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再会(1/2)

2014.08.13.Wed.
<前話「ノビ」はこちら>

 一年半の実刑をくらった。
 仮釈放が認められ、迎えに来た母親と一緒に実家へ戻った。父親は仕事でいなかった。本当は一緒に迎えに来たがっていたのよと母親は言うが嘘だろう。
 久し振りの我が家で手持無沙汰になる俺に母親は飯を勧めた。飯の支度をしながら声を殺して泣く母親の背中に猛烈に罪の意識がわいた。
 まともになろう。本当に更生しよう。数年ぶりのおふくろの味に俺まで泣きそうになった。

 それから俺は真面目に仕事探しをし、新聞販売店で働くことになった。面倒な保護観察官との面接もきっちり行い真面目に暮らしていた。初めての給料で両親を食事に誘った。母親は珍しくめかしこみ、まともに口をきいてくれなかった父親は「お疲れさん」と俺にビールを注いでくれた。

 遊んで過ごしたために単位を取り損ね、学費は自分で働いて払えと親に突き放され、仕返しの気分で大学を辞めてから友人知人の部屋を転々とした。いろんなバイトをやったがどれも長続きしなかった。ホストになったこともある。水商売の女のヒモになったこともある。
 悪い知り合いばかりが増えていき、そのなかで空き巣に入る方法を教わった。その日食べるために盗みに入った。収穫はまちまちだったが、たいした苦労もせず、むしろスリルを味わえながら金が入る。ちょろい商売だ。他人が働いて得た金を、なんの呵責も感じずに懐に入れていた。

 俺が盗みに入って奪ってきた金は、俺が必死に配達先を覚え、午前二時から一軒一軒のポストに新聞を入れて得た給料と同じ、かけがえのない金だったのだ。母親が喜んでめかしこむような、ずっと怒っていた父親の口を開かせるような、そんな大事な金だったのだ。
 保護司との面接でもそのように素直に話すと「よかったですね」と笑って頷いてくれた。
 取り返しのつかないことをした。罪は消えない。時間は戻らない。せめてこれからは真っ当に生きていこう、そう思っていたある日。

 夕刊の配達をしていた俺は、とあるマンションから出てきた一組の男女に気が付いた。二人は俺とは反対方向へ歩いていく。その男の後ろ姿に見覚えがあった。
 動悸が激しくなった。体が熱くなりダラダラと汗をかいた。新聞を持つ手が震えた。膝も笑っていた。俯いた俺の足もとにポタリと汗が落ちた。あれは間違いなく、俺をパクッた三課のデカ、斉藤の姿だった。
 忘れもしないその姿に、一瞬で頭に血が上った。

 刑務所のなかで俺は山城と言う自称やくざの幹部だという男の女だった。若くて少し見た目がいいという、それだけの理由で犯された。精一杯抵抗したが、山城の仲間に押さえつけられてむりやり犯された。プライバシーなどない空間で、俺が女にされたことはすぐ知れ渡り、山城以外の男も俺にちょっかいをだしてきたが、山城の睨み一つでなくなった。
 幹部なのかはわからないが、山城がやくざなのは本当のようだった。
 山城の女でいることは刑務所内ではいろいろメリットがあった。だから抵抗したのは最初の頃だけで、あとは俺も嫌々ながら山城の女でいることにした。

 俺が刑務所で男に犯されている間、こいつはのうのうと日常を送っていたのだ。空き巣に入った俺が悪いのは確かだが、縛って自由を奪った相手を犯す斉藤の警察官としての倫理は?人としての道義は?俺にあんなことをしておきながら、正義のおまわりツラして社会的信用も得ている斉藤が憎いなんてもんじゃなかった。
 二人のあとをつけたい衝動をなんとか押し込め、配達に戻った。ミスせず配達できたことが奇跡に思えた。


 偶然斉藤を見つけたあの日から斉藤のことが頭から離れなかった。
 自分の犯した罪を反省する気持ちはある。二度と同じことはしないと両親に誓って断言できる。だが斉藤のこととなると話は別だった。
 熱いものがマグマのように体の底から噴き上がってくる。あの当時の恥辱を思い出させて俺を狂わせる。近づいてはいけない、関わってはいけない。頭ではわかっていても気付くと斉藤のことで頭がいっぱいになっていた。明日は仕事がない、その条件に気付くと足が勝手に斉藤の勤務する警察署に向かっていた。

