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その後(3/3)

2015.05.11.Mon.
<前話はこちら>

 仕事が終わったあと、自分の家に帰ってシャワーを浴びた。軽く寝るだけのつもりが熟睡してしまい、起きたらもう出勤時間ギリギリだった。

 急いで支度して仕事に出かけ、配達の終わった夕方、スーパーに寄ってから斉藤のアパートに向かった。

 合鍵を使い、部屋に入る。
 斉藤はまだベッドの上だった。薄目に俺を見ると再び目を閉じて寝息を立て始める。

 邪魔しないよう静かに部屋を片付けたあと、台所に立って夕飯作りにとりかかった。今日は焼き鳥丼だネットでレシピを確認しながら味噌汁と焼き鳥を作っていたら廊下からヒールの足音が聞こえて来た。

 それは部屋の前で止まり、インターフォンを鳴らすと扉をノックした。

「斉藤さん、いないの?」

 外から女の声が呼びかける。俺は台所から顔を覗かせて斉藤を見た。ベッドの斉藤はピクリとも動く気配がない。

 こんな大きな音や声を聞き逃すほど斉藤は熟睡なんてしない。相手が誰かわかった上で、対応するより寝るほうを選んだとしか思えない。

 女がもう一度呼びかける。斉藤はやはり動かなかった。

 外からガサガサと物音がしたあと、ヒールの音が遠ざかって行った。

「出なくて良かったのか?」

 気配が完全に消えてから斉藤に声をかけてみた。返事はなく、静かな寝息が聞こえて来るだけだった。

 俺も台所に戻って料理の続きをした。
 タレを絡めた肉を、ご飯を盛った丼に乗せて刻みのりとネギを散らす。

 味噌汁を温めなおす間に、外に出て音の正体を確かめてみた。ドアノブにビニール袋が引っかけてあった。

 中には饅頭と、手帳から千切ったようなメモが入っていた。

『やっぱり田舎に帰ることにしました。会って直接お別れを言いたかったのに残念です。実はこの前ここにかくまってもらったとき、このまま一緒に住んじゃおうかなって思ってたの。だけど私がいる間、あなたは一度も帰って来なかったわね。操を立てるいい人が出来たってこと? 斉藤さんのこと好きになりかけてたから、ちょっと残念。
 今まで色々ありがとう。さようなら』

 なんだか見てはいけないものを見た気がして、急いでメモを袋に戻した。

 ヒールの女はやはり斉藤が用心棒をしていた水商売の女だった。女を匿ってる間、斉藤は部屋に帰らなかった。セックスもしなかったことになる。

 メモにある通り、誰かに操を立てて? まさか俺に? いや、ありえない。斉藤に限ってそんなこと。たまたま宿直と事件が重なっただけだろう。

 期待を封じ込めて部屋に戻った。味噌汁をに椀に注ぎ、丼と一緒に部屋のテーブルへ運ぶ。

 待ち構えていたように斉藤がベッドから体を起こした。

「どんどんレパートリーが増えていくな」

 テーブルの料理を見て斉藤が感心したように言う。

「これ、外にかかってた」

 饅頭の入った袋を渡した。斉藤は中を確かめ、メモに気付くと取り出して目を通した。読み終わると無表情に袋に戻す。

「いいのかよ」
「何がだ」
「あんたのこと好きだなんて言ってくれる奇特な女、このまま帰していいのかよ」
「勝手に読んだのか」
「悪戯かもしれないと思って。あんた、いろんな奴から恨みかってそうだし」

 確かに、と斉藤は声を立てて笑った。

「前にも言っただろ。あいつとはただの利害関係だ。何度か寝て情がわいたのを勘違いしてやがるのさ」

 決めつけるように言うと斉藤は箸を取り、味噌汁に口をつけた。

 斉藤の言う通りなら、俺のなかにある感情も勘違いということになる。本当にそうならどれほどいいか。

「あんた、あの女とやってなかったんだ? いい人って誰だよ?」

 からかうように顔を覗きこむと、斉藤は上目使いに俺を見ながら口角を持ち上げた。

「お前だ、って言って欲しいのか?」
「なっ……ばっかじゃねえの!」

 暗に期待していたことを指摘されてかぁっと顔が熱くなる。

「言っとくけどな、俺は意外とモテるんだぞ」
「妄想だろ」
「お前だって俺に夢中だろうが」
「だ、誰がっ!!」

 心臓をぎゅっと鷲掴まれたように鼓動が苦しくなった。自分でも顔が赤らんでいるのがわかる。脇にじとっと汗が滲み出る気配。

「体に聞けばわかる。ヤッてる時のほうがお前は正直だからな」

 箸を置いて斉藤が腰をあげた。俺を押し倒しキスしてくる。すでに手は服の中だ。

「……っ、飯、だろ……っ」
「あとでな」

 ジーンズの上から股間を押されて喘ぎ声のような息が漏れる。そこはすでに痛いほど勃起していた。

「俺の言った通りだろ」
「うるせえな……!」

 したり顔の斉藤にしがみつき、その肩に噛みついてやった。




日陰蝶

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その後(2/3)

