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楽しいシーソーゲーム!(1/2)

2015.04.29.Wed.
楽しい合宿!楽しいお泊り!楽しい勉強会!楽しい初カノ!楽しいOB会!楽しいロッカールム!楽しい遊園地!楽しい入院生活!楽しい旧校舎!楽しいお見舞い!楽しい合コン!楽しい放課後!楽しい親子喧嘩!

※完結!

 5回戦敗退、8強入りも果たせずに俺たちの夏は終わってしまった……。

 高校野球が終わった寂しさを噛みしめる間もなく中間試験が始まり、受験生だという現実を嫌というほど眼前に突き付けられた。

 たまに息抜きで野球部に顔を出し、グラウンドの隅っこでキャッチボールなんかをさせてもらいながら、来年こそは甲子園に行ってくれと練習する後輩を眺めたりした。

「恵護さん、俺のボール受けてくれませんか!」

 西山を見つけた園が隙を見つけては声をかけてくる。

「それは俺じゃなくて捕手の奴に言えよ」
「恵護さんだって捕手じゃないですか!」
「俺は補欠だし、それに引退したんだぞ」
「関係ないっすよ! 大学行っても野球は続けるんでしょう?!」
「どうだろう?」

 となぜか西山は俺の顔を見た。

「勉強もあるし、バイトもしてみたいし、いろいろ忙しくなるから野球はやらないかもしれないな」

 いろいろ、という言葉が湿っている気がしてぞわぞわと尻のあたりがむず痒くなった。西山の視線と言葉だけで、あれこれ思い出して恥ずかしくなってくる。

 俺はグローブで顔を隠して舌打ちした。

 西山の親父さんのお許しをもらってすぐ、西山の家に呼ばれて仲直りエッチのようなものをした。
 親父さんは留守なのかとか、家政婦さんはいないのかとか、どうでもよくなるくらい俺は感じまくって、よがりまくって、枯れるくらい声をあげた。

 西山には何度も好きだと言われた。「愛してる」と赤面ものの台詞も囁かれた。そのたびに俺は胸をつかえさせて、照れ隠しの暴言を吐いた。

 こんなのが続いたら確実にほだされてしまう。いやもう、ほだされてんのか。

 エッチの最中にまた「卒業したら一緒に暮らそうよ」と西山に言われてはっきり断れなかった。別にいいんじゃねと気持ちが傾いていた。

 親父さんっていう第一関門突破したところで、現実にはまだ問題山積みの関係だっていうのに。

 二人でベッドの中にいるときは忘れていることも、外の世界へ一歩踏み出すと否応なしに問題が浮き彫りになる。俺たちが男同士だっていうこと。まだまだ子供だっていうこと。俺の相手は西山で、西山の相手が俺だってこと。

 いつか破綻するの目に見えてるじゃん。そう冷静になったとき、親父さんに言われた言葉を思い出して、こんなの今だけだと素直になれなくなる。

 一方的に浴びせられる西山の愛情に溺れそうだ。

 能天天気に突っ走れる園が羨ましい。

「たまには園の相手してやれよ、俺は先に帰るから」
「えっ、祐太?!」

 西山を園に押し付けてグラウンドをあとにした。着替え終わった頃、西山が部室に駆けこんできた。

「一緒に帰ろう」
「園は?」
「知らない」

 とあっさり言い放つ。知らないことねえだろ。
 西山は基本優しいれど、こういう切り捨て方も出来る奴なんだと気付いて、俺もいつか……と考えたらちょっと怖くなる。

「あいつ、ほんとにお前に惚れてんだぞ」
「知ってる」

 あっけらかんと答えてユニフォームを脱ぐ。

「ちょっとは気持ち、考えてやれよ」

 好意がないと、こうも簡単に手を振りほどいて背中を向けられるなんて辛すぎる。
 つい、自分に置き換えて西山を非難したら、西山はちょっと驚いたように俺を見た。

「孝雄の気持ちを考えたらどうかなるの? おとなしく諦めてくれるの?」
「そうじゃなくてさ……高校だけじゃなくて、大学まで追いかけていくって決めてるくらいお前のこと好きなんだから、もうちょっと優しくしてやってもいいだろ」
「優しくしたら期待させちゃうじゃん。突き放しはしないけど、特別優しくする必要はないよね」

 至極真っ当な意見を返される。でもちょっとドライすぎないか? 西山にとって好きな奴以外、相手にする時間ももったいない程、どうでもいい存在なのか?

