FC2ブログ

嫌がる本当のワケ

2020.12.08.Tue.
<「君と僕」→「初めての温度」>

※中1、エロなし

 和也の部屋に入って、後ろ手に扉を閉める。ゴトンと音を立てて、鞄が床に落ちる。その音に和也が振り返った。

 床に落ちた鞄を見、視線をあげて俺の顔を見る。

 大幅に歩み寄り、和也の頭を抱え込んでキスした。

「んっ! な、貴志! なに、しとん、なっ!」

 俺の胸を押し、顔を背け、和也は抵抗する。

「なにて、キスしとんのや」
「最近、うち来たらそればっかりや! やめえや!」
「ええやん、減るもんやなし」
「減る! 減るわ!」
「ほー、何が減るのんえ?」
「何て……俺の純潔! 唇の指紋!」
「アホ、唇は指紋て言わんのや、唇紋て言うのや」
「そっ、そんなん、どうでもええわ! とにかく俺から離れえや! 気色悪い!」

 夏の始めにキスして以来、俺たちは何度も同じことを繰り返していた。俺は何回だってしたいのに、最近和也は嫌がる。それも、本気で。気色悪いと言われ、さすがの俺も落ち込む。

「そないに嫌か?」

 和也の腰の後ろで指を組み合わせ、下半身はぴったり密着したまま顔を覗きこむ。和也は顔を逸らし、下を向く。

「なぁ、俺とキスすんのん、そないに嫌か?」
「あっ……だって……! あんなん、女にやることやんか! 俺は女とちゃう、俺を女のかわりにせんでや!」
「女のかわりとちゃうで、お前やからしたなるんえ?」
「お、俺は嫌や……嫌や!」

 と、和也は大声を出して俺を拒絶した。嫌や、という言葉が俺の心臓にグッサリ突き刺さる。俺は泣き出したいような、怒鳴りたいような、複雑な気持ちになって、脱力する。和也を囲んでいた腕の力が抜け、ダランと下に垂れる。

「ほうけ、悪いことしたの。ほな、もうせんわ……」

 力なく呟き、和也の横を通り抜け、俺はテーブルの前に座った。

「ほな、宿題、やってまうか」

 今日はそういう口実で和也の家にあがりこんだのだ。

 鞄を引っ張り、中から教科書とノート、筆記具を取り出す。小さいローテーブルにそれを広げ、問題文を読むが一向に頭に入らない。さっきの和也の言葉がショックで気持ちが沈み、正直、宿題なんてやる気分じゃない。

 和也はさっきの場所から微動だにせず、突っ立ったまま。俺のそばに来るのも嫌だということか。奥歯を噛み締める。しばらく二人共無言でいた。溜息が出た。

「なぁ、和也、なんもせんから、こっち来て座りいや。後ろで立たれとったら、気ぃ散ってしゃあないわ」

 振り返って……驚いた。和也が声を殺して泣いていた。

「なに……なに、泣いとんのや、お前」

 慌てて立ち上がり、和也の前に立つ。顔をこする腕を掴んで剥がす。嫌々をするように、和也は首を振る。

「なに泣いとんのえ? そないに嫌やったんか? なぁ? 俺とキスすんの、そないに嫌やったんか? ごめんな、もうせんし、もう絶対、せんから。だから、泣くなや……お前に泣かれたら俺……どうしてええかわからんわ……」

 そこまで嫌がられていたのかと思うと、こっちまで泣きたくなってくる。鼻の奥がツーンと痛んだ。

「俺が嫌いなんか? 一緒におりたないんか? ここ、おらんほうがいいか? 帰ろか?」

 このまま和也が泣いているのを見ているのが辛くて、俺は帰りたい気持ちからそう言った。

「ちが……うっ、く、違う……」

 しゃくりあげながら和也が言う。

「でも、嫌なんやろ?」
「嫌と……ちゃう……帰らんといて……」

 と、俺の手を掴んでくる。遠慮がちに、指先を。

 涙で濡れる目。興奮して赤い顔。震える唇。抱きしめてもいいだろうか、と俺は考える。慰めてやりたい、抱きしめたい。でも、嫌がられたくない。嫌われたくない。

 向き合って立ったまま、俺は和也の出方を待っていた。俺の指先を掴む和也の手、それだけが俺たちを繋ぐ唯一。

 俺の視線は所在なく、あちこちを泳ぐ。和也の顔、床、テーブルの宿題、天井の照明、窓からみえる外の景色……。

 何分、そうしていたのか。和也の呼吸が落ち着いてきた。涙は止まり、嗚咽の間隔も長くなり……和也が俺をまっすぐ見上げてきた。泣きはらした目。何度もこすって赤い鼻。それを見て痛む俺の心。

