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遺作(2/2)

2015.12.07.Mon.
<前話はこちら>

 今日は雑誌の発売日だ。書店へ向かう足が重い。先に先生のお墓参りをしようか。雑誌を買ってからのほうがいいか。いや、自分が書いたものを目の前で読まれるのは先生が恥ずかしがるかもしれない。

 後回しにする理由をぐだぐだ考えていたら書店についてしまった。勇気が足りないまま、中に入って平積みされた雑誌を見つけた。先生の名前と、遺作という文字が大きく出た表紙。

 なかなか手が出せない僕の横で、サラリーマン風の男が簡単に一冊取ってレジに持って行った。

 いつまでもここに突っ立っていても仕方がない。僕も一冊買って店を出た。近くの公園のベンチで袋をあけた。追悼特集が組まれていて、僕が以前見たことのある先生の写真も掲載されていた。

 初めて会った頃より数年前に撮られただろう写真の先生は、カメラマンに言われて嫌々写真を撮らせたかのような仏頂面だ。鋭い眼差しと硬く閉じた唇は、頑固で冷たそうな印象を与えるが、実際会ってみたら優しくてその違いに驚いた。だけど同時に、すんなり僕を受け入れてくれたところは、母の言う通り、人への拘りがないのだろうと思った。

 僕が初めて先生を知ったのは、母が毎月買っている雑誌をなにげなく読んでみたことがきっかけだ。溜まるとまとめて廃品回収へ出しているのに、たまに号が抜けていることがあった。隠すように本棚の隅っこに固められた数冊を、なんとなく引っ張り出して読んでいたら、すっ飛んできた母に奪い取られた。

 あまりの慌てように驚いたが、ハードボイルドや推理小説にまじって官能小説が載っている雑誌を高校生の僕から隠そうとしたのだと思った。それとも、そんなものを読んでいる自分を恥じたのかも、と。

 だけど、そのあと母の口から語られたのは予想とは違う話だった。

 母は官能小説家である先生と、同じ大学に通っていたという。在学中から小説を投稿して雑誌に載ったことのある先生は大学ではちょっとした有名人で、言い寄る女の子も多かったそうだ。

 母もその例に漏れず、斜に構えた態度で皮肉好き、教授にも対等な態度を取る先生が、若い当時は魅力的に見えていたらしい。

 告白して来る子を拒まないという噂を聞いて、母もアタックしてみたら本当に付き合うことが出来た。俺と付き合えるだけで幸せだろうという先生の傲慢な態度も最初は良かったらしいが、二股三股は当たり前、手あたり次第に女の子と関係を持つ先生に嫉妬するのが疲れて三ヶ月で別れた。

 それでもまだ先生のことは好きで、結婚後も先生の書く小説だけは欠かさず読んでいたという。恋愛感情というより、若い頃の憧れと尊敬が強いと強調した。

 捨てずに数冊残しておいたのは、登場人物の名前に自分の名前が使われたから、先生の写真が掲載されているから、インタビューが載っているから、個人的に気に入った話が載っていたから、という理由からだったそうだ。

 母の青春時代の思い出は二人だけの秘密にすると約束して、僕は雑誌を読む許可を得た。

 先生の話はなるほど女に詳しくないと書けないなと思う描写に溢れていた。これを母が読んでいるのも、これを書いた人物と短い期間付き合っていたというのも、息子の立場上複雑な心境だったが、読み物としては面白くて、僕も先生の話が雑誌に掲載されていると必ず読むようになった。

 女の体や心情についての描写はもちろん、先生は相手の男の描写も手を抜かなかった。読んでいるだけで、男の肌の手触りや、その息遣いや体温を身近に感じるような生々しさがあった。いつの間にか僕は女を自分におきかえて読んでいた。

 時に激しく男を愛し、時に蹂躙され、時に狂うほどの快楽責めにあった。そんな自分を想像するとき、男の顔は、雑誌で見た先生の顔をしていた。僕は頭の中で、先生に抱かれ犯され続けていた。

