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更新履歴・お知らせ

2017/11/19
ピンクの唇、完結

2017/11/2
赤い爪、完結

2017/10/28
スカートめくり、完結

2017/10/23
続続続・ひとでなし2、完結

2017/10/22
続続続・ひとでなし1、更新

2017/10/21
続続・ひとでなし2、完結

2017/10/20
続続・ひとでなし1、更新

2017/10/19
続・ひとでなし2、完結

2017/10/18
続・ひとでなし1、更新

2017/09/08
ひとでなし2、完結

2017/09/07
ひとでなし1、更新

2017/09/02
ほんとにあったら怖い話2完結

2017/09/01
ほんとにあったら怖い話1更新

2017/07/28
コンビ愛更新、完結

2017/07/06
第二ボタン2更新、完結

2017/07/05
第二ボタン1更新

2017/05/25
ちょろくない2更新、完結

2017/05/24
ちょろくない1更新

2017/05/16
やっぱちょろい2更新、完結

2017/05/15
やっぱちょろい1更新

2017/02/11
メリクリあけおめ2更新、完結

2017/02/10
メリクリあけおめ1更新

2016/11/14
義父の訪問更新、完結

2016/10/27
覗き2更新、完結

2016/10/26
覗き1更新

2016/10/22
終わらない夜2更新、完結

2016/10/21
終わらない夜1更新

2016/10/16
凹の懊悩2更新、完結

2016/10/15
凹の懊悩1更新

2016/09/28
可愛さも憎さも百倍2更新、完結

2016/09/27
可愛さも憎さも百倍1更新

2016/09/22
利害の一致2更新、完結

2016/09/21
利害の一致1更新

2016/09/16
楽しい記憶喪失!3更新、完結

2016/09/15
楽しい記憶喪失!2更新

2016/09/14
楽しい記憶喪失!1更新

2016/09/13
楽しい同棲!2更新、完結

2016/09/12
楽しい同棲!1更新

2016/09/11
Phantom15更新、完結

2016/09/10
Phantom14更新

2016/09/09
Phantom13更新

2016/09/08
Phantom12更新

2016/09/07
Phantom11更新

2016/09/06
Phantom10更新

2016/09/05
Phantom9更新

2016/09/04
Phantom8更新

2016/09/03
Phantom7更新

2016/09/02
Phantom6更新

2016/09/01
Phantom5更新

2016/08/31
Phantom4更新
リンク一件追加

2016/08/30
Phantom3更新

2016/08/29
Phantom2更新

2016/08/28
Phantom1更新

2016/08/04
嘘7更新、完結

2016/08/03
嘘6更新

2016/08/02
嘘5更新

2016/08/01
嘘4更新

2016/07/31
嘘3更新

2016/07/30
嘘2更新

2016/07/29
嘘1更新

2016/07/18
Love Scars3更新、完結

2016/07/17
Love Scars2更新

2016/07/16
Love Scars1更新

2016/07/13
行きつく先は5更新、完結

2016/07/12
行きつく先は4更新

2016/07/11
行きつく先は3更新

2016/07/10
行きつく先は2更新

2016/07/09
行きつく先は1更新

2016/07/04
電話が鳴る7更新、完結

2016/07/03
電話が鳴る6更新

2016/07/02
電話が鳴る5更新

2016/07/01
電話が鳴る4更新

2016/06/30
電話が鳴る3更新

2016/06/29
電話が鳴る2更新

2016/06/28
電話が鳴る1更新

2016/06/16
今日の相手も2更新、完結

2016/06/15
今日の相手も1更新

2016/06/08
今日の相手は2更新、完結

2016/06/07
今日の相手は1更新

2016/05/25
いおや2更新、完結

2016/05/24
いおや1更新

2016/05/14
奇跡2更新、完結

2016/05/13
奇跡1更新

2016/04/28
ターゲット2更新、完結

2016/04/27
ターゲット1更新

2016/03/02
視線の先2更新、完結

2016/03/01
視線の先1更新

2016/02/23
性癖の道連れ2更新、完結

2016/02/22
性癖の道連れ1更新

2016/02/15
DL販売お知らせ

2016/01/20
尾行2更新、完結

2016/01/19
尾行1更新

2015/12/07
遺作2更新、完結

2015/12/06
遺作1更新

2015/12/02
昼夜2更新、完結

2015/12/01
昼夜1更新

2015/11/26
大小2更新、完結

2015/11/25
大小1更新

2015/11/15
彼はセールスマン2更新、完結

2015/11/14
彼はセールスマン1更新

2015/10/22
2度あることは2更新、完結

2015/10/21
2度あることは1更新

2015/09/18
死神さんいらっしゃい2更新、完結

2015/09/17
死神さんいらっしゃい1更新

2015/09/08
Congratulations2更新、完結

2015/09/07
Congratulations1更新

2015/09/01
待田くんに春の気配3更新、完結

2015/08/31
待田くんに春の気配2更新

2015/08/30
待田くんに春の気配1更新

2015/08/11
亀の恩返し2更新、完結

2015/08/11
亀の恩返し1更新

2015/08/07
Aからのメール2更新、完結

2015/08/06
Aからのメール1更新

2015/07/06
5年後2更新、完結

2015/07/05
5年後1更新

2015/07/04
待っててね2更新、完結

2015/07/03
待っててね1更新

2015/05/11
その後3更新、完結

2015/05/10
その後2更新

2015/05/09
リクエスト小説
その後1更新

2015/05/05
待田くんに春はこない2更新、完結

