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Last Smile

2020.12.20.Sun.
<「君と僕」→「初めての温度」→「嫌がる本当のワケ」→「知らない世界」→「初めての右手」→「デジカメを探せ」→「夏祭り 前」→「夏祭り 後」→「受験勉強」→「 St. Valentine's Day」→「チクン」→「祭りの夜」→「お愉しみの夜」→「発熱発情発汗発射」>

※高校卒業

 目を閉じると、泣きそうな顔で俺を見送る和也が目蓋の裏に浮かんでくる。

 俺がH県の大学へ進学を希望していると知ってから、和也の表情に時折暗い影がさすようになり、大学に合格したと聞いた時は、かろうじて「おめでとう」と笑顔を浮かべはしたが、その目元はひきつっていた。俺は大学への進学が決まり、和也は役場での就職が決まっていた。

 家から大学へは毎日通っていける距離ではなく、近くに部屋を借りた。引っ越しまでの間、和也は落ち込み、笑うことさえしなくなった。

「俺も寂しいんえ? おまえと離れんの、嫌なんえ?」

 和也の部屋にあがりこみ、落胆する肩を抱き寄せた。

「あっち行ったら、貴志は俺のことなんか忘れてまう」
「そんなことないわ。毎日電話する。メールもいっぱいする。休みには戻ってくる。おまえが来てもいい。俺の部屋で、朝から晩までずっと一緒におろ? な?」

 暗い顔で目を伏せたままの和也を押し倒した。服の中に手を入れて乳首を摘んだ。

「嫌や……、そんな気分とちゃう」

 眉をひそめて和也が言う。俺はそれを無視して服をたくしあげ、乳首に吸いついた。すぐ硬く持ち上がった。足の間に入れた太ももで、和也の股間を揉むように押した。

「貴志、ほんま……、やめてや」

 言葉とは裏腹に、和也のちんぽが硬くなっていく。ベルトをはずし、ズボンの中に手を突っ込んだ。手の中に包みこんで揉みしだく。

「ふっ……、アッ……いやって、貴志……」

 和也が俺の腕を掴み、引っ張り出そうとする。俺が抵抗すると、その手に力がこもった。

「貴志、ほんまにやめてや、俺はしたないねん」

 俺の目を見据えながら、怒気をはらんだ声で、和也がきっぱり言った。カッと頭に血がのぼり、和也のズボンの中から乱暴に手を引き抜いて、床に座りこんだ。

「ほなら、もうええわ」

 強がって腕を組んだ。顔を背ける俺のそばで、和也は服の乱れを整え、座りなおした。

「来週に引越しや。荷造りで忙しいから、しばらく会えんと思う。せっかく会いに来たのに、そうやってヘソ曲げられとったら会いに来た意味ないわ」

 吐き捨て、立ち上がった。不安な顔で和也が見上げてくる。その唇は真一文字に閉じられたまま開く様子はない。

「ほな、もう帰るわ」

 最後の賭けに出て、和也に背中を向けた。ドアに向かって歩きながら、和也が引きとめてくれることを期待した。ノブを掴み、ひねる。開いたドアから俺が出て行っても、和也は俺を引き止めるどころか、見送りに来てくれることもなかった。苛立ちと挫折感。

