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覗き(2/2)

2016.10.27.Thu.
<前話>

 止めに入るなら、もう少し様子を見てからでも遅くはあるまい。俺は無意識に唇を舐めていた。

「じゃ、先生。動画、見せてくれる?」
「勝手にしろ!」

 自棄になって先生が叫ぶ。少しして、2人の笑い声が聞こえて来た。

「やべえ、本当にやってる」
「いつもよりちんこ勃つの早くねえか」
「ローター入れてるし、トイレでオナるのが快感なんだろ」
「変態みたいじゃねえか」
「めっちゃエロい顔してる。先生、こっちおいで。ローター出してあげるから」

 どうにかして中が見たくて、戸をそうっと開けてみた。指一本入るか入らないかほどの隙間から中を覗きこむ。正面に見える教壇のそばに三人の姿はない。もう少し隙間を広げて奥を見ると、三人は教室の中ほどにいた。

 伊達と大木は椅子に座り、天野先生は横の通路に立っていた。手招きされた先生は伊達のそばへ行き、自分からベルトを外した。ズボンと下着を脱ぐと、隣の机に手をついて伊達に尻を向けた。

「はやく出してくれ……!」
「もう電池切れちゃってんね。これ入れてる間どうだった? 勃起しちゃった? 淫乱な先生のことだから、ちんぽ、グッチャグチャになったんじゃない?」
「そんなこと……ない……早く、抜いてくれ……ッ」
「素直に言わなきゃ取ってあげないよ?」

 先生の尻穴を弄りながら伊達がにやりと笑う。

「……勃っ……た……ッ、これで満足か!」
「勃っただけ? ちんぽ汁、いっぱい出たんじゃないの?」
「あっ!」

 伊達の手が先生の前へまわる。先生は背をしならせた。

「先生ってすぐ濡れ濡れになっちゃうでしょ。パンツベトベトになるくらい、濡れちゃったんじゃない? 正直に言いなよ」
「……ぁ……あ……いや、だ……ああ……っ」

 伊達が隣の大木に何か耳打ちした。頷いた大木が立ちあがり、先生の前に回ってスマホを構える。

「あっ、嫌、やめろっ」
「言っただろ、今日は新作の撮影するって」

 大木の手元から撮影開始を知らせる電子音が聞こえた。大木は構えたスマホをゆっくり上下に動かして、先生の全体を映した。先生は嫌だと言いながら逃げださずにただ顔を背けるだけだ。尻はしっかり伊達に向けたまま。

「見えねえな」

 と呟くと大木は先生のワイシャツとアンダーシャツをめくりあげた。伊達にしごかれる先生のちんぽが現れた。それに寄って大木は至近距離から撮影する。

「嫌だっ、止めてくれ……!」
「そんなこと言って、先生のお尻、さっきからヒクヒクしてるよ。ローターより太くて大きいものが欲しいんじゃないの?」

 伊達が手を大きく動かすと「ああぁっ」と先生が声をあげた。伊達の手からピンク色のローターがぶら下がって揺れている。あれが先生のなかに入っていたローターか。

 先生はがくりと俯いて喘ぐように呼吸していた。大木が下に潜り込んで先生の表情を撮影する。あの動画、俺もすごく見てみたいぞ。

「先生、そろそろ素直になって、いつもみたいにおねだりしてみようか?」
「……ん……はぁ……あ……あ、い、入れて……」

 蚊の鳴く様な小さな声だった。撮影係の大木が「なにを?」と質問すると、先生は顔を真っ赤にして、

「だ、伊達の……お、ちんぽ、入れて、くれ……」

 と恥じらいつつも驚くことを口にした。

 声を漏らしそうになり俺は手を口に押し当てた。心臓がバクバク鳴っている。脅されて生徒の慰み者になっている天野先生の屈辱を思うと、得も言われぬ感情が湧きあがって手足が震えた。

「まだ言葉が足りないんじゃない?」
「…ッ………お、俺の、ケツマンコに……伊達のおっきいおちんぽ、入れてくれ」
「よく言えました。ご褒美に先生のケツマンにちんぽ突っ込んでグッチャグッチャに掻きまわしてあげるね」

 伊達は椅子から腰をあげると、前をくつろげ、何度かしごいて勃たせたちんぽを先生の尻にあてがった。顎をあげた先生が、唇を噛みしめるのが見える。青白い顔、頬と噛みしめた唇だけが赤い。

「あっ……ん、あ、ああぁ……!」
「ははっ、ローター入れっぱなしだったからすっかり出来上がってんじゃん、ここ」
「ああっ、そんな、急に奥……までっ……!!」
「先生の淫乱マンコ、トロットロに解れてるから大丈夫だって。俺のちんこ蕩けそうなくらい熱いよ」

 内部の様子をわざと先生へ教えながら伊達はリズム良く腰を振りだした。パンパンと小気味よい音が教室に響く。

 先生はその動きに合わせて声をあげた。脅されて嫌々やられているはずなのに、本当は悦んでいるんじゃないかと思うような色のついた声だ。

 固く閉じた目も、現実逃避というより、伊達から与えられる快感に没頭しているようにも見える。なにより、股間のブルンブルンと揺れるちんぽはギンギンにいきり立っている。

 俺は唾を飲みこんだ。男を性の対象として見たことなんか一度もなかったが、天野先生は別だ。犯される姿にそそるものがある。股間が熱くなってくる。

 見ているだけじゃ物足りなくなったのは俺だけじゃないようで、大木はスマホケースで机の上にスマホを自立させると、先生にキスしながらワイシャツのボタンを外し始めた。

 離れたここからでもわかるような舌と舌を絡めあった濃厚なディープキスだ。

 先生は舌を吸われながら、大木に促されるまま衣類を脱ぎ棄てた。上半身は裸、下半身はズボンと下着を足元にずらした格好。

「大木、先生の乳首弄ってやれよ。そこ弄られんの大好きだから」

 伊達に言われ、大木は頭をさげて先生の胸に吸い付いた。

「あはぁっ……! そんな……吸ったら……や、あっ、ああん!」

 よほどいいのか、先生はビクビク体を震わせながらかぶりを振った。

「おー、すっげえ締め付け。ほんと先生乳首弄られるの大好きだね。今度、乳首責めだけでイケるか試してみようね」

 後ろで腰を振る伊達が笑いながら鬼畜な提案をする。聞こえているのかいないのか、先生はアンアンと喘ぐだけで返事をしない。

 大木は乳首を舐めまわしながら天野先生の股間も触っていた。大きな手でゴシゴシと先生のちんぽをしごいている。

「はぁぁあんっ、あんっ、あっ、もう、だめっ、あっ、あっ」

 机についた先生の手がガクガク震えていた。後ろからも前からも責められて、立っていられないほどの快楽地獄なのだろう。苦痛なほどの快感に表情を歪める先生の顔は、股間直撃の壮絶な色気があった。

 俺は布の上からちんこを押さえた。すっかり大きくなり熱を放っている。

 これを先生のトロトロに蕩けた穴に捻じ込んで、出し入れしたらどれほど気持ちいいのだろうか。そんな想像をしたら、伊達と大木に嫉妬した。あの様子ではこれまで何度も先生を犯しまくってきたのだろう。先生も嫌だと言いながら、男のちんぽを受け入れることには慣れている様子だ。

 俺は三人を凝視しながらズボンから出したちんぽを扱いた。

「先生、俺のおちんぽはどう? 気持ちいい? いつもみたいに、教えてくれる?」
「気持ちいいっ、あ、ああっ……伊達のちんぽ気持ちいいっ、もっとおちんぽしてっ、はぁ……ああ……あ、ぁんっ!!」
「おい、伊達。早く終わって代われよ。俺のちんこ、もうやべえよ」

 痺れを切らした大木が伊達を急かす。

「わかってるって。でも先生、俺のちんこのほうが好きだっていうんだもん」
「けっ。なんでだよ。俺と伊達、同じこと先生にしてんのに」
「愛情の違いじゃない? 大木のセックスってでかさと勢いだけで乱暴じゃん? 俺はちゃんと先生も気持ちよくさせてやってるからね」
「もーなんでもいいよ。早く終われ」

