その後(3/3)
2015.05.11.Mon.
<前話はこちら>
仕事が終わったあと、自分の家に帰ってシャワーを浴びた。軽く寝るだけのつもりが熟睡してしまい、起きたらもう出勤時間ギリギリだった。
急いで支度して仕事に出かけ、配達の終わった夕方、スーパーに寄ってから斉藤のアパートに向かった。
合鍵を使い、部屋に入る。
斉藤はまだベッドの上だった。薄目に俺を見ると再び目を閉じて寝息を立て始める。
邪魔しないよう静かに部屋を片付けたあと、台所に立って夕飯作りにとりかかった。今日は焼き鳥丼だネットでレシピを確認しながら味噌汁と焼き鳥を作っていたら廊下からヒールの足音が聞こえて来た。
それは部屋の前で止まり、インターフォンを鳴らすと扉をノックした。
「斉藤さん、いないの?」
外から女の声が呼びかける。俺は台所から顔を覗かせて斉藤を見た。ベッドの斉藤はピクリとも動く気配がない。
こんな大きな音や声を聞き逃すほど斉藤は熟睡なんてしない。相手が誰かわかった上で、対応するより寝るほうを選んだとしか思えない。
女がもう一度呼びかける。斉藤はやはり動かなかった。
外からガサガサと物音がしたあと、ヒールの音が遠ざかって行った。
「出なくて良かったのか?」
気配が完全に消えてから斉藤に声をかけてみた。返事はなく、静かな寝息が聞こえて来るだけだった。
俺も台所に戻って料理の続きをした。
タレを絡めた肉を、ご飯を盛った丼に乗せて刻みのりとネギを散らす。
味噌汁を温めなおす間に、外に出て音の正体を確かめてみた。ドアノブにビニール袋が引っかけてあった。
中には饅頭と、手帳から千切ったようなメモが入っていた。
『やっぱり田舎に帰ることにしました。会って直接お別れを言いたかったのに残念です。実はこの前ここにかくまってもらったとき、このまま一緒に住んじゃおうかなって思ってたの。だけど私がいる間、あなたは一度も帰って来なかったわね。操を立てるいい人が出来たってこと? 斉藤さんのこと好きになりかけてたから、ちょっと残念。
今まで色々ありがとう。さようなら』
なんだか見てはいけないものを見た気がして、急いでメモを袋に戻した。
ヒールの女はやはり斉藤が用心棒をしていた水商売の女だった。女を匿ってる間、斉藤は部屋に帰らなかった。セックスもしなかったことになる。
メモにある通り、誰かに操を立てて? まさか俺に? いや、ありえない。斉藤に限ってそんなこと。たまたま宿直と事件が重なっただけだろう。
期待を封じ込めて部屋に戻った。味噌汁をに椀に注ぎ、丼と一緒に部屋のテーブルへ運ぶ。
待ち構えていたように斉藤がベッドから体を起こした。
「どんどんレパートリーが増えていくな」
テーブルの料理を見て斉藤が感心したように言う。
「これ、外にかかってた」
饅頭の入った袋を渡した。斉藤は中を確かめ、メモに気付くと取り出して目を通した。読み終わると無表情に袋に戻す。
「いいのかよ」
「何がだ」
「あんたのこと好きだなんて言ってくれる奇特な女、このまま帰していいのかよ」
「勝手に読んだのか」
「悪戯かもしれないと思って。あんた、いろんな奴から恨みかってそうだし」
確かに、と斉藤は声を立てて笑った。
「前にも言っただろ。あいつとはただの利害関係だ。何度か寝て情がわいたのを勘違いしてやがるのさ」
決めつけるように言うと斉藤は箸を取り、味噌汁に口をつけた。
斉藤の言う通りなら、俺のなかにある感情も勘違いということになる。本当にそうならどれほどいいか。
「あんた、あの女とやってなかったんだ? いい人って誰だよ?」
からかうように顔を覗きこむと、斉藤は上目使いに俺を見ながら口角を持ち上げた。
「お前だ、って言って欲しいのか?」
「なっ……ばっかじゃねえの!」
暗に期待していたことを指摘されてかぁっと顔が熱くなる。
「言っとくけどな、俺は意外とモテるんだぞ」
「妄想だろ」
「お前だって俺に夢中だろうが」
「だ、誰がっ!!」
心臓をぎゅっと鷲掴まれたように鼓動が苦しくなった。自分でも顔が赤らんでいるのがわかる。脇にじとっと汗が滲み出る気配。
「体に聞けばわかる。ヤッてる時のほうがお前は正直だからな」
箸を置いて斉藤が腰をあげた。俺を押し倒しキスしてくる。すでに手は服の中だ。
「……っ、飯、だろ……っ」
「あとでな」
ジーンズの上から股間を押されて喘ぎ声のような息が漏れる。そこはすでに痛いほど勃起していた。
「俺の言った通りだろ」
「うるせえな……!」
したり顔の斉藤にしがみつき、その肩に噛みついてやった。
