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更新履歴・お知らせ

2017/07/06
第二ボタン2更新、完結

2017/07/05
第二ボタン1更新

2017/05/25
ちょろくない2更新、完結

2017/05/24
ちょろくない1更新

2017/05/16
やっぱちょろい2更新、完結

2017/05/15
やっぱちょろい1更新

2017/02/11
メリクリあけおめ2更新、完結

2017/02/10
メリクリあけおめ1更新

2016/11/14
義父の訪問更新、完結

2016/10/27
覗き2更新、完結

2016/10/26
覗き1更新

2016/10/22
終わらない夜2更新、完結

2016/10/21
終わらない夜1更新

2016/10/16
凹の懊悩2更新、完結

2016/10/15
凹の懊悩1更新

2016/09/28
可愛さも憎さも百倍2更新、完結

2016/09/27
可愛さも憎さも百倍1更新

2016/09/22
利害の一致2更新、完結

2016/09/21
利害の一致1更新

2016/09/16
楽しい記憶喪失!3更新、完結

2016/09/15
楽しい記憶喪失!2更新

2016/09/14
楽しい記憶喪失!1更新

2016/09/13
楽しい同棲!2更新、完結

2016/09/12
楽しい同棲!1更新

2016/09/11
Phantom15更新、完結

2016/09/10
Phantom14更新

2016/09/09
Phantom13更新

2016/09/08
Phantom12更新

2016/09/07
Phantom11更新

2016/09/06
Phantom10更新

2016/09/05
Phantom9更新

2016/09/04
Phantom8更新

2016/09/03
Phantom7更新

2016/09/02
Phantom6更新

2016/09/01
Phantom5更新

2016/08/31
Phantom4更新
リンク一件追加

2016/08/30
Phantom3更新

2016/08/29
Phantom2更新

2016/08/28
Phantom1更新

2016/08/04
嘘7更新、完結

2016/08/03
嘘6更新

2016/08/02
嘘5更新

2016/08/01
嘘4更新

2016/07/31
嘘3更新

2016/07/30
嘘2更新

2016/07/29
嘘1更新

2016/07/18
Love Scars3更新、完結

2016/07/17
Love Scars2更新

2016/07/16
Love Scars1更新

2016/07/13
行きつく先は5更新、完結

2016/07/12
行きつく先は4更新

2016/07/11
行きつく先は3更新

2016/07/10
行きつく先は2更新

2016/07/09
行きつく先は1更新

2016/07/04
電話が鳴る7更新、完結

2016/07/03
電話が鳴る6更新

2016/07/02
電話が鳴る5更新

2016/07/01
電話が鳴る4更新

2016/06/30
電話が鳴る3更新

2016/06/29
電話が鳴る2更新

2016/06/28
電話が鳴る1更新

2016/06/16
今日の相手も2更新、完結

2016/06/15
今日の相手も1更新

2016/06/08
今日の相手は2更新、完結

2016/06/07
今日の相手は1更新

2016/05/25
いおや2更新、完結

2016/05/24
いおや1更新

2016/05/14
奇跡2更新、完結

2016/05/13
奇跡1更新

2016/04/28
ターゲット2更新、完結

2016/04/27
ターゲット1更新

2016/03/02
視線の先2更新、完結

2016/03/01
視線の先1更新

2016/02/23
性癖の道連れ2更新、完結

2016/02/22
性癖の道連れ1更新

2016/02/15
DL販売お知らせ

2016/01/20
尾行2更新、完結

2016/01/19
尾行1更新

2015/12/07
遺作2更新、完結

2015/12/06
遺作1更新

2015/12/02
昼夜2更新、完結

2015/12/01
昼夜1更新

2015/11/26
大小2更新、完結

2015/11/25
大小1更新

2015/11/15
彼はセールスマン2更新、完結

2015/11/14
彼はセールスマン1更新

2015/10/22
2度あることは2更新、完結

2015/10/21
2度あることは1更新

2015/09/18
死神さんいらっしゃい2更新、完結

2015/09/17
死神さんいらっしゃい1更新

2015/09/08
Congratulations2更新、完結

2015/09/07
Congratulations1更新

2015/09/01
待田くんに春の気配3更新、完結

2015/08/31
待田くんに春の気配2更新

2015/08/30
待田くんに春の気配1更新

2015/08/11
亀の恩返し2更新、完結

2015/08/11
亀の恩返し1更新

2015/08/07
Aからのメール2更新、完結

2015/08/06
Aからのメール1更新

2015/07/06
5年後2更新、完結

2015/07/05
5年後1更新

2015/07/04
待っててね2更新、完結

2015/07/03
待っててね1更新

2015/05/11
その後3更新、完結

2015/05/10
その後2更新

2015/05/09
リクエスト小説
その後1更新

2015/05/05
待田くんに春はこない2更新、完結

2015/05/04
待田くんに春はこない1更新

2015/04/30
楽しいシーソーゲーム!2
更新、完結

2015/04/29
楽しいシーソーゲーム!1更新

2015/04/21
楽しい親子喧嘩!1
楽しい親子喧嘩!2更新、完結

2015/04/16
楽しい放課後!2更新、完結

2015/04/15
楽しい放課後!1更新

2015/04/06
楽しい合コン!2更新、完結

2015/04/05
楽しい合コン!1更新

2015/04/01
楽しいお見舞い!2更新、完結

2015/03/30
楽しいお見舞い!1更新

2015/03/24
楽しい旧校舎!2更新、完結

2015/03/23
楽しい旧校舎!1更新

2015/03/16
楽しい入院生活!2更新、完結

2015/03/15
楽しい入院生活!1更新

2015/03/05
楽しい遊園地!2更新、完結

2015/03/04
楽しい遊園地!1更新

2015/02/27
楽しいロッカールーム!2更新、完結

2015/02/26
楽しいロッカールーム!1更新

2015/02/16
楽しいOB会!2更新、完結

2015/02/15
楽しいOB会!1更新

2015/02/14
一周年!!
いつもありがとうございます!
君は日向の匂い更新、完結
シンデレラアイドルのSSです

2015/02/13
保健室の先生2更新、完結

2015/02/12
保健室の先生1更新

2015/02/11
teeth2更新、完結

2015/02/10
teeth1更新

2015/02/09
楽しい初カノ!2更新、完結

2015/02/08
楽しい初カノ!1更新

2015/01/31
楽しい勉強会!2更新、完結

2015/01/30
楽しい勉強会!1更新

2015/01/23
楽しいお泊り!2更新、完結

2015/01/22
リクエスト小説
楽しいお泊り!1更新

2015/01/08
明けましておめでとうございます!
本年も宜しくお願い致します!
リクエスト小説
両想い1、2更新、完結

2014/12/12
楽しい合宿!2更新、完結

2014/12/11
楽しい合宿!1更新

2014/12/01
アガルタ2更新、完結

2014/11/30
リクエスト小説
アガルタ1更新

2014/11/23
朝のお楽しみ2更新、完結

2014/11/22
リクエスト小説
朝のお楽しみ1更新

2014/11/14
即位式2更新、完結

2014/11/13
即位式1更新

2014/11/04
裏ドSくん3更新、完結

2014/11/03
裏ドSくん2更新

2014/11/02
裏ドSくん1更新

2014/11/01
ひみつのドSくん2更新、完結

2014/10/31
ひみつのドSくん1更新

2014/10/30
伴侶1、2更新、完結

2014/10/27
支配人3更新、完結

2014/10/26
支配人2更新

2014/10/25
支配人1更新

2014/10/24
隣人3更新、完結

2014/10/23
隣人2更新

2014/10/22
隣人1更新

2014/10/15
元上司2更新、完結

2014/10/14
リクエスト小説
元上司 1更新

2014/10/10
ニコニコドッグⅡ 2更新、完結

2014/10/09
リクエスト小説
ニコニコドッグⅡ 1更新

2014/10/04
茶番2更新、完結

2014/10/03
リクエスト小説
茶番1更新

2014/09/12
「ちょろい 2」更新、完結

2014/09/11
「ちょろい 1」更新

2014/09/08
「新雪の君」更新、完結

2014/09/06
コメントお返事させて頂きました

2014/09/05
「すばらしい日々3」更新、完結

2014/09/04
「すばらしい日々2」更新
コメントお返事させて頂きました

2014/09/03
リクエスト小説
「すばらしい日々1」更新
コメントお返事させて頂きました

2014/09/01
「好きと言って4」更新、完結

2014/08/31
「好きと言って3」更新

2014/08/30
「好きと言って2」更新

2014/08/29
リクエスト小説
「好きと言って1」更新

2014/08/24
「純粋に近付いた何か2」更新、完結

2014/08/23
リクエスト小説
「純粋に近付いた何か 1」更新

2014/08/15
コメントお返事させて頂きました

2014/08/14
再会2更新、完結
コメレスさせて頂きました

2014/08/13
リクエスト小説「再会1」更新
「ノビ」の続編です

2014/07/26
コメントお返事させて頂きました

2014/07/25
息子さんを僕にください2更新完結

2014/07/24
リクエスト小説「息子さんを僕にください1」更新
娘さんを僕に下さいとは無関係ですw

2014/07/22
コメントお返事させて頂きました

2014/07/20
久しく為さば須らく2更新、完結
コメントお返事させて頂きました

2014/07/19
リクエスト小説「久しく為さば須らく1」更新
コメントお返事させて頂きました

2014/07/18
コメントお返事させて頂きました

2014/07/16
コメントお返事させて頂きました

2014/07/15
コメントお返事させて頂きました

2014/07/14
コメントお返事させて頂きました

2014/07/13
リクエスト小説「嫉妬せいでか2」更新、完結
コメお返事させて頂きました

リクエスト小説「嫉妬せいでか1」更新

2014/07/11
拍手お返事させて頂きました
お知らせ一件

2014/07/10
コメント、拍手お返事させて頂きました

2014/07/09
拍手お返事させて頂きました

2014/07/08
コメント、拍手お返事させて頂きました
耽溺 2更新、完結

2014/07/07
拍手お返事させて頂きました
リクエスト小説「耽溺 1」更新

2014/07/06
拍手お返事させて頂きました

2014/07/05
拍手お返事させて頂きました

2014/07/04
コメント、拍手、お返事させて頂きました

2014/07/03
コメント、拍手、お返事させて頂きました
吉原と拓海その後 2更新、完結

2014/07/02
コメント、拍手、お返事させて頂きました
吉原と拓海その後1更新しました

2014/07/01
コメントお返事させて頂きました
シンデレラアイドル2更新、完結

2014/06/30
拍手お返事させて頂きました
シンデレラアイドル1更新しました

2014/06/29
リクエスト募集してます

2014/06/27
拍手お返事させて頂きました

2014/06/24
目は口ほどに 更新、完結

2014/06/17
茶々丸更新、完結
獣姦っぽい

2014/06/11
連鎖 2更新、完結

2014/06/10
連鎖 1更新

2014/06/07
拍手お返事させて頂きました

2014/06/06
拍手お返事させて頂きました

2014/06/05
拍手お返事させて頂きました

2014/06/04
元旦那さん 2更新、完結

2014/06/03
元旦那さん 1更新
旦那さんの続きです

2014/05/29
昨日の記事の続きで拍手お返事させてもらっています

2014/05/28
旦那さん 2更新、完結

2014/05/27
旦那さん 1更新

2014/05/22
夢の時間2更新、完結

2014/05/21
アンケート1位小説「親子」
夢の時間1更新

2014/05/16
この物語はフィクションです更新、完結

2014/05/14
アンケート1位小説「教師と生徒」で先生受け。
信じて下さい更新。完結

2014/05/11
純粋とは程遠いなにか2更新。完結
ダウンロード販売のお知らせ

2014/05/09
純粋とは程遠い何か1更新

2014/05/01
長男としての責務2更新。完結

2014/04/30
長男としての責務1更新

2014/04/27
セフレ更新。完結

2014/04/21
嘘が真になる2更新。完結

2014/04/20
嘘が真になる1更新。
アンケート終了しました
投票してくださった皆さんありがとうございました!

2014/04/15
親切が仇になる2更新。完結

2014/04/14
親切が仇になる1更新

2014/04/11
家庭教師更新。完結

2014/04/09
惚れ薬2更新。完結

2014/04/08
惚れ薬1更新

2014/04/05
ニコニコドッグ更新。完結

2014/04/03
健やかなるときも病めるときも更新。完結
アンケート設置1ヶ月記念更新
回答ありがとうございます!