 そういえば合コンのあの日、今すぐ梨香と別れてくると言い出した時も、本当にみんなの前で宣言しそうな勢いだった。そんなことをされたら梨香がどれほど傷ついたことか。

 それがわからない奴じゃないのに。

「お前、冷たすぎんだろ」

 つい、感情に走ってぽつりと零した。西山は少しむっとしたように眉間を寄せた。

「俺が好きなのは祐太だ。そのことは孝雄にも言ってある。それでも俺を好きでいるかどうかは孝雄の自由だから、俺や祐太が気にすることじゃないと思うけど」
「待て、お前、園に俺が好きだって言ったのか?!」
「言ったよ、夏の大会の前に」

 その頃の園の態度を思い出すと納得した。確かにあいつ、俺と西山の関係について断定するような言い方をしていた。
 というか……後輩に知られていたなんて……!

 羞恥心と怒りから体が熱くなってぶわっと全身の毛穴が開いた。

 園もこいつも、どうして周りのことなんかお構いなしで、一途に盲目的に突き進めるんだよ。色々考えて悩んでる俺が馬鹿みたいじゃん。

「お前と園ってお似合いだよ」

 鞄を持って部室を出ようとしたら、まだ着替え途中の西山も追いかけて来た。パンツ丸出しの馬鹿みたいな姿を見たら、自分がつまらないことにこだわる小さな人間みたいに思えて、泣きたくなるくらい情けなくて腹が立って……西山に八つ当たりしたくなったので、俺はその場から逃げ出した。

「祐太!」

 西山がズボンに足を取られて走れないのいいことに、呼び止める声を無視して学校を飛び出した。

 ※ ※ ※

 アラームの前に西山からのラインで目が覚めた。

『おはよう。昨日はごめんね』

 相変らずの内容にため息が出た。

 昨日部室の前で別れたあと、西山からの電話はジャンジャン鳴っていたし、メールもラインも次々送られてきていた。『どうしたの?』『怒ってる?』『ごめんね』という内容が半分。残り半分は『電話に出て』『返事ちょうだい』『心配してる』と俺の安否を気遣うものだ。

 まったく俺を責めやしない。

 一貫した態度にまた苛々する。秋広をいつまでも思い続ける親父さんそっくりだ。あいつもいい大人になってもまだ俺を好きだなんて言っていそうだ。

 腹がグルグルする。胸がムカムカする。朝っぱらから気分が悪い。
 のろのろ起き上がった頃、また西山からラインが入った。

『確かに俺が少し冷たかったのかもしれない。孝雄に優しくするよ』

 自分の意思を曲げて俺に媚びた形の打開案だ。俺は自分で言い出したことなのにむしょうに腹が立って、思わずスマホをベッドに叩きつけていた。



 もう朝練に出る必要もないのに、早めの時間に学校についた。教室に行ったって一人なのでグラウンドのほうへ足を向ける。

 掛け声が近くなり、野球部の後輩たちが練習している姿が見えてきた。俺もあそこにいた頃は、こんな気持ちになることもなかったのに。もうすぐ受験なのにこんなんで大丈夫か俺。

 ぼうっと眺めていたら園がいないことに気付いた。年中元気印の園が休みだなんて珍しい。

 目を動かして探すとバックネット裏を歩く園を見つけた。その横にはなぜか西山もいる。あの大きな体は間違いない。

 どうして西山が?

 二人は部室のあるほうへ向かって行き、俺の視界から消えた。俺の足も、二人のいる方へと動いていた。
 グラウンド側を歩くと他の部員に見つかるので中庭を抜けていく。気持ちが急いて早足になる。

 こんな朝早くから二人きりでどこへ何をしに行くんだ。

『孝雄に優しくするよ』

 頭には今朝のラインの内容がちらついて胸が重くなる。

 西山の言うことが正しいのは俺だってわかっていた。ただ、引っ込みがつかなくなって、自己弁護するみたいに西山を責めていただけだ。

 西山が絶対園を好きにならないとわかっていたから、だから優しくしろと言えた。西山が俺以外の男にまったく興味がないとわかっていたから、園がどんなにアピールしても平気でいられた。

