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宇宙人の恋(4/4)

2020.11.04.Wed.


 さっきまで俺が入ったいたところが眼前でヒクついている。男のそんなものを見てやる気を出す日が来るとは思わなかった。そこへペニスを押しつけた。ぬめりのおかげですんなり入る。古巣へ帰ってきたような安堵感。不思議な感覚。

「好きに動いていいから」

 寝そべる藍田の後頭部を見ながら腰を動かした。満足げな吐息を藍田が漏らす。少しずつ速度をあげていった。タンタンとリズムよく突き上げる。さっきはあまり自由に動けなかったが、これなら好きに動ける。俺の一突きで藍田のなかが締まる。少し角度を変えると体が跳ねる。体の触れ合ったところから藍田の反応が伝わってくる。もっと感じたくて背中にのしかかった。体全部で藍田を感じる。

 首をひねり、藍田が俺を見上げていた。切なげな顔で唇を舐める。キスしたいのだろうか。藍田の首に腕をまわし、顎に手を添えてキスした。上体を逸らして藍田が必死に俺を求めてくる。そんな姿は健気で可愛いいと思う。藍田の隠された一面だ。

「井上はまだ……イカねえの……?」

 俺の腕にしがみついて藍田が言った。

「もうすぐ」
「長いよ……俺のほうがもたないじゃん」

 藍田のなかは温かくて気持ちよくてつい長引かせるように腰の動きをゆっくりにしていた。受け入れる藍田にしたらツライことなのかもしれない。

「悪い、もう終わらせる」
「違くて……俺ばっか恥ずかしいだろって言ってんの」

 藍田はシーツに顔を埋めた。耳まで赤くなっている。恥ずかしくなんかない。俺だって本当はすぐイキそうなくらい気持ちいい。あっけなく終わらせるのがもったいなくてわざと自分を焦らしていただけだ。

「この前まで童貞だったくせに」
「お前の手解きが上手だったんだ」

 素直に言うのが恥ずかしくてつい誤魔化してしまった。

 藍田に抱きつく格好のまま突き上げる。

「ひ、ううっ、んっ、奥まで……きてる! あっああっ、すご……っ、気持ち、いいっ」

 藍田は痛くないだろうかと心配だったが平気そうだ。

「俺も気持ちいい」

 今度は終わらせるために腰を動かした。摩擦でどんどん中が熱くなる。締め付けが一段ときつくなる。俺を気持ち良くさせようとしているのが伝わってくる。獣じみた息遣い。バックでしていると藍田を征服したような錯覚を抱く。これは俺のものだ、と間違った独占欲が湧きあがり、藍田の過去の男に嫉妬した。射精の瞬間、思わず藍田の肩に噛みついた。

「アッ……井上……!! く……あっあ、ああっ……っ!!」

 腕の中で藍田の体が硬直する。確かめなくても藍田も出したのだとわかった。

 ※ ※ ※

 シャワーを浴びて戻ると、ベッドに座って藍田は俺の原稿を読んでいた。

「勝手に読んでるよ」
「少し手直ししたんだ。どうだ」
「うーん、いいんじゃない? 男はモアイ像より身近な女を選んだってことでしょ」
「男が好きなのはモアイ像だ。女を好きになることは絶対にない」
「は? 簡単に寝ておいてそれはないんじゃね?」
「女とは寝たが、男が好きなのはモアイ像のままだ」
「ひどっ、最低の宇宙人じゃん。子供ができても知らん顔して星に帰りそう。究極のヤリ逃げ男じゃん」
「宇宙船がないから男は星には帰れない」
「まあ俺の分析を聞いてよ。井上の好きな子をモアイ像だと仮定した場合、ヤリ捨てられる女って、俺のことじゃん」

 飛躍した話に一瞬頭がついていかなかった。

「高松さんはモアイ像じゃないし、女は藍田じゃない」
「高松さんて言うんだ、ふーん」
「いま高松さんは関係ない。それはただの創作だ」
「高松さんに恋しちゃったから恋愛ものばっか書いてるくせに何言ってんのさ。高松さんへの一途さだけは伝わるけど、これは酷い、前より酷いよ」

