夢の時間(2/2)
2014.05.22.Thu.
<前話はこちら>
大地の手が俺のペニスを握った。縮こまっているものをくにくにと揉む。情けなさと怒りと自己嫌悪、申し訳なさと怖れとで感情がこんがらかる。鼻の奥がつんと痛んで目が熱くなった。
「やめろ、大地! こんなことは間違っている!」
「母さんがいなくて寂しかったんだろ。だから俺がキスしたとき、母さんと間違えて応えてくれたんだろ。寂しいなら俺を母さんと思えばいいじゃん。俺は身代わりでもいいから」
「馬鹿! なんてことを…! お前を身代わりに思えるわけがないだろう! そんなこと、母さんにも失礼だ! それにお前とどうこう出来るわけないだろ! 親子なんだぞ!」
「親子だったら俺を助けてよ。男同士ってだけでも問題なのに、親子なんだぜ。頭がおかしくなりそうだよ。父さんのこと考えてマスのかきすぎで勉強も手につかない。このままじゃ試験に落ちる」
俺を想ってマスをかいているだと?! 息子の口からきかされる衝撃の事実に言葉を失った。
尻に冷たいものが垂らされた。そのあとまた指が入れられる。
「ちゃんと解すから、我慢して」
ちゅっと尻にキスされる。馬鹿! なんてことを!
円を描くようになかに入れた指をぐりぐり動かしながら俺のペニスを扱いてくる。刺激に呼応して大きく育ってゆくのが涙が出るほど情けなかった。
「…くっ…!」
「夢だと思って、さ」
ぐぅっと深くまで指が挿し込まれる。指の腹で押すようにしながらまた引き抜く。大地は潤滑剤を継ぎ足しながら同じ動作を繰り返し、いつの間にか指を二本に増やしていた。
「いつからなんだ…いつから俺を…」
「正直わかんない。子供が父親に抱く愛情とごっちゃになってるし。性的な意味で好きだなって自覚したのは中学三年くらいかな。眠れなくて父さんのベッド入って、父さんに抱き付いてたら、なんか興奮してきて勃起した」
俺の匂いを幼い脳裏に刷り込んで甘やかして育てた結果がこれだ! 俺の育て方が悪いから大地を近親相姦のホモにしてしまったんだ!
「そろそろいいかな」
後ろで大地が呟くと同時に指が引き抜かれた。ホッとしたのもつかの間、今度はそこへ大地のものが押し当てられた。瞬間的にビクッと俺の体に力が入る。
「大丈夫。いきなり入れたりしないから」
高校生の息子に宥められる。
大地は亀頭に潤滑剤を垂らし、俺の肛門に塗りたくった。その間、ペニスを扱く手も動かし続けている。実の息子相手だというのに、ぎんぎんに逞しく育っている。
「それだけはやめてくれ……」
「だからもう手遅れだって。明日から父さん、俺に指一本触らせてくれなくなんでしょ、どうせ」
明日。これが夢でなく明日に続くというのなら、俺はもう二度と大地をベッドに入れることを許さないだろうし、部屋に入ってくることも禁止するだろう。大地からそんな素振りを見せられたら殴ってでもやめさせるし、それでも止めなければ学校に近いアパートを見つけてそこへ大地を追い出す。
背後で大地のため息が聞こえた。
「絶縁覚悟でやってんの、俺は。だからやめないよ」
絶縁なんてそこまでは…!
気を抜いた一瞬のすきに、大地の亀頭が俺のなかへ入ってきた。事前に充分解したのと、潤滑剤のおかげでか痛み少なく入り込んだ。
「意外にすんなり入った」
大地が呟く。残る竿の部分にドプドプと潤滑剤をかけると、もう空になってしまったのかボトルを床に投げ捨てた。なじませるように陰茎を撫でた手で俺の肛門の周りを指先でなぞり、下へ潜り込ませて門渡りから袋へまわってきた。
ピクンと体が反応する。
ぬるぬるの手で俺の勃起を握りしめ、音を立てながら扱く。
「はぁっ…くっ…」
声が漏れて歯を食いしばった。こんな声、息子に聞かせていいはずがない。
背中に大地がおりてきた。触れ合った肌はお互い熱く湿っていた。
「好きだよ」
父親に愛の言葉を囁きながら大地が俺の背中やうなじにキスをしてくる。
「受け入れてとは言わないから、俺の気持ちだけは認めてよ」
「…っ…うっ…!」
大地に扱かれながら射精してしまった。詰めていた息を吐き出したとき、大地のものがぐぐっと奥へ入ってきた。裂けるような痛みに顔が歪む。
「ごめん、ちょっと今の痛かったかも」
大地の声は上ずっていた。性欲に任せて独りよがりになってしまう精力真っ盛りの高校三年生が、自分の快楽より相手の体を気遣えるのは立派だ。合意のない行為だったとしても、そこだけは褒めてやろう。
大地はゆっくり慎重に時間をかけて全部を収めた。おかげで取り乱すほどの痛みは感じずに済んだ。しかもすぐには動かずに、俺に慣らす時間を与えてくれる。
「前を、向きたい」
「え?」
「お前の顔が見たい」
「でも…嫌じゃない? 実の息子に犯されてんのに」
「今更だ。お前がそうなったのは俺の育て方のせいだ。俺の責任だ。お前が罪を背負うなら、俺も同じ罪を背負わなくちゃならない。だからそれをしっかり見ておきたい」
大地が無言でのしかかってきた。大きな体に押しつぶされる。大地は俺の左足を抱えて持ちあげた。抜けないよういぐいぐい腰を押し付けながら、ゆっくりと持ち上げた足を力点に俺の体を開いて仰向けにする。ずいぶん慣れた手つきに面食らう。
