楽しい遊園地!(2/2)
2015.03.05.Thu.
<前話はこちら>
息を潜めて待っていたら、服の上を西山の手が動き出した。隙間から侵入して地肌に触れてくる。冷てえっ!
「やめろ」
声は出さずほとんど息遣いだけで西山に言う。西山は駄々っ子みたいに首を振って手を這わせる。脇腹を触られてビクッと体が跳ねた。
「…っ…ばかっ」
「聞こえちゃうよ」
耳で囁かれる声にもゾクゾクして思わず西山のダウンジャケットを掴んだ。
こんなふうに直接触られるのは久し振りで、感度が増して敏感になっているようだった。
前にまわった手の先が乳首にあたる。
「んっ!」
電気が流れたみたいに刺激が駆け抜けた。自分でも乳首が立ちあがるのがわかる。
「やだ、やめ……ッ」
「中根くん、すごくエロい顔してる」
足の間に西山の太ももが当てられた。押さえつけるように揉まれてそこが固くなる。
「やっ……ぁあ……」
「声聞かれるとますいから」
ってキスしてくる。レロッと舌が入ってきて、唾液たっぷりの濃厚なディープキスでクチュクチュ音が漏れる。
幸い個室の外から水を流す音が聞こえてきた。ほっとする俺の股間に西山の手が伸びる。布越しに先をトンと叩かれて腰骨にビリビリと快感が走り抜けた。
「ふぅっ……んんっ!」
「祐太? 大丈夫か?」
「!! 大丈夫……ッ!! 外で、待っててッ」
「わかった。辛かったら言えよ」
足音がトイレから出て行く。完全に聞こえなくなった。俺は西山を睨み付けた。
「この……バカッ」
思い切り怒鳴りたいのを我慢して小声で罵倒する。小さく肩をすくめるだけの西山に反省した様子はない。それどころか興奮しきった顔で外に出した俺のちんこを上下に扱いている。
「中根くんも興奮した? 先っぽ、グチョグチョだよ」
「お前が足で押すからだろっ」
「口でやってあげるよ」
「えっ、あ、わっ」
その場に屈むと西山は躊躇いなく俺のを口に含んだ。濡れた先を綺麗にするように広げた舌で舐められる。
「う、ん……あ……っ」
亀頭を舐めまわしたあと、のどの奥まで咥えこんで竿を絞られる。練習試合が終わって二週間、西山は俺に指一本触れてこなかった。その間俺は自己処理だけで済ましてきた。右手なんかじゃ味わえない感触が俺のものを包み込む。
「んんぅ…あっ…や……西山ぁ……あぁ、ん……」
ジュルジュルと唾液の音を立てながら西山の顔が前後に動く。耳まで犯されているような錯覚に陥って体温が上がった。
「あっ、あっ、や、だぁ……もう……出る……西山、出ちゃうから…っ…はなしてっ……くち、もう、やっ、やだっ」
さらに速度を増してしゃぶる。痛いほどペニスが充血している。
「いや、だっ……西山、おねが……いっ……も、いくっ…いくから、ぁ……っ!」
ドクンと下腹部で弾けたそれを西山は口で受けとめた。ビクビク足を震わせる俺を見上げて先っぽを啜り上げる。
「ひぅ……んんっ!」
射精後の強烈な刺激に腰が抜けそうになった俺を支えながら立ち上がると、西山は自分の手に精液を吐きだした。ドロリと白い液体が糸を引く。
「中根くんは先に出てて」
「お前は……?」
「俺はちょっと」
西山は綺麗な手で前をくつろげると、精液まみれの手で勃起した自分のものを握った。耳を塞ぎたい卑猥な音を立てながらグチグチと扱きはじめる。
こいつまじで変態……っ!
「中根くんの引いた顔、けっこう好き」
俺の顔見ながら手動かしてんじゃねえよ!!