2015.05.10.Sun.
<前話はこちら>

 結局、俺がいる間に斉藤が帰って来ることはなかった。なにか事件が起こったのだろう。どこの誰か知らないが、土日はおとなしくしとけ。盗みでパクられた俺が言えたことじゃないけど。

 配達が終わった夕方、戻っているかもしれないと斉藤の部屋を訪れてみた。

 テーブルには、俺が作っておいた焼きそばが寂しく佇んでいる。
 部屋の様子が俺が出る前とまったく同じだったので帰っていないとわかった。

 朝に干しておいた洗濯物を取り込んでからベッドに寝転がって目を閉じる。斉藤が使っている整髪料の匂いがする。

 ウトウトし始めた頃、外の通路に鳴り響くヒールの音で目が覚めた。音で踵の高い女物だとわかる。それが斉藤の部屋の前で止まった。

 インターフォンが鳴った。同時にノックもされる。外の人物は、土曜の夕方なら斉藤が家にいるとわかっているように思えた。斉藤の知り合いかもしれない。

 もう一度チャイムを鳴らしても誰も出てこないから、外の女は諦めたのかまたヒールをカツカツ鳴らしながら来た道を戻って行った。

 斉藤の女の知り合い。頭に浮かんだのは斉藤が用心棒をしている水商売の女。

 何をしに来たのだろう。飯を作りに来てやったのか、デートにでも誘いに来たのか。また昔の男に見つかった相談か。

「自分で解決しろよ」

 吐き捨てるように呟いて布団を被る。

 とりあえず斉藤はいまヒールの女とは会っていない。さっきの女が水商売の女と決まったわけじゃないけど、少しだけ俺の焦りを和らげた。

 また少し眠って、携帯電話のアラームで目を覚ました。夜の十時。部屋は暗い。斉藤の姿もない。テーブルの焼きそばもそのまま。落胆のため息が知らず零れる。

 そろそろ出勤の準備をしないといけない。

 風呂に入ってシャワーを浴びた。俺用の歯ブラシで歯を磨き、斉藤の髭剃りで髭を剃る。
 着替えは持ちこんでいないので服はそのまま、下着は斉藤のものを借りた。

 腹ごしらえのために焼きそばをレンジに放り込む。テレビを見ながら一人で食べていたら、玄関で鍵の開く音が聞こえた。

 帰宅した斉藤が中に入ってくる。

「遅かったじゃん」

 あえてテレビに顔を向けたまま言う。

「ああ。仕事だ」

 声が疲れていた。

「俺の焼きそばはねえのか」
「いつ帰って来るかわかんねえ奴の分なんかあるわけないだろ」
「遅くなったから怒ってんのか?」
「はあ? 頭沸いてんじゃねえの」
「機嫌直せよ。お嬢ちゃんのために買って来てやったんだぜ」

 斉藤はガサガサとビニール袋からシュークリームを取り出した。俺が買って来いと言ったシュークリームだ。

「誰がお嬢ちゃんだよ」

 ふくれっ面でシュークリームを奪い取った。

 どかっと床に腰を下ろした斉藤が焼きそばを手繰り寄せて食べ始める。もともと斉藤のために作ったものだ。食べてもらえるのが嬉しい。豪快な食べっぷりなので尚更だ。

 俺もシュークリームの袋を開けた。

 あっという間に食べ終わった斉藤が台所でお茶をいれて戻って来た。一口飲んで息を吐き出す。

 シュークリームをテーブルに置いた。床に手をつき、斉藤ににじり寄る。

 横目に俺を見て斉藤が笑う。

「時間は大丈夫なのか」
「だから早くしろよ」
「こっちは仕事で疲れてるんだぜ」

 そう言いながら俺を押し倒して口付けてくる。

「…っ……ん……早く……っ……早く……!」
「わかってる」

 斉藤の手が服のボタンを外していく。ズボンと下着は自分から脱いだ。

「早くっ……あんたの、くれよ……!」
「慣らさなくていいのか」
「どれだけ俺を待たせる気だよ……っ!!」
「仕様がねえガキだ」

 斉藤は苦笑を漏らしながらベルトを外して前をくつろげた。俺は体を起こしてそこへ顔を埋めた。

 疲れているせいか反応は鈍かった。時間はかかったが、しっかり立ち上がったところで口を離した。寝転がり、自ら足を広げる。

 斉藤が覆いかぶさってくる。中心部へ熱い怒張を宛がい、抉じ開けてくる。

「くぅ、う、あ、あぁぁっ……!」

 前準備が必要ないほどの興奮で、引き攣るような痛みも快感だった。逆に斉藤のほうが辛いんじゃないかと窺い見る。顔つきがいつもと違った。本当に疲れているようだ。浅ましくサカッた自分が恥ずかしくなる。