仕事が終わったあと、自分の家に帰ってシャワーを浴びた。軽く寝るだけのつもりが熟睡してしまい、起きたらもう出勤時間ギリギリだった。
急いで支度して仕事に出かけ、配達の終わった夕方、スーパーに寄ってから斉藤のアパートに向かった。
合鍵を使い、部屋に入る。
斉藤はまだベッドの上だった。薄目に俺を見ると再び目を閉じて寝息を立て始める。
邪魔しないよう静かに部屋を片付けたあと、台所に立って夕飯作りにとりかかった。今日は焼き鳥丼だネットでレシピを確認しながら味噌汁と焼き鳥を作っていたら廊下からヒールの足音が聞こえて来た。
それは部屋の前で止まり、インターフォンを鳴らすと扉をノックした。
「斉藤さん、いないの?」
外から女の声が呼びかける。俺は台所から顔を覗かせて斉藤を見た。ベッドの斉藤はピクリとも動く気配がない。
こんな大きな音や声を聞き逃すほど斉藤は熟睡なんてしない。相手が誰かわかった上で、対応するより寝るほうを選んだとしか思えない。
女がもう一度呼びかける。斉藤はやはり動かなかった。
外からガサガサと物音がしたあと、ヒールの音が遠ざかって行った。
「出なくて良かったのか?」
気配が完全に消えてから斉藤に声をかけてみた。返事はなく、静かな寝息が聞こえて来るだけだった。
俺も台所に戻って料理の続きをした。
タレを絡めた肉を、ご飯を盛った丼に乗せて刻みのりとネギを散らす。
味噌汁を温めなおす間に、外に出て音の正体を確かめてみた。ドアノブにビニール袋が引っかけてあった。
中には饅頭と、手帳から千切ったようなメモが入っていた。
『やっぱり田舎に帰ることにしました。会って直接お別れを言いたかったのに残念です。実はこの前ここにかくまってもらったとき、このまま一緒に住んじゃおうかなって思ってたの。だけど私がいる間、あなたは一度も帰って来なかったわね。操を立てるいい人が出来たってこと? 斉藤さんのこと好きになりかけてたから、ちょっと残念。
今まで色々ありがとう。さようなら』
なんだか見てはいけないものを見た気がして、急いでメモを袋に戻した。
ヒールの女はやはり斉藤が用心棒をしていた水商売の女だった。女を匿ってる間、斉藤は部屋に帰らなかった。セックスもしなかったことになる。
メモにある通り、誰かに操を立てて? まさか俺に? いや、ありえない。斉藤に限ってそんなこと。たまたま宿直と事件が重なっただけだろう。
期待を封じ込めて部屋に戻った。味噌汁をに椀に注ぎ、丼と一緒に部屋のテーブルへ運ぶ。
待ち構えていたように斉藤がベッドから体を起こした。
「どんどんレパートリーが増えていくな」
テーブルの料理を見て斉藤が感心したように言う。
「これ、外にかかってた」
饅頭の入った袋を渡した。斉藤は中を確かめ、メモに気付くと取り出して目を通した。読み終わると無表情に袋に戻す。
「いいのかよ」
「何がだ」
「あんたのこと好きだなんて言ってくれる奇特な女、このまま帰していいのかよ」
「勝手に読んだのか」
「悪戯かもしれないと思って。あんた、いろんな奴から恨みかってそうだし」
確かに、と斉藤は声を立てて笑った。
「前にも言っただろ。あいつとはただの利害関係だ。何度か寝て情がわいたのを勘違いしてやがるのさ」
決めつけるように言うと斉藤は箸を取り、味噌汁に口をつけた。
斉藤の言う通りなら、俺のなかにある感情も勘違いということになる。本当にそうならどれほどいいか。
「あんた、あの女とやってなかったんだ? いい人って誰だよ?」
からかうように顔を覗きこむと、斉藤は上目使いに俺を見ながら口角を持ち上げた。
「お前だ、って言って欲しいのか?」
「なっ……ばっかじゃねえの!」
暗に期待していたことを指摘されてかぁっと顔が熱くなる。
「言っとくけどな、俺は意外とモテるんだぞ」
「妄想だろ」
「お前だって俺に夢中だろうが」
「だ、誰がっ!!」
心臓をぎゅっと鷲掴まれたように鼓動が苦しくなった。自分でも顔が赤らんでいるのがわかる。脇にじとっと汗が滲み出る気配。
「体に聞けばわかる。ヤッてる時のほうがお前は正直だからな」
箸を置いて斉藤が腰をあげた。俺を押し倒しキスしてくる。すでに手は服の中だ。
「……っ、飯、だろ……っ」
「あとでな」
ジーンズの上から股間を押されて喘ぎ声のような息が漏れる。そこはすでに痛いほど勃起していた。
「俺の言った通りだろ」
「うるせえな……!」
したり顔の斉藤にしがみつき、その肩に噛みついてやった。

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その後(2/3)
2015.05.10.Sun.