逃げるように個室を出た。手を洗いながら耳を澄ませば西山の荒い息遣いが聞こえてくる。急いでトイレをあとにした。
日が落ちて、外は暗くなっていた。矢神を探すと少し離れたベンチに座っている。俺を見つけると腹具合を心配してくれる。嘘に心が痛むが大丈夫だと言ってトイレから離れた。
最後に観覧車に乗ろうと誘われた。「男二人で?」と問えば「そうだ」と頷く。仕方なく、男女のカップルが多い列に並んだ。男二人は俺たちしか見当たらない。
係員が開けたドアから観覧車に乗り込んだ。そういえば観覧車に乗るのも、遊園地に来たのも、中学の修学旅行で行った以来だ。
ゆっくり上がっていくゴンドラの中から外の景色を見下ろす。
「今日は楽しかった」
前に座る矢神が言った。
「試合の勝敗で賭けごとをするのは気が引けたが、いまは勝てて良かったと思ってる」
「うん、俺も楽しかったよ」
「てっぺんに来た時にキスしたカップルはうまくいくそうだ」
「へっ」
いきなり何を言い出すんだ。
矢神は立ち上がると俺の隣に腰をおろした。
「キスしてもいいか、祐太」
「や、矢神……」
「俺は本気だ」
「無理だよ」
「西山に遠慮しているのか?」
「そんなわけねえだろっ」
「あいつは心配そうにこっちを見てるぞ」
「えっ」
逸らされた矢神の視線を辿っていくと自販機の後ろからこちらを窺う大きな体が見えた。確かにあれは西山に間違いない。
「気付いてたのか?」
「あんな目立つのに付け回されたら嫌でも気付くさ」
矢神は苦笑した。トイレで会うまで気付かなかった俺は鈍いのか?
「あいつか俺か、選んで欲しい」
「選ぶとか……矢神も西山もそういうんじゃねえし……」
「そういうんじゃない西山とあんなことをするのか? だったら俺にもキスくらいしてくれてもいいじゃないか」
矢神に手を握られた。
確かに西山とは恋愛感情なしでキス以上のことを何度もしてしまっている。だったら矢神とキスしたって……いや、やっぱ無理だ。矢神と西山は違う。俺は矢神を汚したくないと思ってる。矢神との友情に不純なものを持ち込みたくないんだ。
「矢神とは、純粋に友達でいたい……」
これがいかに残酷な申し出かわかっている。矢神を振った上、友達として続けたいと言っているんだから。
矢神は無言だった。二人とも黙ったまま、ゴンドラは頂点を通過した。
「俺は」
地面が近くなった頃矢神が口を開いた。
「小さい頃からプロ野球選手になるのが夢だった。それを実現させるために死にもの狂いで努力してきたつもりだ。俺は諦めない。祐太が俺を好きになってくれるまで、努力し続ける。西山には負けない」
真顔からふっと柔らかな笑顔になると、矢神は立ち上がり様、俺の手の甲にキスをした。
「!!」
「さぁ、降りるぞ」
矢神は平然と言うと先にゴンドラをおりた。
「俺は先に帰るから祐太はあいつと帰ってやれ」
腕時計を時間を見ながら矢神は言った。あいつとは西山のことだ。
「なんで?」
そんな敵に塩を送るような真似を。
「余裕があるって演出をしたほうがあいつも焦るだろう? 恋愛にも駆け引きはつきものだ。どうせなら完封して勝ちたいんでね」
俺が女の子なら一発で恋に落ちそうな笑みを残して矢神はスタスタと帰って行った。客観的に見たら矢神の完全勝利だ。西山が勝てるところなんて体格くらいか。
キョロキョロ見渡すと植木に隠れようとして隠れきれない西山を見つけた。
「おい、もう隠れなくていいぞ」
「矢神くんは?」
「帰った。お前と帰ってやれってさ」
「矢神くんっていい奴だな」
送られた塩に素直に喜んで感謝しちゃってる。矢神の心理戦は空振りに終わったようだ。
「観覧車から丸見えだったぞ、お前」
「そういえば矢神くんとキスしたの?」
「?!」
なんでそれを……?!
「頂上でキスした恋人とはずっとうまくいくって噂があるんだ。デマだけどね。だって俺、前の彼女と別れたし」
こいつ観覧車のてっぺんでキスしたことあるのかよ。
「で、矢神くんとキスしたの?」
「してねえよ」
「俺としようよ」
「デマなんだろ」
「検証しよう」
「絶対嫌だ」
気付くと西山は以前の西山に戻っていた。やっぱりもう少し落ち込んでいて欲しかったかも。
「なんで、俺と矢神のデート止めなかったんだ?」
「止めたかったよ。でも俺は一点しか取れなかったから。それに、デートしたら矢神くんの目が覚めるかもしれないし」
「どういう意味だコラ」
目が覚めるどころか、諦めないと言われたんだぞ。
「中根くんのことを本気で全部愛せるのは俺だけだよ」
愛とか言うな。西山のふくらはぎに蹴りを入れる。俺の方が痛いとかどういうことだ。
「これからどんどん好きって言う」
「言うなっつってんだろ」
「照れる中根くん、可愛い」
「殺すぞ」
「凶暴なところも好きだ」
「死ね」
「愛情の裏返しだってわかってるから」
「ジェットコースターに轢き殺されろ」
「観覧車でチューしよう」
「帰る」
「じゃあホテル行こう」
何を言っても無駄だとわかって口を閉ざした。隣に西山が並ぶ。仕方ねえ奴。頬が緩む。
西山に見せない顔で笑ってたって言うけど、俺、矢神には見せない顔、けっこうお前に見せてると思うんだけど?
