旦那さん(2/2)
2014.05.28.Wed.
<前話はこちら>
服を剥ぎ取り、露になった股間へ顔を埋める。しゃぶって吸い上げると、旦那さんはすすり泣きのような声を漏らした。
「あ、あ、いや……やめてくれ……」
「いっぱい出てくる。旦那さんのこれは、喜んでるみたいですよ」
根元を握って扱いた。先から滔々と蜜が溢れる。
手を動かしながら体のあちこちにキスをした。腰骨にキスしたとき旦那さんはビクッと体を震わせ、腹を舐めたら身をよじり、乳首吸ったら嬌声をあげた。
「もう、あぁっ、もうやめて、くださ、い…!あっ、あっ、いや、いっ、あ、あぁっ…!」
旦那さんは全身で感じながら射精した。旦那さんの腹に飛んだ精液に、俺は勃起したペニスの先を擦り付けた。
「はぁっ、はっ…なにを、するつもりですか…」
旦那さんの目が驚愕に見開かれる。質問していながら、これからわが身に起こることを理解している。
「旦那さんが色っぽいからいけないんです」
「僕が」
「部長にあなたは勿体ない。今度は俺のものになってください」
「んっ、んんっ、んぁっ…!」
先端を押し込むと旦那さんは顔を歪め、俺の腕に爪を立てた。
暴れた足がガラステーブルに当たり、ガチャンと耳障りな音を立てる。その音に驚いて、そこがギュッと締まった。
「いっ、ちょ…力、抜いて下さい」
「あっ、ごめん……」
犯されているのに謝る旦那さんがとてつもなく愛おしかった。
竿部分を入れるときは旦那さんのペニスを扱きながら、あちこちキスして出来るだけゆっくり動いた。全部入ったときには半立ち程度に復活していた。
「すいません、俺のでかいから」
「もうやめて下さい、これ以上は…っ」
「ここまできてそれは無理です。あなたを一目見たときから、俺のなかで何かが壊れてしまった」
潤んだ目が俺に向けられる。とても悲しい目だった。そんな目をしないで。
口にキスした。拒む唇をむりやりこじ開け、舌を差し込み中を弄る。押し戻す動きが裏目に出て、俺と旦那さんの舌が縺れ合う。
本能的に腰を動かしていた。少し擦られるともう出てしまいそうだった。
「先に一度出していいですか」
「えっ、だ、駄目です、そんな、あっ、あっ、だめ…!」
三擦り半という自己最速記録を叩きだし、俺は満足の息を吐き出した。旦那さんは俺のしたで腕を交差させて顔を隠している。見るとペニスがしっかり自立し、ピクピクと震えていた。
「俺に中出しされて、感じちゃったんですか?」
「ちっ、違います、そんなこと…!」
ツッ、と脇腹を指で撫でると、旦那さんはビクビクッと反応した。腕のあがった脇を舐めた。
「ふっ、くっ、ん…っ、やめっ…」
くすぐったそうに脇を締める。腕がさがり現れた顔は真っ赤に染まっていた。
「可愛いですよ、旦那さん」
「んっ、やめっ、あっ」
乳首を弾くと声を跳ね上がらせる。涎を垂らしながらゆらゆら揺れるペニスを握った。熱くて硬い。扱いてやると、旦那さんの声が止まらなくなった。
部長はこの人のことを淡白だと言っていなかったっけ。
「わかった。あなたの体は女を抱くより、男に抱かれるほうが感じるんだ」
「そんなこと、あるわけ、なっ、い…ッ」
「お尻に俺のものを咥えこんで勃起させているんですよ、奥さんが別の部屋で寝てるっていうのに」
部長のことを口にすると旦那さんのあそこはまたきつく締まった。
「妻のことは、言わないでください…!」
「部長とセックスしてもこんなに気持ちよくならなかったんじゃないですか?部長、旦那さんのこと淡白だって言ってましたもん。俺には淡白な人に見えませんよ」
腰を動かした。奥を突きあげた。
旦那さんは必死に声をかみ殺しながら、顎を反らした。
「ふぅっ、うンッ、んっ、あっ、ぁっ、やめ…て…ッ!」
「あぁ、すごい…もう中、トロトロに蕩けてグチョグチョですよ」
「…ちがっ…!ンッ、ンンッ、やめて…!」
「もしかして旦那さん、過去に男とやったことあるんですか?」
「ない、僕は…っ…あっ、あっ…!やっ、め…うっ、あっ、だめ、動かな、で…!くっ、う、アァ―――ッ…!!!」
