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好きと言って(1/4)

2014.08.29.Fri.
<前話「惚れ薬」はこちら>

「んんっ、あ、あっ…土屋っ…!早くしろ…!」
「ごめん、もう少しだから…っ」

 土屋がラストスパートをかけて腰を激しく振る。その摩擦に、さっきイッたばかりだというのに、沖田はまた射精感がこみあげてくるのを感じた。

「はぁっ…あぁ…早く、いけッ…イッてくれ…っ!」

 土屋の腕を掴んで指を食い込ませる。
 自分が女のように嬌声をあげ、突っ込まれることに悦びを感じるなんて、一ヶ月前は思いもしなかった。しかも相手は存在感ゼロ、友達皆無の便所飯野郎だ。そんな奴に恋焦がれている。体が疼く。授業が…と躊躇する土屋を体育倉庫に連れ込んでセックスしている。

「あ、出る…出そう、沖田くん…!」
「はっ、やく…あっ、はやく…出せよ、中に…」
「でも、さっき中に出すなって」
「もう、いいからっ!」

 トイレに籠り、自分の尻を弄って中から土屋の精液を掻きだす作業は情けなくて泣きたくなってくる。それが嫌で中には出すなと言っておいたのだが、いざことが始まるとどうでもよくなって、むしろ中に欲しいと思ってしまう自分がいる。

「じゃあ、出すね…ごめん」

 謝んな馬鹿、とイライラする。でもそういう性格に最近トキめいてしまう。病気だ。
 こんなキョドってみっともない男のどこに惹かれているのか自分でもわからなかったが、土屋を思うと胸が苦しくなり、土屋のそばにいると理性が薄れて体が熱くなった。

 こうなるきっかけは急だった。ある日突然、なんの前触れもなく訪れた。まさか自分がホモになるなんて思いもしなかったが、土屋への性欲が爆発し、我慢できずにキスしたのは自分からだった。
 土屋に触られるだけで体に電流が走り、ペニスは肥大し、何度も精を放ったのは紛れもない事実だ。
 あの日のことは思い出すだけで顔が火照ってくる。あんなにイキまくったのは生まれて初めてのことだ。気がおかしくなりそうだった。

 それからしばらくは初めて経験する恋愛狂いの期間があった。
 学校のなかでは息も苦しくなるくらい土屋に恋焦がれた。しかし家に帰ると落ち着いてなぜ自分はあんなダサい男に夢中になっているのかとわけがわからなくなった。きっと明日は土屋になんか目もいかなくなって、女のほうが良くなるに違いない、と登校すれば、また土屋のことしか考えられなくなっていたりする。かと思えば、気恥ずかしいだけで劣情を催さずに済む日もあったりした。

 今日は比較的落ち着いているほうだが、オドオドしている土屋を見ていたらヤリたくなった。
 体に出される体液を感じながら、沖田も自分でペニスを扱いて射精した。

「土屋、こっち…っ」
「えっ、え、なに」
「キス、しろ」
「えっ、あぁ…うん…ほんとに?」
「さっさとしろ!」
「ごめん!」

 顔が近づいてくる。沖田も頭を持ち上げた。合わさる唇。積極的でない口に吸い付く。舌を絡める。唾液の糸を引きながら、土屋がはなれていく。

「あ…煙草の味がしない…」
「お前が嫌だっつったんだろうが」
「言ってないよ!」

 確かに嫌だとは言っていない。前にキスしたときに煙草吸ってるの?と聞かれただけだ。付き合ってる相手に配慮したことなどなかったが、土屋に言われると妙に気になってそれ以来煙草を吸っていない。

「もしかして、俺のためにやめたの…?」
「っせえんだよ、自惚れんな。終わったならさっさと抜け、いつまで突っ込んでんだよ」
「あ、ごめん…」

 ズルリと土屋が抜け出る。ぞわ、と体の奥が震える。
 服装を整え、トイレに行くために土屋へ声をかけた。

「なんか飲み物買ってくるけど、お前はなんかいるか?」
「俺はいい…俺はいらない…」

 体育座りで自分の膝を抱える土屋は、なぜか顔を白くして表情を強張らせていた。
 授業をサボッたからビビッてんのか、程度にしか思わず、沖田は体育倉庫を出た。
 トイレへ向かい、土屋の出したものを掻き出し、自分がこんな惨めな思いをしているのは土屋のせいだと責任転嫁して苛々しながら自販機で炭酸ジュースを2本買って体育倉庫へ戻った。

