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好きと言って(3/4)

2014.08.31.Sun.
<前話はこちら>

「ついてくんじゃねえ!!」

 沖田の剣幕に土屋は足を止めた。
 少し時間を置いてからトイレを出て辺りを見渡す。沖田の姿はない。教室にもいなかった。

 授業が始まっても沖田は戻ってこない。またサボリか、と周りは気にしない。土屋だけが居心地の悪い思いをしていた。
 もしかして。いや、きっとそうなんだ。それしか考えられない。
 土屋はポケットの中の小さな瓶を握りしめた。この中には惚れ薬が入っていたが今はもう空だ。

 間違ってこれをクラスメートの沖田に飲ませてしまった。沖田は豹変した。自分に迫り、キスしてきた。そして流れでセックスしてしまった。惚れ薬が効いているだけなのに、土屋ことを好きになったと思い込んでいた。
 もしそれが勘違いだったと気付いたら、急激な体の変化にさすがの沖田も薬を盛られたと気付くだろう。そうなったらただではすまない。
 それ以来、学校にいる間は効き目の切れないよう、あの手この手で沖田に薬を服用させた。

 一滴でだいたい2時間の効果だということがわかった。じゃあ三滴垂らせば6時間かというと違った。効きは強くなっても200分程度で効果は薄れた。三滴が沖田の理性を保てる限界で、薬が切れそうな頃を見計らって沖田に薬を盛った。
 思い通りに薬を飲んでくれない日もあってヒヤヒヤしたが、沖田が好きだと思い込んでくれていたのでなんとか命拾いした。

 薬が半分減ったくらいから、土屋は占い師を探し始めた。最初に会った高架下は曜日や時間をずらしたりしてもう何度も探した。通行人に聞き込みまでしたが、誰も占い師なんか知らないという。土屋自身、あの一度きりでそれ以降占い師の姿を見たことはなかった。
 小さな瓶だからもともと量は微々たるもの。どんどん薬は減っていく。焦る土屋を嘲笑うかのように占い師は忽然と行方をくらましたままだった。

 底がついたのがつい先日のこと。最後は水道水を入れて瓶に付着した薬の残滓でなんとか乗り切った。予想外に薬が効いて、発情した沖田に体育倉庫に連れ込まれた。
 沖田と何度セックスしただろう。きっとこれが最後のセックスになる。いやもしかしたら今日が人生最後の日になるかもしれない…。
 効き目の切れたあとの沖田が怖くて、土屋は倉庫から逃げ出した。

 放課後は必死になって占い師を探し回った。足が棒になりくたくたになって家に帰ると、土屋はとりあえず遺書でも書こうか、とペンを持って机に向かった。文面を考えていたら疲労からいつの間にか眠りこけ、朝になってしまった。
 何もしらない母親に家から追い出され、行く当てもなく結局学校に行くしかなかった。
 できるだけ沖田の目につかないよう小さくなって過ごした。
 休み時間や授業中、沖田から視線を感じた。ガンを飛ばされているのかと戦々恐々となった。

 いつも通り一人でお昼ご飯を食べていたら沖田がトイレまで押しかけて来た。ついにこの時が来た…!殴られる覚悟をしたのに、沖田はなぜかキスしてきた。まだ勘違いをしているのか?もしかしてまだ好きだと思い込んでいるのか?
 確認せずにいられなかった。

「お、沖田くん、まだ俺のこと、好きなの?」

 沖田はビクッと肩を揺らした。
 違うとも、そうだとも言わない。はっきりした答えを得られないまま教室に連れ戻された。便所飯がなんでここにいるんだという視線を痛いほど感じながら沖田に食事を強要された。
 新手の嫌がらせにしか思えなかったが、それ以来、クラスで露骨にハブられることはなくなった。誰かが土屋をからかっていると必ず沖田が止めに入った。だから誰もからかってこなくなった。話をしているだけだと何も言ってこない。そのかわり睨むような目で監視された。学校にいるあいだ中、そばにいさせられた。

 沖田が何を考えているのかわからない。何をしたいのかわからない。
 薬はとっくに切れている。体育倉庫でしたのを最後にセックスもしていない。もうとっくに心身ともに正気に戻っているはずだ。これ以上俺を混乱させないでくれ。あんたは男より女の方が好きだろう。早くそのことを思い出してくれ。
 そう思って新田の話をしたのに

「てめぇ、俺の気持ちわかってて、そんなこと言ってんのかよ」
「お、沖田くんは俺なんか好きじゃないと思うよ、たぶん、きっとそれ、勘違いだと思う…」

 そりゃあ今まで何回もセックスはしてきたけど、それは薬のせいであって、好きとか恋愛感情があったからじゃない。

「お前が勘違いにしてほしいだけだろうが!そんなに迷惑かよ!」

 迷惑なんかじゃなかった。何度も肌を合わせた。たくさんの時間を共有した。ポツリポツリと会話もあった。知れば知るほど沖田のことを苦手に思わなくなった。
 薬を飲ませることに心が痛むようになった。好きでもない相手に強制的に発情させられ、プライドもかなぐり捨てて抱いてくれと男に懇願するのはさぞ屈辱的だっただろう。
 保身のために安全性も確認できないものを飲ませ続けた。沖田に申し訳ないと思っていた。
 俺が悪かったから、だからもう、元に戻ってくれ。

「もういい。もうなにも言うな。今まで嫌々相手させて悪かったな。もうお前には関わんねえから安心しろ。こんなに誰かを好きになったのは初めてだったが、相手が悪かったと思って諦めるからお前も忘れろ」

 沖田に押しのけられた。違いざま見た沖田の顔は辛そうに歪んで今にも泣きだしそうだった。それを見た瞬間、鋭い針で心臓を突かれたような気がした。
 薬はとっくに切れている。勘違いや思い違いの期間もとっくに終わっているはずだ。
 愕然となった。

「ほんとに俺のこと好きだったの?本気で?」

 振り返った沖田は自虐的に笑った。

「は…そーだよ、そうだったんだよ。でも今日までだ。じゃあな」

 とトイレから出て行ってしまった。
 怒鳴られ追いかけることを躊躇った。学校が終わったら沖田に会いに行こう。鞄も届けてあげよう。そこでもう一度気持ちを確かめて…確かめてどうしよう。
 土屋はまだ自分の気持ちがはっきりわかっていなかった。まだ少し怖いが苦手意識はだいぶ減った。沖田が自分のことを好きだというなら付き合ってもいい。
 そう考えて放課後になると沖田のマンションへ向かった。インターフォンを鳴らしたが誰も出てこない。沖田の両親は仕事だ。仕方なく待つことにした。
 夕方になって沖田は帰って来た。土屋を見るなり顔を顰める。

「何しに来たんだよ」
「鞄、持ってきた」

 チッと舌打ちしながら鞄を受け取る。その時、沖田が上靴のままなのに気付いた。

「くつ…」
「うるせえ。とっとと帰れ」
「あの、話が」
「話なんかねえよ、帰れ」
「1つだけ!沖田くん、ほんとに俺のこと、好き?」

 キッと睨まれた。ぎこちなく引き攣った顔がみるみる赤くなっていく。

「そんなことを言うためにわざわざ来たのか?どこまで人をおちょくりゃ気が済むんだよ。いい加減にしねえとマジでぶっ飛ばすぞ」
「違うの?でも今日、こんなに誰かを好きになったのは初めてだって…」
「もういいだろ、黙れよ!!」

 大声を出されて土屋は口を閉ざした。下を向いて沖田は肩で息をしている。握りしめる拳が小さく震えていた。

「…何が、楽しいんだよ…」

 辛そうに声を絞り出すと、沖田は鍵をあけ、家の中に姿を消した。
 しばらく扉を眺めていた土屋は「また明日、学校でね」と声をかけてからその場を立ち去った。



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好きと言って(2/4)

