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更新履歴・お知らせ

2017/11/20
雨の日の再会1、更新

2017/11/19
ピンクの唇、完結

2017/11/2
赤い爪、完結

2017/10/28
スカートめくり、完結

2017/10/23
続続続・ひとでなし2、完結

2017/10/22
続続続・ひとでなし1、更新

2017/10/21
続続・ひとでなし2、完結

2017/10/20
続続・ひとでなし1、更新

2017/10/19
続・ひとでなし2、完結

2017/10/18
続・ひとでなし1、更新

2017/09/08
ひとでなし2、完結

2017/09/07
ひとでなし1、更新

2017/09/02
ほんとにあったら怖い話2完結

2017/09/01
ほんとにあったら怖い話1更新

2017/07/28
コンビ愛更新、完結

2017/07/06
第二ボタン2更新、完結

2017/07/05
第二ボタン1更新

2017/05/25
ちょろくない2更新、完結

2017/05/24
ちょろくない1更新

2017/05/16
やっぱちょろい2更新、完結

2017/05/15
やっぱちょろい1更新

2017/02/11
メリクリあけおめ2更新、完結

2017/02/10
メリクリあけおめ1更新

2016/11/14
義父の訪問更新、完結

2016/10/27
覗き2更新、完結

2016/10/26
覗き1更新

2016/10/22
終わらない夜2更新、完結

2016/10/21
終わらない夜1更新

2016/10/16
凹の懊悩2更新、完結

2016/10/15
凹の懊悩1更新

2016/09/28
可愛さも憎さも百倍2更新、完結

2016/09/27
可愛さも憎さも百倍1更新

2016/09/22
利害の一致2更新、完結

2016/09/21
利害の一致1更新

2016/09/16
楽しい記憶喪失!3更新、完結

2016/09/15
楽しい記憶喪失!2更新

2016/09/14
楽しい記憶喪失!1更新

2016/09/13
楽しい同棲!2更新、完結

2016/09/12
楽しい同棲!1更新

2016/09/11
Phantom15更新、完結

2016/09/10
Phantom14更新

2016/09/09
Phantom13更新

2016/09/08
Phantom12更新

2016/09/07
Phantom11更新

2016/09/06
Phantom10更新

2016/09/05
Phantom9更新

2016/09/04
Phantom8更新

2016/09/03
Phantom7更新

2016/09/02
Phantom6更新

2016/09/01
Phantom5更新

2016/08/31
Phantom4更新
リンク一件追加

2016/08/30
Phantom3更新

2016/08/29
Phantom2更新

2016/08/28
Phantom1更新

2016/08/04
嘘7更新、完結

2016/08/03
嘘6更新

2016/08/02
嘘5更新

2016/08/01
嘘4更新

2016/07/31
嘘3更新

2016/07/30
嘘2更新

2016/07/29
嘘1更新

2016/07/18
Love Scars3更新、完結

2016/07/17
Love Scars2更新

2016/07/16
Love Scars1更新

2016/07/13
行きつく先は5更新、完結

2016/07/12
行きつく先は4更新

2016/07/11
行きつく先は3更新

2016/07/10
行きつく先は2更新

2016/07/09
行きつく先は1更新

2016/07/04
電話が鳴る7更新、完結

2016/07/03
電話が鳴る6更新

2016/07/02
電話が鳴る5更新

2016/07/01
電話が鳴る4更新

2016/06/30
電話が鳴る3更新

2016/06/29
電話が鳴る2更新

2016/06/28
電話が鳴る1更新

2016/06/16
今日の相手も2更新、完結

2016/06/15
今日の相手も1更新

2016/06/08
今日の相手は2更新、完結

2016/06/07
今日の相手は1更新

2016/05/25
いおや2更新、完結

2016/05/24
いおや1更新

2016/05/14
奇跡2更新、完結

2016/05/13
奇跡1更新

2016/04/28
ターゲット2更新、完結

2016/04/27
ターゲット1更新

2016/03/02
視線の先2更新、完結

2016/03/01
視線の先1更新

2016/02/23
性癖の道連れ2更新、完結

2016/02/22
性癖の道連れ1更新

2016/02/15
DL販売お知らせ

2016/01/20
尾行2更新、完結

2016/01/19
尾行1更新

2015/12/07
遺作2更新、完結

2015/12/06
遺作1更新

2015/12/02
昼夜2更新、完結

2015/12/01
昼夜1更新

2015/11/26
大小2更新、完結

2015/11/25
大小1更新

2015/11/15
彼はセールスマン2更新、完結

2015/11/14
彼はセールスマン1更新

2015/10/22
2度あることは2更新、完結

2015/10/21
2度あることは1更新

2015/09/18
死神さんいらっしゃい2更新、完結

2015/09/17
死神さんいらっしゃい1更新

2015/09/08
Congratulations2更新、完結

2015/09/07
Congratulations1更新

2015/09/01
待田くんに春の気配3更新、完結

2015/08/31
待田くんに春の気配2更新

2015/08/30
待田くんに春の気配1更新

2015/08/11
亀の恩返し2更新、完結

2015/08/11
亀の恩返し1更新

2015/08/07
Aからのメール2更新、完結

2015/08/06
Aからのメール1更新

2015/07/06
5年後2更新、完結

2015/07/05
5年後1更新

2015/07/04
待っててね2更新、完結

2015/07/03
待っててね1更新

2015/05/11
その後3更新、完結

2015/05/10
その後2更新

2015/05/09
リクエスト小説
その後1更新

2015/05/05
待田くんに春はこない2更新、完結

2015/05/04
待田くんに春はこない1更新

2015/04/30
楽しいシーソーゲーム!2
更新、完結

2015/04/29
楽しいシーソーゲーム!1更新

2015/04/21
楽しい親子喧嘩!1
楽しい親子喧嘩!2更新、完結

2015/04/16
楽しい放課後!2更新、完結

2015/04/15
楽しい放課後!1更新

2015/04/06
楽しい合コン!2更新、完結

2015/04/05
楽しい合コン!1更新

2015/04/01
楽しいお見舞い!2更新、完結

2015/03/30
楽しいお見舞い!1更新

2015/03/24
楽しい旧校舎!2更新、完結

2015/03/23
楽しい旧校舎!1更新

2015/03/16
楽しい入院生活!2更新、完結

2015/03/15
楽しい入院生活!1更新

2015/03/05
楽しい遊園地!2更新、完結

2015/03/04
楽しい遊園地!1更新

2015/02/27
楽しいロッカールーム!2更新、完結

2015/02/26
楽しいロッカールーム!1更新

2015/02/16
楽しいOB会!2更新、完結

2015/02/15
楽しいOB会!1更新

2015/02/14
一周年!!
いつもありがとうございます!
君は日向の匂い更新、完結
シンデレラアイドルのSSです

2015/02/13
保健室の先生2更新、完結

2015/02/12
保健室の先生1更新

2015/02/11
teeth2更新、完結

2015/02/10
teeth1更新

2015/02/09
楽しい初カノ!2更新、完結

2015/02/08
楽しい初カノ!1更新

2015/01/31
楽しい勉強会!2更新、完結

2015/01/30
楽しい勉強会!1更新

2015/01/23
楽しいお泊り!2更新、完結

2015/01/22
リクエスト小説
楽しいお泊り!1更新

2015/01/08
明けましておめでとうございます!
本年も宜しくお願い致します!
リクエスト小説
両想い1、2更新、完結

2014/12/12
楽しい合宿!2更新、完結

2014/12/11
楽しい合宿!1更新

2014/12/01
アガルタ2更新、完結

2014/11/30
リクエスト小説
アガルタ1更新

2014/11/23
朝のお楽しみ2更新、完結

2014/11/22
リクエスト小説
朝のお楽しみ1更新

2014/11/14
即位式2更新、完結

2014/11/13
即位式1更新

2014/11/04
裏ドSくん3更新、完結

2014/11/03
裏ドSくん2更新

2014/11/02
裏ドSくん1更新

2014/11/01
ひみつのドSくん2更新、完結

2014/10/31
ひみつのドSくん1更新

2014/10/30
伴侶1、2更新、完結

2014/10/27
支配人3更新、完結

2014/10/26
支配人2更新

2014/10/25
支配人1更新

2014/10/24
隣人3更新、完結

2014/10/23
隣人2更新

2014/10/22
隣人1更新

2014/10/15
元上司2更新、完結

2014/10/14
リクエスト小説
元上司 1更新

2014/10/10
ニコニコドッグⅡ 2更新、完結

2014/10/09
リクエスト小説
ニコニコドッグⅡ 1更新

2014/10/04
茶番2更新、完結

2014/10/03
リクエスト小説
茶番1更新

2014/09/12
「ちょろい 2」更新、完結

2014/09/11
「ちょろい 1」更新

2014/09/08
「新雪の君」更新、完結

2014/09/06
コメントお返事させて頂きました

2014/09/05
「すばらしい日々3」更新、完結

2014/09/04
「すばらしい日々2」更新
コメントお返事させて頂きました

2014/09/03
リクエスト小説
「すばらしい日々1」更新
コメントお返事させて頂きました

2014/09/01
「好きと言って4」更新、完結

2014/08/31
「好きと言って3」更新

2014/08/30
「好きと言って2」更新

2014/08/29
リクエスト小説
「好きと言って1」更新

2014/08/24
「純粋に近付いた何か2」更新、完結

2014/08/23
リクエスト小説
「純粋に近付いた何か 1」更新

2014/08/15
コメントお返事させて頂きました

2014/08/14
再会2更新、完結
コメレスさせて頂きました

2014/08/13
リクエスト小説「再会1」更新
「ノビ」の続編です

2014/07/26
コメントお返事させて頂きました

2014/07/25
息子さんを僕にください2更新完結

2014/07/24
リクエスト小説「息子さんを僕にください1」更新
娘さんを僕に下さいとは無関係ですw

2014/07/22
コメントお返事させて頂きました

2014/07/20
久しく為さば須らく2更新、完結
コメントお返事させて頂きました

2014/07/19
リクエスト小説「久しく為さば須らく1」更新
コメントお返事させて頂きました

2014/07/18
コメントお返事させて頂きました

2014/07/16
コメントお返事させて頂きました

2014/07/15
コメントお返事させて頂きました

2014/07/14
コメントお返事させて頂きました

2014/07/13
リクエスト小説「嫉妬せいでか2」更新、完結
コメお返事させて頂きました

リクエスト小説「嫉妬せいでか1」更新

2014/07/11
拍手お返事させて頂きました
お知らせ一件

2014/07/10
コメント、拍手お返事させて頂きました

2014/07/09
拍手お返事させて頂きました

2014/07/08
コメント、拍手お返事させて頂きました
耽溺 2更新、完結

2014/07/07
拍手お返事させて頂きました
リクエスト小説「耽溺 1」更新

2014/07/06
拍手お返事させて頂きました

2014/07/05
拍手お返事させて頂きました

2014/07/04
コメント、拍手、お返事させて頂きました

2014/07/03
コメント、拍手、お返事させて頂きました
吉原と拓海その後 2更新、完結

2014/07/02
コメント、拍手、お返事させて頂きました
吉原と拓海その後1更新しました

2014/07/01
コメントお返事させて頂きました
シンデレラアイドル2更新、完結

2014/06/30
拍手お返事させて頂きました
シンデレラアイドル1更新しました

2014/06/29
リクエスト募集してます

2014/06/27
拍手お返事させて頂きました

2014/06/24
目は口ほどに 更新、完結

2014/06/17
茶々丸更新、完結
獣姦っぽい

2014/06/11
連鎖 2更新、完結

2014/06/10
連鎖 1更新

2014/06/07
拍手お返事させて頂きました

2014/06/06
拍手お返事させて頂きました

2014/06/05
拍手お返事させて頂きました

2014/06/04
元旦那さん 2更新、完結

2014/06/03
元旦那さん 1更新
旦那さんの続きです

2014/05/29
昨日の記事の続きで拍手お返事させてもらっています

2014/05/28
旦那さん 2更新、完結

2014/05/27
旦那さん 1更新

2014/05/22
夢の時間2更新、完結

2014/05/21
アンケート1位小説「親子」
夢の時間1更新

2014/05/16
この物語はフィクションです更新、完結

2014/05/14
アンケート1位小説「教師と生徒」で先生受け。
信じて下さい更新。完結

2014/05/11
純粋とは程遠いなにか2更新。完結
ダウンロード販売のお知らせ

2014/05/09
純粋とは程遠い何か1更新

2014/05/01
長男としての責務2更新。完結

2014/04/30
長男としての責務1更新

2014/04/27
セフレ更新。完結

2014/04/21
嘘が真になる2更新。完結

2014/04/20
嘘が真になる1更新。
アンケート終了しました
投票してくださった皆さんありがとうございました!

2014/04/15
親切が仇になる2更新。完結

2014/04/14
親切が仇になる1更新

2014/04/11
家庭教師更新。完結

2014/04/09
惚れ薬2更新。完結

2014/04/08
惚れ薬1更新

2014/04/05
ニコニコドッグ更新。完結

2014/04/03
健やかなるときも病めるときも更新。完結
アンケート設置1ヶ月記念更新
回答ありがとうございます!

2014/04/02
お隣さん2更新。完結

2014/04/01
お隣さん1更新

2014/03/28
B3-17 はるか更新。完結

2014/03/27
会話の語尾は常にハートマーク更新。完結

2014/03/24
僕の居場所更新。完結

2014/03/21
兄弟愛(3/3)更新。完結

ストックを全て出し切ってしまいましたので毎日更新は今日で終わりになります。
これからは書き終わり次第更新していきますので、引き続きよろしくお願い致します。

2014/03/20
兄弟愛(2/3)更新。

2014/03/19
兄弟愛(1/3)更新。

2014/03/18
7歳の高校生更新。完結

2014/03/17
7歳の高校生更新

2014/03/16
裏の顔更新。完結
アンケート2位「教師と生徒」
少し違う感じになりました。

2014/03/15
残業も悪くない更新。完結
アンケート結果を反映させてみました。
アンケートに答えてくださった皆さんありがとうございます。引き続きお願い致します

2014/03/14
片思い更新。完結

2014/03/13
クラスの地味男更新。完結

2014/03/12
吉原と拓海更新。完結

2014/03/11
罠更新。完結

2014/03/10
同級生更新。完結

2014/03/09
目覚め更新。完結
FC2小説にて、
閃光戦士フラシュレッド!公開。完結。

2014/03/08
やってられない更新。完結

2014/03/07
地下の城ピュラタ更新。完結

2014/03/06
地下の城ピュラタ更新。

2014/03/05
部室にて更新。完結

2014/03/04
すべからく長生きせよ更新。完結

2014/03/03
秘め事更新。完結
アンケート設置。ご協力お願いします

2014/03/02
映画館にて更新。完結

2014/03/01
大迷惑@一角獣更新。完結

2014/02/28
大迷惑@一角獣更新。

2014/02/27
僕はセールスマン更新。完結

2014/02/26
俺のセールスマン更新。完結

2014/02/25
夏の夜更新。完結

2014/02/24
妄想更新。完結

2014/02/23
先生 その2更新。完結

2014/02/22
洞窟更新。完結

2014/02/21
洞窟更新。

2014/02/20
先生 その1(1-2)更新。
先生 その1(2-2)更新。完結

2014/02/19
娘さんを僕にください更新。完結

2014/02/18
ノビ更新。完結

2014/02/17
ノビ更新。

2014/02/16
1万3千円更新。完結

2014/02/15
1万3千円更新。

2014/02/14
ファンレター更新。完結

2014/02/14
ブログ始動。
「ファンレター」公開。

よろしくお願いします。

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薔薇色の日々
  (「裏の顔」改訂版)

不埒な短編集
 短編3つ

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ひみつのドSくん(1/2)

※NL…?
女の子が男に変身してエチする話なので閲覧は自己責任でお願いします


 斉藤くんが廊下を歩いている。182センチの長身だから遠目でもよくわかる。その上、彫が深くて、色素が薄いからよく白人の血が入っているのかと思われるが、遡れるご先祖は全員純日本人なのだそうだ。

 べ、別に、必死になって情報収集したわけじゃないんだからね! 私が今から斉藤くんに告白するのはただの罰ゲームで、それにかこつけて本気の告白しようだなんて、少しも考えてなんかないんだからね!