「どこで習った」
「ネット」
大地の顔がおりてくる。咄嗟に避けようとしたが思いとどまった。これが最後と思っているなら、今日くらい大地の好きにさせてやろう。それに拒んだところでもう大地とは経験済みなのだから。
唇同士が触れ合う。大地の舌が入ってくる。やはり夢で妻としたキスと同じだった。大地の舌が俺の口のなかを動き回る。飲み込めない唾液が頬を伝う。キスをしながら大地の手が乳首を触る。くすぐったいような痛いような。
「女じゃないぞ」
言ったあとからムズムズしてきた。痛気持ちいい。自分でもそこがしこって立ち上がるのがわかる。大地によって女にされる。これ以上ない禁忌に眩暈がした。
二人の腹の間で潰されていたペニスが隆起し始める。俺の舌を吸っていた大地が離れて胸に吸い付くと、出来た隙間のなかでペニスが頭をもたげた。三度目の勃起ということになる。俺にまだそんな体力があったなんて。
片手で自分の体を支えながらもう片方の手で俺のペニスを育てるために動かしている。俺のなかにいる大地が時折大きく膨れたりピクピク動く。興奮しているはずなのに、その自制心には感心する。これが彼女相手の行為であれば、と思わずにいられない。
「俺のことはもういいから」
ポンポンと頭を叩くと大地は目をあげた。
「動いていいの?」
「あぁ、いいぞ」
これ以上息子を焦らすのは親として同性として気が引ける。
「痛かったら言って」
腕立て伏せみたいに手をついて大地がゆらりと上体を起こす。ポタリと俺の腹に大地の汗が流れ落ちた。大地が俺のために流した汗だ。我慢の結晶と言ってもいいだろう。決して許される行為ではないが、大地が俺の体を労わる優しさには胸が熱くなった。
俺の両足を抱え持ち、その下に自分の膝を潜り込ませると、大地が上にのしかかってきた。限界まで入っていたと思ったものが、さらに奥深くこじ開けられる。出そうになった呻き声を飲み込むかわりに大地の腕を掴んだ。
「ごめん、痛い?」
「平気だ」
「無理しなくていいんだよ」
大地が微笑む。こんなに優しく男らしい息子が妻を娶り、子供を持ち、家族を作ることが出来ないなんて。どこへ出しても恥ずかしくない自慢の息子なのに。申し訳ない。こんなにいい男に育ったのにどうして俺なんかを。俺なんかを…。
「泣くほど痛い?」
「いや。お前の父親になれてよかった」
「本気? 父親を犯すような息子なのに」
「これは合意の上だ」
大地の頬を両手で挟んで頷いて見せた。そうだ。これは合意の上での行為だ。俺は大地とセックスしているんだ。実の息子と。それがなんだ。タブーがなんだ。こんな愛の形があったっていいじゃないか。
「好きだよ、父さん」
「俺もだ」
大地の顔がおりてくる。その首に手をひっかけながら、頭を持ち上げ舌を突き出した。触れ合う粘膜。混じり合う唾液。一つに戻るDNA。罪悪感も後ろめたさもすべてを溶かして飲み込んだ。
「動くから」
離れた大地がそう宣言をし、ゆっくり腰を前後に揺すった。俺のなかでさらに大地が存在感を増す。大きく膨らんだカリが俺のなかをめくりあげていく。
「う…っ、う……」
「痛くない?」
「あぁ、立派だな」
「恥ずかしいからそういうの言うなよ」
ハハッと声をあげて笑ったが実際はそんな余裕はなくて、大地の硬くて太いものが動くたび、胃が押しあげられるような圧迫感に必死に耐えていた。何度も唾を飲み込んでいたら、俺の事情を察したように大地がペニスを触ってきた。
俺の気を逸らすためにじれったいほど我慢強い精神力で自分のことを先送りにする。また胸が熱くなると同時に甘酸っぱいものが広がった。
少し体勢をかえながら、大地が息を吐き出す。触れる腕の若々しい筋肉。しっとり熱い肌。爆発をこらえて慎重に動く大地が愛おしかった。
「大丈夫だ、お前の好きに動け」
「でも」
「もう慣れてきた」
ほんと? と疑わしそうな大地に頷いた。ゆっくり引いて、ゆっくり戻す。ゆっくり、ゆっくり…その速度がだんだんあがっていく。俺は力を入れないように歯を浮かせ、深呼吸した。
次第に大きさに馴染んできた。動かれても痛みはなく、圧迫感も我慢できる程度にまでなった。内側を擦られるとそこから熱を帯び始めた。何度も摩擦されていくうちに、股間がムズムズとしてきた。それが角度をあげていく。
あぁ、俺はケツ穴で感じているのか。ショックより安心した。演技せず、大地と向き合える、そう思ったからだ。
自分でペニスを扱いた。
「気持ちいい?」
「あぁ……」
大地は腰の動きを早くした。小気味いい音を奏でながら打ち付けてくる。俺の奥に叩きこんでくる。
「はっ…はぁっ、あっ……」
大地が声を漏らす。ようやく大地も自分を優先してくれたようだ。
ペニスを扱きながら顎を反らした。ギュッと固く目を瞑る。大地に擦られている場所が気持ちいい。胸が跳ね上がる。鼻から息が漏れる。声を殺すのも限界だった。
「ううっ、あっ…、ああっ…!」
「父さんのその声、ずっと聞きたかった」
「はぁっ、んっ…んぁっ…くっ…」
「あ…出る…父さん、ごめん、ずっと我慢してたから、もう出そう…!」