 と言って原稿を床に投げ捨てた。クリップが外れて原稿がバラバラに散らばる。さっきはいいと言ったのに、その直後に酷いと言う。藍田がなぜこんなに不快感を表すのかわからない。その戸惑いのほうが大きくて、藍田への怒りが削がれる。

「確かに俺は高松さんに好意を抱いている。でもそれは恋じゃないと思う」

 床に散らばった原稿を拾い集めながら言った。高松さんに好意を抱いたから恋愛に興味を持てたことは認める。だが原稿を書きながら俺がよく思い出していたのは自由奔放な恋愛を楽しむ藍田のことで高松さんじゃなかった。誰かを好きになったら四六時中その人のことを考えるのが恋愛なのだと、色事に疎い俺でも知っている。だから高松さんのことはそういう意味で好きなんじゃない。

「まだそんなこと言ってんの。男らしく認めなよ。本当は手を出したいけど怖いからマス掻くことしかできないって。俺としたようなこと高松さんとしたいんだろ。願望ダダ漏れ」
「お前はどうしてそんなに怒ってるんだ」

 藍田は目を伏せた。

「人間は欲張りなんだよ」

 口を尖らせて言う。

「一個何かを手にいれたら次が欲しくなるんだよ。友達でいいって思ってたのに、友達のままじゃ物足りなくなるんだよ。井上のせいだ。井上が悪い。俺に優しくするから可能性あるかもって期待しちゃうんだよ。全部失くすくらいなら何もいらなかったのに、ずっと我慢してきたのに、井上が俺を欲張りにしたんだ」

 伏せられた目に涙が溜まっているのが見えた。

「藍田、もしかして」
「井上が好きなんだよ、ずっと前から」

 ぽたりと涙が落ちたのを見て体が勝手に動いた。藍田を抱きしめながら、俺もひとつわかったことがあった。モアイ像は藍田だ。俺にとって藍田は近いようで遠い存在だった。ゲイだからという理由以外にも、あっさり高校を辞める潔さ、親を恨まない前向きさ、次々相手を見つけて深い仲になる度胸、後先顧みず復讐に走る大胆さ、何ひとつ俺は持ち合わせていない。

 俺がなにを考えてるのかわからないと藍田は言うが、藍田のほうこそなにを考えているのかわからない。一度や二度寝たくらいでは何ひとつ理解できない。好きな男ができたらのめり込むくせに関係が終わったらもう忘れたような顔で次の男の話をする。本当は何にも執着しない性格なんじゃないかと思う。俺のことも、連絡を取りあわなくなったらきっと忘れてしまう。

 今でもそう思っているが、俺の胸に顔を埋めて体を震わせる藍田を見ていたら別の一面もあるのかもと思えてきた。

「ずっとって、いつからだ?」
「高校の時、俺にキスしてくれた時から」

 俺のなかでモアイ像がパカッと開いた。

「藍田、モアイ像はただの石像じゃなかった」
「なに言ってんの」
「あれは宇宙人の冬眠装置だったんだ」
「意味わかんない、この宇宙人め、俺の告白なんだと思ってんだよ」

 モアイ像から出てきたのは男と同じ星の仲間。なぜか藍田の姿をしていると言ったら、この分析好きな藍田にも俺の気持ちが伝わるだろうか。それともちゃんと、好きだと言ってやるべきだろうか。





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宇宙人の恋(3/4)

2020.11.03.Tue.


 ホテルの部屋に入ったタイミングで藍田のスマホが鳴った。慌てて電話に出た藍田の顔色は悪い。それだけで亮からの電話だとわかる。

「亮くん、どうしたの……えっ、俺んちにいるの……? えっと、いま……コンビニに来てて……」

 泣き出しそうな顔で俺を見る。抜き打ちで藍田の部屋へやってきてアリバイの確認をしようとしたらしい。執念深い男だ。

「ごめんね、すぐ帰るから待ってて」

 と、ベッドに置いた鞄を掴む。俺はそれをひったくった。非難めいた目が俺を見る。その目を見つめ返しながらゆっくり首を振った。いま帰ったらなにも解決しない。

 藍田は唇を噛んだ。亮がなにか怒鳴っているのが受話口から漏れ聞こえてくる。どうして藍田はこんな男を好きになったのだろう。どうしていつも禄でもない男ばかり好きになるのだろう。まともな男だって周りにいるはずなのに。例えば俺だって──。亮に比べればマシな部類に入ると思うのだが。

