FC2ブログ

棚ボタ(2/2)

2021.02.23.Tue.
<1>

 じゃ、と意味のない前置きのあと、三島が俺のズボンに手をかけた。咄嗟にそれを押しとどめた。

「なにすんだ」
「脱がすに決まってるだろ」
「おまも脱げよ」
「うるせえな」

 三島はぱっと服を脱ぎ捨てて全裸になった。その動作には羞恥心とか躊躇いってものがまったくない。俺も三島にならってさっさと服を脱いだ。

 むんず、と三島の手が俺の股間のものを掴む。いきなり握るのかよ。うわ、ばか、そんなに擦んなよ。

 同じことを三島にしてやろうと手を伸ばしたら、俺はいい、と払われた。かわりに寝転がらされ、上から三島にじっくり見られながら性器を扱かれた。

「気持ちいい?」

 興奮をおさえた擦れ声で三島が訊ねる。なんて答えればいいんだよ馬鹿やろう。気持ちいいに決まってるだろ。

「こっちも、いじったほうがいい?」

 空いた手で俺の乳首を摘む、くにゅくにゅ揉みしだいたり、押しつぶしたりする。触られてないほうの乳首まで立ち上がるのが自分でもわかった。股間からもクチュ、と濡れた音がする。

「敏感だな、おまえ」
「…っ、うる、せ……んっ」

 切れ長な目が、快感にもだえる俺を見おろしている。喘ぎを必死に噛み殺すために、かえって小さな反応を際立たせてしまっている。

 舌なめずりをしたあと、三島が頭を落として俺の胸に吸いついた。音を立てて舐めあげ、歯の先で優しく小刻みに噛みつく。

「ふっ、ん、あっ…や、み、しま…っ」
「ここ、気持ちいいんだ? すっげえ反応しまくってんじゃん」

 俺を睨むように見つめながら、性器を扱く手つきを早くする。途中握りなおし、更に手の動きを加速させた。ここがいいんだろ、と言うような、意地悪くも無邪気な笑みを口の端に滲ませている。そんな表情、初めて見る。

「ん、あ…やめ、三島…出る…、から…」

 腕を掴んだ。

「出していいぞ」

 耳に囁かれた。

「──はっ、あ、あぁっ……!」

 頭が真っ白になったと同時に、俺は射精していた。放った熱い塊は、三島が動じることなく手の中に受けとめた。男前だ。そしてそれを後孔になすりつける。

「な、なに」
「彼女の同人誌で、ザーメン使って中潤してたから、その真似」

 三島は躊躇せず、指を俺のなかに出し入れする。たまに押し広げるような圧迫を内部に感じた。三島なりに解そうとしているらしい。

「どれくらいやればいいのかな」

 加減がわからずぼやくように呟く。

「も、いいんじゃないか」

 俺が許可をおろすと、三島はすぐさま指を抜き、自分のペニスを扱き出した。早くしないと俺の気がかわるといわんばかりの急ぎようだ。そんなに慌てなくても俺はいつまでも待ってるよ。いったい何年、この瞬間を待ち焦がれていたと思ってるんだ。なんならそれ、俺がしゃぶって大きくしてやってもいいんだぜ。

 満足いく大きさになったのか、三島が俺に向きなおった。

「四つん這いになって」
「え」
「女と穴の位置違うから、四つん這いのほうが入れやすそうじゃん」

 俺は正面からの挿入を期待していたが、ここは三島の言う通りにした。俺は渋々付き合ってやってるんだってスタンスを貫くためだ。

 四つん這いになった俺の尻を左右に押し開き、三島の勃起した肉が入ってきた。亀頭はすんなり入ったのに、竿の途中、一際膨れ上がった部分を入れられる時はケツが裂けそうだった。無意識に力が入ってしまい、痛い? と三島が訊いてくる。

「平気」

 四つん這いで良かった。苦痛に歪んだ顔を見られずに済む。

 全部収まってようやくほっと息をつけた。俺を串刺しにする硬くて太いその存在感、圧迫感。三島とひとつになれた歓びが体を貫く。

「動くぞ、大丈夫、ゆっくりするから」

 安心しろ、と俺の背を撫でる手が語る。それに安心をもらって、俺は頷いた。

 言葉通り、三島は様子を見るようにゆっくり腰を動かしていた。次第に、一番太い竿の部分が通過するときも、痛みを感じなくなってきた。かわりに、摩擦によって中が熱く潤んでくる。俺の腸液と奴の先走りで、ときたま濡れた音が結合部から聞こえた。その頃にはもう、遅い腰使いじゃ物足りなくて、気がつくと、自分でも体を揺らしていた。