 その気になってもらいたくて、服に手を伸ばしたら「触るな!」と叩き落された。

「なん、で」

 思ってもみなかった拒絶に驚く。

「俺はいい」

 眉間を寄せた斉藤が呻くように言った。なんだか様子が変だった。
 服を脱げない理由。記憶に新しいヒールの音が甦って繋がる。

「女のとこ行ってたのかよ」
「どうしてそうなる」
「疲れてんのもあの糞売女と寝てたからだろ! 違うってんなら裸んなってみろよ!」

 嫉妬まる出しの鬱陶しい女みたいなことを怒鳴りながら斉藤のワイシャツに手をかけ、力任せに開いた。音を立ててボタンが弾け飛ぶ。

 あらわれたのは、俺が予想していたキスマークやひっかき傷なんかじゃなくて、白い包帯とコルセットだった。

「……っ……なに、これ……」
「ったく、誰がこのボタンつけるんだよ」

 溜息まじりに斉藤はシャツを脱いだ。痛んだようで顔を顰める。

「どうしたって聞いてんだよ!」

 わけがわからず、俺はヒステリックに叫んだ。

「喚くな。肋骨にヒビが入ってるだけだ」
「なんでっ」
「通報があって現場行ったら、間抜けなコソ泥がまだ部屋に隠れてやがってな。ちょっとした捕り物騒ぎになって、その時に階段から落ちてこのザマだ」

 後半部分を白状するとき、斉藤は少しバツが悪そうに目を細めた。
 帰りが遅かったのはこのためだったのだ。

「入院してなくて大丈夫なのかよ」
「ヒビくらいで入院なんかするわえねえだろうが。バストバンドで固定しときゃ治る」

 話は終わりだと言いたげに俺の足をかかえなおす。

「ちょ、待てよ、そんな体でできるわけないだろ!」
「お前が判断することじゃねえだろう」
「傷に障るだろ!」
「心配してくれんのか?」
「……っ!」

 ニヤつかれて言葉に詰まる。

「――ばか! もう知らねえ!」
「気持ちだけもらっとくぜ」

 言うなり斉藤は腰を使い出した。中で少し緩んでいたものが再び硬くなっていく。

「……っ、ん……」
「拗ねたり、嫉妬したり、心配したり、今日のお前は忙しいな」
「るせえ!」

 中を擦られてだんだん熱が戻ってくる。

 今更ながら斉藤が犯罪者を追いかける危険な仕事をしていることを思い出した。俺だって最初、この部屋で鉄パイプを握りしめて斉藤に襲い掛かったことがあるのだ。

「あんたも年なんだし、内勤にかえてもらえよ」
「まだ37だぞ。働き盛りの俺を年寄り扱いするな」

 中が潤んできたのかピストンがスムーズになってきた。斉藤の速度が増していく。

「はっ……あ、んっ……い、たく、ねえのかよ……っ」
「痛むに決まってんだろ」
「だったら……無理……すン……なよっ」
「ずっとお利口にして俺を待ってたんだろ? メシまで作って。そのご褒美をやんなきゃな」
「ばっ……か、やろう……!」

 身体を倒した斉藤が腰を突き上げて来た。ヒビの入った胸を庇うためか、いつもと違って少し動きがぎこちない。痛むらしく、時折顔を顰める。だが動くのを止めない。

「はぁ、あっ、あぁ、んんっ!」

 斉藤の腰に足を巻き付け、自分から腰を振った。卑猥な音を立てながら深く繋がる。

「ん、あぁんっ……わ、って……さわ、って……っ!」

 俺の足を抱える斉藤の腕に指を食い込ませる。

「どこを触って欲しいんだ?」
「…っ…れの、俺の、ちんぽ、触って……っ!!」

 小さな笑みを見せた斉藤が俺を握って無骨な手で擦り上げる。

「あっ、あぁっ!! きもち、いいっ……もっと……はぁん! あっ! それ……いいっ」
「この、好きもんが」

 言うと斉藤はさらに手つきを早くした。奥も擦られて眩暈がするような快感に目の焦点を失う。

「んあぁん! あっ、あぁっ……待っ……て…出る……あんたも、はやく……っ!!」
「まだ時間は平気だろ」
「ちがっ……あんたの…なか……欲し…ン…だよ……!」

 見上げながら、中の斉藤を締め付ける。

「すっかりちんぽ狂いになりやがって」
「――――ッ……い……あ、ああぁっ……!!」

 からかう斉藤の声を聞きながら俺は射精した。最後の一滴まで斉藤の手によって絞り取られる。

「お望み通り、中に出してやるぞ」

 両手で俺の足を開き、斉藤は激しく腰を打ち付けて来た。

「ひっ、いっ、んあぁ!」
「中出しして欲しいんだろ、お嬢ちゃん」
「ほし…い……なか……欲しい……!」

 出したばかりなのに収まらない興奮のなか、恥ずかしげもなく斉藤にねだる。

「女でなくて良かったな。でなきゃ今頃俺のガキを孕んでるぞ」

 孕む、と男ではありえない単語に最後の理性が焼き切れて、思考が蒸発していく感じがした。

「は……らみ、たいっ……あんたの子……俺……孕ませ、て……くれよ……!!」
「本気かよ」

 少し驚いたように呟いたあと、斉藤は激しく腰を振って俺の中で吐精した。

 斉藤の熱が体に取り込まれる満足感に、俺の顔はだらしなく緩んだ。




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その後(1/3)