最後まで聞くと同時に体の奥に迸りを感じた。
膝をついて体を起こした。不自然な体勢が苦しかったが、俺は大地の口づけを求めた。大地がそれに応えてくれる。
手つきを激しくしながら舌を絡ませ、俺も射精した。
大地はその後抜かずに2発、3発と立て続けに射精した。少し休憩を挟んだあと、また大地が求めてきた。底の見えない精力に逃げ出したくなったが、好きだと言われながら体を触られていると結局俺もその気になって足を開いていた。
明るい部屋に気付いて我に返った。もう六時前になっていた。
「大変だ。一睡もしてない」
「俺は若いから大丈夫だけど」
「俺は若くない」
「ちょっとでも寝たら? ギリギリで起こしてあげるから」
横に寝そべる大地が俺の髪を梳きながら優しい目を向けてくる。まるで恋人同士みたいだ。大地に見つめられながら眠れる自信がなくて俺はそれを断った。
「今後のことを話し合おう」
途端、大地の目は暗く沈み、笑顔が消えた。
「夢の時間はもう終わりか」
と呟く。
「俺はお前の父親だ。そしてお前は俺の息子だ」
大地はいじけたような顔で俺の髪を無言で弄っている。
「世界にたった二人きりの親子だ。俺は誰よりもお前のことを愛している」
大地の指がぴたっと止まった。
「誰がなんと言おうと、お前が俺のもとを去るまでは、俺はお前のものでいようと思う」
「……それって」
「決して母さんのかわりじゃないぞ。それに同情や罪の意識からでもない」
「それって…父さん…」
見開かれた大地の目が濡れて光る。俺は微笑みながら頷いた。
罪も罰も大地の分まで喜んでこの身に引き受けよう。俺は大地を愛している。大地が俺に抱く愛情と違う種類のものであったとしても、それは今だけのことでいつか必ず同じものになる。そう確信が持てる。この胸からこみ上げてくるものが愛でないなら、俺は妻も愛していなかったことになるからだ。
「父さん」
涙声で大地が抱き付いてきた。息子から恋人になった大地を俺は強く抱きしめた。
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大地の手が俺のペニスを握った。縮こまっているものをくにくにと揉む。情けなさと怒りと自己嫌悪、申し訳なさと怖れとで感情がこんがらかる。鼻の奥がつんと痛んで目が熱くなった。
「やめろ、大地! こんなことは間違っている!」
「母さんがいなくて寂しかったんだろ。だから俺がキスしたとき、母さんと間違えて応えてくれたんだろ。寂しいなら俺を母さんと思えばいいじゃん。俺は身代わりでもいいから」
「馬鹿! なんてことを…! お前を身代わりに思えるわけがないだろう! そんなこと、母さんにも失礼だ! それにお前とどうこう出来るわけないだろ! 親子なんだぞ!」
「親子だったら俺を助けてよ。男同士ってだけでも問題なのに、親子なんだぜ。頭がおかしくなりそうだよ。父さんのこと考えてマスのかきすぎで勉強も手につかない。このままじゃ試験に落ちる」
俺を想ってマスをかいているだと?! 息子の口からきかされる衝撃の事実に言葉を失った。
尻に冷たいものが垂らされた。そのあとまた指が入れられる。
「ちゃんと解すから、我慢して」
ちゅっと尻にキスされる。馬鹿! なんてことを!
円を描くようになかに入れた指をぐりぐり動かしながら俺のペニスを扱いてくる。刺激に呼応して大きく育ってゆくのが涙が出るほど情けなかった。
「…くっ…!」
「夢だと思って、さ」
ぐぅっと深くまで指が挿し込まれる。指の腹で押すようにしながらまた引き抜く。大地は潤滑剤を継ぎ足しながら同じ動作を繰り返し、いつの間にか指を二本に増やしていた。
「いつからなんだ…いつから俺を…」
「正直わかんない。子供が父親に抱く愛情とごっちゃになってるし。性的な意味で好きだなって自覚したのは中学三年くらいかな。眠れなくて父さんのベッド入って、父さんに抱き付いてたら、なんか興奮してきて勃起した」
俺の匂いを幼い脳裏に刷り込んで甘やかして育てた結果がこれだ! 俺の育て方が悪いから大地を近親相姦のホモにしてしまったんだ!
「そろそろいいかな」
後ろで大地が呟くと同時に指が引き抜かれた。ホッとしたのもつかの間、今度はそこへ大地のものが押し当てられた。瞬間的にビクッと俺の体に力が入る。
「大丈夫。いきなり入れたりしないから」
高校生の息子に宥められる。
大地は亀頭に潤滑剤を垂らし、俺の肛門に塗りたくった。その間、ペニスを扱く手も動かし続けている。実の息子相手だというのに、ぎんぎんに逞しく育っている。
「それだけはやめてくれ……」
「だからもう手遅れだって。明日から父さん、俺に指一本触らせてくれなくなんでしょ、どうせ」
明日。これが夢でなく明日に続くというのなら、俺はもう二度と大地をベッドに入れることを許さないだろうし、部屋に入ってくることも禁止するだろう。大地からそんな素振りを見せられたら殴ってでもやめさせるし、それでも止めなければ学校に近いアパートを見つけてそこへ大地を追い出す。
背後で大地のため息が聞こえた。
「絶縁覚悟でやってんの、俺は。だからやめないよ」
絶縁なんてそこまでは…!