 勇気を出してファンレターを送ってみたら雑誌の中で返事をもらえた。来る者を拒まないのは今もかわりがないようだった。会いに行って先生に抱かれた。男は初めてだという先生の困惑がかわいらしくて、優しい声と愛撫に感激した。

 小説の登場人物のように、日頃の妄想の通りに応えた。素晴らしい夜だった。

 先生の寝顔を横で眺めている時間は幸福そのものだった。昔から母親似だと言われてきたが、まさか同じ男を好きになるほどとは思わなかった。

 噂通りなら、先生は他に複数の女と付き合いがあるはずだった。僕とはただの好奇心、興味だけだとわかっていたから、先生の目が覚める前に姿を消した。

 その後、先生の癌が発見されるとわかっていたら、逃げたりしなかったのに。

 数年後、雑誌にYへの伝言を見つけた時、連絡をするかどうか悩みに悩んだ。イニシャルはYだが僕かどうかわからない。名乗り出て人違いだった場合、恥ずかしくて数日のたうちまわるだろう。

 数日悩んでやっと決心がついて編集部に連絡すると、阿部という人が先生の今の状況と居場所を教えてくれた。

 二度目に先生にお会いしたとき、病室のネームプレートがなければ先生とわからなかったかもしれない。やせ細り別人のようだった。僕が部屋に入ったのにもしばらく気付かず、寝ているのか起きているのかわからない眼差しで天井の一点を見つめていた。容体がかなり悪いのだとショックだった。

 そこで少し会話をした。遺産を僕に譲るという話も出た。もちろん断ったが、潤んだ先生の目を見て本気だとわかり、悲しくて思わず泣いてしまった。それまで会いに行かなかった自分を悔やんだ。

 別れ際、先生からもう会いに来てほしくないと言われた。

「癌がこっちにも転移してるんだ」

 と先生は自分の頭を指さした。言語障害と人格崩壊が始まるから、来てもらってもまともに相手を出来ないし、変わってしまった自分のせいで君を傷つけたくないからだと。嫌だと食い下がったが、最終的にはそんな自分を見られたくないという先生の意思を尊重することにした。

 かわりに阿部さんに、先生に何かあったら電話して欲しいと頼んだ。

 別れて17日後の夜、先生が息を引き取ったと阿部さんから連絡があった。

「どういう使い方でもいいから、これを雑誌に載せて欲しい」

 そう言い残すと、先生は眠るように旅立たれたのだそうだ。

 命をかけて仕上げた遺作。どんなに悲しくても僕には読む義務がある。鞄から先生が生前愛用していた万年筆を取り出した。阿部さんに頼んで譲ってもらった。これを持っていると、先生と一緒にいられる気がする。

 ページ一面に拡大された仏頂面の先生の写真を見ていたら泣いてしまいそうになる。本当はとても柔和に笑う人なのにその写真が残っていないのが残念だ。

 簡単にまとめられた先生の一生と、これまでの作品一覧のあと、先生の最後の作品が始まった。


『ファンレター

 大衆向けの雑誌に官能小説なぞを書き、それを生業としている私のもとに、毎月、わずかではあるが、ファンレターというものがくる。

 今日も編集者が3通、昨日脱稿した原稿と引き換えに置いて行った。その中の一通に目を引くものがあった。……』





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遺作(1/2)

2015.12.06.Sun.
<前話「ファンレター」はこちら>

※健全。死ネタ。BL…?って内容


 子供の頃から病院が嫌いだった。大人になってもそれはかわらず、健康診断を避けてきた私が、なにを思ったか気が向いて人間ドックを受けてみたら癌が発見された。肺癌だ。余命宣告までされてしまった。長年煙草を喫み続けて来た当然の結果である。

 体はピンピン動くし最初は自宅療養を選択したが、自覚した途端体のあちこちに症状があらわれだし、頼れる身内のいない私は入院することにした。

 担当の阿部くんが見舞いにやってきた。ベッドの上で書きあげた原稿を彼に手渡した。

「先生、そろそろお仕事をセーブされたほうがよろしいんじゃありませんか。編集部一同、先生が無理をしているんじゃないかと心配してるんです。」
「いきなり死んで穴をあけられちゃ困るものな」
「縁起でもないこと言わないで下さいよ。ですが万が一のことも考えなきゃいけません。僕の仕事ですからね。悪く取らないで下さいよ。先生の御病気のことなんですが、読者には伝えておきますか? もし御加減が悪くなって休載となった時に、どう発表するかは決めておきませんと」