旦那さんは仰け反りながら射精した。ドクドクと精液が吐き出される。射精直後のペニスを俺は扱いた。旦那さんが噛み千切らんばかりに俺を締め付けながら体を痙攣させる。
「ほら、こんなに感じてる」
「ヒィッ――ッ!!いっ、あっ…、いやっ、触らないでっ、あっ、アァ…ッ!!」
ガクガク体が震えだす。
「もしかしてイキッぱなしなのかな?」
「いっ、いやっ、だめ、だっ、動かないで…!またっ、イキそうになる、から、また、あっ、イク、からっ…!ア――ッ!!」
アクメから抜け出せずに旦那さんが少量の精液を飛ばす。それが続くとドライでイキ続けた。そんな旦那さんを見下ろしながら、俺も二度目の精を放った。
部長が起きてくる前に片づけを済まし、嫌がる旦那さんと一緒にシャワーを浴びた。清潔になった旦那さんは朝日に輝いてとてもきれいだった。
俺が手を握ろうとすると、旦那さんは怯えて手を引っ込めた。
「好きです」
「困ります」
「俺は本気です。本気であなたを部長から奪うつもりです」
「そんなこと…非常識です。第一男同士で」
「俺はゲイです。男しか好きになれません」
困り果てた旦那さんが顔を伏せる。そのおでこにキスした。旦那さんはさらに顔を俯ける。
「これからちょくちょく遊びに伺います。強い酒を持って」
ハッと旦那さんが顔をあげる。一瞬のすきをついて唇にキスした。抵抗する体を抱き寄せて深く密着する。そろそろ部長が起きてくるかもしれない。見つかればとんでもないことになる。しかし離れがたい体だった。
「今度有給を取って昼間に来ます。入れてくれますか?」
ふるふると首を左右に振る。旦那さんが本当に困っているのが体を通して伝わってくる。だけど強く拒否できない優しさに、俺はつけ込んだ。
「このこと部長にバラしましょうか?」
旦那さんは唇を噛みしめた。
「君は悪い人です。僕を好きだと言ったその口で今度は僕を脅すんだから」
「なりふり構ってられないくらい、あなたが好きなんですよ」
俺が真剣に囁けば旦那さんは顔を赤く染めて目を伏せる。そんな思わせぶりな態度だから、可能性があるのかもと思ってしまう。
「こんな、おじさんなんかに……」
「それを言うなら、俺みたいな若造は相手にできないってことですか?」
なんと返せばいいか迷ったようで旦那さんは黙り込んだ。
「好きです。迷惑がられたって毎日あなたに好きだと言います。あなたに同じ気持ちを返してもらうまで諦めませんから、絶対」
気弱な表情になった旦那さんは、少しだけ、体から力を抜いた。
【続きを読む】
服を剥ぎ取り、露になった股間へ顔を埋める。しゃぶって吸い上げると、旦那さんはすすり泣きのような声を漏らした。
「あ、あ、いや……やめてくれ……」
「いっぱい出てくる。旦那さんのこれは、喜んでるみたいですよ」
根元を握って扱いた。先から滔々と蜜が溢れる。
手を動かしながら体のあちこちにキスをした。腰骨にキスしたとき旦那さんはビクッと体を震わせ、腹を舐めたら身をよじり、乳首吸ったら嬌声をあげた。
「もう、あぁっ、もうやめて、くださ、い…!あっ、あっ、いや、いっ、あ、あぁっ…!」
旦那さんは全身で感じながら射精した。旦那さんの腹に飛んだ精液に、俺は勃起したペニスの先を擦り付けた。
「はぁっ、はっ…なにを、するつもりですか…」
旦那さんの目が驚愕に見開かれる。質問していながら、これからわが身に起こることを理解している。
「旦那さんが色っぽいからいけないんです」
「僕が」
「部長にあなたは勿体ない。今度は俺のものになってください」
「んっ、んんっ、んぁっ…!」
先端を押し込むと旦那さんは顔を歪め、俺の腕に爪を立てた。
暴れた足がガラステーブルに当たり、ガチャンと耳障りな音を立てる。その音に驚いて、そこがギュッと締まった。
「いっ、ちょ…力、抜いて下さい」
「あっ、ごめん……」
犯されているのに謝る旦那さんがとてつもなく愛おしかった。
