FC2ブログ



更新履歴・お知らせ

2017/07/06
第二ボタン2更新、完結

2017/07/05
第二ボタン1更新

2017/05/25
ちょろくない2更新、完結

2017/05/24
ちょろくない1更新

2017/05/16
やっぱちょろい2更新、完結

2017/05/15
やっぱちょろい1更新

2017/02/11
メリクリあけおめ2更新、完結

2017/02/10
メリクリあけおめ1更新

2016/11/14
義父の訪問更新、完結

2016/10/27
覗き2更新、完結

2016/10/26
覗き1更新

2016/10/22
終わらない夜2更新、完結

2016/10/21
終わらない夜1更新

2016/10/16
凹の懊悩2更新、完結

2016/10/15
凹の懊悩1更新

2016/09/28
可愛さも憎さも百倍2更新、完結

2016/09/27
可愛さも憎さも百倍1更新

2016/09/22
利害の一致2更新、完結

2016/09/21
利害の一致1更新

2016/09/16
楽しい記憶喪失!3更新、完結

2016/09/15
楽しい記憶喪失!2更新

2016/09/14
楽しい記憶喪失!1更新

2016/09/13
楽しい同棲!2更新、完結

2016/09/12
楽しい同棲!1更新

2016/09/11
Phantom15更新、完結

2016/09/10
Phantom14更新

2016/09/09
Phantom13更新

2016/09/08
Phantom12更新

2016/09/07
Phantom11更新

2016/09/06
Phantom10更新

2016/09/05
Phantom9更新

2016/09/04
Phantom8更新

2016/09/03
Phantom7更新

2016/09/02
Phantom6更新

2016/09/01
Phantom5更新

2016/08/31
Phantom4更新
リンク一件追加

2016/08/30
Phantom3更新

2016/08/29
Phantom2更新

2016/08/28
Phantom1更新

2016/08/04
嘘7更新、完結

2016/08/03
嘘6更新

2016/08/02
嘘5更新

2016/08/01
嘘4更新

2016/07/31
嘘3更新

2016/07/30
嘘2更新

2016/07/29
嘘1更新

2016/07/18
Love Scars3更新、完結

2016/07/17
Love Scars2更新

2016/07/16
Love Scars1更新

2016/07/13
行きつく先は5更新、完結

2016/07/12
行きつく先は4更新

2016/07/11
行きつく先は3更新

2016/07/10
行きつく先は2更新

2016/07/09
行きつく先は1更新

2016/07/04
電話が鳴る7更新、完結

2016/07/03
電話が鳴る6更新

2016/07/02
電話が鳴る5更新

2016/07/01
電話が鳴る4更新

2016/06/30
電話が鳴る3更新

2016/06/29
電話が鳴る2更新

2016/06/28
電話が鳴る1更新

2016/06/16
今日の相手も2更新、完結

2016/06/15
今日の相手も1更新

2016/06/08
今日の相手は2更新、完結

2016/06/07
今日の相手は1更新

2016/05/25
いおや2更新、完結

2016/05/24
いおや1更新

2016/05/14
奇跡2更新、完結

2016/05/13
奇跡1更新

2016/04/28
ターゲット2更新、完結

2016/04/27
ターゲット1更新

2016/03/02
視線の先2更新、完結

2016/03/01
視線の先1更新

2016/02/23
性癖の道連れ2更新、完結

2016/02/22
性癖の道連れ1更新

2016/02/15
DL販売お知らせ

2016/01/20
尾行2更新、完結

2016/01/19
尾行1更新

2015/12/07
遺作2更新、完結

2015/12/06
遺作1更新

2015/12/02
昼夜2更新、完結

2015/12/01
昼夜1更新

2015/11/26
大小2更新、完結

2015/11/25
大小1更新

2015/11/15
彼はセールスマン2更新、完結

2015/11/14
彼はセールスマン1更新

2015/10/22
2度あることは2更新、完結

2015/10/21
2度あることは1更新

2015/09/18
死神さんいらっしゃい2更新、完結

2015/09/17
死神さんいらっしゃい1更新

2015/09/08
Congratulations2更新、完結

2015/09/07
Congratulations1更新

2015/09/01
待田くんに春の気配3更新、完結

2015/08/31
待田くんに春の気配2更新

2015/08/30
待田くんに春の気配1更新

2015/08/11
亀の恩返し2更新、完結

2015/08/11
亀の恩返し1更新

2015/08/07
Aからのメール2更新、完結

2015/08/06
Aからのメール1更新

2015/07/06
5年後2更新、完結

2015/07/05
5年後1更新

2015/07/04
待っててね2更新、完結

2015/07/03
待っててね1更新

2015/05/11
その後3更新、完結

2015/05/10
その後2更新

2015/05/09
リクエスト小説
その後1更新

2015/05/05
待田くんに春はこない2更新、完結

2015/05/04
待田くんに春はこない1更新

2015/04/30
楽しいシーソーゲーム!2
更新、完結

2015/04/29
楽しいシーソーゲーム!1更新

2015/04/21
楽しい親子喧嘩!1
楽しい親子喧嘩!2更新、完結

2015/04/16
楽しい放課後!2更新、完結

2015/04/15
楽しい放課後!1更新

2015/04/06
楽しい合コン!2更新、完結

2015/04/05
楽しい合コン!1更新

2015/04/01
楽しいお見舞い!2更新、完結

2015/03/30
楽しいお見舞い!1更新

2015/03/24
楽しい旧校舎!2更新、完結

2015/03/23
楽しい旧校舎!1更新

2015/03/16
楽しい入院生活!2更新、完結

2015/03/15
楽しい入院生活!1更新

2015/03/05
楽しい遊園地!2更新、完結

2015/03/04
楽しい遊園地!1更新

2015/02/27
楽しいロッカールーム!2更新、完結

2015/02/26
楽しいロッカールーム!1更新

2015/02/16
楽しいOB会!2更新、完結

2015/02/15
楽しいOB会!1更新

2015/02/14
一周年!!
いつもありがとうございます!
君は日向の匂い更新、完結
シンデレラアイドルのSSです

2015/02/13
保健室の先生2更新、完結

2015/02/12
保健室の先生1更新

2015/02/11
teeth2更新、完結

2015/02/10
teeth1更新

2015/02/09
楽しい初カノ!2更新、完結

2015/02/08
楽しい初カノ!1更新

2015/01/31
楽しい勉強会!2更新、完結

2015/01/30
楽しい勉強会!1更新

2015/01/23
楽しいお泊り!2更新、完結

2015/01/22
リクエスト小説
楽しいお泊り!1更新

2015/01/08
明けましておめでとうございます!
本年も宜しくお願い致します!
リクエスト小説
両想い1、2更新、完結

2014/12/12
楽しい合宿!2更新、完結

2014/12/11
楽しい合宿!1更新

2014/12/01
アガルタ2更新、完結

2014/11/30
リクエスト小説
アガルタ1更新

2014/11/23
朝のお楽しみ2更新、完結

2014/11/22
リクエスト小説
朝のお楽しみ1更新

2014/11/14
即位式2更新、完結

2014/11/13
即位式1更新

2014/11/04
裏ドSくん3更新、完結

2014/11/03
裏ドSくん2更新

2014/11/02
裏ドSくん1更新

2014/11/01
ひみつのドSくん2更新、完結

2014/10/31
ひみつのドSくん1更新

2014/10/30
伴侶1、2更新、完結

2014/10/27
支配人3更新、完結

2014/10/26
支配人2更新

2014/10/25
支配人1更新

2014/10/24
隣人3更新、完結

2014/10/23
隣人2更新

2014/10/22
隣人1更新

2014/10/15
元上司2更新、完結

2014/10/14
リクエスト小説
元上司 1更新

2014/10/10
ニコニコドッグⅡ 2更新、完結

2014/10/09
リクエスト小説
ニコニコドッグⅡ 1更新

2014/10/04
茶番2更新、完結

2014/10/03
リクエスト小説
茶番1更新

2014/09/12
「ちょろい 2」更新、完結

2014/09/11
「ちょろい 1」更新

2014/09/08
「新雪の君」更新、完結

2014/09/06
コメントお返事させて頂きました

2014/09/05
「すばらしい日々3」更新、完結

2014/09/04
「すばらしい日々2」更新
コメントお返事させて頂きました

2014/09/03
リクエスト小説
「すばらしい日々1」更新
コメントお返事させて頂きました

2014/09/01
「好きと言って4」更新、完結

2014/08/31
「好きと言って3」更新

2014/08/30
「好きと言って2」更新

2014/08/29
リクエスト小説
「好きと言って1」更新

2014/08/24
「純粋に近付いた何か2」更新、完結

2014/08/23
リクエスト小説
「純粋に近付いた何か 1」更新

2014/08/15
コメントお返事させて頂きました

2014/08/14
再会2更新、完結
コメレスさせて頂きました

2014/08/13
リクエスト小説「再会1」更新
「ノビ」の続編です

2014/07/26
コメントお返事させて頂きました

2014/07/25
息子さんを僕にください2更新完結

2014/07/24
リクエスト小説「息子さんを僕にください1」更新
娘さんを僕に下さいとは無関係ですw

2014/07/22
コメントお返事させて頂きました

2014/07/20
久しく為さば須らく2更新、完結
コメントお返事させて頂きました

2014/07/19
リクエスト小説「久しく為さば須らく1」更新
コメントお返事させて頂きました

2014/07/18
コメントお返事させて頂きました

2014/07/16
コメントお返事させて頂きました

2014/07/15
コメントお返事させて頂きました

2014/07/14
コメントお返事させて頂きました

2014/07/13
リクエスト小説「嫉妬せいでか2」更新、完結
コメお返事させて頂きました

リクエスト小説「嫉妬せいでか1」更新

2014/07/11
拍手お返事させて頂きました
お知らせ一件

2014/07/10
コメント、拍手お返事させて頂きました

2014/07/09
拍手お返事させて頂きました

2014/07/08
コメント、拍手お返事させて頂きました
耽溺 2更新、完結

2014/07/07
拍手お返事させて頂きました
リクエスト小説「耽溺 1」更新

2014/07/06
拍手お返事させて頂きました

2014/07/05
拍手お返事させて頂きました

2014/07/04
コメント、拍手、お返事させて頂きました

2014/07/03
コメント、拍手、お返事させて頂きました
吉原と拓海その後 2更新、完結

2014/07/02
コメント、拍手、お返事させて頂きました
吉原と拓海その後1更新しました

2014/07/01
コメントお返事させて頂きました
シンデレラアイドル2更新、完結

2014/06/30
拍手お返事させて頂きました
シンデレラアイドル1更新しました

2014/06/29
リクエスト募集してます

2014/06/27
拍手お返事させて頂きました

2014/06/24
目は口ほどに 更新、完結

2014/06/17
茶々丸更新、完結
獣姦っぽい

2014/06/11
連鎖 2更新、完結

2014/06/10
連鎖 1更新

2014/06/07
拍手お返事させて頂きました

2014/06/06
拍手お返事させて頂きました

2014/06/05
拍手お返事させて頂きました

2014/06/04
元旦那さん 2更新、完結

2014/06/03
元旦那さん 1更新
旦那さんの続きです

2014/05/29
昨日の記事の続きで拍手お返事させてもらっています

2014/05/28
旦那さん 2更新、完結

2014/05/27
旦那さん 1更新

2014/05/22
夢の時間2更新、完結

2014/05/21
アンケート1位小説「親子」
夢の時間1更新

2014/05/16
この物語はフィクションです更新、完結

2014/05/14
アンケート1位小説「教師と生徒」で先生受け。
信じて下さい更新。完結

2014/05/11
純粋とは程遠いなにか2更新。完結
ダウンロード販売のお知らせ

2014/05/09
純粋とは程遠い何か1更新

2014/05/01
長男としての責務2更新。完結

2014/04/30
長男としての責務1更新

2014/04/27
セフレ更新。完結

2014/04/21
嘘が真になる2更新。完結

2014/04/20
嘘が真になる1更新。
アンケート終了しました
投票してくださった皆さんありがとうございました!

