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待っててね(2/2)

2015.07.04.Sat.
<前話はこちら>

「もう健人のうちに行こうか」

 しいちゃんが少し恥ずかしそう言い出した。

「大学の勉強するんじゃないの?」
「帰ってからするよ」

 真帆に会いたいから? そう思ったら無性に腹がたった。中学生のしいちゃんは俺んちに来るのを嫌がってたのに、真帆を好きになったら行きたくなるの? 俺がどんなに誘ってもなかなか来てくれなくて、珍しく来てくれたと思ったら俺がどんなに引き留めてもさっさと帰っちゃうくせに!

「真帆なんか好きになっちゃ駄目だよ、しいちゃん!」

 俺が怒鳴るとしいちゃんは顔から笑みを消した。

「あいつ最低の女なんだ! パンツでうろつくし、俺のおやつ取るし、平気でちんことか言うし!」
「どうしたんだ、健人」
「しいちゃんは騙されてるんだよ! 真帆なんか最悪の女なんだってば!!」
「……俺に生駒を取られると思って怒ってる?」
「違う! そうじゃない! 真帆にしいちゃんを取られたくないんだよ!!」

 勢いで口から出た言葉に自分ではっとなった。そうだ、俺はしいちゃんを真帆に取られたくないんだ。あいつがデリカシーのない性悪女だからじゃない。俺は誰にもしいちゃんを取られたくない。俺が独り占めしたいんだ。

「だって……ッ、だって、俺、しいちゃんが好きだから……!!」
「えっ」

 驚いた顔をするしいちゃんをぎゅっと抱きしめた。幼稚園くらいのころ、しいちゃんに抱き付いた記憶が遠くから甦る。あの時は俺の方がぜんぜん小さくて、腰にしがみつくだけだったのに、今の俺はしいちゃんを丸ごとすっぽり腕の中に抱きしめることができる。

「しいちゃんが好きなんだ」
「ちょ、健人……っ」

 もがくようにしいちゃんが俺の胸を押す。少し腕に力を入れたらその抵抗も簡単に封じ込められた。

「しいちゃん、好き」

 顔を寄せていってキスした。狭い腕の中でしいちゃんが逃げる。追いかけて顔中にいっぱいキスした。しいちゃんを丸ごと飲み込んでしまいたい。それくらい大好きなのに、それをうまく伝えられなくてもどかしい。

「健人……! だめ、だ……やめろ、健人……!!」
「やだ。だって俺、しいちゃんが好きだもん」

 逃げるしいちゃんを追いかけ続けるうちにバランスを崩してソファに倒れ込んだ。俺の下敷きになったしいちゃんが、困ったような怒ったような顔で俺を見上げてくる。

「俺、ずっとしいちゃんの弟になりたいって思ってたんだ。しいちゃんの家族になったらずっと一緒にいられるし、たくさん甘えられると思って」
「俺はずっと健人のこと弟みたいに思ってたよ」
「だけど俺より真帆のこと好きになったじゃん。俺より真帆のほうが仲いいじゃん。俺、しいちゃんのメアド知らないよ!」

 困惑したようにしいちゃんが眉を寄せる。

「どうしたんだ、健人。なんだか昔の……子供に戻ったみたいだ」

 しょうがないじゃないか! 体は大きくなっても中身は子供のままなんだから!

「子供のときからしいちゃんのこと好きだったんだ」

 しいちゃんの胸に顔を乗せた。そしたらしいちゃんが「ありがとう。気付かなくてごめん」って俺の頭を撫でてくれた。優しい手つきが嬉しいのに、細くて硬い指の感触に胸がどきどきと苦しくなって息苦しい。熱を出した時みたいに体が熱くなって、俺は口で息をした。