 藍田の腕を掴んだ。冷たくなっている手を握る。はっと息を飲んだ藍田が、おずおずと握り返してきた。

「亮くん、ごめん……」

 吐き出すように言葉を紡ぐ。

「俺、やっぱ帰らない。もう亮くんとは一緒にいらんない。別れよう。あれも駄目これも駄目って……もう我慢の限界なんだ。ほんとごめん」

 喚く声が聞こえたが、藍田は迷いを振り切るように通話を切ると大きく息を吐き出した。青ざめた顔で無理に笑う。

「こんなに簡単だったんだな」
「簡単じゃない、勇気が要っただろ、俺の前では無理するな」
「今日はずっと一緒にいてくれるんだよね?」
「ああ」
「俺のこと慰めてくれるんだろ」
「ああ」
「甘えちゃうよ、俺」

 藍田が抱きついてくる。友情を越えた行為だとわかっているがいまはこれが最善だと思える。俺も藍田を抱きしめてやった。

 ちょっと準備してくる、と藍田はシャワーを浴びに行った。その間にスマホをチェックしたら金吾から返事がきていた。

『様子見に行っといてよかったじゃん。俺も協力するし、なんかあったら連絡して』

 ありがとうと返事をして藍田が出てくるのを待った。十分ほどして腰にタオルを巻いた藍田が出てきた。俺を見るなり笑顔になって小走りで飛び掛かってきた。その拍子にベッドに倒れ込む。

「俺も風呂に」
「いいよ、このままで」

 俺の顔を両手で固定するとかぶりつくようにキスしてきた。すぐさまぬるりと舌が入ってくる。口のなかを舐め回しながら、藍田は俺の服を脱がせていった。半裸になったところで藍田はキスをやめ、俺を見据えながら腰のタオルを剥ぎ取った。もうすでに立ちあがって天を睨んでいる。

「触ってよ」

 膝立ちになり、見せつけるように股間をつきだす。覚悟はしていたつもりだったがやはり現物を目の前にすると躊躇う。なにもしゃぶれと言われたわけじゃない、触るだけだ、と勇気を出して握った。俺のものと変わらない弾力ある固さと、熱さ。俺より少し細い気がするそれを上下に扱いた。

 俺の肩に手を乗せて藍田は顔を歪ませる。

「はあっ、あ、ああっ、気持ちいいっ」

 と腰を揺らす。俺は女と経験がない。つい二ヶ月前に童貞を捨てた相手はこの藍田だ。だから俺には藍田しかデータがない。藍田はすぐ人のものを咥えるし、卑猥な言葉を言うし、積極的に自分で動いて快楽を搾り取ろうとする。こんなのAVの世界だけだと思っていたが、普通のことなのだろうか。

「もっと先っぽぉ……っ……あ、あっそれっ……ああっ、もうイキそう、もっと早くっ、あっあっ、気持ちいい……!」

 ハアハアと腹を脈打たせながら藍田は自分で乳首を弄りだした。そこも気持ちいいらしい。空いてる片方を口に含んだ。甘噛みして舌で嬲る。

「ああっ! やっ、ああっそんな……しちゃ……ああっ、もうだめっ、出ちゃうよ、井上……イクッ、イクッ!」

 俺の頭を掻き抱いて藍田は果てた。ビュクビュクと飛び出した精液が俺の喉や胸にかかった。全部出しきると力が抜けたように藍田は腰を落とした。荒い息をしながら俺を見て微笑む。

「ごめん、かかっちゃったね」
「あとで風呂に入るからいい」

 藍田は俺の股間に顔を寄せるとボクサーをずりおろし、半立ちになっているものを大事そうに外へ引っ張りだした。藍田の口が開くのを見て前回の記憶が蘇った。急速にそこに血液が集まりだす。屹立したものを藍田は咥えこみ、音を立ててしゃぶった。すぐに出てしまいそうだ。

