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シンデレラアイドル(2/2)

2014.07.01.Tue.
<前話はこちら>

部屋に入るなり光流は吹きだした。

「ほんとにきったない部屋だなぁ」
「だから言ったろ」
「ここまでとは」

2Kのハイツ。手前も奥の部屋も荷物とゴミと脱ぎ散らかした服で足の踏み場もない。物がないのはいつも座る座椅子とベッドの上くらい。光流は落ち着く場所を探してベッドの上に座った。

「大人になったな、俺ら」

冷蔵庫からビールを出して光流に手渡し、俺の隣に腰を落とした。

「かっちゃんとお酒飲んでんだもんね」
「その化粧取んないの?」
「12時には帰らないといけないから、一応それまでは、ね」
「シンデレラかよ」
「じゃあかっちゃんが王子さま?」

ひっくり返って光流が笑い声をあげる。ガラじゃなくて悪かったな。

「おい、笑い過ぎ。ビール零すだろが」
「だって…かっちゃんは王子さまじゃないよ~」
「うるせえ」

光流から缶を取り上げようと手を伸ばすと、光流が下から腕をまわしてきた。

「零すって」
「ねぇ、王子さま、私、きれい?」

笑いを収めた怪しい眼差しが俺を見つめる。

「うん、きれい」

正直に答えたら光流に引き寄せられた。あ、と思う間もなく二人の唇が合わさる。触れるだけですぐ離れたが、事故でも偶然でもない、確かにそれはキスと呼べるものだった。

「酔うには早くね?」
「嫌だったら突っぱねてね、かっちゃん」

掠れた声で言うと、光流は俺と入れ替わり、上になった。

「ずっと好きだった。ずっと、忘れられなかった」

光流の顔がおりてくる。口紅を塗った唇が、何度も角度をかえて押し付けられる。俺が抵抗しないとみると、舌を差し込んできた。俺は光流と舌を絡めた。
光流の手が俺のワイシャツのボタンを外し、中に入って触れてくる。

「いいの、かっちゃん」
「俺も好きだった」
「うそだ…」
「あの頃は気付いてなかった…でも今日会って、あれは恋愛感情だったって気付いた」
「もっと早くに気付いてくれてたら俺、芸能人にならなかったのに」
「俺のせいなのか?」
「好きでいるのが辛いから、距離起きたくて芸能界に入ったんだよ」
「ごめん」
「謝る必要はないよ。かっちゃん鈍いから、会わなかった時間は必要な時間だったんだよ」

言うと光流は俺のシャツをたくしあげた。俺の乳首に吸い付いてチュウチュウと音を立てる。光流の口の中で俺の乳首が立ち上がる。

「…んっ…」
「俺たち両想いだよね?」
「う、うん」
「じゃあ、いいよね」

光流の手が俺のベルトにかかった。


あっちぃ、と言って光流は途中でカツラを投げ捨てた。化粧のせいでカツラを取ってもショートカットの女にしか見えない。しかし首から下は無駄な贅肉が一切そぎ落とされた引き締まった男の体躯。そんなアンバランスな光流に俺はいま抱かれている。
俺の腰を抱え上げて打ち付けてくる。奥まで穿たれて俺は顎を逸らしながら声をあげた。

「んっ!…んぁ…あ、う…っ!」
「ずっと夢見てた…かっちゃんとこうするの…」

独白のように呟きながら、何かに追われているような性急さで腰を振る。ポタリと光流の汗が零れ落ちる。そんなにがっつかなくてもいいんだぞ、と光流の顔に手を伸ばせば、その手の平にキスをしてくる。それこそお姫様の手に口づけをする王子さまのように。

「はっ…あっ、あぁ、んっ…!!」

イキそう。ペニスを握りしめて上下に擦る。

「んっ…あっ、あぁっ…イく…あぁ…光流……!」

キュウと陰嚢が硬く持ち上がり、精液が駆け抜けた。ボタボタッ、と俺の胸を汚す。達した快感で中の光流を締め付ける。

「かっちゃん、俺も出していい?中に出してもいい?」

正直そんなこと言われても許可するこっちは恥ずかしいだけなんだが。引き寄せた枕で顔を隠しながら「中に、出して」と俺は返事した。
一つの目的のために光流が激しく律動する。イッたばかりでも内部を擦られれると気持ちよくて、勝手に出てくる声を枕で殺しながら、奥に吐き出された光流の体液に体をビクビク震わせた。