「しいちゃん……好きだよ。真帆より俺のこと好きになってよ」
「……ごめん、それは出来ないよ」
「なんで?!」

 頭をあげて問いただす。

「だって、健人は男だし、さっきも言ったけど弟みたいな存在だから、恋愛の対象としては見られないよ」

 はっきりと拒絶されて泣きたくなった。同時に腹も立った。そして、どうせこれは夢なんだからと開き直った。

「俺はしいちゃんの弟じゃないよ。体だってこんなに大きいし、しいちゃんのことも大好きだ」

 しいちゃんを押さえつけながらキスした。顔を背けられると、頬や耳の裏や首筋にたくさんキスした。心臓が潰れそうなほど高鳴ってる。

「…ッ……けんと……! こら……っ!!」

 キスしたり舐めたりしてたら股間がムズムズしてきた。笑子に電気あんまやられたときみたいに勃起しちゃったんだと思う。経験がまったくなくても知識までないわけじゃない。俺はずぼんをずりおろした。飛び出してきたものが見慣れないものだったので驚いたが、それより触りたいという欲求のほうが強くてそれを握った。

「健人……! なに、してるんだ……!!」

 俺がちんこを扱いているのに気付いてしいちゃんがぎょっと目を見開く。

「しいちゃんに触ってると心臓がどきどきして、ここがムズムズしちゃうんだ」
「な、なに言って……いい加減にしろ、俺の上から退けっ、退いてくれ!」
「しいちゃんも、ここ、触ったら気持ちいい?」
「――ッ健人!」

 俺はしいちゃんの股間に手を当てた。ふにゃりと柔らかい感触。ジタバタと暴れるしいちゃんを押さえ込みながら、俺はそこをグイグイと押してみた。

「健人、やめろ! そんなとこ触るな!!」
「少し、硬くなってきたみたい。見てもいい?」

 か細い悲鳴みたいな声でしいちゃんが俺の名前を叫ぶ。興奮して頭に血がのぼっている俺はその声を無視してずぼんを脱がした。ゆらりとしいちゃんのちんこが頭を持ち上げる。しいちゃんも勃起するんだ。なんだか感動しながら、俺はしいちゃんのものを握った。

「……やっ……健人、嫌だ! やめろ、はなせ!!」
「しいちゃんも気持ちいいんでしょ?」
「良くない!」
「じゃあどうして勃ってるの?」

 ゴシゴシ扱いていたら先から透明なものが滲み出て来た。

「い……ッ……健人、痛い、やめて……」
「痛い? もっとゆっくり?」

 力を緩めて上下に擦るとしいちゃんのちんこがむくむくと大きくなっていった。やっぱり気持ちいいんじゃないか。

「…ん、く……ぅ……いや……いやだ、健人、嫌だ……ッ」
「ほんとは気持ちいいくせに。しいちゃんの嘘つき」
「ちがっ……あっ、嫌だっ、なにする……!!」

 俺は自分のぶんもまとめて握ってちんこを扱いた。しいちゃんのと擦れてすごく気持ちいい。俺のちんこの先端からもヌルヌルする液体が溢れて来て、しいちゃんのと混ざり合った。

「しいちゃん、大好き、大好きだよ」

 扱きながらしいちゃんにキスする。最初は顔を背けてたしいちゃんも、諦めたのか逃げなくなった。固く閉じた唇を舌でこじ開けて中に進入する。押し返そうとするしいちゃんの舌を絡め取って吸い付いた。俺の体の下でしいちゃんが身悶える。

「しいちゃん大好き。しいちゃんの全部が好き。しいちゃんの全部が欲しい」
「ん……ぁ……あ……いや、ぁ……健人……っ」

 クチュクチュと水音を立てながら初めてのキスに没頭する。ぬるっとした感触が癖になる。ちんこが痛いくらい勃起している。

「はぁっ、あ……アッ……ん、止め、て……健人、だめ、止めてっ……」
「どうしたの?」
「手、だめ、動かすな……ッ、あっ、あ……ッ!!」

 俺の腕を掴んで、しいちゃんがぎゅっと目を瞑る。痛くしてしまったのかと手を止めたら、その直後、しいちゃんのちんこから白い液体が飛び出した。手にかかったそれは温かくて、粘ついてて……俺はこれがなんなのかわかって嬉しくなった。

「しいちゃん、射精したんだね! 気持ちよかった?!」
「……こんなことしといて、そんなこと聞くなよ……」
「だってこれ射精でしょ? 気持ちよくならないとしないんでしょ?」
「もうこれ以上なにも言わないでくれ」

 しいちゃんは腕で顔を隠してしまった。どうしたんだろう。耳まで真っ赤になっている。そんなに恥ずかしがらなくていいのに。大人ならみんなやってることなんだろう?