2014.08.30.Sat.
<前話はこちら>

 教室に戻ってきた沖田にクラスメートが話しかけてきた。それに適当に返事をしながら土屋の座る椅子を確保すると「ここ座れ」と教室の入り口で突っ立っている土屋へ声をかけた。

「あれぇ、便所飯くんじゃん。その弁当、もしかして便所飯くんの?どれどれ、あ、うまそう、この卵焼き」

 土屋の弁当をつまみ食いしようとするクラスメートの手を沖田は叩き落した。

「いってぇ、なにすんだよ」
「土屋の弁当だろうが、勝手に食ってんじゃねえよてめぇ」
「…なんで沖田がマジになって怒ってんだよ」
「誰だって友達のこと馬鹿にされたら頭くんだろうが」
「友達って…土屋が…?」
「そうだよ、文句あんのかよ、ああ?」
「べ、別に…」

 沖田はただ口が悪く態度がでかいだけじゃない。誰にでも喧嘩を売るし誰からも買うが、よほど卑怯な条件でない限り負けたことはない腕っ節の強さ。それは学年中の誰もが知っている。いつの間にか教室中がシンと静まり返っていた。

「土屋、ここに座れって言ってんだろ」

 本人にそのつもりはなくても、周りには沖田が命令し、土屋を服従させているようにしか見えなかった。土屋の真っ青な顔が、友情なんてものはないと物語っていた。
 みんなに注目されながら、ギシギシと音が聞こえそうなほどぎこちない足取りで土屋は指定された場所に腰を下ろした。
 満足げに沖田がニッと笑う。

「食えよ」
「こ、こういうの、困るよ…」
「うるせえ、食えって言ってんだよ」

 衆人環視のなか、土屋は食事を強要されていた。

※ ※ ※

 最初はなにか裏があると思われていた沖田の友達宣言も、事件や問題が起こらないまま数日が過ぎるとみんなに認知されるようになってきた。
 といっても土屋は沖田の金魚のフン、コバンザメという位置づけだったが、その雑魚振りが見事に自然なものだったので、二人が一緒にいる姿に誰も違和感を抱かなくなっていた。
 移動教室の時も二人は一緒に行動した。昼休みも一緒に食事をした。下校も途中まで一緒に帰った。時折沖田が声を荒げることはあっても、決して土屋には手を出さない。その様子を見ていたクラスメートも、次第に土屋を自分たちの輪に入れるようになった。

 あからさまな無視や蔑みはなくなり、ほとんどイジられるような関わり方で土屋はクラスのマスコット的な存在になった。
 便所飯くん、と見下していた女子たちも土屋に声をかけるようになった。
 今日、土屋に声をかけていたのは新田だった。
 気にしないでいようと思っても、沖田の神経は勝手に二人に集中した。

 頭にピーチソーダが浮かんだ。土屋と新田の顔を交互に見た。土屋の表情が、自分に向けられるのとはまるで違うことに気付いた。緊張しているのは同じでも、どこか上擦った顔つきで、耳が赤い気がする。
 女に慣れていないのか。やはり新田に惚れているのか。後者の可能性が高かった。沖田は目を伏せた。
 二人が言葉を交わす。饒舌な新田に対し、土屋は言葉少なく返している。そこに救いを見出す自分に腹が立った。
 新田が土屋の肩にポンと手を置いた。少し離れた場所からでも、土屋が顔を赤く染めているのがわかって沖田の胸はキツと痛んだ。

 土屋がトイレで一人きりの便所飯をしているのをどうにかしてやりたかった。クラスの中に居場所を作ってやりたかった。友達はいない、と言い切った土屋に友達を作ってやりたかった。
 本当の友達が出来たかどうかは疑問だが、沖田が目を光らせているので少なくとも虐められたり、無視されたり、馬鹿にされたりすることはなくなったはずだ。それどころか女子にまで優しくされるようになった。
 望み通りになったはずなのに、土屋が誰かのそばで少しでも笑みを見せていたりすると嫉妬した。相手が新田だと、それは烈火のごとく燃え上がった。
 自分がこんなに器の小さい男だとは思わなかった。
 これ以上醜い自分になりたくなくて沖田は席を立ち、教室を出た。とりあえずトイレに向かって歩いていたら、小さな足音が近づいてきた。

「沖田、くん!」

 声で土屋だとわかる。浮かれている土屋の顔を見る気分になれず、無視してトイレに入った。土屋もあとをついてくる。

「沖田くん」
「…なんだよ」
「あの…、新田さん、まだ沖田くんのこと、好きなんじゃないかな」
「はぁ?だから?俺にどうしろっていうんだよ」
「また付き合ってあげたらどうかなって…」

 土屋の言葉にはらわたがねじ切れそうなほど激しい怒りがわいた。思わず手が出て、土屋の真横の壁を殴っていた。ビクッと土屋が身をすくませる。

「そんなに俺と新田のよりを戻させたいのかよ、ええ?」
「だって…新田さん、ずっと沖田くんの話ばっかりするから…」
「てめぇ、俺の気持ち知ってて、そんなこと言ってんのかよ」
「お、沖田くんは俺なんか好きじゃないと思うよ、たぶん、きっとそれ、勘違いだと思う…」

 ビクビクしながらもはっきり沖田を拒絶する言葉をグサグサと投げかけて来る。おとなしい見た目とは裏腹に、残酷な奴だ、と沖田は手を握りしめた。

「お前が勘違いにしてほしいだけだろうが!そんなに迷惑かよ!」
「迷惑っていうか…俺と沖田くんじゃぜんぜん合わないと思うっていうか…沖田くんは、新田さんとか、そういう人を好きになったほうがいいっていうか…」

 怒りよりそこまで嫌がられていたのかとショックのほうが大きくて沖田は言葉も出なかった。そんなことなら最初から相手になんかして欲しくなかった。少しでも期待させるようなことをしてほしくなかった。
 土屋の胸倉をつかんでどうしてキスするんだと問いただしたかった。どうして好きでもないやつとセックスするんだ、と。

「お前って、思ってたよりイヤな奴だな」
「えっ?」
「そんなに俺が嫌いならはっきり言えよ」
「えっ、別に嫌いじゃないよ、沖田くんて意外といいとこあるし…」

 膝から崩れ落ちそうなほど脱力した。土屋はどこかおかしいのかもしれない。でなければ、こうも残酷に人の心を弄べるものだろうか。人の気持ちをなんだと思っているのか。こいつは誰かを好きになったことがないのだろうか。
 怒りを通り越して沖田は疲労を感じた。大きく息を吐き出す。こんな奴を好きになった自分が情けなかった。

「もういい。もうなにも言うな。今まで嫌々相手させて悪かったな。もうお前には関わんねえから安心しろ。こんなに誰かを好きになったのは初めてだったけど、相手が悪かったと思って諦めるからお前も忘れろ」

 土屋を押しのけトイレを出ようとしたら、

「ほんとに俺のこと好きだったの?本気で?」

 ぎょっとして振り返ると、土屋が呆気にとられたような顔でポカンと口を開けていた。
 どこまで人を馬鹿にすれば気が済むのだろう。無神経な土屋に傷つけられて心はもうズタズタだ。それなのにまだ追い打ちをかけるつもりなのか。
 ここまでされると逆に笑えてくる。