光流は再びかつらをつけるとベッドから立ち上がった。

「泊まってけねーの?」
「うん。明日早いから」
「今度いつ会える?」
「来週から一ヶ月アメリカなんだ」
「なんで」

驚いて問い返すと光流は少し申し訳なさそうに「あっちで映画の撮影」と答えた。

「すごいじゃん」
「行きたくない」

と俺に抱き付いてくる。

「せっかくかっちゃんと両想いになれたのに」
「俺とはいつでも会えるだろがよ」
「芸能人、辞めたくなってきた」
「馬鹿たれ。仕事だ。行け」
「かっちゃんは寂しくないの?」
「寂しいに決まってんだろ。だから撮影終わったらすぐ俺んとこすっ飛んで来いよ」
「うん」

俺の首元ですうぅっと深く息を吸い込む。

「じゃあ行ってきます」
「行ってら」

努めて明るく手を振って光流を見送る。バタン、と扉が締められた。



「菅野光流、もうすぐ映画の撮影終わって帰ってくるんだって~」

エレベーターの中で、仕事終わりの女子社員が喋っている。俺は光流の名前に反応して耳を大きくした。

「すごいよねぇ。ハリウッドデビューだよ。しかも端役じゃなくて準主役級の役だもん。やっぱ光流すごいわぁ」

前を向いたまま俺はニヤニヤしながらその話を聞いていた。光流が褒められるのは嬉しい。アメリカに行っている間も連絡はこまめに取り合っていたから光流が帰り支度を始めたことを俺は知っていた。明後日帰国予定。その日が待ち遠しくて仕方がない。

一階にとまったエレベーターが開き、中にいた同僚たちと一緒に外へ出る。会社のエントランスを出たところで「かっちゃん」と呼び止められた。
そんな呼び方をするのはただ一人。声のしたほうを振り返ると、スレンダーな女が柱の影から姿を現した。

「――みっ……!!」

光流、と言いかけて慌てて口を塞ぐ。立ち止まった同僚たちが興味津々といった目で光流を見ている。

「仕事、お疲れ様」

完璧な女声と完璧なメイクだが、サングラスをしていない。大丈夫か!?バレねーか?!
心配をよそに光流は俺の隣に並ぶと腕を絡めてきた。好奇心がはちきれそうな同僚へ向かってニコリと微笑みながら「どうも」と会釈する。

「ど…どうも…あの、敷原くんの……」
「彼女です」

同僚たちがどよめいた。そりゃ俺とこいつじゃ釣り合ってないわな。

「いつも克行さんがお世話になってます」
「い、いやぁ、そんな」

どきまぎしている同僚を見るのは楽しい。なんのかんのと騒いでいた女子社員たちは誰一人目の前のモデルみたいな女が菅野光流だとは気付かない。上から下まで眺めまわして嘆息を漏らすのが精いっぱい。

「それじゃ、俺たちはこれで。お疲れ様した~」

同僚たちに見守れるなか俺と光流は会社前をあとにした。


「帰ってくんの明後日って聞いたぞ」

腕を組んだまま光流に囁く。まだ背後に同僚たちの視線を感じる。明日はきっと質問攻めにあうな。

「驚かせたくて。それにかっちゃんが浮気してないかチェックしたかったし、恋人がいるって会社の人たちに教えときたかったから」
「そんなことせんでも俺はモテんわ」
「俺だけの王子さまでいてよね、かっちゃん」
「今日も12時に帰んの?」
「朝までいられるよッ」