2015.05.09.Sat.
前前話「ノビ」前話「再会」

 仕事が終わったその足で斉藤の部屋へ向かった。勝手に入れと渡された合鍵を使って中に入る。

 カーテンは閉まったまま。空気も籠っている。斉藤はまだ寝ているらしい。午前六時過ぎ。そろそろ起きる時間だ。

 足音を忍ばせて部屋の中を移動し、狭い台所に入って冷蔵庫を開けた。先日俺が買ってきた食材がまだ残っている。やはり自分で料理はしないようだ。

 俺だって得意なわけじゃないから簡単なものしか作れない。ただ卵をかき混ぜるだけのスクランブルエッグと、ベーコンとソーセージをフライパンに放置して、その間にトマトを切った。

 刑務所に入る前は食事の内容なんて気にしたこともなかったのに、こうして誰かに食べさせるとなると野菜も採らなくては、と義務の様に思ってしまう。

 炊飯器をあけると黄色く変色したご飯が湯気をくゆらせる。数日前に俺が炊いてそのままだ。しゃもじを突っ込んで奥を探ると白いご飯が出て来たのでそれを茶碗によそった。

 皿を持って奥の部屋へ行くと、布団のなかから斉藤が俺を見上げて欠伸をした。

 なんて声をかけようかと一瞬迷う。おはよう、が妥当なシチュエーションだがなんだか気恥ずかしい。結局ぶっきらぼうに「……メシ」としか言えなかった。

「ああ」

 斉藤も挨拶なしで短く答えるとベッドから起き上がってトイレに向かった。用を足した斉藤が洗面所で顔を洗い歯を磨いている間に、俺は料理をテーブルに並べ、カーテンを開けた。

 明るくなった部屋の様子をついチェックしてしまう。女を連れ込んだ様子はなし。

 2週間ほど前、斉藤が個人的に用心棒をしてやっている水商売の女が転がり込んできた。なんでも付き纏っている昔の男に住所がバレたから、引っ越し先を見つけるまで匿って欲しいとやってきたのだそうだ。

 そういうわけだから、俺が呼ぶまでお前は来るなよ、と電話で斉藤に告げられた。ばか! と怒鳴ってやりたくなったが「関係ねえよ」と電話を切った。

 それから連絡が来るまで五日ほどかかった。その間、斉藤は女と寝食を共にしていたわけだ。肉体関係のある二人だ。当然、セックスもしていただろう。

 利害が一致しただけだと斉藤は言うが、男と女、いつ関係が進展するかわからない。

 女が残して行った歯ブラシは俺が勝手に捨てた。斉藤はなにも言わない。気付いてもいないかもしれない。女のことについては何一つ俺に言わない。

 連絡をもらってすぐ現れた俺を見て、斉藤はただ可笑しそうに笑っただけだ。何か言えば俺がブチ切れるとわかっていたからかもしれないけど。

 テレビを見ながら、斉藤は黙って俺が作った朝食を口に運ぶ。美味しいともまずいとも言わない。ありがとうと言われたこともない。俺もそんなばかな期待はしない。

 ほとんど無言のまま食事を済ませ、斉藤は出勤の支度を始めた。

 土曜であってもほとんど仕事に出ていた。宿直明けでも事件が起こればそのまま続けて夕方まで勤務することも少なくない。おかげで俺が用意した食事が無駄になることもあった。