2014/04/15
親切が仇になる2更新。完結

2014/04/14
親切が仇になる1更新

2014/04/11
家庭教師更新。完結

2014/04/09
惚れ薬2更新。完結

2014/04/08
惚れ薬1更新

2014/04/05
ニコニコドッグ更新。完結

2014/04/03
健やかなるときも病めるときも更新。完結
アンケート設置1ヶ月記念更新
回答ありがとうございます!

2014/04/02
お隣さん2更新。完結

2014/04/01
お隣さん1更新

2014/03/28
B3-17 はるか更新。完結

2014/03/27
会話の語尾は常にハートマーク更新。完結

2014/03/24
僕の居場所更新。完結

2014/03/21
兄弟愛(3/3)更新。完結

ストックを全て出し切ってしまいましたので毎日更新は今日で終わりになります。
これからは書き終わり次第更新していきますので、引き続きよろしくお願い致します。

2014/03/20
兄弟愛(2/3)更新。

2014/03/19
兄弟愛(1/3)更新。

2014/03/18
7歳の高校生更新。完結

2014/03/17
7歳の高校生更新

2014/03/16
裏の顔更新。完結
アンケート2位「教師と生徒」
少し違う感じになりました。

2014/03/15
残業も悪くない更新。完結
アンケート結果を反映させてみました。
アンケートに答えてくださった皆さんありがとうございます。引き続きお願い致します

2014/03/14
片思い更新。完結

2014/03/13
クラスの地味男更新。完結

2014/03/12
吉原と拓海更新。完結

2014/03/11
罠更新。完結

2014/03/10
同級生更新。完結

2014/03/09
目覚め更新。完結
FC2小説にて、
閃光戦士フラシュレッド!公開。完結。

2014/03/08
やってられない更新。完結

2014/03/07
地下の城ピュラタ更新。完結

2014/03/06
地下の城ピュラタ更新。

2014/03/05
部室にて更新。完結

2014/03/04
すべからく長生きせよ更新。完結

2014/03/03
秘め事更新。完結
アンケート設置。ご協力お願いします

2014/03/02
映画館にて更新。完結

2014/03/01
大迷惑@一角獣更新。完結

2014/02/28
大迷惑@一角獣更新。

2014/02/27
僕はセールスマン更新。完結

2014/02/26
俺のセールスマン更新。完結

2014/02/25
夏の夜更新。完結

2014/02/24
妄想更新。完結

2014/02/23
先生 その2更新。完結

2014/02/22
洞窟更新。完結

2014/02/21
洞窟更新。

2014/02/20
先生 その1(1-2)更新。
先生 その1(2-2)更新。完結

2014/02/19
娘さんを僕にください更新。完結

2014/02/18
ノビ更新。完結

2014/02/17
ノビ更新。

2014/02/16
1万3千円更新。完結

2014/02/15
1万3千円更新。

2014/02/14
ファンレター更新。完結

2014/02/14
ブログ始動。
「ファンレター」公開。

よろしくお願いします。

最新記事

カテゴリ

ダウンロード販売

DiGiket.comさん

薔薇色の日々
  (「裏の顔」改訂版)

不埒な短編集
 短編3つ

不埒な短編集第二
 短編3つ

月別アーカイブ

おすすめ


電話が鳴る(3/7)

第1話はこちら前話はこちら

 池田からの連絡を待ち続けていたら2年が経過していた。

 思い出すことも減っていたある日、例のごとく、池田は急に電話をしてきた。また会いたいと言う。あれから子供のために我慢して結婚生活を続けてきたが、やはり無理になったから、改めて友引を紹介して欲しい、そんなところだろう。

 そう思って前と同じ待ち合わせ場所で池田に会うと、「金を貸して欲しい」と頭を下げられた。

 思っていた内容と違った。しかも金の無心だった。財布から3万を池田に渡した。

「何に使うんだ?」
「子供の養育費」

 知らない間に離婚はしていたようだ。養育費すら払えないくらいだから、弁護士は入れずに夫婦で話し合ったのだろう。

「仕事はなにしてるか聞いていい?」
「色々。今月はまだ見つかってない」

 定職についていないから収入が安定しない。だから養育費も払えない。生活にも困窮している。離婚したのに元気が戻った様子もない。

「困ったことがあったらいつでも電話して」

 池田は黙って頷いた。

 それから数ヶ月後の仕事中、池田から電話がかかってきた。プライベートな電話だが、客もいないし、こっそり電話に出た。

『ごめん、また金を貸してくれないか』

 予感が当たったが、不思議と腹は立たなかった。

「緊急?」
『できれば今日中に貸してもらえると助かる』
「手持ちで5万ある。足りる?」
『足りる。ごめん』
「謝らなくていいよ。仕事ついでに行くから、今から一時間後、いつものところでいい?」
『わかった。行く』

 通話を切って携帯をポケットに仕舞った。

「金かしたの?」

 聞き耳を立てていたらしい同じ営業の先輩が声をかけてきた。

「少しですよ」

 パソコンを操作して、資料をコピー機へ転送する。コピー機が動きだした。

「暇だしポスティング行ってきます」
「口ぶりからして初めてじゃなさそうだな。女?」
「友人です」
「何度も金を貸してくれって言う奴とは縁切ったほうがいいぞ。そのうちでかい借金の保証人になってくれって言い出すから」
「大丈夫ですよ」

 トイレに行って同僚の声をシャットアウトした。俺だって大丈夫だとは思っていない。だけど池田のあんな様子を見たら放っておけない。

 用を足してトイレを出た。先輩の視線に気付かないふりをしながら出来上がったコピーを掴んで店を出た。少し離れた駐車場の車に乗り込み、待ち合わせ場所へ向かった。

 時間通りに池田はやってきた。相変らず覇気も生気も感じられない。服装もぼろいまま。離婚したのに何一つ改善されていない。

 5万の入った封筒を池田に渡した。

「すまない」

 池田は頭をさげて、それを受け取った。



 数週間後、池田から金を返したいと電話があった。いつでもいいと断ったのに、どうしてもと言うので仕事終わりに会うことにした。

「今はこれだけなんだけど」

 とS駅近くの居酒屋に入るなり、池田は2万を差し出してきた。今の池田には2万を捻出するのも大変なはずなのに。

「残りも必ず返すから」
「急がなくていいよ。それよりちゃんと食べてる?」
「借金を優先してるから、食費にまで回らない」
「だったらこれで食べろ」

 さっきの2万をテーブルの上に戻した。それを見て、池田はかすかに笑った。

「現金持ってたら借金取りに取られる」
「しゃっ……! 俺以外からも借りてるのか?」
「生活費が足りなくて、嫁が闇金から借金してた」
「闇金から借りちゃ駄目だろ」
「そういうところしか貸してくれなかったんだと思う」
「いくら?」
「90万くらいかな」

 数百万を想像してたからそれを下回る額にほっとした。金が足りないだけじゃなく、闇金なんてところで借金するほどだったとは。どうしてもっと早く言ってくれなかったのか。頼ってくれれば、いくらかは援助できたのに。

「なんで……、なにがあったんだよ、お前に」

 どうして溌剌として男らしかった池田が、見るも無残に変わってしまったんだ?

 俺の言わんとするところを察して、池田は目線を下げた。目にかかる長い前髪を指で払いながら口を開いた。

「大学に入ってすぐ、兄貴が事故で死んだんだ。兄貴は俺なんかより優秀で自慢の息子だったから、目に見えて落ち込んでる親を見てたら、何も言われなかったけど、俺が死ねばよかったのかなぁって生きてることが申し訳なくなってきたんだ」

「そんなことあるわけないだろ」

 怒りと共に声を吐きだした。

「だけど、何してても罪悪感があって、気が付いたら鬱になってた。大学辞めて、しばらく引きこもったあと家出て、今までなんとかやってきた」

 なんとかやれてないだろう! 胸を掻きむしりたい思いをしながらその言葉を飲みこんだ。池田からの電話を待つばかりだった自分を責めた。俺から電話してもっと詳しく近況を聞いていれば。

 この時になってようやく、夜中の4時42分に思い出したからと電話をしてきたり、たいした用事でもないのに急に電話をしてきた池田の情緒不安定ぶりを思い出した。思い返せば平坦な口調も内容も池田らしくなかったのに。あれも一種のSOSのサインだったかもしれない。

 それを見逃してしまっていた自分が不甲斐なくて腹立たしくて仕方がなかった。

「次の水曜日、会えるか?」
「早朝の品出しのバイトしてるから、それが終わってからなら」
「仕事は何時に終わる?」
「9時」
「じゃあ、10時半に。ゆっくり話がしたい」
「わかった」

 なんの話なのか、なぜなのか、なにも聞いてこない。ただ言われたことを飲みこんで頷くだけ。以前の池田なら決してありえないことだ。胸がキリキリと傷んだ。



 次の水曜、いつもの待ち合わせ場所で池田を車に乗せて、池田の家まで案内してもらった。到着したのは確実に築45年以上は経っていそうなボロアパートだ。全面畳張りで日焼けと擦り切れが激しい。天井の染みを見ると雨漏りもあるのかもしれない。

 カーテンが必要ないほど窓が薄暗いのは、隣に建物が近接しているせいだろう。日当たりが悪く、風通しも悪いのかじめっとしていて黴臭い。

 家具と呼べる家具すらない。あるのは布団と46Lの小型冷蔵庫のみ。壁際にはゴミの溜まった袋と小さな衣類の山。

 離婚をしたから嫁と子供の姿はなし。自分の家なのに、池田は所在無さげに立ち尽くしている。

「ここ家賃は?」
「3万5千円」

 早朝に品出しのバイトでは収入は多くはないだろう。養育費の支払いもある池田には大きい額だ。

 台所に調理器具らしきものは片手鍋1つ以外見当たらない。まだ引っ越してきたばかりなのかもしれないが、ただ単に池田の生活能力の低さを証明しているようにも見える。

「ちゃんと食べてる?」
「まあ」

 きっぱり肯定できるほどは食べていないということか。

「借用書はある?」
「……借金の?」

 そうだと頷けば池田はシンク下の引きだしを空け、いくつかある書類の中からひとつを持ってきた。

「毎月の返済は引き落とし? ちゃんと領収書もらってる?」
「引き落とす金が銀行に入ってない時は手渡しで、領収書は……」

 また引き出しをゴソゴソやって、池田は領収書を数枚見つけて来た。借用書と領収書を出す程度にはまともな闇金らしい。

「借金はこれだけ? 他からは借りてない?」

 池田が頷く。

「弁護士の知り合いがいるって話しただろ。ちょっとこれ見てもらってくるから池田はここで待ってて」

 池田は何か言いかけたけど、聞こえないふりをしてアパートを出た。車に乗り込み、カーナビに借用書に書かれた住所を入力する。20分の距離。アクセルを踏み込んだ。

 入り組んだ場所にあるビルに到着するまで30分かかった。レインボーローンと看板の掲げられた店舗のドアを押して入った。

 事務員らしい女性がにこやかに声をかけて来る。借用書を見せて、全額払いたい旨を伝えたら、事務員は「少々お待ちください」と奥の部屋へ引っ込んだ。

 奥から営業マンらしい男が出て来た。借用書を見せて同じことを伝えた。現在の正確な残債金額を出してもらい、全額返済した。ごねられることも、渋られることも、金額を上乗せされることもなかった。闇金と池田は言ったが、高利な街金と言った方が正しいようだ。

