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吉原と拓海 その後(2/2)

2014.07.03.Thu.
<前話はこちら>

「なに。どういうつもりだよ。いい感じだったのに」

店を出るなり吉原は不機嫌そうに口を尖らせた。

「いい感じって…あのあとホテルにでも行くつもりだったのか?」
「関係なくなーい?」

ポケットに手を突っ込み、吉原が歩き出す。駅とは反対方向。どこ行く気だよ。仕方なく俺もあとをついていった。
路地を曲がる。メイン道路から遠ざかっていく。

「なんでついてくんの」
「みんなに連れて帰るって言ったからな」
「っていうか、もう俺と話していいのかよ」
「……ああ」
「ふぅん。じゃ、もうあの夜のこと、忘れられたんだ?」
「忘れてない。忘れられるわけがない。お前はどうしてそんな簡単になかったことに出来るんだ?」
「出来るわけないじゃん」

怒った口調で俺を睨む。

「だって、でも、おまえ」
「俺は!おまえの出方探ってたの!お前が少しでも後悔してそうだったらなかったことにしようと思って!今まで通りでいられなくなったら嫌だったから!だから忘れた振りしてやってたの!なかったことにしてやってたの!簡単?ふざけんな!必死だったよ俺は!この鈍感くそ馬鹿やろう!」

と顔を背ける。
俺は吉原の肩を掴んでこちらへ向かせた。意地でも顔を見せたくないのか、首を捻ってそっぽを向く。

「じゃあ、じゃあお前もどきどきした?俺といるとそわそわして緊張した?」
「してるよ。今だって。ほれ、見てみ」

吉原は手を持ち上げた。細かく震えている。

「だってお前…そんな素振り少しも見せないから」
「見せたら引くだろ」

気まずそうに呟く。
いつものようにおちゃらけて見えていたのも、全部演技だったっていうのか?忘れたなんて言ったのは全部ウソ?俺との関係を壊さないために?

「お前、俺のこと、好きなの?」

鋭く剣呑な目が俺を睨み付ける。

「ど直球でそんなこと聞く?無神経にもほどがあるよ」
「俺は、好きだ!」

吉原の体がびくっと震えた。

「あれからずっと意識してまともに顔も見れなかった。それなのにお前が俺以外の誰かと仲良くしてるの見ると腹が立って仕方なかった。今日だって、お前が女の手を握ってるのみてどうかしそうだった。お前が好きだ。お前は、俺のそばにいるべきだ!」
「ほんとに…俺が好き?」
「好きだ」

びっくりした顔をしていた吉原が、ふにゃりと表情を崩した。

「へへっ…やばい、泣きそう俺」

吉原は本当に泣き出しそうな顔で笑った。



前と同じホテルに入った。
いっしょにシャワーを浴びながら、お互いを求めてキスしあった。触らずとも完全勃起したものを擦りあいながら舌を絡める。

「拓海ぃ、俺もう、立ってられない」

俺の首にしがみついてくる。
拓海と名前を呼ばれることがこんなに幸せなことだったなんて。
吉原の体を抱き上げてベッドへ運ぶ。濡れたままの体にキスの雨を降らしながら、ローションを手に出し、吉原の後ろへ指を入れる。