 俺を酷い目に遭わせてムショにぶちこんだこいつのために、どうしてメシなんか作ってるんだ。

 腹が立ったが、コンビニ弁当ばかり食べている斉藤を見ていたらついスーパーに寄って食材を買い込んでいたのは自分なので文句も言えない。

 ネットで調べたレシピで初めて作った野菜炒めは肉が固く、野菜は半生、味付けは辛いだけの最悪なものだったのに、斉藤はなにも言わずに食べ続けた。

「はっ、人の食いもんじゃねえな。あんたも無理しなくていいよ」

 俺が止めても「お前が俺の為に作ってくれたんだろ」と、口の中の野菜をシャリシャリ音を立てながら完食した。

 その夜は俺の出勤ギリギリまで斉藤と繋がっていた。

「今日はサービスがいいな」

 と揶揄されるほど奉仕した。単純に俺が止まらなかった。
 憎い相手なのに。体が欲しがってしまう。

 支度の終わった斉藤が玄関に立った。

「帰って来てからゆっくり相手してやるからな」
「していらねえよ」

 答えながら、斉藤のネクタイを掴んで引き寄せ、自分から口を合わせた。

 斉藤の手が俺の腰を抱き寄せる。お互いの口の中を弄って朝っぱらから濃厚なキスをする。股間が熱くなるころ、唾液の糸を引きながら離れた。

「物欲しそうな顔するな。行きづらくなるだろうが」
「そんな顔してねえよ」
「昼までには帰る。それまでここで寝てろ」

 待っていろと言われて頬が持ち上がりそうになる。わざとらしいしかめっ面を作って「帰りにシュークリーム買って来いよ」と拗ねた子供みたいにねだった。

「好きだなそれ」

 斉藤が呆れたように言う。

 刑務所で祝ってもらった誕生日でシュークリームが出た。それまで好きでもなかったのに、久し振りに口にした甘いお菓子がとてもうまくて好物になってしまった。

「じゃあ行ってくる」
「……うん」

 いってらっしゃい、とは恥ずかしくて言えない。



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待田くんに春はこない(2/2)

2015.05.05.Tue.
<前話はこちら>

 ぐいぐい唇を押し付けてきながら、肩にも微妙に力が加わる。緩やかに押されている。

 押し返そうとしたら遠野の唇と強固に密着してしまう。だから反対方向へと俺の体は動く。追いかけるように遠野に迫られて、俺はつい後ろに手をつき、さらに肘を曲げて徐々に背中が床に近づく。

 いつの間にか俺は床に寝転がり、その上に遠野が覆いかぶさる格好になっていた。

「とまぁ、こうやって自然に押し倒すわけ。アンダスタン?」
「い、イエスサー」

 心のなかで敬礼しながら唾液まみれの唇をゴシゴシ拭う。さっきまでカッサカサに乾燥していたはずなのに!

「で、このままキスしながら、胸触って、向こうが乗り気になってきたらホックを外せばいい」
「乗り気になったかなんて、どうしてわかるんだ?」
「女の態度で。例えば、抱き付いてくるとか、足が開いてきたとか」

 遠野の膝が俺の足の間に割って入ってきた。膝を閉じられないことがこんなに落ち着かないなんて。

「急ぐと女は冷めるからな。向こうから早くって言い出すまで服の上からじっくりやってやれ。そうすればあとが楽だ」
「ふ、服の上から?!」

 何をすればいいんだ?!

 混乱する俺の想いを見透かしたように、遠野は見本だと言わんばかりにまた俺にキスすると、ブラの上から胸を揉み始めた。あ、また乳首立ってきた……!

「ん、ちょっ……ぅ……遠野っ……!」
「気分出て来た?」

 首筋を舐めながら喋るから息がかかってくすぐったい。ゾクゾクッとした震えが走る。

「ぁ……はぁ……っ」
「ブラをずらして両乳揉むのが好きなんだよね、俺」

 知らねえよ! ってか俺のぺったんこな胸は揉めねえだろ! なんでまた乳首弄ってんだよ!

「っ、あっ!」

 口に含まれた乳首をクチュッて軽く歯で甘噛みされた。なんだいまの。神経弾かれたみたいにビリビリッときた。

「感度いいじゃん」

 笑った吐息が乳首にかかる。俺の口からも息が漏れそうになる。なんか変だ。呼吸が乱れてエッチな息遣いになっている。

 俺も、遠野も。

 遠野は普段見たことないような笑みの消えた顔で俺のあちこちにキスしながら体を弄ってくる。

 そうか。セックスするとき、人間っていつもと違う顔つきになるのか。確かに俺も一人エッチしてる時はだらしない顔つきになってる時がある。いまの遠野はちょっとかっこいいけど。