 大木は面白くなさそうに吐き捨てた。先生のちんぽをしごき続けているがその手つきもおざなりだ。

「先生、大木がうるさいから、そろそろ終わらせるね。今日も一杯なかに出してあげるから、入れたまま帰るんだよ。お土産」
「おみや……げ……? あっ、あ……わか……った……はあっ……あ、中、いっぱい……出して……っ!」

 表情まで蕩けた先生は、もう正気ですらないのかもしれない。伊達へ中出しをねだって、いやらしく腰を揺らしている。

「あ、あっ、あ、イク……も、う……ぁ……出る……!!」

 先生のちんぽから手を放し、大木は再びスマホを構えた。俺も慌てて自分のスマホを取り出した。カメラを起動し、体で押さえ込みながら服の中で撮影ボタンを押した。ピロリンという音はなんとか最小限に抑えられた。

 撮影時間を表わす数字が増えているのを確認してから、戸の隙間にスマホを差し込んだ。こんな面白いものをただ見るだけじゃ勿体ない。それに俺だって伊達たちと同じことを先生にしたい。この動画を見せて、黙ってて欲しければと天野先生を犯したい。トロトロに蕩けたケツマンコに、俺の童貞ちんこを捻じ込んで、思いっきり突きまくりたい。

「あぁっ、あっ、もう出ちゃ……あぁっ、や、だ、あっ、あああぁっ!!」

 仰け反りながら先生は射精した。勢いよく噴きあがる白い液体もばっちり見えた。ほとんど同時に伊達も達していたようで、深い溜息をつきながら先生から体を離した。

「じゃあ次は俺の番だ」

 喜々として大木が伊達と場所をかわる。先生は少し嫌がる素振りを見せたが、ずぶっと挿入されるとエロい声で喘ぎだした。なんだかんだ言って好きなんじゃないか。

 大木のかわりにスマホを手にした伊達は、先生と向き合う形で隣の机に跨って座った。伊達が何か言う前から、先生は腰を曲げて目の前のちんぽをしゃぶりだした。お掃除フェラまで仕込まれているとは。

 撮影しながら俺も自分のちんこをしごいた。頭の中は天野先生を犯す妄想が広がる。この動画さえあれば、実現できる。

 あとは俺の勇気次第だ。




睨めば恋 2

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覗き(1/2)

2016.10.26.Wed.
先生1先生2


 昼休みが終わって、隣の席の天野先生が職員室へ戻って来た。なんだかいつもと顔つきが違って引きつっているように見えた。

「先生、具合悪いんですか?」

 声をかけたら天野先生はびくっと肩を震わせて「大丈夫です」と笑ったが、どう見てもやせ我慢をしているようにしか見えなかった。

「無理しないほうがいいですよ」
「はい、ご心配ありがとうございます」 

 礼儀正しい天野先生は若くて整った顔をしているから女子生徒に人気がある。生徒だけじゃなく、他の教師からの受けもいい。顔がいいと、性格は普通でも評価が甘くなるから羨ましい。

 先生の机の上のスマホが音を立てた。画面にもなにやらメッセージの一部が表示されている。天野先生はひったくるようにそれを手に取ると、「失礼します」と俺に会釈しつつ、職員室を出て行った。

 音につられてちょっと見てしまっただけなのに、なにもわざわざ職員室から出て行かなくたっていいじゃないか。覗きこんでまで盗み見しようとは思わないよ。

 誰からのメッセージだったんだろう。彼女だろうか。モテそうだから、俺とは縁のない良い女と付き合ってるに違いない。

 しかし、ただの彼女からのメールを、あそこまで隠そうとするだろうか。慌てた様子だったし、わざわざ職員室を出て行くということは、詮索されたくない相手なのかもしれない。

 たとえば、生徒に手を出してしまったとか──。

 あり得ない話じゃない。慕ってくる女子生徒は多いだろう。その中で好みの子を口説いて落とすくらい、天野先生ならわけない話だ。

 生徒に手を出すようには見えないが、爽やかそうに見えて実は裏の顔があるのかもしれない。

 意地の悪い好奇心から、俺は天野先生の後を追いかけた。

 天野先生は廊下の先にある職員用トイレに入って行くところだった。もう返信は終わったのだろうか。もしかして個室に篭って返事を書くつもりか? それともメールじゃなくて、電話をするつもりなのかもしれない。

 盗み聞きのチャンスだ。足音を忍ばせて、俺も男子トイレに入った。

 先生の姿はもうなかった。奥の個室が一つ使用中になっている。そっと近づいて耳をそばだてた。

「そんなこと、できるわけないじゃないか」

 押し殺した声で、天野先生は誰かと会話していた。やはり電話だ。俺の読み通り。

「ここをどこだと……、でも、それはッ……それだけは勘弁してくれ、頼む……!」

 普段聞かないような声で切実に何かを訴えかけている。女相手というより、弱みを握られた相手への懇願のように聞こえた。

「……ああ、ちゃんと……入れたままだ」

 俺は隣の個室へそっと移動した。天野先生は会話に夢中なのか、俺の気配に気付く様子はない。

「そんなことは出来ない……放課後なら……い、嫌だ、それだけは絶対に──!」

 天野先生は言葉を詰まらせるとしばらく無言でいたが、しばらくして「本当か?」と探るような囁き声で言った。

「本当に約束してくれるのか? 絶対に? 信じていいんだな?」

 切羽詰まった様子で確認したあと、天野先生は「わかった。約束だぞ」と返事をして、深い溜息をついた。

 俺は隣で固唾を飲んだ。電話の相手も状況もさっぱりわからないが、天野先生がなにか困難なことを学校でやれと言われたのだろうことは想像できた。

 そして先生の考えを変える条件が出され、先生がやる気になったことも。

 壁に耳を当てていたら、中からゴソゴソと布ずれの音と、カチャカチャとベルトを外す音が聞こえた。ついでに用も足すつもりらしい。俺は耳を離し、便座の蓋の上に座った。

 しばらくして場違いな電子音が隣から聞こえて来た。おそらく、スマホの音。カメラかムービーの撮影音に似ている。

 何かの写真を撮ったのだろうか。盗撮? 慌てて個室の上部と下部の隙間を確認した。撮影しているスマホやその他の機器類は見当たらない。

 ではなにを撮ったんだ?

 訝しむ俺の耳に、乱れた息遣いがかすかに届いた。

「はっ……ぁ……っ……ぁ……」

 大便をきばるものとも思えない、押し殺した吐息。俺は再び壁に耳を当てた。

 荒い息遣いの他に、クチュクチュと濡れた音も聞こえる。なんの音だ? 天野先生はなにをしているんだ? 俺は眉を顰めた。

 ある可能性が1つ、頭に浮かんではいたが、天野先生がそんなことをするはずがないと信じられなかった。

 学校の職員用トイレで、誰かに命令されるままに、自慰をするなんてこと──。

 しかしその時のものとしか思えない音が隣からは聞こえて来る。

「……あ……ぁ……はぁっ……ッ……んっ……」

 男のくせに色っぽい声を出しやがる。それに、耳をすませば摩擦する音も聞こえる。これはもう完全にオナッている音だ。それしかない。

「あっ……はっ、あぁ……ぁ……ん、んん──ッ」

 天野先生の喘ぎ声が止んだ。しごく音も聞こえない。数秒後に、トイレットペーパーを巻きとる音がした。終わったんだ。あのお綺麗な顔をした天野先生が。学校のトイレでオナニーをしてイッたんだ。

 しかも驚くべきことに、事が終わったあと、またあの電子音が聞こえて来た。また写真か? と思ったが閃いた。ムービーで撮影していたのだ。自分がオナる姿を。おそらく、電話の相手に強制されて。

 興奮で身震いしながら拳を握りしめた。これは面白くなってきた。女子生徒の憧れの先生が、教師の信頼と好意を簡単に手にしている先生が、実はワケありの変態野郎だったとは。

 音を立てないよう、俺はトイレの個室をそっと出た。抜き足差し足でトイレを出る頃、水を流す音が聞こえた。

 職員室へは戻らず、天野先生が出て来るのを隠れて待った。しばらくして項垂れた天野先生が出て来た。さっきより具合が悪そうで、足元もふらついている。

 職員室に入る前に顔をあげ、背筋を伸ばした。大きく深呼吸してから職員室の戸を開ける。ああやって平気な顔をして今まで過ごしていたのか。いつから、あんなことをしていたのか。すっかり見た目に騙されていた。



 放課後になると天野先生は静かに職員室を抜け出た。その時、キーボックスからどこかの鍵を素早く取ったのを俺は見逃さなかった。

 電話で「放課後なら」と言っていた。外部の人間の可能性もあったがこれでその線は潰れた。先生は学校の中で、電話の相手と密会するつもりだ。

 先を急ぐ天野先生のあとを見つからないように追いかけた。

 4階まで階段をあがると、さらに校舎の端へと向かう。突然声が聞こえたので俺は足を止めた。角からこっそり先を窺うと生徒が二人いた。

「先生、遅かったじゃん」
「逃げたのかと思っただろ」
「逃げたりしない。……逃げられるわけないだろう」

 それもそうか、と二人は笑い声をあげた。2人は悪目立ちするタイプの生徒で、体の大きいほうが確か大木、長身のほうが伊達という名前だったはずだ。

 まさか電話の相手はこの二人?