 領収書を受け取り、次、借金の取り立てがあれば弁護士と一緒に来ると宣言して店を出た。

 待ち合わせの前に銀行からおろした100万がほとんど消えてしまったが、いまの俺にはこれが最善の方法に思えた。

 アパートに戻り、借金を返してきたことを伝えると、池田は「えっ」と目を見開いた。

「なんで……」

 と言葉を詰まらせる。

「あげるんじゃない、貸すだけだ。利子も期日もないから俺から借りてるほうが楽だろ」
「……頼んでない」
「怒るのはもうちょっと待って。俺はまだ勝手をやるから」
「え?」
「この部屋は解約する。早く借金を返してもらわないといけないからな。今日からしばらくは俺の家に来い。4・5帖で狭いけど部屋が1つ空いてる。ここを引き払ったお金で毎月3万返してくれれば完済まで3年もかからない。池田がちゃんと仕事を見つけて収入が安定すれば、俺がいい物件見つけて来るから、それまでは俺の監視下に置かせてもらう。異存は認めない」

 一気に喋り終えた。最初はショックを受けたようにポカンと聞いていた池田だったが、最後には唇を締め直し、怒りを湛えた目で俺を睨むように見ていた。

「俺のことなのに。感謝はする、けど、勝手だ」
「だから勝手をやると言った。荷造りしよう」
「納得できない」
「今はしなくていい。文句もあとで聞く」

 棚もタンスもない部屋なので、荷造りと言っても床に落ちているものを拾い集めるだけで終わった。全部が入る鞄がないので、部屋の隅にあった紙袋が綺麗そうだったからそこに入れた。

 台所の流しの引き出しを開けると書類やら封書やらがごちゃごちゃと詰め込まれていた。その中にここの賃貸契約書も入っていた。全部を取り出して、それは俺が預かった。

「ほかに荷物は?」
「……ない」

 念のため押入れを開けてみたが、本当に何もなかった。

「行こう」

 促したが池田は動かず自分の足元を見ていた。俺からは背中しか見えない。池田が今どんな表情をしているのかわからない。

 勝手で傲慢な行為だとわかっているが、毎月利子しか返せていないような借金を抱えて、食事もろくに取らず、こんな陰気な場所に住む池田を置いてはいけなかった。

「ごめん。謝るから、一緒にきて欲しい」

 くるりと池田は振り返った。顔を俯けたまま、俺の横を通りすぎ、靴に足を入れた。その背中にもう一度「ごめん」と言ってから、先に外へ出た池田を追いかけて俺も部屋を出た。

 池田が鍵をかけるのを待って、アパートを離れた。近くの道路に停めておいた車に乗り込み、エンジンをかけた。

 池田は無言だった。表情こそいつもの淀んだ池のように静かで波紋一つ浮かんでいなかったが、内心では俺の勝手な行動に腹を立てているのだろう。当たり前だ。頼まれもしないのにお節介を焼いた。池田のプライドを傷つけた。友達の域を越えて、やり過ぎた行為だ。

 マンションへの道にハンドルを切りながらしばらく車を走らせていたら、隣から静かに息を吐きだす音が聞こえた。

「絶対に、返すから」

 何も映っていないような目を前方に向けながら池田がぽつりと言った。

「勝手なことしてごめん。どうしても放っておけなくて」
「謝るのは俺のほうだ。全額肩代わりしてもらったのに、怒る立場にない」
「いや、怒って当然だよ」
「時間はかかるかもしれないけど、ちゃんと返すから。しばらく、世話になります」
「いいって、そんなの」

 膝に手を置いて俺に頭を下げてきたから慌ててやめさせた。

 俺の知ってる池田は頑固なところがあって、自分が納得しないとうんと言わないような奴だった。自分で見て聞いて確かめないと気が済まない性格だったのに、いまは俺の言うがままに流されている。その変わりように胸が痛む。

 頭をあげた池田は、俺から顔を背けるように横を向いた。外の景色を見ているようで見ていないのだろうと、なんとなくわかった。俺に顔を見られたくないのだろう。俺も運転に集中して、マンションに近づくまで話しかけなかった。





関連記事
スポンサーサイト
[PR]

FC2公認の男性用高額求人サイトが誕生!
稼ぎたい男子はここで仕事を探せ!

2016-06-30(Thu) 21:02| 電話が鳴る| トラックバック(-)| コメント 0

電話が鳴る(2/7)

<前話はこちら>

 結婚するという報告があってから池田から連絡はなかった。恐れていた結婚式の招待状も届かなかった。安堵する反面、呼ばれたかったことが少し悲しくもあった。やはりまだ俺のことを許せなくて友達とは思いたくないのだろう。

 ではなぜ電話をしてくるのか。年単位だから決して多いわけじゃない。池田がなにをしたいのかわからないままだった。

 結婚報告から一年が経過する頃、そろそろ電話がかかってくるような気がして電話が鳴るたびドキドキする日々を送っていたが、一年が経ち、二年が経過してもあの番号からの着信はなかった。

 そして三年目の春、忘れていた頃になって5度目の電話がかかってきた。

『会えるかな』

 久しぶり、と言い合ったあと、池田は前置きなしで切りだしてきた。

「えっ、会う?」
『相談したいことがある』

 何年も会っていなかった奴から相談なんて言われて楽観的でいられるほど俺も若くはなくなっていた。すぐさまトラブルだろうと思った。おそらく借金の申し込み。同じ確率で保証人。次に宗教か政治絡み。

「相談って?」

 恐る恐る探りを入れたが、『会った時に話す』と流されてしまった。

 きっと、絶対、百発百中、厄介事。仕事を理由にはぐらかして向こうが諦めるのを待つのが無難。そう思いつつ、俺の手はスケジュール帳を広げていた。

「平日になっちゃうけど。次の水曜なら、休みだよ」
『俺は大丈夫。待ち合わせはどこがいい?』
「どこがいいだろ。家まで行こうか? どこに住んでるの?」

 そういえば3年前に結婚するから引っ越しすると電話で言っていた。確か子供も授かっていたはず。今頃子供は2歳になるのか。池田に子供が。しかも、もう2歳。家に行けば、池田の結婚相手と子供にも会うかもしれない。

『今はN市だけど。来てもらうのは悪いからこっちが行くよ』

 相変らず抑揚のない声だったが、営業だから察することが出来た。ただの遠慮じゃなく、本気で家に来て欲しくないようだ。

「じゃあ、S駅は? そこならちょうど中間になるし、乗り替えにも便利だから。東口がいいかな」
『そこでいい。何時?』
「あ、じゃあ、13時?」
『わかった。じゃあまた水曜日に』

 通話の切れた画面を見ながらしばし呆然とした。池田と会う約束をしてしまった。何年ぶりだ? 指折り数えて10年。10年ぶりに、俺は振られて玉砕した池田に会うことになった。



 待ち合わせ場所には20分前についた。3年前に渡せなかった遅すぎる結婚祝いと出産祝いを持参した。

 第一声はなにがいいだろう。やっぱり久しぶり! だろうか。卒業式の告白なんか俺も忘れましたよって顔で? 馴れ馴れしすぎると思われないだろうか。まだ池田のことが好きだと思われないように、節度ある距離感が必要だ。

 色々シミュレーションしていたら約束の時間を過ぎていた。少しくらい遅れることもあるだろう。さらに10分が経った。もしかしたら池田は西口に行ってしまったか? 広い駅だから迷っているのかも。電話したほうがいいだろうか。

 そわそわしながら結局何もできずに無駄に10分消費した頃、トントンと肩を叩かれた。

「ごめん。遅れた」

 10年、電話で聞いていた池田の声。それが真後ろから聞こえる。ヒクッと咽喉が鳴った。一気に汗が噴き出した。俺はまだトラウマを克服できていなかったようだ。

 ゆっくり振り返って、俺はショックを受けた。

「…………池田?」

 こくりと頷いた池田は、俺の記憶とは別人だった。もっとがっしりして大人の男の体つきになっていると思っていたのに、俺より少し背は低く、肉付きも薄くてまだ少年のようだった。

 手入れされていないボサボサ頭で、目は落ちくぼんで頬はこけ、無精ひげもうっすら。水色のシャツはアイロンの存在を拒絶するように皺だらけで、チノパンは何年も穿き続けているのか裾が擦り切れていた。学生が履くようなスニーカーも同じような状態だった。

 俺の知っている池田は身なりに気を使うほうで、女子が回し飲みを嫌がらないほど清潔感のある男だった。快活で、よく笑う健康的な男だったのに、いま目の前にいる池田は覇気がなく、くすんだ目は死んだ魚のようだった。

「急に呼び出してごめん」

 電話と同じ、淡々として、抑揚のない声。無表情で、口をあまり動かさないからそんな声になってしまうのだと、会って初めて気が付いた。

 以前の池田ははきはき喋っていたし、表情も豊かで、目じりにできる笑い皺が俺は好きだった。皺は残っているが、いまの池田は年齢不詳の不審者のような風貌だ。

「いいよ。どうせ休みで予定もなかったし」

 待ち時間にたくさんした、かつての学友と久し振りに再会する社会人の振る舞い方のシミュレーションは忘却の彼方へ飛んで行った。とにかく今は、池田の変貌ぶりに受けたショックを悟られないようにすることに全神経を使った。

「立ち話もあれだし、どこか店に入ろうか」
「いい。すぐに話終わらせるから」
「実は俺、昼飯まだだなんだ。だから何か軽く食べたいなって」
「あぁ……じゃあ、北村の好きなところで」

 表情の変化に乏しい池田だったが、一瞬嫌そうに目を細めた。時間を取らせるなって意味か。俺と一緒が嫌なのか。昼飯くらい食ってこいという怒りか。

 俺の心臓はドッドッと早鐘を打つ。手汗も脇汗もびっしょりだ。

「このへん、営業でよく来るんだ。少し先においしい洋食屋さんがあって、物件紹介したお客さんにも勧めてるんだけど、こないだテレビの取材が来たらしくって、行列のできる店になっちゃったんだよね。前まではぎりぎり待たずに入れていい感じだったのに。この時間だとどうかな。一段落ついて案外すっと入れるかも。そうだといいけど。あ、池田は洋食好き?」