竿部分を入れるときは旦那さんのペニスを扱きながら、あちこちキスして出来るだけゆっくり動いた。全部入ったときには半立ち程度に復活していた。
「すいません、俺のでかいから」
「もうやめて下さい、これ以上は…っ」
「ここまできてそれは無理です。あなたを一目見たときから、俺のなかで何かが壊れてしまった」
潤んだ目が俺に向けられる。とても悲しい目だった。そんな目をしないで。
口にキスした。拒む唇をむりやりこじ開け、舌を差し込み中を弄る。押し戻す動きが裏目に出て、俺と旦那さんの舌が縺れ合う。
本能的に腰を動かしていた。少し擦られるともう出てしまいそうだった。
「先に一度出していいですか」
「えっ、だ、駄目です、そんな、あっ、あっ、だめ…!」
三擦り半という自己最速記録を叩きだし、俺は満足の息を吐き出した。旦那さんは俺のしたで腕を交差させて顔を隠している。見るとペニスがしっかり自立し、ピクピクと震えていた。
「俺に中出しされて、感じちゃったんですか?」
「ちっ、違います、そんなこと…!」
ツッ、と脇腹を指で撫でると、旦那さんはビクビクッと反応した。腕のあがった脇を舐めた。
「ふっ、くっ、ん…っ、やめっ…」
くすぐったそうに脇を締める。腕がさがり現れた顔は真っ赤に染まっていた。
「可愛いですよ、旦那さん」
「んっ、やめっ、あっ」
乳首を弾くと声を跳ね上がらせる。涎を垂らしながらゆらゆら揺れるペニスを握った。熱くて硬い。扱いてやると、旦那さんの声が止まらなくなった。
部長はこの人のことを淡白だと言っていなかったっけ。
「わかった。あなたの体は女を抱くより、男に抱かれるほうが感じるんだ」
「そんなこと、あるわけ、なっ、い…ッ」
「お尻に俺のものを咥えこんで勃起させているんですよ、奥さんが別の部屋で寝てるっていうのに」
部長のことを口にすると旦那さんのあそこはまたきつく締まった。
「妻のことは、言わないでください…!」
「部長とセックスしてもこんなに気持ちよくならなかったんじゃないですか?部長、旦那さんのこと淡白だって言ってましたもん。俺には淡白な人に見えませんよ」
腰を動かした。奥を突きあげた。
旦那さんは必死に声をかみ殺しながら、顎を反らした。
「ふぅっ、うンッ、んっ、あっ、ぁっ、やめ…て…ッ!」
「あぁ、すごい…もう中、トロトロに蕩けてグチョグチョですよ」
「…ちがっ…!ンッ、ンンッ、やめて…!」
「もしかして旦那さん、過去に男とやったことあるんですか?」
「ない、僕は…っ…あっ、あっ…!やっ、め…うっ、あっ、だめ、動かな、で…!くっ、う、アァ―――ッ…!!!」
旦那さんは仰け反りながら射精した。ドクドクと精液が吐き出される。射精直後のペニスを俺は扱いた。旦那さんが噛み千切らんばかりに俺を締め付けながら体を痙攣させる。
「ほら、こんなに感じてる」
「ヒィッ――ッ!!いっ、あっ…、いやっ、触らないでっ、あっ、アァ…ッ!!」
ガクガク体が震えだす。
「もしかしてイキッぱなしなのかな?」
「いっ、いやっ、だめ、だっ、動かないで…!またっ、イキそうになる、から、また、あっ、イク、からっ…!ア――ッ!!」
アクメから抜け出せずに旦那さんが少量の精液を飛ばす。それが続くとドライでイキ続けた。そんな旦那さんを見下ろしながら、俺も二度目の精を放った。
部長が起きてくる前に片づけを済まし、嫌がる旦那さんと一緒にシャワーを浴びた。清潔になった旦那さんは朝日に輝いてとてもきれいだった。
俺が手を握ろうとすると、旦那さんは怯えて手を引っ込めた。
「好きです」
「困ります」
「俺は本気です。本気であなたを部長から奪うつもりです」
「そんなこと…非常識です。第一男同士で」
「俺はゲイです。男しか好きになれません」
困り果てた旦那さんが顔を伏せる。そのおでこにキスした。旦那さんはさらに顔を俯ける。
「これからちょくちょく遊びに伺います。強い酒を持って」
ハッと旦那さんが顔をあげる。一瞬のすきをついて唇にキスした。抵抗する体を抱き寄せて深く密着する。そろそろ部長が起きてくるかもしれない。見つかればとんでもないことになる。しかし離れがたい体だった。
