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更新履歴・お知らせ

2017/11/20
雨の日の再会1、更新

2017/11/19
ピンクの唇、完結

2017/11/2
赤い爪、完結

2017/10/28
スカートめくり、完結

2017/10/23
続続続・ひとでなし2、完結

2017/10/22
続続続・ひとでなし1、更新

2017/10/21
続続・ひとでなし2、完結

2017/10/20
続続・ひとでなし1、更新

2017/10/19
続・ひとでなし2、完結

2017/10/18
続・ひとでなし1、更新

2017/09/08
ひとでなし2、完結

2017/09/07
ひとでなし1、更新

2017/09/02
ほんとにあったら怖い話2完結

2017/09/01
ほんとにあったら怖い話1更新

2017/07/28
コンビ愛更新、完結

2017/07/06
第二ボタン2更新、完結

2017/07/05
第二ボタン1更新

2017/05/25
ちょろくない2更新、完結

2017/05/24
ちょろくない1更新

2017/05/16
やっぱちょろい2更新、完結

2017/05/15
やっぱちょろい1更新

2017/02/11
メリクリあけおめ2更新、完結

2017/02/10
メリクリあけおめ1更新

2016/11/14
義父の訪問更新、完結

2016/10/27
覗き2更新、完結

2016/10/26
覗き1更新

2016/10/22
終わらない夜2更新、完結

2016/10/21
終わらない夜1更新

2016/10/16
凹の懊悩2更新、完結

2016/10/15
凹の懊悩1更新

2016/09/28
可愛さも憎さも百倍2更新、完結

2016/09/27
可愛さも憎さも百倍1更新

2016/09/22
利害の一致2更新、完結

2016/09/21
利害の一致1更新

2016/09/16
楽しい記憶喪失!3更新、完結

2016/09/15
楽しい記憶喪失!2更新

2016/09/14
楽しい記憶喪失!1更新

2016/09/13
楽しい同棲!2更新、完結

2016/09/12
楽しい同棲!1更新

2016/09/11
Phantom15更新、完結

2016/09/10
Phantom14更新

2016/09/09
Phantom13更新

2016/09/08
Phantom12更新

2016/09/07
Phantom11更新

2016/09/06
Phantom10更新

2016/09/05
Phantom9更新

2016/09/04
Phantom8更新

2016/09/03
Phantom7更新

2016/09/02
Phantom6更新

2016/09/01
Phantom5更新

2016/08/31
Phantom4更新
リンク一件追加

2016/08/30
Phantom3更新

2016/08/29
Phantom2更新

2016/08/28
Phantom1更新

2016/08/04
嘘7更新、完結

2016/08/03
嘘6更新

2016/08/02
嘘5更新

2016/08/01
嘘4更新

2016/07/31
嘘3更新

2016/07/30
嘘2更新

2016/07/29
嘘1更新

2016/07/18
Love Scars3更新、完結

2016/07/17
Love Scars2更新

2016/07/16
Love Scars1更新

2016/07/13
行きつく先は5更新、完結

2016/07/12
行きつく先は4更新

2016/07/11
行きつく先は3更新

2016/07/10
行きつく先は2更新

2016/07/09
行きつく先は1更新

2016/07/04
電話が鳴る7更新、完結

2016/07/03
電話が鳴る6更新

2016/07/02
電話が鳴る5更新

2016/07/01
電話が鳴る4更新

2016/06/30
電話が鳴る3更新

2016/06/29
電話が鳴る2更新

2016/06/28
電話が鳴る1更新

2016/06/16
今日の相手も2更新、完結

2016/06/15
今日の相手も1更新

2016/06/08
今日の相手は2更新、完結

2016/06/07
今日の相手は1更新

2016/05/25
いおや2更新、完結

2016/05/24
いおや1更新

2016/05/14
奇跡2更新、完結

2016/05/13
奇跡1更新

2016/04/28
ターゲット2更新、完結

2016/04/27
ターゲット1更新

2016/03/02
視線の先2更新、完結

2016/03/01
視線の先1更新

2016/02/23
性癖の道連れ2更新、完結

2016/02/22
性癖の道連れ1更新

2016/02/15
DL販売お知らせ

2016/01/20
尾行2更新、完結

2016/01/19
尾行1更新

2015/12/07
遺作2更新、完結

2015/12/06
遺作1更新

2015/12/02
昼夜2更新、完結

2015/12/01
昼夜1更新

2015/11/26
大小2更新、完結

2015/11/25
大小1更新

2015/11/15
彼はセールスマン2更新、完結

2015/11/14
彼はセールスマン1更新

2015/10/22
2度あることは2更新、完結

2015/10/21
2度あることは1更新

2015/09/18
死神さんいらっしゃい2更新、完結

2015/09/17
死神さんいらっしゃい1更新

2015/09/08
Congratulations2更新、完結

2015/09/07
Congratulations1更新

2015/09/01
待田くんに春の気配3更新、完結

2015/08/31
待田くんに春の気配2更新

2015/08/30
待田くんに春の気配1更新

2015/08/11
亀の恩返し2更新、完結

2015/08/11
亀の恩返し1更新

2015/08/07
Aからのメール2更新、完結

2015/08/06
Aからのメール1更新

2015/07/06
5年後2更新、完結

2015/07/05
5年後1更新

2015/07/04
待っててね2更新、完結

2015/07/03
待っててね1更新

2015/05/11
その後3更新、完結

2015/05/10
その後2更新

2015/05/09
リクエスト小説
その後1更新

2015/05/05
待田くんに春はこない2更新、完結

2015/05/04
待田くんに春はこない1更新

2015/04/30
楽しいシーソーゲーム!2
更新、完結

2015/04/29
楽しいシーソーゲーム!1更新

2015/04/21
楽しい親子喧嘩!1
楽しい親子喧嘩!2更新、完結

2015/04/16
楽しい放課後!2更新、完結

2015/04/15
楽しい放課後!1更新

2015/04/06
楽しい合コン!2更新、完結

2015/04/05
楽しい合コン!1更新

2015/04/01
楽しいお見舞い!2更新、完結

2015/03/30
楽しいお見舞い!1更新

2015/03/24
楽しい旧校舎!2更新、完結

2015/03/23
楽しい旧校舎!1更新

2015/03/16
楽しい入院生活!2更新、完結

2015/03/15
楽しい入院生活!1更新

2015/03/05
楽しい遊園地!2更新、完結

2015/03/04
楽しい遊園地!1更新

2015/02/27
楽しいロッカールーム!2更新、完結

2015/02/26
楽しいロッカールーム!1更新

2015/02/16
楽しいOB会!2更新、完結

2015/02/15
楽しいOB会!1更新

2015/02/14
一周年!!
いつもありがとうございます!
君は日向の匂い更新、完結
シンデレラアイドルのSSです

2015/02/13
保健室の先生2更新、完結

2015/02/12
保健室の先生1更新

2015/02/11
teeth2更新、完結

2015/02/10
teeth1更新

2015/02/09
楽しい初カノ!2更新、完結

2015/02/08
楽しい初カノ!1更新

2015/01/31
楽しい勉強会!2更新、完結

2015/01/30
楽しい勉強会!1更新

2015/01/23
楽しいお泊り!2更新、完結

2015/01/22
リクエスト小説
楽しいお泊り!1更新

2015/01/08
明けましておめでとうございます!
本年も宜しくお願い致します!
リクエスト小説
両想い1、2更新、完結

2014/12/12
楽しい合宿!2更新、完結

2014/12/11
楽しい合宿!1更新

2014/12/01
アガルタ2更新、完結

2014/11/30
リクエスト小説
アガルタ1更新

2014/11/23
朝のお楽しみ2更新、完結

2014/11/22
リクエスト小説
朝のお楽しみ1更新

2014/11/14
即位式2更新、完結

2014/11/13
即位式1更新

2014/11/04
裏ドSくん3更新、完結

2014/11/03
裏ドSくん2更新

2014/11/02
裏ドSくん1更新

2014/11/01
ひみつのドSくん2更新、完結

2014/10/31
ひみつのドSくん1更新

2014/10/30
伴侶1、2更新、完結

2014/10/27
支配人3更新、完結

2014/10/26
支配人2更新

2014/10/25
支配人1更新

2014/10/24
隣人3更新、完結

2014/10/23
隣人2更新

2014/10/22
隣人1更新

2014/10/15
元上司2更新、完結

2014/10/14
リクエスト小説
元上司 1更新

2014/10/10
ニコニコドッグⅡ 2更新、完結

2014/10/09
リクエスト小説
ニコニコドッグⅡ 1更新

2014/10/04
茶番2更新、完結

2014/10/03
リクエスト小説
茶番1更新

2014/09/12
「ちょろい 2」更新、完結

2014/09/11
「ちょろい 1」更新

2014/09/08
「新雪の君」更新、完結

2014/09/06
コメントお返事させて頂きました

2014/09/05
「すばらしい日々3」更新、完結

2014/09/04
「すばらしい日々2」更新
コメントお返事させて頂きました

2014/09/03
リクエスト小説
「すばらしい日々1」更新
コメントお返事させて頂きました

2014/09/01
「好きと言って4」更新、完結

2014/08/31
「好きと言って3」更新

2014/08/30
「好きと言って2」更新

2014/08/29
リクエスト小説
「好きと言って1」更新

2014/08/24
「純粋に近付いた何か2」更新、完結

2014/08/23
リクエスト小説
「純粋に近付いた何か 1」更新

2014/08/15
コメントお返事させて頂きました

2014/08/14
再会2更新、完結
コメレスさせて頂きました

2014/08/13
リクエスト小説「再会1」更新
「ノビ」の続編です

2014/07/26
コメントお返事させて頂きました

2014/07/25
息子さんを僕にください2更新完結

2014/07/24
リクエスト小説「息子さんを僕にください1」更新
娘さんを僕に下さいとは無関係ですw

2014/07/22
コメントお返事させて頂きました

2014/07/20
久しく為さば須らく2更新、完結
コメントお返事させて頂きました

2014/07/19
リクエスト小説「久しく為さば須らく1」更新
コメントお返事させて頂きました

2014/07/18
コメントお返事させて頂きました

2014/07/16
コメントお返事させて頂きました

2014/07/15
コメントお返事させて頂きました

2014/07/14
コメントお返事させて頂きました

2014/07/13
リクエスト小説「嫉妬せいでか2」更新、完結
コメお返事させて頂きました

リクエスト小説「嫉妬せいでか1」更新

2014/07/11
拍手お返事させて頂きました
お知らせ一件