気を抜いた一瞬のすきに、大地の亀頭が俺のなかへ入ってきた。事前に充分解したのと、潤滑剤のおかげでか痛み少なく入り込んだ。
「意外にすんなり入った」
大地が呟く。残る竿の部分にドプドプと潤滑剤をかけると、もう空になってしまったのかボトルを床に投げ捨てた。なじませるように陰茎を撫でた手で俺の肛門の周りを指先でなぞり、下へ潜り込ませて門渡りから袋へまわってきた。
ピクンと体が反応する。
ぬるぬるの手で俺の勃起を握りしめ、音を立てながら扱く。
「はぁっ…くっ…」
声が漏れて歯を食いしばった。こんな声、息子に聞かせていいはずがない。
背中に大地がおりてきた。触れ合った肌はお互い熱く湿っていた。
「好きだよ」
父親に愛の言葉を囁きながら大地が俺の背中やうなじにキスをしてくる。
「受け入れてとは言わないから、俺の気持ちだけは認めてよ」
「…っ…うっ…!」
大地に扱かれながら射精してしまった。詰めていた息を吐き出したとき、大地のものがぐぐっと奥へ入ってきた。裂けるような痛みに顔が歪む。
「ごめん、ちょっと今の痛かったかも」
大地の声は上ずっていた。性欲に任せて独りよがりになってしまう精力真っ盛りの高校三年生が、自分の快楽より相手の体を気遣えるのは立派だ。合意のない行為だったとしても、そこだけは褒めてやろう。
大地はゆっくり慎重に時間をかけて全部を収めた。おかげで取り乱すほどの痛みは感じずに済んだ。しかもすぐには動かずに、俺に慣らす時間を与えてくれる。
「前を、向きたい」
「え?」
「お前の顔が見たい」
「でも…嫌じゃない? 実の息子に犯されてんのに」
「今更だ。お前がそうなったのは俺の育て方のせいだ。俺の責任だ。お前が罪を背負うなら、俺も同じ罪を背負わなくちゃならない。だからそれをしっかり見ておきたい」
大地が無言でのしかかってきた。大きな体に押しつぶされる。大地は俺の左足を抱えて持ちあげた。抜けないよういぐいぐい腰を押し付けながら、ゆっくりと持ち上げた足を力点に俺の体を開いて仰向けにする。ずいぶん慣れた手つきに面食らう。
「どこで習った」
「ネット」
大地の顔がおりてくる。咄嗟に避けようとしたが思いとどまった。これが最後と思っているなら、今日くらい大地の好きにさせてやろう。それに拒んだところでもう大地とは経験済みなのだから。
唇同士が触れ合う。大地の舌が入ってくる。やはり夢で妻としたキスと同じだった。大地の舌が俺の口のなかを動き回る。飲み込めない唾液が頬を伝う。キスをしながら大地の手が乳首を触る。くすぐったいような痛いような。
「女じゃないぞ」
言ったあとからムズムズしてきた。痛気持ちいい。自分でもそこがしこって立ち上がるのがわかる。大地によって女にされる。これ以上ない禁忌に眩暈がした。
二人の腹の間で潰されていたペニスが隆起し始める。俺の舌を吸っていた大地が離れて胸に吸い付くと、出来た隙間のなかでペニスが頭をもたげた。三度目の勃起ということになる。俺にまだそんな体力があったなんて。
片手で自分の体を支えながらもう片方の手で俺のペニスを育てるために動かしている。俺のなかにいる大地が時折大きく膨れたりピクピク動く。興奮しているはずなのに、その自制心には感心する。これが彼女相手の行為であれば、と思わずにいられない。
「俺のことはもういいから」
ポンポンと頭を叩くと大地は目をあげた。
「動いていいの?」
「あぁ、いいぞ」
これ以上息子を焦らすのは親として同性として気が引ける。
「痛かったら言って」
腕立て伏せみたいに手をついて大地がゆらりと上体を起こす。ポタリと俺の腹に大地の汗が流れ落ちた。大地が俺のために流した汗だ。我慢の結晶と言ってもいいだろう。決して許される行為ではないが、大地が俺の体を労わる優しさには胸が熱くなった。
俺の両足を抱え持ち、その下に自分の膝を潜り込ませると、大地が上にのしかかってきた。限界まで入っていたと思ったものが、さらに奥深くこじ開けられる。出そうになった呻き声を飲み込むかわりに大地の腕を掴んだ。
「ごめん、痛い?」
「平気だ」
「無理しなくていいんだよ」
大地が微笑む。こんなに優しく男らしい息子が妻を娶り、子供を持ち、家族を作ることが出来ないなんて。どこへ出しても恥ずかしくない自慢の息子なのに。申し訳ない。こんなにいい男に育ったのにどうして俺なんかを。俺なんかを…。
「泣くほど痛い?」
「いや。お前の父親になれてよかった」
「本気? 父親を犯すような息子なのに」
「これは合意の上だ」
大地の頬を両手で挟んで頷いて見せた。そうだ。これは合意の上での行為だ。俺は大地とセックスしているんだ。実の息子と。それがなんだ。タブーがなんだ。こんな愛の形があったっていいじゃないか。
「好きだよ、父さん」
「俺もだ」
大地の顔がおりてくる。その首に手をひっかけながら、頭を持ち上げ舌を突き出した。触れ合う粘膜。混じり合う唾液。一つに戻るDNA。罪悪感も後ろめたさもすべてを溶かして飲み込んだ。
「動くから」
離れた大地がそう宣言をし、ゆっくり腰を前後に揺すった。俺のなかでさらに大地が存在感を増す。大きく膨らんだカリが俺のなかをめくりあげていく。
「う…っ、う……」
「痛くない?」
「あぁ、立派だな」
「恥ずかしいからそういうの言うなよ」
ハハッと声をあげて笑ったが実際はそんな余裕はなくて、大地の硬くて太いものが動くたび、胃が押しあげられるような圧迫感に必死に耐えていた。何度も唾を飲み込んでいたら、俺の事情を察したように大地がペニスを触ってきた。
俺の気を逸らすためにじれったいほど我慢強い精神力で自分のことを先送りにする。また胸が熱くなると同時に甘酸っぱいものが広がった。