「ゴム持ってないからさ、このままでもいい?」
「お前はいいのか?」
「俺はぶっちゃけ生の方が好き」

 呆れつつ、顔に熱がこもる。

「もういい。早くしないと出るぞ」
「フェラ上手でしょ、俺」

 頭をあげた藍田は俺の股間に跨った。手で添えながら、ゆっくり腰をおろしていく。熱くてキツい穴に、俺のものがゆっくり飲みこまれていく。前回はわけもわからないまま終わった。友人だと思っていた藍田にフェラされ、その処理もしきれないうちに藍田に童貞を食われた。気持ちいいのか、きつくて痛いのか、藍田はどうなのか、そんなことを考えているうちに終わっていた。本当にあれは強/姦と言っていい。俺の目の前で痴態を晒す藍田の姿しか記憶に残っていない。

 今日は違う。自分の置かれている状況がよくわかっている。俺が自分で選択した結果だということも。

 藍田の腰を掴んで支えた。全部を飲みこむと藍田は深く息を吐いた。俺を見下ろして艶めかしく笑う。

「井上のちんこ好き、気持ちいい」

 膝を開いて藍田はゆっくり腰を上下に動かした。藍田のなかで俺のものが全体的に扱かれる。熱いのに心地よくて、きついのに気持ちいい。思わず口から吐息が漏れた。

「あ……井上の、またおっきくなった」
「わかるのか?」
「全部わかるよ。いますごい気持ちいいでしょ。喜んでビクビク震えてるのわかるもん。もっと気持ち良くしてあげるね」

 後ろに手をついて体を反らせた。結合部まで丸見えになる。俺の動揺なんてお構いなしに藍田は腰を揺さぶった。体勢のせいなのか、中がより締まる。

「気持ちいい?」
「気持ちいい」
「良かった……んく……う、んっ、はあっ、あっ、あっ」

 一生懸命腰を振る藍田のほうは苦悶の表情を浮かべている。無理な体勢できつそうだった。尻を掴んで上下運動を手伝ってやった。手にもっちりと張り付いてくる肌が気持ちいい。無意識に撫でまわしていたら「助平」と藍田に笑われた。藍田の言葉も表情も、今日は妙にくすぐったい。

 物足りなくて自分からも腰を振った。下から突き上げるたび藍田は声をあげた。目の前で藍田のものがブルンブルンと揺れる。さっき出したのにもう復活していた。

「はあっ、あ、だめ……井上を気持ちよくしたい、のに……っ、俺のほうが気持ちいいっ……あっああっ、や、そんな動いちゃ……だめってば……っ」

 俺の上で藍田が見悶える。前回はドン引きした藍田の痴態もいまは平気だ。むしろもっと喘がせてやりたいと思う。

「ああっ、だめ、やっ……深いとこ当たって……気持ちいっ……やっあっあんっ、ああっ、そんな奥まできたら、やっ……ああっ」

 我慢できなくなったのか藍田は自分のものを握った。苦しそうに目を瞑り、食い縛った歯の隙間から荒い呼吸をしながら一心不乱に扱きあげる。

「やあっ、あっ、井上、井上……ッ!!」

 最後は俺の名前を呼びながら射精した。恥ずかしい姿を無防備に晒しながら達した藍田を見て、「絶景だな」なんてことを頭の隅で思った。そのくらい俺に目にはすべてが丸見えだった。

 倒れ込むように藍田が俺に抱きついてくる。しっとり汗をかいて熱い体が心地よい。耳のそばで荒い息遣いと笑い声。

「ごめん、また俺が先にイッちゃった」
「お前が早漏だってことはよくわかった」
「早漏じゃねえし。今日はたまたまだよ。今度は井上の番だから」

 体の向きをかえ、藍田は俺に尻を向けた。

「後ろから来て」



宇宙人の恋(2/4)

2020.11.02.Mon.
<1>

「最近、藍田くんの話聞かないけど、元気?」

 サークルの部室に顔を出したら、先に来ていた金吾が雑誌から顔をあげて言った。

「開口一番なんで藍田なんだ」
「いや、そのまんま。最近藍田くんの話聞かないなーって思ってる時に井上が来たから。喧嘩した?」
「新しい彼氏ができたらしい」
「大丈夫? 俺の勝手なイメージだけど、藍田くんて男見る目ないじゃん?」
「確かに」