 いまさら引き返せずに、下におりて、おばちゃんに挨拶をしてから和也の家を出た。

 ※ ※ ※

 あれ以降、和也から連絡は一切無く、俺からも連絡しにくくて、ぐずぐずしていたら、引越し当日になっていた。

 和也は見送りに来てくれないかもしれない。不安と寂しさで、喧嘩別れしたままでいた自分を死ぬほど後悔したが、出発する直前、和也が家にやってきた。

 息せき切って玄関に飛びこんできた和也は、俺を見て、ほっと安堵し、微笑した。

「よかった、まだおった……」

 和也はポケットから取り出したお守りを俺に握らせた。

「ごめんな、俺……、寂しくて、素直になれんかってん。子供みたいに駄々こねてたねん、ほんま、ごめん」

 そう言いながら俺の手を握る和也の手が、細かく震えていた。家族の前じゃなかったら、抱きしめて思い切りキスしてやりたかった。

「休みには帰ってくるしな。おまえも遊びに来いな」

 ギュッと強く手を握り返した。和也は泣き顔のような笑みを浮かべて頷いた。

 俺の家族と和也とで駅まで歩いた。駅のホームには、俺たちの他に誰もいなかった。みんなに見守られながら、俺はやってきた電車に乗り込んだ。

「貴志、あんた、気ぃつけなさいよ! なんかあったらすぐ、電話してくんのやで!」

 叫ぶオカンへ頷いた。親父はその後ろで小難しい顔をして腕を組んで立っていた。

「貴志くん、いってらっしゃい! しっかり勉強してきてねー!」

 義姉と姪が俺に笑いかける。俺も笑い返した。親父たちにむりやりつれて来られただけの兄貴は、退屈そうに欠伸をしていた。

 最後に和也を見た。和也は今にも泣き出しそうな顔をしていた。何か言いたそうに唇が動いている。不安がる和也を安心させてやるために、俺はにっこり笑って頷いた。

 扉が閉まった。動き出す電車の窓から、ホームのみんなに手を振った。離れていく姿に胸が締め付けられ、目の奥がジーンと熱くなった。

 座席について、スポーツバッグをおろした。気を緩めてしまうと、目に涙が滲んでくる。俯いて目を閉じた。

 ホームで俺を見送る和也の姿は、きっと一生、忘れることはないだろうと思った。

※ ※ ※

 大学生活は楽しかった。はじめて家を出ての一人暮らしも、最初は慣れない家事に悪戦苦闘したが、慣れてみると意外に嫌いじゃないことに気付いて、掃除洗濯も苦ではなくなった。

 サークルに入って友達と呼べるものも出来、毎日その付き合いと勉強とで忙しかった。

 休みの日にはたまに和也と会った。和也も慣れない仕事に疲れているようだった。だいたい市内をブラつくか、俺の部屋で二人きりでいた。

 和也は、俺の大学生活での話をあまり聞きたがらなかった。だから俺もあまり話さなかった。サークルや友達付き合いのせいで、メールや会う回数が減っていたせいかもしれない。

 ある日なんかは、サークル仲間との約束のため、和也が会いにくる、と言ったのを断った。

 約束の相手は、同じサークルの速水ゆかり。ゆかりと俺は、妙に気が合った。最初はサークルだけの付き合いだったのが、彼女から休日の買い物に付き合って欲しいと言われたのをきっかけに、大学外でも会うようになった。ゆかりは、いつもジーンズにシャツをはおったラフな格好で、他の女と比べ、気さくで話しやすかった。たまに見せる女らしい言動に、頬がじんわり熱くなることもあったが、それだけだった。

 友人の岡本が、俺とゆかりが付き合っているのかと聞いてきたが、俺はそれを笑い飛ばした。それからゆかりの態度がよそよそしいものになった。話しかけても無視されることもあり、わけがわからず、逃げるゆかりを捕まえ、問い詰めた。

「なに、なんで怒ってるん? 俺、なんか悪いことしたか? 言ってくれなわからへん、言うてや、頼むわ」

 ゆかりは黒縁めがねの奥の目を潤ませ、俺を睨んで来た。

「あたしの勘違いやったのよ、だからもう構わんといて」

 俺の腕を振り払って行こうとする。意味がわからなくて、再度ゆかりを捕まえた。

「勘違いってなに、何を勘違いしとったん?」
「……あたしは、貴志と付き合ってると思ってたの! そしたら違うって言ってたって岡本くんから聞いて……」

 ゆかりの顔が泣きそうに歪んだ。

「だからもう貴志とは一緒におられへんの! もう腕はなしてよ!」

 と腕を振るゆかりを思わず抱きしめた。ハッとするほど華奢な体に、動悸が早くなった。 

「な、なにしてんのよ……、はなしてよ、またあたし、勘違いするやんか……」

 俺の腕の中でゆかりは固まっていた。俺は自分の熱い顔を意識しながら、口を開いた。

「だって……、付き合うとか、そんなこと一言もなかったやんか……、俺、言うてくれなわからへんもん、ゆかりがそのつもりやったなんて、知らんし、気付かへんかったし……」