 斉藤忍はこの学校の生きる伝説となった人だ。日本人離れした恵まれた体、甘いマスクで、入学早々有名人になった。彼をさらなる有名人に、果ては伝説へとランクアップさせたのは、そのルックスからは想像もつかない性格の悪さのせいだった。

 見た目はいいのでとにかくモテた。入学式が終わるや否や、今日初めて会った女子生徒から告白されるほどのモテっぷり。がしかし、

「その年で中古の尻軽って、女として終わってんな。病気うつされそう」

 告白してきた女子を、よく通る声でばっさり切り捨てた。はっちゃけ女子は夢から覚めて泣きながら学校から逃げ出してちょっとした騒ぎになった。

 まずは友好な関係から築こうと、正攻法で近づく女子にも、「なんでそんな化粧で外歩けんの? 家の鏡拭けよ」「その髪型、婆くせえな」「俺より太い足隠せよ」「その上目使い、きもい(冷笑)」と痛烈な一言を浴びせて乙女心を傷つけてきた。

 彼の歩いたあとは、容赦ない毒舌に切り捨てられた女子の屍で埋め尽くされるという、嫌な伝説を作り上げてしまったのである。

 そこに山があるから登りたくなるのがアルピニストであるなら、そこに難攻不落ないい男がいたら落としたくなるのが女の性。
 玉砕するとわかっていても、もしかしたら自分は! と少女漫画的展開を期待して告白してしまい、やっぱり見事討ち死にした女共を私は何人見てきただろう。

「千紗も告ってみなよ~。千紗なら可愛いから、絶対大丈夫だって~」

 一年のときにその場のノリで告白して「お前、なんか臭うな」と振られた心美が私に勧めて来た。本心じゃ絶対振られると思っているくせに。

 確かに私は若干人より可愛い。原宿なんて歩いてたらスカウトされるのもしばしば。そんな私が振られるのを見たいだけなのだ。それが女だ。

「えー、でも斉藤くんに告白してきついこと言われたら凹むじゃん。それに私、別に斉藤くんのこと好きでもないし」
「千紗なら絶対落とせるって。付き合ってすぐ別れちゃえばいいんだし。今度は千紗が伝説の女になるんだよ」

 といつになくしつこく勧められ、「じゃあ、今日の体育のマラソンで私が千紗に勝ったら斉藤くんに告白ね!」と陸上部員の心美が出した圧倒的不利な賭けに負けて私は今日、斉藤忍に告白することになったのだ。
 そう、別に斉藤くんのことなんて好きじゃない。ちょっと見た目はいいけど、別に私、面食いじゃないし。どっちかっていうと男は顔より経済力だし。お金を持ってても、あの性格の悪さはお断りって感じだし…。

「斉藤くん」

 教室に入る前に、斉藤くんに声をかけた。この私がドキドキしてしまうほど、近くで見る斉藤くんは顔が整っていて綺麗だ。

「なに」
「ちょっと話があるんだけど」
「うん、で」
「ここじゃなくて…屋上まで来て欲しいんだけど」
「面倒だからここで話せよ」

 不機嫌な顔で舌打ちされる。幼稚園の頃から千紗ちゃん可愛いとちやほやされてきた私は、男子からの悪態に慣れていない。

「あっ、あの…」

 妙な汗が噴き出して、のどが詰まった。

「なんだよ」
「私と付き合って欲しいのっ」

 彼の琥珀色の目を見つめていたら吸い込まれそうになって、思わず口走っていた。
 斉藤くんは片方の口の端を持ち上げると「ふん」と鼻で笑い飛ばした。

「自分なら俺を落とせるかもって自意識過剰なのがダダ漏れなんだけど」
「なっ…そんなこと…!」
「性格ブスって無理」

 私の顔も見ずに言い放つと、斉藤くんは私を押しのけて教室へ入って行った。振られたショックで呆然としている私の肩を誰かが叩く。振り返ると、「千紗は性格ブスなんかじゃなのに、酷いよねぇ」と言いながら、ニヤけてしまう顔の筋肉をおさえきれない心美がいた。

「罰ゲームはこれでもういいでしょ」
「オッケーオッケー」

 指でOKサインを作るお前の方がよっぽど性格ブスだと言ってやりたいのを我慢して、「トイレ行ってくる」と心美に背を向けた。

「やだ、もしかして泣いてる?」
「生理なの」

 歯軋りしながら私はトイレへ向かった。

 ※ ※ ※

 突然だが私は魔法を使える。自分の顔を見るのが好きで、幼い頃から鏡を手放さなかった私に鏡の精が現れて、魔法のコンパクトをプレゼントしてくれたのだ。
 魔法の力を誰にも知られてはならないという約束さえ守れば、私はなんにだって変身できる。
 そう、斉藤くんの親友の中崎くんにだってなれるのだ。
 私はトイレでコンパクトを取り出した。

「ズコバコマラコン、ズコバコマラコン、中崎くんになぁ~れ!」

 鏡から光が飛び出し私を包み込む。瞬きする間に私は中崎くんになっていた。斉藤くんのそばにいるから見落とされがちだが、中崎くんもなかなかのイケメンだ。
 誰もいないのを確認してから女子トイレを出て、廊下を歩く心美を見つけて声をかけた。

「あ、あのさ、斉藤、呼んでくれない」

 中崎くんっぽい喋り方を意識して話しかける。心美は喜んで斉藤くんを呼びに教室へ行ってくれた。
 飛び出してきた心美のあとから、斉藤くんが姿を現す。中崎くんになっている私を見てかすかに目を細めた。窓から差し込む光が眩しかったようだ。

「委員の仕事は終わったのかよ」
「あっ、うん、暇だから抜けてきた」

 本物の中崎くんは図書委員で、昼休みに開放されている図書室で当番をしているはずだ。

「それで? わざわざ人使って呼び出してなんか用か?」
「えと…とりあえず、購買ついてきてくれない? お腹空いちゃって」
「弁当持って行ったじゃねえか」
「そうなんだけど…ほら、食べ盛り!」

 フッとかすかに笑うと、斉藤くんは歩き出した。購買についてきてくれるらしい。後ろを歩かなくてもいいんだと気付いて隣に並んだ。
 女子生徒みんなが夢見る斉藤くんの隣。彼女ポジションに今私立ってる!

「なに人の顔まじまじ見てんだよ」
「あっ、ごめん」
「俺に見とれすぎ」

 私の時と同じように片方の頬を持ち上げて笑ったのだが、そこには親しみがこもっていて、私に向けたのとは全くもって別物だった。
 男は顔じゃない。経済力…! だけど私の胸はどきどき鳴りっぱなしだ。口の悪い斉藤くんのちょっとした笑みにときめきっぱなしだ。
 やっぱり私、斉藤くんのこと、好きだ。

「さっき、見てたんだけど、なんで振っちゃったの」
「あ?」
「千紗ちゃん。可愛い子じゃん。もったいない。一回試しに付き合ってみればいいのに」

 親友から猛プッシュされたら気がかわるかもしれない。期待してチラッと隣を見れば、びびるほど剣呑な顔つきで斉藤くんが私を睨み付けていた。

「てめぇ、それ本気で言ってんのかよ」

 太陽の光に斉藤くんの琥珀色の目が黄金に輝く。ウルフアイと呼ばれるだけあって凄みがあった。

「えっ、うん、なんでっ? えっ、スカウトされるくらい可愛い子だよ? 斉藤くんに釣りあうと思うんだけど」
「泣かされてえのか、このマゾ」

 舌打ちした斉藤くんが私の腕を掴んで校舎の裏へと連れ出した。もちろんその先に購買なんかなくて、普段使われない非常階段と塀に囲まれたデッドスペースがあるだけだった。こんな陰気臭い場所があるなんて知らなかった。

「お前、マジで俺に女と付き合って欲しいのか?」
「えっ…」

 斉藤くんは私を壁に押し付けた。憧れの壁ドン。しかも斉藤くんてなんかいい匂いするし。第二ボタンまで外された首元からフェロモン出まくりだし。私の胸は張り裂けそう。

「だって…千紗ちゃん、可愛いし、性格も悪くないよ…?」
「上等だこの野郎、今日は泣いても許してやらねえからな」

 言うなり斉藤くんは唇を合わせてきた。正確には中崎くんの口を。
 当然私はパニックだ。ファーストキスだし、相手は生きる伝説の斉藤忍だし、斉藤くんがキスしているのは私だけど中崎くんなわけだし!

「はあっ、ん、ちょっ…!」

 なに。どういうこと?! 二人ってキスしちゃうような関係なの? 
 斉藤くんの胸を押し返しながら顔を背けて気道確保。大きく息を吸い込んだら顎を掴まれ、強引に正面を向かされた。

「相変わらずキスが下手糞だな」

 とか言ってまた口を合わせて来る。今度は舌まで入れてきた。頭をガシッとホールドされて逃げることも出来ない。

「…んっ…んんっ…」

 斉藤くんの舌が口の中で暴れまわる。噛みつくようなキスってこのことか、とかそんな場合じゃなくて…斉藤くんはキスがうまい…んだと思う。私は膝に力が入らなくて斉藤くんの腕に掴まっていた。

「…っ…ん…ぷはっ…はぁっ、はぁ」

 口を離した斉藤くんがニッと笑う。お互いの唾液で濡れ光った唇が卑猥だ。

「キスだけでこんなにさせてやがるくせに」

 斉藤くんの手が股間をタッチする。いきなりそんなところを触られて悲鳴をあげそうになったけど、それより私を愕然とさせたのは、中崎くんの体の変化だった。ある一部分が、膨らんでいたのだ。

「やだっ…なに、これっ」
「なにって勃起させてんだろうが」

 勃起…!! 綺麗な顔でそんな下品な単語使わないで!

「なに顔赤くしてんだよ」
「ちょっと、やっ…触んないでよ」
「今日はずいぶんカマッぽいな」

 訝しげに斉藤くんが目を細めた。やばい。私は今中崎くんなんだった。

「やめろって…触るなよ!」
「誰にそんな口きいてんだ?」
「…っ?!」

 もうどんな口の利き方だったらいいのかわかんないよぉ!!
 大恐慌に陥って泣きそうだと言うのに、斉藤くんは中崎くんのあれを触り続けてる。触られるとそこがどんどん熱くなって、変な気分になってしまう。

「やっ、だ…もう、触んないで…やめてよぉ」
「いつもみたいにねだってみろよ」

 私の耳に口を寄せて囁く。中枢神経を震わすかのようなセクシーヴォイスだ。ボイスじゃなくてヴォイスな。いい男は声にまで催淫効果があるんじゃないかしら。私の理性が希薄になっていく。

 斉藤くんの手がズボンの中に入ってきた。直接触られてビクビクッと体が震えた。
 これは私の体だけど、私の体じゃない。中崎くんの体だけど、着ぐるみじゃないから神経は私に繋がっている。
 斉藤くんの長い指が股間のものに絡みつくのがリアルに脳に伝わってきて、今までの人生で感じたことのない感覚に頭がショートしそうだった。

「もう、なか、グチャグチャだぞ」
「えっ…」

 斉藤くんが手を動かすとそこから濡れた音が聞こえてきた。

「あっ…や、んっ…やだ、斉藤くん…!」
「なに他人行儀に斉藤なんて呼んでんだよ。忍って呼べ」

 呼んでいいの。いいのか。そっか。だっていま私は中崎くんなんだから。

「し…忍…」
「なんだ?」

 アンバーの瞳が私を覗きこむ。もう私の理性は焼き切れていた。

「キスして」
「最初からそう言やいいんだよ」

 ふっと満足げに微笑むと、斉藤くんは私の願いを聞き入れてくれた。首を傾けながら私にキスする。斉藤くんの首に腕を巻き付け、今度は私も積極的に舌を絡めた。
 あぁ、いま私、あの斉藤くんとキスしてる…!


いじわるな悪魔



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2014-10-31(Fri) 21:05| ひみつのドSくん| トラックバック(-)| コメント 1

伴侶(2/2)

<前話はこちら>

「あぁっ、も…とき、くんっ」
「あんまり声出さない方がいいですよ、ここの壁、薄いらしいから」
「はぁ、あ、あぁっ、でも…っ」
「悠さんのいいとこに当たってる?」

 コクコクと頷く。彼が腰を動かすたび、男らしい肉厚な笠が僕の敏感な場所を擦っていくのだ。

「ここ?」

 角度をつけて浅い挿入で僕を追い詰める。

「あぁっ、あ、や、やめ、基樹くん…っ」
「ここでしょ?」

 ガクガクと震える僕を、楽しそうに基樹くんが見下ろしている。子供のように笑いながら、でもしっとり濡れた大人の目をして。僕はそんな彼の表情に、いつもゾクゾクと欲情していたのだ。

「はぁっ、あっ、基樹くん、もっと、して」
「いいの? いつも泣いちゃうのに」
「もう、泣かされてる」
「それもそうだね」

 僕の手を握り、彼の体が伸びあがる。ゆっくりと長いストローク。浅い場所を擦られると涙腺が緩み、奥深い挿入が欲しくなる。最奥に届いたときは、その充足感から泣きだしそうになる。結局どちらであっても僕は泣かされてしまうのだ。

「悠さん、いま、誰のこと思ってるの?」
「君のこと…、僕の頭には基樹くんのことしかないよ、初めて会ったときから、ずっと」
「ほんと? 支配人じゃなくて?」
「僕はつまらなくて小さな人間だから、君がオーナーのお嬢さんと結婚するって聞いて動揺したんだ。二人が店に来た夜、一人に耐えられなくて支配人に縋り付いてしまった。こんなこと言い訳にもならないけど」
「あの日か…。俺は沙織さんと結婚なんかしないよ。悠さんに捨てられて自棄になって見合いしただけだから」
「でも、西浦くんが――」