最後の「よッ」のところで光流は俺にキスしてきた。天下の往来、公衆の面前、同僚たちの目の前で。

「――ばッ…か…!」

お前は撮影で慣れてるかもしれないが俺は素人なんだぞ。顔を真っ赤にしながら光流を引きはがそうとしたら「逢いたかった」と切ない目で言われて…思わず光流を引き寄せていた。後ろから囃し立てる声と口笛が聞こえるがもうなんかそんなの全部どうでもよくなって、一か月ぶりの光流の体を強く抱きしめた。


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シンデレラアイドル(1/2)

2014.06.30.Mon.
今日もテレビにあいつが出ている。新しい曲のプロモーションで大忙し。国民的アイドルスターの菅野光流。数年前まで近所に住んでた俺の幼馴染みだ。


会社に行くと女子社員が朝から騒がしい。

「なんかあったんですか」

そばにいる先輩社員に声をかけると、耳ざとい女子社員の一人が振り返り「今日、菅野光流がすぐそこでドラマのロケやるんだって!」と興奮気味に教えてくれた。
芸能界の仕事が忙しくなり、高校三年にあがる春に家を出てから、光流とはほとんど会っていなかった。年に1、2度は実家に帰ってきているらしいが、俺も大学入学とともに家を離れたから、ここ5、6年はまったく会っていない。テレビで活躍している姿を見るくらいで。

「好きなんですか、菅野光流」
「好きに決まってんじゃん。嫌いな女子がいる?!」
「ミーハーなのを嫌う人はいるでしょ」
「光流はただの流行アイドルじゃないの。超努力家だし、超演技うまいし。嫌いだっていう女も光流が目の前に現れたら絶対目の色変えてキャーキャー言うに決まってるわよ!だってあのイケメン!彼氏なんて贅沢言わないから弟になって欲しい~!」

幼いころ、光流はよく女の子に間違われていた。成長するにつれ男らしくなって女に間違われることはなくなったが、街を歩けばナンパやスカウトがあとを絶たなかった。今の事務所の社長が直々に家まで出向いて両親と光流を説得し、芸能界入りが決まったのが高校一年のとき。
そのときすでに光流の私設ファンクラブがあった。光流を一目見るために別の学校から女の子が出待ちする光景が毎日見られた。その時からもう光流は別格だったのだ。
デビュー後はとんとん拍子に売れていった。出す曲、出る映画、すべてがヒット。順調なのはいいことだが、忙しすぎて体を壊さないかと、あいつを知っている俺は心配してしまう。

「どこでロケやるんですか」
「やだ、敷原くんもファン?」
「いや…まぁ、はい」

光流と幼馴染みだということは新しく知り合う人には隠している。

「そうなのよねぇ、意外と男のファンも多いのよね、光流って」
「で、どこでロケやるんです?」
「そこの駅と反対側の歩道橋で、昼からだって」

きっと見物客でいっぱいだろうが、昼休みに覗いてみよう。久しぶりに光流が動く姿をこの目で見てみたい。


騒がしい女子社員のあとから俺も件の歩道橋へ向かった。行く途中からそわそわしたOLや通行人に出くわした。行く方向が同じなのでみんな菅野光流が目当てなのだろう。
歩道橋のそばではスタッフらしい人が交通整理を行っていた。手前に信号があるので、そちらでお渡り下さい、と誘導している。
大半が、歩道橋の上で撮影している菅野光流を見上げて足を止める。俺も歩道の脇へ寄って離れた場所から小さく見える光流を見上げた。
女優さんを相手になにやら演技をしている。

デビュー作になる映画で光流は新人賞をとっていた。俺も光流の作品とあって映画館まで見に行ったが、これが小さい頃から泥だらけになって一緒に遊んでいた光流かと驚くほど、スクリーンに映し出された光流は別人だった。
雑誌では透明感溢れる演技、しかし人目を引きつける圧倒的存在感がある、アイドルの枠を超えたアイドル、今後の活躍から目が離せない、と絶賛されていた。
ずいぶん遠い存在になっちまったな。家のチャイムを押せばすぐに会える幼馴染みだったのに。もしかしたらあいつはもう俺のことなんて忘れているかもしれない。