「は…そーだよ、そうだったんだよ。でも今日までだ。じゃあな」
「あ、待って、沖田くん!」
「ついてくんじゃねえ!!」

 沖田が怒鳴ると足音はピタととまった。大声を出したら泣きそうになった。なぜこんな奴を好きになってしまったのだろう。


 そのまま校舎を出た沖田は当てもなく街のなかを歩いた。カバンも靴も学校に置いたままだが戻る気にならなかった。土屋の顔を見たくない。こんな情けない顔を見られたくない。
 適当に角を曲がっていたら細い路地に迷いこみ、行き止まりになった。来た道を戻ろうとしたら「ちょっとそこの」と声をかけられた。
 さっきは気付かなかったが、電信柱の影に隠れるようにして小さな机と、黒づくめの人物がいた。占い師のようだ。

「俺?」
「そうそう、思いつめた顔してるねぇ。恋の悩みかい」
「ほっとけよ」
「相手を振り向かせたくはないかい?夢中にさせたくはないかい?」
「はっ、だからほっとけって」
「ここに効き目抜群の惚れ薬があるんだけどねぇ。これでどんな相手もイチコロさね」
「ヤバイ薬を高校生に売りつけんなよ」
「おや。見た目と違って良識のある子だねぇ。そんな子は嫌いだよ。だから特別にこれをタダであげるよ」

 占い師は小さな瓶を放り投げた。沖田は咄嗟にそれを受け取ってしまった。

「だからいらねえって」
「媚薬入りで一滴垂らせば効果覿面。使うか使わないかは、あんた次第だよ。ほら、お行き。商売の邪魔だよ」

 シッシッと手を振り払われた。どこに客が、と思えばいつの間にか女子高生が沖田の背後で俯いていた。
 舌打ちしつつ、沖田は瓶をポケットにしまってその場を離れた。

 
K先生の野蛮な恋愛

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好きと言って(1/4)

2014.08.29.Fri.
<前話「惚れ薬」はこちら>

「んんっ、あ、あっ…土屋っ…!早くしろ…!」
「ごめん、もう少しだから…っ」

 土屋がラストスパートをかけて腰を激しく振る。その摩擦に、さっきイッたばかりだというのに、沖田はまた射精感がこみあげてくるのを感じた。

「はぁっ…あぁ…早く、いけッ…イッてくれ…っ!」

 土屋の腕を掴んで指を食い込ませる。
 自分が女のように嬌声をあげ、突っ込まれることに悦びを感じるなんて、一ヶ月前は思いもしなかった。しかも相手は存在感ゼロ、友達皆無の便所飯野郎だ。そんな奴に恋焦がれている。体が疼く。授業が…と躊躇する土屋を体育倉庫に連れ込んでセックスしている。

「あ、出る…出そう、沖田くん…!」
「はっ、やく…あっ、はやく…出せよ、中に…」
「でも、さっき中に出すなって」
「もう、いいからっ!」

 トイレに籠り、自分の尻を弄って中から土屋の精液を掻きだす作業は情けなくて泣きたくなってくる。それが嫌で中には出すなと言っておいたのだが、いざことが始まるとどうでもよくなって、むしろ中に欲しいと思ってしまう自分がいる。

「じゃあ、出すね…ごめん」

 謝んな馬鹿、とイライラする。でもそういう性格に最近トキめいてしまう。病気だ。
 こんなキョドってみっともない男のどこに惹かれているのか自分でもわからなかったが、土屋を思うと胸が苦しくなり、土屋のそばにいると理性が薄れて体が熱くなった。

 こうなるきっかけは急だった。ある日突然、なんの前触れもなく訪れた。まさか自分がホモになるなんて思いもしなかったが、土屋への性欲が爆発し、我慢できずにキスしたのは自分からだった。
 土屋に触られるだけで体に電流が走り、ペニスは肥大し、何度も精を放ったのは紛れもない事実だ。
 あの日のことは思い出すだけで顔が火照ってくる。あんなにイキまくったのは生まれて初めてのことだ。気がおかしくなりそうだった。

 それからしばらくは初めて経験する恋愛狂いの期間があった。
 学校のなかでは息も苦しくなるくらい土屋に恋焦がれた。しかし家に帰ると落ち着いてなぜ自分はあんなダサい男に夢中になっているのかとわけがわからなくなった。きっと明日は土屋になんか目もいかなくなって、女のほうが良くなるに違いない、と登校すれば、また土屋のことしか考えられなくなっていたりする。かと思えば、気恥ずかしいだけで劣情を催さずに済む日もあったりした。

 今日は比較的落ち着いているほうだが、オドオドしている土屋を見ていたらヤリたくなった。
 体に出される体液を感じながら、沖田も自分でペニスを扱いて射精した。

「土屋、こっち…っ」
「えっ、え、なに」
「キス、しろ」
「えっ、あぁ…うん…ほんとに?」
「さっさとしろ!」
「ごめん!」

 顔が近づいてくる。沖田も頭を持ち上げた。合わさる唇。積極的でない口に吸い付く。舌を絡める。唾液の糸を引きながら、土屋がはなれていく。

「あ…煙草の味がしない…」
「お前が嫌だっつったんだろうが」
「言ってないよ!」

 確かに嫌だとは言っていない。前にキスしたときに煙草吸ってるの?と聞かれただけだ。付き合ってる相手に配慮したことなどなかったが、土屋に言われると妙に気になってそれ以来煙草を吸っていない。

「もしかして、俺のためにやめたの…?」
「っせえんだよ、自惚れんな。終わったならさっさと抜け、いつまで突っ込んでんだよ」
「あ、ごめん…」

 ズルリと土屋が抜け出る。ぞわ、と体の奥が震える。
 服装を整え、トイレに行くために土屋へ声をかけた。

「なんか飲み物買ってくるけど、お前はなんかいるか?」
「俺はいい…俺はいらない…」

 体育座りで自分の膝を抱える土屋は、なぜか顔を白くして表情を強張らせていた。
 授業をサボッたからビビッてんのか、程度にしか思わず、沖田は体育倉庫を出た。
 トイレへ向かい、土屋の出したものを掻き出し、自分がこんな惨めな思いをしているのは土屋のせいだと責任転嫁して苛々しながら自販機で炭酸ジュースを2本買って体育倉庫へ戻った。

「ほら、てめえの分も買っ…」

 沖田は言葉を止めた。中はもぬけの殻だった。

「なんか言ってけっつうんだよ!」

 缶ジュースを床に叩きつけた。

※※※

 今日も昼休みになると土屋は姿を消した。放っておけばいい。と思った直後、やっぱり放っておけないと沖田は席を立った。

 使用中の個室は一番奥の一つだけだった。沖田はその前に立つと、思いっきりドアを蹴り上げた。中から「エッ」と驚きと怯えの入り混じった小さな声がする。

「おいこら出てこい、土屋!」
「…沖田、くん…?」

 やっぱりこの中か。沖田はガンガン扉を蹴り続けた。中からガチャガチャと音がして、そっと戸が開いた。ただただ、戸惑っている土屋が顔をのぞかせる。

「な、なに?そんなに蹴ったらトイレが壊れるよ」
「こんなとこで何してんだよ、てめえ」
「なにって…」

 土屋の手には箸が握られていた。視線を後ろへずらせば、蓋を下した便座の上に弁当箱が置いてある。沖田は盛大に舌打ちした。

「んな場所でメシ食ってんじゃねえよ、おら、とっとと出てこい」
「えっ、いや、でも…」

 引きずり出そうと腕を掴んだが、土屋は抵抗して逆に腕を引いた。

「そんなに便所でメシ食いてえのかよ」
「そういうわけじゃないけど…」

 と俯いて言葉を濁す。羞恥、屈辱、恐れなどが混在する土屋の顔を見ていたら、苛立つと同時に胸が締め付けられて動悸も早まった。沖田はまた舌を鳴らしながら個室に押し入った。