2014/07/10
コメント、拍手お返事させて頂きました

2014/07/09
拍手お返事させて頂きました

2014/07/08
コメント、拍手お返事させて頂きました
耽溺 2更新、完結

2014/07/07
拍手お返事させて頂きました
リクエスト小説「耽溺 1」更新

2014/07/06
拍手お返事させて頂きました

2014/07/05
拍手お返事させて頂きました

2014/07/04
コメント、拍手、お返事させて頂きました

2014/07/03
コメント、拍手、お返事させて頂きました
吉原と拓海その後 2更新、完結

2014/07/02
コメント、拍手、お返事させて頂きました
吉原と拓海その後1更新しました

2014/07/01
コメントお返事させて頂きました
シンデレラアイドル2更新、完結

2014/06/30
拍手お返事させて頂きました
シンデレラアイドル1更新しました

2014/06/29
リクエスト募集してます

2014/06/27
拍手お返事させて頂きました

2014/06/24
目は口ほどに 更新、完結

2014/06/17
茶々丸更新、完結
獣姦っぽい

2014/06/11
連鎖 2更新、完結

2014/06/10
連鎖 1更新

2014/06/07
拍手お返事させて頂きました

2014/06/06
拍手お返事させて頂きました

2014/06/05
拍手お返事させて頂きました

2014/06/04
元旦那さん 2更新、完結

2014/06/03
元旦那さん 1更新
旦那さんの続きです

2014/05/29
昨日の記事の続きで拍手お返事させてもらっています

2014/05/28
旦那さん 2更新、完結

2014/05/27
旦那さん 1更新

2014/05/22
夢の時間2更新、完結

2014/05/21
アンケート1位小説「親子」
夢の時間1更新

2014/05/16
この物語はフィクションです更新、完結

2014/05/14
アンケート1位小説「教師と生徒」で先生受け。
信じて下さい更新。完結

2014/05/11
純粋とは程遠いなにか2更新。完結
ダウンロード販売のお知らせ

2014/05/09
純粋とは程遠い何か1更新

2014/05/01
長男としての責務2更新。完結

2014/04/30
長男としての責務1更新

2014/04/27
セフレ更新。完結

2014/04/21
嘘が真になる2更新。完結

2014/04/20
嘘が真になる1更新。
アンケート終了しました
投票してくださった皆さんありがとうございました!

2014/04/15
親切が仇になる2更新。完結

2014/04/14
親切が仇になる1更新

2014/04/11
家庭教師更新。完結

2014/04/09
惚れ薬2更新。完結

2014/04/08
惚れ薬1更新

2014/04/05
ニコニコドッグ更新。完結

2014/04/03
健やかなるときも病めるときも更新。完結
アンケート設置1ヶ月記念更新
回答ありがとうございます!

2014/04/02
お隣さん2更新。完結

2014/04/01
お隣さん1更新

2014/03/28
B3-17 はるか更新。完結

2014/03/27
会話の語尾は常にハートマーク更新。完結

2014/03/24
僕の居場所更新。完結

2014/03/21
兄弟愛(3/3)更新。完結

ストックを全て出し切ってしまいましたので毎日更新は今日で終わりになります。
これからは書き終わり次第更新していきますので、引き続きよろしくお願い致します。

2014/03/20
兄弟愛(2/3)更新。

2014/03/19
兄弟愛(1/3)更新。

2014/03/18
7歳の高校生更新。完結

2014/03/17
7歳の高校生更新

2014/03/16
裏の顔更新。完結
アンケート2位「教師と生徒」
少し違う感じになりました。

2014/03/15
残業も悪くない更新。完結
アンケート結果を反映させてみました。
アンケートに答えてくださった皆さんありがとうございます。引き続きお願い致します

2014/03/14
片思い更新。完結

2014/03/13
クラスの地味男更新。完結

2014/03/12
吉原と拓海更新。完結

2014/03/11
罠更新。完結

2014/03/10
同級生更新。完結

2014/03/09
目覚め更新。完結
FC2小説にて、
閃光戦士フラシュレッド!公開。完結。

2014/03/08
やってられない更新。完結

2014/03/07
地下の城ピュラタ更新。完結

2014/03/06
地下の城ピュラタ更新。

2014/03/05
部室にて更新。完結

2014/03/04
すべからく長生きせよ更新。完結

2014/03/03
秘め事更新。完結
アンケート設置。ご協力お願いします

2014/03/02
映画館にて更新。完結

2014/03/01
大迷惑@一角獣更新。完結

2014/02/28
大迷惑@一角獣更新。

2014/02/27
僕はセールスマン更新。完結

2014/02/26
俺のセールスマン更新。完結

2014/02/25
夏の夜更新。完結

2014/02/24
妄想更新。完結

2014/02/23
先生 その2更新。完結

2014/02/22
洞窟更新。完結

2014/02/21
洞窟更新。

2014/02/20
先生 その1(1-2)更新。
先生 その1(2-2)更新。完結

2014/02/19
娘さんを僕にください更新。完結

2014/02/18
ノビ更新。完結

2014/02/17
ノビ更新。

2014/02/16
1万3千円更新。完結

2014/02/15
1万3千円更新。

2014/02/14
ファンレター更新。完結

2014/02/14
ブログ始動。
「ファンレター」公開。

よろしくお願いします。

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薔薇色の日々
  (「裏の顔」改訂版)

不埒な短編集
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Phantom (4/15)

1話2話3話

 年が明けてから、ハローワークの紹介で、数社面接に行ったがどこも駄目だった。焦りはあるのに、どこか必死になりきれないところがあって、それを見透かされているような気がした。

 引っ越しの話はいよいよ本格的になってきて、父親の勤め先に近いマンションが今第一候補としてあがっている。両親はすでに内見にも行っていた。

 芳明は申し訳ない気がして、引っ越しについては何も口出ししていない。

 樫木が会いに来た日、家まで車で送ってもらったところを近所の人が見ていたらしい。数日後、近所の住民と母親が口論しているのを聞いて知った。

 その住人は下世話なことに、あの車の男は息子さんの恋人か、と言ってきた。

 それに母親がキレて、なんて非常識で恥知らずなんだと相手を怒鳴りつけた。怒鳴られたほうも逆切れして、男にホイホイついて行くように育てたからあんな事件に巻き込まれるのだと言い返した。

 近所中に聞こえるような大声だったから、家の中にいた芳明の耳にも嫌でも届いた。慌てて外に出て母親を家の中に連れ戻した。

 この出来事が引っ越しの決定打となったようだ。

 自分の軽率な行動のせいで、と自分を責めずにおられなかった。何もかも自分が悪いのだ、と。

 親は「あなたは悪くない。あんな人は女の子と出かけてたって文句言うような人なんだから。本当に下品! 頭の中それしかないのかしら!」と怒って言ってくれたが、世間がそういう目で見る以上、行動は慎むべきだった。

 自分より、親が侮辱されるのは何より堪えがたかった。

 外に出ず、家にこもる日が増えた。

 今日も昼近くに起きて、母親の作った焼きうどんを食べたあと、夕方までずっと居間でゴロゴロしていた。母親が夕飯の準備を始める時間になって、芳明の携帯電話が鳴った。

 ソファのクッションの下に潜り込んでいた携帯を見つけ出し、知らない番号に首を傾げる。

 樫木かもしれない。電話に出ると、『もしもし? 久世くん?』と女の声だった。久世くん、という言い方に覚えがあった。

「留美?」
『うん。よくわかったね』
「まあ……わかるだろ」

 留美は以前勤めていた会社の同僚であり、一時期恋人でもあった女だ。友達に頼まれて行ったコンパで、運命を感じる男と出会ったと振られるまでは。

『電話しても迷惑かなって思って、ずっとできなかったんだけど。でも、ずっと心配だったから。声が元気そうで良かった』

 明るくして良いのか、暗く神妙なほうがいいのかわからず、その中間のような調子で留美は喋った。

「そっちも元気そう」
『私は元気だよ。明石くんも久世くんのこと気にしてて、ずっと心配してたよ』

 明石は芳明が教育係を務めた新人だ。不器用な男だったが体育会系で明るく元気な姿は気持ちがよかった。

「あいつ、ちゃんとやれてる?」
『うん。可愛がられてるよ。最近彼女が出来たらしくて、そのことでよくからかわれてる』
「留美はどうなの。彼氏とうまくいってるの」
『いつの話よ。もうとっくに別れました』
「あ、そうなの。俺がいなくなってた間に?」
『……もっと、前に』

 留美の声が緊張して強張った。

「そうなんだ、知らなかった」
『向こうはまったくその気がなかったなんて、恥ずかしくて言えないじゃない』
「そっか。残念だったね」
『仕方ないわ』
「事件のことは知ってるよね」
『……うん』
「事件の話、聞きたい?」
『聞きたくないよ、そんなの。久世くんが元気ならそれでいい。無事に帰ってきてくれて本当に良かった。それだけ伝えたかったの。世の中にはおかしなことを言う人もいるけど、ほとんどの人はわかってるから』

 おかしなこととはどんなことだろう。あとで調べてみようと芳明は思った。

「言いたい奴には言わせておくよ。留美も俺を庇う必要ないからな。もう俺は会社の人間じゃないんだし」
『わかった。……ねえ、もし、私が久世くんと別れなかったら、こんなことにはならなかったのかな?』

 後半、留美の声は涙声になっていた。芳明が行方不明になってから、留美も自分を責めていたのかもしれない。

「馬鹿言うなよ。別れてずいぶん経ってるのに。そんなの関係あるわけないだろ。イカれた野郎の犯行なんだから」
『うん……ごめんね』

 最後の「ごめんね」には罪悪感が込められていた。

 振ってごめんね。別れてごめんね。一人にしてごめんね。

 電話を切ったあと、パソコンを開いた。発見された土地の名前と、監禁というワードで検索すると事件の記事がずらりと並んだ。

 監禁されていたマンションの外観の写真もあった。普通の小洒落たワンルームマンションだ。ここの一室で、異常な毎日を三ヶ月も送っていた。

 思い出の蓋が開きかけて、意識を目の前の文字に集中させた。迷った末、匿名掲示板のリンクを開いた。予想していた言葉のオンパレードだ。

 ホモが男を攫って。毎日種付けセックス。全裸で拘束。ゲイビみたいな事件。三ヶ月もヤラれまくってたら被害者の男も慣れただろう。ホモは男を喜ばすツボを心得てるから、被害者も喜んでたはず。もしかしてこれ、ただのホモカップルの痴話喧嘩だったりして。犯人とされてる男はただ恋人を捨てただけ。捨てられたホモが、これは拉致監禁レ/イプ事件と騒いでるだけなのでは。成人した男が三ヶ月も逃げられないなんておかしい。本来の借主の周辺が怪しい。ホモのヤリ部屋として提供していた。拘束はただのプレイ。捨てられただけなのに被害者面。捜査が進展しないのは、警察もそれに気付いているから。税金の無駄遣い。

 そういう方向に話が進んでいた。留美の言っていたのはこれだったのかもしれない。

 怒りよりも、脱力感のほうが大きかった。好き勝手に書きこむ奴らに、なにを言ったって無駄だろう。事細かに説明してまで訂正したいわけじゃない。

 それに男とのセックスが苦痛でなくなったのは事実だ。これを言えば、ほらやっぱり、と言われるのがオチだ。自分自身に、そう催眠をかけなければ耐えられなかっただけなのに。

 生きて帰れるかどうかわからない状況で、犯人に媚びるしか手立てのない状況だった。カメラで監視されていたから目隠しを取ることさえ恐ろしくて出来なかった。一体自分に何ができただろう。