<前話はこちら>
結局、俺がいる間に斉藤が帰って来ることはなかった。なにか事件が起こったのだろう。どこの誰か知らないが、土日はおとなしくしとけ。盗みでパクられた俺が言えたことじゃないけど。
配達が終わった夕方、戻っているかもしれないと斉藤の部屋を訪れてみた。
テーブルには、俺が作っておいた焼きそばが寂しく佇んでいる。
部屋の様子が俺が出る前とまったく同じだったので帰っていないとわかった。
朝に干しておいた洗濯物を取り込んでからベッドに寝転がって目を閉じる。斉藤が使っている整髪料の匂いがする。
ウトウトし始めた頃、外の通路に鳴り響くヒールの音で目が覚めた。音で踵の高い女物だとわかる。それが斉藤の部屋の前で止まった。
インターフォンが鳴った。同時にノックもされる。外の人物は、土曜の夕方なら斉藤が家にいるとわかっているように思えた。斉藤の知り合いかもしれない。
もう一度チャイムを鳴らしても誰も出てこないから、外の女は諦めたのかまたヒールをカツカツ鳴らしながら来た道を戻って行った。
斉藤の女の知り合い。頭に浮かんだのは斉藤が用心棒をしている水商売の女。
何をしに来たのだろう。飯を作りに来てやったのか、デートにでも誘いに来たのか。また昔の男に見つかった相談か。
「自分で解決しろよ」
吐き捨てるように呟いて布団を被る。
とりあえず斉藤はいまヒールの女とは会っていない。さっきの女が水商売の女と決まったわけじゃないけど、少しだけ俺の焦りを和らげた。
また少し眠って、携帯電話のアラームで目を覚ました。夜の十時。部屋は暗い。斉藤の姿もない。テーブルの焼きそばもそのまま。落胆のため息が知らず零れる。
そろそろ出勤の準備をしないといけない。
風呂に入ってシャワーを浴びた。俺用の歯ブラシで歯を磨き、斉藤の髭剃りで髭を剃る。
着替えは持ちこんでいないので服はそのまま、下着は斉藤のものを借りた。
腹ごしらえのために焼きそばをレンジに放り込む。テレビを見ながら一人で食べていたら、玄関で鍵の開く音が聞こえた。
帰宅した斉藤が中に入ってくる。
「遅かったじゃん」
あえてテレビに顔を向けたまま言う。
「ああ。仕事だ」
声が疲れていた。
「俺の焼きそばはねえのか」
「いつ帰って来るかわかんねえ奴の分なんかあるわけないだろ」
「遅くなったから怒ってんのか?」
「はあ? 頭沸いてんじゃねえの」
「機嫌直せよ。お嬢ちゃんのために買って来てやったんだぜ」
斉藤はガサガサとビニール袋からシュークリームを取り出した。俺が買って来いと言ったシュークリームだ。
「誰がお嬢ちゃんだよ」
ふくれっ面でシュークリームを奪い取った。
どかっと床に腰を下ろした斉藤が焼きそばを手繰り寄せて食べ始める。もともと斉藤のために作ったものだ。食べてもらえるのが嬉しい。豪快な食べっぷりなので尚更だ。
俺もシュークリームの袋を開けた。
あっという間に食べ終わった斉藤が台所でお茶をいれて戻って来た。一口飲んで息を吐き出す。
シュークリームをテーブルに置いた。床に手をつき、斉藤ににじり寄る。
横目に俺を見て斉藤が笑う。
「時間は大丈夫なのか」
「だから早くしろよ」
「こっちは仕事で疲れてるんだぜ」
そう言いながら俺を押し倒して口付けてくる。
「…っ……ん……早く……っ……早く……!」
「わかってる」
斉藤の手が服のボタンを外していく。ズボンと下着は自分から脱いだ。
「早くっ……あんたの、くれよ……!」
「慣らさなくていいのか」
「どれだけ俺を待たせる気だよ……っ!!」
「仕様がねえガキだ」
斉藤は苦笑を漏らしながらベルトを外して前をくつろげた。俺は体を起こしてそこへ顔を埋めた。
疲れているせいか反応は鈍かった。時間はかかったが、しっかり立ち上がったところで口を離した。寝転がり、自ら足を広げる。
斉藤が覆いかぶさってくる。中心部へ熱い怒張を宛がい、抉じ開けてくる。
「くぅ、う、あ、あぁぁっ……!」
前準備が必要ないほどの興奮で、引き攣るような痛みも快感だった。逆に斉藤のほうが辛いんじゃないかと窺い見る。顔つきがいつもと違った。本当に疲れているようだ。浅ましくサカッた自分が恥ずかしくなる。
その気になってもらいたくて、服に手を伸ばしたら「触るな!」と叩き落された。
「なん、で」
思ってもみなかった拒絶に驚く。
「俺はいい」
眉間を寄せた斉藤が呻くように言った。なんだか様子が変だった。
服を脱げない理由。記憶に新しいヒールの音が甦って繋がる。