 じゃあ俺も射精してみよう。手の動きを再開する。しいちゃんが腕の隙間から俺を見ている。

「しいちゃん、キスしたい」
「嫌だ」

 嫌だと言いつつ、俺が顔を近づけたらしいちゃんは腕を退かしてくれた。キスしながら、俺も生まれて初めての射精をした。

 ※ ※ ※

 パチッと目が開いた。目に前にしいちゃんはいなくて、さっき見ていたバラエティ番組のエンディングが流れている。俺が抱きしめているのはしいちゃんじゃなくてクッション。俺は夢から覚めてしまったのか。

 だけどまだ夢の途中みたいに胸はドキドキしている。呼吸も荒い。

 頭をあげると、ダイニングテーブルで勉強している中二のしいちゃんがいた。姿かたちが完全にもとに戻っている。
 俺の視線に気づいたしいちゃんが顔をあげた。

「寝るなって言ったのに」

 と笑う。見慣れた優しい笑顔に安心する。

「俺、なんか寝言いってた?」
「寝言はないけど、ちょっとうなされてたみたい」

 しいちゃんはシャーペンを置いてノートを閉じた。伸びをしながら、「そろそろ帰ったほうがいいんじゃない?」と俺に言う。
 そうだ。極悪姉妹から逃げ出して、ここに匿ってもらってたんだった。

 体を起こして違和感に気付いた。なんだか股間がネチョネチョする。もしかして、漏らした?

「トイレ貸して!」

 ちょっと前かがみになりながらトイレに駆け込みパンツをずりおろして愕然とした。なんだこの白いの! 一瞬のパニックのあと射精したんだと気付いた。夢で出したのと同時に、こっちでも出してしまったようだ。精通がまさか夢精とは。

 トイレットペーパーで拭き取ってパンツをあげる。冷たくて気持ちが悪い。これじゃ帰らざるをえないな。

 トイレを出てしいちゃんに「帰る」と告げた。しいちゃんが椅子から立ち上がって見送りに来てくれる。

「生駒も悪いとこあると思うけど、本当は健人が可愛くてしかたないんだよ」

 前なら俺を慰めるための言葉だと思っただろう。だけど、あの夢をみたあとじゃ印象は違った。

「しいちゃんは真帆が好きなの?」
「えっ、違うよ」

 否定が早すぎる気がした。もしかして最近うちに寄り付かなくなったのは真帆を意識してるからなんじゃ……。そう思ったら胸がもやもやした。

「しいちゃん」
「なに?」
「俺はしいちゃんが好きだよ」
「急だな。でも嬉しいよ」
「しいちゃんは? 俺が好き?」
「好きだよ」

 どうせ弟程度の好きなんだろ。わかってる。これから本気で好きになってもらうから今はそれでいい。

「俺が大きくなったら夢の続きしようね」
「えっ?」

 踵をあげて、ぶつかるようにしいちゃんにキスした。しいちゃんは驚いた顔で口をパクパクさせている。

「それまで待っててね」

 しいちゃんに手を振って家を出た。



僕の可愛い酔っぱらい

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待っててね(1/2)

2015.07.03.Fri.
※未挿入

 一番上の笑子がデートだとかでシャワーを浴びたあとせっせと厚化粧をしている。受験生なのに遊び惚けて大丈夫なのか? 真ん中の真帆も鏡を覗きこんで「お姉ちゃんかわいいー。今度私にも化粧教えてー」とか騒いでいる。まだ中二のくせに必要ないだろ。