「んんっ…あ…早くきて…!」
「広げてから」
「意地悪すんなよ…拓海だって早く入れたくてウズウズしてるくせに」

手を伸ばし、俺のペニスを握ってコスコス扱く。一回出したくらいじゃ今日の俺は収まらないから、俺は俺で指を動かし続けた。

「んっ、あっ…もういいって、拓海…っ…早く、欲しいんだってば…!」
「まだ待て」
「も…焦らすとか…どこで覚えたこのっ…!」

中で指を押し広げる。
吉原はシーツを掴み、じれったい快感に身を捩らせた。

「お前、中で出されるの好きだよな?」
「はぁ?あの時は…っ、はやく拓海食っちまおうと急いでたから」
「もしかして、結構前から俺のこと好きだった?」

ボンと音がしそうなほど顔を真っ赤にさせると吉原は「あぁ、そうだよ!」とやけっぱちに叫んだ。

「ぶっちゃけると入社したときから狙ってた!」
「執念の勝利だな」
「俺の魅力にほだされたんだよ、拓海が」
「うん、そうだな」

素直に認めると吉原は「もー、調子狂うわ」と手で顔を覆い隠した。

足を広げ、その中心へペニスを突き立てる。吉原が呻いて顎を逸らす。

「あ、は…あ…、あいかわらず、チンコ、でかい…」
「とりあえず一回出すな」
「お通しみたいに言うな」

腰を抱え持ち、ゆっくり出し入れする。浅い場所が感じるらしく、そこを擦ると吉原は身悶えた。

「アァ…あっ…拓海ぃ…アッ、気持ちいいっ…」
「俺も…もう、出そう」
「中に出して、拓海…」

やっぱり中出しされるのすきなんじゃないか。と思ったが口には出さず腰を動かし続けた。
あっという間の射精を迎える。たっぷり吐き出したにもかかわらず、俺のチンコは衰える気配がない。

「はぁ…あ、ん…すごい…拓海のおっきいまんま…」
「ちょっと早く動くぞ」
「うん、きて」

俺の腕を掴んで吉原も俺の動きに腰を合わせてくる。跳ねた水音が繋がった場所から聞こえてくる。吉原の喘ぎ声も大きくなっていった。

「あっ!ん!あぁ…っ、拓海ぃ…アッ、はぁ……んっ、あっ、もっと、もっとして!」
「これ、好きだろ」

浅く早く腰を律動させると吉原は乱れに乱れた。

「あっあっあぁっ…!いいっ、気持ちいい…!!それ、好き…!やっ…あぁんっ!だめっ、イッちゃうよ、拓海!」
「エロいな、吉原」
「ひぃんっ、いっ、あぁっ…アッ、やっ…あっ、んっ…イク…イクッ……!!」

俺の腕をぎゅっと掴みながら吉原は体を硬直させ、射精した。
赤く色づいた体に白い液体が飛び散る。
ハァハァと口で息をしながら吉原が俺を見上げる。欲望のまま吉原にキスした。濡れた前髪を撫でつけてやると吉原は気持ちよさそうに目を閉じた。

「好きだぞ、吉原」
「また後悔すんじゃないの?」
「もうしない。俺はおまえに夢中だから」
「俺ってばフェロモン出まくりでごめんね、拓海ちゃん」
「まったく。他の誰かとこんなことしたら許さないからな」
「…やっぱり拓海ってかっこいい」

うっとり呟くと俺の頭を掻き抱いて口を合わせてくる。
その日も、寝る間を惜しんで俺たちはセックスした。

ホテルを出たときの朝日はあいかわらず容赦なく罪人を辱める。だが吉原と一緒なら俺はむしろ清々しい気持ちで朝日を浴びることが出来た。



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吉原と拓海 その後(1/2)

2014.07.02.Wed.
<前話「吉原と拓海」はこちら>

全身で意識していながら。

「拓海ちゃん、今日飲み行こーよー」

吉原に誘われると緊張して、目も合わせられなくなる。

「いや今日は帰るわ」
「あぁー…あそ」

何度も誘ってくれるのに、その全部を断り続けていると、さすがに吉原も顔から笑顔を消して、面白くなさそうに前髪を掻き崩した。

「なぁ、拓海」

声を潜め、チラと左右を確認する。

「アレ以来、俺によそよそしいけど、なに、怒ってんの?」

アレ。

十日ほど前、彼女に振られた吉原の自棄酒に付き合い、休憩するために入ったホテルで吉原とセックスしてしまった。調子に乗って二度、三度と吉原を求め、ほとんど寝ないまま男二人で朝のホテルを出た。せわしない朝の気配に、爛れた精神状態も一気に覚醒して、限界超えた羞恥に混乱した。
相手は同僚だ。友人だ。男同士だ。どんな顔して仕事すりゃいいんだよ。
なのに吉原は普段とまったくかわらない。どんだけ慣れてんだよ。どんだけ俺ってお前にとって軽い存在なんだよ。