「女のとこ行ってたのかよ」
「どうしてそうなる」
「疲れてんのもあの糞売女と寝てたからだろ! 違うってんなら裸んなってみろよ!」
嫉妬まる出しの鬱陶しい女みたいなことを怒鳴りながら斉藤のワイシャツに手をかけ、力任せに開いた。音を立ててボタンが弾け飛ぶ。
あらわれたのは、俺が予想していたキスマークやひっかき傷なんかじゃなくて、白い包帯とコルセットだった。
「……っ……なに、これ……」
「ったく、誰がこのボタンつけるんだよ」
溜息まじりに斉藤はシャツを脱いだ。痛んだようで顔を顰める。
「どうしたって聞いてんだよ!」
わけがわからず、俺はヒステリックに叫んだ。
「喚くな。肋骨にヒビが入ってるだけだ」
「なんでっ」
「通報があって現場行ったら、間抜けなコソ泥がまだ部屋に隠れてやがってな。ちょっとした捕り物騒ぎになって、その時に階段から落ちてこのザマだ」
後半部分を白状するとき、斉藤は少しバツが悪そうに目を細めた。
帰りが遅かったのはこのためだったのだ。
「入院してなくて大丈夫なのかよ」
「ヒビくらいで入院なんかするわえねえだろうが。バストバンドで固定しときゃ治る」
話は終わりだと言いたげに俺の足をかかえなおす。
「ちょ、待てよ、そんな体でできるわけないだろ!」
「お前が判断することじゃねえだろう」
「傷に障るだろ!」
「心配してくれんのか?」
「……っ!」
ニヤつかれて言葉に詰まる。
「――ばか! もう知らねえ!」
「気持ちだけもらっとくぜ」
言うなり斉藤は腰を使い出した。中で少し緩んでいたものが再び硬くなっていく。
「……っ、ん……」
「拗ねたり、嫉妬したり、心配したり、今日のお前は忙しいな」
「るせえ!」
中を擦られてだんだん熱が戻ってくる。
今更ながら斉藤が犯罪者を追いかける危険な仕事をしていることを思い出した。俺だって最初、この部屋で鉄パイプを握りしめて斉藤に襲い掛かったことがあるのだ。
「あんたも年なんだし、内勤にかえてもらえよ」
「まだ37だぞ。働き盛りの俺を年寄り扱いするな」
中が潤んできたのかピストンがスムーズになってきた。斉藤の速度が増していく。
「はっ……あ、んっ……い、たく、ねえのかよ……っ」
「痛むに決まってんだろ」
「だったら……無理……すン……なよっ」
「ずっとお利口にして俺を待ってたんだろ? メシまで作って。そのご褒美をやんなきゃな」
「ばっ……か、やろう……!」
身体を倒した斉藤が腰を突き上げて来た。ヒビの入った胸を庇うためか、いつもと違って少し動きがぎこちない。痛むらしく、時折顔を顰める。だが動くのを止めない。
「はぁ、あっ、あぁ、んんっ!」
斉藤の腰に足を巻き付け、自分から腰を振った。卑猥な音を立てながら深く繋がる。
「ん、あぁんっ……わ、って……さわ、って……っ!」
俺の足を抱える斉藤の腕に指を食い込ませる。
「どこを触って欲しいんだ?」
「…っ…れの、俺の、ちんぽ、触って……っ!!」
小さな笑みを見せた斉藤が俺を握って無骨な手で擦り上げる。
「あっ、あぁっ!! きもち、いいっ……もっと……はぁん! あっ! それ……いいっ」
「この、好きもんが」
言うと斉藤はさらに手つきを早くした。奥も擦られて眩暈がするような快感に目の焦点を失う。
「んあぁん! あっ、あぁっ……待っ……て…出る……あんたも、はやく……っ!!」
「まだ時間は平気だろ」
「ちがっ……あんたの…なか……欲し…ン…だよ……!」
見上げながら、中の斉藤を締め付ける。
「すっかりちんぽ狂いになりやがって」
「――――ッ……い……あ、ああぁっ……!!」
からかう斉藤の声を聞きながら俺は射精した。最後の一滴まで斉藤の手によって絞り取られる。
「お望み通り、中に出してやるぞ」
両手で俺の足を開き、斉藤は激しく腰を打ち付けて来た。
「ひっ、いっ、んあぁ!」
「中出しして欲しいんだろ、お嬢ちゃん」
「ほし…い……なか……欲しい……!」
出したばかりなのに収まらない興奮のなか、恥ずかしげもなく斉藤にねだる。
「女でなくて良かったな。でなきゃ今頃俺のガキを孕んでるぞ」
孕む、と男ではありえない単語に最後の理性が焼き切れて、思考が蒸発していく感じがした。
「は……らみ、たいっ……あんたの子……俺……孕ませ、て……くれよ……!!」
「本気かよ」
少し驚いたように呟いたあと、斉藤は激しく腰を振って俺の中で吐精した。
斉藤の熱が体に取り込まれる満足感に、俺の顔はだらしなく緩んだ。