 苦笑しつつ鞄をテーブルに下ろした。金吾は大学のサークルで知りあった創作仲間だ。大学の外でも会うようになり、そこに藍田が合流する日もあった。藍田は例のあっけらかんとした感じのまま、自分がゲイであることを初対面の金吾にも打ち明けた。最初こそ驚いた様子の金吾だったが、「前立腺オナニーにはまってた時があるんだけど、気持ちいいよね前立腺」と妙な話題で二人はすぐ打ち解けた。

 三人で飯に行ったときに藍田から恋愛の相談を受けることが度々あったので金吾も藍田がどういう恋愛をしてきたのかは知っている。

「久し振りに三人でご飯行こうよ。井上、藍田くんに連絡してよ」

 藍田とは二ヶ月近く会っていない。彼氏との時間を邪魔するのも悪いし、俺も原稿が完成しないから会いに行く用事もなく連絡さえしなかった。

「来るかわからないぞ」
「いいからいいから」

 金吾にせがまれ、「今日一緒に晩飯行かないか? 金吾が会いたがってる」と藍田にメールを送った。久し振りだからか、その指先が緊張した。

 返事を待つ間、金吾に原稿を読んでもらった。藍田に「頭大丈夫?」と心配された宇宙人の話を手直ししたものだ。読み終わった金吾は「結局二股ってこと?」と俺に原稿を返して言った。

「どうしてそうなる」
「モアイ像とセックスできないから地球の人間にマスかくのを手伝わせて、気持ち良くなったから寝るって二股以外のなんなんだよ」
「モアイ像への愛の純度を高めたつもりなんだが」
「不純度があがってるじゃん。初稿の一人でマスかいてたときのほうがよっぽど純度高めじゃん。生身の女が現れたらあっけなく陥落してるじゃん。男と人間の女の愛がテーマならいいけど、お前は男とモアイ像との愛がテーマのつもりなんだろ。これじゃ逆だろ」
「モアイ像とは決して結ばれることはないんだ。だいたい、ただの岩だしな」
「捨て鉢だな。高松さんのこと、諦めるつもりかよ」
「どうして高松さんが出てくるんだ」
「頭のなか宇宙の井上が立て続けに恋愛もの書いてくるって、高松さんの影響しかないじゃんよ。卒論どうですか、今度部室に顔出してくださいってメール送ってみたら? お前が行動しないと相手には何も伝わらないぞ」
「忙しいのに邪魔したくないし、高松さんとどうこうなりたいわけじゃない」
「のわりに、書いてる内容はエロじゃん」
「エロじゃない」

 原稿を鞄に仕舞った。四年生の高松さんはいままさに卒論制作真っ最中で部室に顔を出す暇もないらしい。知的で穏やかで目立つタイプではないが話をするととても楽しい女性だ。誰もが彼女に好感を持つ。恋心があることは認めるがそれだけだ。素敵な女性には誰だって好意を抱くものだろう。単なる憧れだ。

 ちょうどいいタイミングで俺のスマホがメールを受信した。

「藍田だ」

 メールを開く。金吾も画面を覗きこんできた。

『連絡ありがとう。でも今日はちょっと無理かな。いまバイト忙しくてさ。返事できないと思うから、悪いんだけどしばらくメールしてこないで。ほんとごめん』

 金吾と顔を見合わせた。

「これ、嫌な予感しない?」
「する」
「藍田くんのバイトってホテルだったよな。いまって繁忙期だっけ?」
「違う」

 顔を合わせたまま俺も金吾も黙り込む。

「念のため様子見に行ったほうがよくない?」

 頷いてから、合鍵を返したことを思い出した。途端に胸騒ぎがして、すごく不安な気持ちになった。

 ※ ※ ※

 バイトが終わる時間を待って藍田の部屋を訪ねてみた。明かりはついているのに電話をかけても繋がらない。合鍵がないのでチャイムを鳴らした。中から人の動く気配。しばらくして『何の用?』とインターフォンから藍田の声が聞こえた。

「開けてくれ」
「いまちょっと……あの、無理かな。風呂あがりで裸だから」
「お前の裸なんか今更だ。とりあえず開けてくれ。顔を見たら帰る」
「……ちょっと待って」

 しばらくして扉が開いた。チェーンをかけたまま、わずかな隙間から藍田が顔を覗かせる。なにかに怯えたような目で俺を見て力なく笑う。風呂上りだと言ったが服を着ているし、髪の毛も濡れていない。