2015/05/04
待田くんに春はこない1更新

2015/04/30
楽しいシーソーゲーム!2
更新、完結

2015/04/29
楽しいシーソーゲーム!1更新

2015/04/21
楽しい親子喧嘩!1
楽しい親子喧嘩!2更新、完結

2015/04/16
楽しい放課後!2更新、完結

2015/04/15
楽しい放課後!1更新

2015/04/06
楽しい合コン!2更新、完結

2015/04/05
楽しい合コン!1更新

2015/04/01
楽しいお見舞い!2更新、完結

2015/03/30
楽しいお見舞い!1更新

2015/03/24
楽しい旧校舎!2更新、完結

2015/03/23
楽しい旧校舎!1更新

2015/03/16
楽しい入院生活!2更新、完結

2015/03/15
楽しい入院生活!1更新

2015/03/05
楽しい遊園地!2更新、完結

2015/03/04
楽しい遊園地!1更新

2015/02/27
楽しいロッカールーム!2更新、完結

2015/02/26
楽しいロッカールーム!1更新

2015/02/16
楽しいOB会!2更新、完結

2015/02/15
楽しいOB会!1更新

2015/02/14
一周年!!
いつもありがとうございます!
君は日向の匂い更新、完結
シンデレラアイドルのSSです

2015/02/13
保健室の先生2更新、完結

2015/02/12
保健室の先生1更新

2015/02/11
teeth2更新、完結

2015/02/10
teeth1更新

2015/02/09
楽しい初カノ!2更新、完結

2015/02/08
楽しい初カノ!1更新

2015/01/31
楽しい勉強会!2更新、完結

2015/01/30
楽しい勉強会!1更新

2015/01/23
楽しいお泊り!2更新、完結

2015/01/22
リクエスト小説
楽しいお泊り!1更新

2015/01/08
明けましておめでとうございます!
本年も宜しくお願い致します!
リクエスト小説
両想い1、2更新、完結

2014/12/12
楽しい合宿!2更新、完結

2014/12/11
楽しい合宿!1更新

2014/12/01
アガルタ2更新、完結

2014/11/30
リクエスト小説
アガルタ1更新

2014/11/23
朝のお楽しみ2更新、完結

2014/11/22
リクエスト小説
朝のお楽しみ1更新

2014/11/14
即位式2更新、完結

2014/11/13
即位式1更新

2014/11/04
裏ドSくん3更新、完結

2014/11/03
裏ドSくん2更新

2014/11/02
裏ドSくん1更新

2014/11/01
ひみつのドSくん2更新、完結

2014/10/31
ひみつのドSくん1更新

2014/10/30
伴侶1、2更新、完結

2014/10/27
支配人3更新、完結

2014/10/26
支配人2更新

2014/10/25
支配人1更新

2014/10/24
隣人3更新、完結

2014/10/23
隣人2更新

2014/10/22
隣人1更新

2014/10/15
元上司2更新、完結

2014/10/14
リクエスト小説
元上司 1更新

2014/10/10
ニコニコドッグⅡ 2更新、完結

2014/10/09
リクエスト小説
ニコニコドッグⅡ 1更新

2014/10/04
茶番2更新、完結

2014/10/03
リクエスト小説
茶番1更新

2014/09/12
「ちょろい 2」更新、完結

2014/09/11
「ちょろい 1」更新

2014/09/08
「新雪の君」更新、完結

2014/09/06
コメントお返事させて頂きました

2014/09/05
「すばらしい日々3」更新、完結

2014/09/04
「すばらしい日々2」更新
コメントお返事させて頂きました

2014/09/03
リクエスト小説
「すばらしい日々1」更新
コメントお返事させて頂きました

2014/09/01
「好きと言って4」更新、完結

2014/08/31
「好きと言って3」更新

2014/08/30
「好きと言って2」更新

2014/08/29
リクエスト小説
「好きと言って1」更新

2014/08/24
「純粋に近付いた何か2」更新、完結

2014/08/23
リクエスト小説
「純粋に近付いた何か 1」更新

2014/08/15
コメントお返事させて頂きました

2014/08/14
再会2更新、完結
コメレスさせて頂きました

2014/08/13
リクエスト小説「再会1」更新
「ノビ」の続編です

2014/07/26
コメントお返事させて頂きました

2014/07/25
息子さんを僕にください2更新完結

2014/07/24
リクエスト小説「息子さんを僕にください1」更新
娘さんを僕に下さいとは無関係ですw

2014/07/22
コメントお返事させて頂きました

2014/07/20
久しく為さば須らく2更新、完結
コメントお返事させて頂きました

2014/07/19
リクエスト小説「久しく為さば須らく1」更新
コメントお返事させて頂きました

2014/07/18
コメントお返事させて頂きました

2014/07/16
コメントお返事させて頂きました

2014/07/15
コメントお返事させて頂きました

2014/07/14
コメントお返事させて頂きました

2014/07/13
リクエスト小説「嫉妬せいでか2」更新、完結
コメお返事させて頂きました

リクエスト小説「嫉妬せいでか1」更新

2014/07/11
拍手お返事させて頂きました
お知らせ一件

2014/07/10
コメント、拍手お返事させて頂きました

2014/07/09
拍手お返事させて頂きました

2014/07/08
コメント、拍手お返事させて頂きました
耽溺 2更新、完結

2014/07/07
拍手お返事させて頂きました
リクエスト小説「耽溺 1」更新

2014/07/06
拍手お返事させて頂きました

2014/07/05
拍手お返事させて頂きました

2014/07/04
コメント、拍手、お返事させて頂きました

2014/07/03
コメント、拍手、お返事させて頂きました
吉原と拓海その後 2更新、完結

2014/07/02
コメント、拍手、お返事させて頂きました
吉原と拓海その後1更新しました

2014/07/01
コメントお返事させて頂きました
シンデレラアイドル2更新、完結

2014/06/30
拍手お返事させて頂きました
シンデレラアイドル1更新しました

