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伴侶(2/2)

2014.10.30.Thu.
<前話はこちら>

「あぁっ、も…とき、くんっ」
「あんまり声出さない方がいいですよ、ここの壁、薄いらしいから」
「はぁ、あ、あぁっ、でも…っ」
「悠さんのいいとこに当たってる?」

 コクコクと頷く。彼が腰を動かすたび、男らしい肉厚な笠が僕の敏感な場所を擦っていくのだ。

「ここ?」

 角度をつけて浅い挿入で僕を追い詰める。

「あぁっ、あ、や、やめ、基樹くん…っ」
「ここでしょ?」

 ガクガクと震える僕を、楽しそうに基樹くんが見下ろしている。子供のように笑いながら、でもしっとり濡れた大人の目をして。僕はそんな彼の表情に、いつもゾクゾクと欲情していたのだ。

「はぁっ、あっ、基樹くん、もっと、して」
「いいの? いつも泣いちゃうのに」
「もう、泣かされてる」
「それもそうだね」

 僕の手を握り、彼の体が伸びあがる。ゆっくりと長いストローク。浅い場所を擦られると涙腺が緩み、奥深い挿入が欲しくなる。最奥に届いたときは、その充足感から泣きだしそうになる。結局どちらであっても僕は泣かされてしまうのだ。

「悠さん、いま、誰のこと思ってるの?」
「君のこと…、僕の頭には基樹くんのことしかないよ、初めて会ったときから、ずっと」
「ほんと? 支配人じゃなくて?」
「僕はつまらなくて小さな人間だから、君がオーナーのお嬢さんと結婚するって聞いて動揺したんだ。二人が店に来た夜、一人に耐えられなくて支配人に縋り付いてしまった。こんなこと言い訳にもならないけど」
「あの日か…。俺は沙織さんと結婚なんかしないよ。悠さんに捨てられて自棄になって見合いしただけだから」
「でも、西浦くんが――」

 ……それも嘘だったのかもしれない。僕に新しい恋人がいると基樹くんに嘘をついたように、僕には基樹くんが結婚すると嘘を。

「西浦って…隣のガキ?」

 目を細めて隣の壁を睨み付ける。

「あいつとも寝た?」
「寝てなんか…!」
「じゃあキスはした?」
「…し、した……」
「これだから悠さんを一人にしておけないんだよ」

 と舌打ちする。

「ごめん…。メモには、なんて?」
「連絡くれって。俺の携帯の番号と一緒に」
「そうだったんだ。知らなくて、ごめんね」
「連絡こないから怖くて不安でたまらなかった。知らない男相手に嫉妬で怒り狂ってた。もうどこにも行かないで、悠さん」

 悲痛なほど寂しげな目で言われて胸が締め付けられた。

「どこにも行かないよ。僕に飽きた君から消えろって言われても、捨てないでくれって泣いて縋り付く覚悟が出来たんだから」
「悠さんに飽きるわけないでしょ。悠さんがいてくれたら他に何もいらないって俺の言葉、忘れた?」

 覚えている。忘れるわけがない。

「悠さんでなきゃ駄目なんだ」
「僕も、基樹くんでないと駄目だ」

 彼の目が優しく細められる。無邪気なほどに安堵した笑みで、僕までつられて頬が緩む。
 顔が近づいて唇が合わさる。角度をかえ、触れ合うだけのキスを何度も何度も繰り返した。離れていた分を取り戻すように。

「ずっとそばにいてくれる?」
「……いさせて欲しい」
「悠さん、愛してる」
「あんまり僕を、甘やかさないで」

 肘をついて体を起こした。抜けないように腰を押さえつけながら基樹くんの胸を押し倒す。僕のやりたいことを察して基樹くんが背中を支えてくれた。

「初めてだから、うまくできるかわからないけど」
「顔、真っ赤だよ」

 もう何を見られたっていい。
 基樹くんの胸に手を置いて、ゆっくり腰を上げ下げした。ダイレクトに基樹くんの存在が伝わってくる。
 僕の太ももの下に手を入れて、基樹くんが僕の体を揺さぶる。腰を動かし、下から突き上げてくる。