 俺はいま学校の宿題をやっているんだ。静かにしろ。だいたいどうしてリビングで化粧なんかやるんだ。騒ぐなら自分の部屋でやれ。

 母さんは夕飯の準備に忙しくて二人を注意しない。俺が注意したらそれこそ百倍になって二人から言い返されるので、ここは苛立ちをぐっと我慢して計算問題に集中するしかない。末っ子で男は俺一人。数と年齢の違いには勝てない。

「健人、ティッシュ取って」

 笑子がテレビの横に置いてあるティッシュを指さす。確かに俺のほうが若干近いけど、どうして俺がわざわざ勉強を中断してまでお前のためにティッシュを取ってやらなきゃいけないんだ。

「そのくらい自分で取れよ」
「あんたのほうが近いでしょ」
「笑ちゃんいま動けないんだからティッシュぐらい取りなさいよ」

 真帆が偉そうに口を挟む。だったら見てるだけのお前が動け。

「やだぁ、こいつ睨んでくるんですけどぉ」
「綺麗になった姉ちゃんに見とれてるの~?」
「誰がお前らみたいなブスに」
「誰がブスだって?!」

 笑子が立ち上がり俺に向かってくる。動けないんじゃなかったのかよ。やんのかコラ。ファイティングポーズを取ったら足をつかんで引っくり返された。すかさず真帆が頭のほうへ来て俺の腕を掴む。こいつらしょっちゅう喧嘩するくせに、俺を攻撃するときだけはなぜか息ぴったりなんだ。

「さっきからチラチラ姉ちゃんの胸見てるの知ってるんだぞ」

 風呂上がりにタンクトップでうろついてるから嫌でも視界に入ってくるんだよバーカ!

「誰が見るか、そんなきったねえもん!」
「あたしの胸が汚いっていうなら、健人のここはどうなのさ」

 あろうことか笑子が俺に電気あんましやがる。これが年頃の女のすることかよ!

「やめろよお前らまじで最低ぶっ殺す!!」
「笑ちゃん、健人のちんこ、潰しちゃって!」

 女がちんことか口に出してんじゃねえよ! 家の外じゃ猫被ってるの知ってんだぞ! 今度お前らの本性隠し撮りしてYouTubeにあげるぞ!!

「やだー! なんか足の下で大きくなってきた気がするー!!」
「最低なの健人のほうじゃん。変態が弟なんてやだー!!」

 似た者同士の性格最悪な姉妹が顔を見合わせ下品な笑い声をあげる。こんな奴らの弟に生まれてしまったのが俺の人生最大の不幸だ!!

「そろそろご飯よー、いつまでも遊んでないで手伝って」

 キッチンで母さんが声をあげた。力が緩んだ隙に、笑子の足と真帆の腕を振り払って逃げ出した。靴も履かずに家を飛び出し、マンションの通路を走って階段に駆け込む。2階ほどおりたところで階段に座り込んだ。

 膝を抱えて顔を埋める。悔しくて涙が出て来る。笑子の電気あんまで俺のちんこは確かにちょっと大きくなってしまっていたのだ。いっつもこうだ。いつも俺が一方的におもちゃにされて、笑いものにされるんだ。

 デリカシーのない女は糞だ。あいつらのせいで俺はクラスの可愛い女の子を見ても、家の中だと裸でうろついて口汚いのだと想像したらときめくことが出来なくなってしまった。

 どうして俺はあんな奴らの弟に生まれてしまったんだろう。家に帰りたくない。どっかよその家の子になりたい。

「健人?」

 メソメソしてたら優しい声がして、頭をふわっと撫でられた。この声は隣のしいちゃんの声だ。顔をあげたらやっぱりしいちゃんで、泣き顔の俺からいろんな事情を察したように優しく微笑んだ。

「また生駒と喧嘩した?」

 しいちゃんと真帆は同級生だ。同じ中2同士なのに、しいちゃんのほうが大人っぽくて優しくて思いやりがあって真帆とは大違いだ。しいちゃんが俺のお兄ちゃんだったら良かったのに。

