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楽しい合コン(2/2)

2015.04.06.Mon.
<前話はこちら>

 時間になり、カラオケボックスへ移動した。飲み物の食べ物を注文し、順番に歌をうたう。

 綾瀬は雪江とうまくいっているみたいで、よく笑いあって、触れ合うほど距離も近い。西山と梨香はもともと恋人同士だから隙間なくぴったりくっついている。
 こうして見るとお似合いの二人だった。梨香はもちろん、西山も楽しそうだ。

「私、この歌好きなんだ」

 端末を見ながら隣の遥が言った。

「どれ? あ、俺も好き」
「ほんと?! 学校で知ってる子があんまりいなくって」
「ちょっとマイナーだからね」
「でも祐太くんが好きだったなんて嬉しい! ライブのDVDは買った?」
「買ってない。持ってるの?」
「もちろん! 今度貸そうか?」
「いいの?」
「いいよ! あ、じゃあ、ライン教えてもらってもいい?」

 この自然な流れに驚きを禁じ得ない。実は相当遊び慣れてるのかなとIDをそらで言える遥の顔をこっそり見る。

「俺も教えてよ」

 西山が割って入ってきた。俺と遥の携帯にプリクラのシールを発見し、ちらっと俺に視線を送ってくる。お前だって撮ってただろうが。

 じゃあ俺らも、と便乗した綾瀬たちもスマホを取り出し、全員で連絡先を交換した。

「またこのメンバーで遊びに行きたいね。今度トリプルデートしようよ」

 梨香の提案に、遥と雪江も「いいね」と顔を綻ばせる。綾瀬なんかは願ってもない申し出に何度も頷いちゃってる。

 西山はあまり乗り気じゃなさそうな、微妙な笑い方をしていた。俺を見て咎めるように眉間を寄せる。お前にそんな顔する資格あるのかよ。
 睨み返してから目を逸らした。

 歌って、飲んで、食って、喋って。

 最初は強めの視線で絡んできた西山も、俺が無視し続けていたらだんだん気の弱い目になって、今では自信なさげに項垂れていた。

 綾瀬がトイレ、と席を立ったので俺もついて部屋を出た。案の定、西山も追いかけて来る。

 俺は綾瀬とばかり話をして西山を視界から追い出した。恨めし気な目が向けられる。冷たく見返したら、西山は途方に暮れた顔で肩を落とした。そんな顔したって知るか、二股野郎。

 手を洗ってトイレを出ようとする俺の腕を西山が掴んだ。

「綾瀬くん、先行ってて」

 俺を引き留めて西山が言う。綾瀬がきょとんと俺を見る。頷くと綾瀬はトイレを出て行った。
 俺は西山の腕を振り払った。

「なんだよ」
「怒ってる?」
「またそれかよ。怒ってねえって」
「俺、なにか悪いことした?」

 彼女キープしつつ俺のこと好きだのなんだの口説いてただろうが! 怒りが一気に込み上げて来たが、それを飲みこんで一息ついた。

「…………もうこういうのやめにしね?」
「こういうの?」
「お前にはちゃんと彼女いるじゃん。なのに俺ともって……おかしいだろ、常識的に考えて」
「梨香とは別れたって言ったよね」
「別れてねえだろ、距離置いてただけだろ」
「え――……あ、梨香はそう言ってたけど、俺は別れたつもりだ」
「別れても連絡は取り合ってたんだろ?」
「綾瀬くんに頼まれたからだよ。それまで一度も連絡してない」

 険しいほど真剣な顔をして西山が俺に迫ってくる。たぶん、嘘じゃない。西山は別れたつもりでいて、梨香は些細な痴話げんかだと思っていたんだろう。

 父親や梨香ほど詳しくない俺でも、西山が嘘をつかない奴だと知っている。この顔、この目が嘘をついていないとわかる。

「俺がまだ梨香と付き合ってると思ったから怒ってるの?」
「そんなわけねえだろ」
「じゃあ、今から戻ってちゃんと梨香と別れてくる。もう連絡もしない。もう会わないって言ってくるから」

 踵を返す西山の手を慌てて掴む。

「ばかっ! そんなの言わなくていい!」
「じゃあ、信じてくれる?」
「違う……別れる必要がねえって言ってんの!」
「え?」
「だから! もう、終わりにしようって言ってんの」

 意味を探って考え込んでいた西山の眉間の皺がぎゅっと深くなった。

「それ……俺とのこと、言ってるの?」
「そうだよ」
「なんで?」
「男同士でこんなのいつまでも異常だろ」
「異常なんかじゃない! 好きになったら正常も異常もないだろ!」