「ちょ、沖田…狭いよ…」

 動揺して目を泳がせる土屋を壁に追い詰める。

「この前はよくも俺になんも言わねえで倉庫からいなくなりやがったな」
「あ、あの時は、ごめん。あの、急にトイレ行きたくなって」

 疑わしい。どうせ面倒を避けようと吐いたつまらない嘘だろう。
 その面倒が自分のことだと気付くと、それ以上追及する気が失せた。

 正直、土屋のどこが好きなのかわからない。自分が一番、あぁはなりたくない、と軽蔑するタイプの人間だ。
 自分から選んで日陰を歩くような、自分の意見を持たず楽して流されているくせに陰で文句を言うような、カースト底辺のくせに自分以外の人間を全員馬鹿にして見下していそうな、そんなタイプの人間だ。
 今までは興味すら持たなかったのに、いまは土屋を見ていると、その弱さや虚勢に苛立ちどうにかしてやりたいと思うようになっていた。
 これも恋の力なのだとしたら、人格までかえてしまうなんて凄い力だ。

「昼休み、終わるよ」

 逃げ道を探す目。絶対沖田を見ようとしない。
 土屋の頭を抱えてキスした。土屋が硬直する。瞬きせずに目を見開いている。

「目ぇ、閉じろよ、馬鹿が」
「お、沖田くん、なんでこんなことするの?」
「あ?そんなのてめぇ……好きだからに決まってんだろ」
「まだ俺のこと好きなの?」

 思いがけない質問に言葉を失う。沖田はギリッと歯噛みした。この男はどうしてこうも無神経なのだろう。沖田に怯えているくせに、好かれて迷惑だという態度は隠しもしない。

「っせえよ。とにかく教室でメシ食えよ」
「別にここでいいよ、俺…友達いないし…」
「俺と食えばいいだろ」
「えっ…」

 露骨に嫌そうな顔をする。
 突然土屋を好きになったあの日、視聴覚室で自分が土屋にどういう感情を抱いているか、どんな風に体が反応するかを、不本意ながらもすべてさらけ出してしまった。
 あの日以降、何度もそんな状態に陥った沖田を、土屋は戸惑いながらも受け止めて相手をしてくれていた。もしかして土屋も…なんて期待した自分が馬鹿みたいだ。土屋はただ、自分を怒らせるのが怖いから仕方なく言うことをきいていただけなのだ。
 その証拠に最近、避けられているし、この態度だ。

「俺が沖田くんと一緒にお昼食べてたら変だよ。みんなになんて言われるか」
「誰になんて言われてもいいだろうが。そんなに俺と食うのが嫌なのかよ」
「…………」

 否定しない。舌打ちをこらえながら、沖田は弁当を手に持つと、土屋を連れて教室へ戻った。


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純粋に近付いた何か (2/2)

2014.08.24.Sun.
<前話はこちら>

 鈍足の青野にはすぐ追いつくことが出来た。腕を掴むと「はなせよ!」と振り払おうとする。

「話聞け」
「聞いたよさっき!もういい!はなせってば!」

 下校途中のやつらが好奇の目で俺たちを見て来る。こんなところでグダグダやってたら見世物になるだけだ。青野の肘をねじり上げ、校舎の裏へと連れて行った。
 解放すると青野は半泣きになりながら「痛い」と自分の腕を撫でさすった。

「悪かった、大丈夫か」
「大丈夫なわけないじゃん、馬鹿力なんだから」

 泣くまいと必死に堪えているのがわかった。何度も瞬きしているのも、目に溜まった涙を散らすためだ。

「木梨と俺の話、聞いてたのか」
「最初から全部」

 だったらすぐに顔出せよ。盗み聞きなんて趣味の悪いことするからこんなことになるんだろうが。
 息を吐き出すことでなんとかイライラを落ち着かせる。

「もう木梨には近づくんじゃねえぞ。あいつがどんな奴かわかっただろ」
「純ちゃんもね。俺の金が目当てだったんじゃん」

 カッとなって睨み付けたが、青野は怖気づくどころか毅然と睨み返してきた。大きな目に涙をいっぱい湛えて。

「……そんなわけねえだろ」
「じゃあどんなわけだって言うんだよ。今まで純ちゃんに何か頼むたびにお金を請求されたよね!お釣りとかもらったことないけど!いっつも俺がお金払う役目だったよね!純ちゃんが買ってくれたことあるのって、自販のジュースとかアイスとか、そんなのばっかだったじゃん!どうせ俺はただの金蔓だったんだろ!だから…っ、だから…、純ちゃんは俺のこと、嫌々相手してたんだろ…!!」

 ボロリと大きな目から涙が零れ落ちた。それでも青野は俺を睨み続けた。

「嫌々で…こんなこと、したくなるわけねえだろ…!」

 ぎゅっと青野を抱きしめた。腕のなかで青野が暴れる。

「はなせってば!こんなことで、俺…もう、騙されないから!酷いよ!最低だ!俺は純ちゃんのこと信じてたのに!純ちゃんのこと……純ちゃんなんか、大嫌いだ!」

 大嫌い。そんな幼稚な言葉がグサリと突き刺さる。青野を傷つけたことに胸が苦しくなる。

「どうしたら許してくれる」
「許すわけないじゃん」
「金を返したらいいか?」
「お金の話なんかしたくない」

 俺の胸に顔を押し付けて青野がグズグズ鼻をすすりあげる。肩を掴んで引きはがし、涙と鼻水で顔がぐちょぐちょになった青野と目の高さを合わせる。ゆっくり顔を寄せると、青野はふいとそっぽを向いた。

「もうバレてるのに、今更なにするつもりだよ」
「俺がしたいと思ってることだ」

 顎を掴んでこっちを向かせる。青野は少し顎を引いただけで、唇を合わせても逃げなかった。
 青野の唇は柔らかかった。本当はずっと触りたいと思っていた。キスしたいと思っていた。想像以上の感触に胸が破裂しそうだった。
 ペロリと上唇を舐めた。涙だか鼻水だかでしょっぱい。
 唇を割って中に舌を入れた。熱を出した子供のようになかは熱く潤んでいた。震える舌を絡め取り唾液を混じり合わせて吸い上げた。

「ふ、くぅ…んっ…」

 犬の鳴き声のような声をあげて青野が俺にしがみつく。
 服をたくしあげ、青野の胸に手を這わせた。乳首を摘まみ指で弾く。

「んっ、あっ…なに…」
「俺のことが好きだろ?」
「お、男同士でなに言ってんの」
「ずっと一緒にいたんだ、おまえの気持ちに気付かない俺だと思ったのか。お前も俺の気持ちに気付いてたんだろ?」
「純ちゃんの気持ち…純ちゃん、俺のこと、好き…?」
「あぁ、好きだ」
「ほんとに?ほんとに、俺のこと好きなの?お金じゃなくて?」
「最初は金だった。でも途中からお前と一緒にいたくて、お前に触りたくて、そればっかで金のことはどうでもよくなってた。でなきゃ、男のちんこなんか触りたいと思うかよ」
「ほんとのほんとに?お金じゃない?俺の体だけでもない?」
「何度も言わせんな、お前のことが好きなんだよ」
「ふわぁあっ、純ちゃん…!」

 青野が俺に抱き付いてくる。泣きながら俺の耳元で何度も何度も「純ちゃん、大好き」と繰り返した。



 校舎と塀の狭い空間。青野は両手を壁につけ、俺に尻を差し出した。あまり意味はないとわかっていつつも、出来るだけ苦痛のないようにと吐き出した唾を青野の肛門に擦り付けて指を入れた。アナニーにはまっているだけあって、指がすんなり入って行く。
 力の抜き加減も慣れたもので、簡単に周囲を解すことが出来た。