 大衆雑誌の官能小説家にもわずかだがファンがついてくれ、たまにファンレターを寄越してくれる。彼らに報告の義務は感じるが、なにも死ぬ前から癌だと見せびらかす必要はあるまい。

「私が死んだあと、癌だったと発表してくれ」
「わかりました」

 こくりと頷いて阿部くんは私の原稿を大事そうに鞄に仕舞った。あと一作書きたいところだが、あれが最後の作品になるやもしれぬ。

「一つ頼みがある」
「なんでしょう」

 膝に両手を置いて阿部くんは私に向き直った。

「個人的なもので申し訳ないんだが、ページの最後でも枠外でも、どこでもいいから私の名前で伝言を載せてもらいたい」
「伝言ですか。どなたに?」
「私の人生を180度変えた人物だ。最後に一目会ってから死にたい」
「弱気はいけませんよ。で、どのような伝言を?」
「Yへ、もし見ていたら編集部あてに連絡を。これでいい」
「Y、ですか」
「湯川洋一郎と名乗る男が連絡してきたら、この場所を教えてやってくれ」
「男性ですか。なるほど、Yですね。ご病気のことはご存じなんですか?」
「知らない。教えなくていい」
「承知しました。次の雑誌が発売されるまで、お元気でいて下さいよ」

 冗談めかして言ったが、阿部くんの目は笑っていなかった。ベッドの上の私は体重が落ち、頬もこけて以前の面影をすっかり無くしてしまった。彼の目にははっきり死相が見えているのだろう。

「わかっているよ。じゃあまた」

 阿部くんが病室を出て行ったのを確認してからベッドに深く横になった。近頃はもう座っているのさえ辛くなってきていた。



 体中が痛む。薬の副作用で吐いてばかりで体重がさらに減った。鏡に写る自分に驚くほど、別人のようにやせ細った。

 いつも、このまま起きないかもしれないと思いながら眠りにつく。目が覚めると、まだ生きているのかと安堵と落胆を同時に味わう。

 やりたいことはあらかたやった。さっさと楽になりたい。思い残しといえばただ一つ。それも、叶わぬなら仕方がないと諦めがつく。

 突然現れ、煙のように消えた彼との出来事は、夢か幻かと思うほど現実離れしていて、強烈な記憶のみが宝石のように輝いている。ならば手垢をつけぬまま、あの世へ旅立つほうが美しいというものだ。

 雑誌の発売を待っている間に何度か肺炎にかかり、私の死か、発売か、どちらが先か競うような状況になった。いよいよ駄目かもしらんと何度も思ったが、意外や私はかなり欲深い性格だったようで、なんとか発売まで持ちこたえた。

 連絡がきたか知りたい気持ちを抑え、数日を過ごしたある日、ついに彼が病室へ姿を見せた。



 一日のほとんどを寝ているような毎日で、今日も、寝ているのか起きているのかはっきりしない朦朧とした状態でベッドに横たわっていた。

 部屋の外の物音が心地よい子守歌だ。聞くとはなし、寝るとはなしにうつらうつらしていたら、いつの間にかベッドの横に人がいた。

 夢の続きのようで、彼を見ても驚きはなかった。数年前とほとんど変わらぬ姿だったからかもしれない。

「先生、ご無沙汰しておりました、洋一郎です」

 彼は優しく私に微笑みかけた。天使のような微笑だ。ひょっとして私はもう天に召されているのだろうか。

「ご病気だったとは知りませんでした。お加減、いかがですか」

 労わるように彼が私の手を握りしめる。若い生命力にあふれた温かい手だ。どうやら私はまだ生きているらしい。

「君に会いたかったよ」

 痰が絡んで声が掠れた。それでも彼はちゃんと聞きとってくれたようで、「僕もです」と頷いた。死にゆくものへの優しい嘘だとしても嬉しいものだ。

「突然消えるなんて寂しいことをするじゃないか」
「先生の負担になりたくないという思いから、別れを告げず黙って帰ってしまいました」
「あのあとずいぶん君を探してまわったんだよ」
「そうとは知らずご無沙汰してしまい、申し訳ありませんでした。あの夜の思い出を美しいまま取っておきたいという気持ちと、先生にのめりこんでしまいそうな自分が怖かったので会いに行けませんでした」