 ……それも嘘だったのかもしれない。僕に新しい恋人がいると基樹くんに嘘をついたように、僕には基樹くんが結婚すると嘘を。

「西浦って…隣のガキ?」

 目を細めて隣の壁を睨み付ける。

「あいつとも寝た?」
「寝てなんか…!」
「じゃあキスはした?」
「…し、した……」
「これだから悠さんを一人にしておけないんだよ」

 と舌打ちする。

「ごめん…。メモには、なんて?」
「連絡くれって。俺の携帯の番号と一緒に」
「そうだったんだ。知らなくて、ごめんね」
「連絡こないから怖くて不安でたまらなかった。知らない男相手に嫉妬で怒り狂ってた。もうどこにも行かないで、悠さん」

 悲痛なほど寂しげな目で言われて胸が締め付けられた。

「どこにも行かないよ。僕に飽きた君から消えろって言われても、捨てないでくれって泣いて縋り付く覚悟が出来たんだから」
「悠さんに飽きるわけないでしょ。悠さんがいてくれたら他に何もいらないって俺の言葉、忘れた?」

 覚えている。忘れるわけがない。

「悠さんでなきゃ駄目なんだ」
「僕も、基樹くんでないと駄目だ」

 彼の目が優しく細められる。無邪気なほどに安堵した笑みで、僕までつられて頬が緩む。
 顔が近づいて唇が合わさる。角度をかえ、触れ合うだけのキスを何度も何度も繰り返した。離れていた分を取り戻すように。

「ずっとそばにいてくれる?」
「……いさせて欲しい」
「悠さん、愛してる」
「あんまり僕を、甘やかさないで」

 肘をついて体を起こした。抜けないように腰を押さえつけながら基樹くんの胸を押し倒す。僕のやりたいことを察して基樹くんが背中を支えてくれた。

「初めてだから、うまくできるかわからないけど」
「顔、真っ赤だよ」

 もう何を見られたっていい。
 基樹くんの胸に手を置いて、ゆっくり腰を上げ下げした。ダイレクトに基樹くんの存在が伝わってくる。
 僕の太ももの下に手を入れて、基樹くんが僕の体を揺さぶる。腰を動かし、下から突き上げてくる。

「あ…ん…っ、やっ…基樹くんは、そんな…動かないで……っ!」
「繋がってるところがよく見えるよ。すごくエロい」
「言わないで…っ、恥ず…かしい、から…っ…あっ、はぁ…んっ!」
「キスして」

 乞われて基樹くんにキスした。抜けそうな感覚がして慌ててしまう。基樹くんの手が僕の双丘を掴んで押さえ込み、リズムをつけて腰を揺すった。

「ん…んっ…あ、あぁ…ぁ…っ」

 結合した場所から、粘り気を増した大きな音が聞こえるようになってきた。

「あ…やばいかも…俺、イキそう…」

 顔をしかめながら基樹くんが目を瞑る。半開きの唇から荒い呼吸が繰り返される。
 基樹くんがイクときの顔を見下ろせるなんて新鮮だ。しかも僕が彼の射精をコントロールできるなんて初めてじゃないだろうか。

「イキたい? 基樹くん…っ」
「うん、イキたい…っ…つうか、もうイク…」

 苦しそうな基樹くんの顔を見ているとゾクゾクとした興奮が込み上げてきた。腰に力を入れて、上下に動かす速度を上げた。

「んっ、はぁっ、あぁっ、あっ、はぁっ…イッて…! 基樹くん、僕の中でイッて…!」
「悠さん、そんなに動いたら…っ!」

 僕の中でグッと基樹くんが大きく膨らんだ。直後、硬直しながら熱い精液を噴き上げる。それを体の奥で感じた。

「珍しく積極的だね」

 はぁ、と息を吐き出して、基樹くんは前髪を掻きあげた。少しアンニュイな表情も色っぽくて格好いい。
 基樹くんがいつもやるように、僕は基樹くんの乳首に吸い付いた。

「ちょっ…悠さん?」
「基樹くんに、もっと気持ちよくなってもらいたいんだ」
「充分気持ちいいよ」
「いつも基樹くんが僕にしてくれることを僕もしてあげたい」
「その気持ちだけでお釣りがくるよ」

 僕の背中を抱きながら基樹くんが体を起こした。僕は簡単に引っくり返って、また基樹くんを下から見上げていた。

「次は俺の番だから」

 キスされながらペニスをゆっくり扱かれた。基樹くんの唇が、僕の口からのど、鎖骨、胸へと音を立てながら移動していく。

「それ…くすぐったい…」
「悠さんの全部が愛しいんだ」
「僕も、基樹くんの全部が好きだよ」

 僕のなかの基樹くんがピクと動いた。心なしが大きくなっている。

「ほんと言うとさ、悠さんが働きたいって言いだしたとき、反対したかったんだ。外に出て、悠さんが俺以外の奴を好きになったらどうしようって、他の誰かが悠さんを好きになって迫ったらどうしようって、すごく不安で、誰の目にも触れさせたくなかった。物わかりのいい振りしてOKしたけど、悠さんがいなくなってすぐ後悔した。我が儘になっても、やっぱり反対しとけばよかったって」

 だんだん口調が強いものになっていた。結果として、基樹くんの不安は的中してしまったことになる。

「俺、自分がこんなに嫉妬深いなんて、悠さんに会うまで知らなかったよ」

 苦しそうに心情を吐露する。そんな思いをさせてしまったのは僕のせいだ。

「嫉妬するのは僕も同じだよ。基樹くんの会社の若い子たちに嫉妬してた。君と一緒に仕事が出来る別れた妻にすら、嫉妬しているんだから」
「部長に? だから俺、ゲイだって」
「わかってても嫉妬しちゃうんだよ」

 基樹くんは目をぱちくりさせた。また僕の中で基樹くんが育つ。

「そういえば沙織さんにも嫉妬してくれたんだよね。そういうの表に出してくれないから、ちょっと嬉しいかも」
「――――っ…あ…!」

 また…っ!
 僕の中が基樹くんでいっぱいになっていた。完全に復活したものが僕の弱いところを圧迫し始める。少し力を入れただけで背筋に快感が走った。
 熱く火照った僕の顔を見ながら、基樹くんがニヤニヤと笑う。

「さっきからキュウキュウに締め付けてくるけど、それっておねだり?」
「そんなんじゃ……!」
「違うの?」
「…っ…ち…ちがわない…」
「悠さん、可愛いすぎ」

 こんなおじさん、可愛くなんかないのに。
 僕の顔の横に手をついた基樹くんが、キスしながらゆっくり腰を動かし始めた。緩やかな抽挿。じわじわと体全体に火が広がっていくようだ。

「ん、ん…っ…、ハァ…ンッ…あ…ぁ…」
「悠さんの中、気持ちいい。ずっとここにいたい」
「僕、も…っ、気持ちいい…、基樹くんに、ずっと中にいてほしい…」
「その言葉だけでイキそう…勿体ないから我慢するけど」
「なに、言ってっ…ンッ…」
「悠さんがお爺さんになるまで、毎日、ずっと抱く。俺の体なしじゃいられないくらいに」
「あっ、くぅ…ん…っ」

 いつの間にか僕も腰を揺らしていた。それに気づいて基樹くんの動きが早まる。

「気持ちいい? 悠さん」
「は、あっ…気持ち、いい…、基樹くん…あぁんっ…僕また…」
「イッちゃいそう?」
「う、ンッ…いっ…ちゃいそう…っ!」
「朝までまだ時間があるよ。何度だってイッて、悠さん」
「あぁっ…あっ、や…だっ…いや、あっ、そんなに近くで見ないで…っ」
「どうして? イクときの悠さんの顔、すごくエロくて好きなのに」

 基樹くんはもっとよく見えるように僕の前髪を掻きあげた。触れ合うぐらい目の前から、喘いで身をくねらせる僕を見つめる。

「もう…あ、出る…んっ、基樹くん、いや、あぁっ…見ないで…っ、あっ、あ…アァン!!」

 間近で見つめられる羞恥のなか、僕は基樹くんに扱かれながら達した。

「二回目だけど結構出たね」

 敏感な先に指を当て、クルクルと円を描いたあとペロッと舐めとった。

「久し振りの悠さんの味」

 恥ずかしくて顔を赤くする僕を見て笑う。

「体中、ベトベト。あとで一緒にお風呂入ろう」
「ここのお風呂、狭くて…近くに銭湯があるんだ」
「いいね。でもそこでしたくなって立たせちゃったら困るな。あ、立たなくなるまでやればいいのか」
「ばかっ」

 クスリと笑いあいながら、僕たちはまたキスをした。

※※※

 仕事に遅れさせるわけにはいかないので、朝になると基樹くんを風呂に押しこみ、その間に僕は簡単な朝食を作った。
 基樹くんのためにご飯を作るのは久しぶりで嬉しくなる。彼と離れて暮らすなんてもう考えられない。
 お風呂から出てきた基樹くんも同じ気持ちになってくれたのか、朝食をとりながら、今晩には二人のマンションに帰って来ること、この部屋はすぐ解約の手続きをして、荷物を取りに来る以外では出入りしないことなどを話し合った。

「今の仕事、続けたかったら続けていいよ」

 味噌汁を飲み干して基樹くんは言った。僕を閉じ込めたいとまで言っていたのに。強がっているのは僕を見ない伏せられた目でわかる。

「ううん、支配人にはもう辞めるって言ってあるんだ」
「未練はない?」
「ないよ」

 未練は本当にない。ただ、

「今月いっぱいは働かせてほしい。急に辞めるのは店のみんなに悪いから」

 そうだね、と基樹くんの理解をもらい、僕は残りの数週間を勤め上げた。
 諸井さんにはすべてを話した。

「こんなことならあなたを皿洗いのままにしておくべきでしたね」

 本心の見えない笑顔で握手を求められ、しなやかな手を握り返した。心が折れていた状態ではあったが、一時的にでも、少し惹かれていたのは事実だ。この包容力に縋り付き、救われていた。

「ありがとうございました」

 礼を言って、店をあとにした。

 自転車に跨った。
 僕の向かう先は決まっている。もう迷うことはないだろう。この先なにがあっても、基樹くんのいる場所が僕の帰る場所なのだから。



蔓草の庭



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2014-10-30(Thu) 21:56| 伴侶| トラックバック(-)| コメント 10

伴侶(1/2)

※NTR耐性のない方にはお勧めできない内容です。

<第一話(旦那さん)はこちら>
<第二話(元旦那さん)はこちら>
<第三話(元上司)はこちら>
<第四話(隣人)はこちら>
<第五話(支配人)はこちら>

 仕事を辞める決意は変わっていなかった。しかしさすがに昨日を最後にもう行かないとは出来ず、今月いっぱいは務めることにした。
 諸井さんは責めもせず、それを承諾してくれた。質問攻めにならないように、他のスタッフには僕が辞めることを内緒にしてくれたのもありがたかった。何かと気にかけてくれた木原さんには申し訳ないが、彼女に嘘をついたり誤魔化したりするのは気が引ける。

 働いている最中は、やっと慣れてきた仕事に未練を感じて少し寂しくなったりもした。
 しかし基樹くんがオーナーのお嬢さんと結婚するなら、やはり僕はここにはいられない。いてはいけないと思うのだ。
 店を閉め、休憩室でホール係の子たちと話をしていたら、顔を出した諸井さんに「小泉さん、今晩飲みませんか」と誘われた。

「支配人、私たちも誘ってくださいよ」

 と木原さんが不満顔で言う。

「私たちはもう、君たちみたいに若い飲み方が出来ないんですよ。おじさん同士、おとなしく飲ませて下さい」
「もー、二人でずるい」

 拗ねたように唇を尖らせる木原さんは、少し本気で怒っているように見えた。もしかしたら木原さんは諸井さんが好きなのかもしれない。

 スタッフ全員を見送ったあと、僕と諸井さんは最後に店を出た。自転車はそのままにして、諸井さんの車に乗り込む。

「私の部屋でいいですか」

 と諸井さんが僕の手を握って来た。僕も最初からそのつもりでいる。頷くと諸井さんに口づけされた。
 短くないキスのあと、諸井さんは真顔で言った。

「君に溺れてしまいそうだ」

 罪悪感に苛まれながら何も言えずに目を見つめ返した。諸井さんは諦めたようにふっと笑って車のエンジンをかけた。
 店の駐車場を出たとき見覚えのあるシルバーの車が路肩にとめてあるのに気付いた。運転席の人影がじっとこちらを見ている。目が合って心臓が止まりそうになった。

 ハンドルに乗せた腕にもたれながら、前を通り過ぎる僕のことを睨むように見ていたのは基樹くんだった。
 僕は後ろを振り返って遠ざかるシルバーの車を見た。間違いなくあれは基樹くんの車だ。中に乗っていたのは基樹くんだ。なぜこんな時間、こんな場所にいたのだろう。僕に会いにきたのだろうか。いや、まさか。

 動悸が激しくなってきた。
 もし会いにきてくれたのだとしたら。ここで僕が働いていると知って、仕事の終わる時間を見計らって待っていてくれたのだとしたら。

「どうしました?」

 諸井さんが僕の太ももに手を乗せた。僕は咄嗟にそれを払いのけていた。

「あっ…すみません」
「あの車がなにか?」
「いえ…やっぱり今日は帰ります。曲がったところでおろしてください」
「……家まで送りますよ」
「歩いて帰ります」

 諸井さんは黙ってウインカーを出した。角を曲がった先のコンビニに車を入れると停止した。
 さすがに基樹くんの顔を見た直後、諸井さんに抱かれるのは躊躇われる。そこまでまだ恥知らずにはなりきれない。

「すみませんでした。おやすみなさい」

 頭をさげ、ドアに手をかけた。

「私はいつまでも待ちますよ。気は長いほうなので」

 いまは諸井さんの優しい言葉は辛いだけだった。もう一度頭をさげてから車をおりた。
 遠ざかる諸井さんの車を見送り、アパートへ向かって歩き出した。
 徒歩だと一時間以上はかかってしまう。店に戻って自転車を取りに行こうか。でもまだ基樹くんがいたらどうしよう。どんな顔をして会えばいい。
 会うつもりでいるのか、僕は。今更どの面下げて。

 きっともういなくなっている。シルバーの車は消えてなくなっている。
 そう言い聞かせながらも、心の底では期待しつつ角を曲がった。直線の続く道路に、シルバーの車はどこにも見当たらなかった。
 やっぱり、と安堵と落胆を同時に味わう。基樹くんに会わずに済んだ。自転車を取りに行ける。これで早く家に帰れる。
 重い足を引きずって自転車に跨った。

 責められても、罵られてもいいから、基樹くんに会いたかった。会って声を聞きたかった。
 我ながら自分勝手な本音に嫌気がさす。

 自転車を漕いでアパートへ向かう。基樹くんがあそこにいたわけを考えながら走っていると、あっという間にアパートに到着した。
 駐輪場に自転車をとめ、前に回る。二階へ続く階段に誰かが座り込んでいる。元気くんかと思って身構えながら近づくと、

「一人ですか。早かったんですね」

 立ち上がった人影は、基樹くんだった。

「今日は帰ってこないんじゃないかと思ってましたよ」

 静かで落ち着いた声。他人行儀な話し方。その底に燃え盛る怒りを感じて僕の足は固まった。かわりに基樹くんが近づいてくる。

「どうして、ここが――」

 言い終わるまえ口づけされていた。怒りを湛えた目で僕を見据えたまま、骨が折れるほど強い力で抱きしめられる。
 僕の目の前に基樹くんがいる。しっかりそこに存在して、僕を抱きしめている。
 痛みも苦しみも、すべてが愛しくて泣いてしまいそうだった。