息を潜めて待っていたら、服の上を西山の手が動き出した。隙間から侵入して地肌に触れてくる。冷てえっ!
「やめろ」
声は出さずほとんど息遣いだけで西山に言う。西山は駄々っ子みたいに首を振って手を這わせる。脇腹を触られてビクッと体が跳ねた。
「…っ…ばかっ」
「聞こえちゃうよ」
耳で囁かれる声にもゾクゾクして思わず西山のダウンジャケットを掴んだ。
こんなふうに直接触られるのは久し振りで、感度が増して敏感になっているようだった。
前にまわった手の先が乳首にあたる。
「んっ!」
電気が流れたみたいに刺激が駆け抜けた。自分でも乳首が立ちあがるのがわかる。
「やだ、やめ……ッ」
「中根くん、すごくエロい顔してる」
足の間に西山の太ももが当てられた。押さえつけるように揉まれてそこが固くなる。
「やっ……ぁあ……」
「声聞かれるとますいから」
ってキスしてくる。レロッと舌が入ってきて、唾液たっぷりの濃厚なディープキスでクチュクチュ音が漏れる。
幸い個室の外から水を流す音が聞こえてきた。ほっとする俺の股間に西山の手が伸びる。布越しに先をトンと叩かれて腰骨にビリビリと快感が走り抜けた。
「ふぅっ……んんっ!」
「祐太? 大丈夫か?」
「!! 大丈夫……ッ!! 外で、待っててッ」
「わかった。辛かったら言えよ」
足音がトイレから出て行く。完全に聞こえなくなった。俺は西山を睨み付けた。
「この……バカッ」
思い切り怒鳴りたいのを我慢して小声で罵倒する。小さく肩をすくめるだけの西山に反省した様子はない。それどころか興奮しきった顔で外に出した俺のちんこを上下に扱いている。
「中根くんも興奮した? 先っぽ、グチョグチョだよ」
「お前が足で押すからだろっ」
「口でやってあげるよ」
「えっ、あ、わっ」
その場に屈むと西山は躊躇いなく俺のを口に含んだ。濡れた先を綺麗にするように広げた舌で舐められる。
「う、ん……あ……っ」
亀頭を舐めまわしたあと、のどの奥まで咥えこんで竿を絞られる。練習試合が終わって二週間、西山は俺に指一本触れてこなかった。その間俺は自己処理だけで済ましてきた。右手なんかじゃ味わえない感触が俺のものを包み込む。
「んんぅ…あっ…や……西山ぁ……あぁ、ん……」
ジュルジュルと唾液の音を立てながら西山の顔が前後に動く。耳まで犯されているような錯覚に陥って体温が上がった。
「あっ、あっ、や、だぁ……もう……出る……西山、出ちゃうから…っ…はなしてっ……くち、もう、やっ、やだっ」
さらに速度を増してしゃぶる。痛いほどペニスが充血している。
「いや、だっ……西山、おねが……いっ……も、いくっ…いくから、ぁ……っ!」
ドクンと下腹部で弾けたそれを西山は口で受けとめた。ビクビク足を震わせる俺を見上げて先っぽを啜り上げる。
「ひぅ……んんっ!」
射精後の強烈な刺激に腰が抜けそうになった俺を支えながら立ち上がると、西山は自分の手に精液を吐きだした。ドロリと白い液体が糸を引く。
「中根くんは先に出てて」
「お前は……?」
「俺はちょっと」
西山は綺麗な手で前をくつろげると、精液まみれの手で勃起した自分のものを握った。耳を塞ぎたい卑猥な音を立てながらグチグチと扱きはじめる。
こいつまじで変態……っ!
「中根くんの引いた顔、けっこう好き」
俺の顔見ながら手動かしてんじゃねえよ!!