 待て待て。
 かっこいいとか。遠野相手になに思っちゃってるんだ俺。

 というかもう遠野と普通にキスしちゃってるし。舌入ってきたし。ベロベロ舐められて絡めさせちゃってるし。

 これがベロチューか。やばい。遠野なのに、気持ちいい。もっとしたいとか思ってしまう。

「はぁ……ん……んっ……」
「欲しくなってきた?」
「……え……?」

 寝起きみたいに目をトロトロに蕩けさせて遠野を見上げる。遠野が優しく微笑む。胸がキュンと鳴った。

「気分、出て来た?」
「た、たぶん」
「こっち、凄いことになってる」

 遠野が俺の股間を手で覆う。しっかりテントを張っている。ちょっとやそっとの強風じゃ倒れませんってくらいカチカチだ。

「ブラより先にパンツ脱がせるのもありだから」

 遠野がベルトを外し、俺の目を見つめながらゆっくりチャックをおろす。この焦らされている感じ、これも遠野のテクニックの一つなんだろう。目がとてもいやらしい。

 パンツの上から遠野が先端を包み込む。先走りでじっとりそこが湿っている。それを広げるみたいに手の平をぐりぐり動かされる。

「う、あっ、それ……!」
「すごい濡れてる」

 パンツの中に遠野の手が入ってきて直接俺に触れた。自分じゃない、他人の手の感触。初めての体験に眩暈がした。

「待田、お前、女の子みたいだよ。グチョグチョになってる」
「は、恥ずかしいこと、言うなっ」
「自分でも音、聞こえるだろ?」

 パンツの中で遠野が手を動かす。クチュ、クチュ、と粘ついた水音が聞こえてきた。

「ううっ……うあ……あっ、あ……」

 自分で扱くのとぜんぜん違う。少し的外れな焦れったさがたまらなくいい。

「大洪水」

 って笑いながら円を描くように先端で指を動かす。もうヌルヌルだ。

「…くぅ……んっ、あ、遠野っ……」
「良さげな顔してる。気持ちいい?」
「いい……やばい」
「人にしてもらうの、超やばいだろ」
「うん」
「腰あげて」

 囁くように言われて俺は素直に腰をあげた。遠野がすばやくパンツを脱がせる。外の空気にさらされて、ひやりと感じたのも一瞬、またすぐ遠野に握られていた。

 手を上下に動かしながら遠野は俺の首筋に顔を埋めて、耳の裏にキスしたり、鎖骨を舐めたりする。

「う、あっ、あ、変な声、出るっ」
「感じてんだよ」

 また乳首を吸われた。ちんこも扱かれ続けている。俺は遠野のシャツを握りしめた。

「やばいっ、や、遠野! 出る! 出るって!」
「どーぞ」

 遠野は手つきを速めた。畜生! なんでこんなに気持ちいいんだ!
 今まで感じたことのない解放感に頭を真っ白にしながら俺は射精した。

 俺に馬乗りになったままの遠野が、口の端に笑みを滲ませて、吐き出される白い液体を見下ろしていた。
 ふいに俺と目を合わせた。

「外したの気付いた?」
「え?」
「ホック。外してんだよ?」
「え、あ、ほんとだいつの間に!」
「亀頭責めしているとき」

 まったく気づかなかった!

「遠野すげえ」
「まあな」

 ちょっとはにかみながら遠野が床に腰をおろした。不自然な位置で膝に置かれた遠野の手は、俺の精液でベトついているのが見て取れた。

「あ、ティッシュ」
「あとでいいよ。先にこっち済ませる」

 遠野は自分の前をくつろげると、半立ちになったものを引っ張り出して俺の目の前で扱きだした。

「なにしてるんだ?!」
「見ての通り」

 俺の精液まみれの手で自分のを握って上下に動かしている。

 わ、遠野の、というか、他人の勃起したものを初めて生で見た。色が微妙に違う。俺と違って何度も使ったことがあるからか?

「遠野、お前、興奮してたのか?」
「お前に興奮したんじゃねーから。状況に興奮しただけ、ただの条件反射みたいなもんだから」

 俺の見ている前で遠野のちんこが育っていく。遠野は恥ずかしいのか顔を伏せていた。手の動きに合わせて前髪が揺れる。

「や、やってやろうか?」
「え」

 顔をあげた遠野の表情に、また胸が高鳴る。やらしいことしている時、こいつって妙に色っぽい表情になるんだ。

「やってくれんの?」
「うん」
「ブラジャーつける? 外す練習しながらやる?」
「いや、いい。無理」
「女とやるときは同時進行で両手使っていろいろやんなきゃなんないんだぜ」
「自信がない」
「だろうな」

 俺を馬鹿にするように薄く笑いながら遠野は手を退けた。男のちんこも千差万別。俺とは色も形も大きさも微妙に違う遠野のちんこ。

 俺は緊張しながら握ってみた。遠野がぴくっと動く。他人の勃起ちんこってこんなに熱く感じるのか。

 目線をあげれば、遠野がまた色っぽい表情で手許を見ている。俺がオナるときみたいに、唇は軽く開いていた。気持ちいいのかな?