 テンパってベラベラと口を動かしながら振り返ったら、池田は3メートル後ろにいた。いつの間にか速足になっていたようだ。止まって池田を待つ。俯き加減で歩く池田は、さっきの俺の話なんか少しも聞いていなさそうだったが、隣に並ぶと足を止め、

「好きだよ」

 と俺を見上げて言った。

「あー、ほんと? 良かった。ハンバーグが一番おすすめなんだけど、裏メニューのチキンカレーも美味しいんだ。肉が柔らかくてほろっと口の中で崩れてさ、肉の甘みがカレーの辛さと相まって止まんなくなるんだよね。あれはほんとよく出来てて……」

 と俺はラジオのパーソナリティーかというくらい一人で喋り続けた。営業で鍛えられたどうでもいい世間話なら延々続けられるスキルのおかげだ。隣の池田は合いの手も入れてくれない。

 面と向かって「好きだよ」と池田に言われた時、不覚にも胸が高鳴った。洋食が好きかという問いの答えであって俺自身へ向けられた言葉でもないのに。

 卒業式の日に言って欲しかった言葉。夢なら自分の好きに改変できてもよさそうなのに、夢でさえ一度も言ってもらえることのなかった言葉だ。こんなタイミングで聞くことができるとは。10年経ったいまでも胸が騒いでしまう。

 目的の洋食屋は、心配していた行列はなく、意外にすんなり席につけた。チキンカレーは完売でハンバーグを頼んだ。

「池田は何にする?」
「俺はいい」

 昼飯は食べて来たのだろう。だけど、栄養が行き届いているのか心配になる体を見ていたらついお節介を焼きたくなってしまう。

「ここほんと美味しいから、お腹すいてなくても食べられるって。あ、このステーキも美味いよ。柔らかくってしつこさが残らないからこれにしたら? うん、これがいい。すいません、このステーキ一つ」

 勝手に店員に注文してメニューを閉じた。池田は無表情のまま黙って見ていた。

「あ、そうだ。忘れてた。遅くなっちゃったんだけど、これ、結婚祝いと出産祝い。まとめてでごめん」

 花の飾りがついた祝儀袋を池田の前に置いた。池田はそれにぼんやりと視線を移した。

「ありがとう」
「子供ってもう2歳くらい? 凄いな、池田、パパじゃん。おむつとか替えてんの?」
「相談があるんだけど」
「あ、言ってたね。何だろ。子供が大きくなってきたから新居探しとか? だったら俺の専門だから任せてよ。いい物件探すから」

 池田は祝儀袋を脇へよせると、顔をあげた。

「離婚するかもしれない。弁護士の知り合いがいたら紹介して欲しい」

 俺の営業スマイルが凍り付いた。大げさに作りあげた笑顔だったから、ゆっくり眉を下げ、ゆっくり頬の筋肉をおろして、落ち着かせていった。

「えっ、あ……、うん、り……そっか、そっかぁ……あー、子供のこととか……大変だもんな」

 神妙に。慎重に。意味深すぎないように。驚きつつ。残念そうに。友人の今後を心配するように。

「これは返す」

 池田は祝儀袋を俺のほうへ押しやった。

「いや、これは関係ないし」
「離婚するんだからもらえない」
「いいから、受け取れって!」

 つい声を荒げて池田につき返した。ムッとしたように池田の眉間が寄る。俺の気持ちなんて悟られちゃいけない。

「結婚出産祝いを、離婚するから渡さなくていいなんてなんないの。本当だったら3年前に渡してるはずのものなのに。どっちかって言ったら俺が悪いんだから池田は黙って受け取ればいいんだよ」

 不服そうに祝儀袋を睨んでいた池田だったが、最終的には「わかった」と祝儀袋を自分のほうへ引き寄せた。

 悟られちゃいけない。ちゃんと飯を食ってるのか? 金は足りてるのか? どっか具合が悪いんじゃないのか? なにがあった? まるで別人みたいになっているぞ。金がなくて生活に困ってるんじゃないのか? そんな心配をしているなんて、絶対悟られちゃいけないのだ。

 店員が料理を運んできた。本当においしいから! という一点ゴリ押しで、池田にも食べさせた。お腹が空いていなかったのか、食が細いのか、池田は仕方なくといった感じでちびりちびりステーキ肉を口へ運んでいた。

 食事中に仕事用の携帯電話が鳴った。池田に断り電話に出る。相手は先日物件巡りに連れて行った客で話が長くなりそうだから店の外へ出た。

 手付けの手続きの説明をしながら、窓から店内の池田を窺う。

 食への関心はおろか、生きることにすら無関心のような佇まいだ。生命力というものがまるで感じられない。吹けば魂が飛んで行ってしまいそうなほど頼りない。

 池田に一体何があったのか。夫婦仲がうまくいっていないから、夫婦の相性が悪いから、こんなにも弱っているのだろうか。

 電話が終わって店内に戻った。ポケットから手帳を出し、携帯のアドレスの番号を一つ書き写した。それを千切って池田に渡した。

「友引って奴。離婚も取り扱ってるから一度相談してみるといいよ」
「弁護士?」

 池田はメモから顔をあげた。

「うん。友引には、知り合いだから料金まけてやってって言っとく」
「ありがとう」

 弱弱しい笑みを浮かべる。もう何年も笑ってないんじゃないかと思うぎこちない表情筋の動き。俺の好きだった目尻の皺はない。池田の愛想笑いなんて見たくなかった。

 食事を終えると店を出た。喫茶店でもいい、どこかで落ち着いて話を聞きたいが、池田が嫌がるような気がして誘えないまま、「じゃあ」といつものように池田に切りあげられて、そのまま別れた。

 直後、友引に電話をして、池田という男から連絡があるかもしれないと伝えた。知り合い割引を約束させ、さらに何割かは俺が持つから親身になってやって欲しいとも伝えた。

『特別な人?』

 からかうでもない普通の口調に、俺は素直に「特別な人」と答えることが出来た。

 友引はゲイサイトで出会った数少ないゲイの知り合いだ。肉体関係はない。たまに遊びに行ったり、どちらかの家で宅飲みするだけの友達。

『任せとけ』

 と頼もしい言葉をもらって電話を切った。



 それからいくら待っても連絡はこなかった。池田からも、友引からも、なんの音沙汰もない。こちらから聞いて回るのは野次馬根性のような気がして遠慮してたら二ヶ月が経ってしまった。

 さすがに放置できなくなって友引に電話をしたら、池田と名乗る男から連絡はなかったと言う。もちろん事務所にも来ていない。

 他の弁護士にしたのかもしれない。金銭面で躊躇しているのかもしれない。そもそも、離婚自体、なくなったのかもしれない。子供のことを思えばそれが一番いいのだろう。だが池田にとっては? 魂の抜け殻のように枯れて痩せ細った池田にとっては、どうすることが最善なのだろう。俺はなにをしてやれるだろう。俺にできることはないのだろうか。なんでもいいから頼って欲しい。




泥中の蓮



関連記事

2016-06-29(Wed) 20:35| 電話が鳴る| トラックバック(-)| コメント 2

電話が鳴る(1/7)

※ド健全。エロなし。

 好きになんかなるんじゃなかった。好きになったのがそもそもの間違いだった。

 高校の時に好きな人がいた。告白ってかなりハードルの高い行為だ。しかもそいつは俺と同じ男だったから、ハードルなんてかわいいもんじゃなくてもう網走刑務所の壁くらいに高かった。だけど泣けちゃうくらいにそいつのことが好きだったから、思い切って卒業式に告白した。

「ずっと、池田のこと好きだった」

 気になる池田の反応はというと、静止画みたいにしばらく固まったあと、

「ずっと俺に黙ってたのが許せない。友達面しながらほんとは下心があったってことだよな。正直もう顔も見たくない。っていうか失せろよ」

 声を荒げるでもなく、無表情に近い能面顔で、淡々とした口調で言われてちびるかと思った。

 ハートブレイク。心臓が粉々になった痛みで泣きそうになりながら「ごめん。でも最後に俺の気持ち伝えたくて」って言い訳しようとしたら「それお前の自己満足だろ。親友がホモで、自分に下心抱いてたって知らされた俺の気持ち考えたことある?」って正論返されて、俺のハートは微粒子レベルにまで粉砕された。

 あとはもう尻尾巻いて逃げた。そりゃもう脱兎のごとく。卒業式だったのが不幸中の幸い。明日も学校なんて状況だったら俺は間違いなく不登校になってた。最悪死んでた。

 しかし人間は意外にタフで、粉々に砕け散ったハートも2、3か月もすれば見た目はともかく形だけはなんとか修復されて、俺は普通に大学生活を送っていた。

 そんなある日。大学生活も三年目に入ったある夜、俺は夢を見てうなされていた。卒業式のあの日の悪夢。俺が池田にこっぴどく振られて、しかも軽蔑されて、顔も見たくないって絶交宣言されたあの日の悪夢に、寝汗びっしょりになって目を覚ました。

 あの日のことは完全にトラウマになり度々夢で見ていたのだが、あの日のこれは、偶然とは思えない運命のめぐり合わせみたいなものがあった。虫の知らせ的な。

 ベッドから起きあがって時間をみたら午前4時42分。発作みたいにドッドッと高鳴る心臓を落ち着かせながら、長く長く息を吐きだしていたら、突然電話が鳴った。

 夜中の4時42分に。知らない番号から。リンリンと。実際には音楽が流れたんだけども。

 普段ならそんな時間に知らない番号から電話かかってきたら怖くて出ない。留守電に残されたメッセージを聞いてから緊急だと判断すればかけ直す。

 だけど、この日はなぜか出ようという気になった。あとになってこの電話にさえ出なければと思ったこともあった。だけど、さらにあとになって池田からこの日の話を聞いた時は、自分の判断は間違っていなかったと安心した。そのくらい実は重要な電話だった。

 ほとんど引きよせられるように、通話ボタンを押して「はい」って出てみたら。

『北村?』

 悪夢の続きかと思った。俺はまだ目が覚めていないんだと。

「誰?」

 声の主がわかっていながら震える声で誰何した。

『俺。池田』

 ベッドの底が抜けて奈落へ落ちるような感覚がした。全身から血の毛が引いた。池田の夢を見た直後に、池田からの電話。夢に違いない。

「どうした、こんな時間に」
『うん。携帯のアドレス整理してたら、お前の名前見つけて。懐かしくなってかけてみた』

 平然と。なに食わぬ顔して(見えないけど)。ぬけぬけと。しゃあしゃあと。あの日のやり取りなんかなかったみたいな口調で池田は言った。

「あ……そう」
『うん。じゃあな』

 いきなり午前4時42分に電話をかけてきた池田は4時43分には一方的に電話を切った。なんだったんだ。

 俺の手は震えていた。携帯を持つ手に力が入らなかった。数十分、ベッドの上で反芻していた。脳にこだまする池田の声。夢でなくてなんであろうか。

 気付くともう6時前になっていた。立ち上がると足がふらついた。膝に力が入らなかった。俺の初恋。俺のトラウマ。継ぎはぎだらけの心臓がキシキシと悲鳴を軋ませる。

 シャワーを浴びた後もう一度確認したが、着信履歴には4時42分に登録されていない番号からの着信が記録されていた。その日以降何度もそれを確認したが、11桁の数字が消えることはなかった。何度も見過ぎたせいで番号を覚えてしまった。