 カウンセリングの先生は、芳明の行動をすべて肯定してくれた。何も悪くない、それが最善だったと。

 命を賭しても、逃げる努力をすべきだったのだろうか。

 夕飯が出来たと母親に呼ばれ、芳明はパソコンを閉じた。






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2016-08-31(Wed) 20:06| Phantom| トラックバック(-)| コメント 0

Phantom (3/15)

1話2話

 進展がないまま三ヶ月経った。いつまでも実家にこもってるわけにはいかないと思い始め、芳明はハローワークへ行ってみた。

「この半年間はなにをしていたのですか?」の問いに、体を壊して休んでいたと適当に誤魔化し、資料をもらって帰って来た。

 資格や就労条件を見ながら、面接に行っても同じ質問をされるのだと思うと気が重くなった。

 親はまだ休んでいろと言う。しかしこの三ヶ月で二人ともかなり老け込んだ。家を売ってよそへ移ることも考えているようだ。

 気付かれていないと思っているようだが、心無い言葉で中傷する手紙が自宅ポストに差出人不明で投函されていることを芳明は知っていた。

 事件もそうだが、自分の身の処し方も八方塞がりのような気がする。

 カウンセラーには自分を責めてはいけないと言われている。では誰を責めればいいのだ。誰のせいなのだ。捕まったのは俺なのに――、と考えずにはいられない。

 そんなある日、実家に電話がかかってきた。大学時代の友人、樫木だ。たまに飲みに行ったり遊びに出かけたりする仲だった。大学時代に起業してIT社長になった人物でもある。卒業後は進路が違って会うこともなくなった。

 だから樫木からの電話は意外だった。なぜ実家の番号を知っているのかも、謎だ。

「どうする? いないって、言う?」

 電話を保留にしたまま、母親が心配そうな顔で確認してくる。噂というのは嫌でも広がるものだ。事件を知りたいだけの知人からの電話は何度かあった。樫木はそんなタイプとは思えなかったから、出ることにした。

「もしもし?」
『ひさしぶり』

 記憶が蘇る懐かしい声だった。前より少し低くなって、落ち着きが増した気がする。

「ひさしぶり。どうしてうちの番号知ってんの?」
『大学の時の知り合いに片っ端から聞いて回った』
「なにか用?」
『暇なら飯行かないか? 迎えに行くから』
「用件が先」
『久世の顔を見て安心したいから。事件のことは聞いた。力になれることがあればなんでも言って欲しい』
「余計なお世話。俺は平気だし、人に力を借りなきゃいけないほど非力でもない」

 男に襲われ、監禁されている間、レ/イプされ続けていたのにか?

 と、心の声がする。

『困っていることがあれば、と思っただけだ。悪いほうへ取らないで欲しい』
「事件の話を聞きたいの?」
『聞きたいわけじゃない。久世が話したいなら別だが』
「話したいわけないだろ」
『だったら飯食って、酒飲んで、それでいいじゃないか』
「帰りたくなったらすぐに帰る」
『それでいい。今日このあとは? 実は近くまで来てる』
「はあ? なに考えてんの」
『いま国道添いのケンタッキーを通りすぎた。どこで曲がればいい?』

 覚えのある景色が頭に浮かぶ。

「次の次の信号を右折。まっすぐ行ったらコンビニがあるから、そこで待ってて。家までの説明は面倒だから、こっちから行く」
『わかった。待ってる』
「運転中に電話なんて。警察につかまるなよ」
『ハンズフリー通話だから平気だ』

 あっそ、と返し、電話を切った。スエット上下では外に出られないので着替えてからコンビニへ向かった。少ししてシルバーの高級車が駐車場に入って来た。窓が開いて、男が顔を出し、芳明に手を振る。

 精悍な顔つきの樫木に驚きながら助手席へ乗り込んだ。学生時代と比べてずいぶんと男らしく、服装も大人っぽくなっていた。カジュアルな自分の格好が恥ずかしくなった。

 乗っている車といい、腕につけている時計といい、経済的に余裕がありそうだ。興したIT会社の経営がうまくいっているのだろう。

「どこ行くの」
「久世のほうが詳しいだろ、この辺」
「久しぶりに戻って来たからわかんない。知らない店も増えてるし」
「何系? 肉? 魚? 外国?」
「外国ってなんだよ。本場の料理食べるために、外国に連れてってくれんの?」
「久世が行きたいなら連れてくよ。パスポート持ってる?」
「ばか」
「冗談。イタリアンでも、フレンチでも、インドでも、なんでも」
「……そば。そばがいい。大学の近くの駅の立ち食いそば。あれがいい」
「了解」

 樫木がハンドルを切る。驚くほど静かに車が加速する。国道に戻り、樫木はここから一時間はかかる駅へ進路を取った。

 道中、樫木の口は他愛ない話をするために動きっぱなしだった。学生の時に興した会社は売り渡し、そのあとは株で収入を得ているという。最近不動産にも手を出し始めたらしい。

「羽振りよさそうだもんな」
「まぁ、金だけは人並み以上に持ってる自覚はあるよ」
「嫌味~」
「成金は成金らしくな」
「一千万ほど、貸してくんない?」
「いいよ」
「……冗談だって」
「俺も冗談だったんだけど」
「笑えないんだよ、成金ジョーク」

 拳を握って樫木の腕を軽く打った。樫木は笑い声をあげた。

 駅近くのパーキングに車を止め、二人は駅中の立ち食いそば屋に入った。

 昼過ぎで店内は空いていた。芳明は月見を、樫木はコロッケそばを頼んだ。ほとんど待つことなく注文したそばが目の前に出される。

 芸能人の不倫を詳しく解説するテレビのワイドショーを見ながら黙々とそばを食べた。冷えた体に熱いそばが染みる。

 懐かしい記憶が呼び覚まされる味だ。当時付き合いのあった友達のことや、大学構内の匂いや、世話になった教授の顔や、短い期間交際していた彼女のことなど。

 あの頃には戻れない。今の自分は別人になってしまったと感じる。自分だけ異世界からやってきた人間のようだ。隣でそばをすする樫木との間にも、目に見えない壁が存在している。

 食べ終わったあと、散歩がてら大学の近くへ歩いた。大学生らしい格好の集団とすれ違う。あんなふうに無邪気に笑える日はもう二度とこないだろう。

 大学の前を通りすぎ、近くの小さな公園のベンチに腰をおろした。

「ここでキスした」
「えっ?」

 芳明の呟きに、樫木が怪訝な顔で聞き返してくる。

「大学の時に付き合ってた子と、ここでキスしたの思い出した」
「あぁ、花村って子だっけ」
「よく覚えてるな」
「可愛い子だった。巨乳で。Eはあった」
「人の彼女、そんな目で見てたのかよ」
「みんな、そんな目で見てた」

 樫木がニヤッと笑う。確かに自分の胸を強調する服をよく着ていて、男の視線がどこに集まっているのか理解している子だった。当時は心配と嫉妬しかなかったが、いまはそんな緩い子はご免こうむりたい。

 なんで別れたんだっけ、とさらに記憶を遡る。確か、他に好きな人が出来たから、と言われたのだ。

「二股なんていけないから。ごめんね。全部わたしが悪いの」

 と、泣いて謝られた。付き合って二週間しか経っていなかった。

 その後、女と縁のないまま卒業し、就職した。二年して、同期だった女と付き合うことになった。こちらも、友達の頼みで断れなかったコンパで知りあった男を好きになってしまったという理由で振られた。

 女運がないのだろうと諦めの心境で仕事に打ち込んだ。そんな矢先の、拉致監禁。男からの凌辱。どこまで自分はツイてないのだろうか。こんな目に遭うほど、自分は悪い行いをしてきただろうか。

 ぼんやり考えていたら風が吹いて首をすくめた。ぶるっと体を震わせながら顔をあげると、いつの間にか日が落ちかけていた。

 隣の樫木は公園の向こうに見える往来を静かに眺めている。視線に気付いて芳明を振り返った。

「そろそろ行くか?」
「ああ」

 帰りは無言でパーキングまで歩いた。車に乗り込む頃には日は完全に落ちていた。

「飲みに行く?」
「お前は車で飲めないだろ」
「代行頼めばいい」
「いや。帰るよ」
「わかった。このまま久世の家に向かえばいいか?」
「送ってくれんの? ありがと」
「俺が連れ出したんだから当然だろ」

 と樫木は来た道を戻るためにハンドルを切った。

「安心した? 俺の顔見て」
「ああ。元気そうで安心した」
「これでも色々大変だし、きついんだぜ」
「それに耐えてる。お前は強いよ」
「そんなに強くもないよ。いまだに夢に見る」
「いずれ犯人は捕まるさ」
「顔見てやりてえ。どんなツラしてんのか知らないけど、とんだ物好きだよ」
「犯人の顔を見てないのか?」
「見てない。声も聞いたことがない。男って以外、何も知らないしわからない」
「捜査が難しそうだな」
「手がかり少なくて、難航してるみたいだよ」
「ってことはまだ時間がかかりそうなのか。心配だな」
「定期的に警察の見回りがあるから。100パー安全ってわけじゃないけど」
「日本の警察は優秀だから、信じて任せておけばいい」

 芳明に会いに来る二人組の刑事の顔が頭に浮かんだ。金子のほうは何度も顔を合わせているせいか、同い年ということもあって砕けた態度で接することが増えていた。

 野球が好きらしく、捜査と関係無い野球の話題をして小田崎にたしなめられる場面もある。

 金子が来ると、芳明はつい、深い呼吸をしてしまう。金子がつけているコロンの匂いが、あの男の匂いと少し似ているからだ。

 完全に同一ではない。何かが足りない。まったく違う別物とも言える。でも限りなく似ているとも言える。時間が経って忘れてしまった可能性もある。もともと、目に見えるものでも触れられるものでもない。記憶だけが頼りだ。

 その匂いを嗅いでいると、監禁されていた当時のおぞましい記憶が蘇ってくる。でも匂いを求めずにいられない。金子につけている香水の銘柄を教えてもらい、買いに行ったこともある。

 真っ青な瓶に入っていた。金子と同じ匂い。男と似ている匂い。似て非なるものの、偽物の匂い。

 ここにはいない男の存在の気配が現れては消える。実体のない陽炎のようだ。捉えられそうで、捉えられない。

「酔ったか?」

 樫木の声で我に返った。

「平気」
「また、誘ってもいいか」
「いいよ。無職で暇だけはあるから」
「ゆっくりやればいい」

 噛みしめるように樫木は言った。

 一時間ほど経って家の近くまで来た。家まで送るという言葉に甘え、コンビニからの道順を教えた。

 芳明が車から出ると、樫木は窓を下げて顔を出した。

「また、連絡する」
「家電じゃなく、携帯にかけてこいよ」
「携帯変えただろ? 新しい番号を知らないんだ」
「携帯貸して」

 芳明は受け取った携帯電話に自分の番号を打ちこんだ。

「そんじゃ」

 樫木に携帯電話を返し、芳明は自分の家に入った。






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2016-08-30(Tue) 19:24| Phantom| トラックバック(-)| コメント 0

Phantom (2/15)