 恐る恐る手を上下に動かす。擦る動作に遠野の血管が強く脈打つ。

「…は……っ……」

 遠野の掠れた息遣い。俺までいやらしい気持ちになってくる。

 乱れた呼吸をする口元を見ていたら、キスしたくなってきた。さっき何度もしちゃってるけど、自分から、この雰囲気のこの状況でやるのは、とても不自然なことに思えて恥ずかしい。

 俺がじっと顔を見つめていたからか、遠野が睨むように目を合わせてきた。

「……イキそう……」
「えっ、あっ、いいぞ、来い!」

 遠野はたぶんティッシュで受けろという意味だったんだろうが、そこまで頭がまわらなかった俺は、そのまま手つきを速めて射精を促した。

 後ろに手をついた遠野の呼吸が浅く短くなる。目を閉じて、眉間を寄せた。その瞬間、手の中を熱い塊が走り抜けて飛び出して行った。



 遠野を見送ったあと、バレる前に母ちゃんのブラをタンスに戻した。

 帰り際、俺にラインの画面を見せながら遠野が言っていた。

「佐々木は経験豊富だから、初めてのお前にはいいかもしれないけど、俺はあんまお勧めはしない」

 ラインの日付は一昨日。時間は深夜。佐々木は遠野にも別れた彼氏の愚痴を言い、挙句「じゃあ遠野が私と付き合って」とハートの絵文字を送っていた。

 それを見た俺の口からはため息しか出なかった。

「ありがと」

 って遠野を送り出して。

 俺は無意識に自分の右手の匂いを嗅いでいた。手を洗ったのにまだカルキ臭い気がする。遠野の匂い。不思議とムラッとくる匂いだ。




オタクくんの憂鬱

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待田くんに春はこない(1/2)

2015.05.04.Mon.
※挿入なし。

 学校に行けばクラスの半数は女子だ。普通に会話するし、冗談言い合うし、遊びに行くときは女子が混じっていることだってある。

 なのに今まで彼女が出来なかった。

 見た目は普通だ。性格だって普通のはずだ。女子に避けられる要素は思い当たらない。
 告白はした。中3の夏。受験を理由に振られた。

『待田だったら高校入ってすぐ彼女出来るよ』

 って慰めの言葉をもらったが17になるまで一度も彼女が出来なかった。

 もう告白する勇気なんて残ってなくて、出来るだけ誰も好きにならないでいようとしてた。
 そんな俺にもついに春の気配が。

『じゃあ私と付き合って慰めてよ』

 仲のいいクラスの女子から、失恋の愚痴をラインで聞いていたら、こんな一文が送られてきたのだ。
 ただの冗談だよな。ノリだよ。こんなの。本気にしたら馬鹿みたいだぞ。俺も冗談っぽく返さなきゃな。

『俺なんかでいいのかー?』

 びっくりした顔の絵文字と(笑)をつけて送る。

『だって待田、優しいじゃん』

 そのあと『月曜、学校で会うの恥ずかしくなっちゃった』って送られてきて、手汗まじやばいんですけど。

 え。ほんとに俺と付き合う気あんの? それ確かめたいけど必死すぎwwwって思われそうで『じゃあ今日は俺のことだけ考えて寝ろよ(`・ω・´)』ってウケ狙いで送ったら、

『そうする』

 ってハート付きで返ってきた。

 まじどうすんのこれ。付き合うの? こんな流れで付き合うことになっちゃうの?! それが現代の正しい男女交際なの?!



「と、いうわけなんだけど、佐々木の奴、本気だと思う?」

 同じクラスの遠野を家に呼び出して、俺は昨夜のラインのやり取りを見せた。
 読み終わった遠野は「ふっ」って失笑した。

「佐々木かぁ、あいつ男切らしたことないのが自慢の女だぞ」
「お前みたい」
「シャラップ。童貞のお前の筆おろしにはいいかもよ」
「まだそういう関係じゃないし!」
「え、セックスのやり方教えて欲しくて俺を呼んだんじゃないの?」
「え、やっぱ練習しといたほうがいいの?」
「なんの練習だよ」
「そういう雰囲気の作り方とか、服の脱がせ方とか?」
「あー、ブラのホックの外し方とか? ってお前、やる気満々じゃねーか」
「ブラのホック……?!」

 自分で外すんじゃないのか? 男が外すのか? どうやって?! 構造なんか知らないぞ!?

「普通は中学の間に片手で外せるように練習しとくもんだぞ」
「そうなのか?!」

 おうよ、と遠野は答えて「ブラジャー持って来い。教えてやる」と顎をしゃくった。
 言われた通り、俺は母ちゃんのブラを一つ拝借して戻った。

「お前の母ちゃん、けっこう派手なのつけてんだな」

 遠野は母ちゃんのブラジャーを広げてニヤニヤ笑う。みんな赤とか黒とかつけてんじゃないの?! 恥ずかしい!