少し体勢をかえながら、大地が息を吐き出す。触れる腕の若々しい筋肉。しっとり熱い肌。爆発をこらえて慎重に動く大地が愛おしかった。
「大丈夫だ、お前の好きに動け」
「でも」
「もう慣れてきた」
ほんと? と疑わしそうな大地に頷いた。ゆっくり引いて、ゆっくり戻す。ゆっくり、ゆっくり…その速度がだんだんあがっていく。俺は力を入れないように歯を浮かせ、深呼吸した。
次第に大きさに馴染んできた。動かれても痛みはなく、圧迫感も我慢できる程度にまでなった。内側を擦られるとそこから熱を帯び始めた。何度も摩擦されていくうちに、股間がムズムズとしてきた。それが角度をあげていく。
あぁ、俺はケツ穴で感じているのか。ショックより安心した。演技せず、大地と向き合える、そう思ったからだ。
自分でペニスを扱いた。
「気持ちいい?」
「あぁ……」
大地は腰の動きを早くした。小気味いい音を奏でながら打ち付けてくる。俺の奥に叩きこんでくる。
「はっ…はぁっ、あっ……」
大地が声を漏らす。ようやく大地も自分を優先してくれたようだ。
ペニスを扱きながら顎を反らした。ギュッと固く目を瞑る。大地に擦られている場所が気持ちいい。胸が跳ね上がる。鼻から息が漏れる。声を殺すのも限界だった。
「ううっ、あっ…、ああっ…!」
「父さんのその声、ずっと聞きたかった」
「はぁっ、んっ…んぁっ…くっ…」
「あ…出る…父さん、ごめん、ずっと我慢してたから、もう出そう…!」
最後まで聞くと同時に体の奥に迸りを感じた。
膝をついて体を起こした。不自然な体勢が苦しかったが、俺は大地の口づけを求めた。大地がそれに応えてくれる。
手つきを激しくしながら舌を絡ませ、俺も射精した。
大地はその後抜かずに2発、3発と立て続けに射精した。少し休憩を挟んだあと、また大地が求めてきた。底の見えない精力に逃げ出したくなったが、好きだと言われながら体を触られていると結局俺もその気になって足を開いていた。
明るい部屋に気付いて我に返った。もう六時前になっていた。
「大変だ。一睡もしてない」
「俺は若いから大丈夫だけど」
「俺は若くない」
「ちょっとでも寝たら? ギリギリで起こしてあげるから」
横に寝そべる大地が俺の髪を梳きながら優しい目を向けてくる。まるで恋人同士みたいだ。大地に見つめられながら眠れる自信がなくて俺はそれを断った。
「今後のことを話し合おう」
途端、大地の目は暗く沈み、笑顔が消えた。
「夢の時間はもう終わりか」
と呟く。
「俺はお前の父親だ。そしてお前は俺の息子だ」
大地はいじけたような顔で俺の髪を無言で弄っている。
「世界にたった二人きりの親子だ。俺は誰よりもお前のことを愛している」
大地の指がぴたっと止まった。
「誰がなんと言おうと、お前が俺のもとを去るまでは、俺はお前のものでいようと思う」
「……それって」
「決して母さんのかわりじゃないぞ。それに同情や罪の意識からでもない」
「それって…父さん…」
見開かれた大地の目が濡れて光る。俺は微笑みながら頷いた。
罪も罰も大地の分まで喜んでこの身に引き受けよう。俺は大地を愛している。大地が俺に抱く愛情と違う種類のものであったとしても、それは今だけのことでいつか必ず同じものになる。そう確信が持てる。この胸からこみ上げてくるものが愛でないなら、俺は妻も愛していなかったことになるからだ。
「父さん」
涙声で大地が抱き付いてきた。息子から恋人になった大地を俺は強く抱きしめた。
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夢の時間(1/2)
2014.05.21.Wed.
※アンケート1位小説「親子」
暑苦しくて目が覚めた。また大地が俺のベッドに潜り込んでいるのだ。
大地が3歳の時に妻が亡くなった。人が死ぬということを理解できていなかった大地は、夜寝るときになって「お母さんがいない」と泣き出し、どこへ行ったのかと俺に聞いてきた。
帰って来ることを信じて疑わずに泣く我が子が不憫で、俺まで一緒に泣いて、その夜は過ごした。
毎日泣いていた大地も次第に母親が帰ってこないことを理解したらしく、泣くことはなくなったが、俺のそばを離れなくなった。
保育所へ預けに行く朝も大泣きして大変だった。帰ってくれば食事の支度の妨げになるほど俺にべったりで、寝かしつけたあと布団を出て仕事をしていても俺がいないとわかるとまた泣きだす。
夜中にいなくなるという恐怖心からか、大地は俺の服を掴んだまま放さなくなった。苦肉の策で、布団を出るときに着ている服を脱いで行くと、大地は朝まで寝てくれるようになった。
それから毎日、俺は自分の匂いのついたシャツを一枚、大地に持たせて寝かしつけた。さすがに小学校高学年になる頃に無理矢理やめさせたが、それまでの習慣とは恐ろしいもので、ちょっと寝つきの悪い夜、大地は洗濯物の中から俺のシャツを持ち出して寝るようになってしまった。
息子の将来が心配になって夜に洗濯機をまわすようにしてからは、洗濯物と一緒に寝ることはなくなったが、かわりに俺のふとんに潜り込んでくるようになった。幼いころに刷り込まれたものの印象とは相当強いらしい。高校二年になった今でも続いているのだから、三つ子の魂百までとはよく言ったものだ。
「大地、暑いから自分のベッドで寝なさい」
俺の背中にぴったりくっついている大地の腰を叩いた。背後で「うーん」とうなり声。
「勉強して疲れてんだから寝かせてよ」
「自分のベッドで寝なさい」
「こっちのがぐっすり眠れんの」