逃げるように個室を出た。手を洗いながら耳を澄ませば西山の荒い息遣いが聞こえてくる。急いでトイレをあとにした。
日が落ちて、外は暗くなっていた。矢神を探すと少し離れたベンチに座っている。俺を見つけると腹具合を心配してくれる。嘘に心が痛むが大丈夫だと言ってトイレから離れた。
最後に観覧車に乗ろうと誘われた。「男二人で?」と問えば「そうだ」と頷く。仕方なく、男女のカップルが多い列に並んだ。男二人は俺たちしか見当たらない。
係員が開けたドアから観覧車に乗り込んだ。そういえば観覧車に乗るのも、遊園地に来たのも、中学の修学旅行で行った以来だ。
ゆっくり上がっていくゴンドラの中から外の景色を見下ろす。
「今日は楽しかった」
前に座る矢神が言った。
「試合の勝敗で賭けごとをするのは気が引けたが、いまは勝てて良かったと思ってる」
「うん、俺も楽しかったよ」
「てっぺんに来た時にキスしたカップルはうまくいくそうだ」
「へっ」
いきなり何を言い出すんだ。
矢神は立ち上がると俺の隣に腰をおろした。
「キスしてもいいか、祐太」
「や、矢神……」
「俺は本気だ」
「無理だよ」
「西山に遠慮しているのか?」
「そんなわけねえだろっ」
「あいつは心配そうにこっちを見てるぞ」
「えっ」
逸らされた矢神の視線を辿っていくと自販機の後ろからこちらを窺う大きな体が見えた。確かにあれは西山に間違いない。
「気付いてたのか?」
「あんな目立つのに付け回されたら嫌でも気付くさ」
矢神は苦笑した。トイレで会うまで気付かなかった俺は鈍いのか?
「あいつか俺か、選んで欲しい」
「選ぶとか……矢神も西山もそういうんじゃねえし……」
「そういうんじゃない西山とあんなことをするのか? だったら俺にもキスくらいしてくれてもいいじゃないか」
矢神に手を握られた。
確かに西山とは恋愛感情なしでキス以上のことを何度もしてしまっている。だったら矢神とキスしたって……いや、やっぱ無理だ。矢神と西山は違う。俺は矢神を汚したくないと思ってる。矢神との友情に不純なものを持ち込みたくないんだ。
「矢神とは、純粋に友達でいたい……」
これがいかに残酷な申し出かわかっている。矢神を振った上、友達として続けたいと言っているんだから。
矢神は無言だった。二人とも黙ったまま、ゴンドラは頂点を通過した。
「俺は」
地面が近くなった頃矢神が口を開いた。
「小さい頃からプロ野球選手になるのが夢だった。それを実現させるために死にもの狂いで努力してきたつもりだ。俺は諦めない。祐太が俺を好きになってくれるまで、努力し続ける。西山には負けない」
真顔からふっと柔らかな笑顔になると、矢神は立ち上がり様、俺の手の甲にキスをした。
「!!」
「さぁ、降りるぞ」
矢神は平然と言うと先にゴンドラをおりた。
「俺は先に帰るから祐太はあいつと帰ってやれ」
腕時計を時間を見ながら矢神は言った。あいつとは西山のことだ。
「なんで?」
そんな敵に塩を送るような真似を。
「余裕があるって演出をしたほうがあいつも焦るだろう? 恋愛にも駆け引きはつきものだ。どうせなら完封して勝ちたいんでね」
俺が女の子なら一発で恋に落ちそうな笑みを残して矢神はスタスタと帰って行った。客観的に見たら矢神の完全勝利だ。西山が勝てるところなんて体格くらいか。
キョロキョロ見渡すと植木に隠れようとして隠れきれない西山を見つけた。
「おい、もう隠れなくていいぞ」
「矢神くんは?」
「帰った。お前と帰ってやれってさ」
「矢神くんっていい奴だな」
送られた塩に素直に喜んで感謝しちゃってる。矢神の心理戦は空振りに終わったようだ。
「観覧車から丸見えだったぞ、お前」
「そういえば矢神くんとキスしたの?」
「?!」
なんでそれを……?!
「頂上でキスした恋人とはずっとうまくいくって噂があるんだ。デマだけどね。だって俺、前の彼女と別れたし」
こいつ観覧車のてっぺんでキスしたことあるのかよ。
「で、矢神くんとキスしたの?」
「してねえよ」
「俺としようよ」
「デマなんだろ」
「検証しよう」
「絶対嫌だ」
気付くと西山は以前の西山に戻っていた。やっぱりもう少し落ち込んでいて欲しかったかも。
「なんで、俺と矢神のデート止めなかったんだ?」
「止めたかったよ。でも俺は一点しか取れなかったから。それに、デートしたら矢神くんの目が覚めるかもしれないし」
「どういう意味だコラ」
目が覚めるどころか、諦めないと言われたんだぞ。
「中根くんのことを本気で全部愛せるのは俺だけだよ」
愛とか言うな。西山のふくらはぎに蹴りを入れる。俺の方が痛いとかどういうことだ。
「これからどんどん好きって言う」
「言うなっつってんだろ」
「照れる中根くん、可愛い」
「殺すぞ」
「凶暴なところも好きだ」
「死ね」
「愛情の裏返しだってわかってるから」
「ジェットコースターに轢き殺されろ」
「観覧車でチューしよう」
「帰る」
「じゃあホテル行こう」
何を言っても無駄だとわかって口を閉ざした。隣に西山が並ぶ。仕方ねえ奴。頬が緩む。
西山に見せない顔で笑ってたって言うけど、俺、矢神には見せない顔、けっこうお前に見せてると思うんだけど?

