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2度あることは(1/2)

2015.10.21.Wed.
※フェラだけ

 取引先の工場見学に行くことが決まった。勉強目的なのでデジカメも持って行ったほうがよさそうなのだが、写真が趣味でもない独身の俺が持っているはずもなく、安いの一個買うかなぁという話を、居酒屋で同僚の堀田に話したら、使ってないデジカメがあるらしく貸してもらえることになった。

 翌日、堀田はデジカメを忘れず持ってきてくれた。帰宅してから操作確認もかねて、充電したあと電源を入れてみると、堀田が撮ったと思われる写真が何枚か残されていた。

 日付は一昨年のものだ。花見に行ったのか桜の写真や、どこかわからない風景写真、部署内で行われた忘年会の写真もあった。懐かしいと思いながら写真を進めていくと、赤い顔で目を逸らしている堀田が現れた。場所はなぜかトイレの個室だ。

 なんだこれは、と訝しみながら次の一枚を見て驚いた。堀田が口いっぱいに男根を咥えこんでいる写真が写っていたのだ。咥えているのはまさか堀田本人のものではあるまい。アングルから見て撮影者のものだろう。

 堀田が誰かのものをしゃぶっている写真が4、5枚続き、最後は顔に白いものをかけられた堀田が写っていた。

 とんでもないものを見てしまったと、デジカメを持つ手が震えた。

 堀田はこれを知ってて俺に貸したのだろうか。それとも忘れていてうっかり渡してしまったのだろうか。

 というかあれは一体何なのだ。堀田はホモなのか。恥じらってはいるようだったが、しゃぶっている顔に嫌悪はなかったように思える。嫌だったら根本までぐっぽり咥えこんだりしないだろう。

 いや、それとも、何者かに弱みを握られ脅されていたのだろうか。仕方なく男のちんこをしゃぶっているような上目使いには見えなかったが。

 堀田ホモ説、脅されてむりやりフェラ説。あとどんな可能性があるだろう。俺へのどっきりか。あれはただの合成とか、ちんこはよく出来た偽物とか。だが、あの陰毛の具合とか、ちらりと見える撮影者の肌は、どう見ても本物だった。

 堀田がわからない。堀田の意図がわからない。堀田の真意がわからない。

 インパクトのある画像が頭から離れず、その夜は堀田とホモセックスする夢を見てしまった。

 ※※※

 翌朝、出社すると、コーヒーメーカーの近くで部長と談笑する堀田を見つけた。そういえば堀田は部長のお気に入りだ。俺が今年行く工場見学も、本当は堀田が先に声をかけられていたのに、その日は他の取引先と外せない商談があるからと断っていた。だから面倒な工場見学が俺にまわってきたのだ。

 もしかして、あの写真の相手は部長だろうか。ロマンスグレーで独身貴族の色気があると女子社員に人気の部長が、堀田にトイレでフェラさせて、それを写真におさめる変態だったとは。

 見る目がかわるといろんなものが違う意味を持つようになり、新しい発見もあった。部長はボディタッチが多かった。俺が見ている間だけで、もう2回、堀田に触っている。肩や背中を触られても、堀田はちっとも嫌そうな顔をしない。

 ということは、あれは同意の上で行われたということか。二人はそういう仲だというわけか。

 言われてみると、堀田は由香利ちゃんの露骨なアプローチになびかなかった。一昨年の忘年会の時も、周りのお節介な連中が二人をくっつけようと、由香利ちゃんと堀田を幹事に指名した。

 由香利ちゃんは距離を縮めようと堀田に積極的だった。当時由香利ちゃんのことが好きだった俺は見ていて辛かった。当の堀田は素知らぬ顔で由香利ちゃんのアピールを受け流していた。このすかし具合が面白くなくて、この時の忘年会で俺は吐くまで飲んでしまった。

 ホモだから堀田は由香利ちゃんに興味がなかったのだ。もっと早くに知っていれば。

 当然ながら二人が付き合うことはなかった。由香利ちゃんは合コンで知り合ったという出版社勤務の男と付き合い出したと年明けに聞いた。忘年会で自棄酒したからか、俺もなぜか吹っ切れていて、その情報を聞いてもショックはなかった。

 あれ以降も堀田に浮いた話は聞いたことがない。俺の知る限り彼女もいない。思い返せば部長とはよく喋っているし、飲みに行く回数も他より多いんじゃないだろうか。

 考えれば考えるほど、部長と堀田は怪しい関係に見える。神聖な職場で朝っぱらからホモ同士いちゃつくとはけしからん奴だ。

 社内で堂々とで部長といちゃついていた堀田がこちらにやってきた。

「おはよう」

 俺が何も知らないと思っていつも通りの笑顔で話しかけて来る。

「デジカメ、ありがとな」
「一応動作確認はしたんだけど、大丈夫だった?」
「ぜんぜん問題なし。忘年会の写真が写ってた」
「えっ? あ、一昨年の! 俺が幹事やった時のだ。もう一人の幹事の子がたくさん写真撮っててくれてたから、俺のは現像出さなかったんだ」