伸びてきた大地の手が俺の体を引き寄せる。いつの間にかこんなに大きく、逞しい青年に育っていたのか。その力強さに感心しつつも、実の息子に後ろから抱きしめられる格好には気恥ずかしさがあった。
「はなしなさい、大地」
「やだ。もう、うるさいから静かにして。俺、明日も学校」
俺の背中に額をグリグリ擦りつける。大地とぴったり触れ合う背中を中心に体が熱くなってくる。ちらほら夏の気配が見えてきた夜に、大の男が二人、寄り添って寝るにはあまりにむさ苦しい。しかし受験生だからと勉強を頑張っていた息子を叩き起こしてまで追い出すのは気が引け、そのままにした。
大地の手が何かを探してゴソゴソ動く。布団の中から逃がしていた俺の手を見つけると握ってきた。さすがにこれは。
「おい、大地」
スゥスゥと寝息が聞こえる。寝てしまったか。
溜息をついて大地の手を見る。俺の手を覆い隠すほど大きい。俺がいなくならないように、小さい手で服を掴んだまま眠っていたあの大地がここまで立派に育ったのか…。
ファザコンというか俺の匂いフェチなところは少々気になるが自慢の息子だ。今日くらいはいいかと俺も目を瞑った。
大学生の当時、妻が住んでいたマンションの前にいた。
辺りは真っ暗。俺の目の前に、付き合った当初の、若く美しい妻の姿があった。彼女をマンションまで送った帰りに初めてキスをした。いま俺はあの日と同じことを繰り返している。妻はもういないのに。
ならばこれは夢だろうか。
夢なのにあの日と同じように緊張して、触れるとすぐ顔をはなした。やわらかな感触に有頂天になった。あの時俺はもう一度キスしようと思ったが、彼女は「また明日」とマンションへ入って行ってしまった。だから俺がいま妻としているこの二度目のキスはありえないことだ。事実と違う。やはりこれは夢なのだ。
夢の中の妻は大胆だった。俺に抱き付いて激しく口づけしてくる。舌まで入れてきた。俺もそれに応えた。妻の体温、妻の粘膜、妻の味、妻の興奮、それらすべてを受け入れ飲み込み、最高潮にまで気持ちが昂ぶった。
久しぶりの妻の体が恋しくて強く抱きしめようとした。するりと妻が逃げていく。おい待て。待ってくれ。腕を伸ばすとさらに遠くへ離れていく。待ってくれ。行かないでくれ。
「まって……」
自分の声で目が覚めた。朝日の射し込む明るい部屋の天井へ向かって俺は手をのばしていた。恥ずかしさと寂しさを噛みしめながら手をおろした。口の中が潤っていた。唇は濡れていた。舌にまだ妻との接吻の感触が残っていた。夢なのにあまりに名残が生々しい。
あ、大地。思い出して隣を見ると大地の姿はなかった。先に起きたようだ。時計を見ると六時過ぎ。
「父さん、朝ごはん出来たよ」
すでに制服に着替えた大地が部屋に顔を出して言った。
「あぁ、あとで行く」
大地が顔を引っ込めてから布団をはいで中を見る。朝立ちを息子に気付かれなかっただろうか。
仕事が終わって帰ると家のなかは真っ暗だった。今日は帰りが遅くなると、今朝、大地が言っていたことを思い出した。親の常としてつい「彼女か?」とからかうように言うと大地は「違うよ」とぶっきらぼうに答えていた。
親のひいき目抜きに大地はいい男の部類に入ると思うのだが、まだ誰とも付き合ったことがないようだ。部活に勉強に遊びにと充実しているのは結構だが、そろそろ彼女の一人も作って俺に紹介して欲しいものだ。
夕食を済まし、風呂に入ったあとテレビを見ながら酒を飲み、いい感じに酔ったところでふとんに入った。瞼が重く、すぐに眠った。
若かりし頃の妻がいた。また夢か。夢の中で会えるだけでも嬉しいものだ。妻は俺に抱き付くとすぐ口づけしてきた。舌を合わせながら妻の手が俺の股間へ伸びてくる。生前なかった積極性に戸惑いつつも俺のそこは喜んで硬くなっていた。妻の指が俺のペニスに絡みつく。しっかり握って擦り上げてくる。
「うう、う…」
妻の頭が下へとおりていく。温かい口腔内に俺のものが包まれた。妻の口のなかで妖しく蠢く愛撫を受ける。胸の奥から衝動がこみ上げて小さな爆発を起こした。
俺は妻の頭を押さえつけた。妻が顔を持ちあげる。
「大地っ?!」
驚いて目を瞬かせる。大地に見えた顔が妻の顔に戻っていた。安堵して妻の髪を梳き、耳に触れ、首筋を撫でた。妻が強く俺を吸い上げた。その瞬間、俺は果てていた。
ぐったりとふとんの上に四肢を投げ出した。その間も妻は俺の股間に顔をうずめ、最後の処理をしてくれていた。そこまで出来る女ではなかったのに夢とは都合がいいものだ。
妻は俺のふぐりを口に含んで転がし始めた。
「もう無理だよ」
俺の言葉を無視して妻は舌を動かす。妻の指がの俺の肛門に触れ、指先を中へ入れてきた。
「おいおい、何をする気だ」
苦笑しながら妻の髪を弄った。いやに短く硬い。こんな髪型だったかな、と頭を持ちあげた。俺の股の間に埋もれる妻の顔…いや、違う。
「大地!」
俺の声に大地が顔をあげた。舌なめずりをして熱い息を吐き出す。
「起きちゃった?」
夢だ。夢だったはずだ。だって相手は妻だった。妻の顔をしていた。なのになぜ大地にかわっているんだ。夢だ。夢のはずだ。夢でなくては説明がつかない。
「母さんと間違えてただろ」
俺が呆然としている間に大地は中に入れた指をぐりぐり動かし始めた。粘着質な音まで聞こえる。潤滑剤を使っているようだ。
「夢じゃ、ないのか」
「どっちでもいいんじゃない」
興味なさげに呟くと大地が大きく口をあけて俺のペニスを咥えた。ついさきほど味わったのと同じ快感が与えられる。じゃあさっきのも妻ではなく、大地だったというのか。大地が俺のペニスをしゃぶり、出されたものを飲み込んでいたというのか。実の息子が!