「怒ってねえけど」
「けど?」

俺の肩に腕を乗せて顔を覗きこんでくる。近い。顔が近い。息遣いが近い。顔が熱くなる。動悸が早くなる。

「離れろ。会社だぞ」

照れ隠しで吉原の腕を振り払い肩を押す。吉原がむっと眉を寄せた。

「会社だからなに。話もしちゃいけねえの?飲み誘っても来ないのに、じゃあいつ話できんのよ。なぁ、おい、拓海」
「うるさい。声がでかい」

帰り支度をしている同僚たちに視線を走らせる。誰もこっちを見ていない。
吉原が舌打ちした。

「はいはい、もういい。拓海の考えてることはわかってるよ。どうせ後悔してんだろ。止めときゃよかった、どんな顔すりゃいいかわかんないって思ってんだろ。ばぁか、気にし過ぎなんだよ。あんなの一夜の過ちってやつだろ。さっさと忘れてなかったことにしちゃえばいいんだよ。俺はそうした」

えっ、と吉原の顔を見れば、吉原は珍しく難しい顔つきでため息をついた。

「ま、いきなり普通に戻るなんて拓海にゃできないだろうから、そっちの気持ちの整理がつくまでは俺からあんま話しかけないよ。でも仕事は別な。ちゃんと受け答えしてくれよ、拓海ちゃん」
「それくらいわかってる」

嫌味な口調にむっと言い返したが、はっきり言って今までの俺の態度は業務に支障をきたすレベルで吉原によそよそしかった。普段おちゃらけている吉原に、仕事態度で注意をされる日がくるとは不覚。

「じゃ、そゆことで」

俺の肩をポンと叩いたあと、吉原はほかの同僚のところへ行き、そこで「今日飲みいける人~」と声をかけていた。それに何人かが手をあげる。女子社員の一人が「長井くんは?」と俺のほうを見た。

「拓海くんには振られました~」

俺が返事をする前に吉原が言った。

「彼女にも振られて親友にも振られたかわいそうな俺を慰めてください」

吉原のまわりで笑いが起こる。

「吉原くん彼女と別れたの?」
「そうなんですよぉ。しかも三股ですよ、ありえねぇ」
「やだぁ、可哀そう、私が彼女になったげようか?」
「姐さんが?いやぁ、ちょっと勘弁して欲しいっす」
「この野郎」

再び笑い声の合唱。和気あいあいとした雰囲気を横目に、俺は帰り支度をすると静かにその場を離れた。



エレベーターのボタンを押す。何度も押す。カチカチカチカチカチカチ…
別に苛立っているわけじゃない。吉原がああいう性格だってことはわかってたはずだ。俺とのことを「なかったこと」にして「忘れて」しまえる奴なんだ。だから次の日から、というかその日の朝からもう普段通り、ケロッとカラッとした態度で俺と接することが出来たんだ。
一人で気にして恥ずかしがったり動揺したりして、俺が馬鹿みたいじゃないか。
しかもなんだ。「仕事は別な」とかって俺に説教かましやがって。
「いきなり普通に戻るなんて拓海にゃできないだろうから、そっちの気持ちの整理がつくまでは俺からあんま話しかけないよ」とか偉そうに!
俺に相手されなくなった途端、媚びる相手変えやがって。あの尻軽め。結局誰でもいいのかよ。どうせ今日の飲みのあと、誰か誘ってホテル連れ込む気なんだろ!
カチカチカチカチカチカチ…ッ

「っせぇんだよ、エレベーター!」

突き指しそうな勢いでボタンを連打した。



あれ以来、吉原はほんとに俺に話しかけなくなった。仕事のことでも、誰かに言づけを頼んだりして、出来るだけ俺との接触を避けていた。どうしても直接話さなきゃいけない事柄が発生した場合、吉原が眉をひそめて躊躇するのを目の当たりにしてしまった。こっちだってお前と話したくねえわ。

「た…、あー…あのさ」

とかって嫌々話しかけてくる。最初の「た…」は拓海と呼びかけてやめたのだろうと推測する。もう名前を呼ぶのも嫌ってか。あぁそうかいそうかい。俺だってお前のこと下の名前で呼んだことないから別にいいけど!
二人とも硬い態度で、他人行儀。まわりの同僚にはすぐ気付かれて「喧嘩?」と何度も聞かれた。