 この時、俺の頭に和也のことは一切浮かんでこなかった。ただ、ゆかりを悲しませちゃいけない、という使命感だけがあった。気楽に付き合えるゆかりを手放したくない一心で、俺は腕に力をこめた。

「そうなんやったら最初から言うてくれな……」
「言ってたらどうなるん?」

 赤い顔で、ゆかりが俺を見上げてきた。

「言ってたら……、つ、付き合ってたよ」
「ほんまに?」

 顔を輝かせるゆかりに頷いた。ゆかりがことさら嬉しそうな顔をするので、俺まで顔がほろこんだ。和也のことを思い出したのは、間抜けにもそれから数時間経ってからだった。

 自分が二股をするとは驚きだった。俺は兄貴とは違うと思っていた。兄貴は遊びなら誰とでも気軽に付き合っては、飽きるとさっさと別れていた。血は繋がっていても、俺はそんなことは絶対しない、そう誓うような気持ちでいたのに、無意識にゆかりと付き合うまで話をすすめていた。

 和也には絶対に知られちゃいけない。ゆかりにも、和也のことは秘密にしなくてはいけない。前以上に、和也と会う回数が減っていった。

 それから半年が過ぎた。正月には帰って来い、と親父から言われていたので、気は進まなかったが、村に戻った。

 ひさしぶりの村は驚くほどのどかだった。正月というせいもあって、家までの道中、誰にも会わなかった。村人全員が神隠しにあったのではないかと思うほどだ。

 家につくと、家族全員が揃っていた。姪の凛もしばらく見ない間にまた大きくなっていた。義姉の腹には二人目の子供がいるらしい。まだ三ヶ月。つい最近、病院で診察を受けて、妊娠しているとわかったのだそうだ。

 家族だけの初日が終わり、二日目には暇になった。親父と兄貴は青年団の集まりに出かけた。どうせ麻雀大会だ。ルールを知らない俺は家に残り、しばらく凛の遊び相手をしていたが、近所の子が凜を外に連れ出してから、俺はまた手持ち無沙汰になった。

「あんた、和也くんには会いに行かんのか」

 オカンの何気ない一言に身がすくむ。

「あぁ、うん……、行く」

 正直なところ、会いづらい。俺がゆかりと付き合い出してから、和也とは1、2回しか会っていない。正月に帰ることも知らせていなかった。

「なによあんた、喧嘩でもしてるんか?」
「そんなんちゃう」

 あれこれ聞かれるのも鬱陶しくて、俺は家を出た。一応和也の家に向かってはいたが、まだ会う決心はついていなかった。途中で顔見知りとすれ違い、少し話をした。家族以外の第一村人発見。

 とうとう和也の家のまえについた。そこで溜息をついた。出かけていればいい、と願いながら、玄関の呼び鈴を押した。すぐ、和也の おばさんが姿をあらわし、俺を認めると破顔した。