 天野先生は持ちだした鍵で視聴覚室を開けた。三人が中に入って行く。俺も素早く移動して戸に張り付いた。

「じゃあ、先生、動画見せてもらおうかな」

 これは伊達の声だ。動画とはトイレで撮影したオナニー動画のことだろう。やはり電話の相手はこの二人。

「その前にっ……、アレを抜いてくれ」
「あれってなあに?」

 声を聞く限り、伊達はわざとわからないふりをしてとぼけているようだ。天野先生が苛立った口調で「昼にお前たちが俺のなかに入れたあれだっ」と言っていることからも確かだ。

「あー、あれね。先生のお尻に入れた、ローターのこと?」

 ローター?! ローターって、あのローターか?! そんなものを天野先生は昼休みからずっと尻に入れられていたのか。いつもと様子が違って見えたのはこれのせいだったわけか。

「どうだった? 俺たちが弄ってやんなくても、ずっと気持ちよくいられたでしょ?」
「気持ちいいわけないだろう……!」
「でも便所でオナッたんだろ?」

 これは大木の声だ。

「それは、おまえたちが脅すから仕方なく……! あ、そうだ、画像! 消してくれる約束だろう?!」
「いいよ~、古い奴は消してあげる。そのかわり今日は新作の撮影しようね、先生」
「なっ! 約束が違うじゃないか!」
「違わないよ、ちゃんと古いやつは消してあげるって言ってるじゃん」

 天野先生は嘘つきだの卑怯だの喚いていたが、あいつらの言葉を簡単に信じる先生のほうが甘いと俺は思った。おそらくあいつらは先生の弱みになる画像を持っているのだろう。それをネタに先生を脅して好きに扱っているのだ。

 教師として、一人の大人として、ここはそんな悪事を見過ごしちゃいけない場面なんだろうが、あのイケメン先生がガキ二人の言いなりになってオナッたりローター仕込んでいるのかと思うと、30目前でいまだ童貞の俺としては胸が空く思いがするのも否定しようのない事実だった。

 止めに入るなら、もう少し様子を見てからでも遅くはあるまい。俺は無意識に唇を舐めていた。




双極

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終わらない夜(2/2)

2016.10.22.Sat.
<前話>

 おずおずと隆二の背中に手をまわした。

「好きだよ、隆ちゃん」

 沙紀の言い方を真似た。隆二は沙紀の名前を呼びながら俺に口付けた。腕の力とは逆に優しいキスだった。啄むように唇を重ね、湿り気を帯びた頃にやっと舌を入れて来た。遠慮がちに侵入してきた舌を俺から吸った。

 隆二の頭を抱えて深く口を合わせる。隆二の手が俺の体をまさぐる。俺は隆二の服に手をかけた。シャツのボタンを外して、中のカットソーを脱がせる。上半身裸になった隆二の体にクラクラと眩暈がする。

 隆二はどこかぼんやりとした眼差しで、自分でベルトを外し、ズボンをおろした。ボクサーブリーフの前は大きくテントを張っていて、先端部分には染みが出来ていた。

 震える手を伸ばし、隆二の下着をおろした。ペニスが勢いよく弾き出る。直接口で迎えに行こうとしたら「いいよ」と止められた。

「沙紀はそんなことしなくていい」

 優しい口調で沙紀へ話しかける。俺に沙紀を投影している。双子だと言っても性別も見た目も違う。かなり酔っている証拠だ。

 隆二は俺の服をひとつずつ脱がせていった。露わになる肩に、平たい胸に、色気のない背中に、いちいちキスを落としていく。本当ならば沙紀にしたかったことを俺にしている。

 下着を脱がせた時は、あるはずのないものを見て眉をひそめていた。素面に戻ってしまうんじゃないかと心配したが、隆二は俺の体を裏返すことで想像の世界を守った。

「俺なら沙紀を大事にするから」

 耳元で囁きながら、隆二は奥の窄まりへ指を入れて動かした。

「一生、沙紀を守るから」
「んっ……ぅ、あ……」

 肩甲骨を舐められて上ずった声が出た。尻に隆二の勃起が当たって擦れる。あれを俺の中に入れるつもりだ。想像しただけで胸が一杯になって泣きたい気分になる。初めてなのに、不安も恐れもない。早く隆二を受け入れたい。

「隆二……、隆ちゃん、もういいよ、きて」
「でもまだぜんぜん濡れてない」
「平気だから、隆ちゃん、お願い」

 沙紀の真似をしてねだる。プライドなんか、この期に及んで何の役にも立たない。

「痛くなったら言うんだぞ、沙紀。すぐ止めるから」

 うんと頷いて、隆二へ腰を突きだした。指が抜けた場所へ隆二の先端があてがわれる。隆二は沙紀を気遣って、ゆっくりそれを埋めて来た。ピリッと裂ける痛みは想定内だ。内臓を押し上げるような圧迫感は、想定外だ。

 嘔気に似た感覚がこみあげて来て、俺は手で口を押さえた。

「痛いか? 大丈夫か、沙紀」
「大丈夫だから……、全部入れて、隆ちゃん」
「もうすぐで全部入るからな」

 励ますように、労わるように、俺の背中を大きな手で撫でる。

 隆二の言葉通り、ほどなくして全部が俺のなかに納まったようだった。尻たぶに隆二の腹がぴたりとくっついていた。

「沙紀、俺たち、ひとつに繋がったんだ。沙紀のここ、俺の全部を飲みこんでる。感動だ」

 と結合部を指でなぞる。その感覚に背筋がゾクゾクと震えた。

「気持ちいい? 隆ちゃん」
「ああ。沙紀の中は熱くて気持ちよくて蕩けそうだ」
「動いていいよ」
「沙紀のことも良くしてやるからな」

 俺の腰を掴んで隆二はゆっくり抜き差しを始めた。俺の中を長大な隆二が動く。最初は苦痛でしかなかったのに、何度も中を擦られているとだんだん慣れてくる。隆二の先走りと腸液とでぬめりも出て引っかかりなく動きがスムーズになる。

「……あっ……はぁ……ん」
「辛くないか?」
「だいじょう、ぶっ……気持ち、い……っ」

 腰を動かす速度があがった。快感よりも、隆二のペニスで体を貫かれているという事実に酔いしれた。

「ああっ、あっ、もっと、奥まで来て」
「こうか?」

 隆二が奥深くまで俺を突きあげる。ずり上がりそうになり、俺は畳みに爪を立てた。

「気持ちいいっ、隆ちゃん、気持ちいいっ」
「俺もだ、沙紀」

 肉と肉のぶつかる音が狭いアパートに響く。俺の頭は白熱したままで、痛みと苦痛は麻痺していた。隆二はギンギンにいきり立っていたが、俺のペニスは小さいままだった。

「もう、イキそうだ」
「だめっ、そのまま……中に出して!」

 隆二が腰を引く動作を見せたので、俺は慌てて止めた。

「でも、それじゃ……」
「隆二だったらいい、隆ちゃんの子供だったら産みたいっ」
「俺も、沙紀に俺の子供を産んで欲しい」

 隆二は腰を振り続け、最後は俺の中に射精した。決して妊娠することのない、男の俺の体へ。



 まだ夢見心地に俺のことを沙紀と呼びながら髪の毛を撫でつける隆二に寝間着を着せ、布団に寝かせた。沙紀も一緒に寝ようと腕を広げて待っていた隆二は、俺がトイレから戻る頃には眠りに落ちていた。