 彼が何も言わずいなくなったのは、憧れていた私と実際に会って寝てみたらこんなものかと幻滅したのではないかと、探している間中ずっと不安だった。彼が死にゆく者を気遣って嘘をついている可能性は充分あるが、子供のように素直にその言葉を信じようと思う。これ以上ない冥途の土産じゃないか。

「雑誌に君への伝言を載せてもらったのは、最後に一目会いたかったのと、頼みがあるからなんだ」
「僕に頼みとはなんでしょう」
「見ての通り私はもう長くない。次が私の最後の作品となるだろう。君が許可してくれるなら、君を主役にした話を書きたい」
「僕を主役にですって?」
「そうだ。退屈な人生に厭いた小説家の前に、類い稀なる美貌の持ち主の青年が現れ、作家の人生を変える話だ」
「僕は先生の人生を変えてしまったんですか?」
「親はとうの昔に泉下の客となり、嫁も子もいない私にとって、君は唯一、忘れがたい存在であり、私の未練だ。このまま一人で朽ち果てると諦めのついた頃に現れて、私に恋を灯した。君が好きだ。君の幸せが大事だ」
「こんな僕にそこまで」

 真っ赤になった彼の目から涙が溢れ、ぽろりと頬を滑り落ちて行った。泣き顔までなんと美しい青年だろう。

「怖がらずにもっと早くに来るべきでした。僕も、先生の事が大好きです」

 彼は懺悔をするように、両手で握りしめた私の手を自分の額に押し当て、嗚咽を漏らした。もう少し前なら、震える肩を抱いて慰めてやれるのだが、今はもう自力で起き上がることも出来ない。

「そこの棚の引きだしを開けてくれ」

「はい」

 涙を拭いながら彼は頭をあげた。棚の引きだした開けて、私のほうを見る。

「その便箋を一枚めくってくれ。私の遺言状がある。わずかしかないが、君に私の財産を譲りたい」
「いりません!」

 即座に彼は拒否した。

「そんなもの僕は受け取れません! 先生は長生きなさいます! 病気なんか打ち負かして元気に戻られます! 必ず! だからそんな弱虫なことを言わないで下さい!」

 白い頬を赤く染めて目を吊り上げる彼はどうやら本気で怒っているらしい。会ったのは今日で2回目だというのに、そこまで私を思ってくれるのがありがたい。

「いつ死んでもおかしくない状態なんだ。さっきも言った通り私に身内はいない。君に受け取ってもらいたい」
「いりません、そんなものいりませんから、長生きしてください……!」
「頼んだよ」

 私に撤回の意思がないとわかると、彼はワッと泣きだしてしまった。



 泣きつかれた彼が私のベッドに頭を乗せて寝息を立てている。その頭を撫でた。柔らかでサラサラとした髪の毛だ。愛しくて仕方がない。この先彼が愛して、愛されるだろう男相手に嫉妬心がわきあがる。まだ生きていられたら。もう少し私が若ければ。この病気さえなければ。心底癌になった自分を恨んだ。

 ベッドを操作して背もたれを起こした。枕の下から原稿用紙とペンをとりだし、私は最後の力を振り絞って最初の一文字を書いた。




きみのかわいいところ

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昼夜(2/2)

2015.12.02.Wed.
<前話はこちら>

「出……る……」

 部屋を片付けたとき取りやすい場所に置いておいたティッシュを白河が見つけて何枚かを俺のちんこに当てた。

「はあっ、あっ、あっ」

 ぎゅうっと白河の頭を抱きながら射精する。いつものようにピュッと少量が水鉄砲みたいに出た。終わったのに白河はまた手を動かす。俺も一回じゃ収まらないからされるがまま白河にちんこを任せる。