 冷たく園をあしらう西山に安心していたくせに。本当は『優しくするよ』って一言でこんなに不安になるくせに。

 そのくらい、西山のことが――。

 校舎を左に曲がって進んだら部室棟が見えてきた。野球部はグラウンドに近い一番端。

 ほとんど小走りになって扉の前に立った。中から人の気配がする。かすかに聞こえる話し声に耳をすまし、その内容に頭の中が一瞬で茹った。

「……っ……恵護さ……」
「痛いか?」
「ちが、……ぁ……気持ち、い……」
「こら、孝雄、変な声出すなよ」
「だって……あっ、そこ……っ!」
「ここがいいのか?」
「あっ、あっ」
「こんなに硬くなるまで我慢して、馬鹿だな」
「うぅっ、あぁ……そこ、そんな、したら……恵護さんっ」

 全身の血液が沸騰しそうなほどの怒りに我を忘れた。

 あいつの優しくするってのは、セックスしてやるって意味になるのか?!
 ふざけんじゃねええぇぇぇぇっっ!!!

「なにやってんだゴラアァァッッ!!」

 肺活量マックスの大声で叫びながらドアを蹴破った。

「祐太?!」
「中根さん?!」

 ベンチに寝そべる園と、その上に跨る西山が飛び上がらんばかりに驚いて俺を見る。

 あれっ、二人とも服着てる……!?

 って気付いたけど怒りで暴走モードの俺はそのままズカズカ中に入って西山の胸倉を掴むと園の上から引きずりおろした。

 床に尻もちついた状態の西山を見下ろす。
 あれ、ちんこ出てない。ベルトも閉まってチャックもちゃんとあがってる。

「朝っぱらからなにやってんだよ!!」
「なにって……え、どうしてそんなに怒ってるの?」

 浮気現場を押さえられたはずなのに、西山はまったく言い訳をするでもなく、ただ俺の剣幕に驚いた様子で目をぱちくりさせる。ベンチから身体を起こして茫然と俺を見つめる園にも着衣の乱れは見られない。っていうか肩にタオルがかけられている。

「西山、お前っ、お前……っ!」

 まだ興奮状態だけれど、二人の状態を見る限りセックスしてたわけじゃないことがわかってきた。
 というか、これ、ただマッサージしてただけじゃね? 

 自分の壮大な勘違いに気付いて動機が激しくなって卒倒しそうになった。

「おま、お前、お前ら……こんなとこで何やってんだよ! 紛らわしいことしてんな! 馬鹿じゃねえの! 園、お前、一年だろうが! 三年になにやらせてんだよ! 西山、お前もお前だ! この馬鹿が!!」

 完全に八つ当たりモードに入って喚き散らした。

「祐太に言われて反省したから、孝雄に今までの態度を謝ろうと思って。ついでに練習見てたら孝雄の肩の調子が悪そうだからマッサージしてやってたんだけど……」

 まだ事態を把握しきれていない様子の西山が俺に怒られていると思って体を小さくする。こいつが馬鹿でよかった! 馬鹿でよかった!

「素人がマッサージとかなぁ! 揉み返し起こしたらどうすんだよ馬鹿! バァーカ!」
「ごめん……」

 思いっきり理不尽に怒られているのに西山が謝罪を口にする。すると、

「ばっかばかしー……恵護さん、謝る必要ないっすよ」

 白けた顔の園が吐き捨てた。

「この人たぶん、恵護さんが俺と浮気してると思って怒鳴り込んできたんですよ。外で盗み聞きして、セックスしてるとでも思ったんじゃないですか。自分の勘違いだってわかって、いま顔真っ赤にして誤魔化そうとしてるだけですから」

 俺を見てせせら笑う。園は馬鹿じゃなかった……!

「そう、なの?」

 園から俺に向き直った西山の顔が徐々ににやけていく。

「はあ?! そんなわけねえだろ! 勝手にしろよ、お前ら二人が何しようがどうだっていいし!」
「嫉妬、してくれたの?」
「するわけねえだろ!」

 腰をあげて立ち上がった西山が俺の手を掴んで顔を覗きこんでくる。見んな馬鹿!