 泣きつかれた子供みたいな、無邪気な寝顔だった。

 隆二に抱かれた畳の汚れを拭いて、テーブルの上を片付けた。このまま帰ろうかと思ったが目を覚ますまで残ることにした。

 かなり飲んだ隆二が朝起きられるか心配だったのと、昨夜の出来事を隆二がどう処理するつもりなのか、見届けたい思いがあった。

 実らない片思いを何年も続けてきた。この先何年も続けていくのは辛い。俺だってそろそろ決着をつけたい。駄目なことはわかっているから、未練の残らないほどに、こっぴどく振って欲しい。

 壁にもたれて、たまに寝返りを打つ隆二をずっと眺めていた。明け方頃になって隆二は呻きながら目を覚ました。暗闇で自分を見つめる二つの目に驚いたように体を起こし、頭を押さえて顔をしかめた。

「……何時?」
「まだ4時過ぎ」
「俺、いつ寝たっけ」
「日付が変わる少し前くらい」
「そうか……覚えてないな」
「何も覚えてないの?」

 上目遣いに隆二は俺をチラッと見た。

「沙紀が結婚するかもしれないって話なら、覚えてる」
「それは酔う前に話したからね。酔ったあとのこと、何も覚えてない?」
「何かしたか?」

 本当に覚えていないのだろうか。信じられない思いで隆二を見つめる。隆二も不安そうに俺を見つめ返す。

「ずっと沙紀のことが好きだったって、俺に言った」
「俺、そんなこと……そうか、驚いただろう」
「うん、まあ」
「他に俺は何かしたか? 例えば、その、沙紀に電話したりとか」

 何も覚えていないとしても、こんな時まで沙紀のことを気にかけるのか。苛立ちより、ただひたすら悲しい。

 慌てふためいて、必死に謝罪して、沙紀だと思って抱いたのだと、おまえのことなんか少しも好きじゃないのだと、決定的な言葉で突き放してほしかったのに。

「そんなことはしなかったよ」
「それなら良かった」

 安心したように溜息まじに隆二は言ったが、どことなく、残念そうでもあった。酔った勢いで告白していれば、もしもの可能性もあったと期待があったのかもしれない。

「俺は帰るよ」

 壁から背中を離して立ちあがった。

「こんな時間に?」
「タクシー捕まえるよ」
「泊まっていけばいいじゃないか」
「布団、ひとつしかないじゃん」

 隆二は見送りのため玄関までついてきた。俺が沙紀だったら夜道は危ないと言って決して1人で帰さなかっただろう。俺は男だから、1人でも平気だと思われている。実際、平気だ。

「隆二、俺の名前覚えてる?」
「なんだ急に。当たり前だろう」
「言ってみてよ」
「直紀だろ」

 覚えてたんだ。ずっと沙紀沙紀ばっかりで、一度も俺の名前を呼ばれなかったから忘れられてると思っていた。

「また今度食事にでも行こうよ」
「ああ、そうだな」
「おやすみ、隆ちゃん」
「ああ、おやすみ──え、えっ?」

 ハッとした顔をする隆二ににこりと笑いかけ外へ出た。

 隆二に抱かれた。沙紀の身代わりであってもこの事実はかわらない。来た時とは違う体になったのに、案外なにも変わらないものだ。




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終わらない夜(1/2)

2016.10.21.Fri.
※片思い

 親から電話で、妹の沙紀が彼氏を家に連れて来るつもりだと聞いたとき、真っ先に頭に浮かんだのは隆二の顔だった。

 妹の彼氏はこれまでも何度か家に顔を見せに来てはいたようだ。母から聞く話では、真面目で誠実そうな、いい人らしい。

 その人をつれて、「話があるから」と父親がいる休日を指定してやってくるということはつまり、結婚の挨拶をしに来るということだ。

 就職してすぐ付き合い出して今年で4年目。早すぎるということもない。

 もしかすると家族同士の顔合わせがあるかもしれないからその時がきたらまた連絡する、と母親は電話を切った。声の様子から、結婚には賛成のようだ。俺だって、反対する理由がない。

 ただ一つ、隆二のことが気がかりだ。

 隆二は隣に住んでいた一個上の幼馴染みで、小さい頃から兄弟同然に育ってきた仲だ。男女の区別がつく頃、隆二は泥だらけになって一緒に遊んでいた沙紀が女だということに気付いたようだ。

 思春期に入ると沙紀を意識しまくって挨拶一つまともにできなくなった。いつものように沙紀が話しかけても、隆二のほうは緊張してしどろもどろになってしまう。それを恥じて余計に焦り、顔を赤らめ、最後には沙紀を突き放すようにして逃げだした。

「隆ちゃん、最近冷たいよね」

 と沙紀は自分が原因だとは気付ていないようだった。沙紀にとって隆二はいつまで経っても一個上の兄のような存在だったからだ。

 高校生になった沙紀に初めての彼氏が出来たとき、隆二の動揺と落ち込みは相当だった。

 偶然二人が歩いているのを見かけたらしく、俺を呼び出してあれは誰だと聞かれた。直接沙紀本人に訊く度胸はないらしい。彼氏だと答えたら何度も、本当か、間違いないか、と確認された。

 隆二はかなりショックを受けたようで、しばらく茫然としていたが、本当に付き合っているのかと再度確認した後、おかしなことをされていないか、と心配しだした。

「おかしなことって?」

 と俺が聞きかえせば「男は所詮獣だ。沙紀に乱暴を振るうかもしれない。二人きりにならないよう言っておかないと沙紀が傷つくことになる」と真剣な顔で俺に言った。

 付き合いたての二人にはいらぬお節介だと言っても隆二はきかなかった。

「おまえは心配じゃないのか? 実の妹が変な男に唆されているのに」

 隆二のなかで沙紀の彼氏は女をたぶらかす獣になっていた。

 隆二が沙紀を好きなことは、憧れの女性を前にしてあがってしまう純情青年の態度だけじゃなく、後ろ姿を見送るひたむきな視線や、沙紀の笑顔を見てゆるまる頬や、過剰な心配性にも現れていて、それを目にすれば誰でも気付くほどにダダ漏れだった。

 気付かないのは当人の隆二と沙紀くらい。

 一年ほどして、沙紀は彼氏と別れた。彼氏の浮気が原因だったらしい。それを聞いて隆二は「だから言わんこっちゃない。あの男はロクでもない奴だと思っていたんだ」と憤慨しつつ、沙紀が一人になったことを喜んでいた。

 だからと言って告白する勇気もない。告白して振られるリスクがある以上、一個上の兄貴分の立場を死守したほうが今後長く付き合っていけると踏んでのことだろう。

 それほど俺が隆二の心情に明るいのは、物心つく前から一緒にいるという条件に恋愛感情がプラスされているからだ。

 隆二が沙紀を見つめていたように、俺もずっと隆二を見つめてきた。

 妹のことが好きな男のことをずっとそばで見てきた。落ち込んでいる時は励ましたり、さりげなく二人きりになれるよう気を遣ってやったり。

 就職して三人がバラバラになってからは会うことはほとんどなくなった。たまにメールをやり取りする程度。隆二の話題は沙紀のことがメインだ。当たり障りない会話をしたあと、思い出したように沙紀の近況を俺に聞いて来る。

 気付かれたくない本心をどうでもいい話題に挟むやり方は、コンビニで週刊誌でエロ本を挟んでを買うやり方に似ている。それを言ったら隆二は、沙紀はエロ本じゃないと怒り狂うだろうけど。

 月に一度は必ず連絡してくる。だいたい月頭だから、そろそろだ。

 さっきの電話の内容を伝えるべきだろうか。まだ結婚の挨拶だと決まったわけじゃないのに早計すぎるだろうか。だが親同士も仲がいいから、親から隆二へ話が行く可能性も充分ある。最悪、沙紀本人から聞かされるかもしれない。