「ちょっと苦しい」

 胸に押し付けた白河からくぐもった声が聞こえて腕の力を緩めた。プハッと白河が上を向く。すぐそこに白河の顔。めっちゃ近くて目が合う。視線に温度があるって初めて知った。眼底が焼けるみたいに熱い。

 やってる事がことだから、これが恋人同士ならキスの雰囲気だ。でも俺たちは違う。俺たちはただのクラスメート。クラスメートってこんなことするんだっけ。いやしないよな。じゃあ、俺たちの関係ってなんなんだ。友達と呼べるほど親しくないし。親しくないのにちんこ扱き合う矛盾。

 白河もうっかり目を合わせてどうしようと焦ってるのか目が泳いでいる。でも逸らすのは失礼だとでも思ってるのかなんとか俺と目を合わせ続けようとしている。引き攣った頬が赤くなってる。いつの間にか手も止まっている。

 キスしてみる?

 のど元までそんな言葉が出て来た。これは越えちゃいけない一線な気がする。だけど、唇を舐める白河を見たら、こいつも案外その気なのかもとか思えてくる。言っちゃう? 断られたら冗談って笑えばいいだけだし。局部の触りあいしてるんだから、いまさら唇の表面が触れ合うくらい、どってことないし。

「キス、する……?」

 勇気を出して言ってみた。

「嫌だよ。どうして?」

 即答で拒否られた。なんとなく拒まれないと思いこんでたからショックだ。そんで、それ以上に焦った。

「別に! 流れだよ! 冗談だし! 俺だってやりたかねえし!」
「なんだ。びっくりした」

 白河は視線を落としてまた俺のちんこをニギニギし始めた。俺は断られたことが恥ずかしくて、頭に血が上った状態だからか、ちんこ握られてもぜんぜん気持ちよく感じない。力が抜けて小さくなっていく。あれ? って顔で白河が俺を見る。

「昨日けっこう出したから! だから今日はあんまり……っ!」
「あ、そうなんだ」

 白河の掌に、完全に萎んだ俺のちんこが乗っかっている。いまの俺みたいだ。

「次! お前の番!」

 パンツをあげて白河のちんこに手を伸ばす。でろんと垂れた白河のちんこ。掴んだことないけど、極太のうなぎとかなまずってこんな感じなのかも。

 ぎゅっぎゅっと握ってたら「痛い」と白河が言った。

「なんか怒ってる?」
「怒ってねえよ。なんで俺が怒るんだよ」
「さっき、嫌だって言ったから」
「はあ? そんなことで怒るわけねえだろ」

 否定しながら自分でも顔が赤くなってるのがわかる。無駄に声も大きいし。

「俺はちょっと怒ってた」
「えっ?」

 思わぬ告白に驚く。俺、こいつを怒らせるようなこと何かしたっけ。

「岡本は俺と仲良いと思われるのが嫌なんだろ?」
「なんでそんなこと……」

 あ。思い出した。昨日のことだ。多和田に「仲良いな」と指摘されて席が近いからだ、と言い訳したんだ。

「いや、あれは……」
「岡本のこと、がさつで無神経そうで苦手だったけど、秘密を打ち明け合ってから親近感がわいて友達になれるのかもって思ってた」

 それは俺だって同じだ。根暗でノリが悪くて白けた反応しか返さない奴だと思ってたけど、あの一件以来、俺は他の友達の誰よりも親しみを感じていた。

「でも目の前で一方的に約束破棄されて、お前なんかと友達になるわけないって言われてる気がした。俺と一緒にいるところを誰かに見られるのも嫌だろうと思ったから、だから今日、一度自分の家に帰ったんだ」