 あんなもん現像に出したら警察に捕まるぞ。というか、堀田には由香利ちゃんの名前を言うほどの興味もないのか。だってホモだもんな。

「全部見てないのか?」
「最初のとこしか見てなかったなぁ。何かやばいの写ってた?」

 冗談めかした口調。堀田はあんなものが残っていたと気付いていない様子だ。これは俺も黙っておくべきだろうか。見なかったことにして、あの画像もこっそり消去してからデジカメを返したほうがいいのだろうか。

 知らんぷりをしようと気持ちが傾いていたのに、

「――――見ちゃった」

 思いとは反対の言葉が出た。

「なにを?」

 堀田がきょとんと聞き返す。

「今日、仕事のあと、部長と約束ある?」
「部長と? 何もないけど」
「だったら飲みに行こう。その時話す」

 堀田は不安そうな顔で「わかった」と返事をした。

 ※※※

 一昨日と同じ居酒屋に来た。酒とあてになるものをいくつか注文したあと、おしぼりで手を拭いながら「話って?」と堀田が切り出した。

「お前って、部長と仲いいよな」
「そうかな?」
「割と親しげに見える」
「普通だろ」
「今日も、なんだかんだ部長と話し込んでたし、部長に触られてたし」
「そうだっけ? よく見てるな」

 揺さぶりをかけてみても、堀田はポーカーフェイスを崩さない。部長を意識していない証拠か、堀田の演技力がただものじゃないレベルなのか。それとも相手は部長じゃなかったのかもしれない。

 注文した酒とつまみがテーブルに届いた。堀田が日本酒をちびりとやった。

「で、話って?」
「うん。デジカメ、ありがとな」
「それはもう聞いたって」
「全部見た」
「別にいいよ。どうせたいしたもの写ってなかっただろ」

 たいしたもんが写っていたから、俺は大混乱しているんだぞ。

「なんか……、合成かなっていうのが写ってた」
「合成? どんな?」

 まったく心当たりがなさそうな顔で、堀田は焼き鳥の盛り合わせに手をつける。

「お前が……たぶん、忘年会の時だと思うんだけど……トイレにいて……」
「トイレ?」

 と目をあげたあと、堀田の表情が激変した。完全に思い出したようで、零れ落ちそうなほど目を見開いた。顔は瞬間的に真っ赤に茹って、人間の毛細血管すげえと思った。

 言い逃れできない状況だ。どんな言い訳も、あの画像の破壊力の前には無力だ。

 堀田はぎこちなく目を伏せた。唇を何度も舐めて、おしぼりで汗を拭った。

「…………残ってた……?」

 蚊の鳴くようなか細い声がやっと聞こえた。

「あれ、本物?」
「え、どういう意味……?」
「ちんこしゃぶったの?」

 堀田はうなだれるようにさらに深く頭をさげた。肯定だ。あれは本物なのだ。堀田はちんこをしゃぶったことがある男なのだ。

「堀田ってホモ?」

 見逃してしまいそうなほど小さく堀田が頷く。
 耳も項も真っ赤になっている。

「まさかあんな形で知らされると思ってなかったから、びっくりした」
「ごめん」
「なんか、複雑な心境だよ」
「だろうね」
「今まで通り付き合ってくの、難しいかもしれない」
「……そっか……仕方ないと思う」

 俯いたままの堀田が、グスッと鼻をすすりあげた。

「泣いてる?」
「ごめん、驚いただけだから。俺もまさか、デジカメに写真残ってると思ってなくて」
「人に渡す前にちゃんとデータ確認しろよ。お前ってしっかり者に見えて案外そういうとこ抜けてるんだから」
「ほんと、そうだよな」

 汗を拭うふりをして、堀田はさっとおしぼりを目元に当てた。

「ちょっと顔洗ってくる」

 下を向いたまま、堀田は席を立って店の奥のトイレへ逃げ込んだ。

 言ってしまった。ついに堀田にホモかどうか聞いてしまった。そして堀田はそれを認めた。

 やはり堀田はホモだったのだ。では一体相手は誰だったのだろう。やはり部長か。他に堀田と親しい人間が会社にいたかな。

 うわの空でグラスを空けて、俺も席を立った。まだ堀田が立てこもっているトイレに向かう。




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