2014/06/29
リクエスト募集してます

2014/06/27
拍手お返事させて頂きました

2014/06/24
目は口ほどに 更新、完結

2014/06/17
茶々丸更新、完結
獣姦っぽい

2014/06/11
連鎖 2更新、完結

2014/06/10
連鎖 1更新

2014/06/07
拍手お返事させて頂きました

2014/06/06
拍手お返事させて頂きました

2014/06/05
拍手お返事させて頂きました

2014/06/04
元旦那さん 2更新、完結

2014/06/03
元旦那さん 1更新
旦那さんの続きです

2014/05/29
昨日の記事の続きで拍手お返事させてもらっています

2014/05/28
旦那さん 2更新、完結

2014/05/27
旦那さん 1更新

2014/05/22
夢の時間2更新、完結

2014/05/21
アンケート1位小説「親子」
夢の時間1更新

2014/05/16
この物語はフィクションです更新、完結

2014/05/14
アンケート1位小説「教師と生徒」で先生受け。
信じて下さい更新。完結

2014/05/11
純粋とは程遠いなにか2更新。完結
ダウンロード販売のお知らせ

2014/05/09
純粋とは程遠い何か1更新

2014/05/01
長男としての責務2更新。完結

2014/04/30
長男としての責務1更新

2014/04/27
セフレ更新。完結

2014/04/21
嘘が真になる2更新。完結

2014/04/20
嘘が真になる1更新。
アンケート終了しました
投票してくださった皆さんありがとうございました!

2014/04/15
親切が仇になる2更新。完結

2014/04/14
親切が仇になる1更新

2014/04/11
家庭教師更新。完結

2014/04/09
惚れ薬2更新。完結

2014/04/08
惚れ薬1更新

2014/04/05
ニコニコドッグ更新。完結

2014/04/03
健やかなるときも病めるときも更新。完結
アンケート設置1ヶ月記念更新
回答ありがとうございます!

2014/04/02
お隣さん2更新。完結

2014/04/01
お隣さん1更新

2014/03/28
B3-17 はるか更新。完結

2014/03/27
会話の語尾は常にハートマーク更新。完結

2014/03/24
僕の居場所更新。完結

2014/03/21
兄弟愛(3/3)更新。完結

ストックを全て出し切ってしまいましたので毎日更新は今日で終わりになります。
これからは書き終わり次第更新していきますので、引き続きよろしくお願い致します。

2014/03/20
兄弟愛(2/3)更新。

2014/03/19
兄弟愛(1/3)更新。

2014/03/18
7歳の高校生更新。完結

2014/03/17
7歳の高校生更新

2014/03/16
裏の顔更新。完結
アンケート2位「教師と生徒」
少し違う感じになりました。

2014/03/15
残業も悪くない更新。完結
アンケート結果を反映させてみました。
アンケートに答えてくださった皆さんありがとうございます。引き続きお願い致します

2014/03/14
片思い更新。完結

2014/03/13
クラスの地味男更新。完結

2014/03/12
吉原と拓海更新。完結

2014/03/11
罠更新。完結

2014/03/10
同級生更新。完結

2014/03/09
目覚め更新。完結
FC2小説にて、
閃光戦士フラシュレッド!公開。完結。

2014/03/08
やってられない更新。完結

2014/03/07
地下の城ピュラタ更新。完結

2014/03/06
地下の城ピュラタ更新。

2014/03/05
部室にて更新。完結

2014/03/04
すべからく長生きせよ更新。完結

2014/03/03
秘め事更新。完結
アンケート設置。ご協力お願いします

2014/03/02
映画館にて更新。完結

2014/03/01
大迷惑@一角獣更新。完結

2014/02/28
大迷惑@一角獣更新。

2014/02/27
僕はセールスマン更新。完結

2014/02/26
俺のセールスマン更新。完結

2014/02/25
夏の夜更新。完結

2014/02/24
妄想更新。完結

2014/02/23
先生 その2更新。完結

2014/02/22
洞窟更新。完結

2014/02/21
洞窟更新。

2014/02/20
先生 その1(1-2)更新。
先生 その1(2-2)更新。完結

2014/02/19
娘さんを僕にください更新。完結

2014/02/18
ノビ更新。完結

2014/02/17
ノビ更新。

2014/02/16
1万3千円更新。完結

2014/02/15
1万3千円更新。

2014/02/14
ファンレター更新。完結

2014/02/14
ブログ始動。
「ファンレター」公開。

よろしくお願いします。

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DiGiket.comさん

薔薇色の日々
  (「裏の顔」改訂版)

不埒な短編集
 短編3つ

不埒な短編集第二
 短編3つ

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隣人(3/3)

<前話はこちら>

 俺はまた学校終わりに時間を潰して帰るようになった。小泉さんとは会えば挨拶をする程度の関係に戻った。
 もう二度と「元気くん」とは呼んでくれない。自分のしたことを百万回は後悔して反省して時間が戻ればと神様に祈ったりした。

 振られても俺はまだ小泉さんが好きだった。壁にもたれて隣の部屋の物音に耳を澄ましていた。壁を隔てた隣に小泉さんを感じられるだけでも幸せだった。だがとても切ない。

 小泉さんは仕事を見つけたようだった。今週の頭から、俺の登校時間よりあとに出て、俺のバイト終わりより遅い時間に帰宅するようになっていた。
 何もする気力がないまま壁にもたれていると、小泉さんが帰宅するにはまだ早い時間に、隣へ向かう足音が聞こえた。俺は玄関扉に耳を張り付けた。

 コンコン、とノックしているから小泉さんじゃない。しばらく待って、諦められないのかもう一度ノックしている。
 小泉さんの客。誰だろう。真っ先に浮かんだのは小泉さんが離婚するほど惚れた浮気相手。どんな女なのだろう。今でも小泉さんを独占しているのは、いったいどれほどの女なんだろう。
 苛立ちと好奇心が勝った。俺は戸を開けて顔を出した。スーツ姿の男が立っていた。拍子抜けする。