「柏木、おまえ、気持ちよくなってんの?」

 笑いの滲んだ声が背後から浴びせられる。三島も俺が淫らに腰を振っていることに気付いたようだ。俺は答えるかわりに三島を締め付けた。

「あぁ……やば…、すっげえ気持ちいい」

 快感で上ずった三島の声。早く動けよ、と俺の心を読んだようなタイミングで、三島がいきなり深く挿入してきた。

「ひっ」

 ズドンと奥まで刺しこまれ、一瞬だが目の奥がチカチカ光った。そのショックから立ち直る間もなく、腰を引いた三島が再びえぐるように突きあげる。

「ん、あっ!」

 俺の腰を押さえつけ、三島の激しい抽送が始まった。どこを擦ればいいのか探り当てるために、角度や速度をかえ、俺の反応を見ている気配があった。こいつ意外と冷静だ。

 ある部分を擦られたとき、脳髄を直撃するような鋭い感覚が走った。その時、自分でも恥ずかしいくらい感じ入った声が飛び出し、後ろで三島が「ここか」と言うのが聞こえた。

 俺を腰砕けにするそこを、三島が重点的に狙ってくる。俺は腕を折り、シーツに顔を押し付けた。喘ぎ声が止まらない。一突きごとにイカされそうになる。さっきイッたばかりなのに、俺はまた勃起させていた。

「柏木」

 荒い呼吸の合間、三島が俺の名を呼ぶ。

「やっぱ、こっち向け。おまえの顔見たい」

 ズボッと陽根を引き抜き、俺の体をひっくり返したその手で両膝を押し広げて、再び中に入り込む。それからまた、リズミカルな掘削動作を始める。

 気持ち良くてぶっ飛びそうになる。自ら足を抱えあげて、恥部を三島に押し付ける。理性も外聞もなく、三島に刺し殺されたいと思った。

 三島に、いいか、と聞かれると気持ちいいと答えた。俺が痴態を晒すと、それを見た三島の目つきが、顔つきが、欲にまみれてひきつるのがたまらなかった。普段俺には見せない三島の雄の部分。征服されているという被虐心をくすぐられる。

「はぁっ、んっ…い、いい……あっ…気持ち、い……」
「俺も……おまえのケツ、最高」

 ふたりとも獣みたいな咆哮をあげて、俺は自分の腹に、三島は俺のなかに、たっぷり精液を吐き出した。

 ※ ※ ※

 幸せな夢を見ていた。

 学生時代に戻った俺たちは、誰もいない教室で向かい合っている。教室はおろか学校の敷地内にさえ誰もいないような静けさだ。

 俺は当時、三島に言えなかった言葉を言った。

「好きだ」

 優しい微笑を浮かべる三島が、顔を近づけてくる。俺も三島の口元を見つめながら顔を寄せ、目を閉じた──

 現実に引き戻されたとき、それが夢だったと知ってひどく落胆した。願望が見せた残酷な夢。どうせなら、キスしてから目が覚めればいいものを。ゆうべ、三島が俺にキスしてくれることなど、一度もなかったのだから。

 体を反転し、隣で寝ているはずの三島をみたらもぬけの殻で、少し離れたところに、きっちり衣類を身につけた三島が立っていた。

「俺、帰るよ」

 挙動不審なまでに目を動かしながら言う。俺を見ない。俺が見ている視線すら辛そうに、落ち着きなく首を動かす。

「三島」
「じゃ、悪かった」

 俺の制止を無視して、三島は逃げるように部屋を飛び出した。

 悪かったってなんだよ。

 遠ざかる足音を聞きながら、あいつはもう二度と、俺に会いに来ないだろうと思った。

 ※ ※ ※

 彼女に相手にされず、欲求不満だった三島は興味と憂さ晴らしのために俺を抱いたに過ぎない。いざ、身も心も落ち着いてみると、男の俺を相手にとんでもないことをしてしまったと我に返った。だから脱兎のごとく逃げ帰った。そして俺は好きな男と親友を同時に失った、事の顛末はこんなもんか。確かに、俺の人生においては歴史的瞬間だったな。

 平気なふりして日常生活を送っているが、実はけっこう堪えていた。あれから一週間近くが経つが、三島から連絡はないし、もちろん会いにも来ない。

 家が近いから、彼女と休みの合わない休日、三島はよく俺の家にやってきた。もうそんな気軽な関係じゃなくなったことが、あの一夜を後悔させるほど寂しい。

 目先の欲求を優先させず、あのとき断れば良かったのかと、何度も自問自答するが答えはでない。ある意味では、最高の形であいつを吹っ切ることが出来たとも言える。でないと俺は、この先何年でも、ぐずぐずとあいつを想い続けていただろう。