 その番号から再び電話がかかってきたのは、大学を卒業して社会人1年目の秋だった。最初は仕事関係の電話かと思ったが、見覚えのあることに気付いて池田の番号だと思い出した。

 出るか迷った。まだ心臓が苦しくなった。あんな酷い別れ方をしたのになぜ池田は電話をかけてくるのかさっぱりわからなかった。もう怒っていないということなのだろうか。こっちは電話番号を見ただけで動悸が激しくなるほどまだ引きずっているのに。

 迷ったすえに結局電話には出た。

『俺、池田だけど』

 感情の起伏が窺えない平坦な声。心拍数50くらいの強心臓な声。俺のほうは心臓が破裂しそうだ。

「どうした?」
『旅行行ったんだけど』
「……あ、うん」
『土産買って来た』
「……えっ、俺に?」
『渡したいんだけど』

 渡す?! ということは会うということか?! 電話でもこんなに手汗が凄いのに直接会ったらどうなることか。

「あ、ありがと……でも、いま仕事忙しくて時間が、ちょっと、なかなか……」
『仕事ってなに?』
「あ、不動産関係……」
『へぇ、凄い』

 これほど無味乾燥した「凄い」を初めて聞いた。

「だから土産はまた……落ち着いた頃に……」
『わかった。じゃあ』

 あっさり引き下がると同時に池田はこれまた一方的に話を切りあげた。

 この時の俺はただ池田からの電話に焦りまくっていて電話の内容や池田の様子にまで気が回らなかった。少しでも冷静であれば、いきなり旅行に行ったから土産を渡したいと言い出した池田のことを、午前4時に電話してきた以前のことも合わせて訝しんでいただろう。

 冷静すぎる声についても、この時充分、違和感を感じるほどだったのに。



 3度目に池田から電話がかかってきたのは1年後だった。自宅で資料作りに追われていた夜、例の番号から電話がかかってきた。

 3度目ともなれば多少心に余裕も出来て、むしろ、この忙しい時に、と怒りさえ抱いた。だけど無視するという選択肢はなぜかなく、俺は電話にでた。

『俺。池田』

 わかってるよ、と心の中で答えつつ、

「久し振り」

 と返せる自分に感動した。トラウマを克服できるかもしれない、そんな可能性を感じた。

『ごめん。北村にあげる土産、なくした』

 最初意味がわからなかった。少しして、1年前の旅行に行った時の土産の話だと思い出した。会うことを避けて有耶無耶にしたまま1年を過ごすうちにそんな話も忘れていた。

「あ、いいよ。そんな。俺も忙しくて連絡できなかったし」

 たとえ暇で売るほど時間があったとしても、自分から池田に電話をする勇気はまだない。会うなんて以ての外。

『それだけ。じゃあ』
「えっ、あっ」

 毎度のことだが、今回も池田は短いやり取りを終えるとすぐさま電話を切った。この時やっと俺は池田の態度に違和感を覚えた。



 また1年が経った頃に4度目の着信があった。

『結婚するから』

 午前零時を少し過ぎた時間に、俺はかつての親友であり、初恋の相手でもあり、たまに見る悪夢の原因でもある池田からそんな事実を伝えられた。

「……お、おめでとう」

 不意を突かれて返事が遅れた。それを、まだ池田のことが好きだからショックで返事が出来なかったと思われたらまた池田に気持ち悪がられて嫌われて罵られると焦った俺は、

「わ、びっくりした! 急に! 結婚?! 凄いな! 相手はどんな子? 池田の彼女だときっとかわいい子なんだろうな。お祝いしなきゃな! お祝い! あっ、住所! お祝い送るから住所教えてよ!」

 と矢継ぎ早にまくした。必死になりすぎて顔が熱くて脇汗が半端ない。

『近々引っ越しすると思う。今のところはワンルームで狭いから。子供も生まれるし』
「あ、あぁ! 子供! 子供?! 生まれるんだ? わぁ、ますますめでたいな! えぇ……と、子供は女の子? 男? まだわかんないか!」
『うん。まだ小さいらしいから』
「わぁ、凄いなぁ。池田がもうすぐ父親になるのか。びっくりしたぁ。ほんとおめでとう!」

 自分のオーバーアクションの白々しさに気付いていたが、出だしから間違えていたから今更修正不可能だった。ぜんぜん心の籠らない言葉の羅列に池田も気付いていただろうが、『ありがとう』と大人の対応だった。

『それだけ。じゃあ』
「え、おう、引っ越したら住所教えて。お祝い、送るから」
『いいって。じゃ』

 最後の声に少しだけ池田の笑みが含まれていた。温かいような、呆れたような笑いだった。

 自分のみっともない狼狽えようや最後に届いた池田の呆れた笑いを思い出しては数日落ち込んだ。






関連記事

2016-06-28(Tue) 21:07| 電話が鳴る| トラックバック(-)| コメント 3

今日の相手も(2/2)

<前話はこちら>

 男がトイレに立った間、菱川くんからのメールを見返していた。一日一通きていたメールは、会うのをやめると言われた夜からこなくなった。十日間まったく音沙汰なし。

 他愛ない文章。たまに彼の指が写り込んでいる画像。俺にとっては在りし日の、遠い残像のような初々しいメール。19歳の彼と、37歳の俺とでは年が離れすぎていたのだ。価値観や考え方が合うわけがない。

 やっぱり男は一夜限りにしておいたほうがいい。ちょっと情を持ったのが間違いだった。

 電源を落としたタイミングで男がトイレから戻って来た。少し生やした顎髭は嫌いだが、会話の距離感が心得ている感じがして、今日の相手はこの男に決めていた。

 二人でバーを出た。ホテルに向かって歩く。途中のコンビニの前で足を止めた。

「ここ、寄っていい?」
「いいよ」

 男とコンビニに入った。

「いらっ――」

 レジの菱川くんが俺の顔を見て固まった。その目が隣の男に気付くと、菱川くんは難しい表情になった。

 男は雑誌コーナーで立ち読みを始めた。その間に飲み物やら軽い食べ物をカゴに入れた。コンドームも忘れずに入れてから菱川くんのレジに持って行った。

「久し振り」
「……はい」

 出来るだけにこやかに話しかけてやった。菱川くんは下を向いてカゴから商品を取り出し、バーコードを読み取っていく。コンドームの箱を手にした時、目をあげた。

「あの人とは知りあいですか?」
「ああ。今さっき知りあった」
「危なくないですか?」
「さあ。でも君に関係ない」
「関係はあります」

 ピッとバーコードを読み取って次の商品に手を伸ばす。

「僕は早瀬さんの知り合いです。知り合いの心配はします」
「知り合いだった、だよ。いまはただの客と店員。まったくの赤の他人」
「…………なんか、怒ってます?」
「俺が? なんで? これからお楽しみが待ってるっていうのに?」
「言える立場じゃないことはわかってるんですけど、そういう無茶なことするの、控えた方がいいと思います。前に危ない目に遭ってるし。次はもっと酷い目に遭うかも」
「忠告ありがとう。でもそれは価値観が違うとしか言いようがないね」

 傷ついたように悲しげ顔をした菱川くんの手から商品の入った袋を取りあげ、二千円をカウンターに置いた。

「お釣りは募金箱に入れといて」

 何か言いたげな菱川くんに背を向け、雑誌コーナーの男のもとへ戻った。菱川くんに見えるように、わざとらしい笑顔を作って男と一緒にコンビニを出た。子供相手にみっともないことをしている自覚はあったが、一方的に振られたままで終わるのはプライドが許さなかった。



 その後、男とホテルに入ってセックスをしたがいまいちノリきれなかった。慣れた男のセックスは悪くなかった。むしろ良かった。明るい笑顔と裏腹の執念深い前戯は年季が入っていておかしくなりそうなくらい気持ちよかったし、俺のしたいプレイに気付いて乗っかってくれた言葉責めも興奮した。

 家に帰れば快眠できそうなくらい満足したはずなのに、どうしても気持ちが上向かない。

「暗い顔してるけど、俺、下手だった?」

 シャワーを浴びた男が、ベッドに座って呆っとする俺に声をかけてきた。

「いや、ぜんぜん」
「のわりに、暗い。賢者タイム? 自己嫌悪真っ只中?」
「最近忙しかったから疲れが出たのかもしれない」
「本当に疲れか? コンビニの男の子、思い出してたんじゃないの?」

 からかう口調に顔の表面が熱くなった。

「なんでっ」
「なんか話し込んでたじゃん。内容までは聞こえなかったけど。彼氏? 俺、当て馬に使われた?」
「違うっ、彼氏なんかじゃない。そういうのは作らない主義なんだ」
「へぇ、主義ねえ」

 タオルで頭を拭きながら男は俺の横に座った。振動でベッドが揺れる。

「でも好きなんじゃないの?」
「好きじゃ……気に入ってはいたけど……、見合いするって言ったらもう会いたくないって……親が勝手に進めた話で俺の希望したことじゃないのに」
「あー。最近の若い子って真面目だったりするからな」
「理解できないって言われたら取り付く島もない」
「お互い歩み寄りも必要なんじゃない?」

 顔を覗きこみながら、男はよしよしと俺の頭を撫でた。なんだかよくわからないが懐の広さを感じてしまう。なんでも受け入れてくれそうな空気が、この男の真の魅力なのだろう。一緒にいたら気が楽そうだ。

「俺と付き合う?」
「またまたぁ。彼氏作らない主義だって言ったっばっかのくせに」

 よく考えもせず、思い付きで口走っていた。断られることはなんとなくわかっていた。

「やっぱり恋愛って面倒臭い。どうしてなにを考えてるかわからない相手のことを思って悩まなきゃいけないんだ」
「それ、恋愛の醍醐味だから」

 笑いながら言って男は腰をあげた。

「出る準備して。そろそろ帰ろう」

 頷いて俺も立ち上がった。
 男とホテルを出たら、暗がりから一人の男が姿を現した。

「早瀬さん」
「菱川くん!」

 いきなりのことで驚いた。まさかいるとは思ってもいなかった。菱川くんはじりじりとためらう足取りで近づいて来る。時間からしてバイト終わり。以前使ったホテルに当たりをつけて待っていたのか。