「なんだよもう、急に。今日断ったから怒ってんの? 俺だって色々予定あんだから仕方ないっしょ。もう顔見たしいいだろ」

 閉めようとする扉を掴んで阻止した。藍田の怯えがはっきり俺に伝わってきた。

「なにがあった、藍田」
「なにもないよ」

 動揺して目が泳いでいる。あきらかに様子がおかしい。真顔に戻ったと思ったらいきなりビクンと肩を跳ねあがらせ、藍田は部屋の奥へ駆け戻った。かすかに聞こえた着信音がすぐ途切れ、藍田の話し声が聞こえてきた。

「亮くん、ごめん。ちょっとトイレに行ってて……ほんとだよ、もう家にいるよ。誰もいないってば。ほんとに俺一人……誰も家に入れてないってば。仕事終わってすぐ帰ってきたもん……」

 新しい彼氏からの電話らしい。本来嬉しいはずの電話なのに、藍田の声は何かを言い訳するような、懇願するような口調に聞こえる。

「そんなことできないよ……そんなの亮くんに悪いし……違うっ、嫌じゃない、一緒に暮らすのが嫌なんじゃなくて亮くんに悪いから……ほんとだってば。怒んないでよ、俺だって亮くんだけだよ、亮くんだけいてくれれば他の誰もいらないから……どうしたら信じてくれる? だから仕事は……仕事仲間だよ、好きになんないよ、色目なんか使ってない…………仕事辞めたら信じてくれるの? 亮くんがそんなに不安なら俺、仕事辞めるよ、それでいい?」

 頭に血が上る、というのはこういう感覚なのだろう。激しい怒りに頭のなかが一瞬で湯だったように熱くなった。目の前のチェーンを引きちぎって藍田からスマホを奪い取り、相手の男にふざけるなと怒鳴ってやりたい。

 相手の声なんか聞こえなくても亮という男が藍田になにを要求しているのかはだいたいわかる。嫉妬深く、藍田の行動に制限をかけ、束縛しているのだ。今日会えなかったのも男に禁止されているから、仕事が終わればまっすぐ帰宅し男からの電話にはすぐ出るよう言いつけられ、それでも藍田を信用しない男は仕事を辞めろとまで迫っている。

 とても見逃せるものじゃなかった。

 金吾の言う通り、本当に藍田は男を見る目がない。

 しばらくして部屋の中から声が聞こえなくなった。暗い顔の藍田が奥からやってきて、俺を見ると疲れた笑みを見せた。

「まだいたの? もう帰んなよ」
「合鍵は男に渡したのか?」
「渡してるけど」
「だったら今すぐ荷物をまとめて出て来い。俺の家に行くぞ」
「なっ、駄目だよ、亮くんに怒られる」
「そんな男とは別れろ。お前もわかってるはずだ」

 藍田は目を伏せた。既婚者に捨てられた時だってこんな顔はしなかった。あの時は怒りと復讐心でむしろ元気すぎて暴走したくらいだ。おとなしく家に閉じこもっているなんて藍田らしくない。学校でゲイがバレた時だってさっさと高校生活に見切りをつけて中退の道を選び、親から働くよう仄めかされたことも「いままで育ててくれただけで感謝してるし」と恨み言ひとつ言わなかった。そんな藍田が誰かの言いなりになって自分を犠牲にするなんて間違っている。

「でも亮くんは俺のことすごく好きだって言ってくれるんだ」
「好きならお前から自由を奪ってもいいのか」
「……別に俺、不自由だと思ってないし」
「そんな顔をしてるくせにか」

 ぐ、と泣きそうに顔を歪める。

「いいからここを開けろ。チェーン引きちぎるぞ」
「文系のもやし野郎には無理だって」

 泣き笑いの顔で言うと藍田は一旦扉を閉めてチェーンを外した。ゆっくり開く扉がじれったい。藍田は一歩下がった場所に立っていた。叱られた子供のような佇まいだ。髪をぐしゃぐしゃと掻き乱してやった。