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楽しい遊園地!(1/2)
2015.03.04.Wed.
<楽しい合宿!→楽しいお泊り!→楽しい勉強会!→楽しい初カノ!→楽しいOB会!→楽しいロッカールム!>
※未挿入
待ち合わせの時間より十分早くついたのに、矢神はもう先に来ていて俺を見つけると手をあげた。
坊主頭が目立つ。うちの野球部は頭髪に関しては長すぎなければOKという規則でよく他校の生徒から羨ましがられる。でも俺は坊主頭のほうが高校球児っぽいし、なにより楽そうでちょっと憧れる。丸刈りにする勇気はないけど。
「いつ来た?」
「さっきだ」
矢神は満面の笑顔。嘘かほんとかよくわからない。
「今日は? どうする?」
「遊園地に行こうと思ってる」
矢神は鞄から二枚のチケットを取り出した。男二人で遊園地デートですか。今更ながら恥ずかしくて顔が火照る。
先日の練習試合、情けないことに3対11で7回コールド負けを喫した。「命がけで投げる」という言葉通り、矢神は最初から気迫溢れるキレッキレの投球で、甲子園の決勝戦かというほど鬼気迫る様子に、チームメイトも攻守にわたってをエースを支えて勝利に貢献した理想的な形となった。
女マネの前で負かしてやろうというゲスな下心を持ったうちが勝てるはずもない。
試合終了後、必死に監督にアピールしてなんとか副捕手としてメンバーに名を連ねた西山の絶望に満ちた顔はいま思い出してもなんとも言えない気持ちになる。
うちが取った3点のういち1点は、なんと野球センスゼロの西山が、いつもは汚れることのないユニフォームをスライディングで土まみれにしながら、泥臭くもぎ取った貴重な一点だったのだ。
奇跡に近い一点を取っただけに、西山の落ち込みようは目もあてられないほどだった。
いつものような明るさは消え、むやみに脱がなくなり、堂々とした背中を丸め、隅っこを選んで歩いた。
負けた責任でも感じているのか、俺を見てもたまにしか話しかけてこないし、デートに行くなとも言ってこない。あれから一度も「ヤラせて」と迫ってもこないから重症だ。
おとなしくていいけど。
とは言え、カビでも生えそうなジメジメした空気でいられるのもいい加減鬱陶しいのだが。
「なにを考えてるんだ? あいつのことか?」
電車を乗り継ぎやってきた遊園地で、ついボーッとしてしまったらしい。矢神が顔を覗きこんできた。
「西山は関係ねえよ」
「西山とは言ってないがな」
「あ」
矢神は困ったように微笑む。ごめんと謝るのも違うような気がして俯いた。
「責めたわけじゃない。悪かった」
と俺の頭を撫でた。犬かよ。
「どうしてあいつとあんなことをするようになったんだ?」
それを訊いて来るか。
「合宿の……その場のノリで……」
「ノリ……」
矢神がショックを受けてる。
「俺だって好きでやられたわけじゃ」
「本当に嫌ならきっぱり断らないと駄目だぞ」
「わかってるよ」
「祐太は案外流されやすい質のようだからな。俺がキスしたときも拒まなかった」
思い出させんなよ。まともに顔、見れなくなるだろ。
「今日は俺とデートしているんだ。他の男のことは頭から追い出してくれ」
矢神は俺の腕を掴むと「あれに乗ろう」と絶叫マシーンを指さした。まじで?!