「なんでいるんだ」
「心配、でした。でも大丈夫そうで、良かったです」

 菱川くんは隣の男へ向かって軽く会釈のようなものをした。なんだこのスリーショットは。

「心配して待ち伏せするくらい、早瀬くんのこと好き?」

 急に男が俺の肩を抱きよせて言った。菱川くんは男をまっすぐ見つめ返しながら「はい」と返事をする。なにを今更。よくぬけぬけと言えたものだ。

「早瀬くんの彼氏でもないのに?」
「彼氏にしてもらえなくても好きです。急に嫌いになれないです」
「早瀬くんも同じみたいだから、二人でちゃんと話してみるといいよ」

 男に背中を押されて菱川くんのほうへ体が傾く。踏ん張った俺の手を菱川くんが掴んで引きよせた。

「ありがとうございます。そうします」

 男に向かってペコリと頭を下げると菱川くんは俺の手を掴んだまま駅と反対方向へ歩き出した。振り返って見た男は笑いながら手を振っていた。



 連れて行かれたのは菱川くんが借りてるハイツの一室。

「入って下さい」

 戸を開けて菱川くんに言われたが、有耶無耶なまま入っていいかどうか悩む。

「なんの話があるって言うんだ」
「部屋の中でしませんか」
「嫌だ。意味のない話ならここで帰る」
「もう一回、チャンス欲しいです」
「なんの。セックスの?」
「違います。早瀬さんの、彼氏になれるかもしれないチャンスです」
「そういうの作らないんだって言ったよな」
「彼氏と思ってくれなくていいです。僕が一人で勝手に恋愛ごっこします。他の男と寝るのはやめて欲しいって勝手に言います。見合いもして欲しくないって言います。毎日好きだって言います。嫌じゃなければ毎日キスしたいです。体にも触れたいです。全部の決定権、早瀬さんに譲りますから、僕と付き合って下さい」

 言いたいことを言い終わると、菱川くんは右手を出して頭を下げた。呆気に取られながら彼の後頭部を眺める。欲求の赴くまま彼の髪を触った。整髪料をつけて少しごわついた髪。指の間を通りすぎる感触がひたすら愛おしい。

「年齢も価値観も、すべて違うんだと思うよ、俺たちは」
「それでも、諦めたくないです」
「束縛されるのは嫌だ」
「そんなことしません」
「でも放置されるのも嫌だ」
「早瀬さんを放置なんてできません」
「十日も俺を放ったらかしにしていたくせに」

 差し出された右手を掴んだ。弾かれたように菱川くんが顔をあげた。

「すみません。次からそんなことしませんから」

 俺の右手を引きよせながら、菱川くんがキスをしてきた。俺も目を瞑ってそれに応えた。






関連記事

2016-06-16(Thu) 20:21| 今日の相手も| トラックバック(-)| コメント 2

今日の相手も(1/2)

<前回「今日の相手は」はこちら>

 昼休憩に菱川くんからメールがきた。

『今日もいい天気ですね。この新商品、おいしいですよ』

 短い文と一緒に画像が送られてくる。バイト先の商品と思われるスナック菓子。四十前の男にこんなもの見せてどうするつもりなのか。

 あの夜から一日一度、彼はメールを送ってくる。他愛ない内容だ。天気のこと。学校のこと。バイトのこと。自分の好きなバンドのこと。俺を同級生かなにかだと思っているんじゃないだろうか。

 返事しないことがほとんどだ。返事をしたらすぐ菱川くんから返事がくる。それにも返事をしたらまた返される。終わるには俺が止めるしかない。だから気が向かない限り返事をしない。

 律儀というか、彼のほうから会いたいだとか、それを匂わせることは言ってこない。コンビニの商品の話題が多い気がするのは、俺をコンビニに誘い出すためかもと思わなくもないが、自信はない。

 もう一ヶ月以上経つ。そろそろ俺の悪い虫も騒ぎ出す頃だ。それにもうすぐ見合いの予定だ。

「今日もバイト?」

 メールしたらすぐ『バイトです』と返って来た。彼は専門学生だ。いまは授業中ではないのだろうか。

 終わる時間に行くよ、と書いた文字を消した。黙って会いに行ってやろう。驚く顔が見たい。



 早く帰れたので一旦家に寄った。シャワーを浴びて服に着替え、車で出かけた。近くのパーキングに車を入れて、歩いてコンビニに向かった。少し早かったようで、彼はまだレジにいた。ちょうど深夜のバイトと交代の時間なのか、レジの集計作業中だ。

 店に入るとチャイム代わりの音楽が流れる。その音に「いらっしゃいませ」と彼が顔をあげた。俺だとわかると「あっ」と驚いたあと、顔をほころばせた。いちいち素直な反応をする。

 まだ少し時間がかかりそうなので適当に商品を選び、暇そうな女の店員が立っているレジに並んだ。会計をしている間に集計業務が終わったようで、菱川くんはバックヤードに引っ込んだ。

 買い物袋を受け取り、雑誌コーナで立ち読みをしていたら鞄を肩に担いだ菱川くんがやってきた。

「すみません。お待たせしました」
「君を待ってたわけじゃないけど」

 雑誌を戻して意地悪く言う。彼には通じなかった。

「なんとなく今日、会える気がしてたんです」

 メールで今日の予定を聞いてしまったからだろう。

「来てくれて嬉しいです」
「仕事が早く終わって暇だったからね」
「飯行きますか?」
「いや、時間がもったいない」

 きょとんとした菱川くんだったが、意味がわかったのか少し顔を赤くして目を伏せた。先に店を出た俺に黙ってついてくる。前と同じホテルに入った。

 菱川くんとの体の相性はいい方だ。慣れてない故の稚拙さも指示で補える。逆に言えば俺の思い通りにできる。菱川くんは素直だし、飲みこみも早ければ応用を利かせることもできる。

 俺の望むものを与えようと一生懸命知恵を絞ってくれるところも好感が持てる。

「はあぁッ! あぁ……い、いぎっ……イキた……いっ! あああぁ……もぉおっ……出る……!! おちんぽ、擦るの…ッ…だめぇぁあっ……あっ、前立せっ……あんっ! 強いぃ……!!」

 大股を開いた中心に彼の怒張が出し入れされる。俺のペニスはいまにもはちきれんばかりに充血しているが、彼に根本を握られて射精が出来ない。

「まだ、我慢できますよね」

 と彼は掌で亀頭を撫で擦る。敏感になりすぎた部分への愛撫に気が遠のきかけた。

「む、ムリ……! もおっ……い、いたい……おちんぽが、あ、あぁっ……それ、だめっ……ひ、いっ……いああぁっ……イクッ……強いのキテるッ! メスイキする……!!!」

 正気を保っていられないほどの快感が脳天から全身へ駆け抜ける。精液を出すかわりに魂が抜けてしまいそうな強い絶頂感。彼は二度目にして俺をドライでイカせる術を身につけていた。

「……すっごい……痛い……くらい、締まる……っ」

 菱川くんは微苦笑を浮かべた。痛みに耐えてか俺のペニスを握る力が強くなる。俺だって痛い。

「……はあぁ……はっ…はあ……ひし、かわくん……手ぇ、もう……っ」
「もう少し。我慢」
「やっ……あっ、待って!」

 前傾姿勢になった菱川くんが俺の奥をこじ開けて高速ピストンを開始した。若い腰の動きに恐ろしささえ感じる。

「ああぁひっ、し、かわく、んんっ!! そんな…ッ…したらあ! おまんこ壊れちゃ……からぁあっ!! あぁっ! あっ! あひ、ひ、んんっ……んぐぅ……また、イッ……ひぃ!! ひんっ……菱川くんのちんぽっ……好きぃっ!!」
「僕も早瀬さんのおまんこ、好きですよ」

 俺の手を取り、指を口に入れる。指にからみつく彼の熱く濡れた舌。軽く噛まれてまた達しかけた。

「一緒に、イケる? かな?」

 自問自答するように呟くと、菱川くんは俺のペニスを解放した。堰き止められていた血も精液も、一気に逃げ場を求めて駆け巡る。

「あっ、は、ぁあああああぁぁっっ……!!!」

 彼がイクのと同時に、俺もずっと我慢させられ続けていたものをようやく吐きだせた。



 シャワーを浴びたあと水を飲んだ。出すもの出してすっきり爽快。射精を焦らされるプレイは今までも何度かあったが、今日のは格別に良かった気がする。タイミングが絶妙だった。

「このあと……」

 遠慮がちに菱川くんが声をかけてくる。

「帰るよ」
「そうですよね」

 と残念そうに肩を落とす。菱川くんも性欲を処理出来て、さっさと帰って寝たいだろうに。バイト終わりで疲れているのに、それでもまだ俺と一緒にいたいと言うのだろうか。

 気落ちした様子を見ていたら少し甘やかしてやりたい気持ちが湧いて来る。

これまで言いつけを守って鬱陶しいメールは送ってこなかったし、今日のセックスは頑張って俺を悦ばせてくれたし、なにかご褒美をあげてもいいだろう。

「今日は帰るけど、今度は食事でもしようか」
「ほんとですか?」

 パッと顔を明るくして餌に食いついて来る。単純で扱いやすい青年だ。

「じゃあ、次の日曜はどうですか?」
「無理だな。見合いがある」
「見合い……」

 明るかった彼の顔が曇る。

「親が勝手に進めた話だ。義理があるから会わなきゃいけない」
「結婚するんですか」
「だからしないって。形だけだ」
「いつか結婚するつもりなんですか?」
「したくはないけど、やむにやまれぬ状況になればするかもしれない」
「親御さんは、早瀬さんがホモだって知らないんですか?」
「言えるわけないだろ」
「僕は親にバイセクシャルだって言ってますけど。友達とかにも」

 驚いて彼の顔をまじまじ見た。平然と目を見返してくる。若さゆえか。怖いものなしで逆にこっちが怖い。

「それは君の勝手だし、言わないのは俺の勝手だ」
「そうですけど」
「都合のいい日がわかったらメールする。さ、帰るぞ」

 はい、とベッドから菱川くんは腰をあげた。気持ちのいいセックスをして気分が良かったのに、笑顔の消えた菱川くんを見たら高揚も薄れた。見合いの話なんかするんじゃなかった。

◇◇◇

 つつがなく見合いは終わった。気難しい独身拗らせ男を演じきった。ほとんど地でもあった。

 相手の女性は最後まで笑顔を維持していたが、俺の目を盗んで横へ逸らされる視線が、無駄な時間が早く終われと雄弁に語っていた。

 きっと向こうから断ってくるから父親の面子がつぶれることもない。傷心のふりをして、見合いも女もこりごりだと落ち込んでいれば、さすがにうちの親もしばらくは結婚しろとうるさく言ってこないだろう。

 少し飲みたい気分だった。一人で行くか、誰かを誘うか。真っ先に浮かんだのは菱川くんの顔だった。酒を飲みたいから車で移動はしたくない。今日は家に呼ぶのもありだ。デリバリーを頼むことにして外食は次の機会でもいい。

 彼に電話をしてみた。

『はい』
「今から会えるかな?」
『今から、ですか……』

 予想に反して乗り気じゃない雰囲気だった。俺からの電話というだけで喜んでくれると思っていた。一も二もなく誘いに乗ってくると思っていたのに。

「無理ならいい。今度でも」
『……もう、早瀬さんに会うの、やめておきます』

 思いがけない返答に言葉を失った。なぜ急に心変わりした? 俺がなにをした? 見合いのせいだろうか。子供っぽい独占欲を出して拗ねているのか?