「あ…ん…っ、やっ…基樹くんは、そんな…動かないで……っ!」
「繋がってるところがよく見えるよ。すごくエロい」
「言わないで…っ、恥ず…かしい、から…っ…あっ、はぁ…んっ!」
「キスして」

 乞われて基樹くんにキスした。抜けそうな感覚がして慌ててしまう。基樹くんの手が僕の双丘を掴んで押さえ込み、リズムをつけて腰を揺すった。

「ん…んっ…あ、あぁ…ぁ…っ」

 結合した場所から、粘り気を増した大きな音が聞こえるようになってきた。

「あ…やばいかも…俺、イキそう…」

 顔をしかめながら基樹くんが目を瞑る。半開きの唇から荒い呼吸が繰り返される。
 基樹くんがイクときの顔を見下ろせるなんて新鮮だ。しかも僕が彼の射精をコントロールできるなんて初めてじゃないだろうか。

「イキたい? 基樹くん…っ」
「うん、イキたい…っ…つうか、もうイク…」

 苦しそうな基樹くんの顔を見ているとゾクゾクとした興奮が込み上げてきた。腰に力を入れて、上下に動かす速度を上げた。

「んっ、はぁっ、あぁっ、あっ、はぁっ…イッて…! 基樹くん、僕の中でイッて…!」
「悠さん、そんなに動いたら…っ!」

 僕の中でグッと基樹くんが大きく膨らんだ。直後、硬直しながら熱い精液を噴き上げる。それを体の奥で感じた。

「珍しく積極的だね」

 はぁ、と息を吐き出して、基樹くんは前髪を掻きあげた。少しアンニュイな表情も色っぽくて格好いい。
 基樹くんがいつもやるように、僕は基樹くんの乳首に吸い付いた。

「ちょっ…悠さん?」
「基樹くんに、もっと気持ちよくなってもらいたいんだ」
「充分気持ちいいよ」
「いつも基樹くんが僕にしてくれることを僕もしてあげたい」
「その気持ちだけでお釣りがくるよ」

 僕の背中を抱きながら基樹くんが体を起こした。僕は簡単に引っくり返って、また基樹くんを下から見上げていた。

「次は俺の番だから」

 キスされながらペニスをゆっくり扱かれた。基樹くんの唇が、僕の口からのど、鎖骨、胸へと音を立てながら移動していく。

「それ…くすぐったい…」
「悠さんの全部が愛しいんだ」
「僕も、基樹くんの全部が好きだよ」

 僕のなかの基樹くんがピクと動いた。心なしが大きくなっている。

「ほんと言うとさ、悠さんが働きたいって言いだしたとき、反対したかったんだ。外に出て、悠さんが俺以外の奴を好きになったらどうしようって、他の誰かが悠さんを好きになって迫ったらどうしようって、すごく不安で、誰の目にも触れさせたくなかった。物わかりのいい振りしてOKしたけど、悠さんがいなくなってすぐ後悔した。我が儘になっても、やっぱり反対しとけばよかったって」

 だんだん口調が強いものになっていた。結果として、基樹くんの不安は的中してしまったことになる。

「俺、自分がこんなに嫉妬深いなんて、悠さんに会うまで知らなかったよ」

 苦しそうに心情を吐露する。そんな思いをさせてしまったのは僕のせいだ。

「嫉妬するのは僕も同じだよ。基樹くんの会社の若い子たちに嫉妬してた。君と一緒に仕事が出来る別れた妻にすら、嫉妬しているんだから」
「部長に? だから俺、ゲイだって」
「わかってても嫉妬しちゃうんだよ」

 基樹くんは目をぱちくりさせた。また僕の中で基樹くんが育つ。

「そういえば沙織さんにも嫉妬してくれたんだよね。そういうの表に出してくれないから、ちょっと嬉しいかも」
「――――っ…あ…!」

 また…っ!
 僕の中が基樹くんでいっぱいになっていた。完全に復活したものが僕の弱いところを圧迫し始める。少し力を入れただけで背筋に快感が走った。
 熱く火照った僕の顔を見ながら、基樹くんがニヤニヤと笑う。