2014/04/02
お隣さん2更新。完結

2014/04/01
お隣さん1更新

2014/03/28
B3-17 はるか更新。完結

2014/03/27
会話の語尾は常にハートマーク更新。完結

2014/03/24
僕の居場所更新。完結

2014/03/21
兄弟愛(3/3)更新。完結

ストックを全て出し切ってしまいましたので毎日更新は今日で終わりになります。
これからは書き終わり次第更新していきますので、引き続きよろしくお願い致します。

2014/03/20
兄弟愛(2/3)更新。

2014/03/19
兄弟愛(1/3)更新。

2014/03/18
7歳の高校生更新。完結

2014/03/17
7歳の高校生更新

2014/03/16
裏の顔更新。完結
アンケート2位「教師と生徒」
少し違う感じになりました。

2014/03/15
残業も悪くない更新。完結
アンケート結果を反映させてみました。
アンケートに答えてくださった皆さんありがとうございます。引き続きお願い致します

2014/03/14
片思い更新。完結

2014/03/13
クラスの地味男更新。完結

2014/03/12
吉原と拓海更新。完結

2014/03/11
罠更新。完結

2014/03/10
同級生更新。完結

2014/03/09
目覚め更新。完結
FC2小説にて、
閃光戦士フラシュレッド!公開。完結。

2014/03/08
やってられない更新。完結

2014/03/07
地下の城ピュラタ更新。完結

2014/03/06
地下の城ピュラタ更新。

2014/03/05
部室にて更新。完結

2014/03/04
すべからく長生きせよ更新。完結

2014/03/03
秘め事更新。完結
アンケート設置。ご協力お願いします

2014/03/02
映画館にて更新。完結

2014/03/01
大迷惑@一角獣更新。完結

2014/02/28
大迷惑@一角獣更新。

2014/02/27
僕はセールスマン更新。完結

2014/02/26
俺のセールスマン更新。完結

2014/02/25
夏の夜更新。完結

2014/02/24
妄想更新。完結

2014/02/23
先生 その2更新。完結

2014/02/22
洞窟更新。完結

2014/02/21
洞窟更新。

2014/02/20
先生 その1(1-2)更新。
先生 その1(2-2)更新。完結

2014/02/19
娘さんを僕にください更新。完結

2014/02/18
ノビ更新。完結

2014/02/17
ノビ更新。

2014/02/16
1万3千円更新。完結

2014/02/15
1万3千円更新。

2014/02/14
ファンレター更新。完結

2014/02/14
ブログ始動。
「ファンレター」公開。

よろしくお願いします。

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薔薇色の日々
  (「裏の顔」改訂版)

不埒な短編集
 短編3つ

不埒な短編集第二
 短編3つ

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嘘 (3/7)

1話はこちら前話はこちら

 泡を洗い流したあと、中原は俺の体を拭いてくれた。そしてベッドに横たわった俺の足に跨って、はちきれそうなペニスを口に咥えこんだ。あの中原が!

「うっ、待っ……!!」

 熱い粘膜に包まれながら、軽く唇でしごかれただけであっという間に昇りつめた。自己最速記録で、中原の口の中に精液を叩きつけていた。

 さすがに予想外だったようで、中原は眉を寄せて俺を睨んだ。モゴモゴと口周りを動かしたあと、「早えんだよ、早漏が」と俺を揶揄することで飲みこんだことを証明した。

「飲んだ……」
「で、次どーする?」
「えと……、もう一回、口で」
「好きだなぁ、伊藤ちゃん。まさかずっとしゃぶらせる気かよ? さてはお前、童貞だな?」

 中原の口が近づいて、俺のペニスに熱い息が吹きかかったと思ったら、再び熱い口腔内に包まれていた。中原は頭を上下させて俺のペニスをしゃぶった。くらくらするような快楽。

 頬の形がへこんだり膨らんだり変形している。中原の口から溢れた唾液が、陰茎を伝い落ち下に溜まる。感じる刺激と、目の前の光景が結びつかない。

 高校時代の数か月、中原ときちんと話をしたことは一度もなかった。いつも一方的に嫌がらせをされていた。言い返せば嫌がらせがしつこくなるだけだとわかっていたから、「うん」とか「違う」くらいしか言ったことはないし、こちらから話しかけたこともない。面と向かい合ったこともなかったんじゃないだろうか。

 みんな、そんな感じだった。中原はクラスの嫌われ者だった。内心では馬鹿にして、見下して、罵詈雑言を浴びせかけていた中原が今、俺のものをうまそうにしゃぶっている。いまにも射精しそうな快感は、俺の高校中退の原因を作った中原によってもたらされているのだ。

「出る、かも」

 また早いと言われるかと思ったが、どうぞ、というふうに、中原は先端を二度吸った。一度目は中原の口に出した。二度目は違う場所がいい。

「君の、祐樹の、顔に出したい」

 熱を孕んだ目で俺をじっと見たあと、中原は軽く頷いて口を離した。亀頭を自分の顔に向けながら、手で扱く。金のためとはいえ、こんなことを甘んじて受け入れるなんて意外だった。本当は元からこういうことが好きだったのだろうか。

「祐樹は、いつから、この仕事してるの?」
「高校卒業してから」

 俺は中退したのに、中原はちゃんと卒業したのか。

「いつからホモなの?」
「早く出せよ」

 低い声とともに、鋭い眼差しが矢のように飛んできた。少し気圧されたものの、このタイミングを逃すまいと質問を続けた。

「高校の時は、もうホモだったの?」
「うるせえな、噛むぞ」
「好きな男、いた?」

 中原は口を閉ざして唇をへの字に曲げた。機嫌を損ねた駄々っ子みたいな表情だ。

「いたんだ?」
「いちゃ悪いか」
「誰?」
「聞いても伊藤ちゃんにはわかんねえだろ。てか、早く出せよ。腕が疲れて来た」
「名前だけ。知りたい」
「……門田。満足か?」

 挑発的な目が俺を睨む。門田という名前にはなんとなく聞き覚えがあるようなないような、曖昧な感覚しか持てない。同じクラスだった連中のほとんどの顔と名前を忘れてしまっているから思い出せないだけかもしれない。二年以降の中原のクラスメートだとしたら、俺にはわからない。

「かっこいい人?」
「しつけえな。まだ聞くのかよ。ぜんぜんかっこよくねえよ。俺、男の趣味悪いって言われてるから」
「口も悪いもんね」
「うるせえ」
「告白した?」
「できるわけねえだろ。もういい加減にしねえと、止めるぞ」
「ごめん、もう、出すよ」

 ちょっとほっとした顔で、中原は俺のペニスに視線を戻した。

 中原に見つめられながら俺はその顔へ射精した。目に入るのを避けるために中原は目を閉じる。眉間から鼻梁へ、その脇から口元へと、俺の吐きだした精液が中原の顔を汚している。

 征服感が尾てい骨のあたりからゾクゾクとこみあげて来て、俺の体はブルッと震えた。

 顔が俺の精液まみれの中原は、赤い舌が出し、唇に溜まる白い液体を舐めとった。目を開け、俺を見据えながら、口周りの精液を指先で口元へ運び、その指の汚れも俺に見せつけるように舐めた。

「次はどーする? 伊藤ちゃん」
「次……?」
「入れたい? 入れられたい?」
「えっ!」
「これで終わりでも、俺は別に構わねえけど」

 俺が中原に……、入れる? 入れられる?! 入れられるなんてまっぴらごめんだ。どうして俺が中原のちんこを突っ込まれなきゃいけないんだ。じゃあ、入れる? それもどうだろう。中原のケツに入れたいか? そこまでしたら完全に俺までホモじゃないか? 俺はただ、高校時代の憂さ晴らしをしたかっただけだ。

 これでもう充分なような気がする。でも、せっかくだから、という欲も出て来る。

 マンションのデブ男のように、中原をヒイヒイ善がらせるのも、面白いかもしれない。

「い、入れる……ほう、で」
「オッケー。じゃ、準備するわ」

 中原は体を起こすとホテルの備品のローションを手に出して、それを尻になすりつけた。俺のほうへケツを向けているから、中原が指を出し入れしているのが見えた。意外につるんと綺麗な尻だ。ローションのせいでそぼ濡れるアナルも、出張ホストをしている割に色づきは薄い。

 そっと尻を触ったら、中原は「わっ」と声をあげて背を逸らした。

「なんだよ、急に」
「スベスベしてる」
「あー、ケツだけは褒められる」
「ケツだけなんだ」

 と笑ったら「うるせえ、殺すぞ」と中原は口を尖らせた。自分が言ったくせに。

「伊藤ちゃん、3回目だけど、勃つのか? また口でやってやろうか?」

 必要に迫られた事務的な感じで肛門を解しながら中原が言った。

「もう、入れて大丈夫なの?」
「まあ、大丈夫っちゃあ、大丈夫だけど」

 大丈夫という言葉を聞いて、俺は中原の腰を掴んで背後から挿入を試みた。ぬめついた肛門に亀頭を押し当て、ぐぐっと押し込む。フェラしてもらう必要はなかった。中原が指を出し入れしているのを見ているだけで勃起した。

「ちょっ、待っ……!! あ、ううっ……!!」

 ベッドにうつ伏せになって、中原が呻く。狭くて突っ張る感じはするが、ローションのおかげで引っかかるような痛みはない。中原は違うのかもしれない。

「痛い?」
「伊藤ちゃん程度のちんこ、痛いわけ、ねえだろ」

 短小と言われたっけ。今更ながら傷つく言葉だ。それに、童貞だと言い当てられたし。なにがなんでも善がらせたい。マンションのデブ男にできたんだ、俺にだってできるはずだ。

 ゆっくり引いて、また戻す。という動作を何度も繰り返した。中原の中はとても暖かくて、狭くて、吸い付いて来る粘膜は動くたびうねって俺を奥へと誘い込むようだった。

 慣れているのかと思いきや、健気な緊張感も保っていて、それに味をしめた俺は猿みたいに何度も何度も出し入れした。

「うっ、ううっ、あ、あぁぁっ……!!」

 ベッドに顔を押し付けたまま、中原が声をあげる。デブのマンションで聞いた声と少し違う気がする。

「気持ちよくない?」

 確認したら、中原はシーツに額を擦りつけるように首を左右に振った。

「気持ちいいから、もっとして……!! いっぱい、突きまくって……!!」

 言われた通り、ピストン運動の速度と強度をあげた。陰茎を扱かれて俺のペニスがさらに充血する。

「あっ、ううっ……、んっ!! いいっ……! 気持ちいいっ!! 伊藤ちゃんのちんこ、気持ちいいっ!!」

 叫ぶように言いながら、中原は自分でペニスを扱いた。

「はぁぁんっ、あっ、あっ……ちんぽ気持ちいい……ッ! あっ、そこ……ッ……もっと、してっ!! あ……あっ……前立せ……あたって……ぁ……ああ……っ!! も……して……っ!!」

 前立腺。聞いたことがある。どこだと探しながら腰を振った。ある場所を擦ると中原は髪を振り乱した。きっとここだ。そこを徹底的に責めた。

「ああぁっ……だめっ、そんなっ……しちゃ……ぁ……だめっ……やだっ……ッ……気持ちよくて……イッちゃ……イッちゃうからっ……! はあぁんっ……いとう、ちゃ……あっあっ!!」

 中原の声が聞こえなくなると同時に、体が強張った。そして、大きく息を吐きだしながら弛緩した。ぐったりした背中が大きく上下している。

「イッたの?」
「……それ聞いてどーすんの」
「だとしたら、良かったと思って。俺、短小で童貞だから」

 首を捻って中原が俺を睨む。

「まぁ、確かに、短小で童貞で早漏でテクニック無しだけど、初めてのわりに良かったんじゃね?」
「テクニック無しが増えた」
「童貞なんだから当たり前だろ。何様だお前」
「でも祐樹、すごい喘いでた」
「全部演技だよ、バーカ」
「えっ、そうなの」
「冗談もわかんねえのか、バーカ。早くイケよ。今度は遅漏かよ」
「俺も出すよ」

 中原の悪口に苦笑しながらピストンを再開する。

 高校生の頃は苦手でしかなかった中原の口の悪さが今では平気に聞き流せるのが不思議だった。学校の教室という閉ざされた空間、逃げられない条件が揃っていたから、神経質になっていただけだったのだろうか。

 いや、確かに中には酷い中傷もあったから、やっぱり中原が人格異常者なのだと思う。

 そんなことを考えながら三度目の射精をする。出したあとで、中出しして良かったのかと不安になったが、中原は何も言わないから、これもサービスの内なのだろう。どうせ男同士で妊娠もしないのだし。






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2016-07-31(Sun) 20:45| | トラックバック(-)| コメント 0

嘘 (2/7)