「今度有給を取って昼間に来ます。入れてくれますか?」
ふるふると首を左右に振る。旦那さんが本当に困っているのが体を通して伝わってくる。だけど強く拒否できない優しさに、俺はつけ込んだ。
「このこと部長にバラしましょうか?」
旦那さんは唇を噛みしめた。
「君は悪い人です。僕を好きだと言ったその口で今度は僕を脅すんだから」
「なりふり構ってられないくらい、あなたが好きなんですよ」
俺が真剣に囁けば旦那さんは顔を赤く染めて目を伏せる。そんな思わせぶりな態度だから、可能性があるのかもと思ってしまう。
「こんな、おじさんなんかに……」
「それを言うなら、俺みたいな若造は相手にできないってことですか?」
なんと返せばいいか迷ったようで旦那さんは黙り込んだ。
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気弱な表情になった旦那さんは、少しだけ、体から力を抜いた。
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旦那さん(1/2)
2014.05.27.Tue.
「立橋、今日飲みに行くわよ」
小泉部長が俺を誘うのはこれで何度目だろう。まわりの連中もまただよという呆れと同情の目を向けてくる。
この女上司は部長にまで出世しただけあって、我の強さと強引さが図抜けていて、おまけに性欲も強いときている。自分が気に入った部下をこうして飲みに誘っては酔ったところでホテルへ連れ込むのが手口だった。
男社会でバリバリのキャリアウーマンとして働く気苦労やストレスには同情するが、若い男で発散するのは勘弁してほしい。しかも部長は結婚して家庭があるというのに。
「いやぁ、今日はちょっと用事が」
「あんた、この前もそう言って私の誘い断ってたじゃない。今日は許さないわよ。とことん飲む。飲んであんたの内面、全部さらけ出してもらから」
俺は私生活が謎な男として社で通っているらしい。ただ単にゲイだってことを隠しているだけなのに。
だから四十過ぎの女の体に興味がないだけじゃなく、女そのものに興味がもてない俺には、部長の誘いは苦痛でしかない。断り続ける俺にプライドを傷つけられたのか、部長がムキになって誘ってくるので本当に困っている。
もうこれは一度付き合うしかないのかもしれない。
「わかりました」
溜息つきつつ、俺は頷いた。
会社を出てタクシーに乗り込む。部長は当然のように俺にしなだれかかり、腕を絡ませ胸を押し付けてきた。これ完全にモラハラ、セクハラだよなぁ。
運転手がバックミラー越しにチラチラ見ている気がして、とにかく落ち着かない。
タクシーは住宅街へ入っていった。
「どこで飲むんですか」
飲める店など見当たらない。
「私の家で飲むのよ。終電気にせず飲めるでしょ。明日休みなんだから、あなたも泊まって行きなさい。あなた、私を怖がっているふうだったから、私の主人といっしょなら安心でしょ」
「えっ、旦那さんに悪いですよ」
「いいのよ。私が外で酔いつぶれるより家のなかで潰れたほうが介抱もしやすいでしょ。それにあの人は主夫なんだから、妻が連れてきた部下の相手をするのも仕事のうちよ」
なんとなくみんな聞きづらくてその話題を避けていたが、確か部長に子供はいなかったはずだ。だから仕事一筋に打ち込んできたのだとも。まさか旦那さんが主夫をしているとは知らなかった。たしかに男をかしずかせるのが大好きな部長は家事をやりたがらなそうだ。
マンションの前にタクシーが停まり、俺たちはタクシーをおりた。家の前だと言うのに、部長は俺と腕を組んだままオートロックを解除し、エレベーターに乗り込む。
「まずくないですか、これ」
「あの人は気にしないの」
7階でおりて、奥のドアの前で立ち止まると、部長はインターフォンを鳴らした。少しして扉が内側から開けられた。
「お帰り」