「さっきからキュウキュウに締め付けてくるけど、それっておねだり?」
「そんなんじゃ……!」
「違うの?」
「…っ…ち…ちがわない…」
「悠さん、可愛いすぎ」

 こんなおじさん、可愛くなんかないのに。
 僕の顔の横に手をついた基樹くんが、キスしながらゆっくり腰を動かし始めた。緩やかな抽挿。じわじわと体全体に火が広がっていくようだ。

「ん、ん…っ…、ハァ…ンッ…あ…ぁ…」
「悠さんの中、気持ちいい。ずっとここにいたい」
「僕、も…っ、気持ちいい…、基樹くんに、ずっと中にいてほしい…」
「その言葉だけでイキそう…勿体ないから我慢するけど」
「なに、言ってっ…ンッ…」
「悠さんがお爺さんになるまで、毎日、ずっと抱く。俺の体なしじゃいられないくらいに」
「あっ、くぅ…ん…っ」

 いつの間にか僕も腰を揺らしていた。それに気づいて基樹くんの動きが早まる。

「気持ちいい? 悠さん」
「は、あっ…気持ち、いい…、基樹くん…あぁんっ…僕また…」
「イッちゃいそう?」
「う、ンッ…いっ…ちゃいそう…っ!」
「朝までまだ時間があるよ。何度だってイッて、悠さん」
「あぁっ…あっ、や…だっ…いや、あっ、そんなに近くで見ないで…っ」
「どうして? イクときの悠さんの顔、すごくエロくて好きなのに」

 基樹くんはもっとよく見えるように僕の前髪を掻きあげた。触れ合うぐらい目の前から、喘いで身をくねらせる僕を見つめる。

「もう…あ、出る…んっ、基樹くん、いや、あぁっ…見ないで…っ、あっ、あ…アァン!!」

 間近で見つめられる羞恥のなか、僕は基樹くんに扱かれながら達した。

「二回目だけど結構出たね」

 敏感な先に指を当て、クルクルと円を描いたあとペロッと舐めとった。

「久し振りの悠さんの味」

 恥ずかしくて顔を赤くする僕を見て笑う。

「体中、ベトベト。あとで一緒にお風呂入ろう」
「ここのお風呂、狭くて…近くに銭湯があるんだ」
「いいね。でもそこでしたくなって立たせちゃったら困るな。あ、立たなくなるまでやればいいのか」
「ばかっ」

 クスリと笑いあいながら、僕たちはまたキスをした。

※※※

 仕事に遅れさせるわけにはいかないので、朝になると基樹くんを風呂に押しこみ、その間に僕は簡単な朝食を作った。
 基樹くんのためにご飯を作るのは久しぶりで嬉しくなる。彼と離れて暮らすなんてもう考えられない。
 お風呂から出てきた基樹くんも同じ気持ちになってくれたのか、朝食をとりながら、今晩には二人のマンションに帰って来ること、この部屋はすぐ解約の手続きをして、荷物を取りに来る以外では出入りしないことなどを話し合った。

「今の仕事、続けたかったら続けていいよ」

 味噌汁を飲み干して基樹くんは言った。僕を閉じ込めたいとまで言っていたのに。強がっているのは僕を見ない伏せられた目でわかる。

「ううん、支配人にはもう辞めるって言ってあるんだ」
「未練はない?」
「ないよ」

 未練は本当にない。ただ、

「今月いっぱいは働かせてほしい。急に辞めるのは店のみんなに悪いから」

 そうだね、と基樹くんの理解をもらい、僕は残りの数週間を勤め上げた。
 諸井さんにはすべてを話した。

「こんなことならあなたを皿洗いのままにしておくべきでしたね」

 本心の見えない笑顔で握手を求められ、しなやかな手を握り返した。心が折れていた状態ではあったが、一時的にでも、少し惹かれていたのは事実だ。この包容力に縋り付き、救われていた。

「ありがとうございました」

 礼を言って、店をあとにした。

 自転車に跨った。
 僕の向かう先は決まっている。もう迷うことはないだろう。この先なにがあっても、基樹くんのいる場所が僕の帰る場所なのだから。



蔓草の庭

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伴侶(1/2)