<前話はこちら>

 エントランスに先回りした。中原がやってくる。俺に気付くとさらに顔を俯けて、中原はエレベーターの前に立った。ボタンを押したあと、微動だにせず、待っている。

 俺は後ろからまじまじと中原を見た。半袖のシャツから伸びる腕はほっそりしていて、シャツの余った腰まわりも、ベルトがなければジーンズは落っこちてしまいそうだ。

 こんなに細かったっけ。俺より背は高くてがっしりしているイメージだった。苦手意識が、そういう風に記憶を作り替えてしまったのかもしれない。

「あの」

 声をかけると、中原は首を少しだけ動かして、振り向く動作を見せた。でもまだ顔は見えない。

「この前は、どうも」

 さらに言葉をかけ続けると、やっとこちらに顔を向けた。肩越しに目が合う。

「××ピザの……、配達に……」
「……ああ」

 不機嫌そうな低い声が、中原の口から聞こえた。この前も、今も、中原が俺だと気付いた様子はない。高1のわずかな期間一緒にいただけのクラスメートなんて、こいつが覚えているはずもないのだ。

「今日はチラシのポスティングに。またご利用お願いします」

 ここにいる不自然さをごまかすために嘘をつく。中原は軽く頷いた。

「あの人は彼氏、ですか」
「関係ねえだろ」

 鋭い声が発せられた。一応、あれが恥ずかしい咎められる行為だと自覚はあるようだ。

「ああいうの見たの、初めてで。びっくりしました」
「あっっっそ」

 不機嫌さを隠さない、適当で吐き捨てるような相槌。

「このへん、配達エリアだから、よく通るんですけど……、余計なお世話だと思うんですけど、あの人、あの……あなたの、彼氏? 他に男がいるみたいですよ。若くて、ちょっとかっこいい系の子といるの、何度か見ました」

 喋っている途中で、頬が持ちあがるのを止められなかった。自然と湧きあがってくる笑みを抑えきれず、最後は完全な笑顔になっていた。

 言った言葉は本当だ。このあたりをウロついている時にあのデブの部屋を訪れる男が何人かいることに気付いた。みんな、中原のような見た目。あのデブのタイプらしい。中原もその一人。あんなに恥ずかしい真似をしているくせに、結局は、何股のうちの一人でしかない。

 中原はどんな反応をするだろう。嫉妬に怒り狂う? それを期待していたのに、中原は「ハッ」と笑い飛ばした。

「それが? お前、なんか勘違いしてるみたいだけど、俺、あいつと付き合ってねえから。金もらってヤッてるだけだから。余計なお世話」

 顔の半分をこちらに見せてせせら笑う。

「えっ、金……」
「売り専のボーイ。って意味わかる? ゲイの風俗。デリヘルの男版。今日も客に家呼ばれたから来てるだけ」

 中原はボディバッグを前に回すと、なかに手を入れてゴソゴソやりながら、こちらに近づいてきた。目の前で立ち止まったと思ったら、小さなカードを俺の鼻先に突き出した。

「興味あんなら、指名お願いしまーす」

 馬鹿にしたような軽い口調。わけがわからないまま、それを受け取った。中原はくるりと背を向けると、到着したエレベターに乗り込み、俺に手を振って上へと消えて行った。

 咄嗟に受け取ってしまったカードを見る。なんてことはない、ただの名刺だった。『出張対応ウリ専 ボーイミーツボーイ 祐樹』と電話番号だけが書いてある。

 中原はウリ専のボーイ。お金をもらってゲイとセックスしている。そんな世界や人達がいることは知ってはいるが、まさかあの、中原が。

 しかしこれで納得だ。あのモテそうにないデブがとっかえひっかえ若い男を家に呼び付けているのが不思議だった。他の男たちもお金で買われたボーイなのだろう。

 中原に一矢報いることが出来たと勘違いした高揚はすっかり萎れた。次なる復讐の手段を考え始めた。名刺を手に入れた瞬間から、もう、これしかないような気がしていた。

 60~90分程度で中原は出て来るだろうと思って、当初の予定通り本屋へ行って文庫本を一冊購入した。ファストフード店で文庫を読みながら時間を潰し、入れ違いになると嫌なので少し早めにマンションに戻った。

 マンションの周りをグルグル歩いていたら、中原がエントランスから出て来た。俺に気付かず、駅のほうへ歩いて行く。追いかけて、声をかけた。

「あのっ」

 振り返った中原はさっきの俺だとわかると、呆れたような笑い方をした。

「え、さっそく? 相当溜まってんなぁ」

 出て来るまで待っていた理由を中原は察したようだった。

「初めてなんで、ど、どうしたらいいか、わかんないんですけど」
「ほんとなら店通さなきゃなんないんだけど、今日は俺、直帰選んでるから、このままでいーよ。そのかわり、絶対店に内緒にしとけよ。とりあえず、ホテル探すか。こっから一番近いホテルってどこよ」
「えっ、ホテ……えっ、えーっと」
「配達まわって詳しいんじゃねえのかよ。使えねえなぁ。あんたの家でもいいけど?」
「ホテル、あります! ちょっと遠いですけどっ」
「じゃあ、案内よろしく」

 こっちです、と今更敬語を崩せないまま、幹線道路に近いホテルへと中原を連れて向かった。

「名前。俺は祐樹。おたくは?」
「あっ、俺、い……い、伊藤です」

 本当は今井だが嘘をついた。本名を名乗ったって中原が俺を思い出すとは思えなかったが、どうせなら知らせないまま、俺の方が優位だと安心したかった。

「伊藤、ね。苗字かよ」
「え、あ、下の名前?! 」
「どっちでもいいよ。で、まだ? 遠いんならタクシーで行こうぜ」
「もうすぐ、だから」

 タクシーで男二人、ラブホテルに乗りつけるのか? そんな恥ずかしい真似俺にはできない。それが出来るくらい、中原の羞恥心はすり減っているのだろう。ピザの配達スタッフに、事の最中を見せつけるくらいなのだから。

 中原に容赦ない文句を言われながら十分後にやっとホテルに到着した。夕方近いが、外はまだまだ明るい。躊躇する俺とは正反対に、中原は颯爽とホテルのなかに入って、慣れた様子で部屋を選んでしまった。

「男同士でも入れるんですね」
「文句言われたら、俺は女だって逆切れすりゃいい」

 確かにそう言われたら引っ込むしかないかもしれない。俺も客商売をしているから、そのあたりの難しさはわかる。

 部屋の中に入ると、効きすぎた冷房の肌寒さと、空気の乾燥が気になった。絞られた照明、外の言えない窓、閉鎖的な空間で息がつまる。

 中原は何も気にならないのかソファに腰をおろして足を組んだ。

「60分、90分、120分。時間はどれにする?」
「え、あ、えーっと、どんなコースがあるんですか」
「今回初めてだから、伊藤ちゃんの要望から聞くわ。どうして欲しい? なにがしたい?」
「なにが……」

 中原に屈辱を与えられるなら、なんだっていい。とりあえず、

「く、口……フェラを……」
「オッケー。じゃまず、シャワー浴びるか」

 ソファから腰をあげた中原に手招きされる。

「えっ、俺も? 一緒に?!」
「お前のムレムレになったきったねえちんこしゃぶらせる気かよ」
「そんなつもりは!」

 否定してから、そのほうが中原にダメージを与えられると気付いたが、もう遅かった。

「じゃ、来い。俺が脱がせてやろーか?」

 と、中原は俺の胸倉を掴んだ。終始中原のペースだ。これじゃ駄目だ。俺が主導権を握らなくては。

 中原の手を振り払って自分で服を脱いだ。それを見た中原もニヤッとして服を脱ぎ棄てた。全裸になって二人で浴室に入る。

 そういうマニュアルなのだろう。中原が俺の体を丁寧に、隅々まで洗ってくれた。貧相な体だとか、短小で早漏そうだとか、ここでも言いたい放題コケ下ろしてくれたが、体を撫でる泡だらけの手は優しくて、いやらしくて、からかうように乳首やペニスを触られると、ドッドッと心臓が高鳴って、たまらない気分になった。

「そーいえば、伊藤ちゃん、何歳?」
「あ、21」
「俺とタメじゃん」

 タメどころか、一時期、同じ高校に通ってたんだよ。偽名を名乗ったせいもあるだろうが、俺が元クラスメートだと気付く様子は微塵もない。

「もうちょっと待ってな」

 中原は勃起した俺のペニスに話しかけると、自分の体を洗い出した。中原も勃起していた。浴槽の縁に片足を乗せ、俺に見せつけるように尻の穴に指を入れてそこも綺麗にした。

 そこは使わない。と、思っても、口に出しては言えなかった。荒々しい鼓動が、のどに蓋をしてしまっていたのだ。






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2016-07-30(Sat) 20:21| | トラックバック(-)| コメント 0

嘘 (1/7)

※途中視点交代。交代後、重複箇所あり。

 配達を頼まれたマンションの部屋番号をもう一度確認してからインターフォンのボタンを押した。

『はーい』

 適切な音量で話せないのかと思うような大きくて野太い声が応答する。

「××ピザです」
『いま出まーす!』

 しばらくしてガチャガチャと鍵の開く音がして、扉が開いた。

「お待たせし――」

 俺は最後まで言いきることが出来なかった。最初に目に飛び込んできたのは、涙と鼻水でグチャグチャの若い男の顔。

「あっ、あ、す、いませんっ……いくらっ、ですか、はぁっ!」

 喘ぎ声としか思えないような声をあげながら話しかけてきた男は全裸だった。その男の後ろでにやついた顔で腰を振っているのも、どう見ても男だった。こっちは30代前半だろうか。

 パンパンパンパンと肉のぶつかる音と、グチュッブチュッと粘ついた水音が聞こえる。前に立つ若い男の股間では勃起したものがブラブラと揺れていた。

「えっ……、あの、これ……」

 俺は一歩後ずさった。

 ピザ屋でバイトを始めて、いろんな家に配達に行った。なぜか居留守を使って「遅い!」と電話でキレてくる頭のおかしい奴もいれば、「一人で食べきれないからご一緒にどう?」と言ってくる一人暮らしのお年寄りもいたりした。

 大半はまともで普通の客だが、たまにヤバイとこに来た、と思わせる客もいる。こいつらなんかはまさにそう。

「悪いねぇ、いまいいとこだったからさ。ほら、祐樹、金払え」
「あはぁぁ、あっ、い、いくらぁっ?!」

 祐樹と言われた男は、後ろのデブに体を揺さぶられながら、歪めた顔を俺に向ける。よく見ると涙と鼻水と涎に混じって白い液体も見える。おそらくどちらかの精液。

「えっ、と、あのっ! えーっと、さっ、3800円、です!」
「ほら、祐樹、これで払え。おつり、ちゃんと受け取るんだぞ」

 後ろのデブが五千円札を祐樹に握らせた。祐樹がそれを俺に差し出してくる。何かを訴えかけるような切ない表情で。

「あっ、はい、えっとじゃあ、1200円のお返しですね。しょ、少々お待ちください」

 ウェストポーチからおつりを出して祐樹の手に乗せた。それを狙っていたみたいに、後ろのデブが激しく祐樹を突きあげた。

「いああぁぁっ、あっ、ああぁんっ、だめ、やっ、そんな、しちゃ……だめっ……お金、落としちゃうっ」

 祐樹の言う通り、振動で小銭が手から滑り落ちた。転がった百円玉が俺の足にぶつかって倒れる。一刻も早く帰りたくてそれを拾い上げた。

「あ、これ」
「祐樹、ピザも受け取らなきゃいけないから、お金は口でもらいな」

 デブがニヤニヤしながら祐樹に指示する。祐樹は男の言いなりで「わかった」と頷いて俺を上目遣いに一度見たあと、だらしなく開きっぱなしの口から赤い舌を出して、震える俺の手から百円玉を舐め取った。

「ピラ……もらいまふ……」
「え、あっ、はい! どうも、ありがとうございました!」

 マニュアル通りにお礼を言って、急いで扉を閉めた。直後、中からガタガタと慌ただしい音がして、「あはぁっ、あぁんっ、だめぇ、もうイク! イク! イッちゃう!!」と祐樹の声が聞こえた。

 走ってマンションを出た。バイクに跨り、その場から離れる。心臓がバクバクと興奮している。

 デブに犯られてる祐樹の顔に、俺は見覚えがあった。

 高校一年の時、同じクラスだった中原祐樹。ヤンキーっぽい粗暴な奴で、高校生活始まってすぐの頃、自分の存在感を見せつけるためか、クラスのおとなしめな連中をいじりだした、幼稚ではた迷惑な奴だ。

 ブスな女子に「お前、なんで生きてんの?!」と言ったり、デブな男子に「温暖化はお前のせいだろ」と言ったり、自分より目立つ奴がいると突っかかって行って「キモイ」を連発、場の空気を悪くしたりしていた。

 中原祐樹と一年同じクラスだということをクラスの全員が憂鬱に思っていたはずだ。俺もそうだった。憂鬱が絶望に変わったのは、密かに可愛いなと思った女の子をこっそり見ていたこところを、中原に気付かれた時だ。