細身の優しそうな男の人が出てきた。
「ただいま、今日は部下の立橋を連れてきたの」
「こんばんは、立橋さん。どうぞ」
旦那さんはニコニコと俺をなかへ迎え入れる。腕組んでるのが見えてないのかな。
掃除の行き届いた部屋は家具もインテリアも趣味が良くて、どちらかというとケバい部長とは正反対の穏やかで落ち着いた印象だった。旦那さんのセンスなのかもしれない。
ソファに座らされ、部長は俺の横に体をぴったりくっつけて座った。誤解される、と俺が逃げれば追いかけてくる。なにを考えているんだ、この人は。
最初におしぼりとビールを持ってきた旦那さんはカウンターキッチンの向こうで忙しく動いている。
「俺も手伝いに」
「馬鹿。あんたは私と飲むのよ」
腰をあげかけたら、腕を掴んで引き戻された。コップになみなみとビールをそそがれる。こりゃあはやく部長をつぶしておいとましたほうがよさそうだと判断した俺は、部長のコップにもビールを注いだ。少し減るとすぐさま注ぎ足し、わざとペースをあげさせた。
その間に、旦那さんはつまみになるものを次々テーブルへ並べていく。「お口にあうといいんだけど」ときっと今晩の夕食に出すはずだった煮物なんかも出してくれて、一人暮らしの俺には嬉しい家庭料理を振る舞ってくれた。
こんな旦那さんがいるのに、部長はなにが不満で会社の男に手を出すんだろう。
「料理はうまいし、優しくていい旦那さんですね」
キッチンの旦那さんを見ながら俺が褒めると、部長は不機嫌そうに眉を寄せた。
「つまんない人よ。優しいだけでぜんぜん刺激的じゃない。セックスも淡白ですぐ終わっちゃうの。私が男と腕組んで帰って来たって文句ひとつ言わないでしょ」
あれは旦那さんを嫉妬させるためだったのか。それに俺を利用するのだけは勘弁してほしい。もし旦那さんがキレて殴られでもしたらどうするつもりだ。
「じゃあどうして結婚したんですか」
「優しかったから」
部長は頬を膨らませた。
「結婚するにはいい人だと思ったの。私は仕事辞めたくなかったし、家事もしたくなかったし、主夫をやってくれるには理想的な人だったのよ。まさかこんなにつまらない夫婦生活になるなんて想像もしていなかったけど」
なんて自分勝手な女だろう。俺は旦那さんが気の毒で仕方なくなってきた。
空いた小皿を持って立ち上がった。
「やらせればいいわよ」
という部長の声を無視して、キッチンへ運んだ。
旦那さんは俺の手元を見て、「ありがとう」と微笑む。本当にいい人だ。あんなビッチには似つかわしくない。部長ではなく、俺にとって理想的な人だ。
「突然来てすみませんでした」
「いいえ、こちらこそ男の手料理で申し訳ない」
「とんでもない、とてもおいしかったです」
「本当ですか。うちのは僕の料理を褒めてくれないからお世辞でも嬉しい」
「お世辞なんかじゃありません。こんな旦那さんを持った部長が羨ましいです」
俺の熱い視線に気づいた旦那さんが、戸惑ったように笑う。
「ちょっと!いつまでそこにいんのよ、こっちきて飲みなさいよ!」
リビングから部長が声を張り上げる。呂律がまわっていない。酒に弱くて助かる。
旦那さんに会釈してからリビングへ戻った。
どんどん酒を飲ませて零時過ぎ、やっと部長が酔いつぶれた。
「すみません、手伝わせてしまって」
「お構いなく」
旦那さんと一緒に部長を寝室へ運ぶ。シングルベッドが二つ。間にサイドテーブルが置いてある。
寝室の戸を閉めるとなかから部長のいびきが聞こえてきた。
「弱いのに好きで困ってるんです。会社の皆さんにも迷惑をかけているんじゃありませんか?」
この旦那さんはどこまで知っているんだろう。どこまで勘付いているんだろう。自分の妻が会社の男に手を出していることを。
「豪快な人ですからね」
苦笑いで乗り切ってリビングへ戻った。二人でソファに腰掛け、ハァとため息をつく。
「タクシー呼びますね」
「部長に今日は泊まってけって言われたんです」
「彼女がそんなことを……申し訳ありません、ご迷惑だったでしょう」