「靴も履いてないじゃん。まだ帰りたくない?」
「一生帰りたくない」
「じゃあちょっとだけ俺んとこおいで」

 しいちゃんが伸ばした手に掴まって俺は階段から腰をあげた。

 あの極悪姉妹に泣かされるたび、しいちゃんはこうやって救いの手を俺に差し伸べてくれた。たまに真帆に注意してくれたりもした。真帆は「鍛えてやってんのよ」とぜんぜん聞く耳持たなかったけど。

 8階に戻っても通路には誰もいなかった。小学生の一人息子が飛び出したのに、母さんも姉ちゃんたちも薄情だ。

 しいちゃんはポケットから鍵を出して扉を開けた。しいちゃんちは三年前におじさんが亡くなってからおばさんと二人暮らし。おばさんは仕事で帰りが遅くなることがよくあった。そのたび母さんがしいちゃんに声をかけてうちで預かってたけど、中学に入ったくらいからしいちゃんが遠慮するようになった。しいちゃんがいてくれる間、あのデンジャラスコンビが少しおとなしくなるから俺は大歓迎だったのに。

 しいちゃんは明かりをつけながら奥へと進んで行った。しいちゃんちは部屋が片付いてて綺麗だ。家具も統一感があってキャラクターものが散乱するうちとは大違いの落ち着きがある。

「ご飯は食べた?」
「まだ」
「お腹すいてない?」
「ちょっと」
「おにぎり食べる?」

 しいちゃんはコンビニの袋をガサガサやって鮭おにぎりを俺に差し出す。

「それ、しいちゃんの晩御飯じゃないの?」
「いいよ。食べな」

 受け取ったおにぎり。なんだか申し訳なくて食べづらい。

「そうだ、あとでうちに食べにおいでよ。たぶん今日カレーだから」
「うーん、今日のお昼、カレーだったんだ」

 とやんわり断られる。

 俺は給食も晩ご飯もカレーで平気だけど。しいちゃんは最近うちに来るのを嫌がっているような気がする。俺はどんどん来て欲しいし、なんだったら昔みたいに泊まって行ってほしいのに。きっとうちが騒がしすぎるからだろう。恥ずかしい。

 しいちゃんはお弁当を温めて、インスタントのお味噌汁を作った。しいちゃんがおかずを食べたのを見て、俺もおにぎりをかじった。うまい。

 しいちゃんはから揚げも俺にくれた。お味噌汁も勧めてくれた。どうして血の繋がりのないしいちゃんのほうが俺に優しくしてくれるんだろう。本当に俺、しいちゃんちの子供に生まれたかった。しいちゃんの弟になっていっぱい遊んでもらいたかった。

 食べ終わってバラエティ番組を見てたらしいちゃんが「そろそろ帰る?」と訊いてきた。追い出そうとしてるんじゃなくて、俺を心配して気遣うような口調だ。

 まだ帰りたくない。でもこれ以上の長居はしいちゃんの迷惑になる。返事を迷って黙り込むと、しいちゃんは苦笑して「うちにいるって、生駒にメールだけ送っとくから」とスマホを取って操作しだした。

「しいちゃん、真帆とメールしてるの?」
「同じクラスになったときに。家は隣だけど、知ってたほうがいろいろ便利だからって」

 俯いてメールを打つしいちゃんを見ながら俺は嫉妬してた。こうやって優しくしてもらっていても、俺より真帆のほうがしいちゃんと親しいんだ。男同士で分かり合えるつもりだったけど、しいちゃんと俺はやっぱ対等じゃなくて、同級生の弟、隣の家の末っ子程度の認識なんだ。

 クッションを抱えてソファに寝転がった。

「寝るなよ」

 ってしいちゃんが俺の足を軽く叩く。俺は唇を尖らせて返事をしなかった。

 ※ ※ ※

「健人!」

 名前を呼ばれながら揺り起こされた。いつの間にか寝ていたらしい。枕にしていたクッションから頭をあげると、化粧ばっちりの笑子が俺を見下ろしていた。まだデートに行ってなかったのかよ。