結局、俺がいる間に斉藤が帰って来ることはなかった。なにか事件が起こったのだろう。どこの誰か知らないが、土日はおとなしくしとけ。盗みでパクられた俺が言えたことじゃないけど。
配達が終わった夕方、戻っているかもしれないと斉藤の部屋を訪れてみた。
テーブルには、俺が作っておいた焼きそばが寂しく佇んでいる。
部屋の様子が俺が出る前とまったく同じだったので帰っていないとわかった。
朝に干しておいた洗濯物を取り込んでからベッドに寝転がって目を閉じる。斉藤が使っている整髪料の匂いがする。
ウトウトし始めた頃、外の通路に鳴り響くヒールの音で目が覚めた。音で踵の高い女物だとわかる。それが斉藤の部屋の前で止まった。
インターフォンが鳴った。同時にノックもされる。外の人物は、土曜の夕方なら斉藤が家にいるとわかっているように思えた。斉藤の知り合いかもしれない。
もう一度チャイムを鳴らしても誰も出てこないから、外の女は諦めたのかまたヒールをカツカツ鳴らしながら来た道を戻って行った。
斉藤の女の知り合い。頭に浮かんだのは斉藤が用心棒をしている水商売の女。
何をしに来たのだろう。飯を作りに来てやったのか、デートにでも誘いに来たのか。また昔の男に見つかった相談か。
「自分で解決しろよ」
吐き捨てるように呟いて布団を被る。
とりあえず斉藤はいまヒールの女とは会っていない。さっきの女が水商売の女と決まったわけじゃないけど、少しだけ俺の焦りを和らげた。
また少し眠って、携帯電話のアラームで目を覚ました。夜の十時。部屋は暗い。斉藤の姿もない。テーブルの焼きそばもそのまま。落胆のため息が知らず零れる。
そろそろ出勤の準備をしないといけない。
風呂に入ってシャワーを浴びた。俺用の歯ブラシで歯を磨き、斉藤の髭剃りで髭を剃る。
着替えは持ちこんでいないので服はそのまま、下着は斉藤のものを借りた。
腹ごしらえのために焼きそばをレンジに放り込む。テレビを見ながら一人で食べていたら、玄関で鍵の開く音が聞こえた。
帰宅した斉藤が中に入ってくる。
「遅かったじゃん」
あえてテレビに顔を向けたまま言う。
「ああ。仕事だ」
声が疲れていた。
「俺の焼きそばはねえのか」
「いつ帰って来るかわかんねえ奴の分なんかあるわけないだろ」
「遅くなったから怒ってんのか?」
「はあ? 頭沸いてんじゃねえの」
「機嫌直せよ。お嬢ちゃんのために買って来てやったんだぜ」
斉藤はガサガサとビニール袋からシュークリームを取り出した。俺が買って来いと言ったシュークリームだ。
「誰がお嬢ちゃんだよ」
ふくれっ面でシュークリームを奪い取った。
どかっと床に腰を下ろした斉藤が焼きそばを手繰り寄せて食べ始める。もともと斉藤のために作ったものだ。食べてもらえるのが嬉しい。豪快な食べっぷりなので尚更だ。
俺もシュークリームの袋を開けた。
あっという間に食べ終わった斉藤が台所でお茶をいれて戻って来た。一口飲んで息を吐き出す。
シュークリームをテーブルに置いた。床に手をつき、斉藤ににじり寄る。
横目に俺を見て斉藤が笑う。
「時間は大丈夫なのか」
「だから早くしろよ」
「こっちは仕事で疲れてるんだぜ」
そう言いながら俺を押し倒して口付けてくる。
「…っ……ん……早く……っ……早く……!」
「わかってる」
斉藤の手が服のボタンを外していく。ズボンと下着は自分から脱いだ。
「早くっ……あんたの、くれよ……!」
「慣らさなくていいのか」
「どれだけ俺を待たせる気だよ……っ!!」
「仕様がねえガキだ」
斉藤は苦笑を漏らしながらベルトを外して前をくつろげた。俺は体を起こしてそこへ顔を埋めた。
疲れているせいか反応は鈍かった。時間はかかったが、しっかり立ち上がったところで口を離した。寝転がり、自ら足を広げる。
斉藤が覆いかぶさってくる。中心部へ熱い怒張を宛がい、抉じ開けてくる。
「くぅ、う、あ、あぁぁっ……!」
前準備が必要ないほどの興奮で、引き攣るような痛みも快感だった。逆に斉藤のほうが辛いんじゃないかと窺い見る。顔つきがいつもと違った。本当に疲れているようだ。浅ましくサカッた自分が恥ずかしくなる。
その気になってもらいたくて、服に手を伸ばしたら「触るな!」と叩き落された。
「なん、で」
思ってもみなかった拒絶に驚く。
「俺はいい」
眉間を寄せた斉藤が呻くように言った。なんだか様子が変だった。
服を脱げない理由。記憶に新しいヒールの音が甦って繋がる。
「女のとこ行ってたのかよ」