「実は俺ね、アナニーしながら、純ちゃんにやられるところ、ずっと想像してたんだ」

 振り向いて青野が恥ずかしそうに告白する。俺のオナネタも青野だと教えると、青野は「嬉しい」と笑った。俺のちんこがまた一回り大きくなる。あまり煽ってくれるな。
 青野の肛門に亀頭をぴたりと合わせた。

「痛くなったら言えよ」

 頷く青野を見ながらゆっくり捻じ込んでいく。ディルドで慣らしているとは言えやはりきつい。頭が入ったところでカリ首がぎゅっと絞めつけられた。潤いが足りない。
 青野のちんぽを握って扱いた。

「んっ、やっ、だめっ、純ちゃん!俺、今日だめっ、感じやすいから…!すぐ、出ちゃうよ…!」
「ばか、それが目的なんだっつうの」
「えっ、んっ、あぁっ、あっ、すごいっ…突っ込まれながら…純ちゃんに触られてる…!ふっ、はぁんっ、あっ、あぁっ…」

 青野の中もビクビクと快感に震えていた。それを感じながら様子をみつつゆっくり竿を押し進めていく。ちんぽをシコる手も休めない。

「あぁ…んっ、あぁん、あっ、あっ、出る、出ちゃう、純ちゃん…!」

 青野は盛大に精子を噴き出した。それを自分の竿に擦り付けた。

「行くぞ、青野」
「はぁっ…はぁ…えっ、まだ?えっ…まだ全部入ってなかったの?」
「馬鹿、俺はそんな短小じゃねえぞ」

 腰をつかんでぐううっとちんぽを中に入れた。言葉にならない声を発しながら青野の背がしなる。

「痛くねえか?大丈夫か?」
「いっ…たく、ない…あっ、あ…変な感じ…オモチャより、気持ちいい…」
「好きな男の生ちんぽだからだろ」
「あ、そっかぁ、えへへっ」

 真に受けんな。こっちは冗談で言ったんだよ。恥ずかしいだろ、馬鹿。

「オモチャで遊びまくった淫乱ケツマンコに種付けしてやるからな」
「そんなやらしいこと言わないでよ!」
「俺と付き合いたいならお前も言うんだよ。俺の淫乱ケツマンコに純ちゃんの熱い精液いっぱいちょうだいって」
「やっ、やだよ、そんなの俺、絶対言わないよ」
「言うよ、お前は」

 腰を振った。カリが青野のなかでめくれあがって気持ちいい。全体が青野に包まれている。ねだるように俺に纏わりついてくる。擦れば擦るほど締め付けて来る。俺のちんぽもギンギンに硬く勃起した。

「はぁっ、あっ、あんっ、あっ、純ちゃん、すごい…!」
「俺のちんぽ、気持ちいいか?」
「ひっ、いっ、いいっ、気持ちいいっ…純ちゃんのちんぽ、気持ちいいっ」
「俺の精子、欲しいだろ?」
「欲しい…!俺、俺ね、純ちゃんの精子、いっぱい欲しいっ!」
「どこに欲しいんだ?」
「…俺の中に、俺の、ケツ…マンコ、いっぱい種付けして、純ちゃん…!!」
「やっぱ言えんじゃねえかよ」

 激しく打ち付ける。青野の一番深い場所に叩きこむ。

「あぁ、アッ、アァッ、あんっ、あぁっ、純ちゃん、俺また、イッちゃう…!!」
「俺も…ッ」

 俺たちはほとんど同時に射精していた。



 朝、青野と学校に向かって歩いていると後ろから木梨がやって来た。

「おはよう、お二人さん」
「あ、おはよう、木梨くん」
「木梨てめぇ、どのツラ下げて」
「純ちゃん待って。言うの忘れてたんだけど、昨日、木梨くんがあんなこと言ったのは俺のためなんだよ」
「は?どういうことだよ」

 聞くと、一昨日、木梨の家に遊びに行ったとき、青野はこいつに恋愛相談をしたらしかった。
 自分には好きな人がいる。ちょっといい雰囲気になるときもある。でも相手は最後の一線を越えてこようとはしない。もしかしたら自分はただの財布がわりで、金を引き出すために仕方なく一緒にいるんじゃないか、と。勘の悪い奴でも相手が俺だとわかりそうな内容で、案の定、木梨も青野が俺のことを言っているとすぐ気付いたようだった。
 指摘すれば顔を真っ赤にして否定するがバレバレで、じゃあ本心を聞き出す手伝いをしてあげる、と青野をそそのかして、昨日の放課後、一芝居打ったというわけだった。
 なんだか一番嫌な奴にホモバレしてるし。

「誰かに言ったらぶっ殺すからな」
「言わない言わない、生温かい目でニラニラとヲチさせてもらうわ」

 ニヤリと笑った木梨がすばやく俺に耳打ちした。

「俺、諦め悪いから。隙があったら青野のこと、奪っちゃうから」
「てめ…!」

 じゃあお先に、と木梨は走って行ってしまった。どこからどこまでが芝居だったんだよ。結局あいつはマジだったのかよ。

「おい、青野、ほんとにあいつには注意しろよ」
「やきもち?」

 嬉しそうにニヤついている青野にヘッドロックをかける。

「不安だったとは言えよくもこの俺を騙しやがったな。あとでお仕置きしてやるから覚悟しろよ」
「う、うん…」

 ってなに顔赤くしてんだよ。お前も俺と考えることは一緒ってことか。それじゃあ期待通り、たっぷり可愛がってやんなきゃな。


憂鬱な朝 3

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純粋に近付いた何か (1/2)

2014.08.23.Sat.
<前話「純粋とは程遠い何か」はこちら>

 授業が終わり、俺は隣の青野のクラスへ向かった。こっちもちょうどHRが終わったところみたいで、帰り支度を終えた奴らがぞろぞろ教室から出て来るところだった。
 その人混みの向こうに、クラスメートと話をする青野の姿を見つけた。
 二年になってクラスが別れた。いつも「純ちゃん、純ちゃん」と俺のあとを追い掛け回していた青野も、新しいクラスで新しい友達が出来ると休み時間のたびに来ることはなくなった。
 それは学校のなかだけで、放課後はつるむことが多かったのだが…
 教室の外で待つ俺に気付いた青野がパン!と両手を合わせた。

「あっ、純ちゃん、ごめん!今日一緒に帰れなくなっちゃったんだ」

 なんだと?せっかくこの俺がわざわざ迎えに来てやったのに?