「荷物まとめろ。行くぞ」

 部屋の奥へ進む。背中から「お節介野郎」と小さな声が聞こえた。

 ※ ※ ※

 藍田を家に連れ帰ることにして、電車を待つ駅のホームから金吾にも報告のメールを送っておいた。

 藍田はまた不安になったようで「亮くんに怒られる。やっぱり俺帰るよ」なんて言い出した。ちょっとやそっとじゃ亮からの呪縛は解けないらしい。

「俺ほんと大丈夫だから。亮くんにも嫌なことは嫌だってはっきり言うし。だから今日は帰るよ」
「駄目だ。そんなこと言ったらお前の彼氏は逆上してなにをするかわからないだろ。なおさら帰せない」
「ほんと大丈夫だって……井上に迷惑もかけらんないし」
「お前を一人にはしておけない」

 怯えと迷いが混在する目がじっと俺を見る。自殺を心配して藍田の家まで様子を見に行った高校の頃を思い出した。

「またあの時みたいにキスすれば俺と来てくれるか?」

 藍田も思い出したのか、ふっと笑う。

「ここで? できるの?」
「できる。すればいいのか?」

 藍田の両腕を掴んで顔を近づけた。驚いた様子で藍田は顔を背けて、「キスだけじゃ嫌だ」と呟く。

「おいまさか」
「一回も二回も同じじゃん。もちろん嫌ならいいよ。好きな子いるんだし、無理しなくていいよ」

 どこかいじけたように言う。これも一種の自傷行為なのだろう。好きでもない男と寝て亮のことは考えないようにしたいのだ。

「わかった。お前の言う通り一回も二回もかわらないしな」
「えっ、本気かよ」
「別に減るもんでもない」

 藍田の腕を掴んで改札を出た。来る途中に見たビジネスホテルへ引き返した。



宇宙人の恋(1/4)

2020.11.01.Sun.
<前話「ズッ友だょ」>

 書き上がった新作を持って藍田の部屋を訪ねたら電話中だった。慌てて受話口を塞いだ藍田が「しーっ」と口に人差し指を立てる。なので静かに部屋に入り、鞄を下ろして床に座って電話が終わるのを待った。

「ごめんごめん、なんだっけ。あ、違う違う、テレビだよ、もう消した。……えっ、うん……いま? 本気? もう、なに考えてんだよ、ばか」

 藍田がチラッと俺を見る。怪しい目付き。小さく笑ったかと思うと、藍田はズボンとパンツをずり下ろし、性器を出して扱き始めた。

「んっ、はあっ、あっああ……」

 耳にスマホを当てたまま、俺が見ている前で服の中に手を入れ自分で乳首も弄る。突然のことにぎょっとしたが、すぐ我に返って目を逸らした。こいつは性に奔放な男だ。好きでもない男と平気でセックスができる。この前は俺ともセックスした。

「ああっ、気持ちいいっ、もう俺の手ベトベトだよお、触ってよ、ねえ、俺のちんぽ触って、亮くんのちんぽ俺にしゃぶらせてよお」

 ベッドの壁にもたれながら藍田は自慰を続ける。新しい男は亮という名前らしい。藍田はどこで見つけてくるのかすぐ新しい男ができる。そしていとも簡単に深い仲になる。そして大抵、うまくいかずにすぐ別れる。少し前に付き合っていた既婚者には、男だからという理由で振られてずいぶん荒れた。肉体関係から入るのではなく、お互いよく知りあってから付き合えばいいと俺は思うのだが、藍田に言わせれば、相手のことを知りたいならセックスが一番手っ取り早いらしい。

 電話の相手の亮くんともすでに経験済みだろう。

「あっああっ、亮くん俺もうイッちゃうよおっ、イクゥ、イクッ!」

 藍田は俺をじっと見据えたまま扱く手つきを早くした。俺としてはあまり見たくない光景なので視界に入れないよう、持ってきた原稿用紙をパラパラ見直した。

 終わったらしく、藍田はぐったり四肢を投げだした。緩慢な動きでティッシュを取って後始末をし、亮くんとやらに「今度はちゃんと亮くんのちんぽハメてよ、愛してる、またね」と赤面ものの台詞を言って通話を切った。

「ごめんごめん、彼氏がさ、1人エッチの声聞かせろって言うからさ」
「今度の男は悪趣味だな」
「そう? 男ならたいてい一回は相手にねだるもんじゃない? 井上も好きな子と電話してたらエッチな声、聞きたくなるでしょ?」
「ならない」
「もう童貞じゃないのに、あいかわらずだなあ、井上は」