 沙紀から聞かされるくらいなら、俺がタイミングを見つつ伝えたほうがいい気がする。きっと死ぬほど落ち込むだろうから、そばにいないとなにをしでかすかわからない。

 できるだけ早い方がいいだろう。いつも連絡を待つばかりだが、今回は俺から隆二に電話をした。隆二も『どうした?』と珍しがる。

「会えないかな? 出来れば早め。今週中に」
『何かあったのか?』
「たまには会って話したいなと思って」
『まぁいいけど。ちょっと待て……、明日なら早めにあがれそうだ。急すぎるか』
「明日、いいね、明日にしよう」

 待ち合わせ場所と時間を決めたら、沙紀の話題を振られる前に電話を切った。

 明日、なんて切りだそうか。できるだけ隆二を傷つけたくない。



 傷つけたくない、と願っていても、結婚の二文字を突きつけたらそりゃこうなるよなって、本当はわかっていたんだ。

 待ち合わせした駅から電車に乗って、おりた駅前のコンビニで買い物してから向かった先は隆二のアパート。初めて入る。舞い上がりかける気持ちを押さえ込んで、最初は近況報告。仕事の愚痴とか言い合って、お互い核心へのきっかけを探りあっていた。

 最初に辿りついたのは隆二だった。

「沙紀は元気か」

 って、缶ビール呷りながら、思い出したからついでに訊いてるって体で。

「元気みたい。俺も会ってないからわかんないけど。なんの連絡もないし」
「この前きたメールで、風邪気味だって言ってたぞ」

 メールのやり取りしてたんだ。ちょっとショック受けつつ「知らなかった」って聞き流した。まさかその時、結婚するって話してないだろうな。

「他になんか言ってた?」
「いや。なにも。……まさか」

 はっと何かに気付いたように隆二が俺を見る。

「まさか、おまえ、結婚するのか?」

 驚きと歓喜に目を大きくしながら隆二の頬が緩んで行く。俺は飲みかけの酎ハイを吹きだした。

「ご、ごめっ……」

 むせながらティッシュでテーブルを拭く。早とちりもいいところだが、なんてタイミングの悪い勘違いだろう。

「結婚しないよ、俺は」

 動揺からつい口が滑った。同じようにテーブルを拭いていた隆二の手が止まった。しまった、と顔をあげたら、隆二が膝で立ったまま固まっていた。

「沙紀が結婚するのか?」
「いやっ、まだ、そうと決まったわけじゃ……!」
「いま付き合ってる男と?」

 蝋人形みたいなのっぺりとした表情で、隆二は唇だけを動かした。瞬きすら忘れている。

「沙紀からはまだ何も……、ただ、家に彼氏を連れて来るって聞いただけで。なんの話かは」
「……そうか」

 呆然と呟いて、隆二はすとんと腰を落とした。焦点の合わない目でテーブルを見つめたまま、酎ハイを吸ったティッシュを握りしめる。

「結婚の話かどうか、まだわからないよ」

 隆二の手から汚れたティッシュを取ってゴミ箱に捨てた。引っ張りだすタイプのウェットティッシュを数枚引きちぎって、濡れた隆二の手を拭いてやった。魂が抜けたようになっている隆二はなすがままだ。

「子供が出来たのか?」

 ぽつりと隆二が呟いた。

「そんな話は聞いてない。たぶん、出来てないと思うけど」

 妊娠していたなら、電話で母親が言っていたはずだ。

「結婚するのか……」
「結婚とは全然関係ないことで家に来るのかもしれないけどね」
「付き合って……4年か」

 沙紀が今の彼と付き合い出して、相手の男はどんな奴だと隆二から散々訊かれた。俺も会ったことはないから、母親から聞かされる情報をそのまま隆二に伝えた。

 年齢や仕事はもちろん、人柄や家族構成や実家で飼っている犬の名前まで、全部。京都で泊りの旅行に出かけたことも、遊園地のおみやげになにをもらったかも、2人の仲が順調なのを隆二には伝えて来た。

 隆二だって心のどこかではこの結末を予想していたはずだ。

 隆二はがくりと項垂れた。長いため息をついたあと、息を吸いこみながら顔をあげた。目が真っ赤に充血していた。

「沙紀が幸せなら、それが一番いい」

 と新しい缶ビールを開けた。咽喉を鳴らして一気に飲みほし、また次の一本を開ける。

「飲み過ぎだよ、隆二」

 そんなに強いほうじゃないのに、隆二は2本目もあっという間に空にした。

「めでたいことなのに、酒を飲んでなにが悪い」

 どう見ても祝うって顔つきじゃない。泣きそうな顔をして、完全に自棄酒じゃないか。

「明日も仕事だろ?」
「仕事なんかどうだっていい」

 吐き捨てるように言って三本目に手を伸ばす。泣くのを我慢しているように口をへの字に曲げながらプルタブを起こし、味わう素振りもなく咽喉へ流し込んだ。

「沙紀は本当にそいつが好きなのか」

 酒で腹が満タンになってようやくペースが落ちた頃、隆二が言った。

「俺に聞かれてもわかんないよ。正月以来会ってないし」
「そいつは本当に沙紀を大事にしてくれる男なのか」
「だから……わかんないって……」
「沙紀は結婚するのか」

 隆二は手で顔を覆い隠してしまった。ズッと鼻をすすりあげる音が聞こえる。

「隆二……」
「おまえには白状するけど、実は俺、沙紀のことが好きだったんだ」
「そっか……知らなかったな」

 知ってたよ。もうずっと前から。気付かないふりをするのが大変なくらい、わかりやすかったよ。

「沙紀は俺のこと男として見てないから、俺もずっと黙っていようって思ってたんだ。でも……ダメ元で告白していれば何か変わったのかな。沙紀の結婚を止められていたのかな」

 もしもの話をする涙声を聞いてられなかった。一歳年上ということで、小さい頃から隆二は年長者として振舞おうとしていた。上級生に公園を奪われた時も、誰かが怪我をした時も、本当は怖くて不安なはずなのに、平気なふりをして俺たちを庇ったり、励ましたりしていた。

 それは大人になった今もかわらなくて、隆二は弱ったところを俺たちに見せない。いつも年上のお兄さんであり続けようとしていた。

 そんな隆二が俺の前で泣いている。沙紀の結婚を聞いて、涙を流している。

 俺はかける言葉もなく、顔を隠す隆二の姿を見守った。

「覚悟していたつもりだったんだけどなあ……駄目だったなあ……。こんなことなら、好きだって言っちまえば良かった」
「そうだね。言ってたら、なにかが変わっていたかもね」
「結婚式で告白しちまおうかな」
「結婚式で?!」
「冗談だよ。沙紀に迷惑がかかる」

 顔を撫でるように涙を拭い、隆二は面を晒した。赤い顔。赤い目。涙で睫毛も濡れている。弱々しい溜息をついたそばから、目に涙が溜まっていく。

 隆二は膝に手をついて立ちあがった。よろめいてそばの棚に体をぶつける。俺も咄嗟に腰をあげた。

「大丈夫?!」
「大丈夫。酒がなくなったから買ってくる」
「もういらないよ。充分飲んだ」
「まだ足りない」

 よろよろと覚束ない足取りで玄関へ向かおうとする。また大きく体が揺らいだのでそれを抱きとめた。こんな風に隆二に抱きつくのは子供の時以来だ。あの時とはぜんぜん違う、がっしりと逞しい大人の体に胸が騒ぐ。

「放せ」
「駄目だよ。こんなに酔ってるのに、危ないよ」
「沙紀の幸せを祝いたいんだ。俺なんか、どうなったっていい」

 涙を零しながら自暴自棄に手足をばたつかせて身をよじる。体格でも力でも勝てない俺はずるずる引きずられてしまう。

「駄目だって、隆二!」
「うるさい!」

 俺を振り払おうとする隆二と、必死にしがみつく俺。バランスを崩して二人とも床に倒れ込んだ。尻もちをつく俺の上に隆二が覆いかぶさる。床に手をつき俺の体を跨いだ隆二の目から、ボロボロと涙が落ちて来た。