「ちょっと今日は木梨くんの家に誘われちゃって…。明日なら一緒に帰れるから!」

 その言い方。俺がどうしても青野と一緒に帰りたいみたいじゃないか。

「良かったらきみも一緒に来る? 純 ち ゃ ん 」

 青野を真似た言い方にカチンと来て声の主を睨み付けた。爽やか系のイケメンが自信たっぷりに笑っていやがった。俺に喧嘩売ってんのかコイツ。

「そうだ、純ちゃんも一緒に行こうよ!木梨くんち、ゲームがたくさんあるんだって!」

 青野も俺が目の前でおちょくられてるのに、ゲームにつられてこんないけ好かない野郎のとこにノコノコついていくんじゃねえよ。

「行くわけねーだろ馬鹿。勝手にしろ」

 教室から離れる。横目に見た木梨が勝ち誇ったように笑っていたのが死ぬほどむかついた。



 昼休みに青野が俺のクラスに顔を出した。昨日のことにまだむかついていた俺は気付いていながらそっぽを向いて無視した。
 おずおずと青野が近づいてくる。

「純ちゃん、お昼ご飯食べに行こう」
「木梨ってやつと食えば」
「木梨くんは別の友達がいるから。…純ちゃん、なんか怒ってる?」
「怒ってねえよ」

 あてつけるようにガタッと音を立てて立ち上がり、教室を出た。食堂へ向かって歩く道中、青野は俺の後ろで黙りこくっている。

「怒ってねえって言ってんだろ」

 怒鳴りながら振り返ると、俯いた青野がびくっと体を震わせた。視線を泳がせ落ち着かない。ただ俺の機嫌を窺っているにしてはいつもと様子が違った。

「なんだ?どうしたんだよ?」
「う、うん…」

 言いにくそうに口ごもる。

「純ちゃん、こっち来て」

 青野に腕を掴まれて、近くのトイレに引っ張り込まれた。
 トイレに誰もいないか確かめたあと、青野は俺を奥の個室に連れ込んだ。

「なんだよ」
「実はね、いま俺、パンツ穿いてないんだ」
「なんで?」
「体育で着替えてるときに、木梨くんにジュースかけられちゃって」

 木梨の憎ったらしい顔が頭に浮かぶ。

「やな野郎だな」
「わざとじゃないんだよ。体育のあとで咽喉乾いてるだろうから俺にも飲むかって勧めてくれたんだ。その時に手がぶつかっちゃって」
「それでいまノーパンなわけ?」
「うん…スースーして落ち着かないね」

 エヘヘッと顔を赤くして笑う。ズボン越しに触れば確かにダイレクトな感触があった。

「ちょっ…触んないでよ、純ちゃん」

 クネクネと腰を揺らすさまはまるで俺を誘っているようだ。

「昨日はアナニーしたのか?」

 ちんこを揉みながら耳元で囁く。青野は小さく「ウン」と頷いた。

 俺がこいつにオナホの使い方を教えた。ディルドを与えてアナニーのやり方も教えた。最初は痛い痛いと泣くだけだった青野に前立腺の気持ちよさを教えた。それ以来こいつは前立腺をローターで刺激しながらオナホでしこるという自慰にはまっている。
 自分でやるより俺にやってもらうほうが気持ちいいので、放課後、どちらかの家に寄ったときは物欲しそうな顔で体を密着させてくる。わざと気付かないふりをしていれば、「純ちゃん、触って」と真っ赤な顔でおねだりしてくる。一種のプレイのようになっていた。

 ファスナーを下げて中に指を入れる。青野も同じようにして俺のちんぽを握った。

「ノーパンで興奮したのか?露出狂の気があるんじゃないのか」
「違うよ…純ちゃんが触るからじゃん…」
「いつもより感じやすいみたいだぞ」

 手を動かすとクチュクチュと濡れた音が聞こえた。青野の息遣いも荒くなる。

「はぁ…んっ…あぁ、気持ちいい、純ちゃん…」
「授業中、ずっと興奮しっぱなしで立たせてたんじゃねえだろうな」
「そんな…でも、ちょっとだけ…」
「やっぱ立たせてんじゃん、この変態野郎」
「だって…、木梨くんが俺をからかって触ってくるから…っ」
「あぁ?!」

 あの野郎、青野のちんこにまで触ってやがるのか。このボケナスも簡単に触らせてんじゃねえよ。

「お前は気持ちよくしてくれりゃ、誰でもいいのかよ。だったらこれからは木梨って野郎にやってもらえよ」
「俺はやだって言ってるんだよ!でも木梨くんが無理矢理…」
「昨日、あいつん家行ってなんもされてねえだろうな」
「なにも…っ、ゲーム、しただけ…純ちゃん、痛い…っ!」

 気付くと青野のちんぽを握りしめていた。慌てて力を緩めて優しく扱いてやると、青野は安堵のため息を漏らした。

「俺…さわって欲しいって思うの、純ちゃんだけだよ…」

 俺の胸にもたれかかって青野が見上げて来る。
 最近こいつは二人きりになると妙に色っぽい目で俺を見るようになった。体を触るスキンシップも増えた。それこそ恋人同士がいちゃつくみたいなやつだ。一緒にテレビを見てれば肩にもたれかかってくるし、手を重ねてきたりする。たまに家に泊まったりすると一緒のふとんで寝たがって、朝起きると俺に抱き付いていたりする。
 俺に惚れたのか?とからかうように聞くと「男同士でそんなわけないじゃん」と否定する。
 俺と青野はいま尻のムズムズするような微妙な関係だった。

「俺は別にお前のちんこなんて触りたくねえんだけど」
「じゃあ触らなきゃいいじゃん」

 ふくれっ面で唇を尖らせる。生意気な唇を噛みきってやりたい。

「お前の我慢汁で手がベトベトになる前に言えよな」

 青野のちんぽを上下に扱いた。青野が俺の胸に顔を埋めながら喘ぐ。空いた手を俺の体に回して抱き付いてくる。

「んっ、んっ…あっ…出ちゃう、純ちゃん、出ちゃう…!」

 青野がぶるっと大きく身震いした。



 今日も木梨の目の前で青野に断られたりしたら俺はキレてしまうだろうから、迎えには行かず直接下駄箱へ向かった。靴を履きかえていると肩を叩かれた。青野を想像したが、背後に立っていたのは木梨だった。

「今日は青野と一緒に帰らないのか? 純 ち ゃ ん」
「馴れ馴れしく呼ぶんじゃねえよ」
「じゃあ純也くん」
「気色悪いんだよ、お前」
「そんなに敵視するなよ、純ちゃんのおもちゃを取り上げたりはしないから」
「はぁ?」
「青野ってからかい甲斐あるよねぇ。イジメられっ子の特質なんだろうけど、できるだけなんでも好意的に解釈しようとするから。知ってた?今日のあいつ、ほとんどノーパンで過ごしてたの」

 俺を見てニヤリと笑いやがる。

「…わざとジュース零したのかよ」
「あっ、なんだもう知ってたんだ?ほんとに青野って純ちゃんのこと信頼しきって何でも話すんだなぁ。俺も早くそこまで手懐けたい」
「どういうつもりだ?」
「どうもこうも、俺もお零れにあずかりたいってだけの話だよ。純ちゃんがあいつとつるむ理由って金だろ。それにあいつってからかうとおもしれーし。いいもん見つけたね、純ちゃん」

 腹が立つと同時に焦りを感じた。
 こいつは俺と同種の人間だ。青野の金目的で近づいて。あいつを虐めることに楽しみを見出して。もし、もし俺と同じような目であいつを見始めたら。あの流されやすい馬鹿は気持ちよくしてくれりゃ誰でもいいからこいつ相手でも簡単に身を任すだろう。

「…あいつに近づくんじゃねえよ」
「独り占めはよくないよ。まさか本気で青野に友情感じちゃってんの?」
「そんなわけねえだろ。あいつはただの金蔓に決まって…」

 言葉の途中で、下駄箱の影から俯いて走っていく青野の姿を見つけた。

「青野!」

 俺の声を無視して門のほうへと駆けていく。

「あら~、聞かれちゃったんじゃない」
「これもわざとかよ」
「俺って案外、欲深くてさ」

 一発殴ってやりたいがそんな時間がもったいない。俺は急いで青野のあとを追いかけた。


魔除けのダーリン

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再会(2/2)

2014.08.14.Thu.
<前話はこちら>

 斉藤に触れられるだけでそこから体が疼き始める。
 姫泣き油など不要で、俺は自ら体を開き、入れてくれと懇願した。

「ずいぶん慣らされてるな」
「誰のせいだ…っ」
「自業自得だろ」

 指が抜かれてかわりに斉藤のペニスがなかに入ってきた。顎が疲れるほどしゃぶって大きくしたものがメリメリと俺を引き裂き奥をこじ開ける。

「う…うっ…あ…!」
「喜んで中がビクビクしてるぞ」
「…るせ…あ…っ、はやく動けよ…!」
「いちいちうるさいお姫様だ」

 苦笑交じりに言うと斉藤は腰を動かした。一擦りに体が震える。全身が感じる。山城のときには得られなかった限界を超えた快感が恐ろしいくらいだった。山城のセックスと何が違うのかわからない。強烈な記憶を呼び起こす斉藤の低い声だろうか。無骨な手だろうか。