「こちらは小泉悠二さんのお宅で間違いありませんか?」

 俺を見つけて男が言う。
 誰だろう。小泉さんの知り合いにしては若かった。まだ二十代前半くらい。さすがに小泉さんの息子ではないだろうが。浮気相手の旦那か? 俺は警戒しつつ頷いた。

「いつも何時ごろに帰宅するかご存じですか」
「わかりません」

 日付がかわってからだと知っていたが、見ず知らずの相手に教える義理はない。

「そっか…」

 男はため息をついた。前髪をかきあげながら中に誰もいない部屋の扉を見つめている。

「伝言があるなら預かりますけど」

 それを口実に会いに行ける。話が出来る。

「いや…あぁ、でも…」

 男は迷った末、ポケットから手帳を出して何か書き込むと、ビリッと破いて二つに折った紙切れを俺に渡した。

「必ず渡して下さい」
「はい。あっ、名前…」
「立橋です、立橋基樹」

 もとき!

 雷に打たれたような衝撃、というやつだった。もとき。俺と同じ名前。耳の奥でその名前が木霊する。男の声で。小泉さんの声で。俺の首に抱き付いてイッたときの、あの時の声で。
 小泉さんは俺を身代わりにしたと言った。ただ性処理しただけの意味だと思っていた。だが違った。小泉さんは本当に俺を身代わりにして、この男のことを思い出していたんだ。俺の名前を呼びながらこいつの名前を呼んでいたんだ。
 怒りと、何も知らずに喜んでいた羞恥の熱が顔に立ち上った。

 小泉さんの浮気相手はこの男。離婚するほど好きになって、なのに一緒にはいられなくて、だけど今でもずっと思い続けているのが、こいつだと言うのか!
 どうして今頃会いに来たんだろう。小泉さんと一緒にいられるようになったから迎えに来たんだろうか。じゃあ小泉さんはこのアパートからいなくなってしまうのか?!

「…小泉さんは…恋人がいるのでこれを渡すのは明日になると思いますけど」
「恋人?」

 俺の嘘に、男はひそっと眉を寄せた。

「はい。すごく仲がよくて…毎日会ってるみたいです」
「本当に?」
「ここのアパート、壁が薄くて。あの…声がよく聞こえるんですよね」

 男は俺の言葉を信じていないのか「へえ?」と片頬を持ち上げた。それにむっとして俺は嘘を続けた。

「小泉さんより年上で…落ち着いた大人の人って感じの、男の人でしたけど」

 男とは反対の男性像を作り上げる。男の顔から余裕がなくなり、険しい表情になった。それを見て溜飲がさがる。ざまあみろ。お前に小泉さんを渡すもんか。

「本当に悠さんが?」

 こいつは小泉さんのこと、悠さんって呼んでるのか。

「はい。あれは恋人同士だと思うんですけど。すごくラブラブです。声が聞こえて、こっちが恥ずかしくなるくらい」

 男は小泉さんの部屋を睨むように見ていた。奥歯をギリと噛みしめて。俺と同じくらい嫉妬すればいいんだ。

「どうしますか、これ」

 紙切れを男にかざす。予想に反して「渡してくれ」と男は言い切った。わかりました、と返事をし、男と別れた。
 部屋に戻ってメモを開く。

『探しました。もう勝手にいなくならないで下さい』

 携帯の番号も記されていた。強調するように下線を引いてある。俺はそれを破り捨てた。

 ※ ※ ※

 数時間後、小泉さんが帰って来た。立橋が来たと知らずに部屋の鍵をあけている。
 中に入られるまえに外に出た。

「こんばんは、小泉さん」
「こんばんは。こんな時間に出かけるの?」
「小泉さんに用があって」

 小泉さんの表情が少し硬くなる。俺に警戒している。

「今日、お客さんが来てましたよ」
「僕のところに?」
「はい。立橋って人が」

 ハッと息を飲む音がここまで聞こえた。鍵を落とすほど激しく動揺している。そんなにあいつのこと好きなんですか?

「……立橋くんが」
「伝言頼まれました。えーっと…結婚するかもしれないとか、なんかそんなことを言ってました」
「結婚…」

 茫然と小泉さんが呟く。俺の嘘だと気付かれていない。二人のことは何も知らない。二人の事情もないも知らない。手探りで吐く嘘は一つ一つが賭けのようなものだった。

「だから悠さんも幸せになって下さいって言ってました」

 立橋がつい漏らした「悠さん」という呼び方をここで使った。それを聞いた小泉さんは痛みを感じたように顔を歪めた。
 こんな顔をさせて罪悪感がないわけじゃない。でもこれで立橋のことを忘れてくれたら。俺にも可能性が出て来るかもしれないのだ。人でなしと呼ばれてもいい。

「伝言はそれだけ…?」

 弱々しい声で訊ねる。

「そうです」
「…ありがとう、おやすみ」

 鍵を拾い上げると小泉さんは部屋の中に入った。パタン、と静かに閉じられた扉に耳を当てると、かすかに嗚咽が聞こえてきた。


相生結び



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2014-10-24(Fri) 20:58| 隣人| トラックバック(-)| コメント 8

隣人(2/3)

<前話はこちら>

 バイトのない日、俺は寄り道せずにアパートに帰るようになった。階段に座り、出勤する母親を見送りながら小泉さんが現れるのを待っていた。
 まだ仕事は見つからないようで少し疲れた顔をして小泉さんが帰って来る。俺を見つけると「元気くん、ご飯、一緒にどう?」と誘ってくれる。一度は遠慮して断ってみせるが、小泉さんが「一人で食べても味気ないんだ」と言ってくれるので、親切に甘えて部屋にあがりこむ。