 制服でうろついちゃいけない家の決まりなのか、ただ神経質なだけなのかと思っていたが、そんな理由だったとは。

「違うって。そうじゃなくてさ……」
「タイプが違いすぎて俺と友達だとは思われたくないんだろ?」

 こいつは自己評価が低すぎこんなに卑屈になっちゃうんだろう。加えて俺の身勝手な行動が、さらに白河を追い詰めてしまったんだ。

「多和田に仲がいいって言われて焦ったのは、あの時、俺の頭のなかお前のちんこのことばっかりで、それを指摘された気がして、だから焦ってあんなこと言っちゃったんだよ」

 どうしてこんな変態的な恥ずかしい告白をしなきゃいけないんだ。情けなく思いながらも、自分が蒔いた種なので、仕方なく白状していく。

「あの日からずっと、お前のちんこのことばっかり思い出してんだ俺。変だろ。気持ち悪いだろ。引いていいぞ。授業中もお前の背中みながらちんこのこと考えて、家帰ってマスかくときも、お前のちんこの手触りとか思い出しながらやってるんだ。お前って、俺に足りないもの全部持ってるから羨ましくて仕方ねえんだよ」
「そんなに毎日思い出してるのか? 昼も夜も?」
「そーだよ。俺だってお前とは友達になれそうだって思ってるし、色々聞きたいことも教えて欲しいこともあるのに。お前のほうで勝手に思いこんで決めつけるなよ。切っ掛けは俺だから俺が悪いんだけど」

 信じられないって顔で俺を見てた白河の口元がだんだん緩んで行く。

「それ聞いたら機嫌が直った」
「こんな恥ずかしいこと二度と言わせんなよな」
「キスする?」
「はあっ?! 嫌だって言ったのお前だろ!」
「あの時はまだ怒ってたから。今はしてもいいと思ってる」

 白河がニヤニヤと笑っている。その顔にむかつくけど、白河が機嫌直してくれてよかったと嬉しくもある。

「そういう雰囲気じゃないと思うけど」
「じゃあやめとく?」
「……する」
「岡本のそういうところ、かわいいと思う」

 かわいくねえわ。こんなの俺が恥かいてるだけだわ。

 白河の言動になんか一喜一憂させられてる気がして癪だけど、遠慮がちに近付いてきた顔に角度を合わせて、俺も白河に近づいた。ふにっと柔らかな唇が触れ合う。実はファーストキスだ。きっと白河もそうだろう。……もしかして、誰かと付き合ったことあるのかな。

 くっついたり離れたししながら、何度もチュッチュと唇を合わせる。手の中の白河がムクムクと急成長していく。

「お前、興奮させんなよ」
「岡本だって」

 ピンと小さく屹立した俺のちんこを白河が弄る。

「あっ」

 白河とちんこを扱き合いながらキスをする。快感があがれば興奮も増して、いつしか唇を開いて次のステップを望んでいる。ぬるっと濡れた舌が接触したら、箍も外れて俺たちは舌を絡ませあっていた。濃厚なディープキスをしながらちんこを扱き合う。

「あっ……ん、ま……待て……っ……出るっ……」
「昨日、いっぱい出したんじゃなかったのか?」
「うるせー、ばか」

 もう頭の中真っ白だった。本能のまま解き放って、本能のまま「もっと」と白河にねだっていた。白河にも同じように気持ちよくなってもらいたくて必死に手を動かした。

 すごく硬くて熱い白河のちんこから脈動が伝わってくる。男らしい勃起ちんこだ。先走りも半端ない量で俺の手はベドベドだ。

「んっ、あっ、あっ……白河っ……あ、出る、イクッ……」

 大きな手の中にまた精液を吐きだした。一瞬訪れる賢者タイムで、男の同級生とオナニーをし合うだけじゃなく、キスまでしちゃってる事実にちょっと怖くもなるのだが、すぐどうでもいいやと深く考えることをやめた。どうせもう後には引けないのだ。



 五時半ギリギリまで触りあっていた。俺は4回で打ち止めになり、白河は1回にかなりの時間をかけ、2回目は、勃起状態は続いたが射精には至らなかった。本当に1回で満足できる質らしい。

 部屋を片付け、換気をしながら、コンビニで買ったお菓子を食べた。二人とも無口だったのは、キスまでしてしまった気恥ずかしさからだろう。

 白河の長い指がお菓子を摘まんで口に運ぶ。咀嚼する口許とか、唇を舐める舌とかを見てたらまたムラッときた。何も言わず顔を寄せていったら、白河も何も言わず体をこっちに傾けてきた。扱きあってもいないのにキスした。食べてるポテトチップスの塩味がする。