<前話はこちら>

 解放は、突然だった。

 寝ていた芳明は誰かに揺り起こされた。いつもの男とは別人であるとすぐわかった。匂いが違った。大丈夫ですか、と呼びかける声。外された目隠し。男の言いつけを思い出し、咄嗟に顔を伏せ、目を瞑った。

 相手は警官であると名乗った。通報を受け、大家と共に様子を見に来た、と。

 理解が追い付かなかった。気が付くと足音と気配が増えていた。芳明は目を開けた。蛍光灯が眩しい。目を細めて確かめたのは初日に見たワンルーム。そこに制服の警官が二人いた。

 サイレンの音が入り混じる。部屋に入ってきた担架に乗せられ、芳明はいつぶりかに外の世界へ出た。夜だった。広がる視界。解放感に眩暈がする。

 つれていかれた病院で検査を受け、個室のベッドへ移動した。連絡を受けた実家の両親がやってきて、芳明の姿を見ると泣き崩れた。

 三ヶ月。

 あの部屋に監禁されていた期間を、この時知らされた。それを聞いて長いとも、短いとも、思った。

 両親との再会のあと、また軽く医師の診察が入って、次に警察がやってきた。拉致監禁事件として捜査するためだ。

 先の念入りな診療で芳明の体に性交のあとが認められている。そのことを両親の前で話すのは憚られたので、警察以外の人間には出て行ってもらった。

 芳明は自分の身に起こったことをすべて話した。

 会社が終わって帰る途中に襲われたこと。スタンガンを使われたようであること。気が付くとあの部屋にいて、今後のルールが書かれた紙が落ちていたこと。複数ではなく犯人は一人だと思われること。助かりたい一心で、目隠しをし、男の言いなりになっていたこと。自分がレ/イプされたこと。それも、何度も何度も、繰り返し行われたことを話した。

 不思議と恥ずかしいだとか屈辱だとか、そういった感情は生まれなかった。他人事のように、見て来た映画のあらすじを聞かせるように、淡々と刑事に話した。

 翌日にまた医師の診察を受けた。事情を知らされたのか、両親はただ「良かった。命が助かって良かった」と目を濡らした。

 数日で退院し、そのまま実家に帰った。会社は退職になっていた。親が手続きを済ませてくれていた。それだけでは申し訳ないので、芳明も一度上司に電話をした。

 成人男性の失踪だけでは報道もされないが、三ヶ月も監禁されていた事件となってはワイドショーが放っておかず、保護されてからは連日テレビで取り上げられていた。

 ほとんどの人が、被害者がレ/イプされていたと察しただろう。週刊誌では、全裸だったことやロープで繋がれていたこと、体には怪我一つなかったことなど、踏み込んだ記事も書かれていた。

 芳明が行方不明になっていた期間と、報道される事件の被害者が監禁されていた期間が同じだということと、その後の警察の聞き取りで、上司もあの事件の被害者が部下だった芳明だということには気付いていて、口重たく「大変だったな。ゆっくり休め」と労わりの言葉のほかに何も言うことが出来ない様子だった。

 一人暮らししていたマンションは引き払われ、荷物はもう実家へ送られている。家の前までタクシーで乗りつけた時、近所の人が窓を開けて見ていたり、わざわざ外まで出て来て「大変だったわね」と声をかけてくる人もいた。

 芳明こそあの事件の被害者だと察しているらしかった。

 親が言葉を濁しつつ対応をしているうちに家に入った。懐かしい実家の匂い。和室から漂う線香の匂い。台所に染みついた調味料やら油やらの匂い。自分の部屋はカーテンが閉められて空気が籠っていた。

 親が用意しておいてくれた布団の上に横になる。フカフカしていて安心する。

 芳明は深く長い溜息をついた。やっと帰ってこられた。無事に、生きて、安全な場所に、帰ってこられた。

 ※ ※ ※

 芳明の事件は、一人の異常な男の犯行というそれ以上の発展はなく、血なまぐさい猟奇性もなかったことから二週間ほどで報道は落ち着いた。

 近所の人たちがいまだ好奇心旺盛な目や、哀れみ同情の目を向けてくるのは仕方がないと諦めて、芳明も無理に明るくも暗くもせず、普通に挨拶をして、散歩をしたり、買い物に出かけたりした。

 病院の検査の結果で性病関係は陰性。健康状態も良好。運動不足による筋力低下が少しあるだけだ。

 カウンセリングに通いながら、たまにやってくる刑事相手に話をした。来るのはいつも同じ二人組。運ばれた病院で最初に話を聞いてきた二人だ。

 一人は小田崎という父親くらいの年の刑事、もう一人は芳明と同い年という金子という刑事だ。

 金子は、芳明が保護された直後、不器用な言葉で励ましてくれたことがある。同情や哀れみでなく、事件と犯人に対して憤ってくれているのが伝わってきて、好感を持った。

 二人の話では、犯人に繋がる手掛かりがあの部屋には何も残されていないのだそうだ。

 解放の直前、芳明が飲んだ水のなかに睡眠薬が入っていたのだろう、と二人は教えてくれた。睡眠薬で芳明を眠らせたあと、犯人は証拠隠滅のための大掃除をしたということだ。

 芳明が監禁されていた部屋は、音大生向けの防音されたワンルームで、本当の住民である学生は彼女の部屋に転がり込んで長く留守にしていたらしい。家賃は、学業に励んでいると息子を信じていた親が払い続けていた。

 なぜ自由に部屋に出入りできていたのかは、推測になるが、事件発生前に一度部屋の鍵を落としたことがあったと男子学生が思い出した。外出から彼女の部屋に戻ったときに気付いて探し回り、その日に寄った喫茶店の植え込みで見つけた、と。

 時間にして数時間。スペアキーを作るには充分な時間だ。あくまで可能性の話だが、その線が濃厚ということだ。

 学生の荷物は何者かによってトランクルームに移動させられていた。空になった部屋に芳明が監禁された、ということだ。トランクルームは4ヶ月という短期契約で、使用料は先払いだったため、口座による引き落としはなかった。

 4カ月を過ぎても荷物を取りに来ないので、契約書に書かれた連絡先に電話をしたら電話の相手はまったく身に覚えがないと言うので警察に連絡がいった。

 トランクルームの契約者となっている会社員の男の元へ事情を訊きに行くも、寝耳に水で本気で驚いている様子だった。詳しく調べていくうち、以前彼が紛失した財布に入っていた健康保険証が使用されたということがわかった。

 いずれも、事件発覚より数か月前の出来事で、トランクルーム業者は契約にきた男の人相を何も覚えておらず、防犯カメラの記録期間も過ぎていて手掛かりはゼロ。

 マンションのエントランスに一か所だけある防犯カメラでは怪しい出入りは確認されず、普段閉めているはずの非常ドアから犯人は出入りしていたと思われる。

 住人の誰も怪しい男を見ておらず、みな疑心暗鬼に陥っているという話だ。

 部屋に男の指紋も、残留物も、何も残されていないことから、芳明の拉致から解放まで、すべて男の計画通りだったというのが警察の考えだ。芳明発見のきっかけとなった通報も、犯人によるものと考えるのが自然というのだ。

 通報してきたのはホームレスの男で、近くの防犯カメラから人物を特定。話を聞いて通報した本人だと確認できたが、その時は酷く酔っていて何も覚えていないと言う。

 防犯カメラの映像には、ふらついて歩くホームレスの男が公衆電話で電話をかける様子が映されていた。

 ホームレスは手元のメモらしき紙を見たり、離れた場所の誰かへ話しかけたりしていた。その人物は映っていない。防犯カメラの存在を知っていて距離を取っていたのだろう。

 ホームレスの男に指示を出していたその人物こそ、芳明を拉致監禁して暴行した犯人だと警察はみている。

 手がかりらしい手がかりは何もない状況。芳明の交友関係を洗っても疑わしい人物は出て来ず、警察も八方塞がりという感じのようだった。

 何か覚えていることはないか。思い出したことはないか。気になったことは、気付いたことは。質問責めにされても何も出て来なかった。

 体は自分より一回り大きい印象で、触って気付くような傷も特徴もなかった。男は一度もしゃべらなかったから年齢さえわからない。体力はあったようだから、それほど年寄りじゃない、それも「たぶん」の話だ。

 幅広で遮光性の高い目隠しをしていたから、男の顔はもちろん、時間もわからない状態だった。だから男がやってくる時間が昼か夜かもわからない。規則性があったのかも、確かめようがない。そんな気にもならなかった。

 一度、男は部屋にやってくるなり、熱を計るように芳明の額に手を当てたことがあった。急に何だと訝しんだ直後、部屋で一人だった時に咳き込んだことを思い出し、凍り付いた。

 男は監視カメラでその様子を見ていたのだ。目隠しを少しでもずらしていたらどうなっていたか。

 解放される数日前から、男はコンドームを装着していた。あれも、芳明の体内に自分の体液を残さない意図があったのだろう。

『計画は用意周到だ。』

 紙に書かれていた男の言葉を思い出した。

 確かにその通りのようだ。






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2016-08-29(Mon) 20:16| Phantom| トラックバック(-)| コメント 0

Phantom (1/15)

※性犯罪、長い、退屈、後味悪い、ツッコミ処満載

 その匂いで目が覚めた。

 目隠しをされているから、視覚以外の五感は以前より鋭くなっていた。特に、匂いには敏感になった。男がつけている香水の匂い。懐かしい、白い微粒子のような粉っぽさと、冷たさと、甘さのある、匂いだ。

 その匂いが部屋の残り香と合わさって濃度を増している。男が帰って来たのだ。

 耳を澄ますと部屋を移動するかすかな足音も聞こえる。振動する空気が全身に伝わってくる。

 芳明は呼吸を乱れさせた。

 近づいて来る気配。男がすぐそばに立ったのがわかる。見えないながらも、男の気配のするほうを見上げる。男も、ベッドに座っている自分を見下ろしているのだろうと思った。

 男の足音が遠のいていった。きっと、排泄用のバケツの中身を捨てに行ったのだ。少しして男が戻って来ると、そばで空になったバケツを置く音がした。

 その音を聞いた直後、冷たいものが頬に当てられた。湿り気のある男の手。バケツを綺麗にしたあと、自分の手を洗ったのだろう。

 その手が芳明の頬を包みこみ、緩い力で上を向かせる。荒い呼吸を繰り返す口を、温かく柔らかなもので塞がれた。すぐさま、ぬるりとした舌が入り込んで芳明の舌を絡めとる。

「ふぅ……んっ……ん……ふ……ぁ……ッ……」

 芳明の鼻から空気と共に甘ったるい声が漏れる。

「ぁあっ」

 まだ冷たい男の手が、芳明のペニスに触れた。男の気配を追ってるうちに勃起していた。正確には、匂いで男の帰宅を知った瞬間から、血液がそこへ集まりだしていた。

 芳明はここへ監禁されてからというもの、数えきれないほど、男から犯されていた。

 ※ ※ ※

 いつも通り会社から帰る途中だった。急に襲われ、気が付くと全裸でこの部屋のベッドの上にいた。

 手は拘束され、左足首には頑丈そうなバンド。そこからロープが伸び、クローゼットのパイプに繋がれていた。必死に引っ張ってみたが、そのパイプはびくともしなかった。

 激しい動悸を感じながらあたりを見渡した。知らないワンルーム。家具はベッドだけの、生活感のない部屋だった。

 ベランダのカーテンが見えた。そこへたどりつく前にロープの限界が来て芳明は倒れ込んだ。

 その鼻先に一枚の紙があった。

『おはよう。手荒な真似をしてすまなかった。俺にはどうしても、君をここに連れて来る必要があった。スタンガンの火傷跡はいずれ消えるだろうから安心してくれ。

 君は今、自分の置かれている状況が飲みこめず、パニックに陥っているだろうが、どうか気を落ち着けてこの手紙を読み、内容をしっかり理解して欲しい。それが君のためになる。