2014.10.30.Thu.
※NTR耐性のない方にはお勧めできない内容です。

<第一話(旦那さん)はこちら>
<第二話(元旦那さん)はこちら>
<第三話(元上司)はこちら>
<第四話(隣人)はこちら>
<第五話(支配人)はこちら>

 仕事を辞める決意は変わっていなかった。しかしさすがに昨日を最後にもう行かないとは出来ず、今月いっぱいは務めることにした。
 諸井さんは責めもせず、それを承諾してくれた。質問攻めにならないように、他のスタッフには僕が辞めることを内緒にしてくれたのもありがたかった。何かと気にかけてくれた木原さんには申し訳ないが、彼女に嘘をついたり誤魔化したりするのは気が引ける。

 働いている最中は、やっと慣れてきた仕事に未練を感じて少し寂しくなったりもした。
 しかし基樹くんがオーナーのお嬢さんと結婚するなら、やはり僕はここにはいられない。いてはいけないと思うのだ。
 店を閉め、休憩室でホール係の子たちと話をしていたら、顔を出した諸井さんに「小泉さん、今晩飲みませんか」と誘われた。

「支配人、私たちも誘ってくださいよ」

 と木原さんが不満顔で言う。

「私たちはもう、君たちみたいに若い飲み方が出来ないんですよ。おじさん同士、おとなしく飲ませて下さい」
「もー、二人でずるい」

 拗ねたように唇を尖らせる木原さんは、少し本気で怒っているように見えた。もしかしたら木原さんは諸井さんが好きなのかもしれない。

 スタッフ全員を見送ったあと、僕と諸井さんは最後に店を出た。自転車はそのままにして、諸井さんの車に乗り込む。

「私の部屋でいいですか」

 と諸井さんが僕の手を握って来た。僕も最初からそのつもりでいる。頷くと諸井さんに口づけされた。
 短くないキスのあと、諸井さんは真顔で言った。

「君に溺れてしまいそうだ」

 罪悪感に苛まれながら何も言えずに目を見つめ返した。諸井さんは諦めたようにふっと笑って車のエンジンをかけた。
 店の駐車場を出たとき見覚えのあるシルバーの車が路肩にとめてあるのに気付いた。運転席の人影がじっとこちらを見ている。目が合って心臓が止まりそうになった。

 ハンドルに乗せた腕にもたれながら、前を通り過ぎる僕のことを睨むように見ていたのは基樹くんだった。
 僕は後ろを振り返って遠ざかるシルバーの車を見た。間違いなくあれは基樹くんの車だ。中に乗っていたのは基樹くんだ。なぜこんな時間、こんな場所にいたのだろう。僕に会いにきたのだろうか。いや、まさか。

 動悸が激しくなってきた。
 もし会いにきてくれたのだとしたら。ここで僕が働いていると知って、仕事の終わる時間を見計らって待っていてくれたのだとしたら。

「どうしました?」

 諸井さんが僕の太ももに手を乗せた。僕は咄嗟にそれを払いのけていた。

「あっ…すみません」
「あの車がなにか?」
「いえ…やっぱり今日は帰ります。曲がったところでおろしてください」
「……家まで送りますよ」
「歩いて帰ります」

 諸井さんは黙ってウインカーを出した。角を曲がった先のコンビニに車を入れると停止した。
 さすがに基樹くんの顔を見た直後、諸井さんに抱かれるのは躊躇われる。そこまでまだ恥知らずにはなりきれない。

「すみませんでした。おやすみなさい」

 頭をさげ、ドアに手をかけた。

「私はいつまでも待ちますよ。気は長いほうなので」

 いまは諸井さんの優しい言葉は辛いだけだった。もう一度頭をさげてから車をおりた。
 遠ざかる諸井さんの車を見送り、アパートへ向かって歩き出した。
 徒歩だと一時間以上はかかってしまう。店に戻って自転車を取りに行こうか。でもまだ基樹くんがいたらどうしよう。どんな顔をして会えばいい。
 会うつもりでいるのか、僕は。今更どの面下げて。

 きっともういなくなっている。シルバーの車は消えてなくなっている。
 そう言い聞かせながらも、心の底では期待しつつ角を曲がった。直線の続く道路に、シルバーの車はどこにも見当たらなかった。
 やっぱり、と安堵と落胆を同時に味わう。基樹くんに会わずに済んだ。自転車を取りに行ける。これで早く家に帰れる。
 重い足を引きずって自転車に跨った。