 道路を挟んで離れた場所から斉藤が出てくるのを待った。二時間近く経ってやっと斉藤が出てきた。
 斉藤が向かった先は繁華街だった。メイン道路を外れ、細い裏道を何度か曲がり、一軒の店の裏口で立ち止まった。俺も物陰に隠れた。
 裏口から女が出てきた。派手な衣装と化粧。水商売の女。おそらく先日斉藤と一緒にいた女。女は斉藤に抱き付いて熱烈な口づけを交わした。斉藤の手が女の細い腰に回される。その手がだんだん下がっていく。
 斉藤は女をひっくり返すとスカートをたくしあげ、小さな下着をずりおろして女を後ろから貫いた。悲鳴みたいな声が雑居ビルの間でこだまする。斉藤は女の口を手で塞ぎながら女を後ろから犯した。激しい腰使いで音がここまで聞こえてくる。

 しばらく腰を振っていた斉藤がペニスを引き抜いた。女がその場へ膝をつきペニスを頬張る。斉藤に負けないほど激しく顔を前後に揺すって女はペニスをしゃぶっていた。最後は口に出したのだろう。斉藤は女の口からペニスを出すとズボンのなかに仕舞った。二、三言葉を交わすと斉藤がこちらへ向かってきた。俺は慌てて建物のかげに隠れ、斉藤をやり過ごした。

 その後斉藤は定食屋に入って飯を食い、コンビニに寄って買い物をした。歩きながらコンビニで買ったビールをあけて飲み始める。
 くたびれたサラリーマンのように見えるが、隙がない。少しでも距離を縮めれば斉藤が振り返り俺を見つける絵が頭に浮かぶ。一定の間隔を保ったまま、見覚えのあるアパートのそばまで来た。

 部屋の鍵を開けた斉藤が振り返った。

「いつ出て来るんだ。御礼参りなら近くに公園があるから、そこで頼むぜ」

 俺に気付いているのか?!
 心臓が止まるほど驚いた。声が出せなかった。斉藤は完全に俺に気付いているようだった。民家の門の影に隠れている俺のほうへ視線を注ぎ続けている。その圧力を全身で感じる。
 見つかったなら仕方ない。門から出ると、まっすぐこちらを見ていた斉藤と目があった。

「もう出所したのか、模範囚だったんだな」
「俺のこと覚えてんのかよ」
「忘れねえさ。お前も姫泣き油の効き目は忘れられないだろ」
「…っ!!」

 言葉を失う俺を見て斉藤は薄く笑うと、「まぁ入れよ。外じゃ近所迷惑だ」扉を開けたまま部屋に入ってしまった。迷った末、あとに続いた。


 部屋に入るなり腕を掴まれ引き寄せられた。

「俺が忘れられなかったか」
「当たり前だろ」
「そんなに姫泣き油はよかったか?」
「なわけねえだろ!」

 斉藤がにっと笑ったのを見た直後口を塞がれていた。驚く俺のなかに斉藤の舌が侵入して動き回る。

「ん…めろ…やめ、ろ、よ…!」

 胸を叩いた。分厚い胸板でびくともしない。

「俺に抱かれに来たんだろうが」
「ふざけんな!」
「刑務所ではどうだった?やられまくったんじゃねえのか?」
「あぁ、てめえのせいでな!」
「道理で、前よりガキ臭さが抜けてエロくなってやがると思った」

 斉藤が俺の尻を鷲掴む。太い指がジーンズの上から的確に肛門を狙って押してくる。

「てめ…この、変態野郎が…!」
「んなこと言ってちんぽおっ立たせてたら世話ないな」

 咽喉の奥で斉藤がクックと笑う。事実を指摘された俺は羞恥から顔が熱くなった。

「抱いてほしけりゃ、まずはしゃぶってもらおうか」
「なっ…さっき、女で抜いてただろうが」
「お前に使う分は残してある」

 耳を舐められてぞわりと全身総毛だった。ジーンズの前が窮屈だった。斉藤に触れられ声を聞いただけで条件反射のように勃起した。

「前も言ったと思うがな、俺はお前が言わなきゃ何もしてやらないぞ」

 そう言いながらグイグイ指で後ろを押してくる。

「俺が…、なんかして欲しいみたいな言い方すんなよ…っ」
「してほしくないのか?」
「当たり前だろ」
「だったら帰れ」

 いきなり突き放された。俺に興味をなくした斉藤は背中を向けて、テーブルの上に置いたコンビニの袋をあさっている。
 その背中を見ながら俺は動けないでいた。鼓動の早い胸を押さえていた。
 テレビをつけた斉藤がビール片手にザッピングを始める。完全に俺は無視。いないものとして扱っている。あの時と同じだ。痒みでどうにかなりそうな俺を無視して、弁当を食べていたあの時とまったく同じ。

「…はぁっ…はぁ…っ…」

 思い出しただけで呼吸が苦しくなる。あの一晩で俺の人格は破壊されてしまったのだ。

「抱けよ、俺を……」

 震える舌でなんとか声を送り出した。ザッピングがとまる。
 
「抱いて、くれよ……」

 ゆっくり斉藤が振り返った。俺は斉藤に抱き付いて、ビールの味のする唇を貪った。


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