「やめなさい……やめろ、大地……やめろ!」
大声で怒鳴っても大地はやめない。そそり立ってきたものに一生懸命舌を這わせている。自分の男根越しに見る息子の顔にショックで頭がクラクラする。
「やめろと言っているんだ!」
「どうして。もう一回、やっちゃったじゃん」
「あれは夢だと思っていたから」
「じゃあこれも夢だと思えばいいじゃん」
「思えるわけがないだろう! どういうつもりだ!」
「父さんが好きだからに決まってんじゃん」
「なっ……?!」
俺は大地の気が違ったのだと思った。血の繋がった親子で好きだのなんだの、ありえるわけがない。
上体を捻り起き上がろうとした。その腰を大地がしっかり掴む。うつ伏せになった俺の尻たぶを左右に割り、その奥へ舌を入れてきた。脳天に丸太を叩き落されたような衝撃だった。
「やめろ! やめなさい! 大地!」
とんでもない羞恥から全身の毛穴が開きブワッと汗が噴き出した。布団の上を泳ぐようにジタバタ暴れたが、大地の強い力によってすぐ引き戻された。腰を抱え上げられた屈辱的な格好で。
「大地、いい加減にしろ! いい加減にしないと怒るぞ!」
「いまやめたってどうせ怒るんだろ。それにもう手遅れだよ」
「手遅れって……っ」
「さすがにもう我慢できなくなったんだよ。俺は父さんが好きだ。父さん以外、誰も好きになったことはないよ」
「……っ!!」
言い終わると大地は再び俺の肛門に舌を入れてきた。夢の中の妻と同じような動きを中で見せる。
先日の朝、久しぶりに見た妻の夢。その中でした妻とのキス。もしかしたらあれも大地としていたのかもしれない。
いったいいつから大地は俺にそんな間違った感情を抱くようになってしまったのだろう。どこで育て方を間違ってしまったのだろう。幼い頃に母親をなくした大地が哀れで甘やかしてきたのがいけなかったのか。俺の匂いつきのシャツで寝かしつけたのがまずかったのか。
妻を忘れられず、再婚を諦めたのがいけなかったのか。大地に新しい母親が出来ていれば、父親への異常な執着を抱かずに済んだのか。
そのどれもが当てはまるような気がした。その時最良と思えた選択すべてで、大地を歪めていったのかもしれない。
暑苦しくて目が覚めた。また大地が俺のベッドに潜り込んでいるのだ。
大地が3歳の時に妻が亡くなった。人が死ぬということを理解できていなかった大地は、夜寝るときになって「お母さんがいない」と泣き出し、どこへ行ったのかと俺に聞いてきた。
帰って来ることを信じて疑わずに泣く我が子が不憫で、俺まで一緒に泣いて、その夜は過ごした。
毎日泣いていた大地も次第に母親が帰ってこないことを理解したらしく、泣くことはなくなったが、俺のそばを離れなくなった。
保育所へ預けに行く朝も大泣きして大変だった。帰ってくれば食事の支度の妨げになるほど俺にべったりで、寝かしつけたあと布団を出て仕事をしていても俺がいないとわかるとまた泣きだす。
夜中にいなくなるという恐怖心からか、大地は俺の服を掴んだまま放さなくなった。苦肉の策で、布団を出るときに着ている服を脱いで行くと、大地は朝まで寝てくれるようになった。
それから毎日、俺は自分の匂いのついたシャツを一枚、大地に持たせて寝かしつけた。さすがに小学校高学年になる頃に無理矢理やめさせたが、それまでの習慣とは恐ろしいもので、ちょっと寝つきの悪い夜、大地は洗濯物の中から俺のシャツを持ち出して寝るようになってしまった。
息子の将来が心配になって夜に洗濯機をまわすようにしてからは、洗濯物と一緒に寝ることはなくなったが、かわりに俺のふとんに潜り込んでくるようになった。幼いころに刷り込まれたものの印象とは相当強いらしい。高校二年になった今でも続いているのだから、三つ子の魂百までとはよく言ったものだ。
「大地、暑いから自分のベッドで寝なさい」
俺の背中にぴったりくっついている大地の腰を叩いた。背後で「うーん」とうなり声。
「勉強して疲れてんだから寝かせてよ」
「自分のベッドで寝なさい」
「こっちのがぐっすり眠れんの」
伸びてきた大地の手が俺の体を引き寄せる。いつの間にかこんなに大きく、逞しい青年に育っていたのか。その力強さに感心しつつも、実の息子に後ろから抱きしめられる格好には気恥ずかしさがあった。
「はなしなさい、大地」
「やだ。もう、うるさいから静かにして。俺、明日も学校」
俺の背中に額をグリグリ擦りつける。大地とぴったり触れ合う背中を中心に体が熱くなってくる。ちらほら夏の気配が見えてきた夜に、大の男が二人、寄り添って寝るにはあまりにむさ苦しい。しかし受験生だからと勉強を頑張っていた息子を叩き起こしてまで追い出すのは気が引け、そのままにした。
大地の手が何かを探してゴソゴソ動く。布団の中から逃がしていた俺の手を見つけると握ってきた。さすがにこれは。
「おい、大地」
スゥスゥと寝息が聞こえる。寝てしまったか。
溜息をついて大地の手を見る。俺の手を覆い隠すほど大きい。俺がいなくならないように、小さい手で服を掴んだまま眠っていたあの大地がここまで立派に育ったのか…。
ファザコンというか俺の匂いフェチなところは少々気になるが自慢の息子だ。今日くらいはいいかと俺も目を瞑った。
大学生の当時、妻が住んでいたマンションの前にいた。
辺りは真っ暗。俺の目の前に、付き合った当初の、若く美しい妻の姿があった。彼女をマンションまで送った帰りに初めてキスをした。いま俺はあの日と同じことを繰り返している。妻はもういないのに。
ならばこれは夢だろうか。
夢なのにあの日と同じように緊張して、触れるとすぐ顔をはなした。やわらかな感触に有頂天になった。あの時俺はもう一度キスしようと思ったが、彼女は「また明日」とマンションへ入って行ってしまった。だから俺がいま妻としているこの二度目のキスはありえないことだ。事実と違う。やはりこれは夢なのだ。