 責められても、罵られてもいいから、基樹くんに会いたかった。会って声を聞きたかった。
 我ながら自分勝手な本音に嫌気がさす。

 自転車を漕いでアパートへ向かう。基樹くんがあそこにいたわけを考えながら走っていると、あっという間にアパートに到着した。
 駐輪場に自転車をとめ、前に回る。二階へ続く階段に誰かが座り込んでいる。元気くんかと思って身構えながら近づくと、

「一人ですか。早かったんですね」

 立ち上がった人影は、基樹くんだった。

「今日は帰ってこないんじゃないかと思ってましたよ」

 静かで落ち着いた声。他人行儀な話し方。その底に燃え盛る怒りを感じて僕の足は固まった。かわりに基樹くんが近づいてくる。

「どうして、ここが――」

 言い終わるまえ口づけされていた。怒りを湛えた目で僕を見据えたまま、骨が折れるほど強い力で抱きしめられる。
 僕の目の前に基樹くんがいる。しっかりそこに存在して、僕を抱きしめている。
 痛みも苦しみも、すべてが愛しくて泣いてしまいそうだった。

 基樹くんの唇がはなれていき、僕は喘ぐように息を吸った。縫い付けられたように基樹くんから目を離せない。

「基樹くん……」
「今日はあなたを奪いに来ました」

 そう言うと、基樹くんは再び僕に噛みつくようなキスをした。

 ※ ※ ※

 腕を掴まれ、引きずられるようにアパートの部屋まで来た。戸を開けると同時に中に突き飛ばされて床に手をつく。

「基樹く――」

 振り返った肩を押さえつけられ畳に頭を打ち付けた。鈍い痛みに顔をしかめる。
 素肌に彼の手が触れてぎょっと目を開くと今にも泣きだしそうに顔を歪める基樹くんがいた。

「黙っていなくなるなんて酷いじゃないですか」

 涙で濁った声で責められて言葉につまった。

「電話しても出ないし、メールに返事はないし、事故にでも遭ったんじゃないかと心配するこっちの身にもなってくださいよ。気が狂いそうだった」

 基樹くんと同じ立場だったなら、僕もきっと心配で夜も眠れず帰りを待ち続けただろう。連絡もなく、安否すらわからない状態が続くなんて拷問に等しい。

「……ごめん」

 彼は僕の胸に頭を乗せた。さらりとした髪が顔にあたる。懐かしい匂い。胸が締め付けられる。

「あんな男にあなたを取られたくない。誰にもやらない。もう意見なんて聞かない。待つのも嫌だ。力づくで、あなたを奪い返す」

 基樹くんは僕のシャツに手をかけると、一気に引き裂いた。鋭い音に身がすくむ。

「嫌われたっていい」

 と言いながら辛そうに目を細める。
 嫌わない。
 そう伝えたいのに声にならず、手を伸ばすと掴まれて頭上に押さえつけられた。

「基樹くん……っ」

 何も聞きたくないというように口を口で塞がれた。器用に片手でベルトを外してズボンをずり下げる。

「あっ……!」

 いきなり奥の窄まりに突き立てられた。引き攣るような痛みとともに、基樹くんが中に入ってくる。

「んっ……う、あぁ……」

 以前とは違う乱暴なやり方が彼の怒りを伝えて来る。当然の報いだ。今まで散々彼を裏切って来たのだから、むしろ酷くしてくれたほうがいい。

「痛いですか」

 首を振って否定する。

「泣いてるくせに」
「だって…、は、初めて会った時と、同じこと…言ってくれた、から…っ」

 ――俺は本気です。本気であなたを部長から奪うつもりです。

 あの時と同じ情熱を彼は僕にぶつけてくれた。あの若々しい熱と一途さに僕はほだされ、彼について家を出たのだ。

 なぜ迷ったりしたのだろう。桜庭さんとの不貞行為を言い訳に僕は彼から逃げた。自分の年齢、男としての負い目、いつか捨てられる日がくるかもしれないと怯えて、傷つけられる前に僕は基樹くんから離れることを選んだ。
 彼のように僕も一途に愛せばよかったのに。捨てられそうになったら、泣いて縋って嫌だと訴えればよかったのに。ケチなプライドに囚われて何より大事なものを手放してしまうだなんて。