 刑務所のなかにいるとき俺は毎日斉藤を思い出していた。山城に犯されるたび、斉藤と比べていた。ただ憎いだけじゃないのはうすうす気づいていた。苦痛と表裏一体の快楽を俺に教えた斉藤を思い出しては焦がれていた。

「アッ、アァッ…いい…っ!…もっと、もっとしてくれよ!」
「おいおい、姫泣き油は塗ってないんだぜ」

 俺の足をつかんで左右に大きく開かせると、斉藤は激しく腰を振った。長大なものが俺の最奥に叩きこまれる。

「アァッ!!…うっ、アッ、あぁ…ん!当たってる…っ、奥まで…もっと、アァッ…!」
「すっかり淫乱な雌犬に仕込まれたようだな」

 山城にこんなふうにねだったことはない。山城は俺をレイプした最初の頃を除くと、抵抗しない俺に乱暴はしなかった。触手を伸ばして獲物を捕食する軟体動物のように、言葉や視線でじっくりじわじわと間合いをつめて俺をがんじがらめにしてから俺を抱いた。
 ねちっこいセックスだった。強い快感はあった。だが頭の芯まで痺れるほどじゃなかった。ところがどうだ。相手が斉藤だと、言葉で辱められるだけで先走りが滲み出る。少し触れられただけで乳首がピンと立ち上がる。
 斉藤のちんぽを進んでしゃぶり、煽るように足を開いて見せつけた。顔色一つかえない斉藤に見られているだけで、体がガクガク震えた。息遣いが荒くなった。斉藤にまつわる記憶が俺を狂わせたとしか思えない。

「はぁ…ん…!アッ、出るっ…あぁ…出る…!」

 自分で屹立を握って扱いた。勢いよく精液が飛び出す。それでもまだ収まらない。

「物欲しそうに締め付けるんじゃねえぞ。イッたばかりで欲張りな奴だ」

 笑う斉藤に見下ろされながら奥をガンガンに突きあげられる。布団の上で俺の体がずりあがっていくほど激しい。

「あぁっ、あっ、あんっ、あっ、あぁっ!気持ちいい…っ、あんたのちんぽ、気持ちいいんだよぉ…っ!ムショで他の奴にやられてても…ずっと、あんたのことばっか思い出してたんだ…っ…」
「可愛いことを言えるようになったじゃないか。俺のペットになるか?え、どうだ?」
「な、る…俺を、あっ、あんたのペットにして…っ、ペットでいい、から…!」
「出所祝いに、中に出してやるぜ」

 体の奥に熱いものが吹き上がるのがわかった。ビクビクと脈打つものから大量の精子が俺のなかに注ぎ込まれる。

「う…ん…あ、アァ…、イク…イクゥ…!」

 俺も二度目の射精をした。



 突然脇腹に痛みを伴う衝撃が与えられ俺は目を覚ました。すでにスーツに着替えた斉藤が、ネクタイを締めながら俺を見下ろしていた。起こすために俺の脇腹を蹴ったとみえる。ずいぶん乱暴な目覚ましだ。

「やっと起きたか。今日はどうする気だ」
「どうって…」
「家に帰るのか。このままここにいるのか」
「いてもいいのかよ」
「構わんが金目の物はなにもないぞ」
「もう盗みはやんねえよ」

 斉藤は無言でにやりと笑うと部屋を出て行った。真っ裸のままトイレで用を足して布団に戻り、俺はまた眠った。昼過ぎに目を覚まし、台所を漁って出てきたカップラーメンを食べるとまた眠った。
 物音で目が覚めた。部屋が薄暗いところを見るともう夕方のようだ。玄関のほうからガサガサとビニールの音がする。もう帰って来たのかと体を起こすと、コンビニの袋を手にした斉藤が部屋に入ってきた。

「今日は帰りが遅くなる」

 とテーブルに袋を置く。弁当のようだ。

「仕事?」
「ああ」
「女じゃなくて?」

 からかうつもりで言った言葉。斉藤に無言でじっと見つめられ、急に恥ずかしくなった。

「別に俺には関係ねえけど」
「嫉妬か」
「んなわけあるか」
「昨日の女とは利害の一致ってやつだ」
「はぁ?」
「昔の男に付き纏われているから俺に用心棒になってくれって頼まれたんだ。礼は自分の体で払うからってよ」
「あんたってほんとろくでもねえおまわりだな」
「そんな俺に惚れてんだろ」
「ぬかせ」

 はは、と笑った斉藤が俺に背を向ける。

「もう行くのかよ」
「あぁ、仕事中だからな」
「…俺も配達の仕事あるからこれ食ったら出てくよ」
「そうか」

 玄関で靴を履く斉藤の背中に抱き付いた。振り返った斉藤の口に吸い付く。音を立てて激しく舌を絡め合う。斉藤の腕が俺の体を抱きしめる。

「仕事だっつってんだろうが」

 ベルトを外す俺に斉藤が呆れたように言う。それを無視し、股間に顔を埋めた。嫌悪感とは反対の感情がわきあがってくるソレを咥えてしゃぶりつくす。立ち上がったものに跨り自ら腰を下ろした。
 斉藤が下から俺を突き上げる。

「盛りのついた犬みたいに、誰彼かまわず腰振るんじゃねえぞ」
「嫉妬?」
「馬鹿が」

 斉藤がにやりと笑う。
 憎い相手なのに…。笑みを浮かべる唇に自分の口を押し付けた。


恋のつま先

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再会(1/2)

2014.08.13.Wed.
<前話「ノビ」はこちら>

 一年半の実刑をくらった。
 仮釈放が認められ、迎えに来た母親と一緒に実家へ戻った。父親は仕事でいなかった。本当は一緒に迎えに来たがっていたのよと母親は言うが嘘だろう。
 久し振りの我が家で手持無沙汰になる俺に母親は飯を勧めた。飯の支度をしながら声を殺して泣く母親の背中に猛烈に罪の意識がわいた。
 まともになろう。本当に更生しよう。数年ぶりのおふくろの味に俺まで泣きそうになった。

 それから俺は真面目に仕事探しをし、新聞販売店で働くことになった。面倒な保護観察官との面接もきっちり行い真面目に暮らしていた。初めての給料で両親を食事に誘った。母親は珍しくめかしこみ、まともに口をきいてくれなかった父親は「お疲れさん」と俺にビールを注いでくれた。

 遊んで過ごしたために単位を取り損ね、学費は自分で働いて払えと親に突き放され、仕返しの気分で大学を辞めてから友人知人の部屋を転々とした。いろんなバイトをやったがどれも長続きしなかった。ホストになったこともある。水商売の女のヒモになったこともある。
 悪い知り合いばかりが増えていき、そのなかで空き巣に入る方法を教わった。その日食べるために盗みに入った。収穫はまちまちだったが、たいした苦労もせず、むしろスリルを味わえながら金が入る。ちょろい商売だ。他人が働いて得た金を、なんの呵責も感じずに懐に入れていた。

 俺が盗みに入って奪ってきた金は、俺が必死に配達先を覚え、午前二時から一軒一軒のポストに新聞を入れて得た給料と同じ、かけがえのない金だったのだ。母親が喜んでめかしこむような、ずっと怒っていた父親の口を開かせるような、そんな大事な金だったのだ。
 保護司との面接でもそのように素直に話すと「よかったですね」と笑って頷いてくれた。
 取り返しのつかないことをした。罪は消えない。時間は戻らない。せめてこれからは真っ当に生きていこう、そう思っていたある日。