夢の中の妻は大胆だった。俺に抱き付いて激しく口づけしてくる。舌まで入れてきた。俺もそれに応えた。妻の体温、妻の粘膜、妻の味、妻の興奮、それらすべてを受け入れ飲み込み、最高潮にまで気持ちが昂ぶった。
久しぶりの妻の体が恋しくて強く抱きしめようとした。するりと妻が逃げていく。おい待て。待ってくれ。腕を伸ばすとさらに遠くへ離れていく。待ってくれ。行かないでくれ。
「まって……」
自分の声で目が覚めた。朝日の射し込む明るい部屋の天井へ向かって俺は手をのばしていた。恥ずかしさと寂しさを噛みしめながら手をおろした。口の中が潤っていた。唇は濡れていた。舌にまだ妻との接吻の感触が残っていた。夢なのにあまりに名残が生々しい。
あ、大地。思い出して隣を見ると大地の姿はなかった。先に起きたようだ。時計を見ると六時過ぎ。
「父さん、朝ごはん出来たよ」
すでに制服に着替えた大地が部屋に顔を出して言った。
「あぁ、あとで行く」
大地が顔を引っ込めてから布団をはいで中を見る。朝立ちを息子に気付かれなかっただろうか。
仕事が終わって帰ると家のなかは真っ暗だった。今日は帰りが遅くなると、今朝、大地が言っていたことを思い出した。親の常としてつい「彼女か?」とからかうように言うと大地は「違うよ」とぶっきらぼうに答えていた。
親のひいき目抜きに大地はいい男の部類に入ると思うのだが、まだ誰とも付き合ったことがないようだ。部活に勉強に遊びにと充実しているのは結構だが、そろそろ彼女の一人も作って俺に紹介して欲しいものだ。
夕食を済まし、風呂に入ったあとテレビを見ながら酒を飲み、いい感じに酔ったところでふとんに入った。瞼が重く、すぐに眠った。
若かりし頃の妻がいた。また夢か。夢の中で会えるだけでも嬉しいものだ。妻は俺に抱き付くとすぐ口づけしてきた。舌を合わせながら妻の手が俺の股間へ伸びてくる。生前なかった積極性に戸惑いつつも俺のそこは喜んで硬くなっていた。妻の指が俺のペニスに絡みつく。しっかり握って擦り上げてくる。
「うう、う…」
妻の頭が下へとおりていく。温かい口腔内に俺のものが包まれた。妻の口のなかで妖しく蠢く愛撫を受ける。胸の奥から衝動がこみ上げて小さな爆発を起こした。
俺は妻の頭を押さえつけた。妻が顔を持ちあげる。
「大地っ?!」
驚いて目を瞬かせる。大地に見えた顔が妻の顔に戻っていた。安堵して妻の髪を梳き、耳に触れ、首筋を撫でた。妻が強く俺を吸い上げた。その瞬間、俺は果てていた。
ぐったりとふとんの上に四肢を投げ出した。その間も妻は俺の股間に顔をうずめ、最後の処理をしてくれていた。そこまで出来る女ではなかったのに夢とは都合がいいものだ。
妻は俺のふぐりを口に含んで転がし始めた。
「もう無理だよ」
俺の言葉を無視して妻は舌を動かす。妻の指がの俺の肛門に触れ、指先を中へ入れてきた。
「おいおい、何をする気だ」
苦笑しながら妻の髪を弄った。いやに短く硬い。こんな髪型だったかな、と頭を持ちあげた。俺の股の間に埋もれる妻の顔…いや、違う。
「大地!」
俺の声に大地が顔をあげた。舌なめずりをして熱い息を吐き出す。
「起きちゃった?」
夢だ。夢だったはずだ。だって相手は妻だった。妻の顔をしていた。なのになぜ大地にかわっているんだ。夢だ。夢のはずだ。夢でなくては説明がつかない。
「母さんと間違えてただろ」
俺が呆然としている間に大地は中に入れた指をぐりぐり動かし始めた。粘着質な音まで聞こえる。潤滑剤を使っているようだ。
「夢じゃ、ないのか」
「どっちでもいいんじゃない」
興味なさげに呟くと大地が大きく口をあけて俺のペニスを咥えた。ついさきほど味わったのと同じ快感が与えられる。じゃあさっきのも妻ではなく、大地だったというのか。大地が俺のペニスをしゃぶり、出されたものを飲み込んでいたというのか。実の息子が!
「やめなさい……やめろ、大地……やめろ!」
大声で怒鳴っても大地はやめない。そそり立ってきたものに一生懸命舌を這わせている。自分の男根越しに見る息子の顔にショックで頭がクラクラする。
「やめろと言っているんだ!」
「どうして。もう一回、やっちゃったじゃん」
「あれは夢だと思っていたから」
「じゃあこれも夢だと思えばいいじゃん」
「思えるわけがないだろう! どういうつもりだ!」
「父さんが好きだからに決まってんじゃん」
「なっ……?!」
俺は大地の気が違ったのだと思った。血の繋がった親子で好きだのなんだの、ありえるわけがない。
上体を捻り起き上がろうとした。その腰を大地がしっかり掴む。うつ伏せになった俺の尻たぶを左右に割り、その奥へ舌を入れてきた。脳天に丸太を叩き落されたような衝撃だった。
「やめろ! やめなさい! 大地!」
とんでもない羞恥から全身の毛穴が開きブワッと汗が噴き出した。布団の上を泳ぐようにジタバタ暴れたが、大地の強い力によってすぐ引き戻された。腰を抱え上げられた屈辱的な格好で。
「大地、いい加減にしろ! いい加減にしないと怒るぞ!」
「いまやめたってどうせ怒るんだろ。それにもう手遅れだよ」
「手遅れって……っ」
「さすがにもう我慢できなくなったんだよ。俺は父さんが好きだ。父さん以外、誰も好きになったことはないよ」
「……っ!!」
言い終わると大地は再び俺の肛門に舌を入れてきた。夢の中の妻と同じような動きを中で見せる。
先日の朝、久しぶりに見た妻の夢。その中でした妻とのキス。もしかしたらあれも大地としていたのかもしれない。
いったいいつから大地は俺にそんな間違った感情を抱くようになってしまったのだろう。どこで育て方を間違ってしまったのだろう。幼い頃に母親をなくした大地が哀れで甘やかしてきたのがいけなかったのか。俺の匂いつきのシャツで寝かしつけたのがまずかったのか。
妻を忘れられず、再婚を諦めたのがいけなかったのか。大地に新しい母親が出来ていれば、父親への異常な執着を抱かずに済んだのか。
そのどれもが当てはまるような気がした。その時最良と思えた選択すべてで、大地を歪めていったのかもしれない。