「俺が孝雄と浮気したと思って、あんなに怒ったの?」
「違うっつってんだろ!」
「祐太の手、熱い。顔も真っ赤だよ」

 俺を抱きしめて「体も熱い」と呟く。

「浮気なんかするわけないだろ。こんなに祐太が好きなのに。愛してるって言ったよね? 俺は本気だよ。祐太は? そろそろ祐太の気持ち、聞かせてよ」
「……っ、うっせ……お前の好きなんか、聞きたくねえ……っ!」
「死ぬまで言い続けるよ。いや、死んでも言い続ける。祐太が好き。祐太を愛してる。一生そばにいる」
「うるせえっ、お前……男同士で……」
「関係ないよね」
「あるだろっ! 差別とかされんだぞ?! 親に紹介も出来ねえんだぞ?! 結婚出来ねえし、子供も作れねえんだぞ?!」
「祐太の両親には俺が土下座して謝るから!」

 西山の口から俺の親の話が飛び出てきて面食らった。いきなりなにを言い出すんだ。

「な……えっ?!」

 お前の話をしているんだぞ?!
 混乱してたら西山に両肩を掴まれた。

「孫の顔見せられないし、大事な長男を俺なんかが奪っちゃって本当に申し訳ないと思ってる。土下座したくらいじゃ許してくれないかもしれないけど、だけど、俺には祐太が必要だから、これだけは誰にどれだけ反対されても譲れない。俺の出来る限りで祐太を守る。どうしても子供が欲しいなら俺は身を引く。二番目で構わないから、そばにいることだけは許して欲しい。祐太の邪魔にならないようにするから。だから、男同士っていう理由なんかで、俺とのことを諦めようとしないでよ」

 今まで見たどの時よりも誠実で、男らしい顔をした西山を、俺は言葉もなくして見上げていた。

 こいつは自分のことじゃなくて、俺のことを真剣に考えてくれていたんだ。俺が西山の人生を考えたように。
 違うのは、俺は後ろ向きで、西山は前向きに考えてたってことだ。

 しがみつくように西山の胸に顔を埋めた。

「お前なぁ……お前は親の会社継ぐんだろ……」
「その必要はないって小さい頃から言われてるんだ。母さんが好き勝手やる人だからね。俺に強制したりしないよ」

 広い胸、逞しい腕の中、大きな手で頭をポンポンされる。この世にここほど安心できる場所は他にない。
 俺はここにいてもいいんだろうか。ここにいることでいつかこいつを傷つけたりしないだろうか。

「お取込み中申し訳ないんですけど」

 突如聞こえた第三者の声に恥ずかしいくらい驚いて顔をあげた。園が白けた顔つきで俺たちを見ていた。
 まじでこいつがいること忘れてたわ。

「そうやって見せつけるの、俺が出て行ってからにしてくれませんか」
「あ、悪い」

 あまり動じていない西山があっけらかんと謝る。園はちょっとふて腐れた様子でため息をつきながら俺たちの横をすり抜けた。

「今は退散しますけど、俺、恵護さんのこと諦めたわけじゃないっすから。大学はもちろん、就職先まで追いかけて行って、絶対俺のこと好きになってもらいますから」

 そう宣言すると園は部室を出て行った。園と西山って、ストーカー気質なところも似ている。

「あいつも諦め悪いな」

 苦笑しながら西山が呟く。その目がとても優しい目つきだったので、俺はちょっと危機感を抱いてしまう。

 西山のことなんて、最初は馬鹿騒ぎが好きな下品な奴って印象だったのに、合宿のあの日を境にぐいぐい言い寄られるようになって、一緒にいる時間も増えて、知らぬ間に、その存在が俺のなかでどんどんでかくなっていて。

 今じゃ、そばにこいつがいないと落ち着かなくなってしまった。失うことを考えると怖くなるほどに。好きだと言われると、蕩けるくらい幸せを感じてしまうほどに。

 いつの間にか西山と同じくらい、いや、もう西山以上に俺のほうが好きになっているのかもしれない。

「あいつと浮気したら、ぶっ殺すかんな」

 俺の声に西山は視線を落とした。

「するわけないだろ。祐太がいるのに」

 さっきより百倍優しい笑顔で俺にキスしてくれた。




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