「飲み過ぎだよ」
「沙紀」

 と隆二は手を俺の頬に当てた。しっとりとした、大きくて熱い手だった。

「俺は沙紀じゃないよ」
「よく似てる」
「そりゃ双子だもん」
「俺じゃ駄目か」

 いきなり隆二が抱きついてきた。体重をかけられて、床に押し倒される。隆二の腕が俺の体を強く抱きしめた。

「隆二っ……、ちょっと! 俺は沙紀じゃないってば!」
「ずっと、こんなに好きなのに……!」

 首元に熱い息がかかって、抵抗する力が抜けた。このまま身をゆだねてみればいい。欲望という名の悪魔が頭のなかで俺に囁く。




鬼は笑うか

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凹の懊悩(2/2)

2016.10.16.Sun.
<前話はこちら>

 今日もホテルに行くのだと思っていたが、連れて行かれたのは先輩が一人暮らしをしているマンションだった。

「適当に座って」

 と言われたので二人掛けの薄いグリーンのソファに腰をおろした。意外に片付いた部屋を見渡していると、目の前のテーブルに発泡酒が置かれた。先輩が無言で「飲め」って顎をしゃくる。

 ちびちび飲んでいる間、先輩は一度玄関のほうへ姿を消し、戻って来ると今度はベランダに出て洗濯ものを取り入れ始めた。毎日こうして家のこともきちんとしているんだろう。意外な一面だった。

「先にシャワー浴びる?」

 取り込んだ洗濯ものを畳んでタンスに仕舞いながら先輩が言った。間が持たず頷いた。

 実家の風呂より若干コンパクトな風呂場でシャワーを浴びた。エネマグラやアナルバイブを捨てられてから尻を弄っていないから、そこは入念に洗った。もう勃起した。

 前回、先輩に自分のアナルを使ってくれと言ったのは、本物のちんこを突っ込まれたらどんなだろうという、純粋な好奇心からだ。

 好奇心はもう満たされている。どんなものか経験したから二度もする必要はない。必要ないのに、なぜ俺は先輩の家でシャワ浣しているんだろう。期待して勃起させているんだろう。アナニーでも充分気持ちいいのに。

 滾る陰茎を握ってしごいた。すぐ射精した。精液を洗い流してから風呂場を出た。

 用意されていたタオルで体を拭く。「俺も」と今度は先輩がシャワーを浴びた。部屋に戻り、ぬるくなった発泡酒に口をつけた。部屋の奥にはベッドがある。黒いベッドカバーだ。なんだかエロい。

 シャワーの音はまだ止まらない。ソファから腰をあげ、ベッドに移った。先輩はここで何人の女を抱いたのだろうか。俺は何人目だろう。男では俺が初めてだろうけど。

 腰に巻いていたタオルを取って布団の中にもぐりこんだ。先輩の匂いがする。待っている間、尻穴に指を入れて解しておいた。また勃起した。

 シャワーの音が止んで先輩が部屋に戻って来た。股間のちんこをブラブラさせながら、濡れた頭をガシガシと拭いている。
 先輩はソファではなく、ベッドに腰をおろした。

「準備できてる?」

 と聞かれたので「はい」と答えた。

「じゃ、やるか」

 先輩が布団をめくる。元気な俺の股間を見て薄く笑った。

「また一回出した?」
「……はい」
「このアナニー中毒」

 からかうように言って先輩は俺の乳首を舐めた。

「ひっ?!」

 予想もしていなかったことをされて間抜けな声が出た。先輩が咽喉の奥でクックと笑う。

「な、なにやってんですか」
「お前の乳首舐めてる」
「それはわかってますけど!」
「乳首舐めながら、お前のちんこ、触ってる」

 言うや、先輩はその言葉通りにした。俺の乳首を口に含んで舌先でレロレロと舐めながら、勃起ちんこを握ってコスコスと扱きだした。

「あっ、なんで、そんな……っ!」
「こっちのほうが気持ちいいと思って」
「そんなのいいですから、早く入れて下さいよ!」
「色気もクソもねえ奴」

 呆れた口調で言うくせに、先輩は楽しそうな表情のままだ。そういう手順を踏まれたらどんな顔をすればいいかわからないじゃないか。凸凹への利益が一致しただけマスのかきあいなのに、俺が彼女へするみたいにやられたら、変な気分になる。

 理恵子の顔が頭をよぎった。これは浮気か? 前回は完全に好奇心だった。オナニーの延長。風俗の代わり。二回目のこれはなんだ? 好奇心じゃない。自慰でも風俗でもない。

 だって、こんなに後ろめたい。

「いいって言ってるじゃないですか!」

 いつまでも俺の乳首を舐め続ける先輩の肩を叩くように押した。先輩が遠慮がちな笑みを見せたので、先輩を傷つけたような申し訳ない気持ちになる。

「……だって! 先輩、ただ穴に突っ込みたいだけでしょ? アナルセックスしたいだけなんだからとっとと突っ込んで終わらせてくださいよ!」
「わかったって」

 やれやれって感じで先輩は体を起こした。前回は気付かなかったが、先輩って胸、広かったんだ。意外に着痩せするタイプだって新発見に、心臓がキュッとなった。

 俺は先輩を男として意識してしまっている。性的な目で見ている。以前はこんなことなかった。優しくて、意外と頼りになって、見かけによらず優秀ではあったけど、女関係にだらしなくて、下ネタ大好きで、面倒見のいい先輩風吹かすところがウザくて、一定の距離を保っていたい相手だったのに。

 そうだ。自分からその線を踏み越えるきっかけを作ってしまったんだ。

 先輩は俺の膝頭に手を置いて左右に開いた。そして中心に、勃起したものをあてがう。

「まっ、待って下さい。後ろ、向きますから」
「いいよ、このままで」
「俺の顔見て、できるんですか?」
「この前もできただろ」
「あの時は酔った勢いで」
「お前のこと、案外可愛いと思ってるよ、俺は」
「なっ」

 なに馬鹿なこと言ってるんですか、気持ち悪い。って普段なら言えるのに今日はなぜか言葉を詰まらせ顔を火照らせている。

「……先輩、すっかりハマッてるじゃないですか。どうするんですか。アナルセックスさせてくれる彼女、なかなか見つからないのに」
「だよなー。お前のせいだぞ。未経験なら憧れのまま夢見ていられたのに、一度味わったら病みつきになっちまったじゃねえか」

 俺で良かったら相手しますよ。のど元まで出かかったけど、出せなかった。さすがにそれは言っちゃいけない気がする。一線どころか、深みに嵌る。先輩にも引かれてしまう。

「このまま入れるぞ」
「あ、はい」

 入れやすいように、自分の膝に腕を通し持ち上げた。先輩の亀頭がぴたりとくっつく。

「忘れてた」

 一度離れていって、また戻って来る。先輩は手にローションボトルを持っていた。そんなものを常備しているとはさすが先輩だ。先輩はローションを陰茎に垂らすとしごいて馴染ませた。

「いくぞ」

 って普段より低めの声で言って、体を前に倒す。亀頭が中に入ってきた。

「あ……はああ……っ!」

 力を抜いて先輩を受け入れる。アナニーしていなかったせいかきつい。先輩が大きいのかもしれない。

 ゆっくりと先輩が中に入ってくる。熱くて、硬くて、男らしい。

「ああっ……先輩……!!」
「うん? きつい?」
「違い、ます……っ……気持ちいいです……!」
「俺も。お前の中、すげえ気持ちいい」

 優しく細められた目にまた心臓がキュッと縮まる。さっきからなんだこれは。まさか先輩にトキめいてるっていうのか? 一度肌を合わせたら、先輩相手でもこんなに意識してしまうのか。軽々しくアナルセックスしようと誘うんじゃなかった。

 リズム良く先輩が腰を動かす。前回みたいにガツガツ突っ込んでくるんじゃなく、俺の様子を窺うような動かし方だ。余裕が感じられる。

 前立腺の場所も覚えているんだろう。さっきからしっかり擦っていく。

「ふぅっ、んっ、あ、ああぁっ」
「ここだろ、お前のいいとこ」
「あはぁっ、はいっ、あっ、あぁんっ」
「ちんこ咥えてる時は、素直だよな、お前って」
「うっ……さい、ですよ……あっ、あっ」