「ほら、てめえの分も買っ…」

 沖田は言葉を止めた。中はもぬけの殻だった。

「なんか言ってけっつうんだよ!」

 缶ジュースを床に叩きつけた。

※※※

 今日も昼休みになると土屋は姿を消した。放っておけばいい。と思った直後、やっぱり放っておけないと沖田は席を立った。

 使用中の個室は一番奥の一つだけだった。沖田はその前に立つと、思いっきりドアを蹴り上げた。中から「エッ」と驚きと怯えの入り混じった小さな声がする。

「おいこら出てこい、土屋!」
「…沖田、くん…?」

 やっぱりこの中か。沖田はガンガン扉を蹴り続けた。中からガチャガチャと音がして、そっと戸が開いた。ただただ、戸惑っている土屋が顔をのぞかせる。

「な、なに?そんなに蹴ったらトイレが壊れるよ」
「こんなとこで何してんだよ、てめえ」
「なにって…」

 土屋の手には箸が握られていた。視線を後ろへずらせば、蓋を下した便座の上に弁当箱が置いてある。沖田は盛大に舌打ちした。

「んな場所でメシ食ってんじゃねえよ、おら、とっとと出てこい」
「えっ、いや、でも…」

 引きずり出そうと腕を掴んだが、土屋は抵抗して逆に腕を引いた。

「そんなに便所でメシ食いてえのかよ」
「そういうわけじゃないけど…」

 と俯いて言葉を濁す。羞恥、屈辱、恐れなどが混在する土屋の顔を見ていたら、苛立つと同時に胸が締め付けられて動悸も早まった。沖田はまた舌を鳴らしながら個室に押し入った。

「ちょ、沖田…狭いよ…」

 動揺して目を泳がせる土屋を壁に追い詰める。

「この前はよくも俺になんも言わねえで倉庫からいなくなりやがったな」
「あ、あの時は、ごめん。あの、急にトイレ行きたくなって」

 疑わしい。どうせ面倒を避けようと吐いたつまらない嘘だろう。
 その面倒が自分のことだと気付くと、それ以上追及する気が失せた。

 正直、土屋のどこが好きなのかわからない。自分が一番、あぁはなりたくない、と軽蔑するタイプの人間だ。
 自分から選んで日陰を歩くような、自分の意見を持たず楽して流されているくせに陰で文句を言うような、カースト底辺のくせに自分以外の人間を全員馬鹿にして見下していそうな、そんなタイプの人間だ。
 今までは興味すら持たなかったのに、いまは土屋を見ていると、その弱さや虚勢に苛立ちどうにかしてやりたいと思うようになっていた。
 これも恋の力なのだとしたら、人格までかえてしまうなんて凄い力だ。

「昼休み、終わるよ」

 逃げ道を探す目。絶対沖田を見ようとしない。
 土屋の頭を抱えてキスした。土屋が硬直する。瞬きせずに目を見開いている。

「目ぇ、閉じろよ、馬鹿が」
「お、沖田くん、なんでこんなことするの?」
「あ?そんなのてめぇ……好きだからに決まってんだろ」
「まだ俺のこと好きなの?」

 思いがけない質問に言葉を失う。沖田はギリッと歯噛みした。この男はどうしてこうも無神経なのだろう。沖田に怯えているくせに、好かれて迷惑だという態度は隠しもしない。

「っせえよ。とにかく教室でメシ食えよ」
「別にここでいいよ、俺…友達いないし…」
「俺と食えばいいだろ」
「えっ…」

 露骨に嫌そうな顔をする。
 突然土屋を好きになったあの日、視聴覚室で自分が土屋にどういう感情を抱いているか、どんな風に体が反応するかを、不本意ながらもすべてさらけ出してしまった。
 あの日以降、何度もそんな状態に陥った沖田を、土屋は戸惑いながらも受け止めて相手をしてくれていた。もしかして土屋も…なんて期待した自分が馬鹿みたいだ。土屋はただ、自分を怒らせるのが怖いから仕方なく言うことをきいていただけなのだ。
 その証拠に最近、避けられているし、この態度だ。

「俺が沖田くんと一緒にお昼食べてたら変だよ。みんなになんて言われるか」
「誰になんて言われてもいいだろうが。そんなに俺と食うのが嫌なのかよ」
「…………」

 否定しない。舌打ちをこらえながら、沖田は弁当を手に持つと、土屋を連れて教室へ戻った。


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