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嘘 (7/7)

2016.08.04.Thu.
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 喋っている間に少し小さくなったのか、ただ俺が慣れたのか、痛みや異物感はなくなっていた。それどころか、ペニスの付け根の裏側を擦られて気持ちがいい。リズム良い、適度な刺激で、自然と俺も勃起した。

「んっ、はぁっ、ああ……、それ、そこ……きもちぃ……」
「俺も気持ちいい」

 上擦った今井の声。いつも全方位に神経を張りめぐらせている自意識過剰の今井には珍しい、何も取り繕っていない、素の声だ。

 自分でペニスをしごいていたら、今井に止められた。汚いと言っていた俺のものを握って、手を上下に動かす。

「キスってしてもいいの?」

 切ない表情で、俺に確かめる。コンドームもつけず、躊躇なく中出しするような奴が。

「いいよ、して」

 両腕を今井の首にまわして引きよせた。唇が合わさると今井のほうから舌を入れて来た。がむしゃらに中で動かすだけなのが今井らしい。その拙さが好きだ。

「中に出していい?」

 顔のすぐそばで、囁くように許可を求めて来る。迷わず頷く。俺の上で今井の体が伸びあがった。床に手をついて、抜き差しの速度をあげる。

 痛みはない。苦しさもない。蕩けるような快感があるだけ。

「はやくっ……うっ、んんっ、なかにっ……ちょ……だい……っ!! いっぱい……欲しい……!」

 溺れる者のように、今井の背中を掻き抱く。

「そんなに俺が好き?」
「好き……大好きぃ……!」
「だったらもう、許してあげる」
「……え……? 何を?」
「全部。……イッていいよ」

 今井は俺のペニスをしごいた。

「あっ、あっ、あっ! やっ……ああぁ……まっ……ほんとに、イッちゃう……っ!!」

 先走りが俺の腹の上に降りかかる。本当にイッてしまう。今井がいる体の中が熱い。ジンジンと腰から背骨が甘く痺れる。だんだん視界がぼやけて、頭の中が真っ白に漂白される。

「あぁっ、だめ、もうっ……今井、俺、イッちゃう……先に、イッちゃう……!! やだっ、はあ……んっ……今井と、一緒が……いい……!」
「素直なほうが、祐樹は可愛いよ」
「……くぅ……んっ、はっ、ああぁっ……!!」

 今井にしがみつきながら、射精した。


 ※ ※ ※


「泊まっちゃう?」

 俺が提案すると、中原は「仕方ねえな。料金は折半だからな」と赤くなった頬を膨らませて目を伏せた。

 シャワーを浴びるのもダルくて、セックスが終わったあと、俺たちはベッドに潜り込み、そのまま寝てしまった。

 先に目を覚ましたのは俺だった。中原は俺にぴったり寄り添って眠っている。きっとまだ、自分のやらかしたポカには気付いていないだろう。

 セックスの最中、中原は喘ぎながら「今井」と俺の本名を呼んだ。でもそれより前、前回会った時も、中原は俺を一度本名で呼んだ。

 ホテルを出て、タクシーに乗り込んだ時、「じゃあな、今井」と中原は口走っていた。呑気に手を振っていたから、あれも気付いていないだろう。俺の方はあまりの衝撃に茫然自失状態だったというのに。

 伊藤を今井と言い間違えるなんてことはない。中原はいつからかはわからないが、俺を思い出していたのだ。思い出していながら、知らないふりをし続けていた。

 推測される理由は、ウリをしていることを、かつてのクラスメートに恥じたから。俺が中原を忘れていた場合、説明が面倒だと思ったから。俺を不登校に追いやった引け目から。あとはなんだ。

 本当の理由は本人に聞かないとわからない。

 中原が目を覚ましたからと言って、今のところそれを問いただす気分じゃない。

 仕返しを兼ねた意地悪な質問をしていくうちに、もしかしたら、中原は俺のことが好きだったんじゃないかと思うようになった。

 門田というのは中原の嘘くさい。なぜか聞き覚えのある名前だが、一年で同じクラスだったというのに、俺のほうはまったく記憶にないからだ。

 それに中原は、門田が俺に似てると言った。

 俺のことを思い出していながら、知らないふりを続け、俺に似ている男が好きだったと言う。

 どうしても、確かめたくなった。

 前でするのは嫌だと断ったが、中原をひっくり返して前から挿入した。中原の目尻に涙が見えた。平気なふりをして隠そうとしていたけど、少し怯えているような表情だった。この時初めて実は痛がっていることに気付いた。

 口の悪い中原がなぜそれを隠すのか。俺が好きだから? 俺に恥をかかせないため?

 だとしたら、俺をみくびった失礼な話だ。

 中原を気持ちよくさせるために動いた。なのに、中原のペニスは小さいままだ。マンションのデブに犯されている時は勃起させていたくせに。そう思ったらカッと頭に血が上った。

「あれ、縮んじゃってる。前みたいに、自分で触んなよ。俺はそんなの、汚くて触りたくないから」

 苛立ちを中原にぶつけると、中原は強がった泣きそうな目で俺を睨んだ。

「凄いよね。貪欲っていうか。恥知らずっていうか。誰でも、なんでも、いいんだね」
「んなわけ、ねえだろ」
「マンションのデブと、俺と、どっちがいい?」
「どっちもヘタクソ」
「どうせそれも冗談なんだろ? 俺の方があのデブより祐樹のこと好きだし、愛してるのに」
「はあっ?!」

 意趣返しを狙った俺の会心の一撃。見事に中原に効いた。中原は両目を大きく開いて、顔を真っ赤にした。

「はは! 顔が赤くなった。本気にした?」
「嘘かよ、びっくりさせんなよ」

 中原の顔から驚きと喜びがすうっと消えていくのがわかった。中原は隠せないほどに、がっかりしていた。

 中原はわかりやすい奴だった。高校の時はなにを考えているのかさっぱりわからなかった。わかりたくもなかったが、今はよくわかる。こいつはただ、強がっているだけだと。

「そんな風に慌てるの、可愛いね」
「うるさい……っ!!」

 恥ずかしそうに、狼狽える姿は、素直に可愛いと思った。

「嘘じゃないよ。祐樹、可愛い」
「俺の顔、好みじゃないって言ったくせに」
「言った? 言ったね。ごめん、嘘」

 一瞬、中原は悲痛な表情を見せた。俺の言葉の何が嘘で何が真実なのかわからなくて混乱していたのだと思う。

 泣きそうな顔を見たら満足した。これ以上いじめるのは可哀そうで、今度は慰めてやりたくなった。

 俺の思わせぶりな言葉に対する中原の反応。やっぱり俺の事が好き。これは自惚れなんかじゃないだろう。今ではそれを確信している。

 今でも中原のことは嫌いだし、憎いし、鬱陶しい奴だと思うが、可愛いと思う感情が芽生えているのも、また事実だ。一度ならず二度までも、セックスしてしまったせいだ。情が移った。

 隣で寝息を立てている中原の前髪を救い上げ、低い鼻を摘まんだ。

「……うう……うっ……」

 息苦しくなったのか眉間に皺を寄せる。それを見て頬を緩める俺がいる。

 お互い誰だか思い出していたというネタばらしは今度にしよう。急ぐ必要も、バラす必要もそれほど感じない。きっと自然とその時期は訪れるだろう。たぶん、中原のミスによって。

 慌てふためく姿を想像したら――。

 早く、目を覚まさないだろうか。

 抱きしめて頬にキスした。中原の瞼がゆっくり開く。





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