 中原はすぐ、クラス中に聞こえる声で、俺が誰を見ていたかを言った。変態的な目で、股間を膨らませていた、なんて嘘もついて。

 またいつもの中原の残酷ないじりだとクラスの大半は思ったようだが、俺が思いを寄せていた由里原は、眉間に皺を作って軽蔑する目で睨んできた。そこには敵意もあった。

 俺に見られていたことへの不快感と、中原に目をつけられたことへの憤怒。余計な真似しやがって、ということだったのだろう。その被害者意識はよく理解できる。誰だって中原に目をつけられたくない。

 中原はことあるごとに、俺と由里原をからかってきた。席替えをすれば隣同士にしてやれよと言ったり、由里原が男と話していたら俺がヤキモチやくぞと肘でこづいたり、体操服に着替えていたらパンツをずり降ろされて、早く由里原に突っ込めるといいなと下品に笑われたりした。

 鬱陶しいことこの上なくて、由里原にも申し訳なくて、こいつと同じクラスで一年我慢しなきゃいけないことが嫌でたまらなくて……俺は学校に行かなくなった。

 二年になったらまた戻るつもりで家で勉強はしてたけど、中原とクラスが別になっても学校には行かなかった。そのままずるずる休み続けて結局中退した。

 21歳の今までずっとフリーターだ。まともに就職できる気がしない。それもこれも、中原祐樹のせいだ。あいつと同じクラスにならなければ。

 こんな形で再会したのは、何の偶然だろう。運命か。啓示か。

 素っ裸で男同士のセックスをピザの宅配スタッフに見せつける性癖があったとは知らなかった。あの頃の中原からは想像もつかない。

「どっちが変態だよ」

 吐き捨てるように呟きながら俺は道順をしっかり頭に刻みこんだ。

 その日、バイトが終わってから中原を見たマンションに自転車で戻ってみた。外から電気のついたベランダを眺めてみたりして5分ほど過ごしたが、中原の姿は見られなかった。

 この日から気が向けば例のマンションの周りをうろついていた。中原とセックスしていたデブの男は何度か見かけたが中原はいない。一緒に住んでいるものだと決めつけていたが、そうではないようだ。

 3ヶ月ほど経った今日も、バイトが休みだから駅前の本屋に行くついでに、あのマンションを見に行った。いつも通り、玄関は閉まっているし、ベランダのカーテンも揺れやしない。

 数分留まってから、本屋に向かおうと通りの先へ視線を伸ばしたら、俯き加減に歩いて来る人影があった。明るい頭。ヤンチャそうな見た目。ドクンと心臓が高鳴る。近づいて来るそいつは、中原祐樹に違いなかった。






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2016-07-29(Fri) 23:11| | トラックバック(-)| コメント 1

Love Scars (3/3)

<前話はこちら>

 二人は小さな公園に入って行った。雑草は伸び放題で、錆びた鉄棒と砂の固まった砂場があるだけの不人気な公園らしく他に人の姿はない。二人は植え込みの向こうへ姿を消した。

 木の陰に隠れながらそっと窺う。横には大きなマンションがあり、仕切りになっている壁にトオルは押し付けられていた。

「ちゃんと二人に奉仕してあげなきゃ駄目じゃないか」
「ご、ごめん、でも、今日は……!」
「今日は?」
「近田、くん、いなかったじゃんかよ」
「僕がいないとできないの? 僕のせいだって言うの?」
「違うっ、そうじゃなくて……! 近田くんがいないと、困る」
「どうして困るの?」
「あの水上って奴、なんか知んないけどキレて怖えし、向居はめちゃくちゃやるし」
「めちゃくちゃに犯されるの、好きだろ?」

 トオルの頬に近田は指先を這わす。それだけでトオルは顔を赤くしてギュッと目を瞑った。

「好き、じゃなっ……」
「忘れちゃった? ビデオに撮ってるから見せてあげようか? ホモの人たちにいっぱい犯されて喜んでる姿」
「あれは……! クスリのせい、だし……!」
「そうかな? じゃあ、これはなに?」
「あっ!」

 近田が股間を触ると、トオルは女みたいな声をあげた。ズボンを押し上げる膨らみ。ただ近田が目の前で喋っているだけで、トオルは勃起させていた。

「吐くくらい酷いことされたのに、どうしてこんなにしてるのかな?」
「は……ぁっ……それ、は……」
「ちゃんと僕に教えてくれる?」
「近田くんは、俺に……っ……優しくして、くれる、からっ……!」
「こんな目に遭うようになったのは僕のせいなのに?」
「最初に……、金取った、俺が……悪いンだし……」
「ちゃんとわかってるなんて、いい子だね、トオル」

 近田が顔を寄せる。待っていたように、トオルも顔を近づけて二人は唇を重ねた。長く深く。弾けるような水音が聞こえて来る。俺の頭に血が上る。

「正解のご褒美が欲しい?」

 近田の問いかけにトオルが躊躇いがちに頷く。

「じゃあ、どうしなきゃいけないかわかるよね?」

 トオルはしゃがみこんで近田の股間に顔を埋めた。丹念に、充分な時間をかけてそれを研ぎ上げる。そそり立つペニス越しに近田を見上げ、許しをもらうとトオルは壁に手をついて立った。背後から近田がトオルを刺し貫く。

「あっ、あああぁぁっ……!!」

 トオルの背がしなる。近田が舌なめずりをしながら腰を振る。俺の目は二人の結合部へ吸い寄せられる。いつもなら向居の目や、近田にバレるのが怖くて直視できなかった場所を、今日は思う存分ガン見できる。

 位置的に近田の腰で全部は見えないが、引いた時は近田のペニスがわずかに見えた。

 近くでちゃんと見たのは数えるほど。実は綺麗な色をしている。血管の浮き上がりやカリの反り具合は男らしい。亀頭は涎が出るほど魅力的だった。

 それを生で、あの汚らしいトオルのケツに突っ込んでやっている。どす黒い感情が俺を蝕む。睨むように見ながら俺は自分のペニスを握って扱いた。

「ふあぁっ、ああっ……ん……! はあぁぁ……あん……!!」

 近田の腰の動きに合わせてトオルも尻を揺らしている。色のついた気持ち悪い喘ぎ声が聞こえて来る。

「今日はまだ中に出されてないの?」
「う、んっ! 俺…ッ…吐いちゃった、から……!」
「そっか。じゃあ今日はトオルの望みをきいてあげる。どうして欲しい?」
「ど……って……?」
「なんでもトオルの望みを叶えてあげる。いま止めてもいいし、このまま続けててもいい。どこに欲しいのか、欲しくないのか、ちゃんと僕に言ってごらん」

 体をぴたりとくっつけて、近田はトオルの耳元で言った。前に回した手はシャツのなかに入って動いている。トオルは顎をあげたり下げたりして、与えられる刺激に翻弄されていた。

「やっ……やめ……な……で…ッ…このまま……中、出して、欲しい……!」
「わかった。トオルの望み通りにしてあげるね」

 近田はトオルの腰を持つと、穿ちこむように尻を突きあげた。

「あはあぁっ! あぁんっ!! あっ、ああっ……!!」
「声大きすぎ」

 近田の笑い声。

「ん、ごめ……んっ!! んふぅっ……ううっ……あぁんっ」
「今度、大きな声を出せるホテルでしようか?」
「んっ! うんっ……いふっ……ホテル、いき、た……あはぁっ、ああん!」
「気持ちいい?」
「きもちぃ……っ! あっ、あっ、チカは……?!」

 切ない顔でトオルが近田を振り返る。近田は「気持ちいいよ」と骨ばった肩にキスしてやっていた。一瞬目の前が赤くなるほど頭に血が上った。

 チカという呼び方は俺しかしない。前に一度向居がチカと呼ぼうとしたが、不機嫌になるからやめとけと俺が止めた。

 実際、俺がそう呼び出した頃、近田は「女みたいだ」と嫌がっていたのだ。気にせず呼び続けていたら慣れたようだが、積極的に呼ばれたいあだ名ではなかったはずだ。

 俺の自尊心を満足させるためだけのものだった。ほんのちょっとの優越感のためにトオルの前でもチカと呼んでいた。普段トオルには全員「くん」付けで呼ばせていたが、こうして二人きりになった時は、以前からチカと呼んでいたのかもしれない。近田もそれを許していたのかもしれない。

 二人の間に割り込める隙間がない。悔しくてたまらないのに、二人を見続けてしまう。ペニスを扱く手を止められない。

「や、あっ、チカッ……、俺、も……い、イクッ」
「早くない?」

 揶揄する近田の声。

「だって……気持ちい…ッ…いっ、ち、チカのちんぽっ……気持ちくて……俺……もお……出ちゃ……ッ!!」

 ブロック塀にしがみつくようにトオルは背を丸めた。射精された精液が、ブロック塀を伝い落ちてくるのが見えた。

 なぜ近田に抱かれて達したのが俺ではないのか。惨めさに歯ぎしりしながら俺も射精をした。木にべったりとついた白い液体が、重力によってゆっくり下へ垂れて行く。泣きたくなるほど惨めな光景だ。

「次は僕の番だよ、トオル」
「はぁっ……はっ……あ……チカの、中に欲し…ぃ…」
「わかってる。トオルは僕に中出しされたいんだよね? トオルの中に全部出してあげる」
「んっ……早く……チカだったら俺、なにされてもい……から……っ」
「他の二人は?」
「あいつらは、や、だっ……チカだけ……! チカだけがいい……!!」

 トオルの言葉を聞いた近田は目と口を左右に釣りあげた。トオルが手中に堕ちたと確信した悪い笑顔だ。

 その後も近田は優しく甘い言葉を囁きながらトオルを犯した。最後はトオルの望みのまま中に出してやり、ねだられると口にキスもしてやっていた。ただの青姦している恋人同士にしか見えない。

 事が終わると二人は服装を整えた。トオルは気恥ずかしそうにブサイクな顔を俯けながら、チラチラと近田を窺い見ている。甘えが表情が憎たらしくて拳を叩きこみたくなるが、近田はニコリと笑い返している。

「今日は素直でいい子だったね。可愛かったよ」
「お、俺なんか、別にかわいくねえし」

 唇を尖らせて否定しているが満更でもない感じが殺したくなる。

「だからもう、このへんで許してあげようかなって思うんだ」
「……え?」
「トオルを解放してあげる。もう酷いことしないし、呼び出したりもしない」
「えっ? ……えっ?」

 焦った様子でトオルが馬鹿みたいに「えっ」を繰り返す。

「向居と水上にも言っておく。あっ、ビデオも全部消しておくから安心していいよ。あれで脅したりしないから」
「えっ、え、あ……あ、う、うん…………えっ?」

 まさに豆鉄砲を食らったハトのようだ。近田の言葉を処理しきれずに、パニクッている。

「今までご苦労さま。1万3千円分、きっちり返してもらったから」
「これで……終わり、ってこと……か?」
「そうだよ。じゃあね、トオル。バイバイ」

 笑顔のままぽんとトオルの肩を叩くと、身を翻した近田はさっさと公園を出て行った。取り残されたトオルは、茫然と近田の消えた方を見つめていた。



 もうトオルに関わるなと近田に言われた向居は、まだいいじゃないかとゴネたが、「じゃあこれからは向居一人でトオルを呼び出せばいいよ。僕はもう関わらない」と言われると渋々諦めた。自分一人ではトオルに返り討ちにされるとわかっているのだ。

「一人で勝手に決めちゃってごめんね」

 近田は俺に謝ってくれた。

「別に、俺らはお前の復讐に付き合ってただけだし。お前が満足したんならいいよ」
「満足できるかは、今後の結果次第だけどね」

 目を輝かせながら近田は悪戯っぽい笑みを浮かべた。

 それから一ヶ月後の夜、近田から電話がかかってきた。珍しく興奮した声で、『成功したよ!』と言う。

「なにに?」
『トオルだよ!』

 耳が腐るような名前を聞いて、電話をかけてきてくれた喜びも一瞬で消し去った。

『今日でちょうど一ヶ月経つから、電話してみたんだ。焦らすように世間話してたら、トオルのほうから会いたいって言ってきた。だから会ってあげたんだけどさ、あいつ、僕が話しかけると恥ずかしそうに俯くんだよね。僕のことまともに見らんないみたいでさ。僕が、つまんない? 帰る? って言ったら、嫌だ、一緒にいてって、裾握ってくんの』

 楽しそうな近田の声で嫌でもその光景が頭に浮かんでしまう。俺が出来ない媚びの入り混じった目でトオルは近田を見つめたのだろう。それを見た近田が歓喜したのも容易に想像できる。

『どうしたい? って聞いたら、なんて言ったと思う? 小さな声で、エッチして、だってさ。言い方もそうだけど、すっかり女って感じだよね。もう1万3千円は返してもらったよって言ってるのに、チカ頼むからって、目を潤ませて言うんだ。これ完全に成功したって言えるよね? トオルは僕に夢中だよね?』
「そうなんじゃないか」