絶叫マシーンでフラフラになったあと激流下りで服を濡らし、休憩に入った店で軽い食事をとった。店を出てまたアトラクションを梯子して、俺が疲れたと音を上げれば、「これくらいなんだ」とアイススケートに連れて行かれた。
中学のころを思い出して純粋に楽しかった。デートという名目でなければ気の合う友達と遊んでいるのとかわらない。
恋愛と友情の違いはなんだろう。同性の場合、なにをもって判断すればいいんだろうと考えていたら、へっぴり腰の俺の両手を掴んだ矢神に「祐太にキスしたくなってきた」とリンクの真ん中で囁かれて、これか、と納得した。
共学で、可愛いマネージャーもいて、エースできっとモテるだろう矢神が俺なんかを好きだと言うのは、男子校にいて身近に女がいない西山の場合とはわけが違う。勘違いや性欲の暴走ではないのだ、きっと。
本当に、なんで俺なんかを。
不思議に思って矢神を見つめていたら、「キスしていいのか?」ときかれて我に返った。
「いいわけねえだろ」
「残念だ」
俺の手を引いてスイスイと滑る。野球だけじゃなくスケートもうまいなんて知らなかった。
「矢神って彼女いたことねえの?」
「ない」
「まじで。モテるだろ?」
「たった一人に好きになってもらえればそれでいい。好きになってもらえるよう努力して、その結果、何人かに告白はされたが断った」
そのたった一人ってもしかして俺のことか……? 確かめるのが怖いので黙って足を動かした。手摺りに捕まったら「まだまだ」と連れ出される。部活か。
一時間ほど滑ったあとやっとリンクから出た。いつの間にか夕暮れで辺りが暗くなり始めていた
「ちょっとトイレ行ってくる」
「体が冷えたな。俺は温かい飲み物を買っておくよ」
矢神は売店へ、俺はトイレに向かった。
小便を済ませ手を洗う。手許から鏡に視線を移して心臓がとまるかと思った。鏡に映る大きな体。暗い表情の西山が映っていた。
「お――まえ、びっくりするだろ! なんでこんなことにいるんだよ?!」
振り返ると同時にぎゅっと抱き付いてきた。ダウンジェケットが冷たい。
「おい、西山っ」
「つけてきた」
ボソッと呟く。大きなため息が出た。
試合に負けてから毎日さりげなく予定を訊かれていた。デートの日を探るためだとわかっていた。隠すようなやましいところはないので、正直に答えていたがまさかここまでつけてくるとは。
俺たちが遊びまわっているあいだ、こいつはずっと見張っていたんだろうか。みんなが笑顔になるはずの楽しい遊園地で、男のデートを見張って一人コソコソしていたなんて想像するのも哀れな姿だ。
「馬鹿なことしてんじゃねえよ」
「スケートもうまいってあの男、何者」
恨みがましい口調。手とり足とり教わっていたのもしっかり見ていたらしい。
「中根くん、楽しそうだった」
「そりゃまぁ……遊びに来たんだし」
「中根くんてこう言っちゃなんだけどモテないほうだし、口は悪いけどどっちかっていうとおとなしいタイプだし、俺以外、誰も好きにならないって安心してたとこがあるんだ」
言いたい放題だな。
「矢神くんはY高のエースだし、寄ってくる女はたくさんいるはずなのに、なんでそんな奴が中根くんを好きだって言うのさ」
俺もそう思うけど。
「俺は時間をかけて中根くんに好きになってもらおうと思ってたんだ。なのに矢神くんは、俺が少しずつ詰めてた距離を、祐太ってたった一言で飛び越えて行った。中根くんも俺に見せない顔して笑ってた。前にあいつとなんかあったの? 俺としてるようなこと、あいつとしてたのか?」
「するわけねえだろ」
「ほんとに?」
至近距離から見つめられた。西山の目は充血して赤い。
「ほんとだ」
その目を見返しながら頷いた。真偽を確かめるようにしばらくじっと目を見たあと、西山は大きく息を吐き出してまた俺に抱き付いた。
「気長に構えてる場合じゃないってわかったから、俺もこれから遠慮しないことにしたから」
「お前の場合はちょっと遠慮しろ」
俺が焦って言うと西山はふふっと笑った。
「矢神くんが別の高校でよかった」