「いいえ。旦那さんさえよければ、このソファで寝かせてもらえませんか」
「お客様をそんな。僕のベッドで寝て下さい」
驚いて旦那さんの顔を見た。何を思ってそんなことを言うのだろう。妻を他の男と同じ部屋で寝かせるなんて。
「俺、男ですよ」
「わかってます」
旦那さんは静かに微笑みながら首肯した。
「僕では彼女を満足させられないから」
この人は全部わかっているんだ。わかった上で俺を招き入れ、料理を振る舞い、奥さんと同じ部屋をあてがおうとしているんだ。
「どうして平気なんですか」
「平気なんかじゃありません。出会ったときから僕より彼女のほうが稼いでいました。僕が仕事を辞めて主夫になるのも、二人の間では当然の流れでした。僕はただ彼女に頑張ってもらいたくて家のことを一生懸命やっていただけなんですが、彼女の目にはなよなよした男らしくない男に見えていたみたいで、軽蔑されてしまいました」
「そんなこと!旦那さんは立派で素晴らしい主夫ですよ!」
「ありがとうございます。でも妻には魅力にかける、去勢された男に見えたようです。妻の相手をしてくれていたのは、君だったんですね」
「あっ、違います、俺じゃないです! 俺は今回初めて誘われたんで」
「俺は……今回初めて……」
旦那さんが呟く。失言に気付いて俺は顔を顰めた。
「いや、あの」
「そうですか…妻は他にも何人かの男と…」
旦那さんの顔から血の気が失われていく。気の毒で見ていられなくて、気付くと俺は旦那さんを抱きしめていた。
「あ、あの、立橋くん……?」
「一目惚れでした!俺、旦那さんのこと、好きです!」
「ちょっ、あっ……!」
旦那さんを押し倒した。その拍子にソファからずりおちて、二人とも床に落ちた。
手をついた両手の間に、驚いた顔の旦那さんがいる。混乱しているすきにキスした。
「んっ、やめっ……んんっ」
「声、出さないで下さい。部長が起きちゃいますよ」
ハッとして旦那さんは声を殺した。それだけじゃない、暴れれば部長に気付かれると思ったのか、抵抗もおとなしくなった。
服の下に手を潜り込ませて乳首を摘まんだ。ピクッと反応を見せる。たくしあげ、直に吸い付いた。
「ふっ、んっ……ぁっ……!」
「感じやすい体ですね」
膝で旦那さんの股間をグリグリ押すと、それだけでそこは熱く硬くなった。
「いっ、やッ!アッ……!」
「シッ、静かに」
「んんっ、いやっ、やめ……!」
できるだけ声を押し殺して「やめて」と訴えてくる。
長年主夫として生きてきたせいなのか、もともとの性格なのか、怒鳴ったり殴ってやめさせないのは、部長の言うとおり、男らしさに欠けるところだった。
今の俺には好都合だ。
小泉部長が俺を誘うのはこれで何度目だろう。まわりの連中もまただよという呆れと同情の目を向けてくる。
この女上司は部長にまで出世しただけあって、我の強さと強引さが図抜けていて、おまけに性欲も強いときている。自分が気に入った部下をこうして飲みに誘っては酔ったところでホテルへ連れ込むのが手口だった。
男社会でバリバリのキャリアウーマンとして働く気苦労やストレスには同情するが、若い男で発散するのは勘弁してほしい。しかも部長は結婚して家庭があるというのに。
「いやぁ、今日はちょっと用事が」
「あんた、この前もそう言って私の誘い断ってたじゃない。今日は許さないわよ。とことん飲む。飲んであんたの内面、全部さらけ出してもらから」
俺は私生活が謎な男として社で通っているらしい。ただ単にゲイだってことを隠しているだけなのに。
だから四十過ぎの女の体に興味がないだけじゃなく、女そのものに興味がもてない俺には、部長の誘いは苦痛でしかない。断り続ける俺にプライドを傷つけられたのか、部長がムキになって誘ってくるので本当に困っている。
もうこれは一度付き合うしかないのかもしれない。
「わかりました」
溜息つきつつ、俺は頷いた。
会社を出てタクシーに乗り込む。部長は当然のように俺にしなだれかかり、腕を絡ませ胸を押し付けてきた。これ完全にモラハラ、セクハラだよなぁ。