「あらまぁ、久し振り、元気にしてたん? はよあがり。和也! 貴志くん来てくれたよ!」

 おばさんが家の中に向かって大声をあげた。和也は家にいるようだ。とたんに気持ちが焦る。

「いや、ちょっと顔見に来ただけやし」

 おばさんが俺の腕を掴んで引っ張る。俺は玄関に踏ん張って、抵抗した。

「おかん、貴志が嫌がってるやんか」

 奥の部屋から出てきた和也が苦笑した。久し振りに見る和也は、髪が短くなってスッキリしていた。俺はそれに見とれた。

「久し振りやな、貴志、初詣は行った?」
「あ……、いや、まだ」
「ほんなら、一緒に行こう」

 ポカンと見とれる俺の前で和也は靴を履き、俺の腕を掴んで外に出た。

「ごめんな、おかん、強引で」

 神社への道を歩きながら和也がチラリと笑った。俺は和也の横顔を見つめながら、胸の高鳴りを感じていた。やっぱり俺は和也が好きだ、そう再確認した。

 神社にはそこそこ村人が集まっていた。ほとんどが見知った顔なので、あちこちで足止めを食って、あれこれはなしを聞かれたり、聞かされたりした。

 お参りのあと、神社の裏手の山道をのぼった。

「クリスマスのあとな、少しだけ、こっち雪降ったんえ。そっちは?」

 白い息を吐きながら、和也が途中のベンチに腰をおろした。

「俺んとこは降らへんかった。あんまり降らへん地域らしいわ」
「そう、いいな、雪かきせんでいいやんか」

 そう微笑む和也の真っ白な頬を手のひらに包み込んで顔を近づけた。冷たい頬とは対照的に、唇は温かかった。

「今まであんまり連絡せんとごめんな、和也」
「ええよ、貴志も忙しいんやろうし、俺も仕事があるし」
「今度からちゃんと連絡する。俺からも会いに来る、約束する」
「できへん約束なんか、せんでええわ」

 和也が寂しく微笑んだ。それを見て俺は焦った。

「なんでや、ほんまに俺、毎日和也にメールもするし、休みには会いにくる」
「もうええって、貴志。もう、これを最後にしよう」

 和也は微笑んだまま「最後」を口にした。突然に別れを切り出された俺は絶句し、和也の顔を見つめた。

「ほんま言うとな、俺の中ではもう終わっとってん。大学入ってしばらくしてから、貴志、かわってもうたもん。忙しいみたいで、俺にメールくれへん日が何日もあったし、会いに行く言うても、断られたり。大学の人たちと遊ぶのが楽しくて仕方ないって感じやった。もしかして、他に付き合うとる子が、おんの?」

 何気ない調子で言い、和也は首を傾げた。ゆかりの顔が頭に浮かんだ俺は、咄嗟に目を逸らしていた。逸らしてから、しまったと目線を戻したが、和也は全てを見抜いたように、諦めの微苦笑を浮かべていた。

「やっぱりな。そうちゃうかなぁって思うとってん。だから、俺は身を引くことにしてん。予想よりちょっと早かったけど、いつかこうなる思うとった。男同士でいつまでも一緒にはおれんもんね。だから、俺は平気なんえ。貴志が幸せなら、俺はそれでいいのんえ」

 優しい眼差しで俺を見つめながら言う。俺は首を横に振った。

「嫌や、俺は嫌や……」
「こうすることがお互いのためなんよ。俺もはじめは悲しかったけど、今はもう、笑って貴志の前におれる。貴志には他に好きな子がおるし、俺も安心や」

 そう言うと和也は立ち上がった。

「寒いな。帰ろうか」
「嫌や! ぜったい嫌や! 別れへん!」

 俺の怒鳴り声に和也は少し驚いた様子だったが、すぐ、いつもの穏やかな顔に戻った。

「俺な、もう、待つのに疲れたんよ。貴志のこと考えながら、知らん人らに嫉妬すんのにも疲れたんよ。俺も貴志を解放したるから、貴志も俺を楽にさして」
「楽になんか……させへんわ!」

 和也に抱きついた。ゆかりの細い体とは違う抱きごこちに、自分の罪深さを思い知らされた。和也を裏切り続けていたのは俺だ。和也にふられるのも俺のせい。俺には和也を引き止める資格なんかないんだ。

「貴志、友達に戻るだけや。たまに会って、たまに話して、二人共大人になって、結婚して、子供できて、仕事の愚痴とか言いあって……」

 途中から涙声になり、和也は言葉を詰まらせた。鼻をすすりあげ、

「貴志のこと、好きやったよ、この気持ちだけは、一生忘れへん」

 素早く俺にキスしたあと、和也は走り去った。

 俺は流れる涙をそのままに、和也が消えた道をいつまでも見ていた。

 これが俺と和也の最後だった。




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