「見合いしたことを怒ってるの?」
『それは早瀬さんの自由ですから。……僕は、できるだけ長く付き合いたいって思う方なんです。男でも女でも、好きになったらその人との老後とか考えちゃうんです。でも早瀬さんはそういう価値観の人じゃないでしょ? ゲイだってこと、周りに秘密にして、もしかしたら結婚するかもしれないじゃないですか。そういうの、僕には理解できないから』

 段々腹が立ってきた。子供の立場で大人の事情も知らないくせに。

「君はまだ学生で本当の差別を知らないからそんな甘えた考え方ができるんだよ。カミングアウトしたことで生じる不都合を何一つ実感できていない。表面上は理解のあるふりをしていても、陰ではコソコソ言うのが人間だ。君の両親だって君がノンケなら良かったのにと思っているはずだし、学校の友達だって気持ち悪いと思ってるか、ただ面白がってるのが本音だ」
『そんなこと、ないです』
「理解できない、君が言った言葉そのまま返すよ。どうして周りの人間が自分を受けれてくれると信じられるのか、俺には理解できない」
『価値観も、考え方も、僕と早瀬さんは合わないみたいですね。残念です。今までありがとうございました』
「ちょっと、待っ――!!」

 プツリと通話は切られていた。まだ言い足りなくてかけ直してやろうかと思ったがなんとかとどまった。これ以上は大人げない。

 性善説を信じたような、あの幼い考えを改めさせてやりたい。俺が親に言わないのは余計な心労を与えないためだ。周囲の人間に言わないのはそれが俺の弱点になってしまうからだ。

 品行方正に生きていたって難癖付けて来る奴はいる。そしてそれに簡単に屈して、同調して、非のない人間を非難する人間がどれほど多いか。家庭と学校のぬるま湯につかっている彼にわかるはずがない。想像できるわけがない。

 価値観が合わない。なんて人を馬鹿にした言葉だろう。苛々が収まらない。

 飲むのはやめて今日はハッテンバに行こう。知らない複数の男とヤリまくってようやくチャラにできそうなくらい、ムカついた。







関連記事

2016-06-15(Wed) 21:12| 今日の相手も| トラックバック(-)| コメント 0

今日の相手は(2/2)

<前話はこちら>

自分の名前は菱川だと彼は言った。だから俺も早瀬だと名乗った。

「早瀬さん、知らない奴に付いて行っちゃ駄目だって言ったのに」

 俺のワイシャツのボタンを外しながら菱川くんが笑う。子供っぽい笑顔のくせに、中身はしっかり大人の男だった。

「君はこういうことに慣れてるの? 男とは何度も?」
「ぜんぜん慣れてないですよ。初めてです。男を好きになったのも一度だけです」
「じゃあどうして俺なんかと」
「どうしてですかね。初めて見た時、なぜか目が離せなかったんです。心臓がドクンってなって」

 と俺の胸、心臓の上に手を当てた。温かい手の平の下で、自分の乳首が隆起していくのがわかる。

「早瀬さんはこういうの、多いんですか」
「楽だから」
「楽?」
「愛だの恋だの、そんなの若い頃にしてきたからね、もう充分。最小限の前置きで欲しいものを得られるほうが、俺くらいの年になると楽なんだ」
「なんだか味気ないし、寂しいですね、そんなの」

 菱川くんの手が脇腹のほうへ移動した。背中を撫でて、今度は腰のほうへ移動する。焦らしているのか、俺の出方を待っているのか、怖くなって躊躇しているのかわからない手つき。

「君はどうして俺に声をかけたの?」
「声をかけてきたのは早瀬さんですよ」
「代わりに自分がと言ってきたのは君だ」
「そうでしたね。完全に勢いでしたけど。こんなチャンス、逃したら駄目だって」
「チャンス」
「そう。僕も男とシテみたかったから」

 菱川くんがキスをしてきた。他人との接触に怯える躊躇いがちなキスだ。だから顎を持ち上げてピタリと密着した。自分から舌を入れて奥で縮こまっている菱川くんの舌を絡めとった。

 キスをしながら菱川くんのベルトに手をかけた。中に手を入れてペニスを擦った。すぐ熱くなって硬くなる。ズボンと下着をずりおろしてそこへ顔を埋めた。

 先ほどの男のことが頭をよぎった。嫌悪感一杯で逃げだしたくせに、一時間もしないうちに違う男のペニスをしゃぶっている。なんて自分は現金で汚らしい大人なのか。

「入れるほう? 入れられたいほう?」

 菱川くんを上目遣いに見る。菱川くんはうっすら微笑みながら俺のこめかみのあたりを撫でた。

「入れてみたいです」
「わかった。準備する」

 ホテルの備品ケースを探る。一回分が入ったローションの袋が三つあった。一つを破って手に出した。それを自分の尻へ持っていき指を入れる。菱川くんは穴を解す俺のことをじっと見つめていた。

「やりにくくないですか? 僕がやりましょうか?」
「嫌だろ、他人のケツの穴に指入れるの」
「ちんこ入れるのに?」
「コンドーム……生ではしない」
「僕がやりますよ」

 菱川くんはローションを手に出し、ぬめる指を俺の中に入れて来た。俺はベッドの上で四つん這いになり、彼に向かって尻を上げた。

「うわ、温かいんですね。意外に柔らかい」

 グリグリ指を回したり、中で関節を曲げたりする。

「…っ……ふっ……ん……」
「あ、痛いですか」
「大丈夫……あ、そこっ……そこ、もっとして……」
「ここですか」
「いっ、あっあぁっ……!」
「あ、早瀬さん、勃ってますね。いいですか?」

 菱川くんは俺の勃起したペニスを握った。ぎこちない左手の愛撫だが、同時に前立腺を刺激されているのでビクビク震えて先走りが止まらない。

「早瀬さんの中、すごく熱くなってきました。大丈夫ですか、これ」
「いふっ、あっ、いい……! もっと……! して欲し…ッ…ふあっ、あひ……!」
「これ? ここ? 良いですか?」

 前立腺の感触とそれを擦ると俺が腰砕けになることに気付いた菱川くんは、手つきを少し荒っぽくしてそこを責め立てた。俺のペニスから滔々と液体が零れ出る。それをすくって扱くから、陰部からネチネチと音がする。

「はぁあぁ……! あ、やっ……イクッ……いやだ……まだ! まだ……止め……! イヤッ……入れてっ……君の、入れて!!」
「え、大丈夫ですか」
「早く!!」

 怒鳴ると菱川くんは慌てて指を抜き、コンドームをはめた。尻に硬くて太いものが捻じ込まれる。俺に怒られたと思って早急な挿入だった。でも痛みはなくて、いま知りあったばかりの年下のコンビニ店員が相手だと思うと頭の芯まで燃えた。

 今日は羽目を外すつもりだった。あのコンビニにはきっともう二度と行かない。彼ともこれっきり。

 自分から腰を振った。タイミングが合わなくて抜けそうになった。菱川くんのほうがうまく合わせてくれて、奥深くまで彼が来た。

「いいっ……すごく、いいっ……! もっと強くして! 奥……ッ……あっ、あふぅっ……! あぁっ、おちんちん、きてる! 菱川くんのッ……あうっ、あっ、あはあッ!!」
「すっごい……」

 感心したような、若干引き気味の菱川くんの声さえ俺の興奮材料になった。別人のように乱れたい。毎日白衣を着て、誤診しないように、患者に隙を与えないように気を張って仕事して、医者仲間に愚痴を言えばそれが原因で足をすくわれるかもしれない職場。

 ゲイであることを隠して。親には早く結婚しろとせっつかれて。興味のない女から言い寄られて。断ればヒソヒソと陰口を叩かれて。

 何が楽しみで生きているのか。俺ですらわからなくなるような人生。柵や重圧やストレスから解放されたい。たまに羽目を外して馬鹿になったっていいじゃないか。すべて自己責任でやっているのだから。

「あふっ、あん! いひぃっ……ひ、し、ひぃ……ひしっ、かわくん、気持ち、い……? 俺の…をぉッ……ケツ、まんこ、どうっ?!」
「どうって、やばいです」
「おふ、んっ!! んんっ! 俺も……! ヤ……ッバイ!! おちんぽ、良すぎ……てッ……イッちゃいそぉっ!! ふぅっ……ンンッ……ぁあんっ! も、もっと突いて!! 君のおちんぽで、俺のおまんこ壊して……ッ!!」

 菱川くんは無言だったけれど、俺の中の彼自身はぐわっと育ち、腰の動きが激しくなった。スパンキングされてるかのように、肉と肉がぶつかりあう。

「早瀬さん、凄いです……、中、どろっどろ」
「俺のまんこ……グチョグチョ?!」
「はい、女みたい」
「だって……気持ちいいっ……菱川くんのガチガチちんぽ、気持ちよくってお汁止まらな……! ドロドロのけつまんこ! 硬いちんぽ、ハメッ……ハメられてっ……ガン掘りされて……はっ、あ、だめもう、イクッ! 知らない子のおちんぽでイク――っ!!」

 シーツに顔を押し付けて絶叫しながら射精した。

 大声を出すと体の凝りがほぐれる気がする。射精の脱力感がそれを手伝う。わざと色キチみたいに淫語をわめくことで頭の中が空っぽになる。下手なマッサージより効くし、アロマより癒される。夜も寝付きがよくなって熟睡できる。

「わ……締まる……早瀬さん、俺も……ッ」

 射精の余韻に浸っていると、奥のほうで菱川くんの脈動を感じた。

◇◇◇

 ホテルを出た。菱川くんは恥ずかしそうに少し俯き加減だ。汚いことに慣れた大人の俺は堂々とコートの裾を翻す。

「それじゃ」
「え、あの、早瀬さん」

 背を向けて歩きだした俺を菱川くんが呼び止める。どうせまた会いたいとか言い出すんだろうが、そういう奴らはすべて断ってきた。彼も例外じゃない。断りの三文字を舌の上に乗せて振り返る。

「何かな?」
「今日はありがとうございます。あと、危ない奴についていかないようにしてください。気を付けて」
「……うん」

 ぺこりと頭を下げると菱川くんは俺と反対方向へ歩き出した。味を占めてまたやりたいと言い出すと思っていたのに。嫌だ、とばっさり切り捨ててやろうと準備していたのに。

 彼はスタスタ夜の街へと消えて行こうとしている。

 意外に物分かりがよくて割り切れるタイプの青年だったらしい。初対面で他人の精液を拭い取って、綺麗だとか、心臓がどくっとしたとか俺を口説いてきたくせに。向こうも最初から体だけが目的だったようだ。

 なんとなく納得がいかなかった。動転している時に気遣ってくれた優しさとか。顔や体つきが好みだったこととか。断ってもどうしてもとねだるなら、あと一度くらいは相手してやろうかと思っていたのに。

 いつも性の匂いがつきまとう場所で出会った男ばかりが相手だったから、コンビニという場所、コンビニ店員というイレギュラーな出会いに少し浮ついてしまったようだ。

 疲れるから恋愛ごっこはしないと決めていたのに俺は馬鹿だ。

 気持ちを切り替え、帰るために駅へ向かう。しばらくしてタッタッと足音が近づいてきて、いきなり腕を掴まれた。

「早瀬さん、やっぱり!」

 振り返ったら息を切らした菱川くんだった。

「やっぱり、連絡先とか、教えてもらえませんか? ご迷惑じゃなければ」
「聞いてどうするの?」

 こういう場面で迷惑そうな顔を作ってしまうのは俺の癖だ。本当は頬の筋肉が持ちあがってしまいそうなのに。

「メールとか、したいです。暇な時ご飯行ったり」
「セックスしたり?」
「いやっ、それは……下心なくもないですけど、このまま別れるのは寂しいなって」

 俺の今の気持ちを素直に代弁されるとこれ以上の意地悪は可哀そうになってくる。

「いいよ。交換しよう」

 携帯電話を出したら向こうもポケットから出した。

「しつこいと返事しないよ」
「しつこくしません」
「非常識な時間もNG」
「わかってます」
「笑うな」
「すみません」

 菱川くんがあまりに嬉しそうに笑うからこっちはどんな顔すればいいかわからなくなってつい邪険にしてしまう。

「それじゃ」
「はい、おやすみなさい」

 また駅に向かって歩きだした。菱川くんの視線を感じて背中が熱い。まだ見ているか確かめたいが、いま振り返ったら俺の負けな気がする。名残を見せずに、少しでも余裕のあるふりをしないと、汚い大人は大人のふりが出来なくなるんだ。