運転手がバックミラー越しにチラチラ見ている気がして、とにかく落ち着かない。
タクシーは住宅街へ入っていった。
「どこで飲むんですか」
飲める店など見当たらない。
「私の家で飲むのよ。終電気にせず飲めるでしょ。明日休みなんだから、あなたも泊まって行きなさい。あなた、私を怖がっているふうだったから、私の主人といっしょなら安心でしょ」
「えっ、旦那さんに悪いですよ」
「いいのよ。私が外で酔いつぶれるより家のなかで潰れたほうが介抱もしやすいでしょ。それにあの人は主夫なんだから、妻が連れてきた部下の相手をするのも仕事のうちよ」
なんとなくみんな聞きづらくてその話題を避けていたが、確か部長に子供はいなかったはずだ。だから仕事一筋に打ち込んできたのだとも。まさか旦那さんが主夫をしているとは知らなかった。たしかに男をかしずかせるのが大好きな部長は家事をやりたがらなそうだ。
マンションの前にタクシーが停まり、俺たちはタクシーをおりた。家の前だと言うのに、部長は俺と腕を組んだままオートロックを解除し、エレベーターに乗り込む。
「まずくないですか、これ」
「あの人は気にしないの」
7階でおりて、奥のドアの前で立ち止まると、部長はインターフォンを鳴らした。少しして扉が内側から開けられた。
「お帰り」
細身の優しそうな男の人が出てきた。
「ただいま、今日は部下の立橋を連れてきたの」
「こんばんは、立橋さん。どうぞ」
旦那さんはニコニコと俺をなかへ迎え入れる。腕組んでるのが見えてないのかな。
掃除の行き届いた部屋は家具もインテリアも趣味が良くて、どちらかというとケバい部長とは正反対の穏やかで落ち着いた印象だった。旦那さんのセンスなのかもしれない。
ソファに座らされ、部長は俺の横に体をぴったりくっつけて座った。誤解される、と俺が逃げれば追いかけてくる。なにを考えているんだ、この人は。
最初におしぼりとビールを持ってきた旦那さんはカウンターキッチンの向こうで忙しく動いている。
「俺も手伝いに」
「馬鹿。あんたは私と飲むのよ」
腰をあげかけたら、腕を掴んで引き戻された。コップになみなみとビールをそそがれる。こりゃあはやく部長をつぶしておいとましたほうがよさそうだと判断した俺は、部長のコップにもビールを注いだ。少し減るとすぐさま注ぎ足し、わざとペースをあげさせた。
その間に、旦那さんはつまみになるものを次々テーブルへ並べていく。「お口にあうといいんだけど」ときっと今晩の夕食に出すはずだった煮物なんかも出してくれて、一人暮らしの俺には嬉しい家庭料理を振る舞ってくれた。
こんな旦那さんがいるのに、部長はなにが不満で会社の男に手を出すんだろう。
「料理はうまいし、優しくていい旦那さんですね」
キッチンの旦那さんを見ながら俺が褒めると、部長は不機嫌そうに眉を寄せた。
「つまんない人よ。優しいだけでぜんぜん刺激的じゃない。セックスも淡白ですぐ終わっちゃうの。私が男と腕組んで帰って来たって文句ひとつ言わないでしょ」
あれは旦那さんを嫉妬させるためだったのか。それに俺を利用するのだけは勘弁してほしい。もし旦那さんがキレて殴られでもしたらどうするつもりだ。
「じゃあどうして結婚したんですか」
「優しかったから」
部長は頬を膨らませた。
「結婚するにはいい人だと思ったの。私は仕事辞めたくなかったし、家事もしたくなかったし、主夫をやってくれるには理想的な人だったのよ。まさかこんなにつまらない夫婦生活になるなんて想像もしていなかったけど」
なんて自分勝手な女だろう。俺は旦那さんが気の毒で仕方なくなってきた。
空いた小皿を持って立ち上がった。
「やらせればいいわよ」
という部長の声を無視して、キッチンへ運んだ。
旦那さんは俺の手元を見て、「ありがとう」と微笑む。本当にいい人だ。あんなビッチには似つかわしくない。部長ではなく、俺にとって理想的な人だ。
「突然来てすみませんでした」
「いいえ、こちらこそ男の手料理で申し訳ない」