 基樹くんの唇がはなれていき、僕は喘ぐように息を吸った。縫い付けられたように基樹くんから目を離せない。

「基樹くん……」
「今日はあなたを奪いに来ました」

 そう言うと、基樹くんは再び僕に噛みつくようなキスをした。

 ※ ※ ※

 腕を掴まれ、引きずられるようにアパートの部屋まで来た。戸を開けると同時に中に突き飛ばされて床に手をつく。

「基樹く――」

 振り返った肩を押さえつけられ畳に頭を打ち付けた。鈍い痛みに顔をしかめる。
 素肌に彼の手が触れてぎょっと目を開くと今にも泣きだしそうに顔を歪める基樹くんがいた。

「黙っていなくなるなんて酷いじゃないですか」

 涙で濁った声で責められて言葉につまった。

「電話しても出ないし、メールに返事はないし、事故にでも遭ったんじゃないかと心配するこっちの身にもなってくださいよ。気が狂いそうだった」

 基樹くんと同じ立場だったなら、僕もきっと心配で夜も眠れず帰りを待ち続けただろう。連絡もなく、安否すらわからない状態が続くなんて拷問に等しい。

「……ごめん」

 彼は僕の胸に頭を乗せた。さらりとした髪が顔にあたる。懐かしい匂い。胸が締め付けられる。

「あんな男にあなたを取られたくない。誰にもやらない。もう意見なんて聞かない。待つのも嫌だ。力づくで、あなたを奪い返す」

 基樹くんは僕のシャツに手をかけると、一気に引き裂いた。鋭い音に身がすくむ。

「嫌われたっていい」

 と言いながら辛そうに目を細める。
 嫌わない。
 そう伝えたいのに声にならず、手を伸ばすと掴まれて頭上に押さえつけられた。

「基樹くん……っ」

 何も聞きたくないというように口を口で塞がれた。器用に片手でベルトを外してズボンをずり下げる。

「あっ……!」

 いきなり奥の窄まりに突き立てられた。引き攣るような痛みとともに、基樹くんが中に入ってくる。

「んっ……う、あぁ……」

 以前とは違う乱暴なやり方が彼の怒りを伝えて来る。当然の報いだ。今まで散々彼を裏切って来たのだから、むしろ酷くしてくれたほうがいい。

「痛いですか」

 首を振って否定する。

「泣いてるくせに」
「だって…、は、初めて会った時と、同じこと…言ってくれた、から…っ」

 ――俺は本気です。本気であなたを部長から奪うつもりです。

 あの時と同じ情熱を彼は僕にぶつけてくれた。あの若々しい熱と一途さに僕はほだされ、彼について家を出たのだ。

 なぜ迷ったりしたのだろう。桜庭さんとの不貞行為を言い訳に僕は彼から逃げた。自分の年齢、男としての負い目、いつか捨てられる日がくるかもしれないと怯えて、傷つけられる前に僕は基樹くんから離れることを選んだ。
 彼のように僕も一途に愛せばよかったのに。捨てられそうになったら、泣いて縋って嫌だと訴えればよかったのに。ケチなプライドに囚われて何より大事なものを手放してしまうだなんて。

「泣いたって、あの時みたいに優しくしませんから」
「いい、それで」

 基樹くんは苛立たしげに舌を鳴らすと僕の腰を抱え持ち、体を動かした。僕のなかを基樹くんが征服する。青臭いほど性急に、純情なほど愚直に、誠実なほど僕に痛みを与え続ける。

「ん、あ、あぁっ…」

 感じてはいけないと思うのに、体は基樹くんを求めて熱くなっていく。彼が中にいると思うと、それだけで痛みが快感に置き換えられてしまう。

「…っ、あ、待っ…て、基樹くん…っ」
「イキそう?」
「ふっ、あ、あ…、いや、あ、あ…っ」
「ほら、イッて」

 促す手に導かれて精を吐き出した。基樹くんより先に終わってしまう自分の浅ましさが恥ずかしい。

「これでもう、あの人のところへは帰れませんね」
「あの、ひと…?」
「店の支配人。さっき駐車場でキスしてたでしょ」

 見られていた! 
 羞恥からカッと全身に火がついた。消えてしまいたいという思いから顔を隠そうとしたが、顎を掴まれ正面を向かされた。
 僕の目を見据えながら、基樹くんは言葉を続けた。

「桜庭に抱かれて俺の前から消えたなら、俺に抱かれた悠さんはあの人のところへは戻れない。そうでしょ」
「どうして、桜庭さんを…っ!」

 いきなり出てきた名前にぎょっとする。あの夜の記憶が嫌でも甦る。羞恥と嫌悪で妙な汗が噴き出た。

「悠さんがいなくなる直前に会ってた人です、当然探すでしょ。部長にさりげなく元の勤め先と上司の名前を聞き出して、なにか知らないかと思って会いに行ったら、お前が基樹かって嫌な顔されました」

 桜庭さんに抱かれたとき、僕は基樹くんの名前を口走ってしまった。きっとそのせいだ。

「その時にあの夜なにがあったのか聞きました」

 基樹くんの視線に耐えられず目を伏せた。

「酔ってたとは言え悪いことをした、謝っておいてくれって虫のいい事言ってましたよ。ふざけるなって殴っておきました。俺の前にすでに誰かに殴られたみたいでしたけどね」

 僕だ。別れ際に、俺に乗り換えろと言われて頭に血が上って殴ってしまった。人に暴力をふるったのはあれが初めてだった。

「事情がわかったら、いなくなった理由もわかりました。俺に悪いと思って消えたんでしょ。悠さんが陥りそうな考えだと思ってすぐ、興信所使って探しました」
「そんな、そこまでして…」
「やっと居場所を突き止めて会いに行ったら、悠さんはもう新しい男といちゃついてるって聞かされて……」
「ま、待って、会いに来てくれたの?」
「来たでしょ。メモ、受け取ってないんですか?」

 メモなんて知らない!

「誰に? なにを聞いたの?」
「隣の高校生」

 基樹くんは隣との壁に視線をやった。僕もつられてそちらを見る。
 元気くんだ…!

「落ち着いた大人の男が新しい恋人だって聞きましたよ。あの支配人のことでしょ。あなたがそうなんですかって本人に確かめたら、そうですって返されたし」

 聞き覚えのある問答。基樹くんがお嬢さんと食事をしに店に来たあの日。僕は途中で抜けてあとは諸井さんがすべてやってくれた。あのとき、あなたがそうなんですかと基樹くんに問われ、諸井さんはそうですと答えたと言った。諸井さんはもちろん、僕にもその意味がわからなかった。

「ぼ、僕と諸井さんはそんなんじゃ…」
「車に乗ってキスするのに?」

 何も言葉が返せない。

「二人の関係なんてもうどうだっていいです。悠さんは俺が連れて帰る。もうどこにもやらない。誰の目にも触れさせない。一生閉じ込めて、俺だけのものにする」

 そのつもりで来たんだ、と呟いて、基樹くんは律動を再開した。荒々しく僕のなかをかき回しながら、一層大きくなっていく。


1円の男




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2014-10-30(Thu) 21:55| 伴侶| トラックバック(-)| コメント 0

支配人(3/3)

<前話はこちら>

 休憩室にいると戻って来た三井さんの嫌味を聞かされることになる。いまの僕はそれを聞き流せる状態ではないので支配人室で待たせてもらった。
 戻って来た諸井さんは僕を見るなり「顔色が悪い」と苦笑いで言った。

「お二人は帰られましたか」
「ええ。ケーキも召し上がって帰られました」
「途中で抜けてしまい、申し訳ありませんでした」
「最後に彼が小泉さんに会いたいとおっしゃっていましたが、体調が優れないので帰したと言っておきました。良かったですか?」
「はい。すみません」
「それと彼に、あなたがそうなんですか、と尋ねられました。意味はわかりませんでしたが、そうです、と答えておきました。それも、良かったですか?」

 僕にもその意味はわからない。わからないが、もうどうだっていい。

「それで構いません」

 と頷いておいた。

「今日こそ送らせて下さい。そんな状態の君を帰すわけにはいきませんから」

 と僕の背中に手を当てる。じんわりと体温が伝わってくる。火傷するのではと思うほど熱く感じた基樹くんの熱が塗り替えられていく。
 深く追求せずに優しく接してくれる諸井さんに感謝しながら、「お願いします」と目を見つめ返した。

 諸井さんの着替えを待って一緒に店を出た。他のスタッフはもう帰っている。駐車場にとめてある諸井さんの車に乗り込む。

「少し飲みますか」

 諸井さんの言葉に「はい」と返事をした。
 車が夜の街を走る。窓の外を見ながら、今頃基樹くんは、と考えている。

 ゲイだと言ったくせに。僕を好きだといったくせに。僕さえいれば他に何もいらないと言ったくせに。必ず幸せにすると言ったくせに。
 次はその言葉を僕以外の別の誰かに言うのか。あのお嬢さんに言っているのか。いま、まさに。肌を合わせながら。愛し合いながら。愛を。囁いているのか。
 また目が熱くなってきたので瞬きで散らした。

 車はマンションの地下駐車場に入って行った。諸井さんのマンションだろうか。店で飲むのかと思っていた。確かに車に乗っていたら諸井さんは飲めない。
 エレベーターに乗り込んだ。

「目が赤いですよ」

 蛍光灯の下で顔を覗きこまれた。

「明かりが眩しくて」
「嘘が下手だ」

 見抜かれている。僕が口にしたこと以上のことを、きっと諸井さんは見抜いている。でも何も言わないでいてくれる。

 諸井さんの部屋は黒を基調とした、落ち着いた大人の雰囲気だった。間接照明をうまく取り入れて穏やかな気持ちにさせてくれる。
 皮張りのソファの艶を見て、しっかり手入れされているのがわかる。マメにクリームを塗っている姿を想像して、諸井さんらしいと思った。
 ピッと音がして、カーテンが自動で開いた。近づくと眼下に夜景が広がった。

「いい眺めですね」
「もう飽きましたがね」

 キッチンで酒の用意をしながら諸井さんが言う。僕も手伝いに入った。食べるものをと言われ、簡単なつまみを作った。僕の腕前を見て諸井さんが感心してくれる。
 何かをしていると気が紛れる。誰かと話をしているとその間は基樹くんのことを考えずに済む。

 僕は無駄に饒舌になった。弱いくせに早いピッチで酒を空けた。心配した諸井さんがグラスを取り上げた。
 僕が手を伸ばすとグラスは更に遠のいた。

「もうやめたほうがいい」
「まだ飲めます」
「明日の仕事に差し支えますよ」
「仕事は辞めます」
「辞める?」

 諸井さんは眉を寄せた。

「勝手を言ってすみません。でももう続けられません」
「彼のせいですか」

 返事が出来ずに黙り込む。諸井さんはため息をついて、テーブルの端にグラスを置いた。

「あなたに興味があると言ったのを覚えていますか」

 頷いた。

「彼と何があったのかとても気になっているんですよ。仕事中、ずっと考えてしまうくらい。だいたいの察しはついていますが、すべてを聞き出したいと言う欲求を押さえ込むのに苦労しています。あなたのその取り乱しようが、私の心まで乱しているんですよ」

 諸井さんが僕の肩を掴んでゆっくり押し倒した。諸井さんの腕に手を添えた。抗うつもりはなかった。最初から、こうなることがわかっていて車に乗った。酒がそのきっかけに過ぎないことも承知で飲んだ。
 酔っていなければ。羞恥と自己嫌悪で我に返る余裕もないくらいに酔わなければ、僕は基樹くんをあやふやに出来ない。理性をなくして彼を責めることでしか、いまは自分を保てない。この行為を一時的でいいから正当化しなければ踏ん切りがつかない。

「弱みにつけ込む男だと思われたくないんですが」

 諸井さんが笑う。

「だけど、こんな状態でないと、私のところへ来てはくれなかったでしょうね」
「諸井さん…」

 手を背中にまわした。シャツ越しに感じる体温に泣きそうになった。基樹くんじゃないのに、僕はこの温もりを恋しがっている。一晩むちゃくちゃにしてもらいたいと思っている。
 あんなに後悔したのに、僕はまた同じ過ちを犯そうとしている。

 唇がおりてきた。僕の口を塞ぐ。自ら口を開いて中に招き入れた。触れ合うと同時に膝を開いて諸井さんの体を受け入れた。

「はぁ…あ…ん…ン…」

 舌を絡ませながら諸井さんの手が僕の服を脱がしていく。慣れた手つき。いったい何人が僕のように彼の手によって落とされてきたのだろう。救われてきたのだろう。

「泣かないで」

 目尻から流れる涙を舐め取られた。僕は諸井さんの首に腕をまわした。

「私のものに、おなりなさい」
「……はい」

 後孔に指が入れられた。久しぶりの異物感にぎゅっと目を瞑る。僕の腕の中から諸井さんが抜けていき、下半身に顔を埋めた。
 熱い口腔内におさめられる。粘膜を使って全体で扱かれた。

「あっ…はぁっ、あっ、ああっ…ん…」

 中の指からも快感がもたらされるようになってきた。敏感な場所を擦られると条件反射のように基樹くんを思い出した。たまに泣くまで僕を苛めていた場所だ。

「あっ、あっ…やぁ…だめ…そこは、いや…あぁ…んっ」
「そんな声と顔で嫌だと言われてやめる男はいませんよ」

 激しく指が律動する。

「ふっ…んっ、アッ、アアァッ…だめっ、やめて…あっ、諸井さんっ! やっ、ん…!」

 感じすぎてガクガク体が震えだす。諸井さんは手を休めない。

「いっ、やぁっ…、だめっ、諸井さん、もう…止めて、下さ…んっ、んあっ、いや…あ、あぁ…っ!」

 頭の中でフラッシュを焚かれたように真っ白になった。それと同時に僕は射精していた。
 強烈な絶頂にぐったりしていると、諸井さんに膝を持ち上げられ、中心に熱い塊を押し付けられた。

「きてください」

 自分から誘った。捨て鉢な気持ちで足を開いた。諸井さんが腰を進めて来る。

「うう…ん……あぁ……っ」
「感じますか。私のすべてが入りましたよ」
「あ…ん、はい…わかり…ます…あ、まだ、動かないで…!」

 諸井さんはゆっくりと腰を引き、また戻すという動作を何度も繰り返した。立派に反り返ったものが僕の奥を擦り上げていく。
 数か月前まで男との恋愛事を考えたこともなかった僕が、この短期間ですでに三人の男を受け入れたことになる。
 妻には不能のように扱われた。だけど基樹くんは僕を「男に抱かれて感じる体」なのだと言っていた。実際その通りだと思う。

 僕は基樹くんだけでなく、桜庭さんに無理矢理抱かれたときも感じて乱れた姿を晒した。そして今も、好きでもない諸井さんとのセックスにはしたい声を上げている。それだけじゃない、同じアパートの高校生相手のときも、僕は最後まで抵抗できなかった。
 本当の僕はただの色情狂なのかもしれない。いっそそうだと割り切ったほうが、楽になるかもしれない。