 無職の人に、毎回ご馳走になってばかりは悪いので、母さんからもらったメシ代の千円を渡そうとしたが、頑なに断られた。なので、学校帰りにスーパーに寄って野菜を買って帰り、それを「家に置いてても腐らせるから」と小泉さんに押し付けた。
 それじゃ悪いから、と小泉さんは保存のきくものを作るとタッパーに入れて俺に持たせて帰してくれた。
 こんなに気が利いて優しい人を俺は知らない。ますます好きになっていた。

 自分の家に戻っても、ずっと小泉さんのことばかり考えている。テレビもつけずに、壁にもたれて座って耳を澄ましている。かすかに聞こえる物音すら愛しく感じた。

 隣の玄関の開く音がした。俺も急いで玄関へ向かう。扉を開けると、ちょうど小泉さんが前を通りかかったところだった。

「こんばんは、元気くん」
「こんばんは。もしかして今から風呂?」
「そうだよ」
「俺も今日は銭湯にしようと思ってたんだ。一緒に行ってもいい?」
「もちろん。下で待ってるよ」

 この機会を窺って何日も前から用意していた銭湯セットをリュックに詰めると、小泉さんのもとへと急いだ。
 銭湯はアパートと商店街の中間にある。数えるほどしか行ったことはなかったが、小泉さんと一緒なら毎日だって通いたい。
 小泉さんは受付を済ますと、ロッカーの前でさっさと服を脱いでいく。俺も服を脱ぎながら、ずっと横目に小泉さんを見ていた。
 やはり細い体だった。そして綺麗な白い肌だった。俺が邪な感情を抱いているせいかもしれないが、とても色気のある体だと思った。

「元気くん、先に行ってるよ」

 小泉さんが先に中へ行く。俺もあとを追った。
 隣に座った。小泉さんは先に頭を洗っていた。目を瞑っているのをいいことに小泉さんの体をジロジロと眺めまわした。
 背中流しますよ、とボディタオル越しに肌に触った。また勃起した。亀頭までパンパンに膨れ上がって痛いほどだ。

 斜め後ろの爺が俺の腰に巻いたタオルが持ち上がっているのを見てニヤニヤ笑っている。小泉さんの背中の泡を流すとすぐ横に座って前を隠した。

「じゃあ次は僕の番だ」

 と小泉さんが俺の後ろにまわり、背中を洗ってくれた。股に挟みつつ、前かがみになってやり過ごした。
 一緒に湯船に浸かった。小泉さんが「はあ」と息を吐き出す。その吐息がまた色っぽいと思う。
 俺の顔を見て「元気くん、顔が赤いよ」と小泉さんが驚いて言う。あなたのせいですとは言えず、俺は俯いた。その俺の前髪を小泉さんがすくいあげる。

「のぼせたら大変だから、もう出た方がいいよ、元気くん」

 直視は出来なくて上目使いに小泉さんを見た。水滴の滴る髪の先とか、ほんのり色づいた肌だとか、濡れた首筋だとか。すべてが目に毒だった。

「先、出てます」

 逃げるように俺は湯船をあがった。
 定番のコーヒー牛乳を飲みながら小泉さんが出て来るのを待った。出てきた小泉さんが服を着るのを後ろからじっと凝視する。さっきの爺も出てきて、俺を見つけるとからかうようにニタニタ笑う。

 銭湯を出ると二人並んでアパートに向かって歩いた。コーヒー牛乳がおいしかっただとか、明日学校でテストがあるだとか、星がきれいだとか、くだらないことを話していたらあっという間に到着した。
 このまま帰りたくない。離れたくない。

「今日、ご飯は食べたの、元気くん」
「あっ…軽く」
「僕は今からなんだけど、一緒にどう?」
「いいんですか」
「遠慮しない」

 と俺の背中を軽く叩いた。
 そのまま小泉さんの部屋にあがりこむ。小泉さんは鞄から洗濯物を出すと、俺に向かって手を伸ばした。

「一緒に洗濯するから出して」
「えっ、いいですよ、自分ちで洗うから」
「一人分も二人分も一緒だよ」

 差し出された腕を見つめた。細くてもしっかり男の手だ。なのにこんなにどきどきしている。触りたいと思う。どんな手触りなのか、確かめたい。
 俺は小泉さんの手首をつかんだ。思っていたより頼りない手首だった。

「元気くん?」
「小泉さん…」
「どうしたんだい?」

 掴んだ手を引き寄せて、小泉さんを抱きしめた。

「も、元気くん?」
「好きです、小泉さん」

 耳のすぐそばで小泉さんが息を飲む音を聞いた。少し掠れたその音に、情欲が一気に突き上げてきた。布越しに感じる小泉さんの肌、温もりに、理性が砕け散る。衝動のまま、俺は小泉さんを押し倒していた。

「元気くんっ」

 俺の下で小泉さんが慌てふためいている。やっぱり可愛い人だと思う。

「好きです」

 腕を曲げて顔を近づけた。俺のやることを察した小泉さんが顔を背ける。追いかけて無理矢理口を塞いだ。拒んで固く結ばれた唇をこじ開けて中に舌を差し込む。触れ合った柔らかな感触に眩暈がした。夢中で吸っていた。

「ん…っ…もと、き、くん…っ!」
「お願い、俺を拒まないで」

 膝を使って小泉さんの足を開かせた。ズボンの上から股間を揉む。

「あっ…もとき、くん! だめ、駄目だよ」
「まだ浮気相手のこと好きなんですか?」

 はっと泣きそうな顔で小泉さんが俺を見上げる。震える唇が「もときくん」と呟いた。

 きっとまだ相手のことが好きなんだとわかった。でも事情があって別れることになったのだろう。元奥さんの制裁か、世間体の問題か、もしかすると相手も既婚者で旦那が離婚に応じなかったのか。