 完全に癖になっている。やめられる気がしない。明日にはもう欲求不満になって、また白河を誘ってしまいそうだ。




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昼夜(1/2)

2015.12.01.Tue.
<前話「大小」はこちら>

 自分ちでオナニーしてても白河のちんこの手触りを思い出してしまう。でかかったなぁとか、硬くて熱かったなぁとか。他人のちんこを思い出しながら自分のちんこ扱いてたらなんか物足りない。いや、実際あれと比較したら足りないものだらけなんだけど。

 学校のトイレで白河と扱い合いしてから早2週間。朝、顔を合わせたら挨拶するし、シャー芯なくなったら分けてもらったりするけど、『あれ』の2回目を提案することはまだ出来てない。

 お前のちんこを触らせろ、なんてなかなか恥ずかしくて言えない。ホモみたいじゃないか。ホモじゃないから変態か。白河からも何も言ってこない。当然か。

 またゴシゴシとダイナミックに手を動かしてちんこを扱いてみたい。乳しぼりはもう飽きた。よし、明日! 明日白河を誘ってみよう!

 と決意して学校に来たはいいが、なんて切り出せばいいんだろう。丸まった白河の背中を見ながら考える。しかし大きな背中だ。胸も広かった。俺なんかすっぽり包まれるくらい。

 あの時のことを思い出したら背中がゾクゾクとした。顔のよこに白河がいるような錯覚を起こして産毛が逆立つ。股間に血が集まりそうになったから股に挟んだ。小さいとこういうとき誤魔化しやすくて便利だ。

 ノートを千切った。

『今日の放課後、予定ある?』

 白河の背中をつついて紙切れを渡す。

『特にないけど』

 返事がかえってくる。

『俺んち来る? 白河んちでもいいけど』
『じゃあ岡本の家』

 なんで、とか、なんの用とは聞かれない。俺の言わんとするところを理解しているのだろう。暗黙の了解ってやつか。マスのかきあいが暗黙の了解っていうのも嫌な話だな。

 とにもかくにも、白河を誘えてご満悦の俺なのであった。



 休み時間になってから、おかんが仕事から帰ってくるのは5時半くらいだってことをなんとなく白河に伝える。つまりそれまでに事を始めて終わらせておきたいってことだ。ここもやっぱり暗黙の了解で、白河は「うん」って頷いた。

 今日白河が家に来る。そんでまたあのでかちんこを扱く。白河も俺のちんこを扱くつもりなんだろうか。1回やったらもう充分と思っているかもしれない。大は小を兼ねるとか言うしな。

 俺だけが白河のちんこを触ってるのはかなり変態っぽい。でもまぁいいか。あの化け物みたいなちんこを触れるなら。

「お前ら、最近仲いいのな」

 友達の多和田がやってきて言った。

 仲がいいって言われると、頭のなか白河のちんこのことだけだった俺は「別に普通だし。席が近かったら話くらいするだろ」とか焦って言い訳してしまう。

「なに怒ってんの」
「怒ってねえし」
「別にいいけど。今日、帰りゲーセン行かね?」
「えっ、今日?」

 今日は白河と約束が……。でもそれを言ったらまた仲がいいって言われそうだ。変に勘ぐられてホモだと噂がたったら困る。

「あぁ、おお、いいけど」
「ついでにドラッグストアも。ワックスなくなりそうなんだ」
「OK」

 って返事をする視界の端で、体を前に戻した白河が見えた。先に約束してたのに、目の前でそれを反故にしたから怒ったのかもしれない。普通怒るわな。こんな感じ悪いの。しかも俺から誘ったのに。

 そのあと俺と多和田が話してる間、白河はずっと机に伏して寝てた。

 授業が始まってすぐ、『ごめん、明日でもいい?』って紙に書いて白河に回した。

『いいよ』

 返事を見て安心した。怒ってないようだ。


 
 次の日、学校終わったら二人で家まで行くつもりだったのに、白河は一旦家に帰って着替えたいとか言い出した。だから連絡先を交換して、いつも通り学校で別れた。時間がなくなっちまうじゃねえか。