 まず、この部屋は防音になっているから叫ぼうが喚こうが時間の無駄だ。時期がくれば解放する。それまでおとなしくしていれば命の保証はすると約束しよう。もし反抗的な態度を取るなら、その約束は守れない。

 この部屋にはカメラを仕込んである。俺のいない間に妙な真似したら、二度とそんなことが出来ないよう、その手足を使い物にならなくしたあと、更に拘束をきつくし、自由を制限する。一生、車椅子で過ごしたいなら、好きにしろ。

 繰り返し言うが、君が俺の言うことにおとなしく従ってくれるのなら、殺しはしない。これは脅しではない。俺は実行する。君の今の状況が俺の決意の証拠だ。

 ここに君がいることは誰も知らない。君の生死を誰も確かめられない。第三者にここを突き止められることもない。計画は用意周到だ。

 理解できたなら、ベッドの上にある布で、きつく目隠しして欲しい。俺の顔を見られないためだ。もし、見られてしまったら、君を殺すしかない。生きて帰りたいなら、俺の顔を見ようなんて思わないことだ。小細工は通用しない。』

 プリントされた紙を持つ手が震えた。何かの間違い。誰かの悪戯。自分の身に降りかかったことが信じられなかった。

 ベッドに視線を移せば、折りたたまれた黒い布があった。震える手でそれを取り、芳明は自分で目隠しをした。幅広で遮光性の高い布だ。視界も光もすべてが遮断された。

 気が狂いそうだった。ベッドの隅で膝を抱えて、夢ならはやく覚めてくれと願った。

 男が部屋に入って来たのはその数分後だった。本当にどこかで見ているのだと恐怖に身がすくんだ。顔を見たら殺される。目隠しをしていても恐ろしさから顔を俯けた。

 足音が背後にまわった。生きた心地がしなかった。男は目隠しの結び目をさらに強固にすると、芳明の肩に手を置いた。その温度と、皮膚の感触が、男は実在すると知らせて来た。不気味さに悲鳴をあげそうになった。

 男の手が肩から腕へ下りた。ふいに離れたと思ったら、前にまわって胸を触って来た。暴力に怯えていた芳明は、それとは正反対の手つきに吐き気を催した。女と間違えているのかと思った瞬間、全身から血の毛が引いた。

 助けて、と叫んだ。許して、とも。男は無言で芳明を触り続け、体中に口づけた。芳明が抵抗を見せると、バチバチバチ、と火花の散るような音が耳のすぐそばでした。スタンガンだ。芳明は抵抗を止めた。

 男は芳明を四つん這いにさせると、尻を割り開いた。それだけは嫌だと必死に懇願した。アナルに温かい吐息が吹きかけられ、ピチャリと舐められた。芳明は子供のように泣いた。

 皺の一つ一つ、丹念にそこを舐められた。舌を捻じ込まれ、中まで、男の唾液で潤った。芳明の恐怖と羞恥が諦めにかわるまで、男はそこを舐め続けた。長い時間だった。

 舌が抜けていったあと、今度は指が入って来た。冷たい液体をまとった指を何度も出し入れする。液体はローションだった。丁寧に括約筋を解された。

 指が抜かれた。次は芳明が想像していた通り、男のペニスが入って来た。すすり泣く芳明の背中をあやすように撫でながら、男はゆっくり、自身を埋めた。

 慣らすためかすぐには動かず、入れたまま芳明の体を後ろから抱きしめて、首筋や背中に舌を這わせながら、芳明のペニスを弄んだ。

 芳明の体から少し力が抜けると、男は動きだした。痛がると止まった。でも抜いてはくれない。少しずつ慣れさせながら、男は気長に芳明のアナルを広げた。

 男が達するまで、どれほど時間をかけただろうか。最初は縮こまっていた芳明も、緊張を持続させる体力が切れるとペニスは勃起した。混乱のなか、射精もした。

 男が抜けた時には精も根も尽き果て、ぐったりと横たわった。男はタフだった。温かいタオルで芳明の全身を拭いたあと、その体を抱きあげ布団のなかに寝かせた。

 布団をかけられると、いつの間にか寝てしまっていた。

 それ以来、男はやってくると芳明を犯した。体に触れて来る時は、乱暴とは正反対の優しい手つきだった。極限状態の恐怖から芳明が暴れた時に一度頬を打たれただけで、おとなしくしていれば手荒なことはされなかった。

 食事も与えられた。美味しそうな匂いの、温かいものを、男の手から食べた。芳明は雛鳥のように口を開けているだけでよかった。

 トイレには行かせてもらえなかった。尿意を訴えたらバケツを手渡された。これは許して欲しいと訴えたが、無視され、仕方なく、そこへするしかなかった。

 いつからか感覚が麻痺して、当たり前のようにバケツで排便もした。

 風呂は二日に一度くらいの割合でシャワーを浴びることが許された。体も頭も男の手によって丁寧に洗われ、髭も剃られた。

 男に犯されるか、寝るか、それだけの毎日を過ごしながら、男の目的はなんなのだろうかと頭の片隅で考えた。

 精神に異常をきたした人間の考えることなど理解できないが、目的は自分なのかもしれないと思った。男のやり方はレ/イプではなく、恋人同士のセックスのようだったからだ。

 自分だけが快楽を得るのではなく、芳明に負担をかけさせないよう気を配りながら、芳明を感じさせることに重きを置いた行為がほとんどだった。

 男はきっと、自分のことが好きなのだ。思いを募らせた結果、この異常な行動に走ってしまったのだ。

 ストックホルム症候群だとはわかりつつも、甲斐甲斐しく自分の世話をしてくれる男に対して嫌悪は薄れていった。何度も肌を合わせているうちに、男は絶対自分に乱暴なことはしないという安心感から、与えられる快楽に身をゆだねるようになった。

 素直に受け取ると男の興奮が増す気配がした。荒くなる息遣いを聞くと、芳明の鼓動も早くなった。

 男の匂いを嗅ぐと体温があがった。香水の匂いに頭が痺れたような感覚になった。匂いは、目が見えない芳明にとって男の存在を証明するものだった。

 男は唯一の命綱でもあった。

 無意識に男に媚びるようになったのは、生きたいという本能からだ。甘えたように額をこすりつけると男の喜ぶ気配がした。一言も言葉を発しないが、男の心情が手に取るようにわかった。

 男が来ればセックスをする。いなくなれば眠る。男が来ると食事をし、またセックスをする。いつしか男の匂いは、セックスの合図になっていた。

 ※ ※ ※

「あ……ん……んん……や……あ……」

 男にペニスを扱かれ、芳明は喘いだ。

「はぁあ……んっ……あ……あぁ……あん……やだ……イッちゃう……」

 芳明は男の胸にもたれかかった。男もそれを抱きとめる。芳明は肺一杯に、男の匂いを吸いこんだ。何度でも吸いたくなる匂いだ。

「あっ、ぁん……イク……イッちゃう……僕がイクとこ、見て……見てて……っ!」

 芳明は男の胸にすがりつきながら、ビクビクと体を震わせ、男の手に吐き出した。それを褒めるように、男は芳明のおでこにキスをした。

 芳明にとって男とのセックスは日常になっていた。当たり前にする行為。睡眠、食事、性交。それしかすることがない生活を何日も続けていたからだ。

 法律も常識もない空間で、視界を塞がれたまま男にしつこく犯され、まともとな精神状態とは言えなくなっていた。

 本能的に男を喜ばすことが生き残る手段だと悟り、そう変化していった。誰も芳明を責められない。

 男が服を脱いだ。勃起しているペニスを芳明の鼻先に持っていく。匂いでそれを察知した芳明は、男のペニスを口に咥えた。前後に頭を振って扱き、頬の内側に亀頭を押し当てながら陰茎を舐めた。くびれや尿道にまで舌の先をこじ入れ、余すところなく舐めあげた。

 最初は抵抗があったが、今では当たり前になっていた。この舌触りも、匂いも、味も、すべてに慣れた。これが男自身だと思うと愛おしくもあった。顔は見せてくれないし、声も聞かせてくれないが、一番大事な部分を預けてくれているのだと思うと、喜びさえ感じた。

 芳明は男に奉仕した。一心不乱にしゃぶった。頭を撫でられるとエクスタシーを感じた。大事にされていると胸が震えた。

 優しく肩を叩かれたあと、男のペニスがゆっくり口から抜けていった。芳明は寝転がり、自ら足を開いた。いつもならすぐに入れてくれるのに、男はなかなか入れてくれない。

「……どうしたの? 早く、入れて……っ……僕のなか、もうトロトロだよ……? あなたのを入れて欲しくてヒクヒクしてるの……見えるでしょ……?」

 膝の裏を持って男にアナルを見せつける。芳明のペニスは再び硬くなり、先走りを溢れさせていた。

「ねえ、早く……僕のなか、あなたのでグチャグチャに掻きまわして……っ」

 芳明の頼みを、男はやっと叶えてくれた。ベッドを軋ませながら覆いかぶさってくると、ペニスを挿入してきた。

「ぃああっ……あっ……ぁああぁん……ん、んふぅ……お、っくぅ……ッ……まで……あ、あ……はいって…る……!! んんぅ……っ……ぁ……あはぁん……!!」

 みっちり男のペニスで穴を塞がれると芳明は軽く絶頂を味わった。男の腕に指を食いこませながら遠のきそうになる意識を手繰り寄せ、その存在を味わうために締め付けた。

「は……ぁ……っ……! あ……!! やっ……あん……気持ちいい……ッ!!」

 小刻みに、時に激しく、腰を回すように突きあげられる。

「あぁんっ、あっ、あっ! もっとして……! ちんぽで……ッ……いっぱい、擦って…ぇ…!! あぁん! そこ…………きもち……いいっ……!!」

 男の頬を手で挟み込むと、芳明は自分のほうへ引き寄せた。舌を突きだし、男の口を探りあてる。唇を舐めていたら男の口が開いた。すぐさま舌を滑り込ませ、男の歯列や口蓋を舐め回し、男の唾液を啜った。

