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初めての温度

2020.12.07.Mon.
<前話>

※中1、エロなし

「貴志、さっきから何怒っとんの?」
「怒ってへんわ」
「怒っとるやんか。顔、ごっつ恐いやんか。俺のこと、見ぃひんやんか。昼休みから、貴志、ずっと怒っとる。何怒っとるんえ?」

 学校からの帰り道、舗装されていない砂利道を歩きながら、和也が俺の顔を覗きこんでくる。俺はそれから顔を背ける。

「ほら、俺の顔見ん。なに怒っとんの? 俺、なにした?」

 と、和也は俺の腕を引っ張った。掴まれた場所がカッと熱く感じて、俺は乱暴にそれを振り払った。

「あっ」

 小さい和也の声。はっとして見ると、振り払われた手を宙に浮かせたまま、和也は傷ついた顔をしていた。

「なに怒っとん……?」

 か細い声で言う。俺はたっぷり自己嫌悪を味わい、下唇を噛んで、視線を落とした。

 ジャリ、ジャリと砂と小石を踏みしめ、歩く。足音が一つ減った。和也が立ち止まり、俺を睨んでいる。

「はよう来い。放って行くど」

 俺が低い声でつっけんどんに言うと、

「もう知なんわ、貴志なんか知なん、嫌いや、アホ」

 と和也は唇を尖らせた。嫌い、アホ、と言われ、俺の頭に血が上る。

「なに言うとんな、ボケ! ほな、勝手にせえや! 俺は先に帰る! お前は明子と帰ったらええわ! ほんまは明子と帰りたいのやろ!」
「え? 明子……? なんで明子が出てくんの?」

 和也は目を丸くした。

 明子は俺たちより一つ上の、中学二年生。サバサバとした性格で、面倒見が良く、チビ達から慕われている。

「お前、今日の昼休みに、明子と仲良う、しゃべっとったやないか! 女としゃべって、嬉しそうにデレデレしとったやないか!」

 昼飯をすませた休み時間、俺と和也は二人で校舎の中から、校庭で遊ぶ奴らを見ていた。その時、明子が通り過ぎ、和也に声をかけてきた。生徒はみんな仲がいい。だからなんてことない光景のはずなのに、俺はその時、無性に腹が立った。笑って話をする和也にも、親しげに和也に話しかけてくる明子にも。ムカムカして、胸の中が焼けそうだった。

「デレデレなんかしてへん、明子は従姉妹や、話くらい、するわ……」

 そんなことで怒る俺が理解できない、という和也の顔。それを見ると、ますます俺の苛々は募る。なんでわからないのか、と思う。

「せやから仲良うしとれや! ずっと明子とおればええやろが!」
「俺が明子と話ししたから怒っとるん? なんで? 貴志かて、明子と話しするやんか」
「お前みたいにベタベタせんわ!」
「ほんなら何! 話しせんかったらええんか! なぁ! 明子と話さんかったらええんか!」

 俺の態度にさすがの和也もキレて怒鳴った。それに負けず、俺も大声で怒鳴り返す。

「あぁ、そうや! 明子とも、誰とも話すな!」
「ほんなら俺、誰としゃべったらええのんな!」
「俺や! 俺とだけしゃべれ! 俺以外の誰ともしゃべんな!」
「なんで……なんで、そんなん、言うのんな」

 俺の言い出したことに驚いて、和也は言葉を詰まらせる。俺も、自分で何を言っているのかと、驚いて、我に返る。

 そうだ。俺はこいつが、誰かと楽しそうに話をしているのを見ると嫌な気分になる。誰とも話してほしくないと思ってしまう。いつも、俺のそばにいて欲しいと思う。俺だけの和也でいてほしいと願ってしまう。

「俺が……明子と、誰ともしゃべらんかったら……貴志、怒らんの……?」

 オズオズと和也が俺に近づいてくる。目の前にきて、俺の顔を見上げてくる。

「ほんなら、俺、誰ともしゃべらんようにするから、怒らんで、な、貴志」

 と、いじらしい事を言ってくる和也を俺は思わず抱きしめていた。細くて小さい体はすっぽり俺の胸におさまる。

「ごめんやで、和也、ごめんや、俺が悪いな、俺が悪かったな、ごめんな、和也、誰としゃべっても、怒らんようにするし」
「ほんま? でも俺、貴志が嫌なんやったら、誰ともしゃべらんで?」

 胸がかきむしられた。と同時に、心臓がドクンと鳴って、俺の体温はあがった。和也の肩を持って、顔を間近に見つめる。和也の黒目に俺が映っている。下に視線を移動させると、赤く色づく半開きの唇。引きこまれるように、唇を重ねていた。やわらかい感触に頭が真っ白になる。

「んっ?! 貴志っ……」

 びっくりして和也が俺の胸を押し返してくる。

「た、貴志、何しよんの、何……」

 手で口を押さえ、和也が赤面する。その仕草や表情にヤラれて、俺はまた、和也を強く抱きしめた。

「貴志? 何? どうしたん? なんで、あんなこと……あんなん、女にやることやんか」
「なんでやろなぁ。お前の顔見とったらしたなってん。お前がなぁ、あんまり可愛いからなぁ、止められんかってん」

 和也とキスしたことに、俺は単純に喜び、興奮して、さっきまで感じていた怒りはいつのまにか消えていた。やわらかい唇を思い出したら顔がにやけてくる。

「かわいいって何よ、それも女に言うことやんか! 俺、女とちゃうし! 貴志のアホ、はよう、離れぇや!」

 俺の腕の中で和也が暴れる。顔は耳まで真っ赤だった。

「照れとんのか? 可愛いなぁ、和也は。もっかいチューせんか? さっきのは、ちょっと当たっただけやったやんか。今度はちゃんとやろうや」
「何言うとんの……貴志、なんで俺とそないなこと、したがるん?」
「気持ちええやんか、な、もっかいしようや」
「い、嫌や……」

 その口に唇を近づける。触れた瞬間、クラクラした。離れ、また口付ける。何度も繰り返した。

「なぁ、どう? 気持ちようないか?」
「わからん……」

 戸惑って泣きそうな和也の顔を見て、愛しさが込み上げてくる。

「今日、和也の家、行ってええか? また、チューしよ?」

 俺が囁くと、和也は長い間躊躇ったあと、頷いた。

 俺も和也も、体が熱くなっていた。



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