「ごめんな……お前がそないに嫌がってる思わんかったから……。もう二度とせんから……」
「ちゃう……嫌とちゃう……」
「さっき嫌や言うたやんか」

 和也の考えていることがわからなくて、混乱して、俺は困り果てる。胸の中がモヤモヤとする。

「嫌と……ちゃう……ちゃうねん……」
「ほな、なんな?」
「貴志とキスしたら、俺……おかしなるねん」
「おかしなるって?」

 聞き返すと、和也の顔はみるみる赤くなっていった。その変化を驚きつつ眺める。

「心臓がな、ドキドキなって……苦しなる……苦しいのにな……」
「苦しいのに?」
「き……」
「き?」
「き……気持ちようなるねん……」

 湯気が出るんじゃないかというほど、和也は赤面した。それを見られたくなくて、もう片方の手で自分の顔を隠そうとする。俺はその手を掴んだ。

「俺とキスしたら、気持ちようなるんか?」

 確認すると躊躇いがちに頷く。

「それが恥ずかしいから俺とキスしたないって言うたんか?」
「だって、貴志はいつも平気な顔しとるし、俺だけこんなん、恥ずかしいやんか……」

 嫌われてなかった! 気色悪いと思われてなかった! 俺は安堵し、次いで歓喜した。

「アホ!」

 泣きたいくらい嬉しくなって和也を抱きしめる。

「アホ和也! 心配させんなや! 心臓に悪いっちゅーねん! お前が泣くほど嫌がっとる思うて俺、めちゃくちゃ落ち込んだやないか!」

 俺の腕の中で「ごめん……」と小さな声。

「気持ちようなってええんや! 気持ちようなることしとんのやから、恥ずかしいことあらへんのや! 俺かて、お前とキスしとる時、ごっつ興奮しとんのえ? ぜんぜん平気なんかとちゃうわ!」
「ほんま?」

 と俺を見上げてくる和也に顔を寄せ、キスした。チュ、チュ、と音を立て、何度も唇を合わせる。

「あ……かん……」

 和也が俺の腕を掴んで離れようとする。

「何があかんのえ」
「あかん……これ以上やったら……俺、おかしなる……」
「おかしなったらええ」

 断定するように言い、また口付ける。唇が触れ合うだけの行為がもどかしく感じる。もっと和也を感じたくて、体を引き寄せた。ぴったり密着して気付く下半身の異変。和也が勃たせていると気付いて、俺は驚き、興奮した。おかしなる、という意味が、キスを嫌がった本当のワケが、今ようやくわかった。

「和也のチンコ、勃っとる」
「嫌や、言わんといてぇな……」

 目を閉じる和也の睫毛が細かく震える。

「気持ちええから、勃ってもうたんか?」
「うん……」
「俺も、勃ってきた……」

 人生ではじめて、生身の人間に対して、突き動かされる欲求を感じて勃起した。

 キスしながら、お互いの股間をこすり合わせる。布越しに、和也の硬さと熱を感じて、目が眩む。

「あぁ……和也……気持ちいい……、お前は?」
「俺も、俺も、気持ちいい……っ」

 精通は済ませていたが、自分のチンポをシコるという発想はまだなくて、俺も和也も、腰を振るだけに終始した。

「もう、もうやめよ……痛なってきた……」

 和也に止められ、我に返る。なんだか気恥ずかしくて、まともに和也の顔を見れない。

 立ったままでいるのも変なので、その場に座り込む。手は繋いだまま。

「これからもまた、キスてええ?」

 俺が聞くと、和也は「うん」と首を縦に振った。

 勃起が落ち着くまで何度もキスした。落ち着いてからも、俺たちは何度もキスをした。

 宿題なんかすっかり忘れて。


スポンサーサイト
[PR]