「あぁ……ん……んん……ぅ……ふぅ……ぁ……はぁ……んっ」

 無我夢中で男の舌を吸った。腰がゆらゆら揺れるのも、無意識だった。

「……ぁ……あ、やっ、だ……また……キタ……あぁ……ん……またイッちゃう……ズボズボされて……また僕……イッちゃうよ…ぉ…」

 男がどんな顔をしているのか想像もつかない。興奮した顔つきでも、冷ややかであったとしても、腰の内部からこみあげて来る熱い塊を止めることは出来ないだろう。

「あぁっ、ああん! イクゥ……イク、イク…………うッ!!!」

 芳明のペニスから吐きだされたものは、芳明自身の胸にかかった。芳明は微笑みながら、それを自分の胸に塗り広げた。

「はあ、はあ……次は……あなたの番……僕に種付けして……、孕みたい……僕、あなたの赤ちゃんを産みたい」

 ぐっと腰を抱え込まれた。中の男が一回り大きく育ったような気がした。小刻みな律動で、また前立腺を擦られる。射精したばかりの身には強すぎる刺激だ。芳明はまた狂ったように喘いだ。

「……ひっ、いいっ、あぁああっ、あぁん!! や……だめっ……やらぁあっ……あぁんっ、あんっ、あんっ!!」

 かと思うと、今度は根本まで挿入された。腰をグラインドさせながら、奥をえぐられる。

「あっ、あひっ、あっ、らめっ……ちんぽ強すぎ……らめぇえっ……」

 もはや呂律も回らなくなった。男は扱くように腰を前後させると、動きを止め、芳明の体の奥へ精を放った。大量の精液が放出される。その跳ね返りを感じて体をビクビク震わせる芳明の唇から、涎が零れ落ちた。






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2016-08-28(Sun) 21:25| Phantom| トラックバック(-)| コメント 1

嘘 (7/7)

1話はこちら前話はこちら

 喋っている間に少し小さくなったのか、ただ俺が慣れたのか、痛みや異物感はなくなっていた。それどころか、ペニスの付け根の裏側を擦られて気持ちがいい。リズム良い、適度な刺激で、自然と俺も勃起した。

「んっ、はぁっ、ああ……、それ、そこ……きもちぃ……」
「俺も気持ちいい」

 上擦った今井の声。いつも全方位に神経を張りめぐらせている自意識過剰の今井には珍しい、何も取り繕っていない、素の声だ。

 自分でペニスをしごいていたら、今井に止められた。汚いと言っていた俺のものを握って、手を上下に動かす。

「キスってしてもいいの?」

 切ない表情で、俺に確かめる。コンドームもつけず、躊躇なく中出しするような奴が。

「いいよ、して」

 両腕を今井の首にまわして引きよせた。唇が合わさると今井のほうから舌を入れて来た。がむしゃらに中で動かすだけなのが今井らしい。その拙さが好きだ。

「中に出していい?」

 顔のすぐそばで、囁くように許可を求めて来る。迷わず頷く。俺の上で今井の体が伸びあがった。床に手をついて、抜き差しの速度をあげる。

 痛みはない。苦しさもない。蕩けるような快感があるだけ。

「はやくっ……うっ、んんっ、なかにっ……ちょ……だい……っ!! いっぱい……欲しい……!」

 溺れる者のように、今井の背中を掻き抱く。

「そんなに俺が好き?」
「好き……大好きぃ……!」
「だったらもう、許してあげる」
「……え……? 何を?」
「全部。……イッていいよ」

 今井は俺のペニスをしごいた。

「あっ、あっ、あっ! やっ……ああぁ……まっ……ほんとに、イッちゃう……っ!!」

 先走りが俺の腹の上に降りかかる。本当にイッてしまう。今井がいる体の中が熱い。ジンジンと腰から背骨が甘く痺れる。だんだん視界がぼやけて、頭の中が真っ白に漂白される。

「あぁっ、だめ、もうっ……今井、俺、イッちゃう……先に、イッちゃう……!! やだっ、はあ……んっ……今井と、一緒が……いい……!」
「素直なほうが、祐樹は可愛いよ」
「……くぅ……んっ、はっ、ああぁっ……!!」

 今井にしがみつきながら、射精した。


 ※ ※ ※


「泊まっちゃう?」

 俺が提案すると、中原は「仕方ねえな。料金は折半だからな」と赤くなった頬を膨らませて目を伏せた。

 シャワーを浴びるのもダルくて、セックスが終わったあと、俺たちはベッドに潜り込み、そのまま寝てしまった。

 先に目を覚ましたのは俺だった。中原は俺にぴったり寄り添って眠っている。きっとまだ、自分のやらかしたポカには気付いていないだろう。

 セックスの最中、中原は喘ぎながら「今井」と俺の本名を呼んだ。でもそれより前、前回会った時も、中原は俺を一度本名で呼んだ。

 ホテルを出て、タクシーに乗り込んだ時、「じゃあな、今井」と中原は口走っていた。呑気に手を振っていたから、あれも気付いていないだろう。俺の方はあまりの衝撃に茫然自失状態だったというのに。

 伊藤を今井と言い間違えるなんてことはない。中原はいつからかはわからないが、俺を思い出していたのだ。思い出していながら、知らないふりをし続けていた。

 推測される理由は、ウリをしていることを、かつてのクラスメートに恥じたから。俺が中原を忘れていた場合、説明が面倒だと思ったから。俺を不登校に追いやった引け目から。あとはなんだ。

 本当の理由は本人に聞かないとわからない。

 中原が目を覚ましたからと言って、今のところそれを問いただす気分じゃない。

 仕返しを兼ねた意地悪な質問をしていくうちに、もしかしたら、中原は俺のことが好きだったんじゃないかと思うようになった。

 門田というのは中原の嘘くさい。なぜか聞き覚えのある名前だが、一年で同じクラスだったというのに、俺のほうはまったく記憶にないからだ。

 それに中原は、門田が俺に似てると言った。

 俺のことを思い出していながら、知らないふりを続け、俺に似ている男が好きだったと言う。

 どうしても、確かめたくなった。

 前でするのは嫌だと断ったが、中原をひっくり返して前から挿入した。中原の目尻に涙が見えた。平気なふりをして隠そうとしていたけど、少し怯えているような表情だった。この時初めて実は痛がっていることに気付いた。

 口の悪い中原がなぜそれを隠すのか。俺が好きだから? 俺に恥をかかせないため?

 だとしたら、俺をみくびった失礼な話だ。

 中原を気持ちよくさせるために動いた。なのに、中原のペニスは小さいままだ。マンションのデブに犯されている時は勃起させていたくせに。そう思ったらカッと頭に血が上った。

「あれ、縮んじゃってる。前みたいに、自分で触んなよ。俺はそんなの、汚くて触りたくないから」

 苛立ちを中原にぶつけると、中原は強がった泣きそうな目で俺を睨んだ。

「凄いよね。貪欲っていうか。恥知らずっていうか。誰でも、なんでも、いいんだね」
「んなわけ、ねえだろ」
「マンションのデブと、俺と、どっちがいい?」
「どっちもヘタクソ」
「どうせそれも冗談なんだろ? 俺の方があのデブより祐樹のこと好きだし、愛してるのに」
「はあっ?!」

 意趣返しを狙った俺の会心の一撃。見事に中原に効いた。中原は両目を大きく開いて、顔を真っ赤にした。

「はは! 顔が赤くなった。本気にした?」
「嘘かよ、びっくりさせんなよ」

 中原の顔から驚きと喜びがすうっと消えていくのがわかった。中原は隠せないほどに、がっかりしていた。

 中原はわかりやすい奴だった。高校の時はなにを考えているのかさっぱりわからなかった。わかりたくもなかったが、今はよくわかる。こいつはただ、強がっているだけだと。

「そんな風に慌てるの、可愛いね」
「うるさい……っ!!」

 恥ずかしそうに、狼狽える姿は、素直に可愛いと思った。

「嘘じゃないよ。祐樹、可愛い」
「俺の顔、好みじゃないって言ったくせに」
「言った? 言ったね。ごめん、嘘」

 一瞬、中原は悲痛な表情を見せた。俺の言葉の何が嘘で何が真実なのかわからなくて混乱していたのだと思う。

 泣きそうな顔を見たら満足した。これ以上いじめるのは可哀そうで、今度は慰めてやりたくなった。

 俺の思わせぶりな言葉に対する中原の反応。やっぱり俺の事が好き。これは自惚れなんかじゃないだろう。今ではそれを確信している。

 今でも中原のことは嫌いだし、憎いし、鬱陶しい奴だと思うが、可愛いと思う感情が芽生えているのも、また事実だ。一度ならず二度までも、セックスしてしまったせいだ。情が移った。

 隣で寝息を立てている中原の前髪を救い上げ、低い鼻を摘まんだ。

「……うう……うっ……」

 息苦しくなったのか眉間に皺を寄せる。それを見て頬を緩める俺がいる。

 お互い誰だか思い出していたというネタばらしは今度にしよう。急ぐ必要も、バラす必要もそれほど感じない。きっと自然とその時期は訪れるだろう。たぶん、中原のミスによって。

 慌てふためく姿を想像したら――。

 早く、目を覚まさないだろうか。

 抱きしめて頬にキスした。中原の瞼がゆっくり開く。







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2016-08-04(Thu) 21:03| | トラックバック(-)| コメント 4

嘘 (6/7)

1話はこちら前話はこちら

 今井から電話がかかってきたのは一週間も経たない数日後。予想外の早さだった。直接俺の携帯へかけてきた。

『今日、お願いしてもいいかな』
「もちろん。時間と場所は?」
『えっと、19時に××駅。迎えに行く』
「オッケー」

 さっそく風呂に入って体を念入りに綺麗にした。間に合うように、時間に余裕をもって家を出た。指定された駅で待っていたら、時間ちょうどに今井は現れた。

 雑踏をかきわけ、俺の方へ向かってくる途中、歩きスマホをしている若い女とぶつかって睨まれていた。条件反射のようにすいませんと頭をさげつつ、理不尽さにむかついて女の後ろ姿を無言で睨む様子が最高で勃起しそうだった。

「早いね」

 今井は腕時計を見て、自分が遅れたわけじゃないとアピールする。

「時間厳守。五分前行動がモットーだから」
「じゃあ、行こうか」

 今井は柔らかく微笑んだ。見慣れない笑顔だ。一度寝たら、さっそく恋人気取りか?