 目つきを鋭くした西山が声を荒げる。練習以外でこいつの大声を聞くのは初めてかもしれない。

「一緒に住もうって約束したのに!」
「そんな約束してねえよ。お前が勝手に言い出しただけだろ」

 目を見開いて西山は息を吸い込んだ。信じられないって顔で食い入るように俺を見つめたあと、ゆっくり息を吐き出した。

「…………俺、なんかした? なんでそんなに怒ってるの?」

 まだ俺が一時的にへそを曲げてるだけだと思っているようだ。そう願いたいだけかもしれないけど。

「今日、女の子と一緒にいて、やっぱこっちだなって思ったんだよ。俺は男だから。抱かれるほうじゃねえから。お前といたら俺は異常になる。俺は正常がいい。だからお前とは無理。嫌だ」

 俺の言葉を聞いて西山が顔を歪める。見てられなくて俯いた。

「お前もいつか絶対そう思う」
「思わない」

 怒りのこもった力強い声が否定する。

「梨香、ちゃんが……、お前の誕生日にデートしたいって。なんか夜景の見えるホテル取って……とか、言ってた。やったな。俺じゃなくて、ちゃんと女の子の相手したら、すぐ目が覚めるから」
「覚めないよ。ここで一方的に終わらせられたら一生引きずる。俺を捨てるの?」
「捨てるもなにも、付き合ってもねえのに」
「祐太は恥ずかしがりやだから、はっきり好きだって言ってくれないだけで俺は付き合ってるつもりだった」
「好きじゃねえから言わなかったんだよ」
「じゃあなんで俺とあんなことしたんだ?」
「お前に無理矢理やられてたんだ」

 睨めあげると西山は一瞬たじろんだように顎を引いたが、すぐ言い返してきた。

「ほんとに全部、無理矢理だった? 祐太は嫌々俺に付き合ってくれてたのか?」
「合宿でよってたかって俺を押さえつけて強姦したこと、忘れたのかよ」

 ハッとして西山は口を閉ざした。きっとこれが西山の一番の負い目だ。その証拠に西山はなにも言い返せずに目を伏せた。

「もう二人では会わねえ。俺に触るな。俺たちはただの野球部の仲間。それだけだ」
「そんなの俺には無理だ」

 覇気のない声がか細く呟く。

「これ以上お前の好き勝手にやられるのは俺が嫌なんだ。友達なら、やめてくれるだろ」
「いまさら友達になんて」
「だったらもう、赤の他人だ」

 弾かれたように顔をあげた西山はほとんど泣きそうな表情だった。胸が締め付けられる。

「どうせお前はもう練習に出なくたっていいんだし、受験勉強に専念しろよ」

 三年間ベンチ外だった部員は、この時期になると練習には参加しなくてもよくなる。すでに何人かは受験に備えて顔を見せなくなっていた。

「部活に来るなってこと?」
「来たって球拾いと応援練習だろ」
「酷いよ」

 確かに俺は酷いことを言っている。だけどそばにいたらどうしたってお互い意識してしまうだろう。

「でもそれが現実だろ。受験に備えて勉強してるほうがよっぽど有意義だ。じゃ、そういうことだから」
「祐太」

 捨てられた子供みたいに俺の名前を呼ぶ西山を置いて、みんなの待つ部屋に戻った。

 遥の隣に座って他愛のない会話をしてすごく。しばらくして戻って来た西山は梨香が「どうしたの?」と声をかけるほど青い顔をしていた。

「なんでもないよ」

 力のない声で答えて、無理な作り笑いを浮かべる。綾瀬が事情を問う目を俺に向けて来たが、気付かないふりをして遥と会話を続けた。

 梨香はあいかわらず西山にべったりっくっついていた。何が何でも別れる気はないらしい。
 俺には関係ない。どうだっていい。
 相手が梨香なら、西山の父親も文句はないんだろう。

 俺と西山はほとんど目も合わさず、会話に至っては一言も交わすことなく、夜になってカラオケボックスを出た。

「みんなこのあとどうするの?」

 西山の腕に腕をまきつけて梨香が俺たちの顔を見渡した。

「私は恵ちゃんと別行動するから、みんなも好きにしちゃったら?」

 はなからそのつもりらしい綾瀬と雪江が好都合とばかりに頷く。俺は遥に「どうする?」と小声で尋ねた。

「今日はもう疲れちゃったし、あんまり遅くなると……」
「そうだね。じゃあ、送るよ」
「ありがと、祐太くん」

 西山の視線を感じる。だけど俺が顔を前に戻すと同時に背けられた。

 カラオケボックスの前で俺たち三組は別れた。



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