 ガクガクと揺さぶられて、アンアンと声をあげて、頭の中が蕩けて行く。実際、理恵子より喘いでいる。体の中にスイッチがあって、先輩のちんこがそれを押しているんじゃないだろうか。自分じゃないみたいだ。気持ちがいい。玩具をつかったアナニーでは味わえない満足感。

 声を抑えられない。気持ちが走る。どうでもよくなる。殻を破り捨てて、先輩に全部晒したくなる。先輩なら、笑って全部受け止めてくれるような気がする。

「あはぁっ、あっ、そこっ、先輩、そこですっ」
「わかってる。ここだろ」
「ああっ、あんっ、い、いいっ、気持ちい、です、先輩……ッ!!」

 昇りつめる感覚。玩具なら自分で調整できるのに、先輩はお構いなしに容赦なく責めたてる。自分のペースで出来ないから怖い。

「はぁっ、んっ、ああぁあっ、や、ああぁ……先輩、先輩っ……」
「どうした?」

 優しい声で訊ねられて胸の底がくすぐったい。腕を伸ばしたら先輩も顔を近づけて来た。首に腕をまわして引きよせた。先輩に体を押しつぶされるような体勢だが、この苦しさも心地良い。

「先輩……、ゴムつけるの、忘れてますけど」
「あ、そうだったな」
「嘘つき」

 と笑ったら、先輩に口を塞がれていた。乾いた唇を濡らしながら、ぬるりと舌が入ってくる。先にキスしてきたのは先輩だったが完全に俺から誘っていた。

 舌同士が触れ合う。俺からも積極的に絡めた。先輩とのキスは煙草の味がする。副流煙を目の敵にする嫌煙家なのに、先輩の味だと思ったら腰にクル。もうイキそうだった。

 キスしながら先輩が中で蠢く。馬鹿になりそうなほど気持ちいい。

「先輩……っ」

 唾液の糸を引きながら唇が離れる。

「イキそうだろ、お前。すげえ締め付けて来るぞ」
「わかってるなら、動いて下さいよ」
「俺もそろそろだから、一緒にいこう」

 顔の横に腕をついて、先輩が腰を叩きこむ。ベッドも大きく軋む。俺の声と先輩の荒い息遣い。セックスの音だ。背徳のエクスタシーだ。

「だめっ、先輩、俺もう、イキますっ、ああっ、ああぁ、イクッ、出るっ……!!」

 ぎゅっと強く固く抱きしめられた。俺も先輩にしがみついた。ほとんど同時に俺たちは達した。



 シャワーを浴びたが、部屋に戻るのが少し怖いなと思った。また先輩が「やっちゃった。やべえ。どうしよう」って顔をしていたら、前みたいに平然とできる自信がない。なにを言っても虚勢になってしまいそうだ。

 頭にタオルを被って戻った。煙草の匂いがした。先輩はベッドに仰向けになって煙草をふかしていた。前みたいに青い顔をして項垂れちゃいない。

 俺に気付いた先輩が「悪い」と煙草を揉み消した。俺が嫌煙家なのを知っている先輩は、無言で見ていた視線を誤解したようだ。ここは先輩の家なんだから、煙草くらい自由に吸ってくれて構わないのに。

「今日はこのまま泊まっていくか?」
「えっ」

 思いがけない提案に驚く。断るという選択肢は頭になかった。泊まること前提で、その後の不都合や期待や意味を考えていた。

 一線どころか、完全に深みに嵌っている。戻れる気がしない。

 いいんですか、と口を開きかけた時、

「彼女に悪いか」

 と先輩は苦笑いの顔で言った。

 バケツで水をぶっかけられたようだった。もしくは、パラシュートなしで飛行機から突き落とされたような。穴に落ちた上に土をかけられたような。とにかく、目を覚ました先が悪夢だったような気分だ。

「別に。こんなの浮気でもなんでもないですし」
「ははっ、風俗以下だっけ。そんなに割り切れるって、今時の奴は怖いよなぁ」
「割り切ってるのは先輩だって同じじゃないですか。和気さんを口説きながら、俺とヤルこと考えてるんですから」
「口説いてねーって。世間話してただけだし」
「和気さんはケツでやらせてくれるといいですね」

 床に落ちてた服をかき集め、身につける。

「お前なんか怒ってる?」
「怒ってますよ。中出しされて。本当、面倒臭いんですから」
「だからごめんって」
「もう二度としませんから」

 ワイシャツのボタンを適当に留めて、ジャケットは腕にかけた。鞄を拾い上げ、玄関へと向かう。床を踏む足音が乱暴だ。確かに俺は怒っている。最初に誘ったのは俺だ。でも二度目は先輩だ。恋人にするようなセックスをしたくせに、土壇場で理恵子を思い出させるなんて卑怯だ。

 だったら最初から誘うな。キスなんかするな。俺の心を搔き乱すな。

「帰んの?」

 先輩の言葉に呆れて振り返る。帰るよう仄めかしたのはどこのどいつだよ?!

「……お疲れさまでした」

 咽喉から絞り出したような声が出た。部屋を出て、通路を歩く。知らないマンション。知らない場所。通路から見下ろす町並みも見慣れない。この道を、何人の女が往復したんだろう。何人の女が、俺と同じような憤りを感じながら帰ったのだろう。そんな一人になりたくなかった。

 肌寒い初秋の夜。少し冷静になって、やっと理恵子への罪悪感を思い出した。

 これは浮気じゃない。最後の好奇心。先輩の欲求を満たしただけ、俺はアナルセックスをもう一度体験したかっただけ。だから浮気じゃない。風俗以下の、射精行為。

 これで最後。この次はない。今ならまだ、引き返せるはずだ。

 エレベーターに乗り込むと同時にスマホを取り出し、エネマグラと前立腺バイブを注文した。




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凹の懊悩(1/2)

2016.10.15.Sat.
<前話「利害の一致」>

 男子トイレに行く途中の喫煙ルームで先輩を見つけた。派遣社員の和気さんとなにやら楽しげに談笑中。ああ、またか、と内心呆れる。

 見た感じだらしないというか、退廃的というか、やる気なさそうというか、気だるげなのに、先輩は意外や意外、女にモテる。

 積極的に「あの人かっこいいよね」と持て囃される正統派なイケメンではない。ネクタイ緩めがちだし、ガサツだし、いい年して言動がチャラいところがあるから最初は敬遠されがちなのに、一緒に働いているといつの間にか気を許してしまうタイプ。

 好意を持っていると周りに知られたくないが、いざ付き合い出すと優越感を持たせる、そんなタイプの人のようだ。まあ要するに遊び人認定されている。

 そんなあの人と、俺はホテルに行ってしまった。つい先日のことだ。酒で少し気が緩んでいた。アナルセックスがしたいと言われ続けて、アナニーにはまってる俺の尻が疼いた。好奇心に負けた。だから俺のケツを使ってくださいなんて口走ってしまった。

 いくら酒が入っていたからと言って、誰にでもそんなことを打ち明けられるわけじゃない。先輩だったら、断られても誰にも言わずに秘密にしてくれると思ったから、あんな恥ずかしいことを言えた。見た目の緩さに反して、意外とこの人の口は堅い。

 前に、先輩と一緒に昼休憩に行った時のことだ。先輩の携帯にレンタルビデオショップから電話がかかってきた。DVDの返却期限がとっくに切れていて延滞料が発生しているという督促の電話だ。

 先輩は身に覚えがないと答えつつ、借りているDVDのタイトルを聞きだし、他に客のたくさんいる定食屋で恥ずかしげもなく女子高生もののAVタイトルを復唱した。

 食欲が遠のくようなエグくて、汁だくなタイトルばかりを5本。よく借りたな。女子高生好きな事実に若干引きつつ、とぼけているけどこの人が忘れているだけだろうと思っていた。

 数日後、所用で外へ出かけようとしていた俺は、エレベーター近くの非常階段でコソコソしている先輩に気が付いた。

 一緒にいたのは俺の同期の小泉だ。小泉は泣いて詫びていた。「つい魔が差して」だとか「返そうと思ってた」だとか聞こえる。

「防犯カメラの映像見せてもらったらどう見てもお前だから、俺が頼んだっけなーと思って、とりあえず警察に連絡は止めてもらってるから。だから、返しに行く前に俺にも見せろよ。お前のお勧めは?」