女優が光流に抱き付いた。光流もそれを抱き留める。
チリチリ、と胸になにかが絡まる。
モテるがオクテで女と付き合ったこともなかったくせに、今じゃ公衆の面前で抱き合ってキスまでしていやがる。

「いまは女の子と付き合うより、かっちゃんと一緒にいるほうが楽しいから」

そう言っていたのはほんの数年前のことなのに。

カットの声がかかり、光流と女優が離れていく。光流は髪をセットしなおしてもらいながら、別の誰かに声をかけ、台本っぽいものを読むとそこへ何かを書きつけたり、また別の誰かと話をしたりと、きゃあきゃあ騒ぐギャラリーを見る暇もない。
昔の光流はのんびり屋で競争事が嫌いだった。人気のバロメーターがはっきり数字に出る世界で第一線で活躍しているのが不思議なくらいだ。

しばらく光流の働く姿を見ていたら、こそこそと人が近寄ってきて、「敷原さんですか」と声をかけてきた。

「そうですけど」
「菅野のマネージャーの宗田といいます。菅野がこれをあなたに」

手渡された小さな紙切れ。8桁の数字が並んでいる。

「?」
「菅野の携帯番号です。敷原さんなら大丈夫だから渡すように言われてきました」
「光流が?」

歩道橋を見上げる。光流は撮影中。

「あいつ、よく俺に気付いたな」
「本人の携帯の番号ですので、取扱いには…」
「わかってます。誰にも言いませんよ」
「お願いします。それでは」

宗田と名乗った男はそそくさと立ち去った。
台詞らしい文字が印字されいている紙切れ。きっと台本を引きちぎったのだろう。そこに書き殴られた8個の数字。光流の文字。もう一度歩道橋を見上げると、光流もこちらを見ていた。


早々に仕事を切り上げ、飲みに誘われたのも断って、俺は足早に会社を出た。
歩きながら昼にもらった紙切れを広げる。頭に090を足して、もらった番号へかけてみる。数コールで留守電に繋がる。きっと仕事が忙しいんだろう。諦めた直後、さっきの番号から折り返しの電話。出ると「ごめん」と光流の弾んだ声。

「こっちこそ。いま電話して大丈夫なのか?」
「うん、今日はもう終わったんだ」
「こうやって話すの久しぶりだな」
「ほんとに。お昼にかっちゃん見たとき驚いたよ」
「おまえ、すげえ芸能人してた」
「だって芸能人だもん」

光流の笑い声の後ろで雑音が聞こえてくる。

「いま、外?」
「うん。駅前のマック」
「おまっ…そんなとこいたら大騒ぎになるだろ」
「へへっ。それが大丈夫なんだな。かっちゃん仕事終わったんだったら会えない?」
「俺はいいけど…駅前のマック?」
「うん。もう食べ終わったから、駅で待ってる」
「わかった…つうかそんな目立つ場所で待ち合わせしなくても」
「ここがいいんだってば。じゃあ待ってるね!早く来てよ!」

わかったと返事をして通話を切ると、俺は急いで駅へ向かった。


帰宅時間の駅前は、これから帰る人、遊びに行く人、誰かを待っている人、ティッシュ配りやチラシ配りの人でけっこう騒がしい。この中に菅野光流が現れたら大パニック間違いなしだ。きっと変装しているのだろうが、バレたときのことを思うと変な汗をかいてしまう。
帽子とサングラス、マスク姿の怪しい男を探す。いない。改札のほうにも行ってみたがいない。まさかあいつ、俺が来る前に見つかったんじゃ…。
電話をかけてみようと携帯を取り出す。通話履歴から光流の番号を押し、耳に当ててあたりを見渡す。

「はい」
「光流?いまどこ?」
「駅にいるよ」
「え、どこよ?」
「ここだって」

どこだよ?キョロキョロしていたらこちらに向かって歩いてくる女が一人。細身のジーンズですらっと長い脚を強調するモデルみたいな体型の…サングラスをかけていても美人なんだろうなってすぐわかる…
長いストレートの髪を揺らしながら、モデルみたいな女が立ち止まった。