「どうしてそうなる」
「疲れてんのもあの糞売女と寝てたからだろ! 違うってんなら裸んなってみろよ!」
嫉妬まる出しの鬱陶しい女みたいなことを怒鳴りながら斉藤のワイシャツに手をかけ、力任せに開いた。音を立ててボタンが弾け飛ぶ。
あらわれたのは、俺が予想していたキスマークやひっかき傷なんかじゃなくて、白い包帯とコルセットだった。
「……っ……なに、これ……」
「ったく、誰がこのボタンつけるんだよ」
溜息まじりに斉藤はシャツを脱いだ。痛んだようで顔を顰める。
「どうしたって聞いてんだよ!」
わけがわからず、俺はヒステリックに叫んだ。
「喚くな。肋骨にヒビが入ってるだけだ」
「なんでっ」
「通報があって現場行ったら、間抜けなコソ泥がまだ部屋に隠れてやがってな。ちょっとした捕り物騒ぎになって、その時に階段から落ちてこのザマだ」
後半部分を白状するとき、斉藤は少しバツが悪そうに目を細めた。
帰りが遅かったのはこのためだったのだ。
「入院してなくて大丈夫なのかよ」
「ヒビくらいで入院なんかするわえねえだろうが。バストバンドで固定しときゃ治る」
話は終わりだと言いたげに俺の足をかかえなおす。
「ちょ、待てよ、そんな体でできるわけないだろ!」
「お前が判断することじゃねえだろう」
「傷に障るだろ!」
「心配してくれんのか?」
「……っ!」
ニヤつかれて言葉に詰まる。
「――ばか! もう知らねえ!」
「気持ちだけもらっとくぜ」
言うなり斉藤は腰を使い出した。中で少し緩んでいたものが再び硬くなっていく。
「……っ、ん……」
「拗ねたり、嫉妬したり、心配したり、今日のお前は忙しいな」
「るせえ!」
中を擦られてだんだん熱が戻ってくる。
今更ながら斉藤が犯罪者を追いかける危険な仕事をしていることを思い出した。俺だって最初、この部屋で鉄パイプを握りしめて斉藤に襲い掛かったことがあるのだ。
「あんたも年なんだし、内勤にかえてもらえよ」
「まだ37だぞ。働き盛りの俺を年寄り扱いするな」
中が潤んできたのかピストンがスムーズになってきた。斉藤の速度が増していく。
「はっ……あ、んっ……い、たく、ねえのかよ……っ」
「痛むに決まってんだろ」
「だったら……無理……すン……なよっ」
「ずっとお利口にして俺を待ってたんだろ? メシまで作って。そのご褒美をやんなきゃな」
「ばっ……か、やろう……!」
身体を倒した斉藤が腰を突き上げて来た。ヒビの入った胸を庇うためか、いつもと違って少し動きがぎこちない。痛むらしく、時折顔を顰める。だが動くのを止めない。
「はぁ、あっ、あぁ、んんっ!」
斉藤の腰に足を巻き付け、自分から腰を振った。卑猥な音を立てながら深く繋がる。
「ん、あぁんっ……わ、って……さわ、って……っ!」
俺の足を抱える斉藤の腕に指を食い込ませる。
「どこを触って欲しいんだ?」
「…っ…れの、俺の、ちんぽ、触って……っ!!」
小さな笑みを見せた斉藤が俺を握って無骨な手で擦り上げる。
「あっ、あぁっ!! きもち、いいっ……もっと……はぁん! あっ! それ……いいっ」
「この、好きもんが」
言うと斉藤はさらに手つきを早くした。奥も擦られて眩暈がするような快感に目の焦点を失う。
「んあぁん! あっ、あぁっ……待っ……て…出る……あんたも、はやく……っ!!」
「まだ時間は平気だろ」
「ちがっ……あんたの…なか……欲し…ン…だよ……!」
見上げながら、中の斉藤を締め付ける。
「すっかりちんぽ狂いになりやがって」
「――――ッ……い……あ、ああぁっ……!!」
からかう斉藤の声を聞きながら俺は射精した。最後の一滴まで斉藤の手によって絞り取られる。
「お望み通り、中に出してやるぞ」
両手で俺の足を開き、斉藤は激しく腰を打ち付けて来た。
「ひっ、いっ、んあぁ!」
「中出しして欲しいんだろ、お嬢ちゃん」
「ほし…い……なか……欲しい……!」
出したばかりなのに収まらない興奮のなか、恥ずかしげもなく斉藤にねだる。
「女でなくて良かったな。でなきゃ今頃俺のガキを孕んでるぞ」
孕む、と男ではありえない単語に最後の理性が焼き切れて、思考が蒸発していく感じがした。
「は……らみ、たいっ……あんたの子……俺……孕ませ、て……くれよ……!!」
「本気かよ」
少し驚いたように呟いたあと、斉藤は激しく腰を振って俺の中で吐精した。
斉藤の熱が体に取り込まれる満足感に、俺の顔はだらしなく緩んだ。
その後(1/3)
2015.05.09.Sat.
