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Congratulations(1/2)

2015.09.07.Mon.
※ハッピーエンドじゃない

 大きなマンションの前でバスがとまる。俺はそこでバスをおりて、通い慣れた道を歩く。バス停から五分のところにあるハイツ。チャイムを鳴らすと先生が扉を開けて俺を出迎えてくれる。

「だから、来る前には連絡しろって言ってるだろ」
「サプラーイズ」
「俺が喜ぶサプライズにしてくれ」
「じゃあ、次の数学のテスト、100点取る」
「よし、言ったな。とびきり難しい問題にしてやる」
「そんなことしたら平均点が下がって先生が困るんじゃないの」
「そうなんだよな」

 頭を掻きながら、先生は俺を中に入れてくれた。

俺が担任の家に出入りするようになったのは高3の夏の初め。仮病を使って保健室でさぼっていたら先生がやってきて、悩みなら相談に乗るぞ、と言ってきたのがきっかけ。

 生徒と一緒にハメを外してくれる性格がウケてるけど、一人にしておいて欲しいときは、距離を取らない先生は少し鬱陶しい。困らせたくなって「先生の家に泊めてよ」と言ったら「泊まらせるのは無理だけど、遊びに来るのはいいぞ」と言われて以来、家にいたくないときはこっちに来ていた。

 今日も大学生の姉ちゃんが彼氏を家に連れ込んだので逃げて来た

「ちゃんと家の人には言ったか?」
「二人ともまだ仕事。姉ちゃんは彼氏の相手するのに忙しそうだったから黙って来た」
「またお姉さんの彼氏が来てるのか?」
「今週二回目」

 先生は腕を組んでうーんと唸った。

「吉沢も受験を控えているし、ご両親にそれとなく言ってみたらどうだろう」
「……別にいい」

 俺が家に居づらいわけ。姉ちゃんの彼氏が原因だと先生はわかっている。だけどそれは付き合う男女に思春期の俺が動揺しているせいだと思っている。間違ってはいないけど、本当の理由は少し違うところにある。

 奥の部屋へ進む。先生は机の上のパソコンを閉じた。俺に見られてまずいもの?

「エロサイトでも見てた?」
「ばか、仕事してたんだよ」
「先生、彼女いるの?」
「今はいないよ」
「彼女いたことあるの?」
「あるに決まってるだろ、お前、俺をなんだと」
「じゃあ、付き合ってる時、エッチなことしてた?」
「そりゃあお前……俺も大人だからな、それなりには」

 先生が俺の知らない女と抱き合ってる姿をつい想像してしまう。そしたら、先日目撃してしまった姉ちゃんと彼氏がいちゃついてる場面が頭に甦った。友達の家から帰ったら、リビングのソファで男が寝そべってて、姉ちゃんは男の股間に顔を埋めてた。髪をかきあげながら男の陰茎をうまそうにしゃぶっていた。

 フェラチオに夢中の姉ちゃんは俺が帰って来たことに気付いてなかったけど、男は俺に気付いて、「しーっ」と人差し指を口に当てた。俺は黙って自分の部屋に向かった。

 見られてしまったからか、男はあれ以来両親が共働きでいないのをいいことに大胆に姉ちゃんに絡むようになった。俺が見ている前で姉ちゃんの胸を触ったりキスしたり。姉ちゃんは「弟が見てるから」と止めようとするけど、男の方は面白がってやめる様子はない。

 先生も姉ちゃんの彼氏みたいに、彼女の胸を触って、キスして、ちんこを舐めさせていたのかな。きっと、当たり前にそういうことをしていたんだろう。

「お前が見てる前で二人はいちゃつくのか?」

 先生の声に我に返った。肩を竦めつつ頷いた。先生は深いため息をついた。

「やっぱり親御さんに言ったほうがいいと思うぞ。勉強に集中できないだろう?」
「俺がここに来るの、迷惑?」
「そういう意味じゃないんだ。いつでも来ていい。だけど家で落ち着けるのが一番だ。そうだろう?」
「もう手遅れだよ。頭から離れないんだ」
「……なにがだ?」
「姉ちゃんが彼氏にフェラしてるとこ。見ちゃったんだよね」

 先生は難しい顔で口を閉じた。

「あの光景が目に焼き付いて、気が付くと思い出してるんだ。男のちんこが、姉ちゃんの口の中、出たり入ったりするところ」
「吉沢」

 もういい、と言う様に先生は俺の肩に手を置いた。だけど俺の口は動き続けた。

「一人で部屋にいる時とか思い出して、それをオカズにしてマスかいちゃうんだ」
「高校生なら普通だ」
「でも俺が思い出すのって、姉ちゃんの彼氏のちんこなんだよね。自分にもくっついてるもの思い出して、どんな味なんだろう、どんな舌触りなんだろうって、そっちばっかり気になるんだ。これって普通じゃないよね」

 絶対誰にも言えない俺の秘密だった。自分の異常な部分を誰にも知られたくないと思う反面、誰かに打ち明けたいとも思っていた。先生なら誰にも口外しないという確信があるから言えた。

「……確か、吉沢はいま女の子と付き合ってたよな?」

 先生が神妙な顔で尋ねる。よく知ってるなと思いつつ頷く。

「うん。女大好きだよ。かわいいと思うし、エロい気分にもなる」
「今まで男に興味があったことはあるのか?」
「わかんない。考えたこともない」
「お姉さんの彼氏が好きなのか?」

 いきなりの質問に面食らった。それこそ考えたこともなかった。姉の彼氏という興味以外抱かなかったのが、フェラの現場に居合わせてしまってから、男を意識するようになっただけ。それ以上のなにかはないはずだ。

「それもわかんない。でも、どうこうなりたいとかは一切思ってない。たぶん気の迷いってやつだし」
「急いで結論を出す必要はないだろう」
「そうかな。勘違いだって思っといたほうが今後楽だよね」
「自分に嘘をつくっていうのか?」
「ホモとか人生ハードすぎるじゃん。俺、女も好きだし勃つし、それでいいじゃん。別に男とヤレなきゃ死ぬわけでもないし」
「お前はそれでいいのか?」

 先生は険しい顔つき。その目に同情とか憐れみとかが見て取れて、なんとなくむかついた。

「じゃあ先生は俺にホモになれっていうの? どこにそんな相手いるんだよ。誰かを好きになったって、どうせ辛い思いしかしないだろ。そんなの嫌だよ。だったら誰も好きにならないで、なんの経験もしないで、自分に嘘ついてるほうがいい。俺はそっちのほうが楽だ」
「楽かもしれないけど、お前は本当にそれでいいのか? 始めから諦めてすべて手放して、それで幸せな人生なのか?」
「だったら先生、相手してよ」

 先生は見たことない表情で絶句していた。何か詰め込まれたみたいに口を半開きにして、間の抜けた顔でまじまじと俺を見つめた。

「俺が本当にホモかどうか、確かめさせてよ。そこまで言うなら、できるでしょ」

 さすがに先生でも無理だろうと思っていた。拒絶されると思ってたのに、先生は俺を抱きしめると「わかった。俺に出来ることはする」と腕に力を込めて来た。




1円の男

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