「俺だって小泉さんが好きです」
「君は…そう思い込んでるだけだ」
「これでも、ですか」

 小泉さんの手を取って自分の股間へ導いた。膨らみに気付くと、小泉さんは動揺して俺から目を逸らした。

「これが思い込みなんですか」
「元気くん…っ」

 小泉さんの股間を掴んだ。揉むように手を動かすと、慌てた小泉さんが俺を押しのけながら身を捩った。

「だめ…っ、やめなさい、元気くん!」
「嫌だ、やめたくない、小泉さんが好きなんだ」

 小泉さんは体を捻ってうつ伏せになると、腕を使って俺の下から這い出ようとした。ズボンに手をかけ、力任せに引きずりおろした。羞恥に顔を染めて小泉さんが俺を睨み付ける。でも迫力に欠けた。小泉さんは俺を恐れていた。俺のほうが力が強いと自覚して怯えていた。

「怖がらないで下さいよ」
「やめるんだ、元気くん」
「酷くしたくないんです」

 ベルトを外して前をくつろげる。飛び出したペニスを見て小泉さんは顔を強張らせた。

「やめ…、元気くん、こんなことはやめなさい」
「男を好きになったのは小泉さんが初めてなんです。だからどうすればいいか、わからない」

 小泉さんの上にのしかかった。露になった股間を擦りつける。暴れる小泉さんを体で押さえつけた。
 知識はある。どこを使うかも知ってる。でも本当にそんなところに挿れていいのか不安だし怖い。小泉さんを傷つけて嫌われたくない。

「元気くん、いい加減にしなさい、これ以上は駄目だ…!」
「もう止まんないよ」

 小泉さんのペニスと擦り合わせて、痛いほど勃起しているのだ。
 二本まとめて握った。小泉さんはふにゃりと柔らかいままだ。それが残念だったが、いまは目前にまで迫っている爆発のために手を動かした。

「はぁっ、はっ、はっ…小泉さん、小泉さん…っ!」

 好きだと何度も繰り返しながら俺は射精した。俺の精液が小泉さんのペニスにべっとりかかった。それを全体に馴染ませながら俺はまた手を動かした。

「元気くん、もう、いいだろう…っ、出したんだから、だから…僕の上から退くんだ」
「まだ無理…一回出してもまだギチギチなんだもん、俺」

 ニチャニチャと音を立てながら扱いた。だんだん小泉さんのペニスも太くなり芯を持って立ち上がった。

「気持ちいい?」

 問うと前髪を揺らしながら首を左右に振る。風呂上がりみたいに頬が色づいていた。男なのに壮絶にエロい。
 手の動きを早くした。唇を噛みしめる小泉さんの呼吸が乱れ始めた。

「やめ…、おね、がいだから…もうやめて、もときくん…っ」
「小泉さん、大好きだよ」

 扱きながらキスした。最初は嫌がって逃げてたけど、途中で諦めたのかおとなしくなった。奥で震えている舌を絡め取った。

「ふっ…ん、んん……」

俺の肩を小泉さんが掴む。その手を首にまわすと、小泉さんがおずおずと抱き付いてきた。

「もときくん…っ」

 手の中で小泉さんが大きくなる。
 小泉さんの膝に引っかかったままのズボンと下着を蹴り落とし、開いた足の間に腰を入れた。

「もときくん、もときくん……っ!」

 熱にうかれたように小泉さんが何度も俺の名前を呼ぶ。それが嬉しい。

「んっ…あ、あぁ…だめ…、もときくん」
「イキそう?」
「う、ん…あっ、あっ…もときくん、嫌だ…いや…もときくん、いや…あ、あっ…!」

 俺の首にしがみついたまま小泉さんは絶頂を迎えた。温かい液体が俺の腹にかかる。

「俺も、もうイキそう」
「イッて…もときくん…」

 濡れた声にくらっとした。漏らすような感覚がして慌てた直後に俺も射精していた。
 余韻に浸っていると小泉さんに押しのけられた。油断していた俺は無様に仰向けに転がった。その隙に小泉さんが体を起こし、俺から顔を背ける。

「すまなかった」

 震える小声で言う。なぜ小泉さんが謝るのかさっぱりわからない。

「どうして」

 謝るのは俺のほうなのに。

「君に、悪いことをした…すまない、西浦くん」

 急に下の名前じゃなく苗字で呼ばれて胸がキリッと痛んだ。

「なんで…なんで俺が悪いのに小泉さんが謝るんだよ」
「僕がいけなかった。君は何も悪くない。でももう僕に関わらないで欲しい」

 小泉さんの拒絶に胸が潰れそうだった。鼻の奥がジンとして目の表面も熱く潤んだ。

「ご、ごめんなさい…っ、小泉さんのことが好きで、小泉さんに触りたくなって…そしたらもう我慢できなくなって…もう絶対こんなことしないから、そんなこと言わないでよ!」
「僕なんかを好きになっちゃいけない」
「嫌だっ! 小泉さんが好きだ! こんな気持ち初めてなんだよ!」

 泣きながら声を荒げると、小泉さんは振り返って俺を見た。

「僕には好きな人がいる。一瞬でも君を身代わりにした。こんな最低な僕を、好きだなんて言わないでくれ」

 泣きそうな顔で自嘲する。たまに見たあの悲しそうな目をしながら。どれほど深くその人のことを愛しているのか、一瞬でわかる目だった。
 俺が言葉をなくしていると、小泉さんはよろりと立ち上がった。