<前前話「ノビ」→前話「再会」>
仕事が終わったその足で斉藤の部屋へ向かった。勝手に入れと渡された合鍵を使って中に入る。
カーテンは閉まったまま。空気も籠っている。斉藤はまだ寝ているらしい。午前六時過ぎ。そろそろ起きる時間だ。
足音を忍ばせて部屋の中を移動し、狭い台所に入って冷蔵庫を開けた。先日俺が買ってきた食材がまだ残っている。やはり自分で料理はしないようだ。
俺だって得意なわけじゃないから簡単なものしか作れない。ただ卵をかき混ぜるだけのスクランブルエッグと、ベーコンとソーセージをフライパンに放置して、その間にトマトを切った。
刑務所に入る前は食事の内容なんて気にしたこともなかったのに、こうして誰かに食べさせるとなると野菜も採らなくては、と義務の様に思ってしまう。
炊飯器をあけると黄色く変色したご飯が湯気をくゆらせる。数日前に俺が炊いてそのままだ。しゃもじを突っ込んで奥を探ると白いご飯が出て来たのでそれを茶碗によそった。
皿を持って奥の部屋へ行くと、布団のなかから斉藤が俺を見上げて欠伸をした。
なんて声をかけようかと一瞬迷う。おはよう、が妥当なシチュエーションだがなんだか気恥ずかしい。結局ぶっきらぼうに「……メシ」としか言えなかった。
「ああ」
斉藤も挨拶なしで短く答えるとベッドから起き上がってトイレに向かった。用を足した斉藤が洗面所で顔を洗い歯を磨いている間に、俺は料理をテーブルに並べ、カーテンを開けた。
明るくなった部屋の様子をついチェックしてしまう。女を連れ込んだ様子はなし。
2週間ほど前、斉藤が個人的に用心棒をしてやっている水商売の女が転がり込んできた。なんでも付き纏っている昔の男に住所がバレたから、引っ越し先を見つけるまで匿って欲しいとやってきたのだそうだ。
そういうわけだから、俺が呼ぶまでお前は来るなよ、と電話で斉藤に告げられた。ばか! と怒鳴ってやりたくなったが「関係ねえよ」と電話を切った。
それから連絡が来るまで五日ほどかかった。その間、斉藤は女と寝食を共にしていたわけだ。肉体関係のある二人だ。当然、セックスもしていただろう。
利害が一致しただけだと斉藤は言うが、男と女、いつ関係が進展するかわからない。
女が残して行った歯ブラシは俺が勝手に捨てた。斉藤はなにも言わない。気付いてもいないかもしれない。女のことについては何一つ俺に言わない。
連絡をもらってすぐ現れた俺を見て、斉藤はただ可笑しそうに笑っただけだ。何か言えば俺がブチ切れるとわかっていたからかもしれないけど。
テレビを見ながら、斉藤は黙って俺が作った朝食を口に運ぶ。美味しいともまずいとも言わない。ありがとうと言われたこともない。俺もそんなばかな期待はしない。
ほとんど無言のまま食事を済ませ、斉藤は出勤の支度を始めた。
土曜であってもほとんど仕事に出ていた。宿直明けでも事件が起こればそのまま続けて夕方まで勤務することも少なくない。おかげで俺が用意した食事が無駄になることもあった。
俺を酷い目に遭わせてムショにぶちこんだこいつのために、どうしてメシなんか作ってるんだ。
腹が立ったが、コンビニ弁当ばかり食べている斉藤を見ていたらついスーパーに寄って食材を買い込んでいたのは自分なので文句も言えない。
ネットで調べたレシピで初めて作った野菜炒めは肉が固く、野菜は半生、味付けは辛いだけの最悪なものだったのに、斉藤はなにも言わずに食べ続けた。
「はっ、人の食いもんじゃねえな。あんたも無理しなくていいよ」
俺が止めても「お前が俺の為に作ってくれたんだろ」と、口の中の野菜をシャリシャリ音を立てながら完食した。
その夜は俺の出勤ギリギリまで斉藤と繋がっていた。
「今日はサービスがいいな」
と揶揄されるほど奉仕した。単純に俺が止まらなかった。
憎い相手なのに。体が欲しがってしまう。
支度の終わった斉藤が玄関に立った。
「帰って来てからゆっくり相手してやるからな」
「していらねえよ」
答えながら、斉藤のネクタイを掴んで引き寄せ、自分から口を合わせた。
斉藤の手が俺の腰を抱き寄せる。お互いの口の中を弄って朝っぱらから濃厚なキスをする。股間が熱くなるころ、唾液の糸を引きながら離れた。
「物欲しそうな顔するな。行きづらくなるだろうが」
「そんな顔してねえよ」
「昼までには帰る。それまでここで寝てろ」
待っていろと言われて頬が持ち上がりそうになる。わざとらしいしかめっ面を作って「帰りにシュークリーム買って来いよ」と拗ねた子供みたいにねだった。
「好きだなそれ」
斉藤が呆れたように言う。
刑務所で祝ってもらった誕生日でシュークリームが出た。それまで好きでもなかったのに、久し振りに口にした甘いお菓子がとてもうまくて好物になってしまった。
「じゃあ行ってくる」
「……うん」
いってらっしゃい、とは恥ずかしくて言えない。