「喧嘩は子供のすることですよ」

と返事をしたあとで、その態度が子供じみてると猛烈に反省したりした。

俺だけが調子を崩している。吉原は相変わらずのおちゃらけた感じで女子社員をからかって怒られたり、ハメを外し過ぎて上司に叱られていたり、先輩社員に取り入ってメシの約束取り付けていたり。あいつのまわりには平均的にほどよく喜怒哀楽がちりばめられている。猪突猛進で1つのことしかできない俺にはそのバランスの良さが羨ましくもあり、妬ましくもある。
あいつと一緒にいるとそのお零れを頂戴することが出来た。距離を取って初めてそんなことに気付いた。

初めての契約を一緒に喜び合った。失敗したときは助け合った。嫌な取引相手の愚痴を言いあった。悔しさやしんどさは分かち合い、喜びや感動は二人なら倍になった。
一人では乗り切れなかったことも乗り切れた。仕事を楽しいと思えたのは、あいつがそばにいたからだ。

このままあいつと疎遠になってしまうのは嫌だな、と素直に思った。
親友なんて、作ろうと思って作れるものじゃない。この先、吉原ほど気が置けない存在が現れるとは思えない。できれば前みたいに戻りたい。
だったら簡単だ。俺がそわそわしなければいいだけの話だ。吉原みたいにあの夜のことをさっさと忘れてしまえばいいのだ。



「ご飯食べに行くひと~」

仕事終わりに誰かが言いだし、吉原が「行く行く!」と返事をしているのを見て、俺も「行きます」と返事をした。吉原が意外そうに俺を見ている。

「行っちゃ悪いのか」

その目を睨み返してしまったのは、俺がまだ吉原を意識しているのと、話をするのが久しぶりでアガッてしまっているせいだった。吉原は「別に」とひょいと肩を持ち上げた。

会社を出て、どこに行くか話し合い、駅に行く途中にある焼鳥屋に決定した。先頭集団から離れて俺は最後尾をついていく。吉原は真ん中あたりでいろんな人にいじられながら、うまく言い返して笑いを誘っている。その人当たりの良さ、切り返しのうまさで何度助けられたか知れない。
視線に気づいた吉原が俺を見る。その顔から徐々に笑顔が消えていく。完全に消える前に吉原は前へ向き直った。
俺を見て笑みを消す吉原を見ているのは、正直、つらかった。



座敷に通された。俺は右手前の角に座り、吉原は右手奥の角。俺たちの間に女子社員が二人。
酒も進みどうでもいい話がテーブルの上を行き交う。酔いがまわってみんなの声が大きくなっていく。吉原が下ネタを連発し、女子社員から顰蹙をかっている。
俺は酒をチビチビやりながら、みんなが食い残した皿の一口を片付けていた。

「吉原、長井、お前らまだ喧嘩してるのか?」

先輩社員に急に名前を呼ばれ、俺は吉原と顔を見合わせた。赤い顔をしているくせに、俺を見る吉原の目は素面みたいに醒めきっていた。

「喧嘩してるわけじゃないですよ」

へらへら笑いながら吉原が否定する。

「子供じゃあるまいし、いつも一緒にはいませんよ」
「仲良かったじゃないか、お前ら」
「前の方が異常だったんですって。男同士で四六時中一緒にいたら気持ち悪いっしょ」

そう言うと吉原はビールを呷って一気に飲み干した。店員を呼び止め、次の一杯を注文している。

「吉原くん、飲み過ぎじゃない?」

隣の女子社員がたしなめる。吉原は彼女にもたれかかり、「介抱してくれる?」と笑いかけた。人をたらし込むときの笑顔だ。現に女子社員は「もう、何言ってるの」と言いながら満更でもない様子。
テーブルの下で、吉原の手が膝の上に置いてある彼女の手を握るのが見えた。あの夜、ホテルで俺に見せたような、妖しい目つきで女子社員を見つめている。

「吉原!」

俺は立ち上がると吉原の首根っこを掴んで引っ張り立たせた。

「飲み過ぎだ、このばか!」
「ちょっ…痛いよっ、人を猫みたいに」
「こいつ悪酔いしてるみたいなんで、連れて帰ります。今日はお疲れ様でした!」

引きずるように吉原を連れて店を出た。


青年発火点