「お風呂に行ってくるから、その間に帰っててくれるかい」
「え、や、やだ…、離れたくない」
「頼むよ」

 溜息まじりに言うと小泉さんは奥の風呂場へ消えた。

 しばらく呆然となって動けなかった。俺は小泉さんが好きだ。でも小泉さんは俺のことなんて好きじゃない。離婚するほど好きになった人を今でも思い続けている。俺には少しの望みもない。一瞬、心を通わせられたと思ったあの瞬間、小泉さんは別の誰かのことを思っていた。俺じゃない、別の人を。

 のどから嗚咽がせりあがってくる。涙と鼻水を垂れ流しながら後始末をし、服装を整えると部屋を出た。


ナンバーコール




2014-10-23(Thu) 20:18| 隣人| トラックバック(-)| コメント 1

隣人(1/3)

※NTR耐性のない方にはお勧めできない内容です

<第一話(旦那さん)はこちら>
<第二話(元旦那さん)はこちら>
<第三話(元上司)はこちら>

 バイトのない日は、少し時間を潰してから帰るようにしている。そうすれば、自分の母親が濃いメイクを施し、露出の多い服を着て女にかわる瞬間を見ずに済むからだ。
 きつい香水の匂いが漂う部屋のテーブルには千円札が置いてある。今日の俺の晩飯代。
 千円札をポケットにねじ込んでアパートを出る。バイト先がコンビニだから冷たいコンビニ弁当は食べ飽きている。商店街の裏道にある、小さなで惣菜屋で弁当を買った。
 コンビニと違い、店の厨房で作ったものだから、手作りの味に飢えている俺にはご馳走だった。

 まだ温かい弁当を持ってアパートへ戻ると、前方にスーツの後ろ姿が歩いていた。
 今月頭、このボロアパートに引っ越してきた隣人だ。わざわざ引っ越しの挨拶にやってきた。母さんはもう仕事に出ていて俺が対応した。
 高校生の俺にも丁寧で物腰の柔らかな人だった。優しそうな笑顔で「小泉です」と名乗ったその人の目は、なんだか寂しげだった。
 年齢は四十前後くらいだろう。その年でこんなボロアパートに越してくるには、なにか理由があるのだろう。離婚して、敷金礼金ゼロ、保証人不要、家賃四万のアパートしか住めない俺たち母子みたいに。

「こんばんは」

 声をかけると小泉さんは振り返った。俺を見て「お隣の」と笑みを浮かべる。

「西浦です。もう仕事終わったんですか? 早いですね」
「無職なんだ」

 少し恥ずかしそうに小泉さんは笑った。リストラされて嫁に逃げられたくちかな。

「いま、仕事を探しているんだけど、この年だから難しくてね」
「早く見つかるといいですね」
「ありがとう。……いい匂いがするね」
「あっ、これですか」

 惣菜屋の袋を小泉さんに見せた。プリントされている店の名前を見て小さく首を傾ける。

「どこの店? そこの商店街にはない店だね」
「商店街の裏にあるんですよ」
「そうなんだ。知らなかったな。場所を教えてもらってもいい? 今日は僕もそのお店のお弁当にしよう」

 道順を詳しく教えてあげた。商店街の風景を思い出しながら俺の言葉の一つ一つに頷いて、場所の見当がつくと小泉さんは笑顔になった。

「ありがとう。着替えたらさっそく行ってみるよ」

 部屋の前で俺たちは別れた。
 玄関に立ったまま、俺は聞き耳を立てた。耳を澄ませば、隣から物音がかすかに聞こえてくる。しばらくすると戸の開閉の音がして、俺の部屋の前を通り過ぎる足音が続いた。小泉さんは本当に弁当を買いに行ったようだ。

 ※ ※ ※

 コンビニでバイトを終え帰宅するとアパートの部屋に明かりがついていた。母さんがいる。きっと男を連れ込んでいる。母親の濡れ場なんかに遭遇したくないから、俺はアパートの階段に腰掛け、コンビニで買った菓子パンにかぶりついた。

 家に男を呼び込む母親を恨んだことはない。俺を養うために必死に働いてくれているのに何の文句があるだろう。少しでも生活の足しになればとバイト代を渡しているが、その半分は俺へのお小遣いだと返してくる。
 早く高校を卒業して働きたい。働いて母さんを少しでも楽にさせてやりたい。いま部屋にいる男が母さんを幸せにしてくれてもいい。

「西浦くん」

 パンから顔をあげると、ラフな服装の小泉さんがいた。

「どうしたんだい、こんな場所で」
「小泉さんこそ」
「僕はそこの銭湯に行っていたんだ」
「ここの風呂、狭いですもんね」

 小泉さんは上を見ると、「お母さんと喧嘩した?」と俺に優しい目を向けた。

「違いますよ。ちょっと…客が来てるから」
「そうか…」

 と黙り込んでそれ以上深く追求してこなかった。大人だから事情を察したのかもしれない。

「じゃあ、お客さんが帰るまで僕の部屋で待つといいよ」
「えっ、いいですよ、そんな」
「ご飯は食べた? 何か作るよ」

 言いながら俺の腕を取って立たせる。見た目の穏やかさと違って強引なところがある。

「いや、ほんとにいいですから」
「子供が遠慮なんてするんじゃない」

 小泉さんに引っ張られながら階段をあがり、俺の家の前を通って小泉さんの部屋に辿り着いた。

「ほんとに俺、いいですから」
「とても美味しい惣菜屋さんを教えてもらったお礼だよ。君に教えてもらわなければ、きっとずっと知らないままだった」
「別に、そんな…」

 たいしたことじゃないと言おうとしたが、声が出なかった。小泉さんが悪戯っぽく笑うので、そんな顔もできるんだと見とれていた。親子ほど年の離れた人を相手に、可愛い、なんて、思ってしまうなんて。
 急に気恥ずかしくなって俺は俯いた。戸を開けた小泉さんが「どうぞ」と促す。俺は足を踏み入れた。