「泣いたって、あの時みたいに優しくしませんから」
「いい、それで」

 基樹くんは苛立たしげに舌を鳴らすと僕の腰を抱え持ち、体を動かした。僕のなかを基樹くんが征服する。青臭いほど性急に、純情なほど愚直に、誠実なほど僕に痛みを与え続ける。

「ん、あ、あぁっ…」

 感じてはいけないと思うのに、体は基樹くんを求めて熱くなっていく。彼が中にいると思うと、それだけで痛みが快感に置き換えられてしまう。

「…っ、あ、待っ…て、基樹くん…っ」
「イキそう?」
「ふっ、あ、あ…、いや、あ、あ…っ」
「ほら、イッて」

 促す手に導かれて精を吐き出した。基樹くんより先に終わってしまう自分の浅ましさが恥ずかしい。

「これでもう、あの人のところへは帰れませんね」
「あの、ひと…?」
「店の支配人。さっき駐車場でキスしてたでしょ」

 見られていた! 
 羞恥からカッと全身に火がついた。消えてしまいたいという思いから顔を隠そうとしたが、顎を掴まれ正面を向かされた。
 僕の目を見据えながら、基樹くんは言葉を続けた。

「桜庭に抱かれて俺の前から消えたなら、俺に抱かれた悠さんはあの人のところへは戻れない。そうでしょ」
「どうして、桜庭さんを…っ!」

 いきなり出てきた名前にぎょっとする。あの夜の記憶が嫌でも甦る。羞恥と嫌悪で妙な汗が噴き出た。

「悠さんがいなくなる直前に会ってた人です、当然探すでしょ。部長にさりげなく元の勤め先と上司の名前を聞き出して、なにか知らないかと思って会いに行ったら、お前が基樹かって嫌な顔されました」

 桜庭さんに抱かれたとき、僕は基樹くんの名前を口走ってしまった。きっとそのせいだ。

「その時にあの夜なにがあったのか聞きました」

 基樹くんの視線に耐えられず目を伏せた。

「酔ってたとは言え悪いことをした、謝っておいてくれって虫のいい事言ってましたよ。ふざけるなって殴っておきました。俺の前にすでに誰かに殴られたみたいでしたけどね」

 僕だ。別れ際に、俺に乗り換えろと言われて頭に血が上って殴ってしまった。人に暴力をふるったのはあれが初めてだった。

「事情がわかったら、いなくなった理由もわかりました。俺に悪いと思って消えたんでしょ。悠さんが陥りそうな考えだと思ってすぐ、興信所使って探しました」
「そんな、そこまでして…」
「やっと居場所を突き止めて会いに行ったら、悠さんはもう新しい男といちゃついてるって聞かされて……」
「ま、待って、会いに来てくれたの?」
「来たでしょ。メモ、受け取ってないんですか?」

 メモなんて知らない!

「誰に? なにを聞いたの?」
「隣の高校生」

 基樹くんは隣との壁に視線をやった。僕もつられてそちらを見る。
 元気くんだ…!

「落ち着いた大人の男が新しい恋人だって聞きましたよ。あの支配人のことでしょ。あなたがそうなんですかって本人に確かめたら、そうですって返されたし」

 聞き覚えのある問答。基樹くんがお嬢さんと食事をしに店に来たあの日。僕は途中で抜けてあとは諸井さんがすべてやってくれた。あのとき、あなたがそうなんですかと基樹くんに問われ、諸井さんはそうですと答えたと言った。諸井さんはもちろん、僕にもその意味がわからなかった。

「ぼ、僕と諸井さんはそんなんじゃ…」
「車に乗ってキスするのに?」

 何も言葉が返せない。

「二人の関係なんてもうどうだっていいです。悠さんは俺が連れて帰る。もうどこにもやらない。誰の目にも触れさせない。一生閉じ込めて、俺だけのものにする」

 そのつもりで来たんだ、と呟いて、基樹くんは律動を再開した。荒々しく僕のなかをかき回しながら、一層大きくなっていく。


1円の男