「いいから、教えろよ!」

 母ちゃんの赤いブラをひったくる。

「じゃ、お前、つけろ」
「なんで俺が?!」
「まず、俺が見本みせてやる」

 なるほどそういうことか。納得した俺は服を脱いでブラを胸にあてた。

「どうやって留めるんだ?」
「仕方ねえな。後ろ向け」

 遠野に促されて後ろを向く。ぐいっとブラを引っ張られて窮屈になったら、それが固定された。

「きつ」
「そうだろ。女ってこんなにしてまで乳を守ってるんだぜ。触るときはありがたく触らせてもらえよ」

 言いながら背中を触られたと思ったときにはもうブラが外されていて、圧迫感がなくなった。

「もう外したのか?」
「おう」
「すげえ。一瞬じゃん」
「コツがあんのよ。それさえわかりゃ簡単なもんだ」

 もう一度、と遠野はブラを留めると俺を前に向き直らせた。

「たいてい向かい合ってる時に外すからな」

 と顔を近づけてくる。うわ、キスか?! 身構える俺の頬をかすめて、遠野の顔が真横にくる。

「キスしながら一発で外せたら童貞のお前の面目一新」

 耳のそばで遠野が喋る。なんだかいい匂いがする。整髪料か。遠野なのに、この至近距離と匂いで胸がどきどきする。

 遠野の手がブラの上から俺の胸をまさぐる。同じ男の遠野にブラをつけた胸を揉まれてるなんて、なんだこの倒錯した状況は。

「ちょ、ちょい、遠野……っ!」
「とかって佐々木が止めようとしても無視して続けろな。乳触らせた時点でOKって思っていい」

 ほんとかよ。あとで無理矢理だったって交番行かれたら人生終わるんだけど!

 遠野はブラを上にずらすと、直に俺の胸を触って来た。指の関節のあたりで乳首を挟まれ、強弱つけて捏ねられる。

「う、わ……っ……遠野……?!」
「気持ちい?」

 って顔を覗きこんでくる遠野とすぐ近くで目があって心臓が飛び跳ねた。近い近い。近すぎる!

「は、はやく、ホック外せよ!」
「こうやって乳を弄りながら、女が気持ちよくなってる間に外すんだぞ」

 クニクニクニクニ……指で捏ねくりまわし、軽く引っ張る。なんだ。なんだこのむずむずとくすぐったい感じ。腰の奥が落ち着かない。あ。くそ。勃ってきた……!

 やばいと思って膝をこそっと引き寄せる。

「うにゃう?!」

 いきなり、乳首を舐められて変な声が出た。遠野はクックッと肩を震わせている。

「なにその声。うける」
「お前が変なことするから!」
「こうやんなって、童貞のお前に教えてやってんだよ」
「そこまで教えていらない!」
「童貞のお前が百戦錬磨の佐々木を満足させられるのか?」
「うっ」
「無理だろ?」
「確かに」
「だったら俺のやることに集中して、しっかり頭に叩きこめ」
「お前は俺の乳首なんか舐めて楽しいのか?」

 遠野は動きを止めると俺を見据えて低い声で言った。

「いじめるぞ」

 不思議なことに、俺の息子がぴくんと反応した。なぜだ。なぜ前より育った!?

 遠野は前髪をかきあげるとまた俺の乳首に舌を這わせた。先で潰すようにしたり、巻き付けて吸い上げたり。乳首を摘まむ指も動き続けている。

 いったいいつホックを外すつもりだ。ホックを外すまでにこんなに時間をかけるのか。童貞にはじれったい。

「…っ……とぉ、のっ……ホック……!」
「……わぁったって」

 遠野が苦笑する。そして片手を俺の背中にまわし、簡単な動作で見事ホックを外した。

「すご」
「だろ」

 どれだけ慣れてんだ。どれほど外してきたんだ。中学の頃に自主練してたのか。
 見もせず片手で外す手本を見せたのに、遠野はまだ俺の乳首を弄り続けている。

「あ、あの、遠野? いつまでやってるんだ?」
「やめる?」
「続ける気?!」
「次はパンツ脱がそうと思ってたんだけど」
「俺のパンツ脱がせてどうするんだよ!」
「お前の勃起したちんこ見てやろうかと」
「見るなよ!」

 勃ってるのバレてた!

「じゃあ次のステップに進むぞ」

 言うと遠野は俺に抱き付くようにして腕をまわして器用に背中のホックを留めた。もう自由自在じゃないか。

「今のは座った状態だったけど、今度は寝転がった状態で外すパターンな」

 寝てる状態?! なんて難易度が高そうなんだ!

「まずは相手を寝転がらせなきゃなんないわけだけど、どうするかわかる?」
「お、押し倒す?」
「強引なのが好きな女にはいいかもしれないけど、童貞のお前がやったらがっついてるみたいだからダメー」
「じゃあどうするんだ」
「キスしながら体重かけてくんだよ。口で言うより実践のが早いから」

 遠野は俺の肩を掴むとグッと顔を寄せて来た。今度はほんとにビタッと唇を合わせてきやがった。

「お、ちょ、待てっ」
「キスぐらいでガタガタ騒ぐな」
「俺のファーストキス」
「男同士はノーカンなの」

 そうなの? そうなのか? いや、違うだろ。カウントされるだろ。いま確実に0から1にカウンターが回っただろ。

 デタラメなことを言ったくせに、遠野は面倒くさそうに舌打ちするとまたキスしてきた。セカンドキスまで奪っておきながら舌打ちとはどういうわけだ!



インテリ君の恋病

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