 部屋の明かりをつけながら、小泉さんは鞄をおろすと腕まくりをして台所に立った。
 細く、白い腕が、冷蔵庫から次々食材を取り出していく。

「何もない部屋だけど、適当にくつろいで」

 野菜を洗いながら小泉さんが言った。
 部屋は本当に何もなかった。あるのは折りたたみのテーブルと、奥の部屋にふとんが一組、衣装ケースが一個。
 着の身着のまま家を追い出されたみたいだ。

「小泉さんって、ここに来る前は何してたんですか?」

 つい好奇心に負けて聞いてみた。俺に背を向けたまま「主夫だよ」と小泉さんは言った。

「主夫って…じゃあ、奥さんが働いてたってことですか?」
「そんなところ」
「それで奥さんに追い出されたんですか?」
「僕の意思で家を出たんだ」
「どうして?」

 トントンとリズムよく野菜を切っていた小泉さんの手が止まった。しまった、と気付いたがもう遅かった。

「他に、好きな人が出来たんだ」
「まさか、小泉さんが浮気したんですか?」

 印象と真逆の可能性に思わず大きな声が出た。
 小泉さんはまた野菜を切りながらこくりと頷いた。この小泉さんが浮気をするなんて。とてもそんな人には見えない。絶対、浮気されるタイプの人だ。

「意外です。小泉さんって人を裏切らない感じなのに」
「僕はそんなんじゃないよ」

 いやに強い口調で否定され、俺もこれ以上は失礼になると思って口を閉ざした。

 テレビもないので部屋は静かだった。小泉さんがフライパンで炒め物をする音だけが聞こえる。
 手慣れているのは主夫だったからか。
 いい匂いがしてきて腹が鳴った。聞かれてしまったのか、小泉さんは肩越しにこちらを見るとくすっと笑った。その仕草に心臓が鳴った。
 小泉さんは皿に盛りつけると、それをテーブルに置いた。出来たてで、湯気のたつ、手作りの生姜炒め。それに見とれていると、白いご飯の盛られた茶碗と、お箸が並べられた。

「おいしいといいけど」
「う、うまいです」

 ごくりと咽喉を鳴らしながら言うと、小泉さんは「まだ食べてないよ」と声を立てて笑った。俺はまた唾を飲み込んだ。腹が減っているはずなのに、急に胸がいっぱいになった。
 頂きます、と手を合わせて生姜炒めを口にする。お世辞抜きでおいしい。

「うまい」
「よかった」

 俺を見て嬉しそうに目を細める。また俺の胸が鳴った。なんだろう。この胸の高鳴りは。どうしてこんなに小泉さんの視線が恥ずかしいのだろう。顔が熱くなるのだろう。

「さすが、若いと代謝がいいね。汗をかいてる」

 そう言って、小泉さんは人差し指で俺の前髪をすくった。ズキッと股間が痛む。茶碗を持ったまま、咄嗟に前かがみになった。

「すいません、お茶、もらえますか」
「あ、ごめん、気付かなくて」

 小泉さんが離れて俺は静かに息を吐き出した。小泉さんに隠れながらズボンの上から勃起したものの位置をわからないようにずらした。
 どうして急に勃起した。しかもはち切れそうなほど。授業中に不意に立ち上がることはあるけど、今のは小泉さんに原因があるようなタイミングだった。いや、完全に小泉さんが原因だった。
 男相手に勃起するなんて、生まれて初めてで焦る。しかもかなり年上のおじさん相手に。

「どうぞ」

 小泉さんがお茶を置いてくれた。確かにこの人はそのへんのおじさんと比べて清潔そうだし、見た目もいいけど…。

「西浦くん? どうかした?」

 俺がじっと見つめているので、小泉さんが不思議そうに首を傾げた。

「小泉さん、離婚したんですよね」
「うん、まあね」
「浮気相手とは、どうしたんですか?」
「えっ…」

 小泉さんの目が動揺して揺れた。

「ここに来てからずっと一人みたいですけど」
「もう、会わないって決めたから」

 と伏せられた目はとても悲しそうだった。俺の胸の中はぐちゃぐちゃに乱れた。小泉さんにそんな顔をさせる浮気相手に、俺は激しく嫉妬していた。離婚までした二人に、いったい、何があったのだろう。

 男だろうが、年上だろうが、そんなのもう関係なかった。胸の高鳴りも、頬の熱さも、勃起も嫉妬も、全部小泉さんから来てるんだ。
 俺はこの人が好きなんだ。好きになってしまってるんだ。

「俺のこと、下の名前で呼んで下さいよ」
「え、急だね」

 小泉さんに笑顔が戻る。

「元気って書いて、もときって言うんです」

 俺にはその笑顔が一瞬固まったように見えた。

「どうかしましたか?」
「ううん。とてもいい名前だね。親御さんの願いが表れてるよ」

 そう言う小泉さんの笑顔はどこかぎこちない気がする。

「もときくん」

 と何かを確かめるように口の中で呟いている。

「元気くん、おかわりはどうかな?」

 もとの笑顔に戻って小泉さんは右手を差し出した。



初恋のあとさき



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2014-10-22(Wed) 20:14| 隣人| トラックバック(-)| コメント 4

ご挨拶

お越しくださりありがとうございます。 初めに「当ブログについて」をご一読くださいますようお願い致します。
管理人が以前、某掲示板で書いていたものをここで再利用しています。決してパクリでは御座いません。そしてお願い。GKさんの小説を保存しておられる方いましたらぜひご連絡頂けないでしょうか。いまとても読みたいのです…

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