 夕刊の配達をしていた俺は、とあるマンションから出てきた一組の男女に気が付いた。二人は俺とは反対方向へ歩いていく。その男の後ろ姿に見覚えがあった。
 動悸が激しくなった。体が熱くなりダラダラと汗をかいた。新聞を持つ手が震えた。膝も笑っていた。俯いた俺の足もとにポタリと汗が落ちた。あれは間違いなく、俺をパクッた三課のデカ、斉藤の姿だった。
 忘れもしないその姿に、一瞬で頭に血が上った。

 刑務所のなかで俺は山城と言う自称やくざの幹部だという男の女だった。若くて少し見た目がいいという、それだけの理由で犯された。精一杯抵抗したが、山城の仲間に押さえつけられてむりやり犯された。プライバシーなどない空間で、俺が女にされたことはすぐ知れ渡り、山城以外の男も俺にちょっかいをだしてきたが、山城の睨み一つでなくなった。
 幹部なのかはわからないが、山城がやくざなのは本当のようだった。
 山城の女でいることは刑務所内ではいろいろメリットがあった。だから抵抗したのは最初の頃だけで、あとは俺も嫌々ながら山城の女でいることにした。

 俺が刑務所で男に犯されている間、こいつはのうのうと日常を送っていたのだ。空き巣に入った俺が悪いのは確かだが、縛って自由を奪った相手を犯す斉藤の警察官としての倫理は?人としての道義は?俺にあんなことをしておきながら、正義のおまわりツラして社会的信用も得ている斉藤が憎いなんてもんじゃなかった。
 二人のあとをつけたい衝動をなんとか押し込め、配達に戻った。ミスせず配達できたことが奇跡に思えた。


 偶然斉藤を見つけたあの日から斉藤のことが頭から離れなかった。
 自分の犯した罪を反省する気持ちはある。二度と同じことはしないと両親に誓って断言できる。だが斉藤のこととなると話は別だった。
 熱いものがマグマのように体の底から噴き上がってくる。あの当時の恥辱を思い出させて俺を狂わせる。近づいてはいけない、関わってはいけない。頭ではわかっていても気付くと斉藤のことで頭がいっぱいになっていた。明日は仕事がない、その条件に気付くと足が勝手に斉藤の勤務する警察署に向かっていた。

 道路を挟んで離れた場所から斉藤が出てくるのを待った。二時間近く経ってやっと斉藤が出てきた。
 斉藤が向かった先は繁華街だった。メイン道路を外れ、細い裏道を何度か曲がり、一軒の店の裏口で立ち止まった。俺も物陰に隠れた。
 裏口から女が出てきた。派手な衣装と化粧。水商売の女。おそらく先日斉藤と一緒にいた女。女は斉藤に抱き付いて熱烈な口づけを交わした。斉藤の手が女の細い腰に回される。その手がだんだん下がっていく。
 斉藤は女をひっくり返すとスカートをたくしあげ、小さな下着をずりおろして女を後ろから貫いた。悲鳴みたいな声が雑居ビルの間でこだまする。斉藤は女の口を手で塞ぎながら女を後ろから犯した。激しい腰使いで音がここまで聞こえてくる。

 しばらく腰を振っていた斉藤がペニスを引き抜いた。女がその場へ膝をつきペニスを頬張る。斉藤に負けないほど激しく顔を前後に揺すって女はペニスをしゃぶっていた。最後は口に出したのだろう。斉藤は女の口からペニスを出すとズボンのなかに仕舞った。二、三言葉を交わすと斉藤がこちらへ向かってきた。俺は慌てて建物のかげに隠れ、斉藤をやり過ごした。

 その後斉藤は定食屋に入って飯を食い、コンビニに寄って買い物をした。歩きながらコンビニで買ったビールをあけて飲み始める。
 くたびれたサラリーマンのように見えるが、隙がない。少しでも距離を縮めれば斉藤が振り返り俺を見つける絵が頭に浮かぶ。一定の間隔を保ったまま、見覚えのあるアパートのそばまで来た。

 部屋の鍵を開けた斉藤が振り返った。

「いつ出て来るんだ。御礼参りなら近くに公園があるから、そこで頼むぜ」

 俺に気付いているのか?!
 心臓が止まるほど驚いた。声が出せなかった。斉藤は完全に俺に気付いているようだった。民家の門の影に隠れている俺のほうへ視線を注ぎ続けている。その圧力を全身で感じる。
 見つかったなら仕方ない。門から出ると、まっすぐこちらを見ていた斉藤と目があった。

「もう出所したのか、模範囚だったんだな」
「俺のこと覚えてんのかよ」
「忘れねえさ。お前も姫泣き油の効き目は忘れられないだろ」
「…っ!!」

 言葉を失う俺を見て斉藤は薄く笑うと、「まぁ入れよ。外じゃ近所迷惑だ」扉を開けたまま部屋に入ってしまった。迷った末、あとに続いた。


 部屋に入るなり腕を掴まれ引き寄せられた。

「俺が忘れられなかったか」
「当たり前だろ」
「そんなに姫泣き油はよかったか?」
「なわけねえだろ!」

 斉藤がにっと笑ったのを見た直後口を塞がれていた。驚く俺のなかに斉藤の舌が侵入して動き回る。

「ん…めろ…やめ、ろ、よ…!」

 胸を叩いた。分厚い胸板でびくともしない。

「俺に抱かれに来たんだろうが」
「ふざけんな!」
「刑務所ではどうだった?やられまくったんじゃねえのか?」
「あぁ、てめえのせいでな!」
「道理で、前よりガキ臭さが抜けてエロくなってやがると思った」

 斉藤が俺の尻を鷲掴む。太い指がジーンズの上から的確に肛門を狙って押してくる。

「てめ…この、変態野郎が…!」
「んなこと言ってちんぽおっ立たせてたら世話ないな」

 咽喉の奥で斉藤がクックと笑う。事実を指摘された俺は羞恥から顔が熱くなった。

「抱いてほしけりゃ、まずはしゃぶってもらおうか」
「なっ…さっき、女で抜いてただろうが」
「お前に使う分は残してある」

 耳を舐められてぞわりと全身総毛だった。ジーンズの前が窮屈だった。斉藤に触れられ声を聞いただけで条件反射のように勃起した。

「前も言ったと思うがな、俺はお前が言わなきゃ何もしてやらないぞ」

 そう言いながらグイグイ指で後ろを押してくる。

「俺が…、なんかして欲しいみたいな言い方すんなよ…っ」
「してほしくないのか?」
「当たり前だろ」
「だったら帰れ」

 いきなり突き放された。俺に興味をなくした斉藤は背中を向けて、テーブルの上に置いたコンビニの袋をあさっている。
 その背中を見ながら俺は動けないでいた。鼓動の早い胸を押さえていた。
 テレビをつけた斉藤がビール片手にザッピングを始める。完全に俺は無視。いないものとして扱っている。あの時と同じだ。痒みでどうにかなりそうな俺を無視して、弁当を食べていたあの時とまったく同じ。

「…はぁっ…はぁ…っ…」

 思い出しただけで呼吸が苦しくなる。あの一晩で俺の人格は破壊されてしまったのだ。

「抱けよ、俺を……」

 震える舌でなんとか声を送り出した。ザッピングがとまる。
 
「抱いて、くれよ……」

 ゆっくり斉藤が振り返った。俺は斉藤に抱き付いて、ビールの味のする唇を貪った。


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