 これで良かったんだ、これで──。

 玄関のチャイムが鳴った。ドンドンと扉を叩き、連続してチャイムを鳴らすそいつは「開けろ」と大きな声を出す。

 ドアスコープを覗くと──驚くなかれ!──玄関に、枕を抱えた三島が立っていた。

「夜中に近所迷惑だ」

 扉を開けて三島を中に引っ張りこんだ。

「すまん」

 三島は項垂れ、俺に日に焼けた項を見せた。俺の心臓が壊れるほど早く胸を打つ。

「何しにきた、また彼女に追い出されたのか」
「原稿はもう終わった」
「じゃあ、何しに」
「あれからずっとおまえのことばっか考えてるんだよ、頭から離れねえんだ、気がおかしくなりそうだ」

 悲痛な声で訴える三島は、短い頭髪を乱暴に掻き毟った。そして泣きそうに歪んだ顔をあげ、俺の目を見据えて言った。

「おまえのこと、好きになったかもしれん」

 心臓が止まりそうだった。

「あの時のおまえの顔、すっげえ可愛くて、声もエロくて、彼女といる時でもずっと頭の中でチラつくんだよ」

 驚く俺の表情をどう読み違えたのか、

「気持ち悪いこと言ってごめん、でも、おまえのこと考えたら苦しくって、会いたくて仕方なくなるんだ、自分でもどうしたらいいか、わかんねえんだよ」

 と、自分の胸元をわしづかんだ。俺まで胸が苦しくなって呼吸が乱れた。

「それで、枕持って来たのか?」
「あれから毎日おまえをネタにしてマスかいてた、もう我慢も限界っぽい。振るなら今ここできっぱり振ってくれ」

 実に三島らしい正直な告白だった。

「もう、彼女のところには帰さない」

 三島の首に抱きついた。俺はやっと、幸福な夢の続きを見ることが出来た。



スポンサーサイト
[PR]

棚ボタ(1/2)

2021.02.22.Mon.
※初出2010年、旧題「腐女子を彼女に持つ男が直面した悩み」

 玄関に、枕を抱えた三島が立っていた。

「なんだ」
「彼女に追い出された」

 友人の三島は枕がかわると眠れないたちで、出張に行く時も荷造り用の鞄のなかに枕を詰めるほど精神が細やかなところがある。夜中いきなりやって来て泊めろと迫る図太い性格をしているくせに意外だ。

「またあれか」

 三島はそうだと頷いた。去年知り合い、付き合うと同時に同棲になだれ込んだ三島の彼女は、いわゆる『腐女子』と呼ばれるやつで、ある時期がくると「原稿が」「締め切りが」と仕事以外の時間を全て同人誌を制作する作業にあてるようになる。そのあいだ、彼氏の三島はほったらかし。構って欲しくてちょっかいを出すと本気で怒られ、邪魔だから、と部屋から追い出されしまう。そしてうちにやって来るのだからいい迷惑だ。

 学生時代、頼まれる度、講義の内容を写させてやっていたのが間違いのもとだ。こいつは甘やかすとその分つけあがる。今頃後悔しても遅いのだが。

 こたつに入った三島はそのまま寝転んだ。体が大きいために、入りきらない足が反対側から飛び出している。

「飯は?」
「食べてきた」

 天井を見ながらぼんやりと答える。もう眠いのかもしれない。寝るか、と訊ねると、うーん、と上の空な返事があった。

「なんかさぁ、俺と原稿と、どっちが大切なんだって気がするよな」

 視線は真上に向けられたまま三島がしみじみとした口調で言った。

「知るか。追い出されたんだから、答えは出てるだろ」
「冷てえな、慰めるのが親友だろ」
「犬も食わないまずい残飯を俺に食わそうとするな」
「俺たち夫婦じゃねえし」
「一緒に住んでるんだから同じようなものだろ」
「そういえばおまえ、いつ彼女作んの?」