「ほら、ここにいる」

目の前の女の口の動きと、耳に聞こえる光流の声が一致した。

「みっ、み…!」
「しーっ」

女は口に人差し指を当てた。

「これなら絶対バレない」

光流は悪戯っぽく笑った。


「もー、まじで焦ったわ」
「ははっ、ごめんごめん」

車を停めているというパーキングに向かって光流と歩いた。隣の光流は誰がどう見ても女…しかも飛び切り美人の…だからすれ違う男が光流をチラチラ見ていく。二度見したりガン見したりと、同じ男として恥ずかしくなる男の性を隣で見せつけられたが、当の光流は人から見られることに慣れているのかまったく意に介していないようだった。

「お姉さん、すっごいスタイルいいね。ちょっとでいいんで時間ないかな」

隣に俺がいるのに声をかけてくる猛者もいた。

「彼と一緒でいい?」

どこから出してるんだと驚くような女声で言うと、光流は俺の腕に腕を絡めてきた。

「あ、いいや、また今度お願いね」

なにがまた今度だ馬鹿野郎。今度なんか二度とあるか。
隣で光流がクスクスと笑う。

「男にナンパされちゃった」
「そんな格好してりゃな。自分でやったのか?」
「メイクさんに頼んだ。176センチもあるのにバレないもんだね」
「お前痩せてっからな。ちゃんと食ってるか?」
「体脂肪5パー以下だよ」
「役作り?」
「そんなとこ」
「大変だな」
「慣れた」

慣れた、と言い放つ光流を横目に見る。プロの顔だな、と誇らしくなると同時に、寂しさが募る。

「そろそろ腕、はなしたら?」
「いいじゃん。恋人同士って設定なんだから。今日はデートだよ、かっちゃん。だから駅前で待ってたんだ」
「デートってお前…。そういえば昼、女優とキスしてたな」
「妬ける?」
「妬くか馬鹿」
「けっこう人気ある女優さんだよ」
「…………」

自分の勘違いに気付いて横を向いた。嫉妬の対象を間違えている。

「で。今日のデートはどこに連れて行けばいい?」
「かっちゃんの家」
「狭いし散らかってるぞ」
「余計に見たくなった」

にっと笑って光流が肩にもたれかかってくる。
そういえばこいつ、昔からスキンシップが激しい奴だったな。彼女を作らないで俺とばっかりいるから、ホモかもしれないなんて噂たてられたりして。その噂を光流に言ったら「それ、ほんとにしちゃおうか」って悪戯っぽく笑ってたっけ。嫌だよ馬鹿って言い返したけど、俺とならそう思われてもいいんだと、ほんとは少し嬉しかったんだ。

パーキングに停めてある高級車に光流が乗り込む。俺は助手席でナビをして、今度は自宅近くのパーキングに車を停めた。
マンションまでの短い距離を、光流はさっきと同じように俺と腕を組んだ。俺もそのままにさせた。他愛ない近況報告をしている間に、光流の手が下がり、俺の手を握ってきた。見た目は女でも指は男のものだ。
その硬い手を握り返すと光流が俺のほうを向いた。運転するときにサングラスを外したとは言え、プロの手によってメイクされているので光流とは似て非なる顔がすぐそばで俺を見つめている。
光流の面影を探して俺も見つめ返した。すぐ、光流を見つけることができた。当然造形は昔のまま。ただ睫毛が長くなり、唇が艶々として、頬が色づいているくらい。大人になったな、と素直な感想が頭に浮かび、頬が緩んだ。

「かっちゃん」

かすれた声で光流が俺を呼ぶ。

「どうした」
「昔のまんま。かわらないね」
「成長してないってか」
「そういう意味じゃなくて。かっちゃんといると安心するっていう意味だよ」
「仕事きついのか?息抜きしたくなったらいつでも来いよ」
「いいの?」
「見つからないようにな」
「うん」

ぴったりくっついて夜道を歩く。誰も男同士だと気付かない。菅野光流だと気付かない。静かな時間、歩く足音だけが俺たちについてくる。


兄の忠告