 と普段と変わらない先輩の声。延滞していると連絡のあったAVのことだとすぐわかった。おそらく小泉は先輩のカードでDVDを借りたのだ。飲みに行くと人に財布を渡す変な癖のある先輩からカードを盗むのはたやすかったことだろう。

 俺なら絶対許さないが、先輩はそんなことがあってからも小泉と今まで通りに接していた。勝手にカードを使われていたことも、小泉が女子高生好きなことも、一切、誰にも、何も言わなかった。

 一度俺から、あの件はどうなったのかと探ってみたら、酔った時に借りてたみたい、と先輩は何食わぬ顔をして嘘をついた。

 あんなクズな小泉を庇う先輩だから、俺の秘密もきっと守ってくれる、そう思って打ち明けた。先輩が誰かに言った様子はない。誰も俺を変な目で見ない。それに先輩も共犯だ。事が終わったあと、取り返しのつかないことをしたって顔を引きつらせていた人が、自分から際どい話題を振ったりしないだろう。

 煙草を揉み消す先輩が俺に気付いて、目が合った。一瞬、目つきが艶めかしいものになった気がするのは、きっと俺の勘違いだ。セックス紛いの行為をしてしまったから、そう見えてしまうだけだ。

 合わさった視線を逸らし、そそくさとトイレに逃げ込んだ。

 先輩とのあれは、エネマグラやアナルバイブとは違う快感があった。体を合わせながら前立腺を刺激されて、身も心も満たされた。アナニーでは得られないものを得られた。したことを後悔してしまうほど、気持ちよかったのである。困ったことに。

 あれはセックスと言ってはいけない。お互いの利害が一致しただけ。先輩は突っ込みたかっただけ。俺は突っ込まれてみたかっただけ。愛だの恋だの存在しない、凸と凹を擦り合わせただけのマスのかきあいだ。

 用を足し、手を洗っていたら、先輩もトイレにやってきた。

「最近どう?」

 意味のない質問に「まあ、そこそこ」と意味のない返事をする。

「今もまだアナニーやってんの?」
「ちょっと!」

 普通のトーンでなに暴露してくれてんだ、この人は。幸いトイレには他に誰もいないが、もし近くを人が通ったら聞かれてしまうじゃないか。

「訴えますよ」
「で、どーなの」

 小便器の前に立ったまま、先輩が顔だけこちらに向ける。見たくもない隙間に目がいってしまいそうになる。アレが俺の中を……。

「最近はしてないです」
「えー、なんで? 俺のが忘れられないとか?」
「まさか」

 先輩の軽口を鼻で笑い飛ばした。

「捨てられちゃったんですよ。道具一式。彼女に」
「お前彼女いたの? いたのに俺とあんなことしたの?」
「別に浮気じゃないですし。風俗以下でしょ、あんなの」

 ズボンのチャックをあげながら「ひでえ」と先輩が笑う。こちらに来ると水道で手を洗いながら「それで?」と先を促された。

「私に使う気? って、すごい軽蔑した目で見られたから違うって。じゃあ、誰に使ってんのって」
「自分に、とは言えねえよな」
「そしたら、浮気だって騒がれて。あんなにヒステリーだったとは知りませんでした」
「女ってみんなそんなもんだろ」

 あまり選り好みしない先輩はいろんな女を見て来ただけあって達観した台詞を吐く。俺はじっくり相手を観察して、合うか合わないか見極めてからでないと付き合えない。

 今回の彼女だって、真面目で、金使いが荒くなくて、自炊できて、服装もパンツスタイルが多くて、先輩が「小/学生の遠足かよ。なにがおもしれえの?」と馬鹿にした工場見学という俺の趣味にも興味を示してくれる子だったから付き合うことにしたのに。

 人の話をちゃんと聞かないで浮気と決めつけ、「汚らしい!」とヒステリックに叫びながら俺のエネマグラとバイブを捨てた。たまたま親が買い物に出かけていたから良かったものの、家にいたら聞かれていた。

「じゃあ、いつ以来やってねえの?」

 まだこの話題を続けるつもりらしい。内心うんざりしながら指折り数えて「10日ほど」と答えた。

「ふーん。溜まってそうだな」
「別に。普通に抜いてますから」

 横目に俺を見ながらなにやら意味深に笑う。いや、その目に意味があるように、俺が勝手に思いこんでいるだけだ。先輩とあんなことをしたから、やましい勘繰りをしてしまうのだ。これじゃ、何かを期待する女子社員たちと変わらないじゃないか。

「先輩、次は和気さん狙いなんですか?」
「え?」
「派遣の女の人、片っ端から手出してるじゃないですか」
「そんなわけあるかあ」
「わかりやすいんですよ、先輩」
「俺がモテるからってやっかむなよ」

 先輩は俺の肩に腕を乗せ、耳元で囁くように言った。顔のすぐ横に先輩の顔がある。息のかかる距離に。 

 先輩が誰かと深い仲になるとすぐわかる。誰の目にもわかりやすい。やたら距離が近くなって、ボディタッチが増えるのだ。そう、こんなふうに。

 肩に乗る腕を振り払った。

「触らないでくださいよ。ばっちいな」
「ちゃんと手洗ったわ。お前も見てただろ」

 心外な顔つきで先輩が抗議する。俺は視線を逸らして溜息をついた。先輩は無意識なんだろう。体の距離が近づいた分、心の距離も近づいて、他人の髪や体を触るハードルが無いに等しいほどに低くなってしまうのだ。

 だから誰が見てもわかってしまう。俺と先輩がなにをやったか、男同士でも、見る人が見ればバレてしまうかもしれない。それは困る。とても困る。むやみに触らせてはいけない。

「はーん、わかった、そういうわけか」

 顎を撫でながら、先輩がなにやらしったかぶってにやりと笑う。

「なんですか?」
「ここ来る前に溜息ついてただろ。おもちゃを彼女に捨てられて、欲求不満だからだな?」
「溜息?」

 なんの話かわからなくて首を傾げた。

「さっき、喫煙ルームの前通る時に。ハアーっって、でかい溜息ついてただろ」

 言われて記憶を辿る。そういえば、喫煙ルームで和気さんとイチャついてる先輩を見て、またか、と呆れた記憶がある。その時、まったく無意識に溜息が出ていたのかもしれない。

「仕事疲れですよ」
「なんだ。生理かと思った」

 軽蔑の眼差しを向けたら「冗談だって」と先輩は笑った。全然面白くない。

「具合悪いのかと思って見に来てやったんだぞ」

 これでも一応、心配はしてくれたわけか。終始シモの話題だったけど。

「まあなんだ、また付き合ってやってもいいぞ」
「はい?」
「道具がなくて、出来ないんだろ? 欲求不満なら、俺のコレ、使っていいから」

 自分の股間を指さして、先輩はニッと笑った。つい指の動作につられて先輩の股間に視線が行く。あの夜見た先輩のちんこが頭に浮かぶ。尻穴が疼く。

「また道具を買い直すんで、大丈夫です」

 視線を先輩の顔に戻した。顔の内側がじんわり熱い。

「おもちゃより、俺のが良かっただろ」

 愉しげに細められた先輩の目。視線が絡みつく感じがして呼吸が苦しい。

「先輩のほうこそ、ハマってんじゃないですか。そんなに俺としたいんですか」
「俺も溜まってるから」

 ふーん。そういうことですか。俺だと気兼ねなく中出しし放題ですもんねー。冗談じゃない。

「中に出されるのはもうご免です。面倒なんですよ、あれ」
「じゃ、次はゴムつけるよ」
「えっ?」
「いつにする?」
「えっ、あの?」
「今日は? 予定ある?」
「いえ、ないですけど」
「じゃ、今日な。残業すんなよ」

 矢継ぎ早に質問して勝手に決めると、先輩はトイレを出て行ってしまった。遠ざかる鼻歌が聞こえる。

 一度きりのつもりだったのに。先輩もホテルで青ざめていたくせに。なんでまたやるつもりになったんだろう。俺もなんで断らないんだろう。追いかけて「嫌です」って言えばいいだけなのに。

 なに心臓ドキドキさせてるんだ? なに顔赤くしてるんだ?

 鏡に映る俺は、何も答えてくれない。




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