 興味深々といった顔つきで三島が体を起こした。また余計なことを……。

「作ろうと思って作るもんじゃないだろ」
「おまえ、モテんのにさ」

 俺は三島を睨んだ。人の気も知らないで残酷なやつだ。

 俺が黙っていると、三島がハッと思いついたように顔を輝かせた。身を乗り出し、

「もしかして、ホモとか」

 小/学生みたいなテンションで訊いてくる。俺はわざとらしい溜息をついた。

「ほんとにそうだったらどうするだよ。彼女の影響か?」
「そうなんだよなぁ、最近、仲良さげな男見ると、もしかしてって疑ったりしちゃうんだよな、やばい傾向だよ」

 頬杖をつき、演技ぶったしかめっ面でうんうん頷く。

 三島の彼女が書いているのは漫画だ。以前三島が持ってきたので見たことがある。少女漫画に出てきそうなキラキラした男が、同じくキラキラした美少年と恋に落ち、セックスで締めくくられるハッピーエンド。これは全然ぬるいほうで、彼女が描くその多くは、強/姦、複数、調教、触手など、エグイ内容がほとんどらしい。とんでもないものを描いている。それでも最後はハッピーエンドになるというのだから、もはやファンタジーの世界だ。

「でもさぁ、実際のところ、男同士ってどうなのかな? いいのか?」

 おまえなら知ってるだろ、なんて口振りで俺に聞くな。どきっとするだろ。

「それこそ彼女に聞けよ、俺は知らんよ」
「なぁ、一回ヤッてみねえ?」

 さっきまでの気の抜けた表情をわずかに強張らせて三島は言った。冗談じゃない雰囲気。一瞬俺までマジになって三島を見つめてしまい妙な間があく。──いかんいかん。

「追い出されたいのか」

 いつもの調子を意識して切り返す。三島は表情を崩し、なんてな、と目を細めた。そのとき出来る目尻の笑い皺が俺は好きだった。もっと言えばその浅黒い肌も、硬くて太い髪の毛も、がっしりした体も、学生の頃から好きだった。

 こいつは彼女と同棲までしてるのに、俺はいまだに片思いを続けている。バカだと思うが、諦められない。だからこんな話題は危険だ。俺の気持ちを勘付かれてしまうかもしれない。

 しかし一方で、いまのはチャンスだったのに、と悔やむ気持ちもないではない。思い出作りというやつだろうか。最後に願いが叶うなら、俺は三島をきっぱり諦められる気がする。その代償は計り知れないが。

「最近ヤラせてくんないから、欲求不満なんだよ」

 言い訳するように三島は頭を掻いた。俺に、おまえと彼女の生々しい濡れ場を想像させないでくれ。それこそファンタジーの世界にとどめておいてくれ。

 テレビを見ながらしばらく雑談したあと、どちらともなく寝るか、となり、俺はベッドに、三島はこたつに寝転がった。

 ※ ※ ※

 どれくらい時間が経っただろうか。

「起きてる?」

 てっきり寝ているとばかり思っていた三島から声があった。壁のほうを向いたまま、起きてるよ、と返すと、背後で三島がごそごそ動く物音が聞こえた。

「なぁ」

 いきなり肩を掴まれた。驚いて振り返ると、すぐそばで三島が俺を見下ろしていた。

「やっぱりしてみないか?」

 ギシリ、とベッドを軋ませて、三島が俺の上に乗りかかってくる。

「な、なにを」
「頭から離れねえんだよ、一回、試してみたい」

 俺の胸に顔を押しつけ、駄目か? と上目遣いに訊いてくる。そんな目で俺を見るな。甘やかしたくなるだろう。

「本気で言ってるのか?」

 コクコク頷く。畜生、可愛いじゃないか。むさい三島のぶりっこにときめいてしまうなんて、俺も末期だな。

「どうなっても知らないぞ」

 体を起こすと、三島に抱きしめられた。男らしい力強さ。夢にまで見た愛しい男の腕の中。もう、どうなってもいいや。

 ※ ※ ※

 ベッドの上で胡坐を組んで向き合い、

「どうする? おまえ、どっちがいい?」

 挿入する側、される側を決めるために話し合っていた。

 興奮しきっている三島からは、普段より濃厚にオスのにおいが発散されている。いまからこいつとセックスするんだ、なんて強く自覚させられて、俺までのぼせそうになる。それを隠すために、俺は三島とは逆に興味がなさそうな、白けた態度を装った。

「俺はどっちでもいいよ。明日も仕事だし、やることやって早く寝たい」
「おい、この歴史的瞬間に淡白すぎるぞ。それとも経験者かよ」
「バカらし。じゃ聞くが、おまえは男のケツに突っ込めるのか? 男に突っ込まれて平気か? どっちなんだ?」

 腕を組んで三島は考え込んだ。どんな想像を巡らせているのか、時折顔をしかめたり、締りのないニヤけ面になったりする。ほんと、見ていて飽きないよ。

 決意したのか、三島がやけに凛々しい顔つきで言った。

「よし、俺が入れる」

 というわけで、歴史的瞬間における俺たちの役割が決定した。




【続きを読む】