「もう、大丈夫ですから…動いて下さい」
「私は時間をかけたいのですがね」

 腰を抱えなおして諸井さんは腰つきを早くした。

「はぁっ! んっ! あっ、あぁっ!」

 諸井さんの手が僕の胸を撫でさする。脇腹を薄く触られるとくすぐったさと気持ちよさでぞくぞくと腰が震えた。

「いっ…やぁ…あ、んっ…!」
「仕事をしているときの君とは別人のようだ」

 コリコリと乳首を転がされた。基樹くんによってそんなところでも感じるようになってしまった。

「仕事中ずっと、君の制服を脱がせたいと思っていたんですよ。その白い体中に、私のものだという印をつけてやりたいと」

 膝を立てた諸井さんは前傾になると激しく僕を突き上げた。体重を乗せて奥深くまで叩きこまれる。最奥が男らしい力強さでこじ開けられる。

「はぁんっ、あっ! あぁっ…そんな…に、されたら……!」
「またイキそうですか?」
「あっ、はいっ…あっ、あぁっ、諸井さんっ」
「どうぞ、気をやって下さい」
「あっ、あんっ、アァッ、だめっ…あっ、また…あ、く…っ!」

 諸井さんの腕を掴みながら僕はまた精を放っていた。それと同時に口走りそうになる名前を噛み殺した。
 違う男に抱かれているのに、視界いっぱい、その男しかいないのに、僕の頭のなかには基樹くんが居ついて離れなかった。
 諸井さんに見下ろされながら、僕は基樹くんの眼差しを思い出していた。
 諸井さんの声を聞くたび、四六時中僕に愛を囁いた基樹くんの声を思い出していた。
 彼を忘れるなんて出来るわけがない。初めから無理な話だったのだ。

「…ハァ…は…ん…今度は、後ろから、してください…」
「積極的ですね」

 僕の意図をわかっているのかいないのか、諸井さんは微笑むと僕を裏返し、望み通り背後から犯してくれた。
 ソファの肘かけに掴まった。腕の間に顔を埋め、僕は泣き顔を隠した。


無慈悲なオトコ



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2014-10-27(Mon) 20:29| 支配人| トラックバック(-)| コメント 1

支配人(2/3)

<前話はこちら>

 翌日、支配人室へ行って新しい制服を受け取った。ワイシャツにベスト、クロスタイが今日から僕の新しい制服だ。
 更衣室で着替えていると「ホールでミスしても、もう厨房には入れてやらないからな」と三井さんに言われた。彼なりの餞別なのだと思って頭を下げておいた。
 休憩室でホールの子たちが固まって話をしていた。その中に木原さんもいた。まだ二十代後半の年下の彼女が頼もしく思える。

「よろしくお願いします」

 ホールの子たちに頭をさげると、みんな遠慮がちな笑顔で「よろしくお願いします」と挨拶を返してくれた。
 諸井さんから、仕事は木原さんに教えてもらうように、と言われていたので、今日は一日木原さんにつきっきりでホールの仕事を教わった。
 覚えることがたくさんある。気を付けねばならないこともたくさんある。一つに夢中にならず、常に店全体を把握しておく必要がある。
 盗み聞きはしない、しかし客の声に耳を傾けておかなければならない。走ってはいけない、しかし客を待たせてもいけない。

 木原さんは慣れたもので、そのすべてを同時に、ほぼ完ぺきにこなしていた。
 皿をさげに行ったと思ったら、その途中でお客さんの呟いた声を拾って、炭酸水を持って行ったり、新しいナプキンと交換したりしていた。
 僕に仕事を教えながらそれをやるのだからすごいと素直に感心する。
 ここまでになるにはいったいどれほどの時間と経験が必要なのだろう。

 ホールは厨房とはまた違った忙しさだった。こちらのほうが神経を使うが、時間の速さは倍だった。あっという間に休憩時間になり、あっという間に閉店時間になっていた。
 このあとカラオケに行くという木原さんたちのタフさに舌を巻きながら、一緒にどうですかとの誘いは断って帰宅した。
 お風呂は明日にして、初日はすぐに眠った。

 二日目からも同じように慌ただしい一日だった。少しずつ仕事を覚えていく。失敗しそうになると木原さんと諸井さんがフォローしてくれた。少しずつ慣れていく。任される仕事が増えて来る。木原さんと諸井さんが僕から離れていく。不安になるが、一人で出来ると自信がついて、それが余裕に繋がり、店全体に目を向けられるようになった。

「だから言ったんですよ。小泉さんは絶対ホール向きだって。もうベテランみたですよ」

 休憩時間が一緒になった時、木原さんが言ってくれた。

「僕なんてまだまだ」
「そんなことないですよ。小泉さんは支配人と違うダンディさがありますから。支配人はちょっと謎な感じで、小泉さんは人を安心させる優しさが溢れてますよ」
「私は優しくないって言うんですか」

 いきなり第三者の声が会話に入ってきた。

「支配人! 盗み聞きしないで下さいよ」
「木原さんの声が大きいんです。小泉さん、すみませんが、私の部屋に来てくれませんか」

 木原さんに目で断りを入れ支配人室へ向かった。
 諸井さんは今日も机に腰掛けた。

「だいぶ慣れたようですね」
「まだ、全然です」
「期待以上でしたよ。自信を持って下さい」
「ありがとうございます」
「実は明日、オーナーのお嬢さんが来店されるんです」
「聞いています」

 明日は定休日だ。しかしオーナーの一人娘がこの店を貸し切って食事をしに来るらしい。なんでも恋人を連れて。将来の夫ではないかともっぱらの噂だ。

「申し訳ないのですが、明日、用事がなければ出勤して頂けませんか」
「僕は構いませんが」
「私はお嬢さんを、小泉さんはお連れ様の給仕をお願いします」
「わかりました」
「ではよろしく頼みます」

 一礼して支配人室を出た。

※※※

 いつもより小規模な開店準備が終わり、僕たちはオーナーのお嬢さんが来るのを待っていた。

「今日も自転車ですか」

 今日はクロークがいないので僕と諸井さんが受付に立った。仕込みの終わった三井さんは厨房にいる。

「はい。健康にもいいですよ」
「そうですか。今日のお礼に送らせて頂こうと思っていたんですが。あ、きちんと休日手当込みでお給料は出ますので」
「諸井さんはご結婚はされてるんですか?」
「私に興味を持ってくれたんですか?」
「木原さんたちが支配人の私生活は謎すぎるって話してましたよ」
「小泉さんだって謎が多いでしょう」
「僕に謎なんてないですよ」
「そうですか。私はあなたのことにとても興味があります」

 じっと目を見つめられた。纏わりつくような視線で少し息苦しさを感じる。目を逸らせない不思議な力があった。

「お見えになられたようです」

 諸井さんの目が店の出入り口へ向けられほっとする。ガラスの嵌った木製の扉に、白い服が近づいてくるのが見えた。
 諸井さんが扉を開けながら「お待ちしておりました」と頭を下げる。僕も少し離れた場所からお辞儀をした。

「今日は私のためにすみません」

 若い女性の声。下げた視線の先に白いハイヒールが見える。

「オーナーから伺っております」

 諸井さんの声を聞いて頭をあげた。二十代前半の若く綺麗な女性だった。その後ろで店の内装を見ている連れを見て声をあげそうになった。
 ハッとした表情を怪訝に思われたのだろう。お嬢さんが僕に視線を移し、小さく首を傾げた。
 僕は二人から隠れるように諸井さんの影に入り込み、顔を伏せた。

「こちらは立橋基樹さんです。今日はよろしくお願いします」

 お嬢さんが後ろにいる基樹くんを紹介する。僕は深く頭を下げて顔を隠した。

「よろしくお願いします」

 久しぶりに聞く基樹くんの声に、体が震えた。

※※※

 基樹くんはまだ僕には気付いていないようだった。今日は店の照明を絞っているし、まさか自分の椅子をひいたウエイターが僕だとも思わないから振り返りもしないで、目の前のお嬢さんだけを見ている。
 前日に聞いた話ではお嬢さんは恋人を連れて来るということだった。では基樹くんがその恋人ということになる。

 基樹くんの恋人。西浦くんからの伝言で結婚すると聞いた。この女性と結婚するということだろうか。ほかに誰がいる。心のどこかで嘘だと思っていた。何かの間違いだと。基樹くんは結婚なんかしないと。
 まだ自分のことを好きでいてくれるんじゃないかと、そんな身勝手な可能性に縋り付いていた自分が滑稽だった。

 僕がいなくなったあと、基樹くんは見合いをして、結婚まで話が進んでいるじゃないか。あんなに僕を情熱的に口説いてきたくせに、いなくなったらなったでずいぶんあっさりしたものだ。
 僕に責める資格などないとわかっていても、仲睦まじい二人を見せつけられて平静でいられるほど僕はまだ基樹くんを吹っ切れていない。

 お嬢さんは恋人の誕生日を祝いたいからとケーキもご所望されていた。だが基樹くんの誕生日は今日じゃない。来週だ。恋人なのに、そんなことも知らないのかと張り合う気持ちが芽生える。

 前菜を運んだとき、二人の会話が聞こえた。

「次はちゃんと誕生日にお祝いさせて下さいね。今年はお仕事だから仕方ないけど」
「すみません」
「パパが男は女より仕事だって。もうそういう時代じゃないと思うんだけど」

 お嬢さんは唇を尖らせた。それを見て基樹くんがクスリと笑う。
 僕以外の誰かに笑い掛けないで。
 急にわけのわからない震えが走ってお皿を取り落した。ほんの2、3㎝ほどの高さではあったが、耳障りな音を立ててしまった。

「失礼しました」

 慌てて詫びた。

「いえ」

 穏やかに笑いながら基樹くんが僕をみあげる。ウエイターが誰かわかり、ハッと息を飲んだと思ったら、基樹くんは僕の腕を掴んだ。

「悠さん……!」

 懐かしい呼ばれ方に胸が痛いほど締め付けられた。体から力が抜けてその場にへたり込んでしまいそうだ。

「お知り合い?」

 お嬢さんに声をかけられて基樹くんの力が緩んだ。その隙に腕を振り払い、二人に頭を下げてテーブルを離れた。
 基樹くんの熱のこもった視線に串刺しにされる。胸が痛い。掴まれた腕が痛い。悠さんと呼ばれただけで腰が痺れて膝が震える。
 僕は厨房に逃げ込んだ。そのあとを諸井さんが追いかけてきた。

「大丈夫ですか」
「すみません…僕にはもう無理です」
「あのお客様とお知り合いですか」
「はい、いえ、あの…」
「無理には聞きません。私一人で大丈夫ですから、あなたはもう休んでいなさい。勝手に帰らないで。私の部屋で待っているように」
「はい。すみません…」

 休憩室に移動してベンチに座り込んだ。口を押えた。でないと何か叫んでしまいそうで。
 無意識に僕は基樹くんに掴まれた腕を握りしめていた。基樹くんの手に自分の手を重ねるように。その熱を取り戻すように。
 もう僕のものではないのに。

「うっ…」

 堪えきれずに嗚咽が漏れる。勝手に溢れて来る涙が僕の手を濡らした。





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2014-10-26(Sun) 20:13| 支配人| トラックバック(-)| コメント 0

支配人(1/3)

※NTR耐性のない方にはお勧めできない内容です。

<第一話(旦那さん)はこちら>
<第二話(元旦那さん)はこちら>
<第三話(元上司)はこちら>
<第四話(隣人)はこちら>


 色んなものがオートメーション化している時代、レストランの皿洗いもそうだと思っていたがこの店は違った。
 飲食業界で働くのはこれが初めてだった。元の業種に復帰したくて、またその経験と知識が自分の強みだと思って仕事を探してきたが、年齢の問題で面接さえしてもらえず、料理は得意と言っていいだろうと飲食業界へかえてみた結果、意外にすんなり面接に通ったかと思ったら、最初の仕事は皿洗いだった。
 もちろんいきなり包丁を握らせてもらえるとは思っていなかったが、昼過ぎに来てから閉店までずっと皿を洗い続ける日がもう一ヶ月近く続いている。

 手がガサガサに荒れてところどころ切れていた。
 休憩時間に奥の控室でハンドクリームを塗っていると、ホール係りの木原さんに「ゴム手袋して洗えばいいじゃないですか」と言われた。

「素手じゃないと微妙な汚れがわからないからって」
「三井さんでしょ。あの人、新人いびり大好きな人ですから。いつも偉そうで嫌いなんですよね、私」

 としかめっ面を作る。
 三井さんはこのレストランのシェフだ。二十代の頃に海外で修業をし、日本に戻って有名ホテルで働いていたところをオーナーにスカウトされたらしい。
 自信にあふれた立ち居振る舞いは、確かにときに傲慢に見える。

「小泉さんの手って綺麗ですよね」
「こんなに荒れているのに?」

 苦笑いで返すと、

「今まで重労働とは無関係だったって感じの手。物腰も柔らかで厨房よりホールのほうが向いてますよ。女の子みんな私と同じ意見で、ずっと支配人にも言ってるんですけどね」

 それは知らなかった。四十過ぎのおじさんが皿洗いでこき使われている姿が惨めで同情してくれているのだろう。
 ありがとう、と礼を言って、まかないのパスタに手をつける。

 雑誌やテレビで紹介されるだけあってとても美味しい。ぜひ作り方を覚えて基樹くんにも食べさせてあげたい…と考えている自分に気付いて苦笑した。いつまでも未練たらしいことこの上ない。
 基樹くんは結婚するのだし、もう彼のことは忘れよう。それに僕には彼を想う資格もないじゃないか。あんなに酷い裏切り行為をしておいて。
 カチャリ、とフォークを下ろした。労働のあとでお腹もすいていたのに食欲が失せていた。

 基樹くんは結婚する。
 相手は誰だろう。
 お母さんから見合いを勧められていた。その相手だろうか。僕がいなくなったあとに見合いをして、相手の女性を気に入ったのだろうか。
 確か基樹くんはゲイだと言っていなかっただろうか。ゲイは女性を好きにならないんじゃなかったか。それほど見合い相手は魅力的だったということだろうか。
 悶々と考え込んでいることに気付いて軽く頭を振った。もう考えるな。思い出すな。考えたって仕方ないんだから。

 桜庭さんとホテルで別れてすぐ、携帯電話の電源を切った。その日はカプセルホテルに泊まり、翌日には今のアパートの賃貸契約書にサインをして、その足で携帯ショップへ行って新しい携帯電話の契約をした。古い携帯の電源を入れたことはない。充電もしていないからバッテリーも切れているだろう。

 きっと基樹くんからたくさん電話がかかっていたに違いない。メールも相当数きていたはずだ。
 その一つでも見てしまうと心が揺れる。だから電源は切ったまま、アパートの流しの下に隠した。思い出さないために。未練を断ち切るために。
 しかしふとすると基樹くんのことを考えてしまっている。もうすぐ基樹くんの誕生日だった。初めて一緒に迎えるはずだった誕生日。何を作ろう、なにをプレゼントしようとあれほど考えていたのに。