 弾んだ近田の声とは打って変わって低く沈んだ声が出た。自分の試みが成功したことに喜ぶ近田はそれに気付かない。

「で、あいつとヤッたの?」
『うん。ホテル代はトオルが出した。カツアゲして僕から1万3千円奪ったあのトオルがだよ? 数か月で人ってああも変わるもんなんだね。あっ、水上も誘った方がよかった?』
「いらねえよ。俺、あいつに突っ込むとか、反吐出そうだし」
『反吐出させたくせによく言うよ』

 電話の向こうで近田が呆れたように笑う。そういえばそうだった。

「それ、まだ続けるのか?」
『続けるよ。トオルが僕の言うことを聞かなくなるまでは』
「死ぬまで続いたら?」
『死ぬまで続けるよ』

 近田はあっさり言いきった。俺の心をズタズタにするとも知らずに。

「ほどほどにしとけよ。性病とか怖いし」
『だね。お互いリスクがあるから生でするのは控えるよ』

 一ヶ月前、生でやってたくせに。お互いってことはトオルの心配もしてやってるのか。

『次は二ヶ月放置してみようと思うんだ。その時また水上に報告するよ』

 そんな報告いちいちしていらない。でも聞かずにはおられない。知らないでいたほうが傷つかずに済むとわかっているのに、把握しておきたいという気持ちのほうが強い。俺は嫉妬に支配されている。

『じゃ、また明日学校でね。おやすみ』
「おやすみ」

 きっと今夜から俺は安らかに眠ることなんてできないだろう。






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2016-07-18(Mon) 20:37| Love Scars| トラックバック(-)| コメント 0

Love Scars (2/3)

<前話はこちら>

 数日して、またトオルを呼び出そうと向居が言い出した。こいつも近田とは違う心配がある。物理的にトオルをぶっ壊してしまいそうだ。

 学校終わりに向居の家に集まることになったが、近田が「急用が出来たから僕はパス」と言い出して、俺と向居二人になった。向居はビデオを気にしなくて済むから気が楽だと喜んだ。俺は途端にやる気がなくなった。

「近田が来ないなら、俺もやめとこうかな」
「困るよ! 俺一人だと、あいつに反撃されるかもしれないだろ」

 必死の形相の向居に言われ、仕方なく二人でトオルが来るのを待った。少しして、制服姿のトオルがやってきた。部屋を見渡して「近田、くんは?」と不安げに目を揺らした。

 今日はいないと言うと、目に見えて動揺して逃げようとさえした。それを向居が取り押さえ、ワイシャツを左右に引きちぎった。やりすぎだ。

「おい、向居」
「いいじゃん、こいつ、肉便器なんだから」

 向居は暴れるトオルの頬を打った。ヤンキーらしくトオルが睨み返す。それにびびった向居が、俺に救いを求める目を向けて来る。仕方なく羽交い絞めにしてやった。その間に向居はトオルを裸にした。

「お前、また公園に放置してホモに犯させるぞ」

 抵抗を見せるトオルに向居が言う。トオルは唇を噛んでおとなしくなった。あの体験だけは二度としたくないらしい。

「四つん這いになれ」

 向居の命令にトオルが渋々従う。その尻へ、向居はペニスを突っ込んだ。痛みにトオルの顔が歪む。近田だと恍惚とした顔を見せるくせに。

 歯を食いしばる口元へ俺もペニスを押し付けた。

「チカのちんこだと思ってしゃぶれよ」

 顔を近づけて囁くと、トオルは目を剥いた。羞恥と怒りの入り混じった目。動揺してすぐ逸らされたのは、思い当たるところがあった証拠だ。無意識なんかじゃない。トオルも自覚があるのだ。近田だけは別だという、自覚が。

 急に怒りがこみあげて来た。

「おら、しゃぶれ!」

 髪の毛を掴んで頭を持ち上げた。屈辱に濡れた目が俺を睨めあげる。

 素直に媚びることのできるトオルの目が妬ましい。近田のペニスを頬張る口。近田のキスを味わう舌。近田を受け入れる尻。すべてに嫉妬せずにいられない。鶏ガラのように痩せて、見た目も口も頭も悪いこんな男に俺は負けているのだ。

 いま近田の関心事はどうやってトオルを自分のもとへ堕とすかということだけだ。それほど近田の気を引くことは俺にはできない。

 怒りの衝動に任せてトオルの口を犯した。激しく突いた。トオルが嘔吐く。目尻から汚い涙を流す。こんな男のどこが!

 トオルの咽喉が鳴った。我に返って引き抜いたのと同時に、トオルは床にゲロをぶちまけた。

「おい! きったねえな! なにやってんだよ!」

 尻を犯していた向居がキレて俺に怒鳴ってくる。さっき俺に残ってくれと懇願してきたくせに。こいつもぶちのめしてやろうか。

 剣呑な思いが表情に出ていたようで、俺に睨まれると向居はすぐ勢いをなくし、「ぞうきん取ってくる」と部屋を出て行った。

 トオルは壁際で膝を抱えていた。口元はゲロで汚れ、涙と鼻水を垂れ流した汚い顔で。

「お前、死んでくれない?」

 声をかけるとトオルは肩を震わせた。

「お前まじでうざい。すっげえ目障り。邪魔。死んでくれよ」
「なっ……なんで……お前らが、俺のこと、か、構うくせに……っ」
「じゃあなんで呼び出されたらノコノコ来るわけ?」
「こ、来ないと、また……酷いこと、するんだろ!」
「今以上の酷いことってなに? なにを期待して来てんの? 下心、見え見えなんだけど」
「なに……下心って……、言ってる意味、わかんねえし……」
「黙れよホモ野郎が。突っ込んで欲しけりゃ棒でもなんでも自分で突っ込んでろよ。優しくされたからって勘違いしてんじゃねえよ。きめえんだよ。お前なんか誰もまともに相手にするわけねえだろうが。鏡見ろよ。お前は便所みてえな女と付き合ってりゃいいんだよ、便所虫が」

 俺の吐き捨てる言葉を、トオルは血の毛が引いて土色になった顔で聞いていた。酷い暴言だ。逆恨みだとわかっていても、口が止まらなかった。

 思い通りにいかないもどかしさ。トオルのような男に近田を取られる腹立たしさ。それでも指を咥えて見ていることしか出来ない自分への苛立ち。溜まりに溜まったものが爆発した結果だった。

 トオルは茫然とした表情のまま、瞬き一つしないで固まっている。ショックすぎて何も反応できない様子がまた最高にむかつく。こいつ本当に消えてくれないだろうか。

 コンコン、とノックの音がした。向居が戻って来たのかと思ったが、顔を出したのは「今日はパス」と言っていた近田だった。

 部屋の惨状を見て目を見張る。

「今日来れないんじゃなかったのか?」
「急用が早く片付いたから寄ってみたんだ」
「向居は?」
「下でジュース飲んでた」

 俺は怒ってるし、ゲロの後始末もしたくないから戻って来たくないのだろう。

「どうしたの、これ。トオルが吐いたの?」
「うん……、ちょっと、俺がやりすぎた」

 正直に白状する。部屋に入って来た近田は、縋るような目を向けるトオルの前に屈みこむと、ポケットから出したハンカチでトオルの汚れを拭ってやった。清潔な水色のハンカチが、トオルのせいで汚れていく。

「お茶飲む?」

 鞄からペットボトルのお茶を出してトオルに勧めている。トオルは頷いてそれを受け取った。キャップを開けて、口をつける。近田も口をつけただろう、場所に。

「今日はもうお開きのほうがよさそうだね」

 と俺を振り返る。その体の置き方は、俺からトオルを隠すような位置だった。ただの偶然かもしれない。そう言い聞かせないと、また取り乱してしまいそうだ。

 服を着て、下におりた。帰る様子の俺たちを見ると向居はホッとした様子で玄関まで見送りにきた。欲求不満そうな目でトオルを見ていたのには呆れてしまう。

 いつもの三叉路で、近田が立ち止まって俺を見た。

「先に帰ってて。トオルの元気がないから、僕はちょっと一緒にいるよ」

 嫉妬で腸が煮えくり返る。――という状態を悟られないよう、短く答えて二人に背を向けた。一つ目の角を曲がって立ち止まり、少し待ってから顔だけ出した。離れていく二人の後ろ姿があった。俺はそっとあとをつけた。






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2016-07-17(Sun) 20:45| Love Scars| トラックバック(-)| コメント 0

Love Scars (1/3)

<前作「1万3千円」はこちら>

 最後に向居がトオルのケツに中出しして、それを舐めて綺麗にさせたところで「いいね!」と近田はビデオカメラを下ろした。

 近田は三ヶ月ほど前の塾帰り、カツアゲに遭った。少し抵抗したら袋叩きにされ、1万3千円を巻きあげられたのだ。プライド高く執念深い近田は、時間をかけて主犯のトオルを見つけ出し、用意周到に練った計画で復讐を実行した。

 媚薬を嗅がせ、ホモが集まる公園に半裸にして木に括りつけた。無数の男から凌辱される様子を、近田は冷静にビデオに撮影した。トオルは俺たちの言いなりだ。

 今日も向居の家でトオルに性処理させたところだ。近田は記録と称して毎回ビデオに撮影する。その間、トオルには指一本触れない。たまに声をかける程度。近田がトオルに触るのは、いつも俺たちが終わったあと。ビデオを止めてからだ。

「よく頑張ったね、トオル」

 さっきまでビデオを回していた手で、トオルの頭を撫でる。芸のできた犬を褒めるように。

「もう、嫌だ……こんなの、もう嫌だ……」

 最初は強気の反抗をみせていたトオルも、今ではすっかり牙の抜けたただの飼い犬だ。優しい声をかけてくれる近田にすり寄って涙を流している。

 精液臭いその体を嫌がらず、近田はトオルの肩を抱いた。

「頑張ったご褒美だよ」

 と言ってトオルに口づける。

 パンツを履いた向居が「うげえっ」と顔を顰める。

「そいつの口、精液の味すんじゃないの?」

 長いキスだ。触れ合う唇の隙間から舌が見える。近田が返事をしないので、向居は俺に同意を求める目を向けた。俺はそれから目を逸らし、かわりに、頭をもたげるトオルのペニスを見た。

 トオルは目を閉じて近田のキスを受けている。顎を持ち上げ、角度をかえ、自ら深い交わりを欲しているように見える。

「トオル、僕にもフェラしてくれる?」

 口を離した近田は囁くように言った。少し恥じらうような躊躇を見せたあと、トオルは近田のベルトに手を伸ばした。ベッドに腰かけた近田の足の間に座り込み、その中心へ顔を埋める。

「いい子だね。上手だよ」

 小さい子供を相手にしているような言葉をかける。俺や向居は絶対言わない台詞だ。浅黒い皮膚を赤くして、トオルは潤んだ目で近田を見上げた。

 近田のペニスを奥深くまで飲みこんで、顔を前後に揺する。

 俺たちには嫌悪と苦痛に顔を歪めて嫌々していることも、近田だと積極的に動いている。――ような気がする。

 眠くなってきたのかあくびをしながら向居は漫画雑誌をパラパラと見始めた。俺は近田とトオルを眺めた。俺の視線に応えるように、近田が目をあげ、笑いかけて来る。

 頬が上気して、少し引きつり気味の、性的な匂いが濃厚な微笑だ。返事のかわりに軽く頷いて目を逸らした。

「出すよ、トオル」
「んっ」
「全部飲むんだよ? 出来るね?」
「んんっ」

 近田はトオルを捕まえたあと、「こいつを調教する」と言った。ただのごっこ遊びだと思っていたが、近田は言葉通りの意味で言っていたようだ。

 飴と鞭。

 俺と向居が鞭で、近田が飴。俺と向居が手酷くトオルを犯したあと、近田が優しい声と言葉でトオルを慰める。

 すっかり心を許したトオルは、近田には素直に弱音を吐くし、縋りついて涙も見せるし、言うことも素直にきくようになった。俺たちと同じことをしても、近田がすれば正反対の意味を持つようだった。

 現に、口に出されるというのに、トオルは大きく頷いて一心不乱に近田に奉仕している。頭を押さえて口に吐き出されても、抵抗しないで飲みこんでしまった。

 近田は満足そうににっこりと笑い、また両手でトオルの頭を撫でると、前髪をかきわけたおでこに音を立ててキスした。

「気持ちよかったよ、トオル」
「う、うん……」

 褒められたトオルは顔を赤くして俯くのだ。

「もう帰ろうぜ」

 声をかけると、トオルは俺たちがいたことを忘れていたような顔で振り返った。そして自分の置かれている状況を思い出したのか、唇を噛んで俯いた。

「そうだね。帰ろうか。トオル、服を着て」

 近田に言われたトオルは素直に服を着た。怠そうな向居とは部屋で別れて、俺たちは向居の家を出た。帰る途中でトオルが立ち止まった。

「いつまでこんなこと続ける気だよ……もう許してくれてもいいだろ……」

 自分の足元を見ながら震える声を吐きだす。それを見た近田はヤレヤレと小さく首を振ってため息をついた。駄々っ子の我が儘が嬉しくてしょうがないって顔で。

「君が僕から盗んだ1万3千円分を、その体で返してくれたらね」
「返すからっ! 倍にして返すから、もう許してくれよ……!!」
「嬉しいお知らせだよ。1万円分は返してもらったから、残りは3千円分。あっという間だよ」