 部屋の片づけをしてたら白河からもうすぐ駅につくと連絡がきた。チャリで迎えに行って、時間がないというのになんとなくコンビニに寄ってから家に戻った。

 部屋に入った白河は「意外に片付いてる」とか当たり障りない感想を言って床に座った。俺もコンビニの袋からスナック菓子とか出して、「これ読んでる?」って意味なく漫画を勧めてみたりした。

 部屋に呼んだはいいが、こっからどう話を進めていけばいいんだ。前回の流れは2度目の今日じゃ通用しない。単刀直入に、ちんこ触らせろって? がっつきすぎでキモくない?

 白河は相変らず白けた顔つきで俺が勧めた漫画を読んでいる。貸してやるから帰ってから読めよ。苛々しながら胡坐をかいた白河の股間に視線を注ぐ。ジーンズの下に、あの眠れる獅子がいるのか。

「お母さん帰ってくるの、5時半だっけ」

 ふいに白河が本から顔をあげて言った。

「おう、そうだよ」
「時間大丈夫なのか?」
「あんまり大丈夫じゃない」

 俺は腰をあげて白河の股間に手を押し当てた。ブニンって弾力のある手触り。これだ。

 ベルトを外してチャックを下げた。今日もまた地味な色のボクサーパンツだ。その中からちんこを引っ張り出す。ブリンッと弾け出た2週間ぶりの白河のちんこは相変らずでかかった。

「岡本も」

 って白河が俺の黒スキニーの上から股間を鷲掴む。片手ですっぽり玉も竿も収まってしまう。

「お前も触るのかよ」
「当然。俺ばっかり不公平だろ」

 そうか。白河も触るのか。
 脱がせやすいように白河のそばに膝で立つ。

「岡本っておしゃれだよな」
「普通だろ」
「今時っぽい」
「スキニーとか穿かねえの?」
「試したことない」
「お前、足長いし細いし、俺なんかより絶対似合うって」
「そうかな。ただひょろいだけなのに」

 自信なさそうに言うもんだから、そうだって! と力強く断言してしまった。なぜ俺がこんなに白河を褒めて励ましてやらないといけないんだ。

 そうこうしている間に俺の下半身は剥きだしにされていた。いつの間にか半立ち。それを白河が握る。それは別にいいんだけど、もう片方の腕で俺の腰を抱いてるもんだから座れないし動けない。膝で立ったまま俺は白河に扱かれている。

「ちょっ……おい、待て! これ……、俺が触れないだろ」
「順番」

 コスコス手を動かしながら白河が俺の顔をじっと見る。

「なに見てんだよ……っ」
「岡本の顔」
「わかってるよ、なんで見てんだって聞いて……っ」

 しゃっくりが出たみたいに咽喉が弾んだ。今日も白河の手つきは絶妙で、あっという間に完立ちだし、なんだったら気を抜くともう出てしまいそうだ。

「ふっ……んっ、あ……あ……」
「嘘みたい。嘘じゃないよな?」
「なに……がっ……?」
「凄く気持ちよさそうに感じてるから」
「殺す! あ……っ」
「そういうの、かわいいと思うけど」

 クニクニと親指と人差し指で先端を揉まれてもうイキそうになった。

「あっ、待って……、白河っ……」

 思わず頭に抱き付いた。整髪料もなにも付けていない白河から漂う体臭に体の奥底が痺れたようになる。前回も思ったけど、嫌なにおいじゃない。むしろ好きな匂いかもしれない。

「あぁっ、あっ、嫌だ……って、待て、まだ……っ」
「早いから嫌なのか?」

 俺の腕のなかで白河が言う。いまさらこいつに取り繕っても仕方がないので正直にコクコクと頷いた。

「また前みたいに何回も出せばいいよ。俺がしてあげるから」
「…っ…なんかお前……エロい……」
「どこが」

 って白河が笑う。たぶん白河は根が真面目で優しい性格だから、親切心からそう言ってくれてるんだろう。エロく聞こえる俺が助平なだけなんだ。




夜はともだち

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