 また彼のことで頭がいっぱいになっている。自己嫌悪に顔をしかめながら、急いでパスタを胃に収めた。
 厨房に戻って自分が使った食器を洗う。僕の次に新人の男の子とかわって、今日も閉店時間までずっと食器を洗っていた。
 最後の客が帰り、閉店後の掃除が終わるともう日付がかわっている。ずっと立ちっぱなしでいることには慣れてきたが、足がむくんでだるいのは最初の頃とかわらない。
 休憩用のベンチに腰掛けハンドクリームを塗る。

「小泉さんはまだいますか?」

 休憩室に支配人の諸井さんが顔を出した。

「ここにいます」

 ハンドクリームを置いてベンチから立ち上がった。

「あぁ、良かった。お話があります」

 こういう前置きをされるとどきっとしてしまう。まさかクビにされるのだろうか。

「少しお時間、大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です」
「ではこちらへ」

 諸井さんのあとをついて支配人室に移動した。机と棚に囲まれた手狭な部屋だが、個人にあてがわれているのは諸井さんだけだ。
 入ってすぐのソファに座るよう勧められ、腰を下ろした。
 諸井さんはまだ仕事用の黒いスーツのままだった。年齢は僕より少し上くらい。髪をぴたりと後ろへ撫でつけて隙がない。

「仕事が終わってお疲れのところ申し訳ない」
「いえ。そんな」
「今日も自転車で来たんですか?」
「はい、二十分ほどで着くので」
「明日の出勤が電車でもよければ今日は私の車で送らせてもらいますよ」
「自転車で帰りますから」
「体力仕事でお疲れでしょう」

 諸井さんは僕のほうを見ながら奥の机に腰かけた。
 ホールの状況を誰より把握して的確な指示をするいつも冷静な諸井さんは、接客態度も丁寧でこれぞプロというのを地でいく人だ。そんな人が机に座るのを見るのと、仕事と私生活は別だと当たり前のことに気付かされる。

「そうですね、まだ不慣れなことが多くて…みなさんの足を引っ張ってしまっています」
「一ヶ月のあいだ、小泉さんの働きぶりを見させてもらいました」

 と少し間を取る。僕は緊張しながら次の言葉を待った。

「ホールの女の子たちがみんな口を揃えて言うんですよ。小泉さんは絶対厨房よりホール向きだって」

 そういえば今日、木原さんに言われたっけ。

「面接のときは厨房希望でしたが、どうでしょう、ホールでやってみませんか?」
「僕がですか? いや…接客の経験がないので…いまよりご迷惑をかけてしまうと思うのですが…」
「私もあなたはホールに向いていると思いますよ。いまうちは副支配人がいないのですが、いずれあなたには副支配人になって私の手助けをして頂きたいと思っています」
「僕が…?! 無理です、それは…向いていません」
「まぁまぁ。いきなりなれというわけじゃありません。しばらくホールで慣れてもらってから、改めて審査させてもらいます。ホールの仕事は嫌ですか?」

 と僕に向かって微笑む。この決して本心を見せない笑顔は、二十人以上いるスタッフをうまくまとめているだけあって、さすがだなと思う。

「嫌というわけでは…ただ、不慣れなものがいると皆さんの足をひっぱってご迷惑になると思って」
「みんな初めはそうですよ。厨房を取り仕切っている三井くんだって、最初のころに大きな発注ミスをして店を開けられなかったことがあるんですから」
「そんなことが?」
「ええ。他店に頭をさげてまわって、なんとか開店できました。今じゃ、そんなこと忘れたような顔をしていますがね」

 歯を見せずに口角を持ち上げるだけの薄い笑みだが、悪戯っぽい目で人に親近感を抱かせる。接客業で身についたものか、生まれもったものか。
 この諸井さんの目や態度のせいだろう。僕はまったく自信がないのに「やってみます」と頷いてしまった。

「では明日から。制服は支給しますので、明日の朝、ここに取りに来てください。」

 諸井さんが机から腰をあげたので僕もソファから立ち上がった。

「失礼」

 と諸井さんは僕の腰を両端から掴んだ。

「えっ、あの」

 今度は腕を掴んで広げるように左右に持ち上げる。胸と背中を挟むように手をあて、首回りに指を這わせた。

「あの…」
「サイズはМで大丈夫そうですね」
「今のでわかったんですか?」
「見ればわかることですよ」
「えっ…」

 くすっと諸井さんが笑った。からかわれたのだと気付いて、顔が熱くなった。

「あなたは少し真面目すぎるようですね」
「かもしれません」
「顔が赤い」

 諸井さんの手が僕の頬を包み込む。僕と違って荒れていない、しなかやな手だ。

「やっぱり今日はお宅まで送りますよ」
「いえ、すぐそこですので。諸井さんもお疲れですし」
「真面目で、その上頑固だ」

 ふいに既視感が僕を襲った。落ち着かない気分になり、諸井さんから目を逸らした。

「では今日はこれで。明日からよろしくお願いしますよ」
「はい、失礼します」

 支配人室を出た。鞄を取りに休憩室に戻ると、木原さんが「支配人はなんて?」と詰め寄って来た。

「明日からホールだって」
「やったぁ! 明日からよろしくお願いしますね」
「こちらこそ」

 皿洗いをしていたこの一ヶ月、厨房のスタッフが僕に声をかけてくれたのは仕事の指示をするときだけ。それも罵声や嫌味混じりで、とても親睦を深める雰囲気じゃなかった。
 ホールの子たちは若い子が多いせいか、仕事が終わっても和気藹々としていた。本当は少し羨ましかった。
 初めての接客で不安でたまらないが、悪いことばかりじゃないはずだ。
 木原さんの笑顔を見ていたら、少しだけ気持ちが楽になった。


完璧な恋人



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2014-10-25(Sat) 21:06| 支配人| トラックバック(-)| コメント 4

隣人(3/3)

<前話はこちら>

 俺はまた学校終わりに時間を潰して帰るようになった。小泉さんとは会えば挨拶をする程度の関係に戻った。
 もう二度と「元気くん」とは呼んでくれない。自分のしたことを百万回は後悔して反省して時間が戻ればと神様に祈ったりした。

 振られても俺はまだ小泉さんが好きだった。壁にもたれて隣の部屋の物音に耳を澄ましていた。壁を隔てた隣に小泉さんを感じられるだけでも幸せだった。だがとても切ない。

 小泉さんは仕事を見つけたようだった。今週の頭から、俺の登校時間よりあとに出て、俺のバイト終わりより遅い時間に帰宅するようになっていた。
 何もする気力がないまま壁にもたれていると、小泉さんが帰宅するにはまだ早い時間に、隣へ向かう足音が聞こえた。俺は玄関扉に耳を張り付けた。

 コンコン、とノックしているから小泉さんじゃない。しばらく待って、諦められないのかもう一度ノックしている。
 小泉さんの客。誰だろう。真っ先に浮かんだのは小泉さんが離婚するほど惚れた浮気相手。どんな女なのだろう。今でも小泉さんを独占しているのは、いったいどれほどの女なんだろう。
 苛立ちと好奇心が勝った。俺は戸を開けて顔を出した。スーツ姿の男が立っていた。拍子抜けする。

「こちらは小泉悠二さんのお宅で間違いありませんか?」

 俺を見つけて男が言う。
 誰だろう。小泉さんの知り合いにしては若かった。まだ二十代前半くらい。さすがに小泉さんの息子ではないだろうが。浮気相手の旦那か? 俺は警戒しつつ頷いた。

「いつも何時ごろに帰宅するかご存じですか」
「わかりません」

 日付がかわってからだと知っていたが、見ず知らずの相手に教える義理はない。

「そっか…」

 男はため息をついた。前髪をかきあげながら中に誰もいない部屋の扉を見つめている。

「伝言があるなら預かりますけど」

 それを口実に会いに行ける。話が出来る。

「いや…あぁ、でも…」

 男は迷った末、ポケットから手帳を出して何か書き込むと、ビリッと破いて二つに折った紙切れを俺に渡した。

「必ず渡して下さい」
「はい。あっ、名前…」
「立橋です、立橋基樹」

 もとき!

 雷に打たれたような衝撃、というやつだった。もとき。俺と同じ名前。耳の奥でその名前が木霊する。男の声で。小泉さんの声で。俺の首に抱き付いてイッたときの、あの時の声で。
 小泉さんは俺を身代わりにしたと言った。ただ性処理しただけの意味だと思っていた。だが違った。小泉さんは本当に俺を身代わりにして、この男のことを思い出していたんだ。俺の名前を呼びながらこいつの名前を呼んでいたんだ。
 怒りと、何も知らずに喜んでいた羞恥の熱が顔に立ち上った。

 小泉さんの浮気相手はこの男。離婚するほど好きになって、なのに一緒にはいられなくて、だけど今でもずっと思い続けているのが、こいつだと言うのか!
 どうして今頃会いに来たんだろう。小泉さんと一緒にいられるようになったから迎えに来たんだろうか。じゃあ小泉さんはこのアパートからいなくなってしまうのか?!

「…小泉さんは…恋人がいるのでこれを渡すのは明日になると思いますけど」
「恋人?」

 俺の嘘に、男はひそっと眉を寄せた。

「はい。すごく仲がよくて…毎日会ってるみたいです」
「本当に?」
「ここのアパート、壁が薄くて。あの…声がよく聞こえるんですよね」

 男は俺の言葉を信じていないのか「へえ?」と片頬を持ち上げた。それにむっとして俺は嘘を続けた。

「小泉さんより年上で…落ち着いた大人の人って感じの、男の人でしたけど」

 男とは反対の男性像を作り上げる。男の顔から余裕がなくなり、険しい表情になった。それを見て溜飲がさがる。ざまあみろ。お前に小泉さんを渡すもんか。

「本当に悠さんが?」

 こいつは小泉さんのこと、悠さんって呼んでるのか。

「はい。あれは恋人同士だと思うんですけど。すごくラブラブです。声が聞こえて、こっちが恥ずかしくなるくらい」

 男は小泉さんの部屋を睨むように見ていた。奥歯をギリと噛みしめて。俺と同じくらい嫉妬すればいいんだ。

「どうしますか、これ」

 紙切れを男にかざす。予想に反して「渡してくれ」と男は言い切った。わかりました、と返事をし、男と別れた。
 部屋に戻ってメモを開く。

『探しました。もう勝手にいなくならないで下さい』

 携帯の番号も記されていた。強調するように下線を引いてある。俺はそれを破り捨てた。

 ※ ※ ※

 数時間後、小泉さんが帰って来た。立橋が来たと知らずに部屋の鍵をあけている。
 中に入られるまえに外に出た。

「こんばんは、小泉さん」
「こんばんは。こんな時間に出かけるの?」
「小泉さんに用があって」

 小泉さんの表情が少し硬くなる。俺に警戒している。

「今日、お客さんが来てましたよ」
「僕のところに?」
「はい。立橋って人が」

 ハッと息を飲む音がここまで聞こえた。鍵を落とすほど激しく動揺している。そんなにあいつのこと好きなんですか?

「……立橋くんが」
「伝言頼まれました。えーっと…結婚するかもしれないとか、なんかそんなことを言ってました」
「結婚…」

 茫然と小泉さんが呟く。俺の嘘だと気付かれていない。二人のことは何も知らない。二人の事情もないも知らない。手探りで吐く嘘は一つ一つが賭けのようなものだった。

「だから悠さんも幸せになって下さいって言ってました」

 立橋がつい漏らした「悠さん」という呼び方をここで使った。それを聞いた小泉さんは痛みを感じたように顔を歪めた。
 こんな顔をさせて罪悪感がないわけじゃない。でもこれで立橋のことを忘れてくれたら。俺にも可能性が出て来るかもしれないのだ。人でなしと呼ばれてもいい。

「伝言はそれだけ…?」

 弱々しい声で訊ねる。

「そうです」
「…ありがとう、おやすみ」

 鍵を拾い上げると小泉さんは部屋の中に入った。パタン、と静かに閉じられた扉に耳を当てると、かすかに嗚咽が聞こえてきた。


相生結び



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2014-10-24(Fri) 20:58| 隣人| トラックバック(-)| コメント 8

隣人(2/3)

<前話はこちら>

 バイトのない日、俺は寄り道せずにアパートに帰るようになった。階段に座り、出勤する母親を見送りながら小泉さんが現れるのを待っていた。
 まだ仕事は見つからないようで少し疲れた顔をして小泉さんが帰って来る。俺を見つけると「元気くん、ご飯、一緒にどう?」と誘ってくれる。一度は遠慮して断ってみせるが、小泉さんが「一人で食べても味気ないんだ」と言ってくれるので、親切に甘えて部屋にあがりこむ。

 無職の人に、毎回ご馳走になってばかりは悪いので、母さんからもらったメシ代の千円を渡そうとしたが、頑なに断られた。なので、学校帰りにスーパーに寄って野菜を買って帰り、それを「家に置いてても腐らせるから」と小泉さんに押し付けた。
 それじゃ悪いから、と小泉さんは保存のきくものを作るとタッパーに入れて俺に持たせて帰してくれた。
 こんなに気が利いて優しい人を俺は知らない。ますます好きになっていた。

 自分の家に戻っても、ずっと小泉さんのことばかり考えている。テレビもつけずに、壁にもたれて座って耳を澄ましている。かすかに聞こえる物音すら愛しく感じた。

 隣の玄関の開く音がした。俺も急いで玄関へ向かう。扉を開けると、ちょうど小泉さんが前を通りかかったところだった。

「こんばんは、元気くん」
「こんばんは。もしかして今から風呂?」
「そうだよ」
「俺も今日は銭湯にしようと思ってたんだ。一緒に行ってもいい?」
「もちろん。下で待ってるよ」

 この機会を窺って何日も前から用意していた銭湯セットをリュックに詰めると、小泉さんのもとへと急いだ。
 銭湯はアパートと商店街の中間にある。数えるほどしか行ったことはなかったが、小泉さんと一緒なら毎日だって通いたい。
 小泉さんは受付を済ますと、ロッカーの前でさっさと服を脱いでいく。俺も服を脱ぎながら、ずっと横目に小泉さんを見ていた。
 やはり細い体だった。そして綺麗な白い肌だった。俺が邪な感情を抱いているせいかもしれないが、とても色気のある体だと思った。

「元気くん、先に行ってるよ」

 小泉さんが先に中へ行く。俺もあとを追った。
 隣に座った。小泉さんは先に頭を洗っていた。目を瞑っているのをいいことに小泉さんの体をジロジロと眺めまわした。
 背中流しますよ、とボディタオル越しに肌に触った。また勃起した。亀頭までパンパンに膨れ上がって痛いほどだ。

 斜め後ろの爺が俺の腰に巻いたタオルが持ち上がっているのを見てニヤニヤ笑っている。小泉さんの背中の泡を流すとすぐ横に座って前を隠した。

「じゃあ次は僕の番だ」

 と小泉さんが俺の後ろにまわり、背中を洗ってくれた。股に挟みつつ、前かがみになってやり過ごした。
 一緒に湯船に浸かった。小泉さんが「はあ」と息を吐き出す。その吐息がまた色っぽいと思う。
 俺の顔を見て「元気くん、顔が赤いよ」と小泉さんが驚いて言う。あなたのせいですとは言えず、俺は俯いた。その俺の前髪を小泉さんがすくいあげる。