 嬉しいお知らせではなかったようで、トオルは絶望に満ちた顔で言葉を失っていた。

「じゃあまた連絡するね。残り3千円分、頑張ってね、トオル」

 歩く力さえなくしたようなトオルとは三叉路で別れ、俺と近田の二人になった。

「そろそろ潮時じゃね?」
「んー? トオルのこと?」
「もう気が済んだだろ」
「向居はまだ出し足りないんじゃないかなあ」

 確かに向居は性欲は人一倍強いくせに、自分から女に声をかけられないポンコツ野郎だから、気兼ねなく性処理に使えるトオルがいなくなったら文句を言いそうだ。

「ぶっちゃけ、1万3千円とか、もうどうでもいいんだよね。僕が味わった屈辱も果たせたし」
「だったらこの辺で手を引かないと、ヤバイことになるんじゃないか」
「水上は慎重派だなぁ。あいつが僕にだけ従順な人形になるまで、あと一歩ってところまで来てると思うんだ。だからもう少し遊ばせてよ」

 近田が目指すのは単なる復讐なんかじゃなく、身も心も自分の意のままに操れる人形になるまでトオルを堕とすこと。誇張でも冗談でもないことは、これまでの近田を見て来たからわかる。

「そこまで執着するような奴か?」
「……もしかして、水上って……」

 探るような目が向けられドキリとする。内心を見透かされそうな居心地の悪さ。目を逸らしたらやましいことでもあるのかと疑われるから、意地でも近田の目を見つめ続ける。

「まさか、トオルに惚れちゃったとか、言わないよね?」

 危うく安堵の息を吐いてしまいそうになった。

「んなわけねえじゃん。いくらケツに突っ込んでるからって、あんなの好きになんねえよ」
「あれでもかわいいとこあるよ? でも良かった。好きだって言われたら、もう遊びも止めなきゃって思ったから。さすがに友達の好きな奴は壊せないからね」

 安心したように近田は笑う。

「チカって、ホモに寛容なのな」
「寛容っていうか、理解は出来るでしょ。向居も水上もトオル相手に勃つんだから、あとは感情が伴えば男女の恋愛と何も変わらないよ」
「もしトオルからチカのことが好きだって言われたらどうするんだよ」

 近田はニッと口角を持ち上げた。

「僕が目指してる状態って、つまりそういうことなのかもしれない」
「あいつに好かれたいのかよ」
「酷いことをしてる張本人なのに、僕が飴の役割をしている限り、あいつは僕だけが唯一の味方だと錯覚するんだ。恋でも愛でも依存でもいい。その状態がいつまで続くのか興味湧かない? 完全に堕ちたと思ったらトオルのことは解放する。そのあと、期間を置いてまた接触したとき、トオルが僕の言うことをきくかどうか試したい」

 近田の目が好奇心でキラキラ輝く。

「それ、いつまで続ける気だよ」
「んー、トオルが僕の言うことをきかなくなるまで、かな?」
「一生だったらどうするんだよ」
「それも面白いね」

 と屈託なく笑う。

 一生あいつと付き合う気かよ。

 俺はいつまで近田のそばにいられるだろう。高校を卒業しても友達関係を続けているだろうか。社会人になっても、くたびれた中年になっても、近田と友達でいるだろうか。そんな未来、俺には想像できない。小中の友達とはみんな疎遠になっている近田が、俺を気にかけてくれるとは思えない。

 なのに、トオルには固執するなんて、面白くない。それがつい顔に出てしまったようだが、「水上は真面目だなぁ」と近田の行為を非難していると勘違いされた。

 駅の前で近田とは別れた。家に帰った俺は、トオルに中出ししたのにまたマスをかいた。漠然と思い浮かべる姿。直視しないことで誰かへ言い訳しているようだ。でも自覚はある。

 いつからかわからない。同じクラスになって最初に声をかけてきてくれた時か、友達になって一緒にいることが増えてからか。気付くと目で追っていた。自信溢れる態度がたまに鼻につくが、それがらしくて、魅力的でもあった。

 あいつの言うことならなんでも叶えてやりたいし、認められると舞い上がるほど嬉しくなる。

 俺は近田のことが好きだった。






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2016-07-16(Sat) 21:29| Love Scars| トラックバック(-)| コメント 0

行きつく先は(5/5)

<前話はこちら>

 数日後の夜、俺は実家に帰った。この時間なら父がいる。

 菱川くんから別れを告げられたあの日から、ある考えが頭から離れなくなっていた。このまま花井さんの言う通り結婚するのは嫌だ。俺だって愛情の持てない相手と一緒にいたくない。好きな人と一緒にいたい。菱川くんの言う通り、決断するしかないのだ。

 母が夕飯を作っている間、父はいつも通り一人で晩酌をしていた。いつもある小言がないほど上機嫌なのは、俺と花井さんがうまくいっていると思っているからだろう。

「お前も呑むか」

 勧められた酒を断り、膝を父のほうへ向けた。

「話があります」
「なんだ。日取りが決まったのか?」

 結納か結婚式の話をしているのだろう。黙って首を振り、俺は切りだした。

「花井さんと結婚はしません。今後誰とも、結婚はないです」

 緩んでいた顔を引き締めて、父はグラスをテーブルに置いた。

「彼女のなにが不満だというんだ」
「そういう問題ではないんです。僕は……ゲイなんです。男しか好きになれません。だから女性とは結婚できません。今まで黙っていてすみませんでした」

 頭を下げた。父がテーブルを叩き、上に乗っていたグラスや皿が音を立てた。

「ふざけたことを言うな! 冗談でもそんなことを言うんじゃない!!」
「冗談なら良かったんですが。僕は父さん達に孫の顔を見せてやることは出来ません」
「彰博、お前……ッ!!」

 父の拳が飛んできた。



 信号待ちで、腕に白い粒を見つけた。実家を追い出された時に撒かれた塩だ。

「二度と戻って来るな! 親子の縁を切る!! お前みたいな奴は俺の息子ではない!!」

 そう言われて。予想通り父は激怒し、母は泣いた。

「先方さんにはなんて言えばいいの」

 と。父も母も常識にとらわれ、世間体を気にする人だった。そこから抜け出た俺は世間体の庇護を受けないかわりに自由を手に入れた。

 菱川くんのバイト先へ向かい、いないとわかると家に車を走らせた。明かりのついた部屋のチャイムを連打し、急かすようにノックをする。驚いた顔で出て来た菱川くんに抱きついた。

「君が好きだ。だから俺は君を選ぶ」
「えっ、ちょっと、早瀬さん?!」

 靴を脱ぎ棄て彼に抱きついたまま奥のベッドに倒れ込む。彼の上に馬乗りになって服を脱いだ。

「早瀬さん、その顔……っ」

 殴られた跡を見て菱川くんは眉を顰めた。

「ハハ、ゲイだって言ったら殴られた」
「婚約者に?!」
「父に。母は泣いたよ」
「僕のせいですね」

 さっと顔を曇らせる。

「違うよ。俺が自分で決めた。花井さんなんかと結婚したくない。これでもう彼女に脅される材料はない」
「脅されてたんですか?」

 驚いて目を見開く彼にキスした。キスをしながら、菱川くんの服も脱がせていく。顔を見せた胸の突起を口に含み舌で転がした。

「早瀬さん……ッ、脅されたって、ちゃんと説明して……!」
「ゲイだってバラされたくなければ、結婚しろって花井さんに脅されてただけだよ」
「そんな……! 僕、知らなくて……どうして教えてくれなかったんですか」
「言わなかったのは俺の判断だ。それに、君が俺に決断させてくれたんだ」

 ズボンと下着をずりおろし、出て来たペニスにしゃぶりつく。今後のことはわからない。でも今はこれだけが欲しいと思う。人から遊ぶお許しをもらった男では満足できない。

 口の周りを唾液まみれにして彼を勃たせると、俺はそこへ跨った。

「あっ、待って、まだゴム……!」
「いらない。必要ない」

 菱川くんの肩につかまりながらゆっくり腰を下ろしていった。今までは病気の心配や後々の腹痛を理由にコンドームを使用していた。でも今日は生で欲しい。

「ふぅ……うっ……あ、はああぁっ……」

 奥深くまでこじ開けられていく感覚。ペタンと尻がくっついて腹の中にある熱い存在に震えが走った。腰を浮かせ、また下ろす。上げ下げを繰り返していたら少し潤いが出て来てスムーズになった。

「早瀬さん、辛くないですか」
「い……からっ……俺の、ちんこ触って……!」

 少しの痛みと腸を刺激する異物感から俺のペニスは萎れていた。それを菱川くんが握って優しい手つきで扱く。

「すご……奥まで……っ! 菱川く……ちんぽ、気持ちいい……?」
「俺は気持ちいいですけど……早瀬さんは苦しそう」
「菱川くんの精子……中に欲し……ッ……いっぱい、俺のなかに……注いで……!」
「だったらこっちの方が早いです」

 俺の背中と腰を支えながら菱川くんは体を起こし、俺の上になった。

「ほんとに中に出していいんですか?」
「君の精液まみれになりたい」
「……ほんと、早瀬さんて綺麗な顔してエロいですよね」

 苦笑した菱川くんが中で動く。慣れた正常位。俺の敏感な部分を熟知した動き。あっという間にペニスが立ちあがってしまう。

「奥まできていいから……菱川くんも、気持ちよくなって……」
「充分気持ちいいです」

 菱川くんの手が俺のペニスを扱く。ぬかるむ尿道に指の先を突っ込んでくる。

「はぁっ……あっ、あ……や、だ……ちんぽっ、そんな……したら……出るっ」
「僕も早瀬さんにいっぱい出して欲しいです」

 手つきが激しくなって、濡れた音が経つ。

「あぁぁ……あぁあんっ……だめっ……て、ばぁあっ……あ、ひぁ……し、かわくぅ……んっ! んあぁ……ほんと……出……ちゃ……っ!! ちんぽ、も…ぉ…いくっ、いくっ!!」

 熱い精液が駆け抜けていく。頭が真っ白になる解放感。無様なほどだらけきった顔をしているだろうに、菱川くんは愛しいものを見るように目を細めている。

「いっぱい、出ましたよ」

 菱川くんの手は俺の吐きだした精液まみれた。それを菱川くんはペロリと舐めた。

「……菱川くん、正直に答えて欲しいんだけど……ほんとに男と寝たことないの?」
「ないですよ」

 きょとんと菱川くんが答える。

「じゃ、どうしてそんな……慣れてる、気がする」
「笑わないでくださいね。早瀬さんに喜んでもらうために勉強しました」
「勉強?」

 俺の足を大きく広げると、菱川くんは体を前に倒してきた。

「ネットで調べたり、動画を見たり。ここ、前立腺ってとこですよね?」
「ひんっ」

 ぐりゅっと擦られて素っ頓狂な声が出た。菱川くんの笑みが濃くなる。

「そういう反応見せてくれるから、僕も止まらなくなるんです」

 言うと菱川くんはピストン運動を始めた。正確に俺の前立腺を責め立てる。

「やっぱり生だと違う……直で早瀬さんを感じられて、すごくいい」
「……俺、もっ!! ああぁっ……いつもよりおっき……いいっ! ああぁっ……はあぁ……ん……菱川くんのっ、ちんぽ……気持ちいいっ……!!」

 もっとして、とねだればその通りに動いてくれる。菱川くんに気持ちよくなってもらいたかったのに、それも忘れて俺は再び勃起したペニスから先走りを撒き散らした。

「ああぁん、あっ! あぁ!! また……キタッ……菱川くんっ、俺また、イク……!! 菱川くんのおちんぽで、射精する!!」
「待って……僕も、いきそう……っ」
「なかに出して……! 菱川くんの…ッ…ナマ中出し、欲しいぃ……!!」

 口を突きだすと菱川くんはキスをくれた。必死にそれに舌を絡める。俺たちはほとんど同時に射精した。



 二人一緒にシャワーを浴びた。浴室から出るとスマホの着信に気付いた。

「花井さんだ」

 俺の呟きに頭を拭いていた菱川くんがそばにやってきた。

「僕がかわりに出ましょうか?」
「俺が自分で言う」

 通話ボタンを押すなり『どういうこと!!』と怒鳴り声が聞こえた。スピーカーにする必要もなさそうな音量だ。菱川くんと顔を見合わせ、苦笑した。

『さっきお父様からお断りの電話が来たんですけど! 何かの間違いですよね?!』
「間違いではないです。あなたの夫にはなりたくありません」
『そんなこと言っていいんですか? どうなるかわかってるんですか? ご両親や職場の方たちにバレても……』
「両親には自分でバラしました。職場のほうは好きにしてください。もう、クビになってもいいです。高望みしなけば、食い扶持には困らない業界なので」
『……ッ!! でも、お相手の菱川さんはどうでしょうね?! 学校や親に知られたら……』
「僕なら平気です。もうカミングアウト済みだから」