「だな。人としてお前の方が劣ってるもんな。あいつはスカウトが見に来るくらい実力があるし、有言実行だし、人格者だし」
「酷いよ」
さっき俺をこき下ろしておいてなに甘えたこと言ってるんだ。仕返しだ。
トイレの外で足音が聞こえた。西山も気付いたらしく顔をあげ、解放してくれるのかと思いきや俺を個室に連れ込んだ。
「おい」
「静かに」
鍵をかけてまた俺に抱き付く。
足音が中に入ってきた。
「……祐太? いるのか?」
外から聞こえたのは矢神の声だった。西山を見上げると、声のしたほうを睨むように見ている。ふざけてなければ凛々しい顔つきなのに。
「いるよ、ここ!」
無視するわけにもいかないので声をあげた。逃がすまいとするように西山の腕に力がこもる。
「遅いからどうしたのかと思って」
「悪い。ちょっと、腹壊して」
「そうか。大丈夫か?」
「平気。すぐ行くから、外で待っててくれよ」
「わかった」
矢神はすぐには出て行かなかった。トイレのなかを足音が移動して、チャックを下げる音がする。用を済ましてから行くつもりらしい。
※未挿入
待ち合わせの時間より十分早くついたのに、矢神はもう先に来ていて俺を見つけると手をあげた。
坊主頭が目立つ。うちの野球部は頭髪に関しては長すぎなければOKという規則でよく他校の生徒から羨ましがられる。でも俺は坊主頭のほうが高校球児っぽいし、なにより楽そうでちょっと憧れる。丸刈りにする勇気はないけど。
「いつ来た?」
「さっきだ」
矢神は満面の笑顔。嘘かほんとかよくわからない。
「今日は? どうする?」
「遊園地に行こうと思ってる」
矢神は鞄から二枚のチケットを取り出した。男二人で遊園地デートですか。今更ながら恥ずかしくて顔が火照る。
先日の練習試合、情けないことに3対11で7回コールド負けを喫した。「命がけで投げる」という言葉通り、矢神は最初から気迫溢れるキレッキレの投球で、甲子園の決勝戦かというほど鬼気迫る様子に、チームメイトも攻守にわたってをエースを支えて勝利に貢献した理想的な形となった。
女マネの前で負かしてやろうというゲスな下心を持ったうちが勝てるはずもない。
試合終了後、必死に監督にアピールしてなんとか副捕手としてメンバーに名を連ねた西山の絶望に満ちた顔はいま思い出してもなんとも言えない気持ちになる。
うちが取った3点のういち1点は、なんと野球センスゼロの西山が、いつもは汚れることのないユニフォームをスライディングで土まみれにしながら、泥臭くもぎ取った貴重な一点だったのだ。
奇跡に近い一点を取っただけに、西山の落ち込みようは目もあてられないほどだった。
いつものような明るさは消え、むやみに脱がなくなり、堂々とした背中を丸め、隅っこを選んで歩いた。
負けた責任でも感じているのか、俺を見てもたまにしか話しかけてこないし、デートに行くなとも言ってこない。あれから一度も「ヤラせて」と迫ってもこないから重症だ。
おとなしくていいけど。
とは言え、カビでも生えそうなジメジメした空気でいられるのもいい加減鬱陶しいのだが。
「なにを考えてるんだ? あいつのことか?」
電車を乗り継ぎやってきた遊園地で、ついボーッとしてしまったらしい。矢神が顔を覗きこんできた。
「西山は関係ねえよ」
「西山とは言ってないがな」
「あ」
矢神は困ったように微笑む。ごめんと謝るのも違うような気がして俯いた。
「責めたわけじゃない。悪かった」
と俺の頭を撫でた。犬かよ。
「どうしてあいつとあんなことをするようになったんだ?」
それを訊いて来るか。
「合宿の……その場のノリで……」
「ノリ……」
矢神がショックを受けてる。
「俺だって好きでやられたわけじゃ」
「本当に嫌ならきっぱり断らないと駄目だぞ」
「わかってるよ」
「祐太は案外流されやすい質のようだからな。俺がキスしたときも拒まなかった」
思い出させんなよ。まともに顔、見れなくなるだろ。
「今日は俺とデートしているんだ。他の男のことは頭から追い出してくれ」
矢神は俺の腕を掴むと「あれに乗ろう」と絶叫マシーンを指さした。まじで?!