「のぼせたら大変だから、もう出た方がいいよ、元気くん」

 直視は出来なくて上目使いに小泉さんを見た。水滴の滴る髪の先とか、ほんのり色づいた肌だとか、濡れた首筋だとか。すべてが目に毒だった。

「先、出てます」

 逃げるように俺は湯船をあがった。
 定番のコーヒー牛乳を飲みながら小泉さんが出て来るのを待った。出てきた小泉さんが服を着るのを後ろからじっと凝視する。さっきの爺も出てきて、俺を見つけるとからかうようにニタニタ笑う。

 銭湯を出ると二人並んでアパートに向かって歩いた。コーヒー牛乳がおいしかっただとか、明日学校でテストがあるだとか、星がきれいだとか、くだらないことを話していたらあっという間に到着した。
 このまま帰りたくない。離れたくない。

「今日、ご飯は食べたの、元気くん」
「あっ…軽く」
「僕は今からなんだけど、一緒にどう?」
「いいんですか」
「遠慮しない」

 と俺の背中を軽く叩いた。
 そのまま小泉さんの部屋にあがりこむ。小泉さんは鞄から洗濯物を出すと、俺に向かって手を伸ばした。

「一緒に洗濯するから出して」
「えっ、いいですよ、自分ちで洗うから」
「一人分も二人分も一緒だよ」

 差し出された腕を見つめた。細くてもしっかり男の手だ。なのにこんなにどきどきしている。触りたいと思う。どんな手触りなのか、確かめたい。
 俺は小泉さんの手首をつかんだ。思っていたより頼りない手首だった。

「元気くん?」
「小泉さん…」
「どうしたんだい?」

 掴んだ手を引き寄せて、小泉さんを抱きしめた。

「も、元気くん?」
「好きです、小泉さん」

 耳のすぐそばで小泉さんが息を飲む音を聞いた。少し掠れたその音に、情欲が一気に突き上げてきた。布越しに感じる小泉さんの肌、温もりに、理性が砕け散る。衝動のまま、俺は小泉さんを押し倒していた。

「元気くんっ」

 俺の下で小泉さんが慌てふためいている。やっぱり可愛い人だと思う。

「好きです」

 腕を曲げて顔を近づけた。俺のやることを察した小泉さんが顔を背ける。追いかけて無理矢理口を塞いだ。拒んで固く結ばれた唇をこじ開けて中に舌を差し込む。触れ合った柔らかな感触に眩暈がした。夢中で吸っていた。

「ん…っ…もと、き、くん…っ!」
「お願い、俺を拒まないで」

 膝を使って小泉さんの足を開かせた。ズボンの上から股間を揉む。

「あっ…もとき、くん! だめ、駄目だよ」
「まだ浮気相手のこと好きなんですか?」

 はっと泣きそうな顔で小泉さんが俺を見上げる。震える唇が「もときくん」と呟いた。

 きっとまだ相手のことが好きなんだとわかった。でも事情があって別れることになったのだろう。元奥さんの制裁か、世間体の問題か、もしかすると相手も既婚者で旦那が離婚に応じなかったのか。

「俺だって小泉さんが好きです」
「君は…そう思い込んでるだけだ」
「これでも、ですか」

 小泉さんの手を取って自分の股間へ導いた。膨らみに気付くと、小泉さんは動揺して俺から目を逸らした。

「これが思い込みなんですか」
「元気くん…っ」

 小泉さんの股間を掴んだ。揉むように手を動かすと、慌てた小泉さんが俺を押しのけながら身を捩った。

「だめ…っ、やめなさい、元気くん!」
「嫌だ、やめたくない、小泉さんが好きなんだ」

 小泉さんは体を捻ってうつ伏せになると、腕を使って俺の下から這い出ようとした。ズボンに手をかけ、力任せに引きずりおろした。羞恥に顔を染めて小泉さんが俺を睨み付ける。でも迫力に欠けた。小泉さんは俺を恐れていた。俺のほうが力が強いと自覚して怯えていた。

「怖がらないで下さいよ」
「やめるんだ、元気くん」
「酷くしたくないんです」

 ベルトを外して前をくつろげる。飛び出したペニスを見て小泉さんは顔を強張らせた。

「やめ…、元気くん、こんなことはやめなさい」
「男を好きになったのは小泉さんが初めてなんです。だからどうすればいいか、わからない」

 小泉さんの上にのしかかった。露になった股間を擦りつける。暴れる小泉さんを体で押さえつけた。
 知識はある。どこを使うかも知ってる。でも本当にそんなところに挿れていいのか不安だし怖い。小泉さんを傷つけて嫌われたくない。

「元気くん、いい加減にしなさい、これ以上は駄目だ…!」
「もう止まんないよ」

 小泉さんのペニスと擦り合わせて、痛いほど勃起しているのだ。
 二本まとめて握った。小泉さんはふにゃりと柔らかいままだ。それが残念だったが、いまは目前にまで迫っている爆発のために手を動かした。

「はぁっ、はっ、はっ…小泉さん、小泉さん…っ!」

 好きだと何度も繰り返しながら俺は射精した。俺の精液が小泉さんのペニスにべっとりかかった。それを全体に馴染ませながら俺はまた手を動かした。

「元気くん、もう、いいだろう…っ、出したんだから、だから…僕の上から退くんだ」
「まだ無理…一回出してもまだギチギチなんだもん、俺」

 ニチャニチャと音を立てながら扱いた。だんだん小泉さんのペニスも太くなり芯を持って立ち上がった。

「気持ちいい?」

 問うと前髪を揺らしながら首を左右に振る。風呂上がりみたいに頬が色づいていた。男なのに壮絶にエロい。
 手の動きを早くした。唇を噛みしめる小泉さんの呼吸が乱れ始めた。

「やめ…、おね、がいだから…もうやめて、もときくん…っ」
「小泉さん、大好きだよ」

 扱きながらキスした。最初は嫌がって逃げてたけど、途中で諦めたのかおとなしくなった。奥で震えている舌を絡め取った。

「ふっ…ん、んん……」

俺の肩を小泉さんが掴む。その手を首にまわすと、小泉さんがおずおずと抱き付いてきた。

「もときくん…っ」

 手の中で小泉さんが大きくなる。
 小泉さんの膝に引っかかったままのズボンと下着を蹴り落とし、開いた足の間に腰を入れた。

「もときくん、もときくん……っ!」

 熱にうかれたように小泉さんが何度も俺の名前を呼ぶ。それが嬉しい。

「んっ…あ、あぁ…だめ…、もときくん」
「イキそう?」
「う、ん…あっ、あっ…もときくん、嫌だ…いや…もときくん、いや…あ、あっ…!」

 俺の首にしがみついたまま小泉さんは絶頂を迎えた。温かい液体が俺の腹にかかる。

「俺も、もうイキそう」
「イッて…もときくん…」

 濡れた声にくらっとした。漏らすような感覚がして慌てた直後に俺も射精していた。
 余韻に浸っていると小泉さんに押しのけられた。油断していた俺は無様に仰向けに転がった。その隙に小泉さんが体を起こし、俺から顔を背ける。

「すまなかった」

 震える小声で言う。なぜ小泉さんが謝るのかさっぱりわからない。

「どうして」

 謝るのは俺のほうなのに。

「君に、悪いことをした…すまない、西浦くん」

 急に下の名前じゃなく苗字で呼ばれて胸がキリッと痛んだ。

「なんで…なんで俺が悪いのに小泉さんが謝るんだよ」
「僕がいけなかった。君は何も悪くない。でももう僕に関わらないで欲しい」

 小泉さんの拒絶に胸が潰れそうだった。鼻の奥がジンとして目の表面も熱く潤んだ。

「ご、ごめんなさい…っ、小泉さんのことが好きで、小泉さんに触りたくなって…そしたらもう我慢できなくなって…もう絶対こんなことしないから、そんなこと言わないでよ!」
「僕なんかを好きになっちゃいけない」
「嫌だっ! 小泉さんが好きだ! こんな気持ち初めてなんだよ!」

 泣きながら声を荒げると、小泉さんは振り返って俺を見た。

「僕には好きな人がいる。一瞬でも君を身代わりにした。こんな最低な僕を、好きだなんて言わないでくれ」

 泣きそうな顔で自嘲する。たまに見たあの悲しそうな目をしながら。どれほど深くその人のことを愛しているのか、一瞬でわかる目だった。
 俺が言葉をなくしていると、小泉さんはよろりと立ち上がった。

「お風呂に行ってくるから、その間に帰っててくれるかい」
「え、や、やだ…、離れたくない」
「頼むよ」

 溜息まじりに言うと小泉さんは奥の風呂場へ消えた。

 しばらく呆然となって動けなかった。俺は小泉さんが好きだ。でも小泉さんは俺のことなんて好きじゃない。離婚するほど好きになった人を今でも思い続けている。俺には少しの望みもない。一瞬、心を通わせられたと思ったあの瞬間、小泉さんは別の誰かのことを思っていた。俺じゃない、別の人を。

 のどから嗚咽がせりあがってくる。涙と鼻水を垂れ流しながら後始末をし、服装を整えると部屋を出た。


ナンバーコール



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2014-10-23(Thu) 20:18| 隣人| トラックバック(-)| コメント 1

隣人(1/3)

※NTR耐性のない方にはお勧めできない内容です

<第一話(旦那さん)はこちら>
<第二話(元旦那さん)はこちら>
<第三話(元上司)はこちら>

 バイトのない日は、少し時間を潰してから帰るようにしている。そうすれば、自分の母親が濃いメイクを施し、露出の多い服を着て女にかわる瞬間を見ずに済むからだ。
 きつい香水の匂いが漂う部屋のテーブルには千円札が置いてある。今日の俺の晩飯代。
 千円札をポケットにねじ込んでアパートを出る。バイト先がコンビニだから冷たいコンビニ弁当は食べ飽きている。商店街の裏道にある、小さなで惣菜屋で弁当を買った。
 コンビニと違い、店の厨房で作ったものだから、手作りの味に飢えている俺にはご馳走だった。

 まだ温かい弁当を持ってアパートへ戻ると、前方にスーツの後ろ姿が歩いていた。
 今月頭、このボロアパートに引っ越してきた隣人だ。わざわざ引っ越しの挨拶にやってきた。母さんはもう仕事に出ていて俺が対応した。
 高校生の俺にも丁寧で物腰の柔らかな人だった。優しそうな笑顔で「小泉です」と名乗ったその人の目は、なんだか寂しげだった。
 年齢は四十前後くらいだろう。その年でこんなボロアパートに越してくるには、なにか理由があるのだろう。離婚して、敷金礼金ゼロ、保証人不要、家賃四万のアパートしか住めない俺たち母子みたいに。

「こんばんは」

 声をかけると小泉さんは振り返った。俺を見て「お隣の」と笑みを浮かべる。

「西浦です。もう仕事終わったんですか? 早いですね」
「無職なんだ」

 少し恥ずかしそうに小泉さんは笑った。リストラされて嫁に逃げられたくちかな。

「いま、仕事を探しているんだけど、この年だから難しくてね」
「早く見つかるといいですね」
「ありがとう。……いい匂いがするね」
「あっ、これですか」

 惣菜屋の袋を小泉さんに見せた。プリントされている店の名前を見て小さく首を傾ける。

「どこの店? そこの商店街にはない店だね」
「商店街の裏にあるんですよ」
「そうなんだ。知らなかったな。場所を教えてもらってもいい? 今日は僕もそのお店のお弁当にしよう」

 道順を詳しく教えてあげた。商店街の風景を思い出しながら俺の言葉の一つ一つに頷いて、場所の見当がつくと小泉さんは笑顔になった。

「ありがとう。着替えたらさっそく行ってみるよ」

 部屋の前で俺たちは別れた。
 玄関に立ったまま、俺は聞き耳を立てた。耳を澄ませば、隣から物音がかすかに聞こえてくる。しばらくすると戸の開閉の音がして、俺の部屋の前を通り過ぎる足音が続いた。小泉さんは本当に弁当を買いに行ったようだ。

 ※ ※ ※

 コンビニでバイトを終え帰宅するとアパートの部屋に明かりがついていた。母さんがいる。きっと男を連れ込んでいる。母親の濡れ場なんかに遭遇したくないから、俺はアパートの階段に腰掛け、コンビニで買った菓子パンにかぶりついた。

 家に男を呼び込む母親を恨んだことはない。俺を養うために必死に働いてくれているのに何の文句があるだろう。少しでも生活の足しになればとバイト代を渡しているが、その半分は俺へのお小遣いだと返してくる。
 早く高校を卒業して働きたい。働いて母さんを少しでも楽にさせてやりたい。いま部屋にいる男が母さんを幸せにしてくれてもいい。

「西浦くん」

 パンから顔をあげると、ラフな服装の小泉さんがいた。

「どうしたんだい、こんな場所で」
「小泉さんこそ」
「僕はそこの銭湯に行っていたんだ」
「ここの風呂、狭いですもんね」

 小泉さんは上を見ると、「お母さんと喧嘩した?」と俺に優しい目を向けた。

「違いますよ。ちょっと…客が来てるから」
「そうか…」

 と黙り込んでそれ以上深く追求してこなかった。大人だから事情を察したのかもしれない。

「じゃあ、お客さんが帰るまで僕の部屋で待つといいよ」
「えっ、いいですよ、そんな」
「ご飯は食べた? 何か作るよ」

 言いながら俺の腕を取って立たせる。見た目の穏やかさと違って強引なところがある。

「いや、ほんとにいいですから」
「子供が遠慮なんてするんじゃない」

 小泉さんに引っ張られながら階段をあがり、俺の家の前を通って小泉さんの部屋に辿り着いた。

「ほんとに俺、いいですから」
「とても美味しい惣菜屋さんを教えてもらったお礼だよ。君に教えてもらわなければ、きっとずっと知らないままだった」
「別に、そんな…」

 たいしたことじゃないと言おうとしたが、声が出なかった。小泉さんが悪戯っぽく笑うので、そんな顔もできるんだと見とれていた。親子ほど年の離れた人を相手に、可愛い、なんて、思ってしまうなんて。
 急に気恥ずかしくなって俺は俯いた。戸を開けた小泉さんが「どうぞ」と促す。俺は足を踏み入れた。

 部屋の明かりをつけながら、小泉さんは鞄をおろすと腕まくりをして台所に立った。
 細く、白い腕が、冷蔵庫から次々食材を取り出していく。

「何もない部屋だけど、適当にくつろいで」

 野菜を洗いながら小泉さんが言った。
 部屋は本当に何もなかった。あるのは折りたたみのテーブルと、奥の部屋にふとんが一組、衣装ケースが一個。
 着の身着のまま家を追い出されたみたいだ。

「小泉さんって、ここに来る前は何してたんですか?」

 つい好奇心に負けて聞いてみた。俺に背を向けたまま「主夫だよ」と小泉さんは言った。

「主夫って…じゃあ、奥さんが働いてたってことですか?」
「そんなところ」
「それで奥さんに追い出されたんですか?」
「僕の意思で家を出たんだ」
「どうして?」

 トントンとリズムよく野菜を切っていた小泉さんの手が止まった。しまった、と気付いたがもう遅かった。

「他に、好きな人が出来たんだ」
「まさか、小泉さんが浮気したんですか?」

 印象と真逆の可能性に思わず大きな声が出た。
 小泉さんはまた野菜を切りながらこくりと頷いた。この小泉さんが浮気をするなんて。とてもそんな人には見えない。絶対、浮気されるタイプの人だ。