 横から菱川くんが言った。ちゃんと聞こえたようで、電話の向こうで花井さんは絶句していた。

「そういうわけです。もう脅しの材料はなくなりました。あなたともこれきりということで。しつこいようだと、脅迫と名誉棄損で訴えることも考えます」

 ガサガサッと慌てたような音のあと、通話が切れた。

 結局あの人はなにがしたかったのだろう。男を自分の意のままに操るのが好きなタイプの人間だったのだろうか。ゲイである俺に執着したって、生産性などないのに。

「これですっきりした」
「でもまだ気を付けてください。早瀬さんが嫌な思いをするのは嫌ですから」

 心配そうに言って菱川くんは俺を抱きしめた。

 俺だって不安がないわけじゃない。職場や近所にゲイだと言いふらされるのは困るし迷惑だし、二次被害、三次被害がないとも言いきれないからやめてもらいたいのが本音だ。

 でもそらすら、どうだっていいと思えたのだ。菱川くんに振られた夜に感じた孤独と絶望に比べれば、数十人、数百人が俺を非難したって構わないと。大げさに言えば、世界中が敵にまわったって、菱川くん一人がいてくれればいい。

 こんな感情は一時的なものかもしれない。俺が冷めるより先に菱川くんに飽きられて捨てられるかもしれない。それでもいい。どんな結果になっても後悔しないと今なら言えるから。







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2016-07-13(Wed) 21:35| 行きつく先は| トラックバック(-)| コメント 3

行きつく先は(4/5)

<前話はこちら>

 毎日電話してその日一日の行動を報告することを強制された。休みの日にはデート。たまに泊まることも強要された。「やっぱり女には興味がないの?」と一緒に入ったベッドの中で体を触られたこともある。ピクリとも反応しない俺を揶揄するように弄ぶのだ。

 監視のためなのか、花井さんは抜き打ちで病院や自宅へやってくることもあった。だからいつも気が落ち着かない。似たような背格好の女を見るだけでギクリと心臓が縮み上がり動悸が激しくなった。

 あの女から逃れたい。でも逃れられる場所がない。毎日が地獄のようだ。

 眠れなくなり、思考力も低下し、食欲も落ち、体重も減った。病院のナースから心配されるほどに変わってしまったらしい。

 今日も日課の花井さんへの報告を済ませると、職場の同僚に出してもらった睡眠薬を酒で飲みこんだ。眠れても花井さんが出て来る恐ろしい夢ばかり見る。寝ても覚めても、地獄のような毎日だ。

 缶ビールを2本空けた頃に電話が鳴った。見ると菱川くんからだ。これで何度目だろう。

 街中で偶然会ったあの日から、菱川くんから何度か電話をもらっていたが無視を続けていた。会った時に携帯電話のチェックも当然のようにされるから、彼との通話の記録は残せない。

 メールは毎日来ている。

 連絡がないことを心配する内容。電話に出てください。声を聞かせて。怒ってるんですか? 説明してください。無視は辛いです。
 そんな文面に「いまは仕事で忙しい」とだけ返し、花井さんに読まれる前に削除していた。

 今日も呼び出し音が止まったあと、菱川くんはメールを送って来た。

『マンションの前にいます。会えるまで、待ってます』

 ぎょっとしてベランダへ走った。下の往来は遠い上に暗くてよく見えない。どこかに菱川くんがいるのかと目を凝らしてみると、外灯の下で手を振る人影があった。

『帰ってくれ』

 とメールを送った。

『会えるまで帰りません』

 頑固な返事が来た。

 花井さんへの報告は済ませた。こんな時間だし、いきなりやってくることはないだろう。少しくらいなら、菱川くんと会ってもバレないはず。そんなことを思いながら、『じゃあ少しだけ。入ってきて』と焦る指先で打った。

 少ししてインターフォンが鳴る。モニターに映る菱川くんを見つめながらオートロックを解除した。菱川くんが来る前に部屋を片付けた。もう寝るつもりだったから寝間着も着替えた。鏡の前で髪の毛をチェックしていたら、玄関チャイムが鳴った。

 菱川くんを出迎えるために玄関へ向かう。開いたドアから菱川くんが現れた。偶然会ったあの日から3週間ほどしか経っていないのに、3ヶ月離れていたような感覚で緊張する。

 中に足を踏み入れた菱川くんが正面から見つめて来る。

「少し、痩せましたか?」
「最近、忙しくて」
「僕の電話に出られないほど?」

 優しい口調で責められる。口元に笑みは浮かんではいるが、凄く寂しげで悲しげな目をしていた。

「やっと会ってくれましたね」

 俺の手を取って呟いた。

「すまない。時間がなくて」
「花井さんって人と会ってるからですか?」

 菱川くんは誤解をしている。でも間違ってもいない。現に休みの日は花井さんと会っている。

「これには事情があるんだ」
「結婚するんですか?」
「したくない」
「でも、話、進んでるんですよね?」
「勝手に進められてるんだ。俺の希望じゃない」
「前に早瀬さん、言ってましたよね。やむにやまれぬ状況になったら結婚するかもしれないって。いまがそうなんですか?」

 言葉に詰まった。確かにそういう状況なのかもしれない。弱みを握られ、逃げられない状況で結婚を迫られている。逃げれば身の破滅、他に選択肢は残されていない。

 俺が黙り込んだのを肯定と取ったようで、菱川くんは横を向いてため息をついた。

「結婚して欲しくないけど、そこまで僕がわがままを言っていいのかわからないです。だって早瀬さんの人生だから。僕はまだ差別だの世間体だの実感がないけど、早瀬さんの言うこともわからなくもないし」

 力の抜けていく菱川くんの手が不安になって強く握り返した。

「あの人とは付き合ってると思っていいんですか?」

 俺のほうを向いて、菱川くんは言った。痛いくらいまっすぐな目だ。首を横に振った。

「じゃあ、結婚はしないんですか?」

 返答に困り俯いた。そこへまた長い溜息が降りて来る。

「やっぱりそういうの、僕には理解できないです。相手の人にも失礼だと思うし。好きでもない人と結婚するなんて正しいことだと思えません」

 今回はその相手から脅迫という手段で結婚を迫られているんだ。拒めば人生をめちゃくちゃにされる。だから言う通りにするほかない。

「空気読めなくてすみませんでした。早瀬さんはこのままフェードアウトするつもりだったんでしょ? それなのに何度も電話したり、会いに来たりしてすみません。もう電話もメールもしません。これで終わりにします」
「えっ」

 手を離されて顔をあげた。

「これで、終わり……?」
「はい。早瀬さんが結婚するのに、付き纏うわけにはいきませんから」
「結婚なんか……したくない……」
「決断するのは僕じゃなく、早瀬さんだと思います。どっちも手に入れるなんて、無理なことだと思うから。できればちゃんと早瀬さんの口から聞きたかったです。あんな形で知らされるんじゃなく」

 つらそうな顔で言うと、菱川くんは踵を返し、部屋を出て行ってしまった。






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2016-07-12(Tue) 20:10| 行きつく先は| トラックバック(-)| コメント 0

行きつく先は(3/5)

<前話はこちら>

 言われた通り一週間以内に嫌々花井さんに電話をし、指定された場所へ車で迎えに行って、彼女のショッピングに付き合わされたあと、ドライブに行きたいとねだられ、海のほうまで足を伸ばした。

 その帰り道に、丘の上の隠れ家的レストランで食事をした。なにを見ても何も思わないし、なにを食べてもおいしいとも感じない。

 先日のやり取りなんかなかった顔で恋人のように振る舞う花井さんがひたすら不気味で悪態をつく気分にもならなかった。

 家まで送ってくださいと言われるまでもなく、そう来るだろうと覚悟はしていたので「わかりました」と運転手にでもなったつもりで事務的に答え、彼女の自宅マンションまで車を走らせた。

「お茶でも飲んで行きません?」

 シートベルトを外した花井さんが俺の顔を覗きこむ。

「いえ。今日は疲れたので」
「だったら尚更、少しお休みになったほうがいいと思うわ。事故でも起こしたら大変」

 と俺の太ももに手を乗せた。叩き落としそうになるのをなんとか堪えた。

「何が目的なのか、そろそろ教えてくれませんか」

 いろんな感情を押し殺した低い声が出た。

「目的? そんなもの、ありませんけど」
「とぼけるのもいい加減にしてください。何が望みですか? 金ですか、僕の謝罪ですか」
「そんなこと言われるなんて……ショックです」

 胸に手をあて、悲しそうな顔をする。すべてが芝居がかってわざとらしい。怒鳴りたくなるのを奥歯を噛みしめて我慢した。

 その時、俺のスマホが鳴った。花井さんはすばやく音源を探し当て、冷たいまでの無表情で「出て」と言った。

「切れてしまいますよ、早く」

 高圧的な言い方で反発したくなるが、それも大人げないのでポケットからスマホを出した。画面を覗きこんだ花井さんにも、相手が菱川くんだとバレてしまった。

「出てください」

 言葉遣いこそ丁寧だが命令のような口調だ。思わず睨みつけたら睨み返された。花井さんが素早く動き、通話ボタンを押した。

『早瀬さん』

 菱川くんの声が聞こえて来る。仕方なく耳に当てた。花井さんも耳を寄せて来た。

「どうしたんだ?」
『声が聞きたくなって。いま、電話しても大丈夫ですか?』
「……少しなら」
『いまバイトが終わったところなんです。今日って会えませんか?』
「今日は無理だ」
『じゃあ明日は? 明日はバイト休みなんです』
「悪い、明日も無理だ」
『……いつなら会ってもらえますか?』
「最近忙しくて、いつになるかわからない。時間が出来たら俺から連絡する」
『わかりました。お疲れのところ電話してすみません』

 電話越しに伝わってくる菱川くんのがっかりした声。見なくても、落胆した彼の表情が目に浮かぶ。

「悪かったね」
『いえ。声を聞けただけで良かったです』
「おやすみ」
『おやすみなさい。早瀬さん、大好きです』

 焦って隣の花井さんに視線を走らせる。会話を盗み聞きすることに集中しすぎているのか、俺の視線に気付かず、花井さんは眉間に皺を寄せていた。

 おやすみ、と通話を切ってポケットに戻した。

「あれから会っていないみたいですね。私との約束を守ってくれているようで嬉しいです」

 体勢を戻して、花井さんは教師のような口ぶりで言った。ふと、以前彼女が言っていた言葉を思い出した。

 ――どういうわけか、私と付き合った男性って、みんなMっぽくなっていくんです。どうしてかしら?

 過去に付き合った男にもこういう態度だったのだとしたら納得だ。この女は付き合った男を自分の支配下に置きたがるタイプなのかもしれない。

「彼は関係ないでしょう」
「関係なくないです。だって彰博さんの浮気相手なんですから」
「浮気もなにも、あなたと僕は付き合ってもいない」
「酷いことをおっしゃるのね。私たち、夫婦になるのに」

 目玉が飛び出しそうになった。なにを言い出すんだ、この女は。ゲイが何なのか、実はよく知らないんじゃないのか?!