絶叫マシーンでフラフラになったあと激流下りで服を濡らし、休憩に入った店で軽い食事をとった。店を出てまたアトラクションを梯子して、俺が疲れたと音を上げれば、「これくらいなんだ」とアイススケートに連れて行かれた。
中学のころを思い出して純粋に楽しかった。デートという名目でなければ気の合う友達と遊んでいるのとかわらない。
恋愛と友情の違いはなんだろう。同性の場合、なにをもって判断すればいいんだろうと考えていたら、へっぴり腰の俺の両手を掴んだ矢神に「祐太にキスしたくなってきた」とリンクの真ん中で囁かれて、これか、と納得した。
共学で、可愛いマネージャーもいて、エースできっとモテるだろう矢神が俺なんかを好きだと言うのは、男子校にいて身近に女がいない西山の場合とはわけが違う。勘違いや性欲の暴走ではないのだ、きっと。
本当に、なんで俺なんかを。
不思議に思って矢神を見つめていたら、「キスしていいのか?」ときかれて我に返った。
「いいわけねえだろ」
「残念だ」
俺の手を引いてスイスイと滑る。野球だけじゃなくスケートもうまいなんて知らなかった。
「矢神って彼女いたことねえの?」
「ない」
「まじで。モテるだろ?」
「たった一人に好きになってもらえればそれでいい。好きになってもらえるよう努力して、その結果、何人かに告白はされたが断った」
そのたった一人ってもしかして俺のことか……? 確かめるのが怖いので黙って足を動かした。手摺りに捕まったら「まだまだ」と連れ出される。部活か。
一時間ほど滑ったあとやっとリンクから出た。いつの間にか夕暮れで辺りが暗くなり始めていた
「ちょっとトイレ行ってくる」
「体が冷えたな。俺は温かい飲み物を買っておくよ」
矢神は売店へ、俺はトイレに向かった。
小便を済ませ手を洗う。手許から鏡に視線を移して心臓がとまるかと思った。鏡に映る大きな体。暗い表情の西山が映っていた。
「お――まえ、びっくりするだろ! なんでこんなことにいるんだよ?!」
振り返ると同時にぎゅっと抱き付いてきた。ダウンジェケットが冷たい。
「おい、西山っ」
「つけてきた」
ボソッと呟く。大きなため息が出た。
試合に負けてから毎日さりげなく予定を訊かれていた。デートの日を探るためだとわかっていた。隠すようなやましいところはないので、正直に答えていたがまさかここまでつけてくるとは。
俺たちが遊びまわっているあいだ、こいつはずっと見張っていたんだろうか。みんなが笑顔になるはずの楽しい遊園地で、男のデートを見張って一人コソコソしていたなんて想像するのも哀れな姿だ。
「馬鹿なことしてんじゃねえよ」
「スケートもうまいってあの男、何者」
恨みがましい口調。手とり足とり教わっていたのもしっかり見ていたらしい。
「中根くん、楽しそうだった」
「そりゃまぁ……遊びに来たんだし」
「中根くんてこう言っちゃなんだけどモテないほうだし、口は悪いけどどっちかっていうとおとなしいタイプだし、俺以外、誰も好きにならないって安心してたとこがあるんだ」
言いたい放題だな。
「矢神くんはY高のエースだし、寄ってくる女はたくさんいるはずなのに、なんでそんな奴が中根くんを好きだって言うのさ」
俺もそう思うけど。
「俺は時間をかけて中根くんに好きになってもらおうと思ってたんだ。なのに矢神くんは、俺が少しずつ詰めてた距離を、祐太ってたった一言で飛び越えて行った。中根くんも俺に見せない顔して笑ってた。前にあいつとなんかあったの? 俺としてるようなこと、あいつとしてたのか?」
「するわけねえだろ」
「ほんとに?」
至近距離から見つめられた。西山の目は充血して赤い。
「ほんとだ」
その目を見返しながら頷いた。真偽を確かめるようにしばらくじっと目を見たあと、西山は大きく息を吐き出してまた俺に抱き付いた。
「気長に構えてる場合じゃないってわかったから、俺もこれから遠慮しないことにしたから」
「お前の場合はちょっと遠慮しろ」
俺が焦って言うと西山はふふっと笑った。
「矢神くんが別の高校でよかった」
「だな。人としてお前の方が劣ってるもんな。あいつはスカウトが見に来るくらい実力があるし、有言実行だし、人格者だし」
「酷いよ」
さっき俺をこき下ろしておいてなに甘えたこと言ってるんだ。仕返しだ。
トイレの外で足音が聞こえた。西山も気付いたらしく顔をあげ、解放してくれるのかと思いきや俺を個室に連れ込んだ。
「おい」
「静かに」
鍵をかけてまた俺に抱き付く。
足音が中に入ってきた。
「……祐太? いるのか?」
外から聞こえたのは矢神の声だった。西山を見上げると、声のしたほうを睨むように見ている。ふざけてなければ凛々しい顔つきなのに。
「いるよ、ここ!」
無視するわけにもいかないので声をあげた。逃がすまいとするように西山の腕に力がこもる。
「遅いからどうしたのかと思って」
「悪い。ちょっと、腹壊して」
「そうか。大丈夫か?」
「平気。すぐ行くから、外で待っててくれよ」
「わかった」
矢神はすぐには出て行かなかった。トイレのなかを足音が移動して、チャックを下げる音がする。用を済ましてから行くつもりらしい。