「意外です。小泉さんって人を裏切らない感じなのに」
「僕はそんなんじゃないよ」

 いやに強い口調で否定され、俺もこれ以上は失礼になると思って口を閉ざした。

 テレビもないので部屋は静かだった。小泉さんがフライパンで炒め物をする音だけが聞こえる。
 手慣れているのは主夫だったからか。
 いい匂いがしてきて腹が鳴った。聞かれてしまったのか、小泉さんは肩越しにこちらを見るとくすっと笑った。その仕草に心臓が鳴った。
 小泉さんは皿に盛りつけると、それをテーブルに置いた。出来たてで、湯気のたつ、手作りの生姜炒め。それに見とれていると、白いご飯の盛られた茶碗と、お箸が並べられた。

「おいしいといいけど」
「う、うまいです」

 ごくりと咽喉を鳴らしながら言うと、小泉さんは「まだ食べてないよ」と声を立てて笑った。俺はまた唾を飲み込んだ。腹が減っているはずなのに、急に胸がいっぱいになった。
 頂きます、と手を合わせて生姜炒めを口にする。お世辞抜きでおいしい。

「うまい」
「よかった」

 俺を見て嬉しそうに目を細める。また俺の胸が鳴った。なんだろう。この胸の高鳴りは。どうしてこんなに小泉さんの視線が恥ずかしいのだろう。顔が熱くなるのだろう。

「さすが、若いと代謝がいいね。汗をかいてる」

 そう言って、小泉さんは人差し指で俺の前髪をすくった。ズキッと股間が痛む。茶碗を持ったまま、咄嗟に前かがみになった。

「すいません、お茶、もらえますか」
「あ、ごめん、気付かなくて」

 小泉さんが離れて俺は静かに息を吐き出した。小泉さんに隠れながらズボンの上から勃起したものの位置をわからないようにずらした。
 どうして急に勃起した。しかもはち切れそうなほど。授業中に不意に立ち上がることはあるけど、今のは小泉さんに原因があるようなタイミングだった。いや、完全に小泉さんが原因だった。
 男相手に勃起するなんて、生まれて初めてで焦る。しかもかなり年上のおじさん相手に。

「どうぞ」

 小泉さんがお茶を置いてくれた。確かにこの人はそのへんのおじさんと比べて清潔そうだし、見た目もいいけど…。

「西浦くん? どうかした?」

 俺がじっと見つめているので、小泉さんが不思議そうに首を傾げた。

「小泉さん、離婚したんですよね」
「うん、まあね」
「浮気相手とは、どうしたんですか?」
「えっ…」

 小泉さんの目が動揺して揺れた。

「ここに来てからずっと一人みたいですけど」
「もう、会わないって決めたから」

 と伏せられた目はとても悲しそうだった。俺の胸の中はぐちゃぐちゃに乱れた。小泉さんにそんな顔をさせる浮気相手に、俺は激しく嫉妬していた。離婚までした二人に、いったい、何があったのだろう。

 男だろうが、年上だろうが、そんなのもう関係なかった。胸の高鳴りも、頬の熱さも、勃起も嫉妬も、全部小泉さんから来てるんだ。
 俺はこの人が好きなんだ。好きになってしまってるんだ。

「俺のこと、下の名前で呼んで下さいよ」
「え、急だね」

 小泉さんに笑顔が戻る。

「元気って書いて、もときって言うんです」

 俺にはその笑顔が一瞬固まったように見えた。

「どうかしましたか?」
「ううん。とてもいい名前だね。親御さんの願いが表れてるよ」

 そう言う小泉さんの笑顔はどこかぎこちない気がする。

「もときくん」

 と何かを確かめるように口の中で呟いている。

「元気くん、おかわりはどうかな?」

 もとの笑顔に戻って小泉さんは右手を差し出した。



初恋のあとさき



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2014-10-22(Wed) 20:14| 隣人| トラックバック(-)| コメント 4

元上司(2/2)

<前話はこちら>

 言われるまま、桜庭さんを部屋の前まで連れて行った。カードキーで開錠し、中のベッドまで運ぶ。

「すまないな、小泉」
「いえ。今日は僕のためにありがとうございました」
「帰るのか?」
「もう、遅いですし」
「まだ八時にもなってないじゃないか」

 今ならまだ急いで帰れば基樹くんの帰宅時間に間に合う。夕飯は無理でも、帰りは出迎えてあげたい。

「小泉」

 ベッドの上で桜庭さんが手招きする。

「なんでしょう」

 近寄ると腰に両手が回された。ぐるりと引き寄せられ、僕がベッドの上に寝転がされていた。

「さ、桜庭さん?」
「ずっと好きだったんだ、小泉」
「えっ…」

 桜庭さんの顔がおりてきて、僕の口を塞いだ。ぴたりと唇同士がひっついている。突然のことで頭が真っ白になった。我に返って、桜庭さんを押し戻した。

「お前が結婚すると知って一度は諦めたんだ。離婚したと連絡をしてきたのはお前のほうだぞ。部屋にまでついてきたのもお前だ。責任取ってくれよ」
「ちょっ、さ、桜庭さん…!」

 再び顔が近づいてきた。顔を背けると首筋に唇が押し付けられた。熱い息を吹きかけられながら、ぬめる舌が舐めあげる。

「や、やめ……!」
「好きだ、小泉、俺のものになってくれ」

 股間を鷲掴まれて全身総毛だった。

「い、やっ…やめて、下さい…っ!」
「もう、我慢の限界なんだ」

 痩せたとは言え、桜庭さんの体は僕より大きく、力も強かった。押さえつけられた腕の下で必死にもがいて抵抗した。無言の桜庭さんにワイシャツを引きちぎられた。遠くではじけ飛んだボタンが落下した小さな音が聞こえた。

「すまん、小泉」

 そう言いながら桜庭さんは手を止めない。ベルトを外し、スラックスの中に手を入れて来る。

「あっ、そっ…、桜庭さん、お願いです、やめて下さい!」
「後生だ、一度でいいから」

 膝の裏に腕が通され、まとめて掬われた。そろった足の上に桜庭さんがのしかかって僕の動きを封じる。僕の体がベッドに深く沈む。飲めない酒を飲んだあと、頭も振って抵抗したため気持ちが悪くなって目が回りだした。

「お前だって仕事が欲しいんだろう?」

 下着をずらされた。

「やめて下さいっ、桜庭さん!」

 僕の声はほとんど悲鳴だった。

「仕事が欲しくないのか?」
「こんなことをしなくちゃいけないなら結構です」
「ずっと女に食わせてもらってきた男をどこの企業が雇うと思う? このチャンスを逃したらあとがないぞ。高校生と一緒にコンビニでバイトでもするか?」
「それで、構いません」
「意地をはるな、小泉。お前は昔からそうだ。いざとなると意固地になる頑固者だ」

 桜庭さんの指が、僕の後ろを探り当てた。軽く爪をひっかけながら中に入れて来る。

「い…いや…嫌だっ…やめて、抜いて下さいっ…桜庭さん、お願いですから…!」
「ここまできて、やめるわけないだろう」

 桜庭さんは指を深く埋めてきた。僕はこの感覚を知っている。この異物感を和らげる方法も知っている。でもそれは相手が基樹くんだから自然とできることだ。基樹くんだから僕の体も彼を求めて開かれるのだ。
 桜庭さんだと、ただ怖くて気持ち悪くて仕方がない。

「嫌です、桜庭さ、ん…っ、もう、やめて下さい…っ、仕事も結構ですから…っ。なかったことにして、忘れますから…!」
「忘れさせてたまるか」

 中でグリと指を回されて、ある場所が刺激された。僕の体が勝手に反応を見せる。

「んっ、きつくなったな。ここがいいのか?」

 桜庭さんは同じ場所をグリグリ押してきた。そこは基樹くんが意地悪をして僕を責めたてる場所だ。僕から理性を奪って淫らにさせ、最後は泣きながら基樹くんを求める場所。

「いっ、やぁっ…、やめて…あっ、やめて下さい、嫌だ…っ、やっ、桜庭さ…んっ!」
「おい、どうした? 急に声がかわったぞ」

 桜庭さんがにやついて言う。その間もずっと指を動かし続ける。桜庭さんに押さえつけられたまま、僕の体はビクビク震えた。

「も、う…そこは、やめて下さ、いっ! んっ、いや…あっ…いや、やめて…!」
「嫌だやめろと言うわりに、中は喜んでいるみたいだぞ、小泉。もしかしてお前、ここを使うのは初めてじゃないな?」
「はぁっ…ん…やめて…っ、もう動かさない、で…っ」

 急に呼吸が楽になった。桜庭さんが僕の上から退いて、足からズボンと下着を抜き取ると膝を左右に割った。

「あっ…!」

 慌てて前を隠したが、すぐ桜庭さんの強引な手によって晒された。そこを見た桜庭さんはごくりを咽喉を鳴らした。

「後ろだけで感じるとはずいぶん慣れてるじゃないか」
「ち、ちが…んっ」

 僕の足の間で体を倒して桜庭さんがキスをしてくる。不意をつかれて舌を入れられた。分厚い舌が口腔内を舐めまわす間、桜庭さんは僕の胸を撫でさすり、乳首を抓った。

「んんっ!」
「こっちもか」

 と舌なめずりすると、桜庭さんは胸に吸い付いた。強く吸われると細い針で刺されたように痛んだ。歯で挟まれて小刻みに噛まれると涙が滲んだ。

「い、や…あぁ…やめ…」
「もう観念しろ、小泉」

 指を抜くと桜庭さんは自分の前をくつろげて、中から取り出したものを僕の後ろへ宛がった。

「桜庭さん…っ! そ、それだけは、駄目です、いけません…!」
「誰に操を立ててそんなこと言っているんだ? 離婚理由はお前の浮気が原因か?」
「やめて…やめて下さい、桜庭さん…あ、あっ…あぁっ…!」

 熱い塊が僕の奥をこじ開けた。目尻から涙が零れ落ちる。

「あぁ…くそ…、他の誰かに先を越されちまうなんて…こんなことなら、もっと早くにお前を抱いておけば良かった」
「なんて…なんてことを…桜庭さん、あなたを軽蔑します…っ」
「なんとでも言ってくれ。だがその前に、自分の姿をよく見た方がいいんじゃないのか?」

 ペニスを掴まれた。僕はまだ勃起させていた。それをしごかれた。

「あっ、や…やめて、桜庭さんっ…、これ以上はもう…!」
「男同士だ、一回出さなきゃ収まらないこともわかってるだろう? お互いに」

 桜庭さんは腰を振った。中で桜庭さんのペニスが擦られる。基樹くんにしか許していない場所が、別の男によって犯されている。申し訳なくてまた涙が溢れてきた。

「泣くほど俺が嫌か」
「あっ、んっ…や…いや、です…っ!」
「本当に嫌なら立たせないと思うんだがな」
「いや…違うっ…言わな…でっ…んっ、あ、あぁっ」

 腰つきが激しくなった。卑猥な音を立てながら、桜庭さんが僕の奥に叩きこんでくる。
 基樹くんと出逢い、僕は別人に生まれ変わった。基樹くんに毎日のように求められた。それが嬉しくて年甲斐にもなく頑張った結果、僕の体まで変わってしまった。
 はしたない言い方をすれば、「仕込まれて」しまったのだ。体のあちこちで感じるように。

「はぁっ、あっ、あんっ…あぁっ…やめて…桜庭さ…あっ、いや、いやだぁ…ん!」
「体と心は別物みたいだな。肌が赤く染まって…すごく色っぽいぞ、小泉。俺のものになれ」
「やっ…いや、あっ、僕は…僕の体は…っ」
「お前の体は?」
「も、基樹くんの、もの、なんです…っ」
「もとき? それがお前の恋人か?」
「そ、う…んっ、はぁっ…はっ、あっ…僕が、好きなのは、基樹くん、だけ…!」
「だから俺のものにはならないって? 関係ないね」

 僕の腕をつかむと、桜庭さんは一層激しく腰を振った。

「ひっ、いっ…あっ、やめ、桜庭さんっ! やめて…っ、あっ、あぁんっ!」
「必ずお前を奪い取ってやる」
「だ、だめっ…あっ、あん! やっ…いやぁっ…基樹くん、、基樹くん…っ!」

 助けを呼ぶように基樹くんの名を口走りながら僕は果てた。

 ※ ※ ※

 部屋を出てすぐ携帯を見た。着信が一件。メールが一件届いていた。どちらも基樹くんからだった。

『いま仕事終わったとこ。悠さんはまだ会社の人と会ってるの?悠さんのご飯も何か買って帰ろうか?』

 メールを見ていたらまた涙が溢れてきた。僕は基樹くんを裏切った。基樹くん以外の男に体を許してしまった。それがたとえ合意でないものだったとしても、裏切った事実はかわらない。桜庭さんの言う通り、連絡を取ったのは僕からだし、ホテルの部屋までついて行ったのも僕だ。
 何より。
 無理矢理だったというのに、後ろを弄られ反応した自分の浅ましさが嫌だった。奥を突かれながら射精した自分に愕然となった。
 基樹くんと知り合う前までは男同士でなんて考えたこともなかったのに、これでは基樹くんでなくとも、誰でもいいということになってしまう。

 僕を思いやる文面を見ていたら、申し訳ないという気持ちで胸が痛くなった。
 こんな僕は基樹くんに相応しくない。
 基樹くんにはもっと若くてしっかりした子が相応しい。誰にでも体を開いてしまう僕のような汚れたおじさんじゃなく。

 そうだ。僕は基樹くんのそばにいてはいけないんだ。
 基樹くんはまだ若い。将来性のある若者だ。ご両親は早くの結婚を望んでいる。孫の顔を見たいのだろう。僕が相手ではそれは未来永劫叶わない。

 あぁ、僕はなんて愚かになってしまったんだろう。
 若い子に口説かれてすぐ本気になって。のぼせあがって彼の将来の邪魔をするなんて年長者のすることじゃない。
 今すぐ彼の前から消えなくては。

 財布を開いてカードを確認する。貯金は二百万ほどあったはずだ。これで部屋を借りて、早く仕事を見つけなければ。
 桜庭さんには頼れない。最後は殴って部屋を出てきたし、何よりもう顔も見たくない。
 全部、自分一人でなんとかしないといけない。

 基樹くんと別れて一人になる自分を想像すると泣きそうになった。基樹くんが別の誰かと一緒になるのを想像すると胸が張り裂けそうになった。
 それでも僕は行かなきゃいけない。

 メールを受信して携帯が鳴った。見ると基樹くんからで『家についた。悠さんはいまどこ?もう少しかかりそう?』という内容だった。マンションの部屋に基樹くんがいる。基樹くんが待っている。
 震える指で消去ボタンを押した。アドレスからも基樹くんの連絡先を消した。

 ホテルを出るとすっかり夜で辺りは真っ暗になっていた。僕は基樹くんの待つマンションとは反対方向へ歩き出した。




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2014-10-15(Wed) 20:21| 元上司| トラックバック(-)| コメント 6

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