「とんでもない、とてもおいしかったです」
「本当ですか。うちのは僕の料理を褒めてくれないからお世辞でも嬉しい」
「お世辞なんかじゃありません。こんな旦那さんを持った部長が羨ましいです」
俺の熱い視線に気づいた旦那さんが、戸惑ったように笑う。
「ちょっと!いつまでそこにいんのよ、こっちきて飲みなさいよ!」
リビングから部長が声を張り上げる。呂律がまわっていない。酒に弱くて助かる。
旦那さんに会釈してからリビングへ戻った。
どんどん酒を飲ませて零時過ぎ、やっと部長が酔いつぶれた。
「すみません、手伝わせてしまって」
「お構いなく」
旦那さんと一緒に部長を寝室へ運ぶ。シングルベッドが二つ。間にサイドテーブルが置いてある。
寝室の戸を閉めるとなかから部長のいびきが聞こえてきた。
「弱いのに好きで困ってるんです。会社の皆さんにも迷惑をかけているんじゃありませんか?」
この旦那さんはどこまで知っているんだろう。どこまで勘付いているんだろう。自分の妻が会社の男に手を出していることを。
「豪快な人ですからね」
苦笑いで乗り切ってリビングへ戻った。二人でソファに腰掛け、ハァとため息をつく。
「タクシー呼びますね」
「部長に今日は泊まってけって言われたんです」
「彼女がそんなことを……申し訳ありません、ご迷惑だったでしょう」
「いいえ。旦那さんさえよければ、このソファで寝かせてもらえませんか」
「お客様をそんな。僕のベッドで寝て下さい」
驚いて旦那さんの顔を見た。何を思ってそんなことを言うのだろう。妻を他の男と同じ部屋で寝かせるなんて。
「俺、男ですよ」
「わかってます」
旦那さんは静かに微笑みながら首肯した。
「僕では彼女を満足させられないから」
この人は全部わかっているんだ。わかった上で俺を招き入れ、料理を振る舞い、奥さんと同じ部屋をあてがおうとしているんだ。
「どうして平気なんですか」
「平気なんかじゃありません。出会ったときから僕より彼女のほうが稼いでいました。僕が仕事を辞めて主夫になるのも、二人の間では当然の流れでした。僕はただ彼女に頑張ってもらいたくて家のことを一生懸命やっていただけなんですが、彼女の目にはなよなよした男らしくない男に見えていたみたいで、軽蔑されてしまいました」
「そんなこと!旦那さんは立派で素晴らしい主夫ですよ!」
「ありがとうございます。でも妻には魅力にかける、去勢された男に見えたようです。妻の相手をしてくれていたのは、君だったんですね」
「あっ、違います、俺じゃないです! 俺は今回初めて誘われたんで」
「俺は……今回初めて……」
旦那さんが呟く。失言に気付いて俺は顔を顰めた。
「いや、あの」
「そうですか…妻は他にも何人かの男と…」
旦那さんの顔から血の気が失われていく。気の毒で見ていられなくて、気付くと俺は旦那さんを抱きしめていた。
「あ、あの、立橋くん……?」
「一目惚れでした!俺、旦那さんのこと、好きです!」
「ちょっ、あっ……!」
旦那さんを押し倒した。その拍子にソファからずりおちて、二人とも床に落ちた。
手をついた両手の間に、驚いた顔の旦那さんがいる。混乱しているすきにキスした。
「んっ、やめっ……んんっ」
「声、出さないで下さい。部長が起きちゃいますよ」
ハッとして旦那さんは声を殺した。それだけじゃない、暴れれば部長に気付かれると思ったのか、抵抗もおとなしくなった。
服の下に手を潜り込ませて乳首を摘まんだ。ピクッと反応を見せる。たくしあげ、直に吸い付いた。
「ふっ、んっ……ぁっ……!」
「感じやすい体ですね」
膝で旦那さんの股間をグリグリ押すと、それだけでそこは熱く硬くなった。
「いっ、やッ!アッ……!」
「シッ、静かに」
「んんっ、いやっ、やめ……!」
できるだけ声を押し殺して「やめて」と訴えてくる。
長年主夫として生きてきたせいなのか、もともとの性格なのか、怒鳴ったり殴ってやめさせないのは、部長の言うとおり、男らしさに欠けるところだった。
今の俺には好都合だ。