 藍田が笑う。俺がおかしいのか藍田が普通なのか、こいつと一緒にいるとその基準がよくわからなくなる。

「で、今日はなに、どうしたの?」
「率直な感想を頼む」

 テーブルの上をすべらせ、原稿を藍田のほうへ向けた。藍田は「ちょっと待って」と言うと手を洗って戻ってきた。そういえばちんこ握った手だった。どれどれ、と原稿を手に取り読み始める。

 俺と藍田の性格はほとんど真逆、正反対と言っていい。それなのに高校を中退した藍田とはなぜか今日まで付き合いが続いている。最初は学校でゲイがバレた藍田が自棄を起こすのではと純粋な心配だった。それが杞憂だとわかってもなんとなく連絡を取り続けた。藍田の裏表のない素直な性格が好ましく、気安い関係でいられたからだと思う。

 藍田が原稿を読んでいる間、俺は勝手にコーヒーを作り、持参した文庫本を読んで待った。藍田は普段本を読まない。部屋にあるのは漫画ばかりだ。小説は読むと眠くなると言う。でも俺の原稿だけは眠らず読んでくれる。面白いのかと問えば「意味わかんない」「つまんない」とばっさりだ。ではなぜ最後まで読めるのかと問うと、「井上ってなに考えてるかわかんないじゃん。でも小説読んだら、頭のなか覗いてるっていうか、オナニー覗いてる気分になる」実に藍田らしい言葉が返ってきた。

 確かに創作行為は、己のうちから噴きあがるものを外に吐き出すオナニー行為だと言えるだろう。そして俺の小説を読んだ藍田は俺を「変態性癖の持ち主」だと分析した。人外やSFめいたものを書いているせいだと思っていたが、この前は俺が好感を持っている相手がいることを見抜いたのだから、藍田の分析は案外馬鹿にできない。

 俺の方が眠くなり始めた頃、藍田は原稿を読み終えた。俺に原稿を返しながら「頭大丈夫?」と真面目な顔で首を傾げた。

「レポートの提出が重なっているときに書いたから少し正気じゃない部分があったかもしれない」
「だいぶ正気じゃないと思うけど」
「どのへんがおかしかった?」
「全部。どうして主人公はモアイ像の前に穴掘ってそこに精子溜めてんの?」
「モアイ像がかつて人間たちと交流のあった宇宙人と交信するための建造物だと仮定して、男は実はその宇宙人の子孫で本来の自分の姿を模して作られたモアイ像に恋心を抱くんだ。しかし相手はただの石だから性行為はできない。だからモアイ像の前に穴を掘ってマスをかく。実りの無い行為だとわかっていても、それが男の幸せなんだ」
「ほんと、頭大丈夫かよ。勉強のしすぎなんじゃない? ちゃんと寝てる?」

 本気で心配をされてしまった。

「そうか、駄目か」

 俺としては前回に引き続き恋愛小説のつもりで書いたのだが、頭のおかしい内容になってしまったようだ。

「そういえば、好きな子とはどうなのさ。ちょっとは仲良くなった?」

 テーブルに肘をついて顔を覗きこんでくる。俺の恋愛話を楽しむようにニヤニヤ笑っている。

「俺のことはいい」
「こんなの書くなんて溜まってんじゃないの? また俺とやる? 適度に発散しとかないと体に毒だよ」
「簡単に言うな。お前も新しい男がいるんだろ。今度の相手は続きそうなのか?」
「そんなのまだわかんないけど、亮くんは俺にメロメロだよ。毎日メールも電話もしてくれるし、休みの日はデートしてるし」
「だったら裏切るような真似はやめておけ」
「そうだね」

 乗りだしていた体を戻すと藍田は俺に手を出した。

「じゃあ、合鍵、返して。亮くんとヤッてるときに乱入されたら修羅場るから」
「それもそうだな」

 鞄からこの部屋の合鍵を探しだし、藍田に返した。

「もう俺に渡さなくてもいい恋愛をしろよ」
「言われなくても、毎回そのつもりですう」

 藍田は口を尖らせた。