 駅の裏側に今井は向かった。そこにラブホテルがいくつかあることは俺も知っている。案の定、「ここでいい?」と今井は一軒のホテルに入った。

 二人でシャワーを浴びた。今井の体を洗ってやる。筋肉なんかほとんどついてないインドアな肉体だ。腹周りなんかプニプニとつまめそうだ。シャワーで泡を洗い流し、男としての魅力は皆無の体に舌を這わせた。乳首を舐め、軽く噛む。濡れた陰毛を絡めないよう、今井のペニスを握った。

「また口でしてやろうか?」
「今日はもう、入れたい」
「俺のケツにハマッてんじゃねえかよ」
「祐樹のお尻ってユルユルだけど、ウリやってるホモはみんなそうなの?」

 思いがけない辛辣な言葉に息を飲む。

「な……、俺のどこがユルユルだって言うんだよ。そう感じるのはお前が小せえからだろ」
「小さい俺でもそう感じるってかなりやばいんじゃない?」

 陰鬱な笑みを浮かべながら、今井が俺の尻穴に指を入れて来た。

「ちょっ、おい、爪が痛えだろ!」
「あ、ごめん。じゃあまた前みたいに、自分でやってくれる?」

 前戯の真似事でもしようとしたのだろうか。嘘っぽい優しい声色が気持ち悪い。浴室を出てベッドへ移動する。ローションで穴を潤わせる。

「お尻弄るのってそんなに気持ちいい?」
「……なんだよ、今日はつっかかるじゃん」
「祐樹の初体験っていつなの?」
「俺に興味あんの?」
「うん、ある」

 即答されて手が止まる。

「なんで」
「これから抱く男のこと、知りたいと思うのって、変かな」
「いや、まぁ……お前みたいに根掘り葉掘り聞いて来る客は珍しくねえけど」
「門田って、どんな奴だったの?」
「えっ、門田?」
「高校の時好きだったんだろ?」
「ああ、門田……、別に普通」

 前回ついた嘘を危うく忘れるところだった。

「普通じゃわかんない。何年の時? 同じクラス?」
「質問責めかよ。一年の時。同じクラスだった。ちょっと伊藤ちゃんに似てるかも」

 似てるどころか、本人なんだけど。

「そうなんだ」

 へえ、と言って今井は遠い目をした。

「伊藤ちゃんは? いま好きな子いんのかよ」
「いない」
「前は?」
「高1の時にいたけど、嫌われたから」
「なんで?」
「同じクラスの奴にからかわれて」

 俺のことだ。間違いない。もしかして俺のことに気付いたのだろうか。恐る恐る今井の表情を窺い見る。今井はまだ、考え事でもしているように、遠い目で空を見つめていた。

「本当に、そいつ、嫌な奴だったんだ」

 表情はそのままに、今井がぽつりと呟いた。

「人の嫌がることを言って喜ぶ幼稚な奴で、クラス中から嫌われてた。俺も大嫌いだった。からかわれる前から、こんな奴、死ねばいいのにって思うくらい、鬱陶しくてどうしようもない奴だった。中学が同じだったって奴に聞いたけど、やっぱり中学でも鼻つまみ者で、友達一人もいなかったらしい。いまどうしてんのか知らないけど、ろくでもない人生送ってると思うよ。それくらい、他人から嫌われるような奴だったから」
「へー、そいつ、最悪じゃん」

 いつもの調子で相槌を打つ。むりやり持ち上げた頬の筋肉が痙攣した。嫌われてることは知っていた。自分のせいだと自覚もしてた。でも、面と向かって言われるのは堪えた。しかも好きだった奴から、死ねばいいのに、とまで言われるほど嫌われていたなんて、さすがの俺も平然と笑うことは困難だった。

「嫌なこと思い出しちゃったな。忘れたい。もう、いい?」

 と作ったような笑みで、今井は俺の腰に指をかけた。頷いたら、また一気に奥まで入れて来た。もちろん、コンドームなし。

「ううっ、待っ……」
「祐樹の中は温かくて嫌なこと忘れられるよ」

 単純に喜べない。さっきの言葉のショックからまだ立ち直れない。いまいち乗りきれない。今井の下手さが今日は辛くて苦しいだけだ。

「今日は前からして欲しいんだけど」

 バックより多少は楽になるはずだ。なのに、

「嫌だ。祐樹の顔、好みじゃないから、見たくない」

 酷い理由で断ってきやがった。今井ってこんなこと言う奴だったっけ?! イメージと違う。

「俺だってお前の顔なんか好きじゃねえよ! でも、今日は、前で。頼むからっ」
「お金払うんだから、客の言う通りにしなきゃだろ」

 と、ただ機械的に腰を打ち付けて来る。しばらくすれば慣れる。その時が来るのを待って俺は歯を食いしばって苦痛に耐えた。

「やっぱり前でしてあげる」

 急に気分を変えた今井はいきなり抜くと、俺の体をひっくり返した。そして、解放で安堵している穴へまたねじこんできた。

「あうっ」
「気持ちいい? すっごい締め付けて来る」

 ただ痛くて収縮してしまっているだけだ。今井のお目出たさは救いになるが、体への負担から目尻には涙が溜まった。

「前立腺ってどこ? ここ?」

 角度をかえてめちゃくちゃに突いて来る。そこだと答える前に、場所が変わってしまう。

「ちが……もっと、手前……ッ」
「あれ、縮んじゃってる。前みたいに、自分で触んなよ。俺はそんなの、汚くて触りたくないから」

 指でペニスの先を弾かれた。あまりの仕打ちに今井を睨みつける。今井はにこりと笑った。

「凄いよね。貪欲っていうか。恥知らずっていうか。誰でも、なんでも、いいんだね」
「んなわけ、ねえだろ」

 今井らしくなくて混乱する。俺の愛する愚かさがない。可愛げがない。

「マンションのデブと、俺と、どっちがいい?」
「どっちもヘタクソ」
「どうせそれも冗談なんだろ? 俺の方があのデブより祐樹のこと好きだし、愛してるのに」
「はあっ?!」

 とんでもない台詞に目を見開く。

「はは! 顔が赤くなった。本気にした?」
「嘘かよ、びっくりさせんなよ」

 一瞬とは言え、真に受けて喜びかけた俺がいた。

 今井ならありえなくもない話だと思えたからだ。「あいつ、今井のこと好きなんだってよ」と耳打ちされただけで、興味もなかった「あいつ」のことを意識して好きになれるのが今井だ。

 一度寝た俺のことも、もしかしたら本当に好きになってくれたんじゃないかと、一瞬、夢見た。

 落胆が思いの外凄まじい。笑い飛ばすことも、怒ったふりも難しくて妙な間が開く。自分で思っていた以上に、俺は今井に好かれたかったらしい。

「そんな風に慌てるの、可愛いね」
「うるさい……っ!!」

 心をくすぐる甘い言葉に惑わされる。これもどうせ嘘。冗談。セックスを盛りあげるための偽りの言葉なのに、感情を揺さぶられる。ぬか喜びしたくないのに、今度こそ、本気で言ってくれているのかもと、期待してしまう。

「嘘じゃないよ。祐樹、可愛い」
「俺の顔、好みじゃないって言ったくせに」
「言った? 言ったね。ごめん、嘘」

 どっちが? 今井に翻弄されすぎて、わけがわからない。もう、泣きそうになる。

「祐樹はいま、好きな奴いないの?」
「いねえよ、そんなの」

 強がった声が掠れた。

「俺じゃないの? 残念」
「どっから湧いてくんだよ、その自信。鏡見ろ」
「そうだったら良かったのにって、希望だよ」
「好みじゃないだの、汚いだの、さんざん言ってたのはお前のほうだろ」
「言ってなかったら、好きになってた?」
「もう意味わかんねえよ、なにがしたいんだよ、勘弁してくれ!」

 これ以上、やり取りを続けたら本当に泣いてしまいそうだ。

 今井の言葉は残酷な猫の爪だ。俺はいたぶられる小動物だ。今井はただ思い付きの言葉で俺の反応を見て面白がっているんだろうけど、俺にとっては1つ1つが致命的だ。

「ごめんごめん。続きをしよう」

 俺の中で今井がゆっくり動く。



こっちむいて、愛



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2016-08-03(Wed) 20:10| | トラックバック(-)| コメント 0

嘘 (5/7)

1話はこちら前話はこちら

 今井をベッドに寝かせ、その上に跨り、股間に顔を埋めた。金のため、快楽のため、ただの勢いだけで咥えて来たどのペニスとも違う。

 見た目も機能も、ほとんど何もかわりはしないのに、昔の知り合いの、しかも好きだった男のものだと思うと、あっという間に吐きだされた精液も不快じゃなく、むしろそのあっけなさが嬉しくなった。

「早えんだよ、早漏が」
「飲んだ……」
「で、次どーする?」
「えと……、もう一回、口で」
「好きだなぁ、伊藤ちゃん。まさかずっとしゃぶらせる気かよ? さてはお前、童貞だな?」

 21歳で童貞なんて珍しくもない。でも今井は図星を突かれたようで黙り込んだ。予想通りでまた嬉しくなる。

 高校一年の時、今井は由里原という、クラスで一番かわいい女の子のことが好きだったようだった。変質者のような目つきで由里原を見ていた。その見方も姑息で、由里原が友達と楽しそうにしている隙を狙っていた。近くにいるときは寝るふりをしてその会話を盗み聞きしていた。

 むっつり助平という言葉は今井のためにあるような言葉だった。あの頭の中で由里原はエグイ妄想の餌食になっているはずだった。女に興味はあっても話しかける度胸はない。今井はそういう男であるはずだ。

 そう妄想することが俺の楽しみの一つだった。知識と想像力だけを育て続け、30代には女叩きに躍起になって、40代になって風俗嬢で脱童貞をする、それが俺の理想の今井だった。

「君の、祐樹の、顔に出したい」

 ゲスくて変態的な要求をされ、俺の理想通りに育っていると確信した。

「高校の時は、もうホモだったの?」

 無遠慮で無神経な質問をしてくる。

「うるせえな、噛むぞ」
「好きな男、いた?」

 好きだった男からそんなことを聞かれて、言葉に詰まった。

「いたんだ?」
「いちゃ悪いか」
「誰?」
「聞いても伊藤ちゃんにはわかんねえだろ。てか、早く出せよ。腕が疲れて来た」
「名前だけ。知りたい」

 ここまで追及されるとは思わなかった。気付いてないふりをしたまま、今井の名前を挙げたらどんな反応が返ってくるだろう。同姓同名だと驚くだけだろうか。俺のことを思い出すだろうか。俺だと思い出した時、どんな顔をするだろう。

「……門田。満足か?」

 結局嘘の名前を言った。マンションの太った男の名前だが、今井は気付いた様子はない。

「かっこいい人?」
「しつけえな。まだ聞くのかよ。ぜんぜんかっこよくねえよ。俺、男の趣味悪いって言われてるから」
「口も悪いもんね」
「うるせえ」

 文句を言いながら、今井とこんなに話をしたのは初めてだったことに気付いた。

 高校の時は鬱陶しがられていて、まともに目を合わせてくれたことはなかった。それほど嫌われていたんだと再確認したら、さすがに少し悲しい気持ちになった。

 今井は言っていた通り顔射した。強烈な青臭さに頭がクラクラした。この生温かさは今井の体温だ。持ち主から放出された精液すら愛おしく思える。俺の男の趣味が悪いんじゃなく、俺の性癖のほうがおかしいのだ。

 次はどうするか今井に訊ねた。そのつもりはなかったようで狼狽えた。

「これで終わりでも、俺は別に構わねえけど」

 素っ気ないふりを装いながら、心の中ではやめないでくれと祈っていた。その祈りは通じた。受け入れる準備が終わるや否や、今井は性急に突っ込んできた。

「ちょっ、待っ……!! あ、ううっ……!!」

 さすが童貞というべきか。この余裕のなさ、相手への気遣いのなさ、これこそ今井だと喜び半分、与えられる苦痛に思わず呻いた。必須のコンドームも当然つけていない。今井が望むなら最初からそのつもりでいたが、今井は確認すらしなかった。

