことを伝えた。30日に自宅へ戻って大掃除らしいことをしたあと、井口へ「明日何時に来る?」とメールを送ってみた。

 なかなか返事が来なくて諦めかけた夜、「昼過ぎに伺います」とメールがきた。

 そっけない文面を何度も読み返した。




野良猫に首輪を

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