関連記事

2016-06-08(Wed) 20:53| 今日の相手は| トラックバック(-)| コメント 0

今日の相手は(1/2)

 結婚はまだかとせっつかれるたび適当に誤魔化していたら、とうとう強硬手段に出やがった。

 仕事場まで母親がやってきて見合い写真を置いていった。どこどこ会社役員の娘さんで現在花嫁修業中。趣味はガーデニングと裁縫、なのだそうだ。

 着物姿の彼女を見てもなんの感慨もわかない。そりゃそうだ。俺はゲイなんだから。

 親に言えないまま三十代後半になった。四十代になったら諦めてくれるかとあと数年の我慢だと楽観してたらまさか見合い話をもってこられるとは。

 こちらの都合はお構いなしでもう見合いの日時を決められている。父親の知り合いだとかで面子を潰すわけにはいかないからと強制参加だ。うやむやにして逃げ回って来たツケだ。見合いぐらいはしてやろう。悪印象を持たれるように接していれば相手のほうから断ってくるだろう。

 とは言え気が重い。久し振りに今日は羽目を外すか。

◇◇◇

 仕事が終わって馴染みの店に顔を出した。静かなバーだ。照明も絞られて音楽も心地よいボリューム。年齢層が高めのゲイバーだから、大きな声ではしゃぐ若い子はおらず、みんな表面上は紳士的に振る舞っている。

 一人で飲んでいたら横に座った男が話しかけて来た。身なりはきちんとしていて、話題も豊富で、精悍な顔つき、なにより目つきがえろい。

 適当なところで話をきりあげ二人で店を出た。すぐにホテルに行くかと思ったが男に誘われコンビニに入った。男はカゴにコンドームを入れると俺に渡してきた。

「買って来て」

 尾てい骨に響く低い声で言われたら、なんとなく抗い難くて言われた通りレジに並んだ。若い男の店員が俺たちをちらっと見た。

 ホモ同士、これからヤルつもりだと思われているだろう。間違いじゃないが、俺にも羞恥心はあるので会計の間目を逸らしていた。

 袋を受け取って店をでる。もしかしたら男の部屋に誘われるのかもしれないと思ったが、「こっち」と誘われたのは公園だった。

 夜でひと気がないのをいいことに、男は俺の腰に手をまわし、服の上から撫でまわし始めた。

「こんなところでは、嫌だ」
「誰もいないよ」
「わかった。ここで別れよう。今日は楽しかった」
「お楽しみはこれからだろう?」

 いきなり突き飛ばされ、バランスを崩して繁みに手をついた。起き上がる前に男が覆いかぶさってきてベルトを外そうとする。

「やめろっ」
「本当はめちゃくちゃにされるのが好きなタイプだろう?」

 俺の耳を舐めながら男がねっとり囁く。

「あんたの今までの相手はそうだったかもしれないが、俺は違う、嫌だ!」
「まだ気付いてないだけだよ。俺が本当の自分を教えてあげるよ」

 男は俺の股間に膝を当て、体重を乗せて来た。痛みと、潰される恐怖で失禁しそうになりながら悲鳴をあげた。その口を男の大きな手が塞いだ。

「俺の言うことをきける?」

 助かりたい一心で何度も頷いた。

「じゃあ、まずは俺のものをしゃぶってもらおうかな? 噛んだりしたら、君の、踏みつぶすからね?」

 店にいるときとかわらない笑顔が恐ろしかった。

 男の前を開いて反応の薄いペニスを取り出した。口に入れて舌を這わせた。男の尖った靴の先が俺の股間に狙いを定めている。俺のは縮こまっているのに、男のペニスはどんどん大きくなった。

「上手だ。ずいぶん慣れているんだね」

 反射的に首を振って否定する。

 若い頃は恋だの愛だのに溺れていた時期もあったが、ある程度の年齢になったら相手に合わせることや束縛が鬱陶しく感じるようになって、一夜限りの関係ばかりになった。快楽を追い求めて、人に言うのも恥ずかしいほど経験人数だけが増えていった。顔も名前も思い出せない相手はたくさんいる。

 この男もその一人になる予定だった。一週間も経てば、セックスの良し悪しでしか思い出すこともなくなるはずだったのに。

 男がゆっくり動きだした。俺の口を使ってペニスを扱くように腰を振る。のどの奥にまで亀頭が押し込まれる。えずいて涙目になる俺を男は笑顔のまま見下ろして腰を動かし続ける。正気と思えない表情に震える。

 動きが止まると同時に男が射精した。いきなり生臭い液体を吐きだされて噎せそうになる。男は中でかき混ぜるようにわざと口の中でペニスを前後に揺すった。味蕾にこすりつけられて、その味と舌触りに耐え切れなくなり、横を向いて吐きだした。

「ちゃんと飲み込まないと駄目じゃないか」

 優しく言いながら俺の肩に手を乗せる。なにもかもがおぞましい。男を突き飛ばした。よろけた隙に逃げだす。足がもつれて転んだ。振り返ると男が近づいて来るのが見えた。暗闇でもはっきり笑っているのがわかった。こんなのただのホラーだ。

 必死に走って公園を出た。明るく安全な場所。頭に浮かんださっきのコンビニに向かった。

 自動ドアが開くのを待たずに身を滑り込ませ店内へ。トイレに直行したが使用中だった。待ってられなくて水道で手を洗い口をゆすいだ。

 鏡に写る姿は髪が乱れて顔色も白くてみっともなかった。よく見るとスーツもコートも泥で汚れている。手を拭いたペーパータオルで汚れを叩き落としていたらトイレの戸が開いた。

「あ」

 出て来た若い男が俺を見て口を開く。反射的に目を合わせてしまったが、知り合いでもなければ見覚えもない。

「大丈夫ですか」

 様子がおかしいと心配されてしまったようだ。

「大丈夫」
「もしかしてさっきの男に襲われました?」

 さらっと言われて心臓が止まりそうになった。改めて顔を見て思い出した。青年はさっきレジに立っていた店員だった。制服を脱いでいたから気がつかなかった。青年にはホモだとバレている。それどころか、男に襲われたことまで見透かされてしまっている。

「違います」

 裏返りそうになる声で否定したが、これも彼には嘘だと見抜かれているのだろう。いたたまれなくて店内へ戻ろうとしたら、「あ、待って」と青年に呼び止められた。立ち止まる義理はないのに、逃げたと思われたくないケチな自尊心から足を止めた。

「なにかな」
「あの、髪」
「髪?」

 乱れならもう手櫛でなおした。

「髪に……ちょっと、失礼します」

 ペーパータオルを取った青年が俺の肩に手を置いて顔を覗きこんでくる。さっきの出来事がフラッシュバックして思わず青年の胸を押し返した。

「や、やめ……っ」
「取れましたよ」

 こめかみのあたりをゴソゴソやったあと、青年は簡単に離れて行った。離れ際にちらっと見たペーパータオルには、白い液体が見えた。男の精液だ。どうしてこんなところに!? きっと顔を背けた時に付着したのだろう。それをまさかコンビニ店員に見つかり後始末までされるなんて。顔から火が出そうだった。

「あ、ありがとう」
「いえ。さっき一緒にいたのは恋人なんですか?」
「君に関係ないだろう」

 好奇心に晒されるのは我慢がならなくてきつい口調になった。青年は気にもせず小さく肩をすくめた。

「すいません」

 素直に謝られるとこっちが大人げないみたいじゃないか。

「さっきのは、違う。今日知り合ったばかりの人だ」
「初対面の人と?」

 幼い質問に身を焼かれる思いがする。自分はなんて汚れてしまったのだろう。

「どうだっていいだろう」
「そうですけど……簡単について行かない方がいいですよ、あなたみたいに綺麗な人は特に」
「え」

 思いがけない単語を耳にして素で驚いた。綺麗? 初対面の男に付いていって髪に精液をつけたままコンビニのトイレに駆け込むような、この俺が? 嫌味か? からかっているのか?

 青年は顔を赤くして笑うと「それじゃあ」と頭を下げてトイレを出た。レジにいる店員にも「お疲れ様でした」と挨拶して店を出て行った。

 もしかして俺は口説かれたのか?

 二十歳前後の若い青年だ。あんなに若い子と関わるのは仕事場の病院くらい。私生活ではほとんどない。

 照れて頬を染めた青年の顔が頭をぐるぐるする。あんなにうぶな表情を見たのは何年ぶりだろう。

 悪い気はしない。忘れていた感覚を思い出して、どきどきする。

 ふらふらと店を出て左右を見渡した。駅と逆方向へ向かって歩く後ろ姿を見つけた。あとを追いかけながら、なんて声をかけようかと考えている。

 声をかけてどうする。勘違いするなと鼻で笑われたら? 逆に受け入れられたら? 最初から期待せずにいけばいい。今日はもともと羽目を外すつもりだったんだし。

 追いついて青年の肩を叩いた。彼が振り返る。

「さっきはありがとう」
「あ……いえ」

 追いかけてきた俺に明らかに驚いている。だけど足を止めてくれた。

「お礼がしたいんだけど」
「僕何もしてませんよ」
「心配してくれたし、髪の汚れも取ってくれたじゃないか」
「それだけですよ」

 いつも相手にしている男たちならば、この会話だけで俺の言わんとするところを察してくれる。しかし彼はまだ幼い子供だった。

「軽く、食事でも」
「ほんとに、そんな必要ないですよ。それに僕さっき食べたとこだし」
「じゃあ飲みに」
「一応まだ未成年なんで」

 いくら子供とは言えいい加減気付きそうだがここまで誘いを断られるということは、やはり脈なしなのだろうか。

「そうか……。帰るところを呼びとめて悪かったね」
「お礼はいらないんですけど、今日の相手、僕じゃ駄目ですか?」
「えっ」

 うぶで何もわかってない子供だと思っていたが、俺の勘違いだったようだ。

「近くのホテルでいいですか?」

 彼の問いに俺は黙ってうなずいた。









関連記事

2016-06-07(Tue) 21:25| 今日の相手は| トラックバック(-)| コメント 0

ご挨拶

お越しくださりありがとうございます。 初めに「当ブログについて」をご一読くださいますようお願い致します。
管理人が以前、某掲示板で書いていたものをここで再利用しています。決してパクリでは御座いません。そしてお願い。GKさんの小説を保存しておられる方いましたらぜひご連絡頂けないでしょうか。いまとても読みたいのです…

お世話になってます

参加してます

惚れリンク

最新コメント

カウンター