「まぁた静雄んちに入り浸って。迷惑考えなさいよ」

 笑子がしいちゃんを静雄と呼び捨てたので驚いた。家族全員しいちゃんと呼んでいるのに。

「静雄もこんなの相手にしなくていいからね。こいつ、甘やかすとつけあがるから」
「甘やかしてるつもりはないけど。逆に生駒は昔から健人に厳しすぎるよ」

 ダイニングテーブルに寄りかかっている男の人が言う。これは誰だ? しいちゃんに似ているけど年齢が違う。この人は大人だ。背も高い。そして声は少し低い。しいちゃんの親戚? だけど笑子はこの人を静雄って呼んだ。ということはしいちゃん? 待て、待て待て待て! いまこの人、笑子を「生駒」って呼んだぞ?! もしかして、

「……お前、真帆……?」
「他に誰がいるのよ」
「笑子じゃなくて?」
「はあ? 笑ちゃんは結婚して北海道でしょ! 寝ぼけてんの?!」
「結婚?! 北海道?! 」
「駄目だこいつ、完全に寝ぼけてるわ」

 笑子だと思った女は両手を広げて首を振った。化粧か。化粧のせいか。確かに真帆に見えなくもない。だけど真帆だとしたらこっちも背が高いし、髪も長くなってるし、む、胸もでかい!

「今日はうちでご飯食べなね。母さんが静雄も呼びなって。ハンバーグ。好きでしょ」

 大人になった真帆がしいちゃんらしい男の人へ言う。男の人は「好き」と笑った。あぁ、この優しい笑顔はしいちゃんに間違いない。だけどどうして急に二人とも大人になってしまったんだ。夢か。これはきっと夢なんだな。色も音声もなにもかもこんなにリアルな夢は初めてだ!

「あたしも一緒に作るんだ。初めて作るから失敗するかもしれないけど」
「きっとおいしいよ」
「そんなの食べなきゃわかんないじゃん」

 大人の真帆が顔を赤くして下を向いた。なにかわい子ぶってんだか。俺にはしらじらしい仕草なのに、しいちゃんもほんのり頬を赤くして頭を掻いてる。なんだこの二人の間にある甘酸っぱい空気は。

「7時くらいに出来る予定だけど、暇だったら今からうちに来てテレビ見てればいいし」
「うん、大学のレポートちょっとやったら行くよ」
「その時うちの馬鹿も連れて来て」

 真帆は「うちの馬鹿」と言うとき俺のほうを見た。相変わらず口は悪いが、顔は幸せそうに緩みきっている。

「静雄の邪魔するんじゃないわよ」

 言うと真帆はしいちゃんの家から出て行った。

 見届けたしいちゃんが「はあ」と深いため息をつく。まるで今まで呼吸するのも難しかったみたいに胸をおさえて息を整えてる。まさかとは思うけど。

「しいちゃん、真帆と付き合ってんの?」
「えっ!」

 しいちゃんが目に見えて動揺している。

「まだ、だよ。あ、まだっていうか……」

 言葉に詰まってみるみる顔を赤くしていく。真帆の様子からもしいちゃんが好きなのは確か。二人は両想いなのか。

「しいちゃん、騙されてるよ! 真帆はそんな可愛い女じゃないよ!」

 ソファから立ち上がったらいつも以上に目線が高く伸びて、俺は思わずしいちゃんの肩に掴まった。その感触にまた驚いた。しいちゃんは大人になっているのに、肩は子供みたいに華奢に感じたのだ。

 違う。

 しいちゃんを見下ろしながら俺は違和感の正体に気付いた。しいちゃんが華奢なんじゃない。俺の体がでかくなっているんだ。

「……しいちゃん、俺より小さい」
「なんだよ改めて。健人が中学のときに俺を追い抜いたんだろ」

 夢の世界じゃそういうことになっているのか。しいちゃんが大学生ということは今の俺は高校生くらいということか。小5だった俺が高校生!! しかもしいちゃんよりでかくなってる!!