仕事が終わったその足で斉藤の部屋へ向かった。勝手に入れと渡された合鍵を使って中に入る。
カーテンは閉まったまま。空気も籠っている。斉藤はまだ寝ているらしい。午前六時過ぎ。そろそろ起きる時間だ。
足音を忍ばせて部屋の中を移動し、狭い台所に入って冷蔵庫を開けた。先日俺が買ってきた食材がまだ残っている。やはり自分で料理はしないようだ。
俺だって得意なわけじゃないから簡単なものしか作れない。ただ卵をかき混ぜるだけのスクランブルエッグと、ベーコンとソーセージをフライパンに放置して、その間にトマトを切った。
刑務所に入る前は食事の内容なんて気にしたこともなかったのに、こうして誰かに食べさせるとなると野菜も採らなくては、と義務の様に思ってしまう。
炊飯器をあけると黄色く変色したご飯が湯気をくゆらせる。数日前に俺が炊いてそのままだ。しゃもじを突っ込んで奥を探ると白いご飯が出て来たのでそれを茶碗によそった。
皿を持って奥の部屋へ行くと、布団のなかから斉藤が俺を見上げて欠伸をした。
なんて声をかけようかと一瞬迷う。おはよう、が妥当なシチュエーションだがなんだか気恥ずかしい。結局ぶっきらぼうに「……メシ」としか言えなかった。
「ああ」
斉藤も挨拶なしで短く答えるとベッドから起き上がってトイレに向かった。用を足した斉藤が洗面所で顔を洗い歯を磨いている間に、俺は料理をテーブルに並べ、カーテンを開けた。
明るくなった部屋の様子をついチェックしてしまう。女を連れ込んだ様子はなし。
2週間ほど前、斉藤が個人的に用心棒をしてやっている水商売の女が転がり込んできた。なんでも付き纏っている昔の男に住所がバレたから、引っ越し先を見つけるまで匿って欲しいとやってきたのだそうだ。
そういうわけだから、俺が呼ぶまでお前は来るなよ、と電話で斉藤に告げられた。ばか! と怒鳴ってやりたくなったが「関係ねえよ」と電話を切った。
それから連絡が来るまで五日ほどかかった。その間、斉藤は女と寝食を共にしていたわけだ。肉体関係のある二人だ。当然、セックスもしていただろう。
利害が一致しただけだと斉藤は言うが、男と女、いつ関係が進展するかわからない。
女が残して行った歯ブラシは俺が勝手に捨てた。斉藤はなにも言わない。気付いてもいないかもしれない。女のことについては何一つ俺に言わない。
連絡をもらってすぐ現れた俺を見て、斉藤はただ可笑しそうに笑っただけだ。何か言えば俺がブチ切れるとわかっていたからかもしれないけど。
テレビを見ながら、斉藤は黙って俺が作った朝食を口に運ぶ。美味しいともまずいとも言わない。ありがとうと言われたこともない。俺もそんなばかな期待はしない。
ほとんど無言のまま食事を済ませ、斉藤は出勤の支度を始めた。
土曜であってもほとんど仕事に出ていた。宿直明けでも事件が起こればそのまま続けて夕方まで勤務することも少なくない。おかげで俺が用意した食事が無駄になることもあった。
俺を酷い目に遭わせてムショにぶちこんだこいつのために、どうしてメシなんか作ってるんだ。
腹が立ったが、コンビニ弁当ばかり食べている斉藤を見ていたらついスーパーに寄って食材を買い込んでいたのは自分なので文句も言えない。
ネットで調べたレシピで初めて作った野菜炒めは肉が固く、野菜は半生、味付けは辛いだけの最悪なものだったのに、斉藤はなにも言わずに食べ続けた。
「はっ、人の食いもんじゃねえな。あんたも無理しなくていいよ」
俺が止めても「お前が俺の為に作ってくれたんだろ」と、口の中の野菜をシャリシャリ音を立てながら完食した。
その夜は俺の出勤ギリギリまで斉藤と繋がっていた。
「今日はサービスがいいな」
と揶揄されるほど奉仕した。単純に俺が止まらなかった。
憎い相手なのに。体が欲しがってしまう。
支度の終わった斉藤が玄関に立った。
「帰って来てからゆっくり相手してやるからな」
「していらねえよ」
答えながら、斉藤のネクタイを掴んで引き寄せ、自分から口を合わせた。
斉藤の手が俺の腰を抱き寄せる。お互いの口の中を弄って朝っぱらから濃厚なキスをする。股間が熱くなるころ、唾液の糸を引きながら離れた。
「物欲しそうな顔するな。行きづらくなるだろうが」
「そんな顔してねえよ」
「昼までには帰る。それまでここで寝てろ」
待っていろと言われて頬が持ち上がりそうになる。わざとらしいしかめっ面を作って「帰りにシュークリーム買って来いよ」と拗ねた子供みたいにねだった。
「好きだなそれ」
斉藤が呆れたように言う。
刑務所で祝ってもらった誕生日でシュークリームが出た。それまで好きでもなかったのに、久し振りに口にした甘いお菓子がとてもうまくて好物になってしまった。
「じゃあ行ってくる」
「……うん」
いってらっしゃい、とは恥ずかしくて言えない。