「そんなに驚いた顔をしないでください。私、彰博さんの不機嫌で傲慢なところが好きなんです。そんな彰博さんを傅かせて、従順でかわいい夫に仕立てるのが妻である私の役目なんですから」
「なっ……、なにを言っているんですか……?」

 眩暈がするようなことを言われて、無意識に花井さんから離れ、距離を取っていた。俺には彼女の言っていることが理解できない。あまりにおぞましいことを言われた気がする。

「菱川さんって方のおうちの前で聞いてて確信したんです。彰博さんは見た目はSっぽいけど、中見はMだって。きっと私たちの夫婦生活はうまくいくわ。彰博さんは私にとって理想の旦那さまですから」

 今までのものが作りものだったとわかる彼女の欲望丸出しの笑顔を見て全身総毛だった。目の前にいる女が人間ではない別の生き物に見えた。怖くてたまらない。悪寒が走ったのを認めたら体の震えが止まらなくなった。

「その怯えた顔、本当に可愛い」
「ひっ」

 爪の赤い指で頬を撫でられ、悲鳴のような声が漏れた。

「次のお休みは私の部屋でデートしましょう。手料理をごちそうさせてください。こう見えて料理は得意なんです。それじゃあ、また。おやすみなさい」

 悪魔か妖怪のような笑みを残して、花井さんは車をおりた。サイドガラス越しに手を振っている。恐ろしくて逃げるように車を出した。事故らず帰れたのが奇跡に思えるほど動揺していた。



 今まで相手をしてきた男のなかにも、俺のことをMだと思いこんだ奴はいた。菱川くんと出会った夜に引っかかった男もそうだった。

 容姿なのか言動なのか、俺はある種の連中の嗜虐心を刺激し煽ってしまうところがあるようだった。自覚がないから直しようがない。

 俺は奉仕することより、奉仕されることのほうが好きだ。それは偽りのない本心だ。あいつらに言わせれば、自分で気付いていないだけ、もしくは自分を偽っているだけ、ということになるのだろう。馬鹿馬鹿しい話だ。

 これまではそんな相手に出くわしても逃げればよかった。だが今回はそうはいかない。名前や連絡先も知らない一夜限りの相手じゃない。父の知り合い。名前はおろか、実家の場所も親の名前も知られている。逃げても追ってこられる。しかも俺がゲイだと知っている。職場までおしかけてくるような女だ。不興を買えばなにをされるかわからない。

 あの女の言いなりになるしかない。まさか本気で結婚しようなどと考えているとは思えない。思いたくない。これも俺への嫌がらせ。しばらく付き合えば気が済むだろう。

 そう考えて、次の休みにまた花井さんと会った。料理を作る前に買い物をしたいというので彼女指定のカフェへまず向かった。そこでコーヒーを飲みながら、一方的に話しかけて来る彼女の話を聞いた。それがやっと終わると食後のデザートにとケーキを買い、カフェを出た。 

 すぐそこにスーパーがあると言うので徒歩で向かった。その道中、思わぬ人物に出会った。

 リュックを担いで、友人らしい二人の男と談笑しながら前から歩いてきたのは、学校帰りらしい菱川くんだった。

 最初に気付いたのは俺だった。3メートルの距離になって菱川くんも俺に気付いた。彼は俺を二度見して、ぱっと顔を明るくさせた。

「早瀬さん」

 俺の名を呼びながら駆け寄ってくる。会うのは酷く久し振りな気がする。

「今日は仕事休みなんですか」

 隣の花井さんが目に入らないのか、彼はひたむきに俺にだけ視線を送ってくる。こんな場所で顔を合わせた偶然に素直に喜んでいる様子だ。

「ああ。君は学校の帰り?」
「そうなんです。このあとどっか行こうかって話してたんですけど……」

 菱川くんは俺にすり寄る花井さんへ視線を移した。

「彰博さん、こちらは?」

 名前もバイト先も知っているくせにと花井さんぬけぬけとそんなことを言う。菱川くんの笑顔が陰る。説明を求める目が俺へ向けられた。いまここですべてを打ち明けることは無理だ。

「友人の菱川くんです」

 俺の紹介に、菱川くんは少し不満そうな顔をしたが、すぐ笑顔になって「こんにちは」と花井さんへ会釈した。

「ずいぶんお若いお友達なんですね。私、花井といいます。彰博さんの婚約者です」
「ちょっと、花井さん!」

 掴まれていた腕を振り払った。なんてことを菱川くんに言ってくれるんだ!

「本当でしょ? 結婚を前提にお見合いをしたんですから」
「それはっ……だから、俺はいま結婚する気はないと……!」
「私とは理想の夫婦になれそうだと言ってくれたじゃないですか」
「言ってません! それを言ったのはあなたでしょう」
「彰博さん、訂正しなかったじゃないですか」

 思わず言葉に詰まった。確かに訂正をした覚えはない。しかしそれは同意見だったかじゃなく、花井さんがひたすら不気味で怖くてそれどころじゃなかったからだ。

 なにを言っても裏目に出る。慎重に言葉を選んでいたら、

「じゃあ、僕はこれで」

 と菱川くんが声を発した。

 咄嗟に菱川くんの手を掴んだ。まだなんの弁明も出来ていない。誤解されたまま別れるなんて嫌だ。

「菱川くん、待っ……!」
「お邪魔して、すみませんでした」

 俺の腕を引き剥がして、菱川くんは少し離れたところで待つ友人たちのもとへ走って合流した。そのまま振り返ることなく離れていく。

 花井さんに向き直り「どういうつもりですか」と声を抑えて詰め寄った。

「婚約なんてした覚えはありません、どうして嘘なんか」
「したも同然ですよ」

 菱川くんの後ろ姿を冷然と見送りながら花井さんは言い放った。

「少しの男遊びは許してあげます。でも、私がいいと言った相手だけ。あの子は駄目。もう二度と会わないで。連絡も禁止。約束を破ったら……どうなるかおわかりよね?」

 言い終わると、花井さんはわざとらしく肩を持ち上げて「ふふっ」と笑った。

 この女は俺の理解が及ばないはるか彼方の世界の住人だ。正気じゃない。気が狂ってる。

「どうして菱川くんは駄目なんだ」
「あの子が好きなんでしょう? 本気はダメ。浮気じゃなくなっちゃうもの」

 行きましょう、と花井さんが腕を組んできた。咄嗟にそれを振り払うと、彼女の顔は般若のように変わった。

「彰博さんのお父様に言いつけましょうか? あなたが同性の男とどんなことをして、どんなことを口走っているのか、詳しく、聞いていただいたほうがいいかしら?」

 脅しやはったりじゃなく、この女ならやるだろう。俺の知らないことも調べ上げていそうな空恐ろしさもある。

 しばらく睨みあいが続いたが、弱みを握られている俺が先に目を逸らした。

「さっ、買い物に行きましょう。彰博さんも少しはお手伝いしてくださいね。一緒に料理をする夫婦っていいと思いません?」

 尻尾を丸めて項垂れる俺に満足し、花井さんはにこりといつもの笑顔で言った。飼い主がペットに首輪をつけるように俺の腕に腕を絡めて来る。もうそれを振り払うことは出来なかった。






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2016-07-11(Mon) 20:10| 行きつく先は| トラックバック(-)| コメント 0

行きつく先は(2/5)

<前話はこちら>

 こちらから連絡しないでいたら、花井さんが病院まで会いに来た。しかも患者としてやってきたから追い返すこともできず、看護師たちのいる前で「先日はごちそうさまでした」なんて言われてしまい、何時間で噂が広まるのだろうと思うと頭が痛くなった。

「ここ最近、食欲がなくて、あまり充分な睡眠も取れてないんです。気が付くとボーッとしていたりして。なにかの病気でしょうか?」

 顎に人差し指を当て、花井さんは小首を傾けた。確かに可愛い女の部類には入るが、二十代後半の女がやる仕草じゃない。

「もしかすると、恋煩いかもしれないですね」

 ベテラン看護師が俺を指さしながら茶化すように言う。花井さんは口の前で手を広げて「やだぁ! でも、言われてみるとそうかもしれない」とアイメイクでさらに大きくなった目を俺に向けた。

「お疲れなんじゃないですか。とりあえず血液検査と心電図取りましょう」
「そんな、大げさです、彰博さん」

 彰博さん?! なぜ急に下の名前で呼ぶんだこの人は。

「ビタミン剤飲めばそのうち治ると思いますから。ほんと、彰博さんって心配性なんだから」

 ウフフ、と花井さんは笑う。まるで俺たちが恋人同士で、しかも俺が過剰に心配をするほど彼女に惚れこんでいるかのような口ぶりだ。こうやって周りから固めていく気かこの女。

「花井さん、もうすぐ午前の診療が終わるので、申し訳ありませんが会計が終わったあと、待ち合いで待っていてもらえませんか。お話があります」
「ちょうど良かった。私も彰博さんにお話があるんです」

 花井さんは赤い唇を左右に釣りあげた。



 昼休みに会計窓口のほうへ行ってみると、花井さんは椅子に座って待っていた。会計も終わっているというので病院を出て、中庭のほうへ連れて行った。ひと気のない隅のベンチに彼女を座らせた。

「仕事場に来られるのは困ります」
「白衣は脱いでしまったんですね。白衣姿の彰博さん、格好よかったのに」

 とニコニコしていてまるで話が通じない。世間知らずのお嬢さんと言ったって幼過ぎる。

「この際だからはっきり申し上げると、今回の見合いは断るつもりでした。僕はまだ結婚する気はないので」
「いつになったら結婚する気になるって言うんですか?」
「結婚したいと思う時期に結婚したいと思える相手に出会えた時でしょうね」
「その方と彰博さんは結婚できるんでしょうか?」

 なんだか含みのある言い方だった。にこりと微笑んだ花井さんは、鞄をゴソゴソやると、中からスマートフォンを取り出した。幼い印象の彼女らしい、キャラクターのデコレーションがされたスマホだ。それを操作して、俺のほうへ掲げた。

 画面に映し出されたのは、ブレブレの映像。なんだかわからず眉を顰める。一瞬手ぶれの止まった映像に、見覚えのある風景が映っていて凍り付いた。

 菱川くんのハイツ。少し離れた場所から撮影したものらしい。階段を上っていく人影は俺だ。菱川くんの部屋の前で立ち止まり、ドアが開くと同時に彼に抱きつき、キスしている姿が、遠くから、しかりばっちり映されていた。

 全身から血の気が引いた。膝から崩れ落ちそうになった。これは世界の終わりを意味していた。俺の人生の終焉。

 映像が一旦途切れ、次に映し出されたのは菱川くんの部屋の薄茶色のドア。音を拾おうと近づけているのがわかる。ガサゴソという音しか聞こえないが、花井さんは中でなにが行われていたか知っているのだろう。

「彰博さんがお急ぎの様子だったから、ちょっと気になってあとをつけてみたんです」

 スマホを鞄に戻して花井さんは顔をあげた。俺と目が合うといつものように首を傾げてにこりと笑う。二度目に会った夜、彼女をタクシーに乗せて送りだした直後、俺もタクシーを止めて菱川くんの家へ向かった。そのあとを着けてきたのだろう。まったく気付かなかった。

「日本の法律がかわらない限り、結婚するのはちょっと難しいんじゃないでしょうか」
「……どういう、つもりですか」

 動揺が声に出て震えた。

「お見合いなさるぐらいだから、きっと誰にも秘密なんですよね? お父様にも、病院のみなさんにも、誰にも言わないでいてさしあげます」

 そのかわり、と花井さんは幼い印象の笑顔を一変させ、邪悪な笑みで言った。

「またデートに誘ってくださいね? 今度はちゃんと彰博さんが私に電話してきてくれなきゃ駄目ですよ。今までみたいな態度も改めてもらわなくちゃ。女性に対して失礼でしょ?」

 俺がゲイだとわかった上でまたデートに誘えだと?! なにを考えてるんだこの女は。全く理解できない。

 俺が言葉を失って立ち尽くしていると、花井さんは余裕の表情でベンチから腰をあげた。

「それでは、ご連絡お待ちしております。照れ屋の彰博さんのために、一週間以内と期限を決めておきますね。それを過ぎてしまったら、またこちらにお伺いして、みなさんの前でお話させて頂きましょう」

 言い終わると持っていた日傘を広げた。

「あ、しばらく菱川さんとは会わないでくださいね。コンビニに会いに行くのも禁止です」

 名前とバイト先まで知っているのか! 愕然とする俺ににこりと笑いかけ、花井さんは背を向けて去って行った。

 その姿が見えなくなってから、俺は力が抜けたようにベンチに腰を落とした。背中に張り付くワイシャツで、びっしょりと汗をかいていたことに気付いた。

 なんなんだあの女。底の知れない恐ろしさを感じる。俺の性癖に気付いた上でまだ執着する意図は何だ? なぜ菱川くんのバイト先まで調べ上げる必要がある? そんな話をするために仕事場にまでやってきて、行動すべてが尋常じゃない。

 俺を脅すつもりか? いくらかの金で解決するなら払ってやる。だがあの女は金に不自由はしていないだろう。では一体何が目的だ。見会い相手がゲイで、しかも振られたからその腹いせに嫌がらせがしたいのか? だったら頭の一つでも下げれば気が済むのか?

 色々考えていたら気分が悪くなってきた。食事をしても吐いてしまいそうだ。

 あ、そうだ、菱川くん。彼にも花井さんのことを話しておくべきだろうか。見合い相手に俺たちの関係がバレて、また今度デートする羽目になったと?

 カミングアウトしていないからだとまた口論になったり、心配されるのも厄介だ。それに嫉妬した菱川くんが俺には会わないと言い出すかもしれない。それは避けたい。

 しばらく菱川くんに会うなと花井さんは言った。言う通りにしなければゲイであることをバラすと言外にほのめかす言い方だ。あの女がなにを考えてるのか、その目的がわかるまでは菱川くんに会うのは控えた方が無難だ。それだと、嘘をつく必要もなく、黙っていられる。






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2016-07-10(Sun) 20:11| 行きつく先は| トラックバック(-)| コメント 0

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