「痛い?」
「伊藤ちゃん程度のちんこ、痛いわけ、ねえだろ」

 今井に引け目を感じさせちゃいけない。でも、つい、癖で短小をネタにしてしまう。本当はそれほど小さくもないけど。

 経験のない今井は、とにかく前後に腰を振った。エロ動画を見て抜いてるだけの今井らしい動きだ。とにかく奥まで突けば喘ぐと思ってる。受け入れる側の負担まで気が回らない。いきなり突っ込まれて痛くないわけがないのに。ただピストンされただけで、気持ちよくなるわけがないのに。

「気持ちよくない?」

 心配そうな声が確認する。

「気持ちいいから、もっとして……!! いっぱい、突きまくって……!!」

 今井のセックスはこれが正解だ。うまくなったら今井じゃなくなってしまう。今井はセックス下手が似合う。

「あっ、ううっ……、んっ!! いいっ……! 気持ちいいっ!! 伊藤ちゃんのちんこ、気持ちいいっ!!」

 馬鹿な雌になりきって叫ぶ。萎えたペニスを自分で扱いて勃たせることで、言葉の裏付けを図る。

 でも思いこみで、奥の内臓を打たれる痛みが誤魔化せるわけはなく、演技の限界を知った俺は少しだけ今井を誘導することにした。

「はぁぁんっ、あっ、あっ……ちんぽ気持ちいい……ッ! あっ、そこ……ッ……もっと、してっ!! あ……あっ……前立せ……あたって……ぁ……ああ……っ!! も……して……っ!!」

 ここか? と探るように今井が動いた。少し挿入が浅くなって、なんとか前立腺への刺激を少し確保できた。これならイケる。俺は必死にペニスを扱いた。卑猥に喘いで今井を煽った。今井の腰の動きも早くなった。

 先に達したのは俺だった。

「イッたの?」

 喜びと不安の入り混じった今井の声。

「……それ聞いてどーすんの」
「だとしたら、良かったと思って。俺、短小で童貞だから」

 さんざんからかった俺への嫌味。簡単に身につけてしまう自信。感情を表に出さないようにしているくせに、本当はダダ漏れ。この愚かしさが本当に可愛い。

「俺も出すよ」

 先に俺をイカせたことに満足したような顔で、今井はピストンを再開した。そしてやはり、当然のように中出しした。ねだる必要もなかった。

 終わったあと二人でシャワーを浴び、ホテルを出た。未練が残って、この次が欲しくなった。サービスするからと、名刺に携帯の番号を書いて今井に渡した。広い通りでタクシーを拾い、それに乗り込んだ。

 電話をしてくる確率は五分五分だろうと思った。




おこさまスター 2



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2016-08-02(Tue) 21:35| | トラックバック(-)| コメント 4

嘘 (4/7)

1話はこちら前話はこちら

 事が終わったあと、また二人でシャワーを浴びた。最初と違ってぞんざいな手つきではあったが、中原は俺の体をまた洗ってくれた。

「今回は店通してないし、初回割引ってことで、半額以下の5千円でいいよ」

 服を着た中原が右手を差し出す。俺は財布から出した千円札5枚をその手に乗せた。

「そのかわり、また指名よろしく。店に電話しにくかったら、直接俺に電話してくれてもいいし。その時はサービスするから」

 と、携帯の番号を書き殴った名刺を俺にくれた。

「店通さなきゃ駄目なんじゃないの」
「バレなきゃいい」

 悪戯っぽく笑う中原から、手元の名刺へ視線を落とした。これは必要ない。もう中原に会うつもりはない。ささやかながら復讐は果たせた。金を払いはしたが、中原を金で買った立場だと思うと惜しくはない。

「気が向いたら」
「他のボーイ買ってるの見つけたらぶっ殺すからな」
「客商売向いてないよ」
「これが俺の売りなんだよ。奇特な客が何回もリピートしてくれる」
「奇特って。自分で言うんだ」
「奇特は優れた人って褒め言葉なんだぜ。そんなことも知らねえのかよ」
「俺、高校中退だから」

 一瞬、中原の顔色が曇ったが、すぐ生意気そうな表情に戻って「だから馬鹿なのか」と笑った。お前のせいだよ、とネタ晴らしたらどんな反応を見せるだろう。興味を掻き立てられたが、すぐ落ち着いた。

 二人でホテルを出た。日が落ちて暗くなっていた。そのかわり、ホテルは照明がついて目立っていた。

 タクシーに乗って帰るというので、タクシーを拾いやすい広い通りまで一緒に向かった。自分の体から安っぽいボディソープの匂いがする。この匂いを中原と共有しているのだと思うと、今まで感じたことのない親近感を覚えた。

「祐樹はどのへんに住んでるの」
「ボーイのプライベートを聞きだすのはルール違反」
「そっか、そうなんだ。そうだよね」
「……なに、なんだよ、俺に惚れた?」
「そんなんじゃないけど」
「素直になれよ」
「ほんとに違うって」

 軽口を言い合っていたら空車のタクシーがやってきた。中原が手をあげて、それを止める。

 車に乗り込んだ中原が「じゃあな――」と俺の名前を言って手を振っている。見えなくなるまで、茫然とタクシーを見送った。


 ※ ※ ※


「お待たせし――」

 と、ピザの匂いに包まれた男の顔が、俺たちを見て凍り付いた。客の男への苛立ちと、セックスを見せつける羞恥心が爆発しそうになる。でもそれはスイッチを切ったみたいに治まった。

 ピザ屋の男の顔には見覚えのあった。記憶が揺さぶられ、目の前も揺れた。

 すぐに誰だか思い出し、心臓が止まるかと思った。男は今井という、高校一年の時、短い期間同級生だった男だ。

 思い出すと同時に罪悪感で心臓がきゅうと締め付けられた。まさかこんな場所、こんな場面で再会するなんて。どんな神様の悪戯だろう。

 今井は高校一年のときに同じクラスだった。俺の悪い癖で、つい、周りの連中をいじり倒していたら不登校になって、挙句退学していった奴だ。

 さすがに悪いと思った。周りからは俺のせいだと無言の圧力も感じた。針の筵だった。俺のほうこそ登校拒否をしたくなった。

 ちょっとからかわれたくらいで学校に来なるなるなんて、今井のメンタルも弱すぎる。そう開き直って意地でも学校には通った。

 最初は無言で攻めて来た奴らも、時が経てば今井がいないことが当たり前になって、数ヶ月後には存在も忘れたような顔で過ごしていやがった。

 あいつどうしてるかな、と俺はたまに思い出していたのに。どっちのほうが薄情なんだ。

 俺は嫌いな奴はいじらない。構わない。正直に言うと、今井のことは、かなり気に入っていた。好きだった。だからこそ、中退したと知った時は落ち込んだ。自分を責めた。家まで謝りに行こうかと真剣に考えた。俺のキャラじゃない、と行動しなかったことは、卒業が近づいてきた頃になって無意味なことだったと後悔した。

 今井の陰気な感じが好きだった。閉じこもった殻をこじ開けたい欲求を常に感じていた。愛情の裏返しで今井にはしつこいくらい絡んだ。昔からそうだった。

 口も態度も悪くて人に好かれたことがない。好きになった奴には特に嫌われた。そういう性格だったからだ。直したくても直せなかった。気を付けようとしても、思いと裏腹な悪い言葉が出てしまうのだ。

 誰ともまともな人間関係を築けないまま高校を卒業し、趣味と実用をかねてウリ専の仕事を始めた。まさか、今井と再会するきっかけになるとは。

 あの日俺を買った客は露出のけもある悪趣味な奴で、今までもきわどいプレイは何度かあった。Tバックを穿かされ宅急便の受け取りをさせられたり、ベランダで犯されたりと、よく通報されなかったものだと思う。

 エスカレートした男の要求は、ピザの宅配員にセックスを見せつけることだった。嫌だと拒否すれば金は倍払うと言われ、もうどうにでもなれ、と男と繋がったままピザを受け取りに玄関に出た。

 そうしたら、今井が立っていたのだ。

 今井が俺に気付いているかわからなかった。出来れば気付かれたくない状況でもあったから、俺はただの変態になりきることに集中して、その場をなんとかやり過ごした。

 次、マンションの太った男に買われた時、またピザを頼んでくれないかと密かに願ったが、その日は趣味の悪いシースルーの服に着替えさせられ、その格好のままセックスして終わった。

 ならば自分で注文しようと店の番号を調べた。でも電話をする勇気はなかった。今井が来るとは限らないし、来たとしても、自分の望みが何なのかはっきりしなかったからだ。

 気付かれたいのか、気付かれたくないのか。気付かれたとしても、あの時は悪かったと素直に謝れる自信はない。ただ、もう一度顔を見てみたい。それだけ。

 そんな願望に頭を支配されていたある日、またマンションの男に呼び出された。今日は俺からピザの配達を頼んでみようか、そう考えながら、マンションに向かったら。そこに今井がいた。

 恥ずかしかった。あんなに会いたいと思っていたのに、いざ、そこに現れると、恥ずかしさと、申し訳なさと、恐ろしさから顔を俯けて素通りした。

 そしたら、今井の方から「あの」と声をかけてきた。さらに脈拍が早くなるのを感じた。まともに顔を見られなくて最小限の動作だけで今井のほうを向いた。

 ダサい私服で、陰気な雰囲気は相変らずだった。それがわかって俺は昔みたいにときめいた。ゲイ仲間や店のスタッフから、俺の男の趣味はかわってると言われ続けて来た。箸にも棒にもかからないような男ばかりを好きになる、と。ライバルもいないのに、俺の口の悪さと態度の悪さもあって、成就したことは一度もない。

 今井は俺に、マンションの男は他に男がいると教えてきた。その意図がわからなかった。俺に気付いているのかも、表情や態度からはわからなかった。

 俺は自分がウリ専ボーイであることを明かした。あの太った客と恋人だと思われたくないのと、わざわざこんなことを言ってくるってことは、少なからずの興味があると踏んでのことだ。そこに一縷の望みをかけ、今井に名刺を渡した。

 客とセックスして、マンションを出たら、なんと今井が待ち伏せしていた。心臓が歓喜の発作を起こしそうになった。逃がしちゃ駄目だと思った。なにがなんでも今日、ヤッてしまおう、と。

 商売ではあるが、生まれて初めて、好きな男とセックスできるかもしれないのだ。俺の焦りは相当なものだった。今井に気付かれないよう、悟られないようにしていたら、いつも以上に口が動いて今井を罵ってしまった。

 俺の口の悪さに怒りだす客もいる。今井は耐えていた。男を買う経験なんて初めてだから、今回の勢いに乗ってしまおうと我慢していたのだと思う。

 ホテルに入ればこっちのものだった。手短に説明をして、一緒に風呂に入って、自分のペースに持っていくことで緊張を解した。普段通りに振る舞えばいい。相手は今井。神様からのプレゼントだ。これはご褒美なのだから、ぞんぶんに楽しめばいい。






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2016-08-01(Mon) 21:53| | トラックバック(-)| コメント 2

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